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出張手当の非課税ルールを徹底解説!会社の節税と従業員の手取りを最大化する出張旅費規程の作り方

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出張手当 非課税

もし、会社の税金と社会保険料の負担を合法的に減らし、同時に従業員の手取り額を増やせる制度があるとしたら、それは経営者として活用すべき賢い選択です。出張手当の非課税制度は、まさにそれを実現する、国が認めた有効な経営戦略といえます。

この記事を最後まで読めば、出張手当がもたらす絶大なメリットを数字で理解し、税務署にも認められる「出張旅費規程」を自社で作成・導入するための、具体的で実践的な知識をすべて手に入れることができます。

専門的な知識は不要です。本記事では、法律の根拠から規程の雛形、金額設定の相場まで、専門家が一つひとつ丁寧に解説します。あなたの会社でも、明日から着手できる再現性の高いノウハウを提供します。

出張手当とは?給与や経費精算とは根本的に異なるその正体

出張手当(日当)とは、業務のための出張に際して、交通費や宿泊費のように実費で精算される経費とは別に支給される手当のことを指します。

この手当の目的は、出張中に発生するであろう細かな個人的出費、例えば通常の勤務では発生しない外食費、家族や会社との連絡に必要な通信費、あるいは急な宿泊で必要になる備品や消耗品の購入費などを補填することにあります。

この出張手当が持つ最大の特徴は、給与や経費精算とは全く異なる税務上の扱いを受ける点です。その根拠は、所得税法第9条第1項第4号にあります。この法律では、会社が役員や従業員に支払う金品のうち、「その旅行に通常必要とされる支出に充てるもの」については所得税を課さないと定めています。

つまり、出張手当は労働の対価である「給与」ではなく、あくまで出張に伴う必要経費を補うための「実費弁償」という性質を持つものと解釈されるのです。この法的な位置づけこそが、出張手当が非課税となる理由です。

実際には、出張中に発生する細かな出費の領収書をすべて集めて精算するのは非現実的です。そのため、国は「出張旅費規程」という社内ルールに基づいて定額を支給する方法を認めています。これは、会社が合理的で公平なルールを整備することを条件に、経理処理の煩雑さを解消するための現実的な仕組みといえるでしょう。この「実費弁償」という考え方を理解することが、出張手当制度を正しく活用するための第一歩となります。

驚くべき三重のメリット!会社と従業員を豊かにする出張手当の導入効果

出張手当制度の導入は、単なる経費処理の効率化にとどまりません。会社、従業員、そして管理部門の三者それぞれに、具体的かつ大きな金銭的メリットをもたらします。

会社側のメリット 法人税・消費税・社会保険料のトリプル節税効果

会社にとって、出張手当は極めて強力な節税ツールとして機能します。

まず、法人税の節税効果です。支給した出張手当は、全額を「旅費交通費」として経費(損金)に算入できます。これにより会社の課税所得が圧縮され、結果として法人税、事業税、住民税の負担が軽減されます。

次に、消費税の節税効果も見逃せません。国内出張において支給される日当は、消費税法上「課税仕入れ」として扱われます。これは、会社が消費税を支払ったものとみなされ、納付する消費税額から控除(仕入税額控除)できることを意味します。

特筆すべきは、この扱いは領収書が不要な「出張旅費等特例」の対象であり、インボイス制度下においても、帳簿への記載のみで控除が認められるという大きなメリットがあります。

そして、最も見過ごされがちですが、最も強力なメリットの一つが社会保険料の削減です。出張手当は給与や賞与といった「報酬」には該当しないため、健康保険料や厚生年金保険料の算定基礎となる「標準報酬月額」に含まれません。

つまり、出張手当を支給しても、会社が負担する社会保険料は一切増えないのです。給与を上げる代わりにこの制度を活用すれば、会社の固定費を構造的に削減できます。

従業員側のメリット 所得税・住民税がかからない「手取りが増える」収入

従業員にとってのメリットは、非常にシンプルかつ直接的です。受け取った出張手当は、給与所得とは見なされないため、所得税や住民税の課税対象外です。手当の全額がそのまま従業員の手元に残ります。

また、前述の通り、出張手当は社会保険料の算定基礎から除外されるため、従業員が負担する保険料も増えません。

結果として、例えば会社が従業員に月1万円の報奨を与える場合、給与として1万円を昇給させるよりも、出張手当として支給する方が、税金や社会保険料が引かれない分、従業員の手取り額は格段に多くなります。これは従業員の生活を直接豊かにし、会社への貢献意欲を高める強力なインセンティブとなります。

管理部門側のメリット 経費精算の効率化と従業員満足度の向上

経理や総務といった管理部門にも、明確なメリットがあります。日当は規程に基づいた定額支給であるため、従業員は細かな費用の領収書を保管・提出する必要がありません。これにより、経理担当者の領収書のチェックや仕訳、振り込みといった一連の精算業務が大幅に削減され、業務の効率化が図れます。

同時に、従業員のモチベーション向上にも寄与します。出張は、長時間の移動や慣れない環境での業務など、従業員にとって心身ともに負担が大きいものです。出張手当を支給することは、その労苦に会社が金銭的に報いる姿勢を示すことになり、従業員の士気や満足度の向上に直接つながります。

これらのメリットを具体的に理解するために、以下のシミュレーションをご覧ください。

項目ケースA 給与を1万円増額ケースB 出張手当として1万円支給差額(B – A)
会社側の負担
支給額10,000円10,000円0円
社会保険料負担(概算)約1,500円0円-1,500円
合計コスト約11,500円10,000円-1,500円
従業員側の手取り
額面増加額10,000円10,000円0円
所得税・住民税(概算)-2,000円0円+2,000円
社会保険料負担(概算)-1,500円0円+1,500円
手取り増加額約6,500円10,000円+3,500円
※社会保険料率を約30%(労使折半で各15%)、所得税・住民税率を合計20%と仮定した場合の概算です。

この表が示すように、同じ1万円を原資としても、出張手当として支給する方が、会社はコストを抑えられ、従業員はより多くの手取りを得られるという、まさに「三方良し」の結果を生むのです。

全ての非課税メリットの礎石!「出張旅費規程」が絶対不可欠な理由

これまで述べてきた数々のメリットは、すべて「出張旅費規程」という社内規程が適切に整備され、運用されていることを大前提としています。この規程は、単なる推奨事項ではなく、制度を成立させるための絶対的な要件です。

なぜなら、税務署が出張手当を「給与」ではなく非課税の「実費弁償」として認めるための客観的な根拠が、この規程だからです。規程が存在し、それに従って運用されていることで、会社が特定の役員や従業員に恣意的に利益供与しているのではなく、全従業員に公平に適用される一貫したルールに基づいて支給していることを証明できます。

もし、出張旅費規程がないまま手当を支給したり、規程の内容から逸脱した運用をしたりした場合、税務調査で極めて高い確率でその支給が「給与」または「役員賞与」と認定されます。

給与と認定された場合、会社には以下のような深刻なペナルティが課されるリスクがあります。

  • 源泉所得税の追徴課税(遡って源泉所得税の納付を求められます)
  • 消費税の仕入税額控除の否認
    (控除した消費税額を追加で納付する必要があります)
  • 延滞税・過少申告加算税(納付遅延に対する罰金が課されます)

出張旅費規程は、税務調査の際に「この支払いは、我々が定めた公式なルールに基づく正当な経費です」と主張するための、いわば法的な盾の役割を果たします。この盾なくして、非課税という恩恵を受けることはできないのです。

【雛形付】税務署も納得する「出張旅費規程」作成方法

【雛形付】税務署も納得する「出張旅費規程」作成方法

それでは、実際に税務上の要件を満たす出張旅費規程を作成するための具体的な手順を、8つのステップに分けて解説します。各項目で記載すべき内容のポイントと例文も示しますので、自社の状況に合わせてカスタマイズしてください。

ステップ1 目的を定める

まず、この規程が何のために存在するのかを明確に記述します。通常は、会社の就業規則と関連付けて定義します。

記載例

第1条(目的)

この規程は、就業規則第〇条に基づき、役員または従業員が社命により業務のために出張する場合の手続き、および旅費の支給に関して定めるものである。

ステップ2 適用範囲を定める

この規程が誰に適用されるのかを明記します。税務上の公平性の観点から、原則として役員を含む全従業員を対象とすることが不可欠です。

記載例

第2条(適用範囲)

この規程は、当社のすべての役員および正社員に適用する。なお、契約社員、パートタイマー等であっても、所属長の承認を得て業務出張を行う場合は、本規程を準用する。

ステップ3 出張の定義を明確にする

どのような場合に「出張」とみなすのか、客観的で具体的な基準を設けます。これにより、手当を支給する・しないの判断が明確になります。一般的には、勤務地からの移動距離や宿泊の有無で定義します。

記載例

第3条(出張の定義)

この規程でいう出張とは、通常の勤務地を起点とし、目的地までの移動距離が片道100km以上の場所に赴き、職務を遂行する場合をいう。

ステップ4 旅費の種類と支給額を定める

支給する旅費の内訳を定義します。一般的には「交通費」「宿泊費」「日当」の3つが基本です。そして、この規程の核心部分である支給額を、役職などに応じて具体的に定めます。

記載例

第4条(旅費の種類)

この規程における旅費とは、交通費、宿泊費、日当をいう。

第5条(旅費の支給額)

旅費の支給額は、別表に定める役職区分に応じた金額とする。

ステップ5 出張中の勤務時間の扱いを定める

出張中はタイムカードでの勤怠管理が難しくなるため、勤務時間をどのように扱うかを事前に定めておきます。これにより、労務管理上のトラブルを防ぎます。

記載例

第6条(勤務時間)

出張期間中の勤務時間は、就業規則第〇条の定めに基づき、所定労働時間勤務したものとみなす。

ステップ6 申請・精算手続きを定める

出張の事前申請から事後精算までの一連の流れをルール化します。出張の事実を証明する証拠書類として、「出張申請書」や「出張報告書」の提出を義務付けることが重要です。

記載例

第7条(出張の手続き)

出張を命じられた者は、所定の「出張申請書」を事前に提出し、所属長の承認を得なければならない。帰社後5営業日以内に、「出張報告書」および「出張旅費精算書」を提出し、精算を行うものとする。

ステップ7 株主総会の承認を得る

特に役員への日当支給は、会社法上の利益相反取引と見なされる可能性があるため、その正当性を担保するために株主総会(株式会社の場合)で規程を承認し、その議事録を保管しておくことが強く推奨されます。これは税務調査に対する非常に有効な防御策となります。

ステップ8 労働基準監督署への届出と従業員への周知

出張旅費規程は、賃金や労働条件に関する定めとして就業規則の一部とみなされます。常時10人以上の従業員を使用する事業場では、就業規則の変更に該当するため、従業員代表の意見書を添付して所轄の労働基準監督署へ届け出る必要があります。また、届出の有無にかかわらず、規程の内容を全従業員に周知して初めてその効力が発生します。

項目記載内容のポイント
目的就業規則と連携させ、規程の目的を明記する。
適用範囲役員を含む全従業員を対象とし、公平性を担保する。
出張の定義「片道〇〇km以上」など、客観的で明確な基準を設定する。
旅費の種類交通費、宿泊費、日当など、支給する費用の内訳を定義する。
支給額役職や出張の種類(日帰り/宿泊、国内/海外)に応じた具体的な金額を別表などで定める。
勤務時間の扱い出張中の労働時間を「所定労働時間勤務とみなす」などと規定する。
申請・精算手続き申請書・報告書の様式や提出期限など、一連のフローを明確にする。
承認・届出株主総会の承認議事録を保管し、必要に応じて労基署へ届け出る。
周知全従業員がいつでも閲覧できる状態にし、規程の効力を確保する。

課税リスクを回避する生命線!「社会通念上、妥当な金額」の決め方

課税リスクを回避する生命線!「社会通念上、妥当な金額」の決め方

出張旅費規程を整備する上で、最も経営者が頭を悩ませるのが「日当や宿泊費をいくらに設定すればよいか」という点です。法律では「その旅行に通常必要と認められる範囲」としか定められておらず、明確な上限額は示されていません。

これは、国税庁が企業の規模、業種、出張の目的や地域の物価などを総合的に考慮して、個々のケースでその妥当性を判断するという姿勢の表れです。したがって、重要なのは「なぜこの金額に設定したのか」を客観的なデータに基づいて説明できることです。そのために、社会的な相場を把握しておくことが不可欠となります。

国内出張の日当・宿泊費の相場

複数の調査機関のデータを総合すると、国内出張の日当の相場は以下のようになっています。日帰り出張の日当は、一般社員で2,000円前後、役職が上がるにつれて少しずつ増え、役員クラスで3,000円から5,000円程度が一般的な範囲です。

宿泊出張の日当は、日帰りよりも滞在中の雑費が増えるため、若干高く設定される傾向にあります。一般社員で2,400円前後、役員クラスで3,000円から5,000円超が目安となります。

宿泊費は、実費精算とする場合でも、上限額を設けるのが一般的です。全国一律で8,500円から10,000円程度、実費の上限としては9,000円から12,000円程度を基準としている企業が多く見られます。

海外出張の日当・宿泊費の相場

海外出張は、渡航先(北米、欧州、アジアなど)の物価や為替レートによって生活費が大きく変動するため、国内出張よりも高額に設定するのが通常です。

海外出張の日当は、地域によって差はありますが、概ね4,500円から7,000円程度が相場とされています。例えば、物価の高い北米や欧州では5,500円前後、アジア地域では4,500円から5,000円前後が一つの目安となります。

高額すぎると判断されるリスク

これらの相場はあくまで目安です。自社の業種や出張の内容を考慮し、同業他社や同規模の企業の支給水準を参考にしながら、自社の基準を決定することが重要です。

もし、これらの相場から著しくかけ離れた高額な手当を設定した場合、税務調査でその妥当性が問われ、超過分が給与として課税されるリスクがあることを常に念頭に置いておく必要があります。金額設定の際には、その決定プロセスを議事録などで記録し、客観的な根拠を保管しておくことが賢明なリスク管理となります。

役職・種類国内日帰り日当国内宿泊日当海外日当(目安)国内宿泊費(上限目安)
一般社員2,000円~2,500円2,300円~3,000円4,500円~5,000円8,000円~9,000円
課長クラス2,400円~3,000円2,700円~3,500円5,000円~5,500円9,000円~11,000円
部長クラス2,600円~3,500円2,900円~4,000円5,500円~6,000円10,000円~13,000円
役員・社長3,000円~5,000円3,500円~6,000円6,000円~7,000円12,000円~15,000円
※上記は各種調査を基にした一般的な相場であり、企業の規模や業種によって変動します。

【事業形態別】一人社長・個人事業主の注意点と活用法

出張手当制度は、会社の事業形態によって活用法と注意点が異なります。特に、中小企業に多い「一人社長」と「個人事業主」のケースについて解説します。

一人社長(マイクロ法人)の場合

社長一人の会社、いわゆるマイクロ法人でも、出張手当制度を導入することは可能であり、節税メリットを最大限に享受できます。ただし、税務調査で否認されないためには、以下の点に細心の注意が必要です。

最大のポイントは、規程を「社長一人のため」に作らないことです。将来的に従業員を雇用する可能性を想定し、役職(例:代表取締役、取締役、部長、一般社員)ごとの支給額を階層的に設定しておくことが極めて重要です。社長だけの規程では、税務署から「社長個人への利益供与(役員賞与)」と見なされるリスクが高まります。

また、プライベートな旅行と区別するため、出張の事実を証明する証拠書類の作成と保管が通常以上に重要になります。「出張報告書」を作成し、出張の日時、目的、訪問先、業務内容などを具体的に記録しておくことで、架空出張の疑いを払拭できます。

個人事業主の場合

個人事業主の出張旅費の扱いには、法人と決定的な違いがあります。最も重要なルールは、個人事業主は事業主本人に対して、非課税の出張手当(日当)を支給することはできないという点です。個人事業では事業と個人が一体であるため、事業主への支払いは経費ではなく、単なる事業資金の移動と見なされます。したがって、事業主本人の出張にかかる旅費は、交通費や宿泊費などの実費精算でのみ経費計上が可能です。

一方で、個人事業主が雇用している従業員に対しては、法人と同様に出張旅費規程を定め、非課税の出張手当を支給することが認められています。

この違いは、出張が多い個人事業主にとって、法人化(法人成り)を検討する大きな動機の一つとなります。法人化すれば、自身(社長)も非課税の出張手当を受け取れるようになり、所得税・住民税・社会保険料の面で大きなメリットが生まれるからです。

まとめ

本記事で解説してきたように、出張手当の非課税制度は、単なる経費精算のルールではありません。正しく理解し、適切に運用することで、会社の財務体質を強化し、従業員の満足度を高めることができる、極めて有効な経営戦略です。

最後に、重要なポイントを再確認します。

出張手当は、法人税・消費税・社会保険料を削減し、従業員の手取りを増やす、会社と従業員の双方にとってメリットの大きい制度です。これらのメリットを享受するための絶対的な前提条件が、法的に有効な「出張旅費規程」の整備です。この規程なくして非課税の恩恵はありません。

そして、社会通念上の相場を参考に、自社の実態に合った「妥当な金額」を設定することが、税務リスクを回避し、制度を継続的に運用するための鍵となります。

出張手当の導入は、目先の支出は増えるかもしれませんが、それを上回る節税効果と従業員のモチベーション向上というリターンが期待できる戦略的な投資です。本記事が、貴社の成長を加速させるための一助となれば幸いです。

この記事の投稿者:

hasegawa

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