振込手数料は、インボイス制度において重要な会計処理の一つとなっています。民法上、振込手数料は原則として買手側が負担すべきものとされていますが、商習慣により売手側が負担するケースも多く存在します。
目次
振込手数料の基本的な取り扱い
2023年10月からのインボイス制度施行後も、振込手数料を負担するのは原則として買手側です。民法上、振込手数料は債務の弁済費用として買手側が負担すべきものとされています(民法第485条)。しかし、実務上は取引慣行により売手側が負担するケースも多く、その場合の会計処理や税務上の取り扱いについて正確な理解が必要です。
買手側の課税事業者は、振込手数料に含まれる消費税分の仕入税額控除を受けられますが、そのためには金融機関が発行する適格請求書が必要となります。
振込手数料は金融機関への支払いであるため、買手側と金融機関の二者間での取引となります。この場合、買手側が振込手数料にかかった消費税の仕入税額控除を受けるためには、金融機関に適格請求書を発行してもらう必要があります。
買手負担の場合の処理方法
買手が振込手数料を負担する場合、最も基本的な仕訳は以下の通りです。
【買手側】
借方 | 貸方 |
仕入 100,000円 | 普通預金 100,550円 |
支払手数料 550円 |
買手側は、振込手数料について金融機関から適格請求書を受け取る必要があります。ただし、ATMでの振込で税込3万円未満の場合は、自動販売機特例により適格請求書の保存が不要となります。
この場合の実務上の留意点は以下です。
1.適格請求書の保存要件
a.原則として金融機関からの適格請求書の保存が必要
b.支払金額が3万円未満のATM取引は、自動販売機特例により請求書保存不要
c.インターネットバンキングの場合も、明細等の保存が必要
2.消費税の処理
a.振込手数料に含まれる消費税は、通常の仕入税額控除の対象
b.帳簿への記載は取引年月日、支払先、取引内容、支払金額を明記
3.経理処理上の注意点
a.支払手数料勘定で処理する場合は、税務調整不要
b.振込手数料は損金算入可能な費用として扱われる
売手負担の場合の処理方法
売手が振込手数料を負担する場合、主に以下の2つの処理方法があります。
1. 売上値引方式
【売手側】
借方 | 貸方 |
普通預金 99,450円 | 売掛金 100,000円 |
売上値引 550円 |
売上値引方式のメリット
- 消費税の計算が簡便
- 返還インボイスの発行が不要なケースがある
- システム対応が比較的容易
2. 支払手数料方式
【売手側】
借方 | 貸方 |
普通預金 99,450円 | 売掛金 100,000円 |
支払手数料 550円 |
売上値引として処理する場合、2023年度の税制改正により、税込1万円未満の値引きについては適格返還請求書の発行が不要となりました。
支払手数料方式のメリット
- 費用の性質をより正確に表示
- 管理会計上の分析が容易
- 取引の実態をより適切に表現
特に重要な点として、2023年度の税制改正により、以下の特例が設けられました。
- 税込1万円未満の売上値引等については、適格返還請求書の発行が不要
- 相手方の同意がある場合、電子的な方法による提供も可能
- 継続的な取引の場合、一定期間分をまとめて発行可能
振込方法別の対応
振込方法によって適格請求書の要否が異なります。
1.窓口での振込
a.適格請求書の保存が必要
b.領収書等の原本保管が推奨
c.取引記録の詳細な記載が必要
2.ATMでの振込
a.3万円未満:帳簿のみの保存で可能
b.3万円以上:適格請求書の保存が必要
c.利用明細等の保管が推奨
3.インターネットバンキング
a.取引履歴のプリントアウトまたはPDF保存
b.取引の詳細記録の保持
c.システムログの保管期間の設定
実務上の留意点
会計処理と消費税上の処理を区別することも可能です。支払手数料として会計処理をしつつ、消費税区分を売上返還として処理することができます。この場合、会計ソフトの消費税区分設定で「課税売上返還」を選択します。
まとめ
インボイス制度における振込手数料の処理は、一見複雑に思えるかもしれませんが、基本的な原則を理解することで適切な対応が可能です。特に重要なポイントを整理すると、
1. 振込手数料の負担者が誰かを明確にし、取引先と事前に合意しておくことが重要です。これにより、後々のトラブルを防ぐことができます。
2. 処理方法は、売手負担の場合の「売上値引方式」と「支払手数料方式」、買手負担の場合の「支払手数料処理」が基本となります。それぞれの方式のメリット・デメリットを考慮し、自社に適した方法を選択しましょう。
3. 適格請求書の保存要件については、取引金額や取引方法によって異なる規定が設けられています。特に少額特例の適用範囲をよく理解し、効率的な事務処理を心がけることが大切です。
4. システム対応と内部統制の整備も重要です。会計ソフトの設定を適切に行い、処理手順を標準化することで、ミスを防ぎ、業務効率を向上させることができます。
今後も制度の変更や実務指針の更新が予想されますので、最新の情報をキャッチアップしながら、自社の経理実務を適切に運用していくことが求められます。特に、デジタル化の進展に伴い、電子インボイスの活用やペーパーレス化への対応も視野に入れた準備を進めることをお勧めします。
振込手数料の処理は、金額としては些細に見えるかもしれませんが、取引量が多い企業にとっては無視できない影響があります。本稿で解説した内容を参考に、自社の状況に最適な処理方法を選択し、効率的な経理実務の構築を目指してください。
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