所得に応じた金額で収める所得税は、計算方法や適用される税率・控除額を正しく理解したうえで計算する必要があります。そこで今回は、所得税の計算方法を3つのステップに分けてわかりやすく解説します。最新の税率や控除額も早見表でご紹介していますので、ぜひ参考にしてみてください。
目次
そもそも所得税とは?
所得税とは、毎年1月1日~12月31日までの間に得た「所得」にかかる税金のことです。所得が発生する人は、所得税の納付が義務付けられています。
給与などで得た収入から給与所得控除や配偶者控除など各種所得控除を差し引いた金額のことを「課税所得金額」と呼びます。そうして算出した所得に一定の税率をかけた金額が、実際に納める所得税の金額となります。税率の仕組みとしては、所得金額に応じて高くなっていく「超過累進税率」が採用されています。所得が多ければ納める所得税額は高く、所得が低ければ納める所得税額は低くなるという仕組みです。
なお、所得は給与や不動産収入など「収入を得た方法」に応じて10種類に分類されています。所得の種類によって、所得税の計算方法が変わります。
参照: 所得の種類と課税方法|国税庁
所得税の種類
所得税は2種類に分けられており、それぞれ納税方法が異なります。
●申告所得税
申告所得税とは、個人事業主や副業をしている場合に納める所得税です。納税者本人がその仕事で得た分の所得を算出したうえで、納税額を確定させる必要があります。
●源泉所得税
源泉所得税とは事業者が従業員の代わりに税額を算出し、毎月の給与から天引きしている所得税のことです。天引きされた源泉所得税は、翌月10日までに事業者から税務署へ納付されます。そして毎年12月、実際に納めた税額と本来納めるべき税額のズレを確認し、差額があれば従業員へ還付したり追徴したりします。この調整のことを、「年末調整」と呼びます。
2037年まで徴収される「復興特別所得税」とは?
所得税に関わる税金のひとつとして覚えておきたいのが、「復興特別所得税」です。東日本大震災の復興に必要な財源を確保するため、2013年~2037年まで徴収されます。
復興特別所得税は「課税所得金額」から配当控除等を差し引いた「基準所得税額」の2.1%を納めることになっており、例えば基準所得税額が15万円だった場合の復興特別所得税額は3,150円となります。
所得税の計算方法とは?
所得税を求める際の計算式は、以下の通りです。
課税所得金額×所得税率-控除額=基準所得税額 |
最初に収入から経費や各種所得控除を引いて、「課税所得金額」を求めます。その課税所得金額に、一定の所得税率をかけて基準所得税額を算出するということです。
先述の通り、所得税の税率を決めるのは「超過累進課税」という仕組みです。一定の所得金額に応じて7段階の税率に区分されており、一定の所得金額を超過した分だけ高い税率が適用されます。
なお、累進課税の仕組みとしては超過累進税以外にも「単純累進課税」というものがあります。所得金額が一定の額を超えた場合、超過分だけでなく所得金額の全体に高い税率が適用されるという仕組みです。しかし同じ区分の中でも所得の低い方にかかる負担が大きいことから、公平性を保つために所得税では使われていません。
具体的にどのようにして所得税額を算出するのか、「給与所得」の場合における計算法方法を以下より詳しく解説します。
ステップ1. 給与所得の計算
課税所得金額を計算をするには、まず所得金額を算出する必要があります。所得は所得税法で10種類に区分されていますが、今回はその1つである「給与所得」について説明します。給与所得とは、自分を雇用している事業者から受け取った給与・賞与・役員報酬などの収入から「給与所得控除額」を差し引いたものです。
給与所得控除額とは、事業者の所得を算出する際に差し引かれる経費にあたります。収入の金額によって、以下の通り控除額が決められています。
給与等の収入金額 (給与所得の源泉徴収票の支払金額) | 給与所得控除額 |
1,625,000円まで | 550,000円 |
1,625,001円から1,800,000円まで | 収入金額×40%-100,000円 |
1,800,001円から3,600,000円まで | 収入金額×30%+80,000円 |
3,600,001円から6,600,000円まで | 収入金額×20%+440,000円 |
6,600,001円から8,500,000円まで | 収入金額×10%+1,100,000円 |
8,500,001円以上 | 1,950,000円(上限) |
例えば年間の給与収入が300万円だった場合の給与所得は、上記の控除額を参考にしながら以下2つの計算式で求めます。
⑴給与所得控除額の算出
300万円×0.3(30%)+8万円=98万円 |
⑵給与所得の算出
300万円-98万円=202万円 |
つまり、給与所得は202万円になるということです。
ステップ2. 課税所得金額の計算
給与所得を算出したら、それを参考に課税所得金額を求めます。課税所得とは、給与所得から基礎控除・配偶者控除・医療費控除・生命保険料控除などを差し引いた金額のことです。
例えば「基礎控除(合計所得金額が2,500万円以下であれば誰でも対象)」の場合、一定の合計所得金額に応じて4段階の控除額が決められています。
納税者本人の合計所得金額 | 控除額 |
2,400万円以下 | 48万円 |
2,400万円超2,450万円以下 | 32万円 |
2,450万円超2,500万円以下 | 16万円 |
2,500万円超 | 0円 |
給与所得が202万円(給与収入300万円)の場合は48万円の基礎控除が適用されるため、課税所得金額は以下の計算式で算出します。
300万円-48万円=252万円 |
課税所得金額は252万円となり、これに所得税率をかければ所得税額を算出できます。
ステップ3. 基準所得税額の計算
ステップ2で算出した課税所得金額と7段階に区分された所得税率を参考に、基準所得税額を求めます。税率の詳細は後述しますが、課税所得金額が252万円の場合は10%の税率と9万7,500円の控除を適用し、以下の計算式で算出します。
252万円×0.1(10%)-9万7,500円=15万4,500円 |
つまり、基準所得税は15万4,500円となります。
所得税の税率改定による影響はある?
2014年までの税率区分は、現在と少し異なる区切り方をされていました。2014年までは一定の所得金額ごとに6段階で区切られていましたが、2015年に施行された税制改正により区分の枠が増えて7段階に変更となっています。
●2014年まで
課税所得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000円 から 1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円 から 3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円 から 6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円 から 8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円 から 17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円以上 | 40% | 2,796,000円 |
●2015年以降
課税所得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000円 から 1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円 から 3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円 から 6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円 から 8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円 から 17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円 から 39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円 以上 | 45% | 4,796,000円 |
2015年からは、課税所得金額が4千万円以上の高所得者のみ所得税が引き上げられたことが分かります。ただし他の区分は従来と変わらないため、4千万円以上の所得者以外に影響は及びません。
また、2千万円以上の給与所得者は企業で源泉徴収を行わず個人で確定申告をする必要があります。そのため、4千万円以上の給与所得者がいる企業でも税率の改定による影響は出ないと考えて良いでしょう。
とはいえ、所得税は少しの計算ミスで納税者へ過剰に大きな負担を強いることとなる恐れがあります。そのため、税額を算出する際は課税所得額とそれに適用される税率を間違えないよう十分な注意が必要です。
所得税率について注意すべきポイントとは?
2015年から現在(2022年)に至るまで所得税率の改正に伴う大きな影響はありませんが、将来的に所得税の算出に大きく関わる税制改正が実施される可能性があります。その可能性を踏まえ、以下2つのポイントに注意しながら所得税を計算することが大切です。
正しい所得税率の適用
所得税率は超過累進課税の仕組みに基づいて適用しますが、超過した所得金額にそれぞれ税率をかけて計算するとミスをしやすくなります。そのため、早見表を参考に所得金額と正しい税率を照らし合わせて算出しましょう。
適用する所得税率の区分を1段階誤るだけでも、決して少なくない誤差が生じます。算出した後は適用した税率や控除額に誤りがないかを必ず確認しましょう。
なお、所得税の計算を誤ると本来納めるべき金額通りに納税できないだけでなく、別途確定申告が必要となる場合もあります。
最新の内容や適用額の確認
税率が改定されても大きな影響がない現状に油断せず、毎年の税制改正について必ず情報をチェックしておきましょう。基礎控除や給与所得控除などが見直された2020年の税制改正のように、業務へ大きな影響を与える改正が施行される可能性は捨てきれないからです。
基本的に控除は自己申告制となっており、正しく適用すれば節税効果にもつながる重要なポイントです。税制改正の際は税率だけでなく、最新の控除額も確認を怠らないように心がけましょう。
まとめ
所得税とは、給与所得や事業所得などの「所得」に課される税金です。年間の収入から経費や給与所得控除などを差し引いた課税所得金額に、一定の税率をかけてから各種控除額を差し引いた金額が実際に納める所得税となります。なお、所得税率は超過累進課税という仕組みが適用されており、所得が多ければ所得税率は高く、所得が少なければ所得税率は低くなることが特長です。2015年から所得税率は改正されましたが、基本的に4千万円以上の所得者にのみ関わる改正のため企業の業務に大きな影響は及びません。ただし税制改正は毎年行われており、税率や控除額が見直される可能性は今後も付いて回ります。最新情報はしっかりと確認のうえ、正しく所得税を算出できるようにしましょう。
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