会計の基礎知識

下請法の支払期日45日は合法?知らないと危険な60日ルールについて解説

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下請法支払期日45日

下請法を正しく理解し、支払遅延による高額な遅延利息や信用の失墜といった経営リスクを完全に回避したい、そう考える経営者や経理担当者の方は多いのではないでしょうか。支払サイクルの安定化は、健全な企業経営の根幹をなす要素です。

この記事は、法律の専門家が「下請法の支払期日」に関する疑問に答えるだけでなく、コンプライアンス遵守のために知っておくべき知識を網羅的に解説します。

単なる「45日でよいか」という問いへの回答にとどまらず、法律の根幹である「60日ルール」の正確な計算方法、陥りがちな落とし穴、そして違反した場合の深刻な結末までを深く掘り下げます。

本記事で解説する具体的な事例やチェックリストは、法律の専門家でなくとも、自社の取引プロセスを見直し、コンプライアンスを徹底するための実践的な指針となるはずです。

この記事を読み終える頃には、下請法に関する不安が解消され、自信をもって取引先との関係を構築できるようになるでしょう。

目次

「下請法 支払期日45日」は違反か?結論から解説

45日設定そのものは違反ではない

まず結論から述べます。下請事業者への支払期日を「45日」と設定すること自体は、下請法に違反しません。実務上も、支払期日を30日や45日といった期間で設定している企業は多く存在します。

問題の本質は、日数の数字そのものではなく、その日数をいつから数え始めるかという点にあります。

下請法には絶対的な「60日ルール」が存在する

下請法(正式名称:下請代金支払遅延等防止法)は、親事業者が下請事業者に対して優越的な地位を濫用することを防ぎ、公正な取引を実現するために存在します。その核心的なルールの一つが、支払期日に関する「60日ルール」です。

この法律は、親事業者が下請代金の支払期日を、給付を受領した日から起算して60日以内で、かつ、できる限り短い期間内に定めることを義務付けています。

重要なのは、この60日ルールが「強行法規」であるという点です。これは、法律の規定が当事者間の合意よりも優先されることを意味します。たとえ下請事業者が「支払いは90日後で構いません」と合意書に署名したとしても、その合意は法的に無効となります。

この背景には、立場の弱い下請事業者が、取引を失うことを恐れて不利な条件をのまざるを得ない状況を防ぐという、法律の強い意志があります。したがって、企業間の契約書の内容がどうであれ、法律が定める60日という上限は絶対的なものとして遵守しなければなりません。

最も重要な論点「起算日」をいつにするか

支払期日45日という設定が合法である一方、多くの企業が意図せず法を犯してしまう最大の落とし穴が、この60日を数え始める「起算日」の誤解です。

下請法では、起算日を「給付を受領した日」と厳格に定めています。これを「月末締め」や「検収完了日」といった社内都合の日付に置き換えて計算してしまうと、実際の支払日が「給付を受領した日」から60日を超えてしまい、結果として法律違反となるケースが後を絶ちません。

例えば、「納品月の末日から45日後」というルールを設けている場合、月初に納品された物品の支払いは、実質的に60日を超える可能性が非常に高くなります。

下請法の根幹をなす「60日ルール」の完全ガイド

支払期日の起算点となる「給付を受領した日」の正確な定義

「給付を受領した日」とは、具体的にいつを指すのでしょうか。この定義を正確に理解することが、コンプライアンスの第一歩です。

物品や情報成果物の場合

親事業者が下請事業者から物品やプログラム、設計図などの情報成果物を現実に受け取った日を指します。

役務提供(サービス)の場合

下請事業者が委託されたサービス(運送、保守、情報処理など)の提供を完了した日を指します。

ここで最も注意すべき点は、これらの日付が「親事業者が検査をするかどうかを問わず」適用されるという原則です。親事業者の社内で行われる品質検査や検収プロセスがどれだけ長引こうとも、支払期日のカウントダウンは物品やサービスを受け取ったその瞬間から始まっています。

このルールは、親事業者が意図的に検収を遅らせることで、支払いを先延ばしにすることを防ぐために設けられています。経理や購買部門は、自社の検収スケジュールと、法律が定める支払義務の起算点が全く別のものであることを強く認識する必要があります。

60日間の正しい数え方(具体例を交えて解説)

60日の期間計算は、初日を含めて数える「初日算入」が原則です。

起算日(1日目)

給付を受領した当日を1日目としてカウントします。

具体例

仮に4月10日に物品を納品された場合、4月10日が1日目となります。そこから60日目は6月8日となり、この日までに支払いを完了させる必要があります。

なお、実務上の運用として、毎月の締め処理の便宜を図るため、「受領日から60日以内」を「受領日から2ヶ月以内」として運用することも認められています。この場合、31日まである月も28日しかない月も、同様に「1ヶ月」として計算されます。

ただし、これはあくまで運用の簡便化のためであり、法的な原則はあくまで「60日」であることを忘れてはなりません。

支払期日を定めなかった場合の法的措置

もし親事業者が発注書面などで支払期日を明確に定めなかった場合、法律は下請事業者を保護するために非常に厳しい規定を適用します。

支払期日を定めなかった場合

「給付を受領した日」そのものが支払期日とみなされます。つまり、納品された当日に支払う義務が生じることになります。

60日を超えて支払期日を定めた場合

その定めは無効となり、「給付を受領した日から起算して60日目」が法的な支払期日とみなされます。

これらの規定は、親事業者に対して、曖昧な条件での発注を許さず、明確かつ合法的な支払期日を設定するよう強く促すためのものです。

支払期日が金融機関の休業日にあたる場合の注意点

支払期日が土日祝日など、金融機関の休業日にあたる場合は、支払いが翌営業日にずれ込むことで意図せず支払遅延となってしまうリスクがあります。このような場合、原則としてその休業日の直前の営業日までに支払いを完了させなければなりません。

例えば、支払期日が日曜日の場合、その前の金曜日までに振込処理を済ませておく必要があります。

そもそも、あなたの取引は下請法の対象ですか?

支払期日のルールを気にする前に、自社と取引先との間の契約がそもそも下請法の適用対象なのかを確認する必要があります。すべての取引が対象となるわけではありません。

適用の有無を決める「取引内容」と「資本金」の2つの軸

下請法が適用されるかどうかは、「取引の内容」と「取引当事者の資本金区分」という2つの軸で機械的に判断されます。

ここで重要なのは、下請法の適用は「自社が常に親事業者である」といった固定的なものではないという点です。資本金が1,000万円を少し超える企業であっても、個人事業主や資本金1,000万円以下の企業に特定の業務を委託すれば、その取引においては「親事業者」と見なされる可能性があります。

つまり、コンプライアンスの要否は、会社全体の規模で判断するのではなく、個別の取引ごと、取引相手ごとに確認する必要があるのです。「我々は親事業者か?」ではなく、「この取引において、我々は親事業者として振る舞うべきか?」という視点が不可欠です。

対象となる4つの取引類型

下請法が対象とする取引は、大きく分けて以下の4つに分類されます。

  • 製造委託
    物品の製造や加工を他の事業者に委託すること
  • 修理委託
    物品の修理を他の事業者に委託すること
  • 情報成果物作成委託
    プログラム、映像コンテンツ、デザインなどの作成を他の事業者に委託すること
  • 役務提供委託
    運送、情報処理、ビルメンテナンスといったサービスの提供を他の事業者に委託すること

親事業者と下請事業者の資本金区分(早見表)

上記の取引内容に該当した上で、親事業者と下請事業者の資本金が以下の区分に当てはまる場合に、下請法が適用されます。

取引の種類親事業者の資本金下請事業者の資本金
①製造委託, ②修理委託, ③情報成果物作成委託 (プログラム), ④役務提供委託 (運送・倉庫保管・情報処理)3億円超3億円以下 (個人事業主を含む)
1,000万円超 3億円以下1,000万円以下 (個人事業主を含む)
③情報成果物作成委託 (プログラム以外), ④役務提供委託 (上記以外)5,000万円超5,000万円以下 (個人事業主を含む)
1,000万円超 5,000万円以下1,000万円以下 (個人事業主を含む)

この表は、公正取引委員会の資料などに基づき作成されています。自社の資本金と取引内容、そして相手方の資本金(または個人事業主であるか)を照らし合わせることで、適用の有無を迅速に判断できます。

支払遅延がもたらす深刻な経営リスク

支払遅延がもたらす深刻な経営リスク

下請法の支払期日ルールに違反した場合、企業は単なる「支払いの遅れ」では済まされない、深刻な経営リスクを負うことになります。

年率14.6%という重い遅延利息の支払い義務

支払期日までに下請代金を支払わなかった場合、親事業者は下請事業者に対し、年率14.6%という非常に高い利率の遅延利息を支払う義務を負います。

この利息の計算期間は、定められた支払期日の翌日からではなく、「給付を受領した日から起算して60日を経過した日」から、実際に支払いが行われた日までとなります。この利率は、一般的な商取引の利率を大幅に上回り、違反行為に対する罰則的な意味合いが強いものです。

企業の信用を失墜させる公正取引委員会からの勧告・指導

金銭的なペナルティ以上に深刻なのが、行政処分によるレピュテーション(評判)リスクです。違反が悪質であると判断された場合、公正取引委員会や中小企業庁から改善を求める「勧告」が出されます。

そして、この勧告が出されると、原則として企業名と違反事実の概要が公正取引委員会のウェブサイトで公表されます。一度公表されれば、その事実は半永久的にインターネット上に残り、「下請けいじめをする企業」という不名誉なレッテルを貼られることになります。

これは、顧客からの信頼喪失、優秀な人材の採用難、金融機関や投資家からの評価低下など、事業活動のあらゆる側面に計り知れない悪影響を及ぼす可能性があります。実際に、過去には著名な大手自動車会社や大手出版社も名指しで勧告を受けており、企業規模の大小を問わず、このリスクは全ての事業者に等しく存在します。

違反事例から学ぶ、企業が陥りがちな落とし穴

過去の違反事例は、他山の石として多くの教訓を与えてくれます。

事例1 支払サイクルの罠

ある親事業者は「毎月末日検収締切、翌々月25日支払」という支払制度を採用していました。しかし、月初に納品された案件の場合、実際の支払日が給付受領日から60日を大幅に超えてしまい、支払遅延として指摘されました。社内ルールが法律の要件を満たしているかを、個別の取引ごとに検証しなかった典型的な例です。

事例2 不当な代金減額

大手自動車関連会社が、下請事業者に責任がないにもかかわらず、36社の下請事業者に対して総額30億円を超える代金を一方的に減額した事例があります。これは下請法の禁止する「下請代金の減額」に該当し、厳しい勧告の対象となりました。

事例3 名目を変えたコスト転嫁

ある家電販売会社は、「協力金」「リベート」といった様々な名目で、下請代金から一定額を差し引いていました。これも実質的な代金の減額であると判断され、違反行為と認定されました。名目がいかなるものであっても、発注後に一方的に代金を減らす行為は許されません。

支払期日だけではない!親事業者が負うべき4つの義務と11の禁止行為

下請法が親事業者に求めるコンプライアンスは、支払期日の遵守だけにとどまりません。公正な取引関係を担保するため、広範な義務と禁止行為が定められています。

親事業者に課せられる4つの義務

親事業者には、取引の透明性を確保し、下請事業者の権利を守るために、以下の4つの義務が課されています。

書面の交付義務(3条書面)

発注に際し、委託内容、代金額、支払期日などを具体的に記載した書面を直ちに交付する義務があります。口頭での発注はトラブルの元であり、法律で禁じられています。

支払期日を定める義務

給付を受領した日から60日以内に支払期日を定め、書面に明記する義務があります。

書類の作成・保存義務(5条書面)

取引に関する一連の記録(給付内容、支払金額、支払日など)を記載した書類を作成し、2年間保存する義務があります。

遅延利息の支払義務

支払が遅延した場合には、法律で定められた年率14.6%の遅延利息を支払う義務があります。

絶対に避けるべき11の禁止行為

親事業者が下請事業者に対して行うべきではない行為として、以下の11項目が明確に禁止されています。

  • 受領拒否
    下請事業者に責任がないのに、納品物の受領を拒むこと
  • 下請代金の支払遅延
    定められた支払期日までに代金を支払わないこと
  • 下請代金の減額
    下請事業者に責任がないのに、発注後に代金を減額すること
  • 不当な返品
    下請事業者に責任がないのに、受領した物品を返品すること
  • 買いたたき
    市場価格に比べて著しく低い代金を一方的に定めること
  • 購入・利用強制
    親事業者が指定する製品やサービスを強制的に購入・利用させること
  • 報復措置
    下請事業者が違反行為を公正取引委員会などに通報したことを理由に、不利益な取り扱いをすること
  • 有償支給原材料等の対価の早期決済
    親事業者が供給した原材料の代金を、不当に早く下請代金から差し引くこと
  • 割引困難な手形の交付
    金融機関で割り引くことが困難な長期の手形で支払うこと
  • 不当な経済上の利益の提供要請
    協賛金や作業協力などを不当に要求すること
  • 不当な給付内容の変更・やり直し
    費用を負担せずに、一方的に仕様変更ややり直しをさせること

法改正の動向 2026年に施行される「取適法」とは

法改正の動向 2026年に施行される「取適法」とは

下請法を取り巻く環境は、常に変化しています。特に、2026年1月1日に施行が予定されている法改正は、すべての事業者にとって重要な意味を持ちます。

現行の「下請代金支払遅延等防止法」は、「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(略称:中小受託取引適正化法、通称:取適法)へと名称が変更されます。

この改正の主なポイントは以下の通りです。

  • 用語の変更
    「親事業者」「下請事業者」という上下関係を想起させる呼称から、より対等な関係を示す「委託事業者」「中小受託事業者」へと変更されます。
  • 約束手形の禁止
    下請事業者の資金繰りを圧迫する要因となっていた、約束手形による支払いが原則として禁止されます。
  • 価格交渉協議拒否の禁止
    原材料費や労務費の高騰などを理由に下請事業者が価格交渉を申し入れた際に、正当な理由なく協議を拒むことが新たに禁止行為となります。
  • 適用範囲の拡大
    対象となる取引が拡大されるなど、保護の範囲が広がります。

これらの改正は、単なる形式的な変更ではありません。物価上昇局面において価格転嫁の協議にさえ応じないといった、より巧妙な優越的地位の濫用に対応し、取引の公正性をさらに高いレベルで確保しようとする社会的な要請の表れです。

コンプライアンスとは一度達成すれば終わりではなく、法改正の動向を常に注視し、自社の取引慣行をアップデートし続ける不断の努力が求められます。

迷ったときの相談先

下請法の解釈や個別の取引が違反に当たるかどうかで判断に迷った場合、専門の相談窓口を活用することが有効です。これらの窓口は、親事業者・下請事業者どちらの立場からでも無料で相談が可能です。

公正取引委員会・中小企業庁

下請法に関する公式な相談・申告窓口です。匿名での情報提供も可能で、オンライン相談も受け付けています。フリーダイヤルは0120-060-110です。

下請かけこみ寺

中小企業庁の委託事業として全国48ヶ所に設置されている相談窓口です。弁護士による無料相談や、取引のあっせんも行っています。フリーダイヤルは0120-418-618です。

独占禁止法相談ネットワーク

全国の商工会議所・商工会が一次窓口となり、相談内容を迅速に公正取引委員会へ取り次ぐネットワークです。最寄りの商工会議所・商工会へお問い合わせください。

まとめ

本記事で解説した内容の要点を、改めて確認します。

  • 支払期日を「45日」と設定すること自体は合法です。しかし、その起算日は「検収日」や「月末」ではなく、あくまで「給付を受領した日」であることを徹底する必要があります。
  • 「60日ルール」は当事者間の合意があっても覆すことのできない絶対的なルールです。
  • 支払期日のルールを検討する前に、自社の取引が資本金区分と取引内容から下請法の適用対象となるかを必ず確認してください。多くの企業が想定するより、適用範囲は広範です。
  • 違反した場合のリスクは、年率14.6%の遅延利息という金銭的負担に加え、企業名公表による社会的な信用の失墜という、より深刻なダメージを伴います。

下請法の遵守は、単に罰則を回避するための消極的な義務ではありません。それは、取引先であるパートナー企業との間に公正で持続可能な信頼関係を築き、自社のサプライチェーン全体を強固にするための、積極的かつ戦略的な経営課題です。法令への深い理解と誠実な実践こそが、長期的な企業価値の向上に繋がる礎となるでしょう。

この記事の投稿者:

hasegawa

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