会計の基礎知識

合計残高試算表の書き方とは?見方から経営分析まで解説

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合計残高試算表 書き方

会社の数字が「わかる」から経営はもっと楽しくなる

「毎月の経理作業がただの数字の入力で終わっている」「帳簿が本当に合っているか不安になることがある」「会社の経営状況を数字でしっかり把握したい」。

もしあなたがそう感じているなら、合計残高試算表の作成は、その悩みを解決する最も確実な一歩です。

この記事を最後まで読めば、会計の専門家でなくても、プロが使うのと同じ正確な合計残高試算表を自力で作成できるようになります。合計残高試算表は、決算書である貸借対照表や損益計算書の土台となる、非常に重要な書類です。

「借方・貸方といった専門用語が難しそう」と感じるかもしれません。ご安心ください。この記事は、経理初心者の方のために、丁寧にわかりやすい言葉で解説します。

この記事に沿って進めるだけで、誰でも間違いなく、そして自信を持って合計残高試算表を完成させることができます。

目次

合計残高試算表とは?経理の精度を高める「健康診断書」

そもそも試算表がなぜ重要なのか

試算表とは、一言でいえば決算書を作成する前に、帳簿の記録が正しく行われているかを確認するための中間チェックシートです。日々の取引は、まず「仕訳帳」という日記のような帳簿に記録されます。

そして、その内容が勘定科目ごとに「総勘定元帳」という科目別のノートに転記(書き写し)されます。試算表は、この転記作業にミスがなかったかを検証するための重要なツールなのです。

会計の基本ルールである「複式簿記」では、すべての取引を「借方(かりかた)」と「貸方(かしかた)」という左右の側面から記録します。そして、最終的に借方の合計金額と貸方の合計金額は必ず一致しなければなりません。

この原則を「貸借平均の原理」と呼びます。試算表を作成し、借方と貸方の合計がぴったり一致すれば、仕訳や転記が正しく行われたことの証明になります。

もし一致しなければ、どこかに必ず間違いが潜んでいます。決算という年に一度の大仕事の直前に大量の間違いが見つかると大変です。そのため、毎月試算表を作成し、定期的に帳簿の「健康診断」を行うことで、問題を早期に発見し、修正することができるのです。

3種類の試算表を徹底比較!なぜ合計残高試算表が最強なのか

試算表には「合計試算表」「残高試算表」「合計残高試算表」の3つの種類があります。それぞれに役割がありますが、特に個人事業主や小規模な会社にとっては、合計残高試算表が最も使いやすく、有益です。それぞれの特徴を理解し、なぜ合計残高試算表がおすすめなのかを見ていきましょう。

合計試算表 取引の「総量」を把握する

合計試算表は、一定期間内に行われたすべての取引について、各勘定科目の借方合計と貸方合計をそれぞれ集計した表です。

この表の最大のメリットは、事業の活動規模(ボリューム)を把握できる点にあります。例えば、「現金」勘定を見れば、期間中にいくら入金があり(借方合計)、いくら出金があったか(貸方合計)が一目でわかります。

しかし、大きなデメリットとして、各科目の最終的な「残高」がわからないという点があります。現在の現金がいくら残っているかを知るには、借方合計から貸方合計を引き算する手間が必要です。そのため、会社の財産状況を瞬時に把握するには不向きです。

残高試算表 会社の「財産状況」を一目で確認する

残高試算表は、合計試算表とは対照的に、各勘定科目の最終的な「残高」のみを一覧にした表です。借方と貸方の金額を相殺し、残った金額だけを記載します。

この表のメリットは、シンプルで見やすく、会社の財政状態を直感的に理解できることです。資産がいくらあり、負債がいくらあるかといった情報がすぐにわかるため、決算書である貸借対照表や損益計算書を作成する際の元データとして非常に便利です。

一方で、取引の総額が記載されていないため、どのような経緯でその残高になったのかがわかりにくいというデメリットがあります。また、借方と貸方で同額の転記ミスがあった場合など、間違いに気づきにくいケースもあります。

合計残高試算表 取引総量と最終残高を両方見せる「完全版」

合計残高試算表は、その名の通り、合計試算表と残高試算表の機能を一つにまとめたハイブリッドな試算表です。各勘定科目について、「合計」の欄と「残高」の欄の両方が設けられています。

この表の最大のメリットは、取引の総額とその結果としての残高を同時に確認できる点です。例えば、「現金」勘定を見れば、期間中の入出金の総額と、現在の現金残高の両方を一つの表で把握できます。これにより、お金の流れの全体像と現在の財産状況を総合的に分析できるため、経営判断に最も役立ちます。

唯一のデメリットは、情報量が多いために表が少し大きくなることですが、得られるメリットはそれをはるかに上回ります。だからこそ、多くの実務でこの合計残高試算表が活用されているのです。

試算表の種類確認できる情報主な利用目的メリットデメリット
合計試算表各勘定科目の借方・貸方の合計額期間中の取引規模の把握、転記ミスの発見取引の全体像(ボリューム)がわかる最終的な残高がすぐにわからない
残高試算表各勘定科目の最終残高財政状態や経営成績の把握、決算書作成の基礎資料会社の財産状況が一目でわかる取引の途中経過がわからず、一部のミスに気づきにくい
合計残高試算表各勘定科目の合計額と最終残高の両方総合的な経営状況の把握と分析取引の規模と残高を同時に確認でき、分析に最適表が大きくなり、少し複雑に見えることがある

初心者でも完璧!合計残高試算表の書き方【5ステップ】

ここからは、実際に合計残高試算表を作成する手順を、5つのステップで具体的に解説します。この手順通りに進めれば、誰でも正確な試算表を作成できます。

ステップ0 すべての取引を仕訳し、総勘定元帳へ転記する

合計残高試算表の作成は、ゼロから始めるわけではありません。日々の会計処理の積み重ねが土台となります。試算表が合わない原因のほとんどは、このステップ0の段階でのミスにあります。

まず、仕訳(しわけ)です。発生したすべての取引を日付順に「仕訳帳」へ記録します。取引を「借方」と「貸方」の要素に分解し、適切な勘定科目と金額を記録する作業です。

次に、転記(てんき)です。仕訳帳に記録した内容を、勘定科目ごとに「総勘定元帳」へ書き写します。例えば、「現金」に関するすべての取引が、総勘定元帳の「現金」のページに集約されます。

合計残高試算表は、この総勘定元帳に集計された数字を基に作成します。したがって、日々の仕訳と転記を正確に行うことが、正しい試算表を作るための大前提となるのです。

ステップ1 勘定科目ごとに借方・貸方の「合計」を計算する

総勘定元帳を用意し、勘定科目ごと(例:現金、売掛金、買掛金など)に、借方欄の金額と貸方欄の金額をそれぞれ合計します。会計ソフトを使っている場合は、この集計は自動的に行われます。手書きやエクセルで管理している場合は、電卓で正確に計算しましょう。

ステップ2 合計金額を試算表の「合計」欄に転記する

ステップ1で計算した合計金額を、合計残高試算表の用紙の「合計」欄に書き写します。各勘定科目の借方合計を、試算表の「借方合計」の欄に転記します。各勘定科目の貸方合計を、試算表の「貸方合計」の欄に転記します。

ステップ3 勘定科目ごとに「残高」を計算する

次に、各勘定科目の「残高」を計算します。計算方法はシンプルです。借方合計と貸方合計を比べ、大きい方の金額から小さい方の金額を引きます。

借方合計の方が大きい場合、その差額が「借方残高」となります。貸方合計の方が大きい場合、その差額が「貸方残高」となります。一つの勘定科目に、借方残高と貸方残高の両方が同時に存在することはありません。必ずどちらか一方になります。

ステップ4 計算した残高を試算表の「残高」欄に転記する

ステップ3で計算した残高を、試算表の「残高」欄に書き写します。借方残高が出た場合は、「借方残高」の欄に金額を記入します。貸方残高が出た場合は、「貸方残高」の欄に金額を記入します。

ステップ5 最終行の「借方合計」と「貸方合計」が一致することを確認する

すべての勘定科目の転記が終わったら、最後の最も重要な確認作業です。試算表の一番下の合計行を計算します。「借方合計」列と「貸方合計」列、さらに「借方残高」列と「貸方残高」列のすべての金額を、それぞれ合計します。

このとき、「借方合計」の合計額と「貸方合計」の合計額が一致し、かつ「借方残高」の合計額と「貸方残高」の合計額が一致すれば、試算表は正しく作成できています。もし一致しなければ、ステップ0からステップ4のどこかに間違いがあります。

勘定科目借方残高借方合計貸方合計貸方残高
現金500,0001,500,0001,000,000
売掛金300,000800,000500,000
買掛金200,000600,000400,000
借入金1,000,0001,100,000100,000
元入金0500,000500,000
売上01,000,0001,000,000
仕入1,200,0001,200,0000
地代家賃700,000700,0000
合計2,700,0004,700,0004,700,0002,700,000

これで迷わない!経理の基本「借方・貸方」と「勘定科目」

これで迷わない!経理の基本「借方・貸方」と「勘定科目」

試算表の作成で初心者がつまずきやすいのが、「借方・貸方」の左右の区別と、「勘定科目」の選択です。この2つの基本をしっかり押さえましょう。

「借方(かりかた)」は左、「貸方(かしかた)」は右!簡単な覚え方

「借方」「貸方」という言葉の由来は複雑で、覚える上で実用的ではありません。大切なのは、「借方が左側、貸方が右側」というルールを確実に覚えることです。

ここで、非常に簡単で忘れにくい覚え方を紹介します。ひらがなで書いたときの文字の形に注目してください。「かりかた」の「り」は、字のハライが左を向いています。だから借方は左側です。一方、「かしかた」の「し」は、字のハライが右を向いています。だから貸方は右側です。

この覚え方を使えば、左右を間違うことはなくなるでしょう。

個人事業主・小規模法人がよく使う勘定科目一覧

取引の内容を適切な勘定科目に分類することも、正確な帳簿付けには不可欠です。どの勘定科目を使えばよいか迷ったときは、以下の表を参考にしてください。

大分類勘定科目具体例
資産現金、普通預金事業用の現金、銀行預金
売掛金商品やサービスを販売し、まだ受け取っていない代金
建物、車両運搬具事務所、店舗、事業用の自動車
負債買掛金商品や材料を仕入れ、まだ支払っていない代金
借入金金融機関などからの借金
未払金備品購入代金や経費で、まだ支払っていないもの
純資産元入金、資本金事業を始めるために用意した元手のお金
収益売上本業による商品販売やサービスの提供による収入
雑収入本業以外で得た収入(受取利息、補助金など)
費用仕入販売する商品の購入代金
給料賃金従業員に支払う給料や賞与
地代家賃事務所、店舗、駐車場の家賃
水道光熱費電気、ガス、水道の料金
通信費電話代、インターネット料金、切手代
接待交際費取引先との会食代、贈答品代
消耗品費文房具、コピー用紙、10万円未満の備品購入費
雑費他のどの科目にも当てはまらない少額の経費

合計が合わない!エラーの原因特定と修正のための探偵術

試算表の借方と貸方の合計が一致しないと、焦ってしまうかもしれません。しかし、原因は必ず見つかります。パニックにならず、落ち着いて以下の手順でチェックしていきましょう。

パニックにならないで!チェックすべき4つの基本ステップ

ステップ1 期首残高の確認

前期から繰り越された期首残高が間違っていると、いくら当期の入力を正しく行っても合計は合いません。まずは開始時点の数字が正しいかを確認しましょう。

ステップ2 総勘定元帳の再計算

単純な計算ミスは意外と多いものです。総勘定元帳の各科目の借方・貸方の合計を、もう一度計算し直してみてください。

ステップ3 仕訳帳から元帳への転記ミス確認

仕訳帳の記録を総勘定元帳へ転記する際に、以下のようなミスがなかったかを確認します。例えば、金額を書き間違えたり、借方と貸方を逆の欄に転記したりしていないか確認しましょう。また、転記そのものを忘れたり、逆に同じ仕訳を二重に転記したりしていないかもチェックポイントです。

ステップ4 仕訳そのものの間違い確認

大元である仕訳帳の記録が間違っている可能性もあります。借方と貸方の金額が一致していなかったり、勘定科目の選択が間違っていたりするケースです。

差額から原因を推測するテクニック

合計が合わないときの「差額」の数字は、ミスの原因を探る大きなヒントになります。

差額が9で割り切れる場合

桁の入力ミス(例:6,350円を635円と入力)や、数字の順番の入れ間違い(例:5,715円を7,515円と入力)の可能性が高いです。差額を9で割った数字や、その周辺の金額の取引を探してみましょう。

差額が2で割り切れる場合

借方と貸方を逆にして転記してしまった可能性があります。差額を2で割った金額の取引がないか確認してみてください。例えば差額が20,000円なら、10,000円の取引を借方に書くべきところを貸方に書いてしまった、というケースが考えられます。

差額が特定の取引額と一致する場合

その金額の取引の転記を忘れているか、逆に二重に転記してしまった可能性が高いです。

ただのチェック表で終わらせない!経営に活かす試算表の分析術

ただのチェック表で終わらせない!経営に活かす試算表の分析術

合計残高試算表を無事に作成できたら、それをただの「チェック表」で終わらせてはいけません。この表は、あなたの会社の経営状態を読み解くための宝の山です。

会社の収益性は大丈夫?「損益計算書」の項目をチェック

試算表の「費用」と「収益」に分類される勘定科目に注目すると、その時点での会社の利益状況がわかります。これは決算書の一つである「損益計算書」のミニチュア版です。

まずは「売上」です。目標としていた売上高に達しているか、前月や前年同月と比較して伸びているかを確認します。次に「経費(仕入、給料賃金、地代家賃など)」を見ます。売上に対して経費がかかりすぎていないか、突出して増えている費用項目はないかをチェックします。

最後に「利益の計算」です。収益の合計から費用の合計を差し引くことで、現時点での利益(または損失)を把握できます。

資金繰りは順調?「貸借対照表」の項目をチェック

試算表の「資産」「負債」「純資産」の項目は、会社の財政状態を示しており、「貸借対照表」の原型となります。資金繰りの状況を把握するために、特に以下の科目に注目しましょう。

特に注目すべきは「現預金」です。事業を回していくために十分な現金や預金が手元にあるかを確認します。会社の生命線です。次に「売掛金」も重要です。売上は立っているのに、回収が滞っていないかを確認します。売掛金の残高が増え続けている場合は注意が必要です。

さらに「買掛金・借入金」も確認しましょう。支払いや返済の負担が重くなっていないかを確認します。資産に対して負債の割合が高すぎると、資金繰りが悪化するサインです。

毎月試算表を作成し、これらの数字の推移を追っていくことで、問題が大きくなる前に手を打つことができます。さらに、金融機関から融資を受ける際、定期的に試算表を作成し、自社の経営状況をきちんと説明できる会社は、経理管理が行き届いていると判断され、信用が高まります。正確な試算表の作成スキルは、会社の成長を支える信頼の証となるのです。

まとめ 合計残高試算表をマスターして、自信の持てる経営を

この記事では、合計残高試算表の書き方から、その見方、経営への活かし方までを網羅的に解説しました。最後に、重要なポイントを再確認しましょう。

まず、試算表には3種類ありますが、取引の総額と残高を同時に把握できる合計残高試算表が最も実用的です。次に、作成は総勘定元帳から「合計」と「残高」を転記する5つのステップで完了します。正確な試算表の土台は、日々の正しい「仕訳」と「転記」にあります。

また、合計が合わないときは、差額の数字を手がかりに落ち着いて原因を探せば必ず見つかります。最後に、試算表は単なるチェックシートではなく、会社の収益性や資金繰りを分析するための経営ツールであることを理解しましょう。

合計残高試算表を毎月作成し、内容を読み解く習慣を身につけましょう。その習慣は、数字に基づいた的確な意思決定を可能にし、あなたのビジネスをより強く、安定した成長軌道に乗せるための最も確実な方法です。この記事を片手に、ぜひ今日から実践してみてください。

この記事の投稿者:

hasegawa

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