
あなたの会社の本当の利益、正確に把握できていますか?売上原価の仕訳をマスターすれば、どんぶり勘定から卒業し、自信を持って経営判断を下せる未来が手に入ります。
売上原価は、会社の利益を計算する上で最も基本的な要素であり、これを正しく理解することが健全な経営への第一歩です。
この記事を読み終える頃には、あなたは売上原価の計算から、実務で最も使われる「三分法」による仕訳、そして決算時の処理まで、一連の流れを迷わず実践できるようになります。具体的な仕訳例を豊富に用いて、一つひとつのステップを丁寧に解説します。
「勘定科目」や「決算整理」といった言葉に苦手意識があってもご安心ください。専門用語はその都度わかりやすく解説し、具体的な数字例を交えながら、誰にでもできる再現性の高い方法をお伝えします。この記事を通じて、会計の知識を自社の成長に直結させる力を身につけましょう。
目次
そもそも売上原価とは?利益計算の基礎を固める
売上原価の仕訳を学ぶ前に、まず「売上原価」そのものが何なのか、そしてなぜそれが重要なのかを正確に理解する必要があります。この基礎知識が、後の仕訳処理の理解を格段に深めます。
売上原価は「売れた商品の直接的な費用」
売上原価とは、その会計期間中に販売された商品やサービスに直接かかった費用のことです。ここで最も重要なポイントは、「販売された分」だけを計上するという点です。
たとえば、ペンを1本100円で100本仕入れたとします。このとき支払った金額は1万円です。しかし、その期に売れたのが70本だった場合、売上原価として計上するのは70本分の7,000円だけです。残りの30本は「在庫(棚卸資産)」という資産として、次の期に繰り越されます。
もし仕入れた100本分すべての費用を計上してしまうと、まだ売れていない在庫のコストまでがその期の費用となり、利益が不当に低く計算されてしまいます。会計には、収益とそれに対応する費用を同じ期間に計上するという基本的な考え方があります。売上原価を正しく計算することは、この原則を守り、期間ごとの正確な損益を把握するために不可欠なのです。
なぜ重要?売上総利益(粗利)を正しく把握する
売上原価がなぜ重要かというと、それが会社の最も基本的な利益である売上総利益(粗利)を算出するために使われるからです。計算式は非常にシンプルです。
売上総利益(粗利) = 売上高 – 売上原価
売上総利益は、会社が提供する商品やサービスそのものが持つ収益力を示す指標です。この数値を見ることで、人件費や広告費などの間接的な経費(販管費)を支払う前に、本業でどれだけの利益を生み出せているかがわかります。
たとえば、2つの会社が同じ純利益を上げていたとしても、その構造は大きく異なる場合があります。A社は売上総利益率が高く(売上原価が低い)、その分、広告費などの販管費を多く使っています。一方、B社は売上総利益率が低く(売上原価が高い)、販管費を切り詰めて利益を確保しています。この場合、A社の方が事業の基盤が強いと判断できます。
なぜなら、A社は必要に応じて販管費を削減する余地がありますが、B社は仕入価格が少しでも上昇すれば、すぐに赤字に陥る危険性があるからです。このように、売上原価を正確に計算し、売上総利益を把握することは、単なる税務申告のためだけでなく、自社の経営体質を分析するための重要な手段となります。
売上原価の基本計算式を理解する
売上原価は、以下の基本的な計算式で算出されます。
売上原価 = 期首商品棚卸高 + 当期商品仕入高 – 期末商品棚卸高
それぞれの項目は以下の内容を指します。
期首商品棚卸高は、会計期間の開始時点(期首)で在庫として残っていた商品の総額です。前期末の在庫額がそのまま引き継がれます。
当期商品仕入高は、その会計期間中(当期)に新たに仕入れた商品の合計額です。
期末商品棚卸高は、会計期間の終了時点(期末)で売れ残っている在庫商品の総額です。棚卸という作業で実際に数えて確定させます。
この式は、「期のはじめにあった在庫」と「期中に仕入れた在庫」の合計から、「期末に残った在庫」を差し引くことで、「期中に売れてなくなった分の在庫(=売上原価)」を計算していることを意味します。
具体的な例で見てみましょう。1本100円で仕入れるペンを販売しているお店の場合を考えます。
期首の在庫は20本 (20本 × 100円 = 2,000円)、当期の仕入は300本 (300本 × 100円 = 30,000円)、期末の在庫は10本 (10本 × 100円 = 1,000円) だったとします。
この場合の売上原価は、
2,000円(期首) + 30,000円(当期仕入) – 1,000円(期末) = 31,000円
となります。
売上原価と販管費の明確な違い
会社の費用は、大きく「売上原価」と「販管費(販売費及び一般管理費)」に分けられます。この2つを区別することは、損益計算書を正しく理解する上で非常に重要です。
売上原価は、売上に直接対応する費用です。商品の仕入代金や、製品の製造にかかった材料費、工場作業員の賃金などが該当します。
販管費は、売上に間接的に貢献する費用です。営業担当者の給与、事務所の家賃、広告宣伝費、通信費などが含まれます。
この区別は、費用の性質に基づいています。売上原価は売上の増減に比例して変動する「変動費」の性質が強いのに対し、販管費は売上の増減にかかわらず発生しやすい「固定費」の性質を持つものが多くあります。
ただし、この区別の線引きは業種やビジネスモデルによって変わるため、注意が必要です。たとえば、一般的な小売業では販売員の給与は販管費ですが、コンサルティング会社では、コンサルタントの給与が売上を生み出すための直接的な費用とみなされ、売上原価として計上されることがあります。
これは、コンサルタントの労働そのものが「商品」だからです。このように、単に勘定科目を暗記するのではなく、「その費用が売上と直接結びついているか」という原則で判断することが、実務では求められます。
売上原価の仕訳方法「三分法」をマスターする

売上原価の概念を理解したところで、次はいよいよ具体的な仕訳方法です。商品の売買を記録する方法はいくつかありますが、実務では「三分法(さんぶんぽう)」という方法が最も広く使われています。ここでは、三分法の流れをステップごとに解説します。
なぜ「三分法」が実務で最も使われるのか
三分法は、商品売買の取引を「仕入(費用)」「売上(収益)」「繰越商品(資産)」という3つの勘定科目を使って記録する方法です。この方法が広く採用されている理由は、日々の記帳が非常にシンプルだからです。
他の記帳方法と比較してみましょう。
| 特徴 | 三分法 | 分記法 | 売上原価対立法 |
| 使用勘定科目 | 仕入, 売上, 繰越商品 | 商品, 商品売買益 | 商品, 売上, 売上原価 |
| 期中処理 | 簡単(仕入時と売上時に記帳) | 煩雑(売上ごとに利益計算が必要) | 煩雑(売上ごとに原価を計上) |
| 決算整理 | 必須 | 不要 | 不要 |
| 利益把握 | 期末まで不可 | 取引ごと | 取引ごと |
この表からわかるように、分記法や売上原価対立法は商品を販売するたびに利益や原価を計算するため、取引ごとの利益を把握できるメリットがあります。しかし、取引量が多い小売業などでは、その都度計算するのは非常に手間がかかります。
一方、三分法は、仕入れたときは仕入額を、販売したときは売上額をそのまま記録するだけなので、日々の作業が圧倒的に楽になります。その代わり、期中では正確な利益がわからず、期末に「決算整理」という作業が必要になるという特徴があります。この「日々の手軽さ」が、多くの企業で三分法が選ばれる最大の理由です。
ステップ1 期中の仕訳(仕入・売上)
三分法における期中の仕訳は非常に直感的です。
仕入時
商品を仕入れたときは、費用の発生として借方に「仕入」を、代金の支払い方法に応じて貸方に「現金」や「買掛金」などを記入します。
1万円の商品を現金で仕入れた場合
| 借方 | 貸方 |
| 仕入 10,000円 | 現金 10,000円 |
売上時
商品を販売したときは、収益の発生として貸方に「売上」を、代金の受け取り方法に応じて借方に「現金」や「売掛金」などを記入します。
仕入れた商品を3万円で現金で販売した場合
| 借方 | 貸方 |
| 現金 30,000円 | 売上 30,000円 |
ここでのポイントは、商品を販売した時点では、その商品の原価については一切考えないことです。ただ売れた金額を記録するだけ。このシンプルさが三分法の特徴です。しかし、このままでは仕入勘定に当期仕入れたすべての金額が計上されたままになってしまうため、次のステップが必要になります。
ステップ2 決算整理仕訳(しいくり、くりしい)
期末(決算日)には、期中のままの帳簿と実際の状況とのズレを修正するために「決算整理仕訳」を行います。三分法における売上原価の計算は、この決算整理仕訳の中心的な作業です。
なぜ決算整理が必要なのか?
期末の時点で、「仕入」勘定には当期に仕入れた商品の総額が計上されています。しかし、これは「売上原価」ではありません。なぜなら、この中にはまだ売れ残っている在庫の金額も含まれているからです。
そこで、決算整理仕訳を通じて、「仕入」勘定の金額を、先ほど学んだ売上原価の計算式の結果と一致させる作業を行います。この仕訳によって、単なる「仕入高の合計」だった仕入勘定が、その期の正しい費用である「売上原価」へと姿を変えるのです。これは、会計の「費用収益対応の原則」を帳簿上で実現するための具体的な手続きと言えます。
具体例で見る決算整理の流れ
売上原価を算定するための決算整理仕訳は、簿記の世界で「しいくり、くりしい」という語呂合わせで覚えられています。これは2つの仕訳を指しています。
ここでは、期首商品棚卸高が5,000円、期末商品棚卸高が3,000円だったとします。
「し・い・くり」(仕入 / 繰越商品)
まず、期首にあった在庫を当期の仕入に合算します。前期から繰り越されてきた在庫も、当期に販売可能な商品の一部だからです。この仕訳で、期首の在庫(繰越商品勘定にある)を費用(仕入勘定)に振り替えます。
| 借方 | 貸方 |
| 仕入 5,000円 | 繰越商品 5,000円 |
「くり・しい」(繰越商品 / 仕入)
次に、期末に残った在庫を当期の仕入から除外します。売れ残った分は当期の費用ではないため、資産(繰越商品勘定)として次期に繰り越す必要があります。この仕訳で、費用(仕入勘定)から在庫分を減らし、資産(繰越商品勘定)に計上し直します。
| 借方 | 貸方 |
| 繰越商品 3,000円 | 仕入 3,000円 |
この2つの仕訳の結果、「仕入」勘定の残高は「当期商品仕入高 + 5,000円(期首在庫) - 3,000円(期末在庫)」となり、自動的に売上原価の金額と一致します。これが三分法における売上原価算定の仕組みです。
業種によってこんなに違う!売上原価の内訳と注意点

これまで主に小売業を例に解説してきましたが、売上原価に何を含めるかは業種によって大きく異なります。自社の業種に合わせた正しい知識を持つことが、正確な利益管理につながります。
| 業種 | 売上原価の主な構成要素 | 特徴・注意点 |
| 小売業 | 商品仕入高 | 最もシンプル。販売員の人件費や店舗家賃は販管費に計上される。 |
| 製造業 | 製造原価(材料費, 労務費, 経費) | 売れた製品の製造原価が売上原価になる。売上原価と製造原価は一致しない点に注意。 |
| 飲食業 | 材料費(食材費) | 食材ロス分も原価に含むことが多い。経営管理上は人件費と合わせたFLコストが重要視される。 |
| サービス業 | 外注費 | 自社の人件費は原則として販管費。売上原価がゼロに近い場合もある。 |
小売業 商品の仕入高が中心
小売業の売上原価は、最もシンプルで理解しやすいモデルです。その内容は、販売した商品の仕入代金がほぼすべてです。これまで解説してきた基本的な計算式と三分法による仕訳が、そのまま当てはまります。店舗で働く販売員の給与や、店舗の家賃、広告宣伝費などは、商品を販売するための間接的な費用とみなされ、販管費として処理されます。
製造業 「製造原価」との関係を理解する
製造業の売上原価は少し複雑です。なぜなら、「製造原価」というもう一つの重要な原価概念が登場するからです。
製造原価は、製品を作るためにかかった費用の合計です。材料費、工場で働く作業員の労務費、工場の光熱費や減価償却費などの経費から構成されます。
売上原価は、作った製品のうち、当期に売れた分の製造原価を指します。
つまり、製造業では、まず製品1つあたりの製造原価を計算し、その上で販売された個数分の製造原価を合計したものが売上原価となります。したがって、売上原価の計算式も以下のようになります。
売上原価 = 期首製品棚卸高 + 当期製品製造原価 – 期末製品棚卸高
この区別は経営上、非常に重要です。作りすぎによって在庫が増えると、現金が製品という資産に形を変えて滞留してしまい、キャッシュフローを圧迫する原因になります。製造原価と売上原価を分けて管理することで、生産効率と販売状況の両方を適切に把握できます。
飲食業 材料費とFLコストの考え方
飲食業における売上原価は、主に提供した料理や飲み物の材料費(食材費)です。小売業と異なる特徴として、調理ミスや賞味期限切れによる食材の廃棄(ロス)も売上原価に含めて計算されるのが一般的です。
会計上のルールでは、調理スタッフやホールスタッフの人件費は販管費として計上されることが多いです。しかし、飲食店の経営管理においては、食材費(Food)と人件費(Labor)を合計した「FLコスト」という指標が極めて重要視されます。FLコストが売上に対してどのくらいの割合か(FL比率)を管理することが、利益確保の鍵とされています。
たとえば、食材費が安くても調理に非常に時間がかかるメニューは、人件費を含めると利益率が低くなる可能性があります。会計上の売上原価だけでなく、FLコストという経営指標を併用することで、より現実に即した収益管理が可能になります。
サービス業 外注費が主な原価になる理由
コンサルティング、IT開発、デザイン業などのサービス業では、物理的な商品を仕入れたり製造したりしません。そのため、売上原価の考え方が他の業種と大きく異なります。
サービス業における売上原価の主な項目は、業務の一部を外部の専門家やフリーランスに委託した際の外注費です。これは、その外注費がサービスの提供と直接結びついているためです。
一方、自社の従業員の給与は、特定のサービス提供に直接紐づけることが難しい場合が多いため、原則として販管費として処理されます。
たとえば、ある従業員が顧客対応をしている時間もあれば、社内会議や研修に参加している時間もあるため、その給与の全額を特定の売上の原価とすることは適切ではない、という考え方です。
このため、すべて自社内でサービスを提供している企業の場合、会計上の売上原価がゼロに近くなることもあります。サービス業の原価構造は、その企業のビジネスモデル(内製化か外部委託か)を色濃く反映していると言えるでしょう。
応用編 返品・値引きが発生したときの仕訳
ビジネスでは、仕入れた商品に不備があって返品したり、販売した商品に傷があって値引きしたりといったケースが日常的に発生します。こうしたイレギュラーな取引の仕訳方法も押さえておきましょう。
仕入れた商品を返品・値引きした場合
仕入れた商品に問題があり、返品(仕入戻し)や値引き(仕入値引)が発生した場合、仕訳方法は主に2つあります。
方法1 仕入勘定から直接差し引く
最も簡単な方法は、仕入れたときと逆の仕訳を行い、「仕入」勘定の貸方に金額を計上して直接減額する方法です。
掛けで仕入れた商品のうち1,000円分の返品をした場合
| 借方 | 貸方 |
| 買掛金 1,000円 | 仕入 1,000円 |
方法2 専用の勘定科目を使う
「仕入値引・返品」のような専用の勘定科目を使って処理する方法です。この方法のメリットは、期間中にどれだけの返品や値引きがあったかを一目で把握できる点です。
掛けで仕入れた商品のうち1,000円分の返品をした場合
| 借方 | 貸方 |
| 買掛金 1,000円 | 仕入値引・返品 1,000円 |
どちらの方法も認められていますが、方法2の方が、仕入先の品質管理状況などを分析する上で有用な情報を提供してくれます。
販売した商品が返品・値引きされた場合
販売した商品が顧客から返品(売上戻り)されたり、値引き(売上値引)を求められたりした場合も同様に2つの処理方法があります。
方法1 売上勘定から直接差し引く
販売したときと逆の仕訳を行い、「売上」勘定の借方に金額を計上して直接減額します。
掛けで販売した商品のうち2,000円分の返品があった場合
| 借方 | 貸方 |
| 売上 2,000円 | 売掛金 2,000円 |
方法2 専用の勘定科目を使う
「売上値引・返品」のような勘定科目を使って処理します。
掛けで販売した商品のうち2,000円分の返品があった場合
| 借方 | 貸方 |
| 売上値引・返品 2,000円 | 売掛金 2,000円 |
なお、三分法を使っている場合、商品が返品されて在庫に戻ってきた時点では、在庫に関する仕訳は不要です。返品された商品は単に在庫置き場に戻り、期末に行う棚卸の際に在庫数としてカウントされます。
その結果、期末商品棚卸高が増えるため、決算整理仕訳を通じて売上原価が自動的に正しく調整される仕組みになっています。これも三分法が実務で好まれる理由の一つです。
まとめ 売上原価の仕訳を正確に行い、経営に活かす
この記事では、売上原価の基本的な考え方から、実務で広く使われる三分法による具体的な仕訳、そして業種ごとの違いや返品時の処理までを網羅的に解説しました。最後に、重要なポイントを再確認しましょう。
売上原価は、売れた商品に直接かかった費用であり、正確な売上総利益(粗利)を計算するために不可欠です。
基本の計算式は「期首在庫 + 当期仕入 - 期末在庫」です。この式の意味を理解することが全ての基本となります。
実務では日々の記帳が簡単な「三分法」が主流です。ただし、期末には「しいくり、くりしい」の決算整理仕訳が必須となります。
売上原価の内訳は業種(小売、製造、飲食、サービス)によって大きく異なります。自社のビジネスモデルに合った原価の範囲を正しく認識することが重要です。
売上原価を正確に仕訳し、計算することは、単に税金の申告を正しく行うためだけではありません。それは、自社の事業の収益性を分析し、価格設定を見直し、コスト削減のポイントを探るための強力なツールとなります。ぜひ、ここで得た知識を日々の経理業務と経営判断に活かしてください。



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