個人事業主

合同会社とは?設立メリット・デメリット、株式会社との違いを解説

公開日:

「起業したいが、設立費用はできるだけ抑えたい」

「個人事業主として所得が増え、節税のために法人化を考えている」

「合同会社はコストが安いと聞くが、株式会社と比べて本当に大丈夫だろうか」

合同会社は、低コストで設立・運営できるため、特に個人事業主からの法人成りやスモールビジネスの立ち上げにおいて、非常に魅力的な選択肢です。

うまく活用すれば、設立費用を株式会社の3分の1以下に抑え、さらに大きな節税効果を得る未来が待っています。

この記事では、あなたが合同会社という選択肢を「なんとなく」ではなく、「戦略的に」選べるようになるための、決定版となる情報を提供します。

合同会社の基本的な仕組みから、最大の比較対象である株式会社(KK)との具体的な違い、そして多くの人が不安に感じる「信用度」「資金調達」「社会保険」といったデリケートな問題まで徹底的に解説します。

設立手続きは驚くほどシンプルで、この記事で示すステップを理解すれば、決して難しいものではありません。


合同会社が持つ独特のリスクや「やめとけ」と言われる理由も隠さず分析し、その対策まで具体的に示します。読み終えるころには、合同会社があなたのビジネスにとって最適な武器であるか、自信を持って判断できるようになるでしょう。

目次

合同会社(GK)と株式会社(KK)の7つの決定的違い

会社設立を検討する際、ほとんどの場合、選択肢は「合同会社(Godo Kaisha, GK)」か「株式会社(Kabushiki Kaisha, KK)」の二択です。どちらが優れているかではなく、あなたのビジネスモデルや将来の展望にどちらが「適しているか」が重要です。

この二つの法人形態は、法律上の扱いが根本的に異なります。コスト、経営の自由度、信用の面で決定的な違いを理解することが、最初の最も重要なステップです。

ひと目でわかる比較一覧表

まず、合同会社と株式会社の主要な違いを一覧表で確認します。

比較項目合同会社(GK)株式会社(KK)
設立費用(最低)約6万円~10万円約20万円~25万円
運営コストほぼ0円(役員任期・決算公告なし)年間約7万円~(決算公告・役員更新費用)
出資者の責任有限責任有限責任
意思決定機関社員総会(原則全員同意、定款で変更可)株主総会
利益配分自由(定款で規定)出資比率(株数)に応じる
社会的信用度株式会社に比べ低い傾向高い
資金調達方法限定的(株式発行・上場不可)多様(株式発行・上場可)

設立費用と運営コストはどちらが安いか

結論から言えば、設立費用・運営コストともに合同会社が圧倒的に安価です。

設立費用(イニシャルコスト)

株式会社の設立には、最低でも約20万円以上の費用がかかります。内訳は、登録免許税が最低15万円、定款の認証手数料が3万円から5万円程度です。

一方、合同会社の設立費用は、登録免許税が最低6万円のみです。最大のポイントは、株式会社で必須となる「公証役場での定款認証」が、合同会社では不要である点です。

なお、どちらの形態でも「紙の定款」を作成すると4万円の収入印紙代がかかりますが、これは「電子定款」を利用することで0円にできます。専門家に依頼せずとも、電子定款に対応すれば、合同会社の設立費用は法務局に納める登録免許税の6万円のみで完了します。

運営コスト(ランニングコスト)

設立時だけでなく、会社を維持していく上でのコストも合同会社は有利です。

株式会社には、法律で定められた2つの義務的なランニングコストが発生します。

1つ目は決算公告の義務です。毎年、決算内容を官報などに掲載する必要があり、これに約7万円程度の費用がかかります。

2つ目は役員任期(重任)の登記です。取締役などの役員には任期(通常2年、最長10年)があり、任期満了ごとに役員が同じでも「重任登記」を法務局で行う必要があります。これに1万円の登録免許税がかかります。

合同会社は、これら2つの義務が両方ともありません。決算公告は不要で、役員(社員)に任期がないため更新手続きも不要です。ある試算では、10年間の運営で決算公告と役員更新費用だけでも株式会社は合同会社より75万円多くコストがかかるとされています。

「経営の自由度」と「意思決定」の仕組み

経営の柔軟性において、両者には根本的な設計思想の違いがあります。

まず、合同会社の「社員」という言葉を理解する必要があります。これは一般的な「従業員」という意味ではなく、「出資者(オーナー)」を指す法律用語です。

株式会社(所有と経営の「分離」)

株式会社は、「会社のお金の所有者(株主)」と「会社の経営を行う人(取締役)」を、法律上、別人として分離できる仕組みです。重要な意思決定は、出資者である株主が集まる「株主総会」で決議する必要があり、手続きが厳格で時間がかかります。

合同会社(所有と経営の「一致」)

合同会社は原則として、「出資者(社員)」=「経営者」です。出資者自らが経営を行うため、株主総会のような外部の承認機関がありません。

この「一致」モデルにより、合同会社は非常に迅速な意思決定が可能です。定款で別段の定めをしなければ、重要な意思決定は「総社員の同意」で決まります。経営陣(社員たち)が合意すれば、即座に会社の意思として決定できるのです。

しかし、これは合同会社の最大のメリットであると同時に、最大のデメリットにもなります。もし2人の社員が50%ずつ出資して設立した場合、意見が対立すると「総社員の同意」が得られず、経営が完全にストップ(デッドロック)するリスクがあります。

「社会的信用度」と「資金調達」の難易度

合同会社を検討する人が最も不安に感じるのが「信用度」と「資金調達」です。

社会的信用度

一般的に、株式会社の方が社会的信用度が高いとされています。これは、株式会社の方が知名度が高いことに加え、法律で決算公告が義務付けられるなど、情報開示性が高く、厳格なルールで運営されているイメージがあるためです。

一方、合同会社は決算公告の義務がなく、外部から経営実態が見えにくいため、特に大企業とのBtoB取引や、伝統的な金融機関からの融資において、株式会社よりも不利になる場面があると指摘されています。

資金調達

信用度と密接に関連するのが資金調達です。この点で、両者には決定的な構造的違いがあります。

株式会社は、金融機関からの融資(デット・ファイナンス)に加え、「株式の発行(エクイティ・ファイナンス)」によって、投資家やベンチャーキャピタルから出資を募ることができます。最終的には株式上場(IPO)による大規模な資金調達も可能です。

合同会社は、株式を発行する仕組みがありません。したがって、株式上場(IPO)もできません。これが合同会社の最大の制約です。

合同会社の資金調達は、自己資金、金融機関からの融資、または私募債(少人数向けの社債)などに限定されます。

この事実は、合同会社が「ダメ」だという意味ではありません。これは、合同会社が「VCから資金調達して急成長し、IPOを目指す」というビジネスモデルには構造的に不向きであることを意味します。

逆に言えば、自己資金や融資の範囲内で堅実にビジネスを行いたい(例:BtoCサービス、コンサルティング、資産管理)のであれば、合同会社の資金調達の制約は大きな問題になりません。

特に創業時の融資では、日本政策金融公庫(JFC)などが積極的に支援しており、これらは会社の形態(GKかKKか)よりも事業計画の将来性を重視します。

合同会社を設立する9つのメリット

合同会社の仕組みを理解した上で、その具体的なメリットを9つに分けて詳しく解説します。

設立費用が圧倒的に安い(約6万円から)

前述の通り、最大のメリットは設立費用(イニシャルコスト)の安さです。株式会社が約20万円から25万円必要なのに対し、合同会社は公証役場の認証が不要なため、約6万円から10万円で設立可能です。特に電子定款を利用すれば、最低6万円(登録免許税)のみとなり、株式会社との差額である十数万円を、事業の運転資金に回すことができます。

運営コスト(ランニングコスト)を低く抑えられる

設立後も、合同会社はコスト面で優れています。株式会社で義務付けられている「決算公告」が不要なため、毎年約7万円の費用が節約できます。また、「役員の任期」がないため、株式会社で2年ごと(最長10年)に必要な役員変更(重任)登記と、その費用1万円も発生しません。

節税効果(個人事業主からの法人成り)

これは、多くの個人事業主(フリーランス)が合同会社を選ぶ最大の動機です。

個人の所得税は、所得が増えるほど税率が上がる「累進課税」です。一方、法人税は税率が一定の部分が多いため、個人の所得が一定額(一般的に800万円から900万円)を超えると、法人化した方がトータルの税負担が少なくなる「逆転現象」が起きます。

合同会社を設立して「法人成り」すると、具体的に以下の方法で節税が可能になります。

役員報酬による節税

個人事業主の「所得」はすべて事業所得です。法人化すると、オーナーは自分自身に「役員報酬(給与)」を支払う形になります。

この役員報酬は会社の「経費」となるため、会社の利益(課税所得)を圧縮できます。受け取ったオーナー個人側も、給与所得者として「給与所得控除」という大きな控除が適用されるため、二重にメリットがあります。

所得の分散

家族を役員や従業員にして給与を支払うことで、世帯全体の所得を分散できます。所得税は累進課税のため、1人に所得が集中するより、複数人に分散させた方が低い税率が適用され、世帯全体の税負担を軽減できます。

消費税の免除

資本金1,000万円未満で新たに合同会社を設立した場合、原則として設立から最大2年間は消費税の納税が免除されます。これは、売上と共に預かった消費税を納税する必要がないということであり、キャッシュフローに絶大なインパクトを与えます。

経費の範囲拡大と繰越

法人の方が経費として認められる範囲が広くなる傾向があります(例:退職金の準備)。また、赤字(欠損金)を繰り越せる期間が、個人事業主(青色申告)の3年間に対し、法人は10年間と長くなります。

経営の意思決定が迅速

前述の通り、合同会社は「所有と経営の一致」が原則です。株式会社のように、株主の意向を確認するために株主総会を招集する時間や手間がかかりません。経営陣である社員(出資者)が合意すれば即座に実行に移せるため、市場の変化に合わせたスピーディな経営判断が可能です。

利益の配分を自由に決められる

これは合同会社に特有の、非常に強力なメリットです。

株式会社は、利益の配当を「出資比率(=株式の保有数)」に応じて行わなければなりません。

一方、合同会社は、出資比率に関係なく、定款で利益の配分方法を自由に定めることができます。

例えば、Aさんが900万円(90%)、Bさんが100万円(10%)を出資して会社を設立したとします。しかし、実際の業務はBさんが1人で行い、Aさんは資金提供のみだとします。

この場合、株式会社では利益の90%がAさんに配当されますが、合同会社なら「出資比率に関わらず、利益はAさんとBさんで50%ずつ分配する」といったルールを定款に定めておくことができます。これにより、資本力はないが技術や労働力を提供するパートナーと公平な関係を築くことが可能です。

出資者は「有限責任」のみを負う

これは株式会社と共通のメリットですが、個人事業主からの法人成りにおいて最も重要な点の一つです。

「有限責任」とは、会社が倒産して多額の負債を抱えたとしても、出資者は「自分が出資した金額」の範囲内でしか責任を負わないということです。

個人事業主は「無限責任」です。事業で失敗して1億円の負債を負った場合、個人事業主は自分の家や預金など、全財産を投げ打ってでも返済する義務があります。

一方、合同会社(または株式会社)の出資者は、たとえ会社が1億円の負債を抱えても、自分が出資した資本金(例えば100万円)を失うだけで済み、個人の財産まで差し押さえられることはありません(※代表者が個人で連帯保証した場合を除く)。この「リスクの遮断」こそが、法人化の大きな意義の一つです。

役員の任期がない(更新手続き不要)

株式会社の取締役には「任期」があり、最長10年まで延長できますが、任期が満了するたびに法務局での変更登記が必要です。この手続きを忘れると過料(罰金)の対象となります。

合同会社の「社員(役員)」には任期がありません。一度就任すれば、辞任や退社がない限りその地位は継続し、面倒な登記手続きやコストから解放されます。

決算公告の義務がない

株式会社は、毎年定時株主総会の後、会社の貸借対照表などを「決算公告」として官報やWebサイトで公表する義務があります。これには費用がかかる上、自社の財務状況を公開することになります。

合同会社には、この決算公告の義務がありません。これにより、運営コストを削減できると同時に、会社の財務情報を非公開に保つことができます。

資産管理会社としての活用

合同会社の「低コスト」「有限責任」「非公開性」という特徴は、資産管理会社(個人の不動産や株式などを管理するための会社)の設立に非常に適しています。

高額な資産を持つ個人が、資産を直接所有するのではなく、自分がオーナーの合同会社に所有させることで、所得税や相続税の対策につながる場合があります。特に相続においては、後述する対策(定款への記載)を講じることで、資産を円滑に承継するスキームとして活用されています。

「合同会社はやめとけ」と言われる6つのデメリットと対策

合同会社には多くのメリットがありますが、「やめとけ」というネガティブな意見があるのも事実です。これは、合同会社のデメリットやリスクを理解せずに設立し、後で「こんなはずではなかった」と後悔するケースがあるためです。

ここでは、6つの主要なデメリットと、それに対する具体的な「対策」を解説します。

株式会社に比べ社会的信用度が低い

これは最も頻繁に指摘されるデメリットです。

理由

  • 単純に株式会社よりも知名度が低い。
  • 決算公告の義務がなく、財務情報が非公開であるため、透明性が低いと見なされる。
  • 設立が簡単なため、「誰でも作れる」というイメージがあり、事業規模が小さいと推測されがち。

影響

  • BtoB(企業間取引)において、大企業や金融機関が取引相手の与信調査を行う際、株式会社に比べて不利になる可能性があります。
  • 人材採用活動において、求職者が「株式会社」という名称を好み、「合同会社」を敬遠する可能性がゼロではありません。

対策

信用は会社の形態だけで決まるものではありません。

  • プロフェッショナルなWebサイトの構築、事業内容の丁寧な説明、明確な財務諸表の作成で、信頼性を補完します。
  • 創業時は、会社の形態を問わず融資に積極的な日本政策金融公庫(JFC)を活用し、そこで「融資を受けて期日通りに返済した」という実績(トラックレコード)を作ることが、民間金融機関との将来的な取引に繋がります。
  • 事業計画書や資金繰り表を明確に作成し、事業の信頼性を高める努力が重要です。

資金調達の方法が限定される(株式発行・上場が不可)

これは合同会社の構造的な限界であり、最大のデメリットです。

理由

合同会社は「株式」という仕組みを持たないため、株式会社のように投資家やベンチャーキャピタルから出資(エクイティ・ファイナンス)を受けることができません。当然、株式市場への上場(IPO)も不可能です。

影響

事業の急成長のために大規模な外部資本が必要になった場合、合同会社のままでは対応できません。

対策

  • 事業モデルの選択
    そもそもVCやIPOを必要としないビジネスモデル(コンサルティング、BtoCサービス、資産管理など)を選ぶのであれば、これはデメリットになりません。
  • 代替策の活用
    日本政策金融公庫(JFC)の創業融資、私募債、クラウドファンディング など、株式以外の資金調達手段を活用します。
  • 「株式会社への組織変更」という選択肢
    これが最も現実的な「出口戦略」です。合同会社は、後から株式会社に形態を変更(組織変更)することが法律で認められています。最初は低コストの合同会社でスタートし、事業が軌道に乗り、大規模な資金調達やIPOが必要になったタイミングで株式会社にコンバートする、という戦略が可能です。

出資者(社員)間で対立すると経営が停止する

これは、メリットであった「意思決定の迅速さ」の裏返しです。

理由

合同会社の意思決定は、原則として「総社員の同意」が必要です。もし2人のパートナーが50%ずつの出資で設立し、意見が真っ二つに割れた場合、どちらも過半数を取れず、会社の意思決定が一切できなくなる「デッドロック」状態に陥ります。

影響

経営が完全にストップし、事業の存続が不可能になるリスクがあります。

対策

  • 一人合同会社にする
    これが最もシンプルで強力な対策です。個人事業主が法人成りする場合など、オーナーが1人(=社員が1人)であれば、意見の対立は発生しようがありません。このデメリットは完全に無効化されます。
  • 定款を専門家に依頼する
    複数名で設立する場合は、Web上のテンプレートを絶対に使ってはいけません。必ず司法書士などの専門家に依頼し、定款に「意見が対立した場合の解決方法(例:一方の社員が他方の持分を買い取るルール、議決権の調整など)」を詳細に定めておく必要があります。

事業承継や持分譲渡の手続きが複雑

会社の「持分(=株式に相当するもの)」を他人に譲ったり、相続させたりする手続きが、株式会社に比べて非常に面倒です。

理由

  • 持分譲渡の制限
    合同会社の社員が、自分の持分を第三者に譲渡するには、原則として「他の全社員の同意」が必要です。
  • 相続の落とし穴
    これが最大の罠です。株式会社の場合、オーナー(株主)が亡くなると、その株式は自動的に相続人が相続します。しかし、合同会社の場合、定款に特別な定めがない限り、オーナー(社員)が亡くなると、その社員は自動的に「退社」扱いとなり、会社は解散に向かう可能性があります。相続人は持分そのものではなく、その時点での「払戻請求権(現金化された持分)」しか受け取れない場合があります。

対策

  • 定款への記載(必須)
    設立時の定款に、「社員が死亡した場合、その相続人が持分を承継し、社員となる」という旨の規定を必ず入れておく必要があります。
  • 遺言書の作成
    誰に持分を承継させるかを遺言で明確にしておくことで、相続人間のトラブルを回避します。
  • 株式会社への組織変更
    事業承継が現実的な課題になってきたら、手続きがシンプルな株式会社へ組織変更することも有効な対策です。

代表者の交代が株式会社より難しい

株式会社では、オーナー(株主)と経営者(取締役)が分離しているため、株主が「経営がうまくいかないから取締役を交代させよう」と決議すれば、経営者を変更できます。

合同会社は「所有と経営の一致」が原則です。代表者である「代表社員」は、通常、出資者(社員)の中から選ばれます。代表社員を交代させるということは、多くの場合、出資者(オーナー)の構成そのものを変更することになり、他の社員全員の同意が必要になるなど、手続きが複雑になりがちです。

採用活動で不利になる場合がある

これは「信用度」から派生する、人事面でのデメリットです。

理由

前述の通り、合同会社の知名度の低さや「小さい」というイメージが、求職者(特に新卒や安定志向の中途人材)に不安を与える可能性があります。

影響

「株式会社」という名称の安定感を求める人材の獲得競争において、不利になる場合があります。

対策

会社の形態(器)ではなく、事業内容の魅力、働きやすさ、ミッションへの共感、直接的な利益配分の可能性(メリット5)など、合同会社ならではの柔軟な経営スタイルをアピールすることが重要です。

合同会社はどんな人に向いている?【ケース別診断】

メリットとデメリットを理解した上で、具体的にどのようなビジネスや状況に合同会社が適しているのかを4つのケースに分けて診断します。

個人事業主・フリーランスからの法人成り(節税目的)

【最適です】

これは、合同会社が最も輝く典型的なケースです。

  • 理由: 目的が「節税」であるため、設立・運営コストの低さが利益を最大化します。オーナー1人(一人合同会社)で設立すれば、意思決定の対立リスク(デメリット3)はゼロになります。既に個人事業主として取引先との信頼関係が構築されていれば、「信用度の低さ」(デメリット1)は大きな問題になりません。

スモールBtoCビジネス(飲食店、サロン、Webサービス)

【適しています】

BtoC(Business-to-Consumer)とは、一般消費者を顧客とするビジネスです。

  • 理由: 一般の顧客は、サービス提供元の会社形態が合同会社か株式会社かを気にしません。重要なのはサービスそのものの質です。外部から大規模な資金調達(デメリット2)を必要としない事業規模であることが多く、JFCなどの融資で十分な場合が多いです。低コストでの運営(メリット2)は、利益率の確保に直結します。

資産管理会社(相続・節税目的)

【適しています】

不動産や有価証券などを管理する「プライベートカンパニー」としての活用です。

  • 理由: 事業活動がメインではないため、運営コストの低さ(メリット2)が非常に重要です。決算公告が不要(メリット8)で、資産状況を外部に公開しなくて良い点も好まれます。デメリット4で解説した「相続対策」を定款にしっかり盛り込むことが前提となります。

知人・友人と数名で起業する

【条件付きで可(要注意)】

気の合う仲間と、それぞれの技術やアイデアを持ち寄って起業するケースです。

  • 理由(メリット)
    「利益の配分を自由に決められる」(メリット5)ため、出資額に関わらず「貢献度」で利益を分ける、といった柔軟な設計が可能です。
  • 理由(デメリット)
    最も「デッドロック」(デメリット3)に陥りやすい危険なケースです。信頼関係だけで進めると、後で必ず意見の対立が起きます。
  • 必須条件: 設立時に必ず専門家を入れ、定款に「意見対立時のルール」「脱退時の持分買取ルール」などを徹底的に明記することが成功の絶対条件です。

合同会社設立の全6ステップ【完全マニュアル】

合同会社の設立手続きは、株式会社に比べて非常にシンプルです。専門家に依頼することも可能ですが、自分で行うことも十分可能です。

会社の基本事項を決定する

まず、会社の「憲法」となる基本ルールを決めます。

  • 会社名(商号): 「合同会社」という文字を必ず入れます(例:合同会社〇〇)。
  • 事業内容(目的): 会社がどのような事業を行うかを具体的に決めます。将来行う可能性のある事業も入れておくと良いでしょう。
  • 本店所在地: 会社の「住所」です。
  • 資本金: いくら出資するかを決めます。
  • 社員構成(出資者): 誰が、いくら出資するのかを決めます。
  • 代表社員の決定: 社員(出資者)の中から、会社の代表者となる「代表社員」を定めます。

法人実印を作成する

会社名が決まったら、法務局に登録する「法人実印(代表者印)」を作成します。あわせて、銀行印や角印も作っておくと効率的です。

定款(ていかん)を作成する

ステップ1で決めた基本事項をもとに、「定款」という会社のルールブックを作成します。

重要: 株式会社と違い、作成した定款を公証役場で認証してもらう必要はありません。

節約ポイント: 紙の定款を作成すると4万円の収入印紙が必要ですが、PDFなどで「電子定款」を作成すれば印紙代は0円になります。

資本金を払い込む

社員(出資者)は、定款で定めた資本金を払い込みます。

注意点: この時点ではまだ会社の銀行口座は作れません。したがって、代表社員の「個人」の銀行口座に、各社員が資本金を振り込みます。

その口座の通帳のコピー(表紙、1ページ目、振込が記帳されたページ)が、資本金を払い込んだ証明書(払込証明書)となります。

登記申請書類を作成する

法務局に提出する書類一式を準備します。

  • 合同会社設立登記申請書
  • 定款(ステップ3で作成したもの)
  • 代表社員の印鑑登録証明書(個人のもの)
  • 資本金の払込証明書(ステップ4で準備したもの)
  • (場合によって)代表社員就任承諾書 など

法務局へ設立登記を申請する

本店所在地を管轄する法務局へ、ステップ5で作成した書類一式を提出します。この申請日が、会社の「設立日(誕生日)」となります。同時に、登録免許税6万円(またはそれ以上)を収入印紙で納付します。

設立後に必須となる「3つの重要手続き」

登記が完了しても、まだ終わりではありません。設立後に必須となる、非常に重要な手続きが3つあります。これを怠ると、将来的に大きなペナルティを受けることになります。

社会保険(健康保険・厚生年金)への加入義務

これは、法人成りする上で最も重要かつ、見落とされがちな義務です。

絶対的な義務

合同会社は「法人」です。法人は、たとえ社長1人だけの会社であっても、社会保険(健康保険・厚生年金)への加入が法律で義務付けられています。

対象者

役員報酬を受け取る人は、代表社員(社長)本人も含めて全員が加入対象です。

提出期限

会社設立から5日以内に、年金事務所へ「新規適用届」などを提出する必要があります。

ペナルティ(未加入の場合)

「個人事業主時代に国民健康保険だったから、そのままでいい」は通用しません。未加入のまま放置すると、年金事務所から加入要請や警告文書が届き、最終的には立ち入り検査が入ります。

悪質な場合、過去2年間にさかのぼって保険料を強制的に徴収されるだけでなく、6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられる可能性もあります。

例外

役員報酬がゼロの場合や、報酬が社会保険料を下回るほど低い場合は、加入が認められないケースもあります。

法人化の「真のコスト」は、設立費用の6万円ではありません。むしろ、この社会保険料の継続的な負担(会社と個人で折半)こそが、法人運営の最大の固定費となります。節税メリット(メリット3)と、この社会保険料の負担増を天秤にかけて、法人化のタイミングを判断する必要があります。

手続き2:税務署・都道府県・市町村への法人設立届出

会社を設立したことを、国の税務署、都道府県、市町村の各税務担当窓口に届け出る必要があります。

「法人設立届出書」などの書類を、決められた期限内(例:都道府県税事務所へは設立後15日以内など)に提出します。

手続き3:労働保険(従業員を雇用する場合)

これは、社会保険とは別の「労働保険(雇用保険・労災保険)」の手続きです。

対象

この手続きは、従業員(アルバイト・パート含む)を1人でも雇用する場合にのみ必要となります。

注意

代表社員や業務執行社員といった「役員」は、原則として労働者ではないため、労災保険の対象外です。社長1人の会社であれば、この手続きは不要です。

合同会社に関するよくある質問(FAQ)

資本金は1円でも良いですか?

はい、法律上は資本金1円から合同会社を設立することは可能です。

ただし、これは推奨されません。資本金の額は登記簿謄本に記載され、誰でも閲覧できます。資本金があまりに少額だと、取引先や金融機関からの信用度が著しく低くなる可能性があります。また、資本金は設立当初の運転資金にもなります。事業内容にもよりますが、最低でも数十万円、できれば100万円程度は用意することが望ましいでしょう。

社員が1人でも社会保険は必須ですか?

はい、必須です。

これは法律上の義務です。社長1人だけの合同会社であっても、その社長が役員報酬を受け取っている限り、社会保険(健康保険・厚生年金)に加入しなければなりません。

未加入が発覚した場合、最大2年分の保険料の遡及徴収や、罰則(50万円以下の罰金など)のリスクがあります。必ず手続きを行ってください。

将来、株式会社に変更(組織変更)できますか?

はい、可能です。

「組織変更」という法的な手続きを踏むことで、合同会社から株式会社へ、またはその逆も可能です。

これは非常に有効な戦略です。「まずは低コストの合同会社でスタートし、事業が軌道に乗って、信用力や大規模な資金調達(株式発行)が必要になったタイミングで、株式会社に組織変更する」この方法なら、設立時のリスクを最小限に抑えつつ、将来の事業拡大の可能性も残すことができます。

ただし、組織変更には債権者保護の手続きや官報公告、登記費用(登録免許税など実費だけで10万円以上)など、一定の時間とコストがかかります。

まとめ:合同会社は「低コストで自由な経営」を目指す最適な選択肢

合同会社(GK)について、株式会社(KK)との比較、メリット・デメリット、設立方法、設立後の義務まで、網羅的に解説しました。最後に、重要なポイントを再確認します。

合同会社が最適な選択肢となるのは、以下のようなケースです。

  • 設立・運営コストを徹底的に抑えたい
  • 個人事業主から法人成りし、節税メリットを最大限に享受したい
  • 一般消費者(BtoC)向けのビジネスや、スモールビジネスを始める
  • 資産管理会社として、低コストで法人を維持したい
  • 株主総会などに縛られず、迅速で自由な経営判断を行いたい

一方で、合同会社が向いていないのは、以下のようなケースです。

  • ベンチャーキャピタルからの出資や、株式上場(IPO)を目指す
  • 信頼関係が絶対ではないパートナーと複数名で起業する
  • 「株式会社」という名称の社会的信用力が、事業上どうしても必要である

合同会社は、その柔軟性と低コストゆえに、現代の多様なビジネススタイルに最も適した法人形態の一つです。特に、個人事業主やフリーランスが「一人社長」として法人成りする場合、合同会社はデメリットの多くを無効化し、メリットだけを享受できる、非常に合理的で強力な選択肢と言えるでしょう。

この記事の投稿者:

垣内

個人事業主の関連記事

個人事業主の一覧を見る

\1分でかんたんに請求書を作成する/
いますぐ無料登録