
実行予算を正しく理解し、現場で運用できるようになれば、あなたの担当する現場から不透明なコストが消え去り、確実に利益が積み上がります。 どんぶり勘定による不安な日々から解放され、数字という確かな根拠を持って現場を指揮できるようになれば、社内での信頼も飛躍的に高まり、昇進や昇給への道も明確に見えてくるはずです。
この記事を読み終えるころには、複雑で難しく感じていた予算管理のすべてが頭の中で整理され、「これなら明日から自分にもできる」という確信に変わっているはずです。 実行予算は、現場を預かるあなたと、あなたの会社を守るための最強の武器となります。実務で役立つ具体的なノウハウを、余すところなくお伝えします。
「数字が苦手で、どこから手をつければいいかわからない」という不安を感じている方も多いでしょう。しかし、安心してください。この記事では専門用語を丁寧に噛み砕き、誰でも再現できるステップ形式で解説を進めていきます。 現場のリアルな悩みを知り尽くした視点から、一歩ずつ着実に進めていきましょう。
目次
実行予算の基礎知識:建設業の利益を支える土台
実行予算とは、建設工事などのプロジェクトにおいて、実際にその工事を完成させるために必要となる費用を具体的に算出した計画書を指します。建設業界では、受注が決まったあとにこの予算を作ることが一般的です。なぜこの予算がこれほどまでに大切なのでしょうか。それは、建設現場にはふたつとして同じ条件の場所が存在しないからです。
毎日の天候、現場の地面の下の状態、周りの住宅環境、さらには職人さんの手配のしやすさ。こうした多くの不確定な要素がある中で、「この工事にはいくらまでのお金を使えるのか」という明確な基準を持っていないと、現場はすぐに混乱してしまいます。実行予算は、現場を無事に終わらせるための「地図」であり「コンパス」なのです。
実行予算が定義する「生きた数字」とは
実行予算に書き込まれる数字は、単なる計算上の値ではありません。それは、現場監督が「この金額でこの工事をやり抜く」と決めた約束の数字です。机の上だけで計算した理論上の数字ではなく、実際に協力業者と話をつけ、資材の搬入ルートを確かめた上で弾き出した実感を伴う数字です。これを私たちは「生きた数字」と呼びます。
この生きた数字があるからこそ、現場での判断に迷いがなくなります。例えば、急な追加工事が必要になったとき、予算にどれくらいの余裕があるかを知っていれば、すぐに対応の可否を判断できます。数字を握ることは、現場の主導権を握ることにほかなりません。
なぜ実行予算なしでは現場が回らないのか
もし実行予算を作らずに現場を進めたらどうなるでしょうか。それは、財布の中身を確認せずに買い物に出かけるようなものです。工事が終わってから「実は赤字だった」と気づいても、もう取り返しがつきません。
建設業の利益率は決して高くはありません。数パーセントの読みの甘さが、会社にとって大きな損失につながることもあります。実行予算によって「目指すべき利益」をあらかじめ確定させておくことで、初めて会社としての経営が成り立つのです。現場の苦労を無駄にせず、正当な対価を会社に残すために、実行予算は欠かせない存在です。
工事原価の4大要素を理解する
実行予算を構成する「原価」は、大きく分けて4つの要素に分類されます。これらを正しく分類し、それぞれに対して対策を立てることが重要です。
- 材料費: 生コン、鉄筋、木材など、工事に使用する資材の費用です。
- 労務費: 自社の作業員を動かすためにかかる人件費です。
- 外注費: 特定の工種を別の専門業者に丸ごと依頼する際の費用です。
- 経費: 重機のレンタル代、電気代、現場監督の宿泊費など、上記以外にかかる費用です。
これら4つのバランスを常に意識することが、実行予算作成の基本となります。例えば、労務費を下げるために、より施工が簡単な高価な材料を使うことで、トータルの原価を下げるという戦略も考えられます。
見積予算と実行予算の決定的な違いを読み解く
「見積書があるのだから、それがそのまま予算になるのではないか」と考える方もいるかもしれません。しかし、見積予算と実行予算には決定的な違いがあります。この違いを正しく理解することが、原価管理の第一歩です。
見積予算は「営業の顔」であり実行予算は「現場の覚悟」
見積予算は、お客さまに提示して契約を結ぶためのものです。そこには「この金額なら受注できるだろう」という営業的な戦略が含まれています。競合他社と比較されるため、時には戦略的に利益を削った数字になることもあります。また、詳細な現場の調査が終わる前に作成されるため、過去の事例に基づいた「標準的な単価」が使われることが多いのです。
対して、実行予算は「実際に黒字で完工させるための内部計画」です。受注したあとに、現場の細かな条件をすべて洗い出し、実際に発注する金額を積み上げて作ります。見積予算が外に向けた「期待」の数字だとすれば、実行予算は内に向けた「現実」の数字といえます。この現実にいかに向き合えるかが、現場の成否を分けます。
利益の源泉となる「粗利益」の正しい捉え方
受注金額から実行予算を引いたものが、その現場での「予定粗利益」になります。
- 受注金額 - 実行予算 = 予定利益
この計算式を常に頭に入れておく必要があります。実行予算を精査して、当初の見積もりよりも安くあげる工夫ができれば、その分だけ利益が増えます。逆に、実行予算が受注金額を上回ってしまった場合は、工事を始める前から「赤字」が確定していることになります。その場合は、工法を見直したり、別の業者を探したりといった対策を、工事が始まる前に打たなければなりません。「赤字の芽」を事前に見つけることも、実行予算の重要な役割です。
予算の「乖離」が発生するメカニズム
なぜ、見積時と実行時で数字がズレるのでしょうか。主な原因は3つあります。 一つ目めは、数量の拾い出しミス。図面の見落としにより、必要な資材が足りなくなるケースです。 二つ目めは、単価の変動。見積もりから契約までの間に、資材価格が急騰してしまう場合です。 三つ目めは、現場条件の認識不足。搬入路が狭くて小運搬費がかさむ、といった実態との乖離です。 これらの乖離を、実行予算を作成する段階でどこまでゼロに近づけられるかが、現場監督の腕の見せ所です。
実行予算を作成することで得られる3つの絶対的メリット
実行予算を作る手間を惜しむ人もいますが、その苦労を補って余りある大きなメリットが3つあります。
原価の見える化がもたらす安心感
一つ目は、「今、いくら使っているか」が明確になることによる安心感です。 全体で1,000万円の予算があるとして、現在の進捗が30%のときに300万円使っていれば、計画通りだとわかります。これがもし500万円使っていたら、すぐに「何かがおかしい」と気づけます。
早めに異常を察知できれば、後半の工程で取り戻す策を立てることができます。お金の流れを透明にすることで、現場監督の精神的なストレスは劇的に軽減されます。「よくわからないけれど、たぶん大丈夫だろう」という不安な状態から、「数字で管理できている」という確信へと変わるのです。
現場監督の経営者意識を育む教育的効果
二つ目は、担当者の「経営者感覚」が養われることです。 ただ図面通りにものを作るだけでなく、予算という限られた資源をどう配分して最大の成果を出すかを考えることは、小さな会社の経営と同じです。
自分で考え、自分で数字を組み立て、その結果として利益が出る。この経験は、若手の現場監督にとって何よりの成長の機会になります。会社から与えられた仕事をこなすだけの立場から、自ら利益を生み出す「プロフェッショナル」へと意識が変わります。自分の判断ひとつで利益が数万円、数十万円と変わるおもしろさを知ることは、大きなやりがいにつながります。
協力業者との健全なパートナーシップ構築
三つ目は、協力会社との交渉がスムーズになることです。 「とにかく安くしてくれ」という根拠のない値引き交渉は、相手の信頼を失います。しかし、実行予算という裏付けがあれば、「この工程にはこれだけの予算しかないので、この金額で協力してほしい」という具体的な相談ができます。
また、予算の範囲内であれば、無理な値引きをせずに適切な価格で発注することもできます。協力会社も利益が出れば、より良い仕事をしてくれるようになります。お互いに利益を出し合える関係性を作るためにも、正確な予算管理は欠かせません。
初心者でも迷わない実行予算の具体的な作成5ステップ
それでは、具体的にどうやって実行予算を組み立てていけばいいのか。その手順を5つのステップで詳しく解説します。
現場のリアルをあぶり出す現地調査の極意

ステップの最初は、現場を自分の足で歩き、目で確かめることです。 図面には描かれていない障害物はないか。資材を運ぶトラックはスムーズに入れるか。近くに学校や病院があり、特別な騒音対策が必要ではないか。
こうした「現場ならではの条件」は、すべてコストに跳ね返ってきます。現地調査を疎かにして机の上だけで計算すると、必ずといっていいほど予算オーバーの原因になります。現場の空気を肌で感じ、工事の様子を頭の中でシミュレーションすることが、精度の高い予算への近道です。
業者選定と価格交渉に潜む「落とし穴」の回避
次に、実際に工事を依頼する協力業者さんに見積もりを依頼します。 このとき、見積書の「金額」だけを見てはいけません。その金額に「どこまでの範囲の作業が含まれているか」を細かく確認してください。例えば、発生したゴミの片付け費用が入っているか、必要な機材の運搬費が含まれているか。
こうした「工事の境界線」をあいまいにしたまま発注すると、あとから追加費用を請求されるトラブルになりがちです。「誰がどこまでやるか」を明確にすることが、予算を守るための鉄則です。複数の業者から見積もりを取る「相見積もり」も有効ですが、価格だけでなく、これまでの実績や対応の早さも考慮しましょう。
労務費の肝となる「歩掛」を正確に算出する
「歩掛(ぶがかり)」という言葉をご存知でしょうか。 これは、ある作業をひとりで行うのに、どれくらいの時間がかかるかを示す基準値です。例えば、「この壁を10平方メートル塗るのに、職人さんひとりで1日かかる」といったものです。
実行予算では、この歩掛を使って人件費を計算します。ただし、基準値をそのまま使うのではなく、現場の難易度に合わせて調整するのがプロの技です。「この現場は足場が狭くて動きにくいから、いつもの1.2倍の時間がかかるだろう」といった具合に、現場の個性を数字に反映させることが大切です。過去の似たような現場でのデータを参照するのも良い方法です。
共通仮設費と現場管理費の見落としを防ぐ技術
直接的な工事費以外にかかるお金も忘れてはいけません。
- 現場事務所のレンタル料
- 仮設トイレの設置と清掃費
- 現場監督の交通費や通信費
- 近隣への挨拶回りの手土産代
こうした「共通仮設費」や「現場管理費」は、ちりも積もれば大きな金額になります。過去の工事データを参考に、漏れがないようにリストアップしましょう。小さな消耗品ひとつまで意識を向けることが、精緻な予算作りには不可欠です。また、予期せぬ事態に備えた「予備費」をわずかに持たせておくことも、心の余裕につながります。
社内審査をスムーズに通過させる書類の整え方
最後に、作成した予算を会社の承認に回します。 承認する上司や経営層が見たいのは、「なぜその金額になったのか」という根拠です。特異な条件がある場合は、写真や図面を添えて理由を説明しましょう。
「少し高めの見積もりを出してきた業者がいるけれど、技術力が高いので今回はあえてここにお願いしたい」といった担当者としての考えを添えることで、予算の信頼性はぐっと高まります。社内のチェックを受けることは、自分の考えの抜け漏れを防ぐ最後のセーフティネットでもあります。この承認プロセスを経て初めて、実行予算は公式な「目標」となります。
利益を最大化する運用の仕組みとPDCAの回し方
予算は「作って終わり」では意味がありません。むしろ、作ってからが本当の勝負です。現場の利益を最大化するための運用のコツをお伝えします。
支払確定まで待たない「先行管理」の重要性
多くの人が陥る失敗が、「業者から請求書が来てから数字を確認する」という後追い管理です。これでは対策が間に合いません。 大切なのは、「発注を決めた瞬間に予算の残りを計算する」という先行管理です。まだお金を払っていなくても、契約した時点でその予算は「使ったもの」として管理します。常に未来の残高を把握し続けることが、赤字を出さない最大の秘訣です。
予算と実績のズレを即座に補正する会議体
現場では必ず予期せぬことが起こります。 「思っていたより掘削に時間がかかった」「資材が値上がりした」といったズレが生じたときは、すぐに共有しましょう。週に一度、短時間でもいいので「収支を確認する時間」を設けます。
ズレを隠さず、チーム全員で「どうすれば挽回できるか」を話し合います。早めに手を打てば、他の工程でコストを抑えたり、工法を工夫したりして、最終的な利益を守ることができます。数字のズレは「早期発見・早期治療」が基本です。
VE(バリューエンジニアリング)で利益を上積みする
予算を守るだけでなく、さらに利益を増やす工夫もしましょう。 それがVE(バリューエンジニアリング)です。これは「品質を下げずに、より安く、より効率的にできないか」を追求する手法です。
「既製品を使えば加工賃が浮くのではないか」「工程を入れ替えれば重機のレンタルを1日短縮できるのではないか」。こうした小さなアイデアの積み重ねが、最終的に大きな利益の上積みを生みます。現状に満足せず、「もっと良い方法はないか」と問い続ける姿勢が、現場をより良くしていきます。
実行予算管理を阻む壁とその乗り越え方
実行予算の運用には、いくつかの課題がつきまといます。それらをどう乗り越えるべきか、具体的な解決策を提案します。
事務作業の肥大化をITとDXで解消する
「現場が忙しくて、予算の入力まで手が回らない」という声はよく聞かれます。 手書きの伝票や複雑すぎるエクセルシートは、入力ミスのもとです。最近では、スマートフォンで現場から簡単に入力できる「工事管理システム」が多く登場しています。
ITツールを導入すれば、一度入力したデータが見積、実行予算、発注、支払へと連動します。事務作業の時間を半分以下に減らし、現場監督が本来すべき「施工の管理」に集中できる環境を作ることができます。「仕組み」で解決することを検討してみてください。
営業と現場の「数字の乖離」を埋める社内コミュニケーション
営業が取ってきた金額が安すぎて、現場がどう頑張っても利益が出ない。これは多くの会社で起きている課題です。 この壁を壊すには、受注前の「事前検討会」が有効です。契約を結ぶ前に、現場サイドが実行予算のシミュレーションを行い、「この金額なら利益が出る」という合意を社内で形成します。
営業と現場は敵ではなく、同じ利益を目指すパートナーです。情報の風通しを良くすることが、会社全体の収益力を高める鍵となります。受注前のチェックを徹底することで、無理な受注を防ぐ勇気も必要です。
突発的な資材高騰や労務不足への備え
近年の世界情勢の変化により、資材価格の激しい変動が起きています。 実行予算を立てたときよりも、仕入れ値が上がってしまうリスクには、あらかじめ「予備費」を計上しておくことで備えます。
また、不測の事態に備えた特約を契約に盛り込むなど、外部の環境変化に対して「守りの仕組み」を持っておくことも重要です。労務不足についても、協力会社との日頃の付き合いを密にし、いざという時に優先的に応援を頼める信頼関係を築いておくことが、最大の防衛策になります。
【深掘り】さらに一歩進んだ実行予算の活用術
実行予算は、単一の現場管理ツールに留まりません。会社全体の成長を支える貴重な資産としての側面があります。
過去データの蓄積が未来の利益を作る
ひとつの現場が終わるたびに、実行予算と最終実績を比較し、その「差」の原因を分析してください。 「この業者はいつも予算より安く仕上げてくれる」「この工種は見積もりが甘くなりがちだ」といった知見は、次の現場の予算精度の向上に直結します。
こうしたデータを蓄積することで、会社独自の「歩掛(ぶがかり)」や「標準単価」が確立されます。「経験をデータに変える」ことができれば、会社全体の競争力は他社の追随を許さないほど強固なものになります。
銀行融資や経営審査における実行予算の価値
実行予算がしっかり機能している会社は、金融機関からの評価も高まります。 「どの現場でどれだけの利益が出るか」を正確に説明できる会社は、返済能力が明確だと判断されるからです。また、公共工事の入札に関わる「経営事項審査」においても、健全な原価管理体制はプラスの評価につながります。
実行予算は、単なる社内書類ではなく、「会社の信用を証明する公的な裏付け」としても機能します。透明性の高い経営を行うための基盤として、実行予算を位置づけることが大切です。
まとめ:実行予算で健全な経営を実現するために
ここまで、実行予算の基本から応用までを詳しく見てきました。最後に、特に大切なポイントを振り返りましょう。
実行予算とは、現場を無事に、そして黒字で完工させるための「誓い」の計画です。見積予算との違いを正しく理解し、現場の条件を隅々まで反映させた「生きた数字」を積み上げることがすべての基本です。
一度作った予算を地図として使い、先行管理とPDCAを回し続けること。そして、ITツールを賢く使いながら、チーム全員で利益を守る意識を持つこと。これらを徹底すれば、あなたの現場は必ず健全な利益を生むようになります。
利益は、ただの数字ではありません。それは、あなたが提供した価値の証明であり、次の現場をより良くするための投資の原資になります。実行予算を味方につけて、自信を持って現場を指揮し、会社とあなた自身の明るい未来を切り拓いてください。
まずは今日、手元にある見積書を一枚取り出し、実際の現場でいくらかかるかを想像してみることから始めてみましょう。その小さな思考の積み重ねが、大きな成果へとつながる確かな一歩になります。



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