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M&A・銀行融資で有利に?償却前経常利益(EBITDA)の計算方法から企業価値評価まで解説

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償却前経常利益

決算書だけでは見えない、あなたの会社の「本当の稼ぐ力」を可視化し、M&Aや銀行融資の交渉を有利に進める方法があります。その方法とは、「償却前経常利益」を正しく理解し、使いこなすことです。

この記事を最後まで読めば、あなたは償却前経常利益(EBITDA)を自信を持って計算し、企業価値の評価や自社の財務戦略を強化するために活用できるようになります。

専門用語を使わず、会計知識に自信がない方でも、具体的な計算例と活用シーンを通して自社の経営に活かせるよう、一から丁寧に解説します。

償却前経常利益(EBITDA)とは 会社の「本当の稼ぐ力」を測るモノサシ

償却前経常利益とは、企業の「現金を生み出す本質的な収益力」を測るための財務指標です。損益計算書に記載される営業利益や経常利益に、現金支出を伴わない費用である「減価償却費」を足し戻して計算します。

この指標を理解することは、自社の経営状態をより深く、そして正確に把握するための第一歩です。

営業利益や経常利益だけでは不十分な理由

多くの経営者が日々の経営判断で注目する営業利益や経常利益は、もちろん重要な指標です。しかし、これらの利益指標だけでは、会社の真の収益力を見誤る可能性があります。その最大の理由は、会計上の利益と、実際の現金の動きが必ずしも一致しないためです。

この乖離を生む代表的な要因が「減価償却費」です。減価償却費は、工場や機械、ソフトウェアといった高額な資産の購入費用を、その資産が使用できる期間(耐用年数)にわたって分割して費用計上する会計処理です。

現金は資産購入時に一度支払われますが、費用は数年間にわたって計上され続けます。この費用は帳簿上の費用であり、計上される年度に現金の支出を伴うわけではありません。

例えば、ある製造業の会社が最新の機械を導入するために大規模な設備投資を行ったとします。その年度以降、損益計算書には多額の減価償却費が計上され、営業利益や経常利益は大きく圧迫されるかもしれません。

しかし、これは会計上の処理によるものであり、会社の「現金を生み出す力」そのものが低下したとは限りません。むしろ、最新設備によって生産性が向上し、将来の収益力は高まっている可能性すらあります。

このように、減価償却費の計上方法(定額法か定率法かなど)や、資産の耐用年数の見積もりは会社ごとにある程度の裁量が認められているため、会計方針の違いが利益の額に影響を与えます。その結果、営業利益だけを見てしまうと、設備投資に積極的な成長企業を、業績が低迷している企業と誤解してしまうリスクがあるのです。

償却前経常利益(EBITDA)の核心 現金ベースの収益力

償却前経常利益は、こうした会計上のルールによる利益の「歪み」を取り除き、より実態に近い収益力を把握するために考案された指標です。

具体的には、利益の計算過程で差し引かれた、現金支出を伴わない費用である減価償却費を、利益に足し戻すことで算出します。これにより、設備投資のタイミングや会計方針といった要素に左右されにくい、企業が本業の営業活動でどれだけのお金を生み出しているか(キャッシュ創出力)を示す指標として機能します。

つまり、償却前経常利益は、損益計算書上の利益と、実際の現金の動きを示すキャッシュフロー計算書との間を埋める、簡易的なキャッシュフロー指標と考えることができます。

「償却前経常利益」と「EBITDA」は同じ意味で使われる

「償却前経常利益」という言葉と並んで、特にM&Aや国際的な企業分析の文脈で頻繁に登場するのが「EBITDA(イービットディーエー、またはイービットダー)」という用語です。

結論から言うと、償却前経常利益とEBITDAは実質的に同じものと考えて差し支えありません。EBITDAは、”Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation, and Amortization” の頭文字を取ったもので、日本語では「利払前・税引前・減価償却前利益」と訳されます。

この指標は、金利(Interest)、税金(Taxes)、減価償却費(Depreciation and Amortization)の影響を排除することで、企業の純粋な収益力を国際基準で比較可能にするために生まれました。日本の会計実務における「償却前経常利益」や「償却前営業利益」は、このEBITDAの概念に相当するものとして広く利用されています。

本記事では、グローバルスタンダードである「EBITDA」という用語も適宜使用しながら、解説を進めていきます。

償却前経常利益(EBITDA)の計算方法 決算書からの簡単な算出

EBITDAは、その重要性にもかかわらず、計算方法は非常にシンプルです。自社の決算書(特に損益計算書)さえあれば、誰でも簡単に算出することができます。ここでは、最も実用的な計算式から、より厳密な計算式までを具体例と共に紹介します。

最もシンプルで実用的な計算式

中小企業の経営者や実務家にとって、最も分かりやすく、かつ広く使われているのが次の計算式です。

EBITDA = 営業利益 + 減価償却費

この式が実用的な理由は、その単純さにあります。営業利益は、企業が本業でどれだけ儲けたかを示す利益です。ここに、前述の通り現金支出を伴わない費用である減価償却費を足し戻すだけで、その企業が本業から生み出したキャッシュのおおよその額(簡易キャッシュフロー)を把握することができるのです。

多くのM&Aの実務や銀行の融資審査の現場では、この簡易的な計算式が頻繁に用いられています。まずはこの式を覚えておけば、多くの場面で対応可能です。

目的別の計算方法(経常利益ベース、当期純利益ベース)

EBITDAには、世界的に統一された厳密な会計基準があるわけではありません。そのため、分析の目的や、どの利益を起点にするかによって、いくつかの計算方法が存在します。これはEBITDAが会計上の勘定科目ではなく、あくまで分析のための「概念」であるためです。

この柔軟性がEBITDAの強みである一方、他社と比較する際には、どの計算式で算出された数値なのかを確認する必要があります。代表的な計算式を以下に紹介します。

経常利益から計算する場合

EBITDA = 経常利益 + 支払利息 + 減価償却費

経常利益は営業利益に営業外の損益(受取利息や支払利息など)を加味した利益です。ここからEBITDAを計算するには、差し引かれている支払利息を足し戻す必要があります。

当期純利益から計算する場合

EBITDA = 当期純利益 + 法人税等 + 支払利息 + 減価償却費

当期純利益は、最終的に会社に残った利益です。EBITDAの定義である「利払前・税引前・減価償却前利益」に立ち返り、当期純利益から遡って、税金、支払利息、減価償却費を全て足し戻す、最も厳密な計算方法です。

どの計算式を使うべきか迷った場合は、まずは「営業利益+減価償却費」で計算し、必要に応じて他の計算方法も試してみると良いでしょう。

具体例 A社の決算書を用いた計算

それでは、架空の製造業「A社」の損益計算書を例に、実際にEBITDAを計算してみましょう。

勘定科目金額
売上高10億円
売上原価7億円
売上総利益3億円
販売費及び一般管理費(販管費)2億円
(うち減価償却費)(5,000万円)
営業利益1億円
営業外収益1,000万円
営業外費用2,000万円
経常利益9,000万円

このA社の決算情報から、最もシンプルな計算式を用いてEBITDAを算出します。

計算式 EBITDA = 営業利益 + 減価償却費

A社の営業利益 1億円

A社の減価償却費 5,000万円

したがって、A社のEBITDAは次のようになります。

EBITDA = 1億円 + 5,000万円 = 1億5,000万円

A社の営業利益は1億円ですが、現金ベースの稼ぐ力を示すEBITDAは1億5,000万円となります。この差額の5,000万円が、減価償却費という非現金支出費用によるものであることが分かります。このように、自社の決算書から簡単にEBITDAを把握することができます。

償却前経常利益(EBITDA)の3つの主要な活用シーン

償却前経常利益(EBITDA)の3つの主要な活用シーン

EBITDAを算出できるようになったら、次はその数値をビジネスの現場で「武器」として活用する段階です。ここでは、経営者が直面するであろう3つの重要なシーンでのEBITDAの活用法を具体的に解説します。

M&Aにおける企業価値評価(EV/EBITDA倍率)

M&A(企業の合併・買収)において、買収対象となる企業の価値(株価)を算定することは最も重要なプロセスの一つです。その際に広く用いられるのが、EBITDAを使った「EV/EBITDA倍率(イーブイ・イービットディーエーばいりつ)」という指標で、これはマルチプル法とも呼ばれます。

EV/EBITDA倍率による買収価格の妥当性判断

EV/EBITDA倍率は、簡易的に言うと「その会社を買収した場合、買収にかかった費用を何年分の事業利益(EBITDA)で回収できるか」を示す指標です。この倍率が低ければ低いほど、買収案件は「割安」であると判断できます。

この計算には、まず「EV(Enterprise Value:企業価値)」を算出する必要があります。EVは、事業そのものの価値を示すもので、「株式時価総額 + 純有利子負債(有利子負債 - 現預金)」で計算されます。これは、会社を丸ごと手に入れるために必要な資金(株主への支払い+引き継ぐ借金の返済)を意味します。

そして、EV/EBITDA倍率は以下の式で計算されます。

EV/EBITDA倍率 = EV(企業価値) ÷ EBITDA

例えば、ある企業のEVが10億円、EBITDAが2億円だった場合、EV/EBITDA倍率は「10億円 ÷ 2億円 = 5倍」となります。これは、買収資金を5年間の事業が生み出すキャッシュで回収できる見込み、ということを意味します。

中小企業のM&Aで特に重宝される理由

このEV/EBITDA倍率は、特に非上場の中小企業のM&Aにおいて絶大な効果を発揮します。上場企業であれば市場の株価という客観的な価値基準がありますが、非上場企業にはそれがありません。従来、非上場企業の価値算定は専門家による複雑な計算(DCF法など)が必要で、時間もコストもかかりました。

しかし、EV/EBITDA倍率を使えば、この問題を解決できます。具体的には、自社と事業内容が似ている上場企業をいくつか探し、それらの企業の公開情報からEV/EBITDA倍率を算出します。そして、その平均的な倍率を、自社のEBITDAに掛け合わせることで、自社の企業価値(EV)の目安を簡易的に、かつ低コストで知ることができるのです。

企業価値(EV)の目安 = 自社のEBITDA × 類似上場企業のEV/EBITDA倍率

これにより、中小企業の経営者は、M&Aの交渉の初期段階で「自社は大体いくらで売れるのか」「提示された買収価格は妥当なのか」という当たりをつけるための、客観的で強力な根拠を持つことができます。これは、情報戦ともいえるM&Aの交渉のテーブルで、対等に渡り合うための大きな力となります。

銀行融資を有利に進めるための交渉材料

銀行から融資を受ける際、最も重要なのは「返済能力」をいかに説得力をもって示すかです。銀行は、企業の損益計算書上の利益だけでなく、実際に返済の原資となる「現金」をどれだけ生み出せるかを厳しく見ています。

銀行がEBITDAを重視する理由 返済能力の証明

銀行が融資審査でEBITDAを重視するのは、まさにこの指標が企業のキャッシュ創出力を示すからです。会計上の利益が黒字でも、売掛金の回収が滞るなどして手元の現金がなければ、借入金の返済はできません。

銀行の担当者は、融資先の返済能力を評価する際、頭の中で損益計算書の利益から減価償却費を足し戻すなどして、キャッシュベースの利益を推し量っています。つまり、経営者側から自社のEBITDAを提示し、その数値を基に返済計画を説明することは、銀行の評価ロジックに沿った、非常に効果的なアプローチなのです。

具体的には、「EBITDAが年間の元利返済額を十分に上回っていること」を示すことができれば、銀行は安心して融資を実行しやすくなります。例えば、年間の返済額が3,000万円であるのに対し、EBITDAが5,000万円あれば、事業で生み出したキャッシュで十分に返済が可能であると判断され、交渉を有利に進めることができます。

国際的な競合他社との収益力比較

グローバル化が進む現代において、海外の競合他社の動向を分析することは不可欠です。しかし、国が異なれば、金利水準、法人税率、そして減価償却の会計ルールも大きく異なります。

会計基準や税率の違いを乗り越えるグローバルな指標

これらの制度の違いは、企業の利益に直接影響を与えます。例えば、税率が高い国の企業は、同じ収益力を持っていても当期純利益は低く見えます。また、減価償却のルールが違えば、営業利益の額も変わってきます。そのため、営業利益や当期純利益といった指標で異なる国の企業を単純に比較することは、本質的な収益力の優劣を正しく評価できません。

EBITDAは、その定義(利払前・税引前・減価償却前利益)の通り、これらの国ごとの制度的な違い(金利、税金、減価償却)を計算上排除します。これにより、異なる国の企業であっても、同じ土俵の上で「本業の稼ぐ力」を比較することが可能になるのです。

グローバルな市場で自社の立ち位置を客観的に把握し、競争戦略を立てる上で、EBITDAは非常に強力な分析ツールとなります。

EBITDAの注意点と限界 万能ではない指標

EBITDAの注意点と限界 万能ではない指標

ここまでEBITDAの有用性を解説してきましたが、この指標は決して万能ではありません。その限界を理解せずに数値を鵜呑みにすると、かえって経営判断を誤る危険性があります。信頼性を高めるためにも、EBITDAの「光」だけでなく「影」の部分もしっかりと把握しておきましょう。

キャッシュフローそのものではない点

EBITDAは、しばしば「簡易キャッシュフロー」と呼ばれますが、キャッシュフロー計算書が示す実際の現金の動きそのものではないという点を肝に銘じる必要があります。

EBITDAの計算では、売上債権(売掛金など)の増減や、棚卸資産(在庫)の増減といった「運転資本の変動」が考慮されていません。例えば、売上が急増してEBITDAが伸びていても、その売上がまだ現金として回収されていなかったり、売れない在庫が積み上がっていたりすれば、会社の資金繰りはむしろ悪化します。

また、EBITDAは税金や支払利息を差し引く前の利益であるため、これらの現金支出も考慮されていません。EBITDAだけで経営判断を行うのではなく、必ずキャッシュフロー計算書と合わせて確認することが重要です。

設備投資の負担が見えにくい点

EBITDAの最大のメリットは減価償却費の影響を排除できることですが、これは同時に最大のデメリットにもなり得ます。減価償却費を足し戻すということは、事業を維持・成長させるために不可欠な設備投資(CAPEX)の負担が、指標から見えなくなってしまうことを意味します。

特に製造業やインフラ産業など、常に大規模な設備投資が必要な業種では注意が必要です。EBITDAが潤沢に出ていても、それを上回る金額の設備投資を毎年行わなければ事業が立ち行かない場合、会社の手元には現金が全く残らない、あるいは流出していくことになります。

EBITDAの数値だけを見て「この会社は儲かっている」と安易に判断するのは非常に危険です。

安易なプラス評価の危険性

EBITDAの計算式(営業利益+減価償却費)をよく見ると、危険な落とし穴が潜んでいることに気づきます。それは、本業が大赤字(営業損失)であっても、減価償却費がそれを上回るほど大きければ、EBITDAはプラスになってしまうというケースです。

これは、過去に行った大規模な設備投資が失敗し、全く収益に結びついていないにもかかわらず、会計上の減価償却費だけが重くのしかかっているような企業で起こり得ます。この場合、EBITDAがプラスであることは、健全な収益力を示しているのではなく、むしろ過去の投資の失敗の大きさを示唆しているのかもしれません。

EBITDAがプラスだからといって安心するのではなく、その内訳である営業利益がどうなっているのか、なぜ減価償却費が大きいのかまで踏み込んで分析する姿勢が不可欠です。

まとめ

本記事では、償却前経常利益(EBITDA)の概念から計算方法、具体的な活用法、そして注意点までを網羅的に解説しました。最後に、重要なポイントを再確認します。

償却前経常利益(EBITDA)は、減価償却費などの影響を排除し、企業の「現金ベースの稼ぐ力」を測る指標です。

計算はシンプルで、基本は「営業利益+減価償却費」で算出できます。

M&Aの企業価値評価(EV/EBITDA倍率)、銀行融資の交渉、グローバルな競合比較において極めて有効なツールです。

ただし、設備投資の負担を反映しないなどの限界も理解し、キャッシュフロー計算書などと併用することが重要です。

知識は、使って初めて力になります。まずは自社の決算書を用意し、この記事を参考にEBITDAを計算してみることから始めましょう。

この記事の投稿者:

hasegawa

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