会社員の方の多くは、会社の年末調整だけで税金の支払いが適正に行われたと勘違いしているかもしれません。年末調整で適用にならない控除の対象者は、還付申告によって払いすぎた税金が戻る可能性があります。ここでは、還付金とは何なのか、還付金が受け取れる可能性のある人や手続きの方法についてご紹介します。
目次
還付金、還付申告とは何か?
還付金とは、納税者に返還される税金のことを指します。会社員は年末調整が行われるため確定申告が必要ない場合も多いですが、人によっては還付金が受け取れる場合もあるため、決して他人事ではありません。予定よりも多く所得税を支払った場合などは、確定申告を行い正しい税額を計算し、その差額を戻してしてもらうことが可能です。これを還付申告と呼びます。
還付金の算出方法
還付金は、源泉徴収額から実際の所得税額を差し引いて、プラスになった場合に戻ってくるお金です。つまり、計算式にすると、以下のようになります。
還付金=源泉徴収額-所得税額 |
会社員の場合、大半の所得控除は年末調整で計算されるため、確定申告をしなくても済むケースが多いです。ただし、以下の控除は年末調整に反映することが難しいため、該当する場合は改めて計算されることをおすすめします。
・医療費控除
・寄付金控除
・雑損控除
例えば、年収800万円の会社員が年末調整で源泉徴収税額44万5千円だったと仮定します。ここで控除されているのは、基礎控除48万円、社会保険料控除120万円、生命保険料控除10万円だとします。しかし、年間20万円の医療費や年間5万円のふるさと納税があり、確定申告をした場合、どのくらいの金額の差が生じるのか見てみましょう。
確定申告をした場合
まず、給与収入800万円の場合の給与所得控除額を計算します。給与所得控除額は、国税庁の公式サイトを参考にするとよいでしょう。
参照:No.1410 給与所得控除|国税庁
給与収入800万円の方の場合、給与所得控除額は190万円です。したがって、合計所得金額は610万円になります。
そして、年末調整で控除された基礎控除や社会保険料控除、生命保険料控除に加えて、医療費控除と寄付金控除を足した額を計算します。ここでの例で言うと、医療費控除は20万円-10万円=10万円、寄付金控除は5万円-2,000円で4万8,000円で、すべて控除額を合わせると192万8,000円です。所得金額から控除を引くと、417万2,000円となり、これが所得税額を決めるベースとなります。
実際の所得税額は、所得税の速算表から行う計算と復興特別所得税で決まります。
・課税所得金額4,172,000円×税率20%-控除額427,500円=406,900円 ・406,900円×復興特別所得税率2.1%=8,544円(1円未満切り捨て) |
参照:No.2260 所得税の税率|国税庁
したがって、この会社員の場合の所得税額は課税所得税額と復興所得税額を足した41万5,444円となります。
会社の年末調整で引かれていた源泉徴収税額は44万5,000円。差額の2万9,556円は還付申告をして受け取ることができます。
還付申告ができるケース
所得控除は、医療費控除や寄付金控除ばかりではありません。どのような控除があるのか、自分に当てはまるのか知っておくと役立つ可能性があります。特に、会社員の方は見逃してしまうことも多いため、チェックしておきましょう。
関連リンク:所得控除とは?給与所得控除との違いや種類、計算方法をわかりやすく解説
①医療費控除
自分や家族のために支払った医療費が、年間10万円を超える場合には、医療費控除の対象となります。対象となる医療費は、病気やケガなどの治療を直接の目的とした場合に限られるため、自分の意向で行った美容整形やサプリメント代はこれに含まれません。医療費控除は、保険金などで補填されなかった支払いのうち、10万円を超える額が対象です。したがって、年間10万円以下の負担だった場合は控除対象外となります。
参照:No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)|国税庁
②雑損控除
災害や盗難、横領にあって資産が損害された場合は、雑損控除の適用となります。具体的な災害の例は以下のとおりです。
・震災、風水害、冷害、雪害、落雷など自然現象の異変
・火災、火薬類の爆発など
・害虫などの生物による被害
雑損控除は、被害を受けた金額がそのまま控除されるわけではありません。以下のいずれかのうち、多い金額が適用となります。
1.(差引損失額-総所得金額等)×10% 2.(差引損失額のうち災害関連支出の金額)-5万円 |
ここでいう差引損失額とは、被害を受けた損失額と災害に関連してやむを得ない支出があった場合の金額を足したものです。保険によって補填された場合は、その額を引いて計算します。
参照:No.1110 災害や盗難などで資産に損害を受けたとき(雑損控除)|国税庁
③寄付金控除
ふるさと納税など、国や地方公共団体、特定公益増進法人などに特定寄付金を支払った場合、2,000円を差し引いた額の控除を受けることができます。会社員の場合は、ふるさと納税でワンストップ特例を利用すると、確定申告なしでも寄付金控除が適用になるケースもあります。しかし、他の理由で確定申告を行う場合は確定申告が優先されるため注意しましょう。
参照:No.1150 一定の寄附金を支払ったとき(寄附金控除)|国税庁
④特定支出控除
通勤のための支出や勤務地を離れた場所での職務に必要な旅費、転勤に伴う転居費、職務上必要な技術や知識を得るための研修費などは、特定支出控除の対象となります。これらの費用は、会社が支給するケースも少なくないため、自身が支払った金額だけを足して計算しましょう。そして、その金額が年間の給与所得控除額の半分を超える場合、超えた部分が控除される仕組みです。
参照:No.1415 給与所得者の特定支出控除|国税庁
⑤住宅借入金特別控除等
住宅ローンを利用して住居の取得や増改築をした場合は、一定期間の所得控除を受けられる可能性があります。控除額や控除期間は住み始めた年によって変わるため、あらかじめ確認しておきましょう。
住宅ローン控除は、非常に節税効果が高いことでも知られています。控除額は年末の住宅ローン残高によって変わりますが、例えば1%の控除だった場合でも、その額は大きくなることが多いです。還付申告は初年度のみ行い、2年目以降は年末調整の対象になります。
参照:No.1212 一般住宅の新築等をした場合(住宅借入金等特別控除)|国税庁
還付申告ができないケース
以下の所得については、確定申告によって還付を受けることはできません。
・源泉分離課税とされる預貯金の利子
・源泉分離課税とされる抵当証券などの金融類似商品の収益
・源泉分離課税とされる一定の割引債の償還差益
・源泉分離課税とされる一時払養老保険の差益
源泉分離課税とは、所得を支払う際に所得税を源泉徴収することで、納税を済ませる仕組みです。源泉分離課税に該当する上記の所得については還付を受けられません。
参照:No.2230 源泉分離課税制度|国税庁
No.2030 還付申告|国税庁
還付申告のやり方
還付申告を行うためには、確定申告書を作成して税務署へ提出する必要があります。準備物や手順も押さえておきましょう。
予定納税額の確認方法
予定納税とは、前年度の所得金額などを元に計算した税額が15万円以上になる場合について、所得税の一部を事前に納税する制度です。高額の税金を一度で納める負担を軽減するなどの目的で導入されています。
6月頃に届く「予定納税額の通知書」で予定納税の金額について確認できます。また、業績が悪化したなどの理由で予定納税を支払いすぎた場合も、還付申告によって還付を受けられる可能性があります。
予定納税については以下の記事でも詳しく解説しています。
関連リンク:予定納税額とは?【個人事業主必見】確認方法・納付方法を徹底解説
還付申告の期限
還付申告の期限は、所得税を納めた年の翌年1月1日から5年間です。2023年に納めた所得税であれば、2024年1月1日〜2029年12月31日までに申告を行います。
通常の確定申告では、所得のあった年の翌年2月16日から3月15日までを期限としているため、通常よりもかなり長めの期間が設定されていることになります。還付申告で税務署に行く必要があれば、通常の確定申告の時期とずらして行くと、混雑に巻き込まれる可能性が低いでしょう。
参照:No.2030 還付申告|国税庁
還付申告に必要な書類
還付申告で必要となるのは、以下の書類です。
・確定申告書
・源泉徴収票
・添付書類
確定申告書は税務署等の窓口や確定申告会場、国税庁のWebサイトから入手可能です。源泉徴収票は、会社員の方は毎年1月頃までに交付されるため、捨てずに取っておきましょう。添付書類においては、申告内容によって変わります。確定申告書の手引きや国税庁のサイトを見ながら準備しましょう。
還付申告の手順
必要書類を揃えたら、確定申告書の作成を行います。確定申告書は第一表と第二表があり、第一表で所得金額や所得税額の計算をします。手引きに沿って記載していけば、還付金の額の計算までスムーズに進めることができるでしょう。
申告書の第一表の右下には「還付される税金の受取場所」の欄があり、すでに公金受取口座の登録が済んでいる場合は「公金受取口座の利用」にチェックを入れるのみで大丈夫です。登録がない場合は「銀行名」「支店名」「預金種類」「口座番号」を記入し、そのまま公金受取口座として登録したい人は「公的受取口座登録の同意」にチェックを入れます。
確定申告書のすべての記入が終わったら、税務署へ提出します。提出方法は直接持参する方法、郵送で送る方法、e-Taxを利用する方法の3つです。
その後、国税庁の処理が完了すれば、払いすぎた税金が銀行口座へ還付されます。
申告した税金が少なすぎた場合の手続き
納める税金が多すぎた場合や、還付金が少なすぎた場合は、「更正の請求」と呼ばれる手続きを行います。更正の請求は、法定申告期限の5年以内です。
反対に、納める税金が少なすぎた場合や、還付金が多すぎた場合は、修正申告によって内容の訂正を行います。修正申告をするタイミングによっては、過少申告加算税などのペナルティが科される可能性がある点に注意しましょう。
参照:No.2026 確定申告を間違えたと|国税庁
還付金を受け取る方法と振込時期
還付金があることが分かった場合、どのような方法で手続きをして、どのくらいで還付されるのか見ておきましょう。
還付申告ができるケース
年末調整の対象者
給与の総額が2,000万円を超える方や災害減免法によって所得税等の徴収猶予や還付を受けている方以外の会社員は、年末調整の対象になります。確定申告が必要ない場合は、年末調整で還付または徴収されることとなり、そのタイミングは12月か1月の給与と同時に行われるのが通例です。
確定申告の対象者
自営業者や個人事業主はもちろん、会社員であっても確定申告によって還付を受けることも可能です。会社員の場合、寄付金控除や医療費控除など年末調整では反映されない所得控除がある場合、確定申告で還付されます。確定申告の1ヶ月〜1ヶ月半後程度で、銀行口座への入金や郵便局等の窓口で受け取れます。
確定申告の還付金に関するよくある質問
会社員でも確定申告できるの?
会社員でも一部の人は確定申告をしなければなりません。また、年末調整で適用にならない控除については、確定申告をしないと還付されないため、会社員でも確定申告をされる方はたくさんいます。
年末調整で会社に提出した書類に不備があったら確定申告で還付される?
本来ならば年末調整で適用になったはずの控除が書類の不備等で認められなかった場合、確定申告で正しく申告をすれば還付金がもらえる可能性があります。
申告方法で還付金がもらえるタイミングが変わるって本当?
確定申告書の提出は、持参・郵送・e-Taxの3通りがあります。e-Taxでの手続きを選ぶと、他の方法よりも早く処理が済む傾向にあり、そのぶん還付金も早い段階で受け取りやすいです。
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まとめ
還付金は、支払いすぎた税金があった場合に戻ってくるお金を指します。「よく分からないから」と放っておくのではなく、しっかりと内容を把握して余分に払った税金は手元に戻るように手続きをしましょう。まずは、控除の種類を確認して、自分に当てはまるものはないかチェックしてみてはいかがでしょうか。
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