所得税の予定納税額とは、所得が確定しないうちに前もって支払うべき所得税の額です。予定納税の条件に該当して通知を受け取った個人事業主は、予定納税額を納付する必要があります。本記事では、予定納税額の確認方法や仕組みなどについてわかりやすく解説します。
目次
所得税の予定納税・予定納税額とは?
所得税とは、1月1日から12月31日の1年間で生じた個人の所得に対してかかる税金であり、原則として翌年の2月16日から3月15日に支払う必要があります。
しかし、その年の5月15日の時点で確定している「予定納税基準額」が15万円以上の場合には、その年の途中で所得税の一部を先に納付します。予定納税基準額とは、前年分の所得金額や税額を元に計算した金額であり、この制度を「予定納税」と言います。
参照:No.1000 所得税のしくみ|国税庁
No.2040 予定納税|国税庁
予定納税基準額の計算式
以下の条件に該当する場合には「予定納税基準額 = 前年分の申告納税額」となります。
● 前年分の所得金額のうちに、山林所得・退職所得等の分離課税の所得・譲渡所得・一時所得・雑所得・平均課税を受けた臨時所得の金額がないこと
● 前年分の所得について、外国税額控除の適用を受けていないこと。
● 前年分の所得税について、災害減免法の規定の適用を受けていないこと
上記に該当しない場合には、以下の計算式で予定納税基準額を求めます。
予定納税基準額 = 前年分の課税総所得および分離課税の上場株式等に係る課税配当所得等の金額に係る所得税額 – 源泉徴収税額 |
この金額が15万円以上になると、税務署から「予定納税額の通知書」が届きます。なお、詳しい条件や計算方法については、国税庁のホームページもあわせてご覧ください。
参照:No.2040 予定納税|国税庁
予定納税の支払期間はいつからいつまで?
予定納税では、予定納税基準額の3分の1の金額を、以下の期間内にそれぞれ納付します。
・第1期分:7月1日から7月31日まで
・第2期分:11月1日から11月30日まで
参照:No.2040 予定納税|国税庁
予定納税の納付方法の種類
予定納税を納付する方法を3つ紹介します。
①直接納付
税務署や銀行・コンビニなどで、現金で納付する方法です。コンビニで納付する際は、あらかじめ税務署でバーコード付きの納付書を取得しなくてはならないなどの決まりがある点に注意しましょう。
参照:[手続名] コンビニ納付(バーコード)|国税庁
②振替納付
銀行の口座から、予定納税の税額分を振替で納付する方法です。利用するためには、初回のみ口座振替の依頼書を税務署に提出する必要があります。
参照:[手続名] 申告所得税及び復興特別所得税、消費税及び地方消費税(個人事業者)の振替納税手続による納付|国税庁
③電子納付
e-Taxを利用して電子納税(ダイレクト納付)する方法です。税務署や銀行に行くことなく、自宅にいながら納税できます。なお、e-Taxやダイレクト納付を利用するための手続きをあらかじめ行う必要があります。
参照:電子納税 | 【e-Tax】国税電子申告・納税システム(イータックス)
④クレジットカード納付
「国税クレジットカードお支払サイト」から、クレジットカードによって納付する方法です。利用にあたっては、納付する税額に応じた決済手数料が発生します。領収書などが発行されない点には注意しましょう。
⑤スマホアプリ納付
スマホアプリ「国税スマートフォン決済専用サイト」から納付する方法です。PayPayやd払い、Amazon payなど、複数の決済方法から選択して納付できます。ただし、納付できるのは30万円以下の税額である場合に限ります。
参照:国税スマートフォン決済専用サイト
※注意:スマートフォン専用サイトのためPCでは開くことができません。
⑥コンビニ納付(バーコード納付/QRコード納付)
税務署から送付されたバーコード付きの納付書を使って、コンビニで支払いを行う方法です。税額が30万円以下の場合のみ支払いが行えます。
また、国税庁のホームページから作成したQRコードをコンビニに持参し、LoppiやFamiポートなどの端末で読み込むことで、バーコードを自ら出力する方法もあります。出力したバーコードは、レジに持っていくことで従来の方法と同じように支払いができます。
参照:G-2-6 コンビニ納付(QRコード)|国税庁
予定納税の確認方法
予定納税の有無や支払い内容について確認する方法を解説します。
「予定納税等通知書」を確認する
予定納税基準額が15万円以上になり、予定納税の対象となると、6月15日までに「予定納税額の通知書」が届きます。また、設定によりe-Taxで通知を受け取ることも可能です。
参照:No.2040 予定納税|国税庁
予定納税等通知書に係る電子通知について
納付書の控えを確認する
予定納税を銀行やコンビニなどで納付すると、納付した証明として控えをもらえます。確定申告などの書類と一緒に保管しておくといいでしょう。
銀行口座の履歴を確認する
予定納税を口座振替で行った場合、通帳やインターネットの取引履歴から、振替の記録を確認できます。振替日は第1期が7月31日、第2期は11月30日ですが、土日や祝日と重なった場合にはその翌日となります。
参照:主な国税の納期限(法定納期限)及び振替日|国税庁
確定申告による予定納税の支払い還付について
予定納税は、その年の所得額が確定する前におおよその金額を納付するものであるため、事業の売れ行きが悪くなったなどの理由により、払い過ぎてしまうケースがあります。
払い過ぎた際には、確定申告を行うことにより還付を受けられます。還付は指定した口座に入金される形で行われます。なお、還付を受ける場合には、支払った年の翌年1月1日から5年の間に申告する必要があります。
参照:No.2030 還付申告|国税庁
予定納税の減額申請について
予定納税は前年度の所得税などを元にして決定されるため、当年になって急に売上が減ったり、経費が増えたりした場合には、予定納税額を高額に感じることもあります。また、災害など特別な事情が生じることもあるでしょう。予定納税は前払いであるため、これらの事由が生じた際は、納税額が過剰になるケースがあります。
そのため、予定納税には申告することによって減額される制度が設けられています。6月30日の時点で、その年の所得税の見積額が予定納税基準額よりも少なくなる場合は、7月15日までに「予定納税額の減額申請書」を税務署に提出し、承認されれば予定納税額は減額されます。
また、第2期では10月31日の時点の状況が条件に該当する場合には、11月15日までに書類を提出し、承認されることによって減額されます。
参照:No.2040 予定納税|国税庁
予定納税を滞納するとどうなるのか
予定納税の期限を過ぎてしまった場合には、延滞税が発生します。延滞税とは、期限の翌日から納税するまでにかかった日数に応じて発生する税金です。延滞が2ヶ月以下の場合は、以下のうち、低い方を1年あたりの延滞税率とします。
・7.3%
・延滞税特例基準割合 + 1%(令和5年は2.4%)
また、2ヶ月を過ぎた場合には、以下の低い方を1年あたりの延滞税率とします。
・14.6%
・延滞税特例基準割合 + 7.3% (令和5年は8.7%)
期限から2ヶ月以内の延滞に関しては、早目の納付を促すために、低い金利が定められています。「延滞税特例基準割合」とは、銀行の短期貸出約定にかかる平均金利から計算した割合であり、前の年の11月30日までに財務大臣によって告示されたものです。
また、事業廃止や災害・病気などの事情がある場合には、軽減もしくは免除されるケースがあります。
参照:No.9205 延滞税について|国税庁
延滞税・利子税・還付加算金について|国税庁
予定納税で還付加算金を受け取れるケース
予定納税で払い過ぎた場合には、払い過ぎた分に加え、利息である「還付加算金」を足した金額を受け取ることとなります。還付加算金の1年あたりの金利は、以下のうち低い方が採用されます。
・7.3%
・還付加算金特例基準割合 + 1%(令和5年は年0.9%)
銀行口座の金利と比べて比較的高い金利であるため、できるだけ還付加算金を受け取りたいと考える人も多くいます。予定納税額が過大と思われる場合であっても、減額申請せず、後で還付加算金をもらうことを検討してもいいでしょう。
納税準備預金とは?
納税準備預金とは、納税のための資金を預ける専用の口座を指します。基本的に納税の際にしか出金できませんが、納税のための資金を管理しやすいメリットがあります。
また、預金利息に対してかかる税金が免除されたり、金利が高く設定されていることが多かったりする点もメリットと言えます。計画的な納税をして、延滞税を支払うことを防ぎたいという方は、利用を視野に入れてもいいでしょう。
予定納税をした際の仕訳・勘定科目
予定納税は経費として計上することはできませんが、事業用の口座から支払った場合には仕訳を行います。
勘定科目
予定納税は事業とは関係ない支出であるため、個人事業主が個人的な支払いを行った際に使う勘定科目である「事業主貸」を使います。
仕訳
<例>予定納税として事業用の普通預金口座から10万円を支払った
借方 | 貸方 |
事業主貸 100,000 | 普通預金 100,000 |
予定納税をした際は、口座から引き落とされた日で上記の仕訳を行います。プライベート用の口座やカードを使って支払った場合や、プライベート用の財布から現金で支払った場合には、この仕訳は必要ありません。
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まとめ
所得税の予定納税は税務署から通知を受け取った個人事業主が行うものであり、将来支払うことになる所得税を分割して納付します。
予定納税額の納付が遅れると、遅れた日数分の延滞税が発生します。しかし、予定納税を払い過ぎてしまった場合には、加算金を含めた金額を還付として受け取ることが可能です。予定納税の仕組みを知り、期限内に適切に対応しましょう。
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