会計の基礎知識

実査とは?目的・流れ・監査や往査との違いをわかりやすく解説

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監査法人から「実査を行います」と連絡が来たとき、何をどう準備すればよいか不安に感じた経験はないでしょうか。実査の目的や流れを正しく理解していれば、当日の対応に余裕が生まれ、スムーズに監査を終えられます。

この記事では、実査の意味や目的から、具体的な手順、よく混同される「確認」「往査」「棚卸立会」との違いまでを体系的に解説します。経理担当者や公認会計士試験の学習者はもちろん、初めて監査を受ける方にも役立つ内容です。

実査とは

実査とは、監査人(公認会計士)が帳簿に計上されている資産の現物を、自ら直接・実地に確認する監査手続です。日本公認会計士協会では「資産の実在性を確かめるため、監査人自らが当該資産の現物を直接かつ実地に調査する監査手続」と定義しています。

たとえば、金庫に保管されている現金を監査人が実際に数えたり、有価証券の現物を目視で確認したりする手続きが実査にあたります。帳簿上の数字だけでなく、実物を自分の目で確かめるため、監査証拠の中でも特に証明力が高い手続きとされています。

実査の目的

実査の最大の目的は、資産の実在性を確認することです。帳簿に「現金100万円」と記載されていても、金庫の中に本当に100万円があるとは限りません。実査を行うことで、帳簿と実態のずれを発見できます。

実査には次のような目的があります。

  • 資産が実際に存在するかを確認する(実在性の検証)
  • 帳簿残高と現物の数量が一致しているかを確かめる
  • 資産の保全状態や管理体制を評価する
  • 不正や横領の兆候がないかを確認する

実査は単なる数合わせではなく、企業の内部統制が適切に機能しているかどうかを評価する機会でもあります。

実査の対象となる資産

実査の対象になるのは、現物を目で確認できる資産です。特に換金性が高い資産は、不正リスクが高いため優先的に実査が行われます。

代表的な実査対象は次のとおりです。

  • 現金(手許現金、小口現金)
  • 受取手形、小切手
  • 有価証券(株券、社債券など)
  • 預金証書、定期預金証書
  • 固定資産(機械、設備、車両、備品など)
  • その他の換金性資産(ゴルフ会員権証書、金地金など)

これらの資産のうち、現金と有価証券は換金性が特に高いため、同じタイミングで同時に実査を行うのが原則です。片方だけ先に実査すると、資産を入れ替えて不正を隠す余地が生まれてしまうためです。

実査と他の監査手続きとの違い

実査は監査手続きの1つですが、似た名前の手続きがいくつかあり、混同されがちです。ここでは、特に間違えやすい「確認」「往査」「棚卸立会」との違いを整理します。

実査と確認の違い

確認とは、銀行や取引先などの第三者に対して文書で照会し、回答を得る監査手続です。たとえば、銀行に「この会社の預金残高はいくらですか」と問い合わせ、回答書を受け取ります。

一方、実査は監査人が自ら現物を直接確認する手続きです。第三者への照会は行いません。

両者の決定的な違いは「誰が確認するか」です。実査は監査人本人が目で見て確かめますが、確認は第三者からの回答に依拠します。実査のほうが監査証拠としての信頼性が高いとされるのは、監査人自身が直接検証するためです。

実査と往査の違い

往査とは、監査人が企業の事務所や工場などの現地に出向いて行う監査活動全般を指す言葉です。往査は「行為」を指す上位概念であり、実査は往査で行う具体的な「手続き」にあたります。

つまり、往査の中で実査を行うという関係です。監査人が企業に出向く(往査)際に、帳簿の閲覧や担当者への質問に加えて、現金や固定資産の現物確認(実査)も実施するのが一般的な流れです。

往査では実査以外にも、帳簿の閲覧、担当者への質問、関連書類の検査など、さまざまな監査手続きを組み合わせて実施します。

実査と棚卸立会の違い

棚卸立会とは、企業が行う在庫の棚卸作業に監査人が立ち会い、棚卸手続きの適切性を確認する監査手続です。

実査との大きな違いは、主体と方法にあります。

  • 実査:監査人が自ら資産の現物を数えて確認する
  • 棚卸立会:企業が在庫を数える作業を監査人が観察し、一部をテストカウント(抜き取り確認)する

棚卸立会では、在庫の数が膨大なため全数を監査人が数えることは現実的ではありません。そのため、企業側が棚卸を行い、監査人はその手続きが正しく行われているかを観察します。一方、実査は現金や有価証券など数量が限られた資産に対して行うため、監査人自身が全件を確認するのが基本です。

実査と監査の違い

監査は、財務諸表の全体が適正に作成されているかどうかを検証する活動の総称です。実査はその監査の中で使われる具体的な手続きの1つです。

監査では、実査のほかにも確認、閲覧、質問、分析的手続きなど、さまざまな手続きを組み合わせて証拠を集めます。実査はあくまで監査を構成するパーツの1つであり、監査全体を指す言葉ではありません。

実査の種類

実査は対象資産によっていくつかの種類に分かれます。代表的な3つの実査について、それぞれの特徴と進め方を解説します。

現金実査

現金実査は、実査の中で最も基本的かつ重要な手続きです。金庫やレジに保管されている現金を監査人が実際に数え、帳簿残高と一致するかを確認します。

現金実査のポイントは次のとおりです。

  • 期末日の営業終了後、またはその直後に実施する
  • 金種(1万円札、5千円札、硬貨など)ごとに枚数を数える
  • 現金出納帳の残高と照合する
  • 金庫内の仮払金や借用書なども同時に確認する

現金は最も横領リスクが高い資産であるため、予告なしに実施する「抜き打ち実査」が行われることもあります。企業側は日常的に現金管理を適切に行い、帳簿との整合性を保つことが大切です。

有価証券実査

有価証券実査は、企業が保有する株券、社債券、受取手形、小切手などの有価証券の現物を確認する手続きです。

有価証券は現金と同様に換金性が高いため、現金実査と同時に実施するのが原則です。これは、実査の時間差を利用して資産を移し替える不正を防ぐためです。

確認する項目は、銘柄、数量、額面金額、保管場所などです。有価証券管理台帳と現物を照合し、帳簿に計上されているすべての有価証券が実際に存在するかを確認します。

固定資産実査

固定資産実査は、企業が保有する機械設備、車両、パソコン、什器備品などの有形固定資産が実際に存在するかを確認する手続きです。

固定資産は現金や有価証券と比べて数が多く、工場や倉庫などの複数拠点に分散していることも少なくありません。そのため、固定資産台帳(現物台帳)をもとに、代表的な資産を抽出して現物確認を行うことが一般的です。

確認のポイントは、資産番号が台帳と一致しているか、実際に使用されているか、廃棄済みの資産が帳簿に残っていないか、などです。固定資産管理シールを貼付している企業では、シールの有無も確認対象になります。

実査の流れと手順

実査は、事前準備、当日の実施、事後の確認という3段階で進みます。それぞれの段階で必要な作業を解説します。

事前準備

実査を円滑に進めるためには、事前の準備が欠かせません。監査人側と企業側でそれぞれ準備すべき内容があります。

監査人側の準備として、実査対象の資産リストを確認し、帳簿残高を把握します。前期の実査調書があれば、前回の指摘事項や改善状況も確認しておきます。

企業側の準備として、現金出納帳の記帳を最新の状態にしておくことが最も重要です。また、金庫の鍵を持つ担当者のスケジュール調整、有価証券や固定資産の管理台帳の整備なども必要です。

実査の日時は事前に通知されることが一般的ですが、現金実査については抜き打ちで行われるケースもあります。日頃から帳簿と現物の整合性を保っておくことが最善の準備です。

当日の実施手順

実査当日の一般的な流れは次のとおりです。

  • 監査人が企業を訪問し、実査の範囲と手順を説明する
  • 対象資産の保管場所に移動する(金庫、倉庫など)
  • 現物を直接数え、帳簿残高と照合する
  • 差異がある場合は原因を調査する
  • 実査調書(実査表)を作成し、確認者のサインを得る

実査では、企業の担当者が同席するのが通常です。監査人から質問があった場合は、正確に回答できるよう、担当者は実査対象の資産について十分に把握しておきましょう。

実査調書の作成

実査が終わったら、監査人は実査調書(ワーキングペーパー)を作成します。実査調書には次の内容を記録します。

  • 実査の実施日時と場所
  • 実査した資産の種類と数量
  • 帳簿残高との照合結果
  • 差異があった場合の内容と原因
  • 立会者の氏名とサイン

実査調書は監査証拠として保管され、監査報告書の根拠となる重要な文書です。正確かつ詳細な記録が求められます。

企業側が実査で注意すべきポイント

実査を受ける企業側にとっても、事前の準備と当日の対応が重要です。スムーズな実査のために押さえておきたいポイントを紹介します。

日常的な資産管理の徹底

実査で最も問題になるのは、帳簿と現物の不一致です。日頃から正確な記帳と現物管理を行っていれば、実査当日に慌てる必要はありません。

具体的には、次の点を意識しましょう。

  • 現金の入出金は即日で記帳する
  • 固定資産の取得・廃棄は速やかに台帳に反映する
  • 有価証券の保管場所と管理担当者を明確にする
  • 定期的に社内での自主点検を実施する

実査当日の対応

実査当日は、監査人の質問に正確に回答できる担当者が立ち会うことが大切です。経理責任者や現金管理の担当者など、実査対象の資産に精通した社員を確保しましょう。

また、金庫の鍵やセキュリティの解除など、現物にアクセスするための準備も事前に整えておきます。監査人が到着してから鍵が見つからないといった事態は、時間のロスになるだけでなく、内部統制への不安を招く要因にもなります。

監査人からの指摘事項があれば、真摯に受け止め、改善策を検討しましょう。指摘への迅速な対応は、監査法人との信頼関係を築くうえでも重要です。

内部統制の整備

実査は、資産の実在性だけでなく、企業の内部統制の有効性を評価する機会でもあります。監査人は実査を通じて、現金管理のルールが守られているか、承認手続きが適切に運用されているかなどを観察します。

内部統制を整備するためのポイントは次のとおりです。

  • 現金の取り扱いに関するルールを文書化する
  • 現金の保管と記帳は別の担当者が行う(職務分掌)
  • 定期的に上長が現金残高を確認する仕組みを作る
  • 固定資産の取得・廃棄には承認フローを設ける

こうした内部統制が整備されていれば、実査の結果も良好になりやすく、監査全体がスムーズに進みます。

実査に関するよくある疑問

実査は必ず期末日に行うのか

原則として、実査は期末日またはその直後に実施します。期末日時点の帳簿残高と現物を照合する必要があるためです。

ただし、現金実査については期中に抜き打ちで行われることもあります。期中に実施する場合は、実査日から期末日までの取引記録を追跡し、期末日時点の残高と整合させます。

抜き打ち実査はあるのか

あります。特に現金実査では、予告なしに実施する抜き打ち実査が有効な手法とされています。事前に通知すると、不正があった場合に証拠を隠される恐れがあるためです。

抜き打ち実査は不正防止の観点から効果的ですが、企業側の業務に支障をきたす可能性もあるため、監査人は状況を見て判断します。企業側としては、抜き打ちに備えて日常的な管理を徹底しておくことが最善の対策です。

M&Aにおける実査とは

M&A(合併・買収)の場面でも実査は行われます。買収候補企業のデューデリジェンス(企業調査)の一環として、対象企業の資産が実際に存在するかを確認するために実施されます。

M&Aにおける実査では、帳簿上の資産が本当に存在するか、使用可能な状態にあるか、帳簿価額が適正かなどを確認します。特に製造業では工場や設備の状態確認が重要となり、不動産では物件の現地確認が欠かせません。

M&Aの実査は、会計監査の実査とは目的が異なりますが、「現物を直接確認する」という手法は共通しています。

まとめ

実査とは、監査人が資産の現物を直接・実地に確認する監査手続です。帳簿上の数字と実際の資産の一致を確かめることで、資産の実在性を検証します。

実査と混同されやすい手続きとして、確認(第三者への照会)、往査(現地に出向く行為全般)、棚卸立会(在庫棚卸への立ち会い)がありますが、それぞれ主体や方法が異なります。実査は監査人が自ら現物を数えて確認する点が最大の特徴です。

企業側が実査に備えるには、日常的な資産管理の徹底と内部統制の整備が欠かせません。帳簿と現物の整合性を日頃から保ち、実査当日に対応できる体制を整えておきましょう。

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