建設業の基礎知識

労災の手続きの流れ|治療費0円と給与8割補償を受け取る方法

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仕事中や通勤中のケガ・病気で休まざるを得ない状況では、治療費や収入の不安が大きくなりがちです。労災保険は、業務や通勤が原因の負傷・疾病等に対して、医療費の負担や休業中の生活を支えるための制度です。状況に応じて給付の種類が異なるため、まずは「労災に該当する可能性があるか」と「どの給付を申請するか」を整理することが大切です。

労災申請は複雑に見えますが、基本的には、必要書類を準備し、事業場(会社)や労働基準監督署への提出手続きを進めます。ポイントは、受診先の選び方、会社への連絡、書類の書き方と提出先、申請後の流れを把握しておくことです。

ここでは、労災手続きの全体像と、つまずきやすい注意点(医療費の扱い、休業補償の考え方、必要書類)を実務ベースで整理します。初めての申請でも確認しながら進められるよう、具体的なステップに分けてまとめます。

目次

労災保険制度の基本概念と対象となる人の範囲

労災保険は、正式名称を「労働者災害補償保険」といい、働く人が仕事中や通勤中に怪我をした場合に、その負担を国が肩代わりする制度です。この制度の最も大きな特徴は、会社に過失があるかどうかに関わらず、労働者が怪我をすれば補償が受けられる「無過失責任」の原則にあります。あなたが「自分の不注意で転んでしまった」と感じていても、それが業務に関連していれば、国はあなたを助けてくれます。

正社員だけでなくパートやアルバイトも対象

労災保険が適用される「労働者」の定義は非常に広いです。正社員はもちろんのこと、アルバイト、パート、派遣社員、さらには日雇いの労働者であっても、1人でも従業員を雇っている事業所に勤めていれば、自動的に保険の対象となります。会社が「君はパートだから労災はないよ」と言うのは明らかな間違いです。また、入社したばかりで試用期間中であっても、初日から保険の効力は発生しています。

業務災害と通勤災害の明確な違い

労災は大きく分けて「業務災害」と「通勤災害」の2種類に分類されます。業務災害は、まさに仕事の最中に起きた事故や、仕事が原因で発症した病気のことです。建設現場での落下事故のような分かりやすいものから、長時間のデスクワークによる腰痛、さらには職場でのパワハラによる精神疾患まで含まれます。重要なのは、その怪我が「仕事の支配下」で起きたかどうかという点です。

一方で、通勤災害は自宅と職場の往復の途中で起きた事故を指します。駅のホームで転倒して骨折した、自転車通勤中に車と接触したといったケースが該当します。通勤経路は、会社に届け出ているルートである必要はありませんが、合理的な経路である必要があります。例えば、保育園への送り迎えのために少しだけ遠回りをする程度であれば、合理的な経路として認められるのが一般的です。

病院での自己負担をゼロにする療養補償給付の手順

怪我をした直後、最も気になるのは病院での支払いでしょう。労災保険の「療養補償給付」を利用すれば、診察代、投薬代、手術代、さらには入院費にいたるまで、あなたの負担は1円も発生しません。

健康保険を使うと3割の自己負担が必要ですが、労災であればその3割分も国が負担します。これにより、貯金が少ない状況であっても、最高レベルの医療サービスを継続して受けることができるのです。

労災指定病院を受診する場合の手続き(様式第5号)

療養補償給付を受けるための手続きは、受診する病院が「労災指定病院」かどうかで2つのパターンに分かれます。まず、可能であれば労災指定病院を受診することをお勧めします。指定病院であれば、窓口で「仕事中の怪我です」と伝え、「様式第5号」という書類を提出するだけで、支払いがその場で免除されます。病院があなたに代わって国へ費用を請求してくれるため、手元に現金がなくても治療が受けられるという大きなメリットがあります。

指定外の病院で治療費を立て替えた場合(様式第7号)

もし、緊急を要するために近くの指定外病院を受診した場合は、一時的に費用を全額(10割)立て替える必要があります。この時、絶対に「健康保険証」を提示してはいけません。労災による怪我に健康保険を使うことは法律で禁じられているからです。

窓口で「労災なので自費で払います」と伝え、領収書を大切に保管してください。その後、「様式第7号」という書類に領収書を添えて労働基準監督署に提出すれば、後日、支払った全額があなたの口座に振り込まれます。

健康保険を間違えて使ってしまった時の対処法

よくあるトラブルとして、会社から「まずは自分の健康保険で受診してくれ」と言われるケースがあります。しかし、これは「労災隠し」につながる恐れがある不適切な指示です。

健康保険を使ってしまうと、後から労災に切り替える際に、健康保険組合へお金を返却したり、病院で煩雑な書き換え作業をお願いしたりと、多大な手間がかかります。最初の段階で「労災でお願いします」とはっきり伝えることが、自分を守るための最短ルートです。

休業中の収入を支える休業補償給付の具体的な申請方法

怪我によって働けなくなったとき、次に直面するのが生活費の不安です。家賃の支払い、子供の学費、日々の食費など、収入が止まる恐怖は計り知れません。しかし、労災保険の「休業補償給付」を申請すれば、給与の約80パーセントが保証される生活の安定が手に入ります。

この給付金には税金がかからないため、実際の手取り額で見ると、働いていた時とほぼ変わらない水準の生活を維持できるケースがほとんどです。

給付を受けるための3つの条件と「待期期間」の仕組み

休業補償給付を受けるためには、3つの条件を満たす必要があります。まず、業務上の怪我や病気のために療養していること。次に、そのために働くことができない状態であること。そして、会社から賃金を受けていないことです。

この3つの条件を満たした状態で、休業4日目から支給が開始されます。最初の3日間は「待期期間」と呼ばれ、労災保険からは支給されませんが、業務災害の場合、この3日間は会社が平均賃金の60パーセントを補償する義務を負っています。

給与の約8割が支給される計算方法と非課税のメリット

支給される金額の内訳は、基本となる「休業補償給付(60パーセント)」と、上乗せされる「休業特別援護金(20パーセント)」の合計80パーセントです。計算の基礎となるのは「給付基礎日額」で、これは原則として事故が起きた直前3か月間の給与を日割り計算したものです。

残業代や各種手当も含まれるため、実際にあなたが稼いでいた実態に近い金額が反映されます。ボーナスは含まれませんが、別途「休業特別支給金」の計算に考慮される場合があります。

休業補償給付支給請求書(様式第8号)の作成と提出

申請手続きには「様式第8号」を使用します。この書類には、あなたが記載する欄のほかに、会社が「いくら給与を払っていたか」を証明する欄と、医師が「働けない状態である」と証明する欄があります。

まずは病院の診察時に医師へ書類を渡し、証明を依頼してください。その後、会社に回して記入を受け、最終的に労働基準監督署へ提出します。郵送でも受け付けてくれるため、怪我で動けない場合でも安心です。

通勤中の事故を労災として認定させるための境界線

通勤途中の事故は、一見するとプライベートな時間のように思えますが、労災保険の「通勤災害」として手厚く保護されます。たとえ会社の敷地外であっても、自宅から職場までの移動は仕事に密接に関連しているとみなされるからです。

通勤災害として認められれば、業務災害とほぼ同等の補償を受けることができます。これにより、予期せぬ事故で負った傷を、自分の健康保険や貯金を使うことなく治すことができるのです。

「合理的な経路および方法」と認められる基準

通勤災害の認定において最も重要なキーワードは「合理的な経路および方法」です。通常、会社に届け出ている通勤経路を通り、電車、バス、自家用車、自転車、徒歩など、社会通念上ふさわしい方法で移動している必要があります。

例えば、渋滞を避けるために裏道を通ったり、いつもの電車の遅延で別ルートを使ったりすることは、合理的な範囲内として認められます。

寄り道や中断が認められる「日常生活に必要な行為」

注意が必要なのは、通勤の途中で「逸脱」や「中断」をした場合です。逸脱とは、通勤とは関係のない目的でルートを外れることで、中断とはルート上であっても通勤に関係ない行為を行うことを指します。

例えば、仕事帰りにパチンコ店に行ったり、友人と飲み会に参加したりした後の事故は、原則として通勤災害にはなりません。しかし、厚生労働省の規定では、日常生活に欠かせない「最小限度の行為」であれば、その間を除いて、元のルートに戻った後は再び通勤として認められるという特例があります。

具体的に「最小限度の行為」と認められるのは、日用品の買い物、独身者の外食、選挙の投票、病院での受診などです。共働きの親が子供を保育園に送り届ける行為も、現代の労働環境に照らし合わせて正当な理由とみなされます。

第三者が関わる交通事故での注意点

通勤中に交通事故に遭った場合は「第三者行為災害」という特別な扱いになります。この場合、相手側の自賠責保険や任意保険から賠償を受けるのか、労災保険から給付を受けるのかを選択、あるいは併用することになります。

自賠責保険には慰謝料がある一方で、治療費には上限があります。一方、労災保険には慰謝料はありませんが、治療費は無制限で、休業補償も手厚いです。不明な点は、まず労働基準監督署と保険会社の両方に連絡し、相談することをお勧めします。

精神障害や過労による労災申請のポイントと現状

近年、身体的な怪我だけでなく、うつ病や適応障害などの「心の病」による労災申請が急増しています。過酷な長時間労働や、上司からのパワーハラスメント、過度なノルマによるストレスなどは、今や立派な労災の対象です。目に見えない傷であっても、それが仕事に起因するものであれば、あなたは国からの補償を受けながら休養する権利を持っています。

心理的負荷による認定基準と証拠の重要性

精神障害の労災認定には、厚生労働省が定める「心理的負荷による精神障害の認定基準」が用いられます。審査では、発症直前のおよそ6か月間に、仕事による強いストレスがあったかどうかが詳しく調査されます。

精神疾患での申請において、あなたが準備すべき最も大切なものは「証拠」です。残業時間が記録されたタイムカードの写し、上司からの執拗なメールやLINEの履歴、ハラスメントの内容を記録した日記などが、認定の決め手となります。

専門家や労働基準監督署への相談のタイミング

「過労死」や「過労自殺」という最悪の事態を防ぐためにも、限界を感じる前に休業補償の手続きを検討してください。精神的な理由で会社に行けなくなった場合、自力で書類を整えるのは大変な苦労を伴います。

その際は、ご家族や社会保険労務士などの専門家の助けを借りることも一つの手です。労働基準監督署の窓口でも、精神障害の申請に関する専用の相談コーナーを設けているところが多く、親身になって話を聞いてくれます。

後遺症が残った場合や万が一の事態への手厚い補償

懸命な治療を続けたものの、残念ながら身体に機能障害が残ってしまった場合でも、労災保険はあなたを見捨てません。「障害補償給付」という制度があり、残った障害の程度(等級)に応じて、年金または一時金が支給されます。

これにより、以前と同じように働くことが難しくなったとしても、経済的な支えを得ながら新しい生活スタイルを構築していくことが可能になります。

障害等級に応じた年金と一時金の仕組み

障害等級は1級から14級まで細かく分かれています。

最も重い1級から7級までは、毎年決まった額が支払われる「年金」形式での支給となります。これは一生涯、あるいは障害の状態が続く限り受け取ることができるため、将来にわたる強力な所得保障となります。

8級から14級の場合は「一時金」として、まとまった金額が一度に支払われます。等級の判断は、医師の診断書をもとに労働基準監督署が選定した地方労災医員による面接などで行われます。

遺族を守るための遺族補償給付

不幸にも仕事が原因で亡くなってしまった場合には、残されたご家族に対して「遺族補償給付」が支給されます。これには、遺族の生活を支えるための「遺族補償年金」や、葬儀費用を補助する「葬祭料」が含まれます。

年金の受給対象は、亡くなった労働者の収入によって生計を維持していた配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹です。一家の大黒柱を失った悲しみは癒えるものではありませんが、金銭的な不安を軽減することで、ご遺族が前を向くための手助けとなります。

会社が協力を拒否した時の具体的戦い方と防衛策

全ての会社が労災に対して協力的なわけではありません。中には「うちは労災を認めていない」と不当な圧力をかけてくる事業主も存在します。これを「労災隠し」と呼び、労働安全衛生法に違反する重大な犯罪行為です。会社が判印を拒否したとしても、あなたは一人で申請を完遂し、給付を受け取ることができます。会社の許可は、労災申請の絶対条件ではないからです。

事業主の証明(ハンコ)がなくても申請は可能

会社が書類への証明(ハンコ)を拒否した場合、その欄は空欄のままで構いません。代わりに、別紙で「会社に依頼したが拒否された」という経緯を書いた「理由書」を添えて労働基準監督署に提出してください。

これを受け取った労働基準監督署は、調査権限を行使して会社へ直接連絡を取り、必要な事実確認を行います。会社の都合を優先して、あなたの健康や生活を犠牲にする必要はありません。

「労災隠し」の強要に屈しないための記録と相談

会社が労災を嫌がる主な理由は、労働基準監督署の調査を恐れたり、翌年以降の労災保険料が上がるのを避けたりするためです。

もし「労災を申請するなら辞めてもらう」といった脅しを受けたとしても、それは不当解雇にあたり、法律で固く禁じられています。会社とのやり取りは録音やメールで記録に残してください。労働基準監督署の職員は、そうした悪質なケースに何度も対処してきたプロフェッショナルです。

まとめ:手続きを円滑に進めるための3つのポイント

労災の手続きを円滑に進め、確実に補償を手に入れるための3つの重要ポイントを再確認しましょう。

  • 最初から労災として扱う: 病院の窓口で健康保険証を出さず、仕事中の怪我であることを明確に伝える。
  • 証拠と記録を大切にする: 事故の状況、残業の時間、ハラスメントの内容、医師の診断、会社とのやり取りをメモや写真で残す。
  • 労働基準監督署を味方につける: 会社が頼りにならない場合や、手続きに迷った場合、最寄りの監督署へ正直に相談する。

労災の手続きを完了させることは、単にお金を受け取ること以上の意味を持ちます。それは、怪我という不運な出来事に区切りをつけ、再び自分の足で人生を歩み始めるための「再出発の儀式」でもあります。経済的な不安を解消し、適切な医療を受け、家族との生活を守り抜く。そのための権利が、今あなたの手の中にあります。この記事を読み終えたら、まずは必要な書類を手に入れるところから始めてみてください。あなたの健やかな回復と、輝かしい社会復帰を心から応援しています。

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