
面倒な請求書作業が、移動中のスマホ操作だけで片付いたら。こんな未来を望む個人事業主やフリーランスの方は多いはずです。月末の憂鬱な事務作業に追われる時間を、本来の業務や営業活動に変えることができます。
この記事では、スマートフォン(以下、スマホ)を使った請求書作成が、あなたの業務をどれほど効率化するかを具体的に解説します。
さらに、多くの方が不安に感じている「インボイス制度」や「電子帳簿保存法」といった複雑な法改正に、スマホアプリがいかに簡単かつ正確に対応できるか、その仕組みと実践方法を明らかにします。
「PC操作は苦手」、「法律のことは難しくて分からない」という方でも心配ありません。この記事で紹介するアプリや手順は、誰でも直感的に使えるものばかりです。スマホ一つで、請求書業務を「賢く」「早く」「正確に」変える第一歩を、この記事から始めてください。
目次
なぜ今、請求書作成は「スマホ」で完結させるべきなのか?
請求書作成業務は、売上を確定させるための重要なプロセスです。しかし、多くの個人事業主や小規模事業者が、この作業に多くの時間を奪われています。従来の「手書き」や「エクセル管理」といった方法は、もはや現代のビジネススピードと法制度に対応しきれなくなっています。
「手書き」や「エクセル管理」が抱える時間と信用のリスク
請求書は、法律上、特定の書式や作成方法が定められていないため、手書きで作成しても法的な問題はありません。ただし、請求書として認められるためには、国税庁が定める必須項目(請求年月日、取引先名、取引内容、金額など)を漏れなく記載する必要があります。
しかし、手書きには法律面とは別に、ビジネスを遂行する上で看過できない大きなデメリットが3つ存在します。第一に「作成に時間がかかる」ことです。取引先の情報を毎回記入し、品目や金額を手計算する作業は、非常に手間がかかります。
第二に「計算ミスや記載ミスのリスクが高い」ことです。手計算による消費税の計算間違いや、転記ミスは頻繁に起こりえます。第三に「管理が困難」であることです。発行した請求書の控えをファイリングし、入金状況を突き合わせる作業は煩雑を極めます。
特に、インボイス制度(適格請求書等保存方式)が導入された現在、手書きでの対応はリスクをさらに増大させます。登録番号や税率ごとの消費税額など、記載項目がさらに増えたため、ミスの可能性は飛躍的に高まりました。
手書きのリスクは、単なる「手間の問題」では済みません。例えば、計算ミスに気づいた場合、手書きの請求書は最初からすべて書き直さなければなりません。なぜなら、改ざんを防ぐため、鉛筆や消せるインクのペンではなく、読みやすく消えにくいボールペンなどでの作成が推奨されるからです。
この書き直し作業が発生すると、請求書の発行が遅延します。発行が遅れれば、取引先の支払い処理も連動して遅れ、結果として自身のキャッシュフロー(資金繰り)に直接的な悪影響を及ぼす可能性があります。これは、管理上のリスクではなく、財務上の深刻なリスクです。
さらに深刻なのが「信用」のリスクです。計算ミスや記載漏れのある請求書を送付してしまう行為は、取引先からの信頼を失うことに直結します。「この事業者は数字の管理がずさんだ」という印象は、フリーランスや個人事業主にとって致命的です。手書き作業の本当のリスクは、時間だけでなく、ビジネスの根幹である「信用」を毀損することにあるのです。
一方、エクセルやGoogleスプレッドシートは、計算ミスのリスクを大幅に減らすことができます。しかし、これらの方法は「PCでの作業」が前提となり、ファイルの属人化(担当者しかデータがどこにあるか分からない)という問題を生みます。
また、バージョン管理の煩雑さ(例:「請求書_v2_最終.xlsx」)や、スマホでの操作性の悪さといった、別の問題も抱えています。
スマホ請求書作成がもたらす4つの業務効率化
スマホの請求書作成アプリは、前述した手書きやエクセルの問題を根本から解決します。最大のメリットは「作業効率の向上」です。その効果は、主に4つの側面に現れます。
第一に、時間と場所の制約からの解放です。スマホさえあれば、外出先や移動中、現場での作業の合間といった「スキマ時間」を有効に活用できます。
急な請求書の発行依頼にも、オフィスに戻ることなく即座に対応可能です。PCを開く必要すらないため、作業開始への心理的なハードルも大きく下がります。
第二に、物理的なコストの削減です。多くの請求書アプリは、作成した請求書をそのままメールで送付したり、PDFとして発行したりする機能を備えています。
これにより、これまでかかっていた紙への印刷、封筒への封入、切手を貼って投函するといった一連の手作業が不要になります。結果として、郵送費、紙代、プリンターのインク代といった物理的なコストを確実に削減できます。
第三に、ミスの撲滅です。アプリにはあらかじめ適切な請求書のテンプレートが用意されています。利用者は、取引先や品目、金額を入力するだけで、記載漏れのないキレイな帳票を作成できます。
特に面倒な消費税の計算や、業種によって必要な源泉徴収税の計算も自動で行われるため、手書きで起こりがちな計算ミスの心配がなくなります。
第四に、業務フローの高速化です。多くのアプリでは、見積書の作成から納品書の作成、そして請求書の発行まで、業務の流れが一気通貫で管理されています。
一度作成した見積書のデータは、ボタン一つで納品書や請求書に変換(複製)できます。これにより、同じ情報を何度も入力する「転記作業」が完全に不要となり、ミスを防ぐと同時に、見積もりの提示から入金確認までの業務サイクルが劇的に高速化します。
これらの効率化がもたらす本質的な価値は、単に「請求書が楽に作れる」ことではありません。それは、「本業に集中する時間を取り戻せる」ことです。
ペルソナであるフリーランスや個人事業主にとって、時間はコストではなく「売上を生む源泉」です。事務作業にかかっていた時間を1時間減らすことができれば、その1時間を本業のクリエイティブな作業や、新規顧客への営業活動に充てることができます。スマホアプリの導入は、単なる「経費削減」ではなく、「未来の売上創出」への積極的な投資と言えます。
PCが苦手な人こそ、スマホアプリの恩恵を最も受ける
これまで、フリーランスや個人事業主が経理業務のデジタル化を進めようとすると、多くの場合「PCの購入」と「高機能な会計ソフトの導入」が必要でした。これが、PC操作が苦手な人々にとって非常に高いハードルとなっていました。
しかし、スマホアプリの登場は、この状況を一変させました。
スマホアプリなら、パソコンがなくても請求書や見積書を簡単に作成できます。PCの複雑な操作やキーボード入力が苦手な人でも、普段から使い慣れたスマホのタッチ操作で、片手で簡単に扱えるように設計されています。
例えば、建設現場の職人向けに特化して開発されたアプリも存在します。PCを常設することが難しい現場環境でも、スマホさえあればその場で見積書や請求書を作成・送信できるため、業務が停滞しません。
万が一、取引先の慣習で「どうしても紙で提出してほしい」と求められた場合でも、問題はありません。多くのアプリは作成したデータをPDFとして保存できます。そのデータを、コンビニエンスストアが提供する「ネットプリント」サービスに登録すれば、プリンターが自宅や事務所になくても、お近くのコンビニで簡単に印刷が可能です。
スマホアプリは、従来の「PC」というデジタル化の障壁を飛び越えることを可能にしました。PCが苦手という理由でデジタル化から取り残されていた人々が、スマホを入り口として、ペーパーレス化や後述する法改正への対応といった、最新のデジタル業務フローへ直接移行できるようになったのです。
これは単なる利便性の向上ではなく、デジタル化における「アクセシビリティ(利用しやすさ)」の革命と言えます。
インボイス制度・電子帳簿保存法はスマホアプリでこう乗り越える

スマホアプリの導入が「任意」ではなく「必須」となりつつある最大の理由が、近年施行された2つの重要な法改正、「インボイス制度」と「電子帳簿保存法」への対応です。これらの複雑な要件に、個人が独力で対応するのは極めて困難です。
インボイス制度(適格請求書)対応 もう書式で悩まない
2023年10月1日に開始されたインボイス制度(適格請求書等保存方式)により、買い手(取引先)が消費税の仕入税額控控除を受けるためには、原則として売り手(自社)が発行する「適格請求書(インボイス)」の保存が必要になりました。
この適格請求書には、従来の請求書の記載項目に加え、「適格請求書発行事業者の登録番号」や「税率ごとの消費税額及び適用税率」などを正確に記載する必要があります。
この複雑な要件に対し、本記事で紹介するような主要な請求書作成アプリ(例:Misoca、freee請求書、マネーフォワード クラウド請求書、INVOY、Square請求書など)は、すべてインボイス制度に対応しています。
利用者が行う作業は、初期設定で自社の「適格請求書発行事業者登録番号」を一度登録するだけです。あとは、アプリが提供するインボイス対応テンプレートを選んで通常通りに請求書を作成すれば、必要な項目が自動で記載され、法要件を満たした適格請求書が完成します。
インボイス制度への対応で最も恐れるべきリスクは、「自社が発行した請求書に不備があった場合、取引先(買手)が仕入税額控除を受けられず、金銭的な損害を与えてしまう」ことです。これは、取引先からの信頼を根本から揺るがす重大な問題です。
つまり、インボイスへの対応は、自社の税務処理のためである以上に、「取引先に迷惑をかけず、良好なビジネス関係を継続するため」の必須要件なのです。スマホアプリを導入することは、この法務リスク(コンプライアンス違反)を自動的に回避し、取引先との信頼関係を守るための、最も確実な「保険」として機能します。
電子帳簿保存法 「電子取引データ」の保存義務とは?
インボイス制度と並んで重要なのが「電子帳簿保存法」です。特に2024年1月1日からは、すべての事業者(個人事業主やフリーランスを含む)を対象に、新たな保存ルールが完全義務化されました。
この改正における最大のポイントは、「電子取引」で授受した取引情報(請求書や領収書など)は、電子データのまま保存しなければならない、という点です。
「電子取引」とは、例えば、取引先からメールの添付ファイル(PDFなど)で送られてきた請求書や、Webサイトからダウンロードした領収書データなどを指します。
これまで多くの事業者が行ってきた「メールで届いたPDF請求書を、わざわざ印刷して紙でファイリングする」という保存方法は、2024年1月1日以降、法律違反(NG)となったのです。
このルール変更は、個人事業主のこれまでの常識を根本から覆すものです。「紙は正本、データは控え」という時代は終わり、「電子データこそが正本」として扱われる時代になりました。
この法律は、データを受け取る側だけでなく、発行する側にも適用されます。スマホアプリで請求書を作成し、PDFとしてメールで送信する行為も、まさにこの「電子取引」に該当します。
請求書アプリを利用すると、発行した請求書の控えは、アプリ(クラウド上)に自動で電子保存されます。つまり、利用者は「データを保存しよう」と意識することなく、ただアプリを使って請求書を発行するだけで、自動的に「発行側」の電子帳簿保存法の要件に対応できていることになるのです。
法律が求める「真実性の確保」と「可視性の確保」の簡単な解釈
電子帳簿保存法では、電子データを単に保存するだけでなく、2つの大きな要件を満たすことが求められています。それが「真実性の確保」と「可性を確保」です。
「真実性の確保」とは、保存した電子データが「改ざん・削除されていない」ことを証明するための仕組みです。
具体的には、タイムスタンプが付与されたデータを受け取る、データの訂正や削除の履歴が残る(または訂正・削除が原則禁止されている)システムを利用して保存する、あるいは改ざん防止のための事務処理規程を定めて守る、といった措置のいずれかが求められます。
「可視性の確保」とは、保存したデータを「すぐに検索・表示できる」状態にしておくことです。税務調査などで「2024年10月のA社への請求書(取引金額5万円以上)」といった具体的な要求があった際に、即座に該当データを探し出し、ディスプレイやプリンターで明瞭に出力できる必要があります。
この「可視性の確保」のために、法律は特に「検索機能」を重視しています。具体的には、「取引年月日」「取引金額」「取引先」の3つの項目でデータを検索できる状態にしておくことが求められます。さらに、日付や金額については「範囲指定」で検索できることも必要です。
ここで、多くの人が考えがちな「PCのフォルダに『20241031_A社_請求書.pdf』のようにファイル名を付けて保存する」という手動管理方法の限界が明らかになります。
PCの標準的なフォルダ機能では、「取引先名」や「日付」での検索はできても、「取引金額(例:5万円から10万円の間)」でファイルを横断的に検索することはできません。したがって、この手動管理方法は、電子帳簿保存法の「可視性の確保」の要件を満たせないのです。
結論として、これら2つの要件(真実性と可視性)を、個人が自力で、無料のツールだけを組み合わせて満たすことは、ほぼ不可能です。
電子帳簿保存法に正式に対応したクラウド型の請求書アプリや会計システムを導入することが、法律を遵守するための唯一かつ最も簡単な解決策となります。
スマホで完結。「紙で受け取った請求書」の正しい保存方法
では、取引先から「紙」で請求書や領収書を受け取った場合はどうすればよいのでしょうか。
法律は、データの授受方法に応じて「電子取引」と「スキャナ保存」を明確に区別しています。前述の通り、メール添付(PDF)などデータで受け取ったものは「電子取引」データとして、データで保存します。
一方、取引先から「紙」で請求書や領収書を受け取った場合は、そのまま紙で保存し続けるか、あるいは「スキャナ保存」のルールに則って電子データ化するかを選択できます。
ここでいう「スキャナ」とは、高価な専用スキャナ機器や複合機だけを指すものではありません。国税庁は、スマートフォンのカメラやデジタルカメラで撮影した画像データも「スキャナ」として認めています。
ただし、スキャナ保存を行うには厳格な期限があります。紙の書類を受け取ったら、「速やか(おおむね7営業日以内)」にスキャン(撮影)して保存するか、または「業務処理サイクル(最長2か月)を経過した後、速やかに(おおむね7営業日以内)」に保存する必要があります。
「INVOY」や「スマホインボイスFinFin」といった一部のアプリは、このスキャナ保存(スマホカメラでの取り込み)に標準対応しています。
個人事業主の日常業務は、「請求書の発行」と「経費の領収書の受領」が混在しています。スマホアプリは、この2つの異なる法的要件(発行=電子取引、受領=スキャナ保存)を、一つのインターフェースでシームレスに解決します。
理想的な業務フローは、請求書を発行する時と経費の領収書(紙)を受け取った時で分けられます。
請求書を発行する時は、スマホアプリで作成し、取引先にメールで送信します。この時点で、控えはアプリ(クラウド)に自動保存され、「電子取引」の法対応が完了します。
経費の領収書(紙)を受け取った時は、スマホアプリのカメラ機能を起動し、その場で領収書を撮影します。データはアプリ(クラウド)に保存され、「スキャナ保存」の法対応が完了します。
このように、最新のスマホアプリは、個人事業主を「スマホ一つで、発行も受領も、法対応が完結する『デジタルファイリングキャビネット』」の状態へと導いてくれるのです。
スマホ請求書作成アプリ 失敗しないための選定基準5つ

スマホアプリが法対応と業務効率化の鍵であることは間違いありません。しかし、現在多くのアプリが存在し、どれを選べばよいか迷ってしまいます。ここでは、あなたのビジネスに最適なアプリを選ぶための5つの基準を解説します。
基準1 料金プラン(無料枠でどこまでできるか)
アプリの料金体系は、ビジネスモデルによって大きく異なります。
例えば、「Misoca」は無料プランで月10通まで請求書作成が可能です。「freee請求書」は、請求書の発行枚数が無制限で無料です。
一方で「INVOY」は、口座自動連携などの一部機能を除き、基本機能のほとんどを無料で利用できます。また、「Square請求書」は、請求書の送信自体は無料ですが、その請求書を通じてオンラインのカード決済が行われた際に手数料が発生するモデルです。
まずは、ご自身の「月間の平均請求書発行枚数」を把握してください。その上で、各アプリの無料枠でその枚数をカバーできるか、または有料プランに移行した場合のコストはいくらか、を比較検討することが重要です。
基準2 機能(見積書・納品書から請求書への変換)
業務効率化の観点から、請求書だけを単体で作成できるアプリは非効率です。多くのビジネスフローは、「まず見積書を提示し、受注したら納品し、最後に請求する」という流れをたどります。
したがって、選定基準として「見積書」を作成でき、そのデータが「納品書」に引き継がれ、最終的に「請求書」へとワンクリックで変換できる機能があるかを確認してください。
この「変換機能」こそが、同じ情報を何度も入力する手間(転記作業)を省き、転記ミスを防ぐ、業務効率化の核心的な機能です。請求書作成機能だけでなく、その前後の帳票(見積書、納品書、領収書)も一元管理できるかを必ずチェックしましょう。
基準3 連携性(会計ソフト・確定申告への連動)
請求書を発行して終わりではありません。その売上データは、最終的に「確定申告」のための会計データとして処理する必要があります。請求書アプリと会計ソフトが連携していれば、請求書作成と同時に仕訳や売掛管理が自動化され、経理業務全体が劇的に効率化します。
主要なアプリは、特定の会計ソフト(エコシステム)と強力に連携しています。「Misoca」は「弥生(やよい)の青色申告 オンライン」、「freee請求書」は「freee会計」、「マネーフォワード クラウド請求書」は「マネーフォワード クラウド確定申告」といった具合です。
多くの場合、請求書アプリの選定は、その先の「会計ソフト(エコシステム)」の選定とほぼ同義になります。
ただし、このエコシステムから独立している「INVOY」のようなアプリにも独自の価値があります。「INVOY」は会計ソフトとの直接連携機能を持っていません。これは一見デメリットに思えますが、特定の利用者層には大きなメリットとなります。
例えば、「会計業務はすべて税理士に任せており、その税理士が特定の会計ソフト(例:弥生)を使っている」という個人事業主の場合、今さら会計ソフトを乗り換えることは望んでいません。
この利用者が欲しいのは、会計ソフトとは切り離された「高機能な請求書発行・保存ツール」だけです。この場合、特定の会計ソフトに縛られない独立系のINVOYが最適解となることがあります。
基準4 法対応(インボイス・電帳法の両方に対応しているか)
インボイス制度への対応は、現在、本記事で取り上げるような主要アプリであれば、すべて対応済みです。
本当の差が出るのは、「電子帳簿保存法」への対応レベル、特に「受領側(スキャナ保存)」の機能です。H2-3で解説した通り、個人事業主は経費精算のために紙の領収書を受け取る機会が非常に多いです。この「受領した紙」をスマホカメラで撮影し、法要件を満たして保存できる機能が充実しているかは、重要な選定ポイントです。
例えば、「INVOY」は、公益社団法人日本文書情報マネジメント協会(JIIMA)から「スキャナ保存ソフト」としての認証を取得しています。
このJIIMA認証を取得しているシステムを利用すれば、税務調査の際に「法律の要件を個別に確認する必要がなく、適法に保存している」という強力な証明になります。飲食費や交通費、資材購入費など、紙の領収書が多い業種(例:営業職、建設業)の人は、この「受領側の機能」を特に重視すべきです。
基準5 操作性(アプリが直感的に使いやすいか)
最後に、しかし最も重要なのが、アプリが直感的に使いやすいかどうかです。特にPC操作が苦手な層にとっては、この基準が最優先事項かもしれません。
いくら高機能で法対応が万全でも、操作が複雑でストレスを感じるようでは、結局使われなくなり、元の手書きやエクセル管理に戻ってしまいます。
幸いなことに、主要なアプリはすべて無料プランや無料トライアル期間を提供しています。有料プランを契約する前に、必ずいくつかのアプリをご自身のスマホにダウンロードし、実際に請求書を一枚作成してみてください。その上で、最も「ストレスなく」「感覚的に」操作できると感じたものを選ぶことが、継続利用の最大の秘訣です。
主要スマホ請求書作成アプリ5選 あなたに最適なのは?
H2-4で解説した5つの選定基準に基づき、主要なスマホ請求書作成アプリ5つを徹底比較します。それぞれの特徴を理解し、あなたのビジネスに最適な一つを見つけてください。
主要5アプリ 機能・料金・法対応 比較表
| アプリ名 | 無料プラン(発行上限) | インボイス制度対応 | 電帳法対応(発行側) | 電帳法対応(受領側・スキャナ保存) | 会計ソフト連携 | こんな人におすすめ(特徴) |
| INVOY (インボイ) | 基本機能 ほぼ無料発行枚数 無制限で無料 | ◯ | ◯ | ◎ (JIIMA認証) | △ (CSV対応) | 会計ソフトに縛られたくない人。受領側の法対応(スキャナ保存)を重視する人。 |
| Misoca (ミソカ) | 月10通まで無料 | ◯ | ◯ | ◯ (スマート証憑管理) | ◎ (弥生会計) | 弥生会計ユーザー。シンプルな操作性を求める人。 |
| freee請求書 | 発行枚数 無制限で無料 | ◯ | ◯ | ◯ (freee会計) | ◎ (freee会計) | 新規開業の個人事業主。発行枚数が多くコストを抑えたい人。 |
| マネーフォワード クラウド請求書 | 会計ソフトの有料プランに含む(無料トライアル有) | ◯ | ◯ | ◯ (クラウドBox) | ◎ (MFクラウド) | 既存のMFクラウドユーザー。バックオフィス全体を効率化したい事業者。 |
| Square請求書 | 送信無料(決済時に手数料) | ◯ | ◯△ (決済関連の管理) | △ (Square POSと連携) | サービス業・店舗。作成後すぐにカード決済で代金回収したい人。 |
Misoca (ミソカ) 弥生会計ユーザーとシンプルな操作性を求める個人事業主向け
「Misoca」は、会計ソフトの「弥生」シリーズを提供する弥生株式会社のサービスです。
無料プランでは、請求書の作成が月10通まで可能で、見積書や納品書の作成は無制限です。小規模なフリーランスや、まずは試してみたいという方には十分な枠が提供されています。
法対応も万全で、インボイス制度・電子帳簿保存法の両方に対応しています。「スマート証憑管理」という連携サービスを利用することで、発行・受領の両方のデータを適切に保存できます。
最大の特徴は、やはり「やよいの青色申告 オンライン」との強力なデータ連携です。すでに弥生の会計ソフトを利用しているユーザーにとっては、データ連携の手間を考えると第一候補となるアプリです。スマホアプリの操作性もシンプルで、直感的に使いやすいと評価されています。
freee請求書 発行枚数無制限(無料)とfreee会計とのシームレスな連携
「freee請求書」は、クラウド会計ソフトのパイオニアであるfreee株式会社が提供しています。
最大の特徴は、請求書の発行枚数が無制限で無料である点です。見積書や納品書の作成も同様に無料・無制限で、約40種類の豊富なテンプレートも利用できます。これは、請求書発行枚数が多い事業者にとって非常に強力な選択肢となります。
もちろん、インボイス制度・電子帳簿保存法の両方に完全対応しています。
この無料プランは、同社の「freee会計」への強力な「入口(集客用)」として戦略的に設計されています。freee請求書で作成したデータは、「freee会計」とシームレスに連携し、自動で取引として登録され、入金管理まで行えます。これから会計ソフトも含めてすべてを一元管理したい、コストを抑えたい新規の個人事業主にとって、最適なソリューションの一つです。
マネーフォワード クラウド請求書 バックオフィス全体を効率化したい事業者に最適
「マネーフォワード クラウド請求書」は、株式会社マネーフォワードが提供するサービス群の一つです。
freeeとは異なり、請求書機能を単体で無料提供するモデルではありません。請求書作成機能は、主に「マネーフォワード クラウド確定申告」の「パーソナルプラン」(有料)などに含まれる機能として提供されています。
法対応としては、インボイス制度に対応し、発行した書類は「マネーフォワード クラウドBox」というストレージサービスと連携し、電子帳簿保存法に対応した形で保存されます。
このアプリの強みは、「マネーフォワード クラウド」シリーズ(会計、経費、給与など)との強力な連携にあります。請求書作成を単なる「点」の作業として捉えるのではなく、経費精算や会計処理といったバックオフィス業務全体の「線」の中で効率化したい、というニーズを持つ事業者に最適です。
INVOY (インボイ) 強力な無料枠と「受領」の電帳法対応(JIIMA認証)
「INVOY」は、OLTA株式会社が提供する、独立系の請求書発行・管理プラットフォームです。
最大の特徴は、ほとんどの基本機能を無料で利用できることです。有料プラン(月額980円)との差分は、口座の自動連携や資金繰り表といった付加機能に限られるため、多くのユーザーは無料プランのまま活用できます。
法対応、特に「電子帳簿保存法」への対応が非常に強力です。発行側はもちろん、受領側(スキャナ保存)においてJIIMA認証を取得している点は、大きな強みです。紙の領収書が多い事業者も、INVOYのスマホカメラ機能で撮影・保存するだけで、法要件を確実に満たすことができます。
一方で、会計ソフトとの直接連携機能は持っていません。この特徴により、特定の会計ソフト(エコシステム)に縛られたくない、あるいは「受領側の法対応」を最重要視する事業者にとって、最適な選択肢となります。
Square請求書 カード決済までをスマホで完結させたい店舗・サービス業向け
「Square請求書」は、POSレジや決済端末で知られるSquare(Block, Inc.)が提供するサービスです。
このアプリの本質は、会計ツールではなく「決済(代金回収)ツール」です。請求書の送信自体は無料ですが、その請求書に記載されたリンクから顧客がオンラインでカード決済を行った際に、決済手数料(3.25%〜3.75%など)が発生するビジネスモデルです。
インボイス制度にも対応しており、適格請求書として発行できます。スマホアプリの操作性は非常に高く評価されており、見積書の作成から請求書への変換も可能です。
コンサルタント、デザイナー、小規模な店舗、ケータリングサービスなど、サービスを提供した後、迅速かつ確実にカード決済で代金を回収したい個人事業主や小規模店舗に最適です。請求書は、その決済を促すための手段として機能します。
まとめ 請求書作成はスマホアプリで「賢く」「早く」「正確に」
本記事の要点を再確認します。
これまでの「手書き」や「エクセル」での請求書作成は、多くの時間がかかるだけでなく、計算ミスや管理の煩雑さという非効率な側面を持っていました。
さらに深刻なのは、これらの従来の方法では「インボイス制度」と「電子帳簿保存法」という、避けて通れない2つの大法改正への対応が極めて困難であるという、致命的なリスクです。
スマートフォンの請求書作成アプリは、これらすべての問題を一挙に解決するソリューションです。
第一に「賢く(Smart)」対応できます。アプリが提供するテンプレートを使うだけで、インボイス制度の複雑な書式や、電子帳簿保存法の難解な保存要件(真実性の確保・可視性の確保)に、利用者が意識することなく自動で対応可能です。
第二に「早く(Fast)」処理できます。移動中や現場での「スキマ時間」を最大限に活用できます。見積書から請求書への変換機能を使えば、作成から発行までの時間を劇的に短縮します。
第三に「正確に(Accurate)」完了します。消費税や源泉徴収税の自動計算機能や、データ変換機能により、手作業で発生していた計算ミスや転記ミスを撲滅し、取引先からの信頼を維持します。
法改正が義務化された今、請求書業務のデジタル化は、もはや「任意」の業務改善ではなく、すべての事業者が取り組むべき「必須」の経営戦略です。
スマホアプリの導入は、面倒な事務作業からあなたを解放し、最も価値ある「本業」に集中するための時間と安心感をもたらします。まずは本記事で紹介したアプリの中から、ご自身の事業規模や使い方に合ったものの無料プランを試し、その圧倒的な効率化を体感することから始めてください。



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