
ビジネスシーンで用いられる「時候の挨拶(季節の挨拶)」とは、季節や気候にまつわる言葉を織り込んだ挨拶文のことです。
手紙やビジネスメールの冒頭で相手に送る慣用表現であり、季節の移ろいを感じさせながら相手への気遣いや敬意を伝える役割があります。
時候の挨拶は必須ではありませんが、あえて盛り込むことで形式的な文面に温かみが生まれ、相手に丁寧で誠実な印象を与えることができます。
特に初対面の取引先への手紙や、フォーマルな案内状などでは、このひと手間が信頼関係構築の一助となるでしょう。
本記事では、時候の挨拶の意義や使い方について解説し、月別の具体的な例文や媒体別の注意点、現代におけるトレンドなどを詳しく紹介します。
目次
時候の挨拶の基本的意義と役割
「時候の挨拶」は、日本ならではの季節感を取り入れた伝統的な挨拶表現で、もともと手紙の書き出し(前文)や結びに用いられてきました。
季節の話題を盛り込むことで、単なる用件伝達ではなく相手の体調や近況を気遣うニュアンスを含めることができ、ビジネス文書においても礼節を示すマナーの一つとされています。
例えば「厳冬の候、貴社ますますご清栄のこととお喜び申し上げます」のように書き出せば、時候(季節)と相手繁栄への慶びを表現できます。
このような一文が添えられることで、相手に対し丁寧で心のこもった印象を与える効果があります。
ビジネス文書では、請求書や契約書に添える送付状、社外向けの案内状・礼状などで時候の挨拶が用いられることがあります。
ただし絶対に入れなければならない決まりではありません。内容が緊急であったりお詫び状であったりする場合には、冗長にならないよう時候の挨拶を省略するのが一般的です。
一方で、取引先への挨拶メールや季節の挨拶状では、あえて季節感のある文言を盛り込むことでビジネスライクなやりとりに温かみや品位を加えられるでしょう。
要するに、時候の挨拶は相手や状況に応じて柔軟に使い分ける表現テクニックであり、その基本的意義は「季節を介した相手への思いやり表現」にあります。
月別の時候の挨拶(ビジネス用例文)
四季折々の移り変わりに合わせ、時候の挨拶にも月ごとの定型表現があります。ここでは1月から12月まで、それぞれの月にビジネスで使いやすい代表的な時候の挨拶例文を紹介します。
書き出しの一文として使えるよう、漢語調(「〜の候」など)と口語調(より自然な文章調)の両方の例を挙げます。自社の業種や相手との関係性に合わせ、適切な表現を選んでみてください。
1月(睦月)
解説
1月は新年の喜びと冬の厳しい寒さが入り混じる月です。年始の挨拶として「新春」や「初春」といった語が用いられますが、これらは一般的に松の内(1月7日頃)まで使われます。
松の内を過ぎてから立春(2月初め)までは「寒中見舞い」の時期でもあり、寒さを気遣う表現が適しています。
例文
新春の候、貴社ますますご清栄のこととお喜び申し上げます。
寒さ厳しき折柄、皆様におかれましてはお健やかに新年をお迎えのことと存じます。
2月(如月)
解説
2月は一年で最も寒さが厳しい時期です。同時に暦の上では立春を迎え春の気配も感じられるため、寒さを労わりつつ春の訪れを待ち望む表現がよく用いられます。
二十四節気では2月4日頃が立春、2月19日頃が雨水にあたり、これらを取り入れた挨拶もあります。
例文
向春の候、貴社益々ご発展のこととお慶び申し上げます。
暦の上では春とはいえ、なお寒さが厳しい毎日ですが、皆様お元気でお過ごしでしょうか。
3月(弥生)
解説
3月になると寒さが徐々に和らぎ始め、本格的な春の訪れが近づきます。梅や早咲きの桜など、春の兆しを感じさせる語が挨拶に登場します。卒業や異動の季節でもあるため、別れと旅立ちの雰囲気を踏まえた表現にしても良いでしょう。
例文
早春の候、貴社におかれましてはますますご清祥のこととお喜び申し上げます。
春寒もようやく和らいでまいりましたが、皆様にはいかがお過ごしでしょうか。
4月(卯月)
解説
4月は桜の季節であり、新年度・新学期など節目の月です。春爛漫の喜びを表す語や、穏やかな陽気を伝える表現がよく使われます。入社・入学のシーズンでもあるため、明るく門出を祝うような挨拶にすると好印象です。
例文
陽春の候、貴社ますますご繁栄のこととお慶び申し上げます。
桜花爛漫の折、貴殿にはますますご清祥の由、大変喜ばしく存じます。
5月(皐月)
解説
5月は新緑が美しく、初夏の爽やかさを感じる季節です。ゴールデンウィーク明けで仕事に励む時期でもあり、爽やかな気候を労う表現や、夏の前触れを示す語が用いられます。
例文
新緑の候、貴社の皆様には益々ご清栄のこととお喜び申し上げます。
若葉の緑もすがすがしい季節となりましたが、いかがお過ごしでしょうか。
6月(水無月)
解説
6月は梅雨の季節であり、湿り気の多い長雨の時期です。同時に夏至を迎える頃で日差しが強まってくるため、雨空と夏の兆しの双方に言及する挨拶が可能です。じめじめした気候を気遣う一言を添えるとよいでしょう。
例文
初夏の候、貴社におかれましてはご清栄の段、お喜び申し上げます。
長雨が続いておりますが、皆様にはお変わりなくお過ごしのことと存じます。
7月(文月)
解説
7月は夏本番に入り、暑中見舞いや残暑見舞いの時期が始まります(暑中見舞いは立秋前まで、立秋以降は残暑見舞い)。猛暑を労わる表現や、夏祭り・夏休みなど季節行事に触れる挨拶が考えられます。
例文
盛夏の候、貴社ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
梅雨明けの青空が眩しい季節となりましたが、いかがお過ごしでしょうか。
8月(葉月)
解説
8月は残暑が厳しく、夏もピークを迎える頃です。立秋(8月上旬)を過ぎると暦の上では秋になりますが、実際には引き続き猛暑の日々が続きます。
お盆休みや夏季休暇のシーズンでもあるため、休暇前後の挨拶や体調を気遣う言葉を添えると良いでしょう。
例文
残暑の候、貴社におかれましては一段とご清栄の由、心よりお慶び申し上げます。
連日の猛暑が続いておりますが、皆様お変わりなくお過ごしでしょうか。
9月(長月)
解説
9月は暑さが和らぎ始め、秋の気配が感じられる月です。残暑も次第に落ち着き、朝夕には涼風が立つようになります。十五夜(中秋の名月)など秋の行事もあり、秋桜や紅葉の始まりといった季節感を表現するのも良いでしょう。
例文
初秋の候、貴社ますますご繁盛のこととお喜び申し上げます。
朝夕はめっきり涼しくなってまいりましたが、いかがお過ごしでしょうか。
10月(神無月)
解説
10月は秋が深まり、空気が澄んで過ごしやすい季節です。紅葉が各地で見頃を迎え、実りの秋とも言われます。ビジネスでは下期のスタートにあたる時期であり、改めて気を引き締める趣旨の挨拶も考えられます。
例文
秋冷の候、貴社におかれましてはご隆盛のこととお慶び申し上げます。
木々の色づきに秋の深まりを感じる今日この頃、貴社にはますますご清栄の由、誠に喜ばしく存じます。
11月(霜月)
解説
11月は晩秋から初冬へと移る月で、朝夕の冷え込みが一層強まります。木枯らしや初霜など冬の兆しを表す語が出始め、年末も視野に入る時期です。
秋も終盤であることから、健康を気遣う表現や年の瀬を意識した挨拶にすると良いでしょう。
例文
深秋の候、貴社益々ご清栄の段、お喜び申し上げます。
朝晩すっかり冷え込む季節となりましたが、皆様にはお元気でお過ごしのことと存じます。
12月(師走)
解説
12月は一年の締めくくりであり、本格的な冬の到来する月です。師走という言葉が示す通り忙しい時期ですが、クリスマスや年末年始の準備など、慌ただしさの中にも祝祭の雰囲気があります。
寒さの厳しさを気遣いつつ、年末の挨拶を兼ねた表現が用いられます。
例文
師走の候、貴社におかれましては本年も大変お世話になりました。
年の瀬も押し迫ってまいりましたが、お風邪など召されませんようご自愛ください。
メールと手紙など媒体別の使い分け
時候の挨拶の使い方は、手紙(郵便)とメールとで若干異なります。ビジネスレター(紙の手紙)では、頭語「拝啓」「謹啓」等に続けて時候の挨拶を書き出し、末尾には結語「敬具」「謹言」等で結ぶのが正式な形式です。
文章全体も改まった丁寧語でまとめるのが一般的でしょう。これに対し、ビジネスメールの場合は、社内外問わず簡潔さが重視されます。
メールでは本来「拝啓」「敬具」のような頭語・結語は用いず、冒頭に「お世話になっております」等の定型句から始めるのが標準的です。そのため、時候の挨拶についてもメールでは必ずしも入れる必要はありません。
特に社内メールや日常的なやり取りでは、季節の前置きがなくても失礼には当たりません。
もっとも、取引先へのフォーマルなメールや季節の挨拶を目的としたメールでは、簡単な時候の挨拶を添えるケースもあります。例えば、「平素より大変お世話になっております。
秋晴の候、貴社益々ご清栄のこととお喜び申し上げます。」のように、冒頭挨拶に続けて季節の文言を入れると丁寧な印象になります。
ただしメールでは手紙以上に冗長な前置きは敬遠される傾向がありますので、長々とした季節談義は避け、簡潔に一文添える程度に留めるのが賢明です。
また、チャットやSNS等のカジュアルなビジネスコミュニケーションでは、基本的に時候の挨拶は不要です。媒体ごとの慣習に応じて、形式度合いを調整することが大切と言えます。
時候の挨拶の書き方ルール・マナーと注意点
時候の挨拶を書くにあたって、押さえておきたい基本ルールやマナーがあります。まず、挨拶を入れる位置は正しく守りましょう。手紙の場合、前文の冒頭(頭語の直後)に時候の挨拶を書き始めます。
前述のようにメールでも冒頭に入れることがありますが、いずれの場合も本題より前の前置き部分にあたります。また、頭語・結語との組み合わせにも注意が必要です。
手紙では「拝啓」で始めたら最後は「敬具」で結ぶのが原則であり、このセットを乱さないようにします(メールでは頭語・結語自体を通常省略)。
次に、季節外れの表現になっていないか確認することも大切です。ビジネスでは郵送や作成日時のタイミングで季節感が決まります。
例えば、まだ残暑が厳しい9月上旬に「秋冷の候」は早すぎますし、逆に11月末に「紅葉の候」では季節遅れです。
迷った場合はその時期の二十四節気(立春、夏至、冬至など)や暦の区切りを参考にするとよいでしょう。現代では気候変動で季節感がずれることもありますが、ビジネス文書上では暦を基準に考えるのが無難です。
内容と言葉遣いのマナーにも配慮しましょう。時候の挨拶はあくまで本題への導入ですので、長くなりすぎないよう簡潔にします。
文章の調子は相手との関係性に合わせ、一般的には社外向けには丁寧な敬語表現を使い、社内や親しい間柄なら少しくだけた表現にすることもあります。ただし砕けすぎは禁物で、ビジネス上の礼儀を損なわない範囲にとどめます。
また、主観的すぎる表現や個人的な感想は避け、誰にでも共通する季節感を端的に述べるのがコツです。例えば「今年の春は例年になく心躍る思いです」などの個人的な感情表現はビジネスの挨拶としては不適切です。
それよりも「桜の便りが聞かれる季節となりました」といった客観的な季節表現に留めましょう。
さらに、状況によっては省略を判断することもマナーと言えます。緊急の要件やお悔やみ状・お詫び状などでは、丁寧さより速達性や深刻さが優先されるため、冗長な前置きはかえって無礼となりえます。
そうした場合には時候の挨拶を入れないか、ごく短い挨拶(「急啓」「前略」等)に留め、本題をすぐに書き始める方が望ましいでしょう。
現代における時候の挨拶のトレンドと柔軟な対応
近年、ビジネスコミュニケーションのスピード化・カジュアル化に伴い、時候の挨拶の扱いも少しずつ変化しつつあります。メール全盛の現代では、かつてほど定型的な季節の前置きを目にしなくなりました。
特に若い世代を中心に、「時候の挨拶は形式的すぎる」「本文に早く入りたい」といった声もあり、普段のやりとりでは省略されるケースが増えています。
しかし一方で、伝統を重んじる企業文化やフォーマルな場面では今なお時候の挨拶が重視されています。例えば正式な案内状や礼状、目上の方への書簡では、古風とも思えるほど丁寧な挨拶文から始まる手紙も健在です。
また、電子メールであっても年始の挨拶や季節のご挨拶メール(暑中見舞い・年賀メール等)では、改まった表現を用いるケースが多く見られます。
このように状況によって賛否が分かれる中、重要なのは柔軟に対応する姿勢です。
取引先や相手のスタイルに合わせて、必要だと判断すればきちんと時候の挨拶を盛り込み、不要と思われる場面では思い切って簡略化する、といった判断が求められます。
社内の文書作成ガイドラインや業界ごとの慣習も参考にしつつ、「相手に失礼にならないか」「形式にこだわりすぎていないか」を意識して使い分けると良いでしょう。
現代ではメール・チャット文化の広がりでビジネス文書の形式も多様化していますが、時候の挨拶という日本語ならではの心配り表現をTPOに応じて活かすことができれば、コミュニケーション上の大きな武器となるはずです。
ネイティブが使う自然な表現とその意味解説
教科書的な時候の挨拶だけでなく、日本人が実際の手紙やメールで好んで使う自然な季節の表現もあります。これらは口語調の文章で季節感を伝えるもので、形式張った漢語調の挨拶より柔らかい印象を与えます。
例えば、以下のような表現はビジネスでもよく用いられ、その時期特有の気候を描写しつつ相手を気遣う内容になっています。
「朝夕はめっきり冷え込む季節となりました。」
(秋の深まりを表現し、気温変化に相手が体調を崩していないか気遣うニュアンス)
「桜のつぼみもほころび始める季節となりましたが、お元気でお過ごしでしょうか。」
(春の訪れを告げる表現で、相手の様子をうかがう定番フレーズ)
「梅雨明けの青空が広がる今日この頃、いかがお過ごしでしょうか。」
(梅雨が明け夏本番が始まった時期に、相手の近況を問う表現)
「厳しい寒さが続いておりますが、どうかご自愛ください。」
(冬の寒さを述べつつ、相手の健康を気遣う結びの定型句)
これらの表現は、「〜となりました」「〜ですが、〜でしょうか」「〜が続いておりますが、〜ください」といった形で季節の描写と安否伺い・お願いをセットにしているのが特徴です。
漢語調(例:「晩秋の候」「初春の折」など)に比べて文章全体の意味が一読で伝わりやすいため、ビジネスメールなどでも好んで使われます。
意味としては字面通りですが、いずれも「最近寒いですがお元気ですか」「暑いので体に気を付けてください」といった気遣いを丁寧な日本語に言い換えたものです。
ネイティブのビジネスパーソンは、状況に応じて漢語調と口語調を使い分けています。
改まったシーンでは「〜の候、…お慶び申し上げます」を用い、もう少しカジュアルな場面では「〜季節となりましたが、…いかがお過ごしでしょうか」を使う、といった具合です。
挙げた例文も参考に、ぜひ自然で伝わりやすい時候の挨拶表現を自分の引き出しに増やしてみてください。
よくある間違いとその回避策
最後に、時候の挨拶に関してありがちなミスと、その防止策について触れておきます。
季節と文言のミスマッチ
前述の通り、季節外れの挨拶は相手に違和感を与えます。送る時期に合った表現かどうか、不安な場合はカレンダーや気象情報を確認し、直前の二十四節気名や月初月末の区切りを参考にしましょう。
頭語・結語の組み合わせ不備
手紙で「拝啓」を使ったのに「敬具」を付け忘れる、あるいはメールで不用意に「拝啓」を書き出してしまう等、形式上のミスです。
手紙の場合は必ず頭語と結語を対に使い、メールでは原則これらを使わない、と覚えておきましょう。もしメールであえて使う場合でも、「拝啓○○様、…敬具」はメールでは不自然ですので避けます。
丁寧さの度合いを誤る
カジュアルすぎる表現(例えば「最近めっきり寒いですね~」など砕けた言い回し)はビジネスには不適切ですし、逆に個人宛ての気軽な連絡に厳格すぎる時候の挨拶を入れるとよそよそしい印象になります。
相手との関係性や文書の目的に応じ、適切なフォーマル度を見極めましょう。
使い回しによるマンネリ
季節ごとに毎年同じ文言を使っていると、自分でも相手に対しても新鮮味がなくなります。定番表現は安心して使えますが、ときには別の表現に差し替える工夫も必要です。
本記事の例文集や季節の季語を参考に、新しい表現に挑戦すると良いでしょう。
文法上の誤り
時候の挨拶は慣用表現ゆえに少し古風な日本語が多く含まれます。
例えば「ご清栄」と「ご清祥」(前者は会社や組織向け、後者は個人の健康向け)を取り違えない、漢字の変換ミスに注意する(「候」を「喉」と誤る等)など、細かい部分まで見直しましょう。
特にテンプレートをコピー&ペーストする場合、社名や時期の固有名詞も含め誤字脱字がないよう気を付けることが大切です。
以上の点に注意すれば、時候の挨拶は決して難しいものではありません。ポイントは「相手本位」であること。相手に伝わってこそ意味があるので、形式だけに囚われず心のこもった一文を添えるよう心がけましょう。
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