
毎月の売上には一喜一憂しているものの、結局一年間でどれだけ儲かったのか、なぜ利益が思ったように残らないのか、その根本原因を明確に説明できるでしょうか。
多くの経営者や事業責任者が抱えるこの漠然とした不安を解消し、憶測ではなく事実に基づいた経営判断を下すための強力な武器が損益計算書(PL)です。
この書類は、単なる税務申告のための面倒な作業ではありません。あなたの会社の収益構造を解き明かし、未来の利益を最大化するための戦略的な羅針盤なのです。
この記事を読み終える頃には、あなたは自社の損益計算書をただ眺めるだけでなく、会社の強みと弱点を的確に読み解き、次の一手を打つための戦略的な羅針盤として活用できるようになります。
売上をどう伸ばすか、どのコストを削減すべきか、そして事業が本当に健全な状態にあるのかを、自信を持って判断できるようになるでしょう。
「会計の専門用語は難しそう」「数字は苦手だ」と感じるかもしれません。ご安心ください。この記事では、複雑な概念を一つひとつ丁寧に、具体的な事例を交えながら解説します。
専門家でなくても理解できるよう、平易な言葉で説明を進めていきますので、誰でも自社の経営状態を深く理解するための第一歩を踏み出すことができます。
目次
そもそも損益計算書(PL)とは?会社の1年間の成績表を理解する
損益計算書は、英語の「Profit and Loss Statement」の頭文字をとって「PL(ピーエル)」とも呼ばれます。これは、会社のある一定期間(通常は1事業年度)における経営成績を示す決算書の一つです。一言でいえば、会社の「経営成績表」のようなもので、「その期間にどれだけ儲かったか(または損をしたか)」を明らかにするための書類です。
損益計算書の三つの基本要素
損益計算書の構造は非常にシンプルです。それは「収益」「費用」「利益」という三つの基本要素で構成されています。この関係性は、以下の基本的な式で表すことができます。
収益 – 費用 = 利益
この式が損益計算書の核となる考え方です。収益とは、会社が事業活動を通じて稼いだお金の総額です。主なものは、商品やサービスの提供によって得られる「売上高」です。
費用とは、収益を得るために使ったお金のことです。商品の仕入れ代金や、従業員の給与、事務所の家賃などがこれにあたります。
そして利益とは、収益から費用を差し引いて、最終的に会社の手元に残った儲けです。この利益がマイナスになった場合は「損失(赤字)」となります。
フローとストック 損益計算書(PL)と貸借対照表(BS)の決定的な違い
ここで、多くの人が混同しがちな「貸借対照表(BS)」との違いを明確にしておきましょう。この二つの書類は、会社のお金の状態を示す点で共通していますが、その視点が根本的に異なります。
損益計算書(PL)は、ある一定期間におけるお金の「流れ」を示す「フロー」の書類です。例えば、「4月1日から翌年3月31日までの一年間で、どれだけの収益があり、どれだけの費用がかかり、結果としてどれだけの利益が出たか」という、いわば経営活動の動画のようなものです。個人の家計に例えるなら、「去年一年間の年収はいくらだったか?」という問いに答えるのがPLです。
一方、貸借対照表(BS)は、決算日という特定の一時点で、会社がどれだけの財産(資産)を持ち、どれだけの借金(負債)を抱えているかという財政状態を示す「ストック」の書類です。
これは、ある瞬間の財産状況を切り取った静止画(スナップショット)に例えられます。個人の家計で言えば、「現時点で、貯金や不動産はいくらあり、ローンはいくら残っているか?」という問いに答えるのがBSです。
この二つの書類は独立しているわけではなく、密接に連携しています。PLで計算された最終的な利益である当期純利益は、BSの純資産の部にある利益剰余金として蓄積されていきます。
つまり、毎年の経営成績(PL)が積み重なって、会社の財産(BS)を形成していくのです。このつながりを理解することで、短期的な収益性(PL)が、いかに長期的な会社の価値(BS)に影響を与えるかが見えてきます。
損益計算書の「5つの利益」を読み解く

損益計算書は、一番上の「売上高」から始まり、段階的にさまざまな費用を差し引いていくことで、性質の異なる5つの利益を算出する構造になっています。この構造は、まるで滝の水が上から下に流れるように見えることから「ウォーターフォール構造」とも呼ばれます。この5つの利益を順番に見ていくことで、会社がどこで利益を生み、どこで費用を使っているのか、その物語を読み解くことができます。
売上総利益(粗利):商品・サービスの「稼ぐ力」の源泉
損益計算書で最初に登場する利益が「売上総利益」です。一般的に「粗利(あらり)」とも呼ばれ、ビジネスの基本となる利益です。
売上総利益 = 売上高 – 売上原価
売上総利益は、提供している商品やサービスそのものが持つ基本的な収益力を示します。人件費や家賃といった間接的な経費を考慮する前の、純粋な商品・サービスの競争力を測る指標です。
売上高は本業の事業活動によって得られた収益の合計、売上原価は売れた商品やサービスに直接かかった費用のことです。小売業であれば商品の仕入代金、製造業であれば原材料費や製造ラインの人件費が該当します。
営業利益:会社の本業における「実力」
次に算出されるのが「営業利益」です。これは、会社が本業でどれだけ稼いだかを示す、非常に重要な利益です。
営業利益 = 売上総利益 – 販売費及び一般管理費(販管費)
営業利益は、会社の本業から生み出された利益を表します。この利益を見ることで、その会社が主軸とする事業でしっかりと儲ける力、すなわち「本業で儲ける力」があるかどうかを判断できます。営業利益が安定してプラスであることは、健全な事業運営ができている証です。販売費及び一般管理費(販管費)には、営業部門や管理部門の従業員の給与、事務所の家賃、広告宣伝費、水道光熱費などが含まれます。
経常利益:会社の「総合的な収益力」
「経常利益」は、会社の実力を総合的に判断する上で非常に重要な指標です。銀行が融資審査の際に最も重視する利益としても知られています。
経常利益 = 営業利益 + 営業外収益 – 営業外費用
経常利益は、本業の儲けである営業利益に、財務活動など本業以外の経常的な損益を加味した利益です。これにより、会社全体の「総合的な収益力」を測ることができます。営業外収益には預金の受取利息や不動産からの家賃収入が、営業外費用には金融機関からの借入金に対する支払利息などが該当します。
税引前当期純利益:臨時的な損益を含んだ利益
次に、その期に発生した特別な事情を反映させた利益が「税引前当期純利益」です。
税引前当期純利益 = 経常利益 + 特別利益 – 特別損失
これは、法人税などの税金を支払う前の、その期のすべての収益と費用を計算した後の利益です。経常的な活動に加えて、突発的・臨時的な出来事による損益も含まれます。特別利益とは、長年保有していた土地や建物を売却して得た利益(固定資産売却益)などです。特別損失には、災害による損失や、リストラに伴う退職金の支払いなどがあたります。
当期純利益:会社に最終的に残る「手取り」
最後に計算されるのが、損益計算書の最終ゴールである「当期純利益」です。
当期純利益 = 税引前当期純利益 – 法人税等
当期純利益は、その会計期間における最終的な会社の儲けです。「純利益」とも呼ばれ、すべての費用と税金を支払った後に、最終的に会社に残った利益を指します。この利益が、会社の内部留保として蓄積されたり(利益剰余金)、株主への配当の原資となったりします。そして、この金額が貸借対照表の純資産を増加させることになります。
利益の「間」に隠された物語を読む
損益計算書の分析力を高める秘訣は、個々の利益額を見るだけでなく、利益と利益の「差額」に注目することです。この差額が、会社の経営課題を雄弁に物語っています。
例えば、売上総利益は高いが営業利益が低い場合、商品やサービス自体の収益性(粗利率)は高いものの、販管費(人件費、家賃、広告費など)を使いすぎていることを示唆します。製品力はあるのに、販売・管理活動が非効率である可能性が高いです。
また、営業利益は高いが経常利益が低い場合はどうでしょうか。これは、本業は好調であるにもかかわらず、多額の借入金があり、その支払利息(営業外費用)が利益を圧迫している状況が考えられます。事業そのものではなく、財務構造に課題があることを示しています。
逆に、経常利益は低いが当期純利益が高い場合もあります。これは、会社の経常的な収益力は低いものの、固定資産の売却など、一時的な特別利益によって最終利益が押し上げられている状態です。
持続可能な利益の出し方ではないため、来期以降の業績に注意が必要です。このように、5つの利益を比較分析することで、単に「儲かった」「損した」という結果だけでなく、その原因がどこにあるのかを診断することができるのです。
損益計算書を分析する技術:会社の強みと弱点をあぶり出す

損益計算書に並んだ数字をただ眺めるだけでは、経営に活かすことはできません。いくつかの簡単な分析手法を用いることで、数字の裏に隠された自社の強みと弱点を客観的に把握することができます。
収益性分析 3つの利益率で会社の健康状態をチェックする
利益の絶対額も重要ですが、売上高に対してどれくらいの割合の利益が出ているかを示す「利益率」を計算することで、企業の収益効率を評価できます。これにより、過去の業績や同業他社との比較が可能になります。
売上高総利益率(粗利率)
売上高総利益率 (%) = (売上総利益/売上高) × 100
この比率は、商品やサービスの基本的な収益性を示します。比率が低い場合、販売価格が安すぎるか、仕入や製造のコスト(売上原価)が高すぎる可能性があります。
売上高営業利益率
売上高営業利益率 (%) = (営業利益/売上高) × 100
この比率は、本業の収益効率を示します。比率が高いほど、販売活動や管理業務が効率的に行われていることを意味し、経営の巧みさを表す指標と言えます。
売上高経常利益率
売上高経常利益率 (%) = (経常利益/売上高)× 100
この比率は、財務活動も含めた、会社全体の総合的な収益力を示します。企業の持続的な収益力を判断する上で、非常に重要な指標です。これらの比率を自社の過去の数値と比較して改善しているかを確認するだけでなく、業界平均と比較して自社の立ち位置を把握することが重要です。
| 業種 | 売上高経常利益率の目安 |
| 建設業 | 4.92% |
| 製造業 | 4.45% |
| 情報通信業 | 5.91% |
| 卸売業 | 2.10% |
| 小売業 | 1.47% |
| 不動産業、物品賃貸業 | 8.95% |
| 宿泊業、飲食サービス業 | 2.60% |
| 学術研究、専門・技術サービス業 | 7.81% |
出典:中小企業庁「令和元年中小企業実態基本調査」のデータを基に作成
損益分岐点分析 あなたの会社はあといくら売上が必要か
損益分岐点とは、売上高と費用がちょうど等しくなり、利益がゼロになる売上高のことです。これを知ることで、赤字に陥らないために最低限必要な売上目標を具体的に設定できます。
固定費と変動費への分解が第一歩
損益分岐点を計算するためには、まず損益計算書に記載されているすべての費用を「変動費」と「固定費」の二つに分類する必要があります。変動費は売上高の増減に比例して変動する費用で、原材料費や仕入原価などが該当します。一方、固定費は売上高の増減に関係なく毎月一定額発生する費用で、従業員の固定給や地代家賃などが該当します。
計算事例で学ぶ損益分岐点の求め方と活用法
費用の分解ができたら、以下の公式で損益分岐点売上高を計算します。
損益分岐点売上高 = 固定費/(1 – 変動費/売上高) = 固定費/限界利益率
ここで「限界利益率」とは、売上高から変動費を引いた「限界利益」が売上高に占める割合のことで、商品やサービスがどれだけ固定費の回収と利益の創出に貢献するかを示す指標です。
例えば、あるラーメン店の月間の固定費が30万円、ラーメン1杯の価格が1,000円、1杯あたりの変動費(材料費など)が200円だとします。この場合、変動費率は 200 ÷ 1,000 = 0.2 となります。これを公式に当てはめると、損益分岐点売上高は 37万5,000円(300,000円 ÷ 0.8)となり、月にラーメンを375杯売り上げれば赤字にはならないことが分かります。
損益分岐点分析の真価は、現状分析だけでなく、未来の経営判断に活かせる点にあります。例えば、「もしラーメンを100円値下げしたら、目標達成にはあと何杯多く売る必要があるか」といった価格戦略の検討や、「月5万円の広告費をかけた場合、そのコストを回収するために必要な追加売上はいくらか」といったコスト構造の変更シミュレーションが可能になります。
さらに、「月に10万円の利益を出したい」という利益計画の策定にも応用できます。その場合、以下の応用式を用います。
目標利益達成売上高 = (固定費 + 目標利益)/限界利益率
先ほどのラーメン店の例で計算すると、(300,000円 + 100,000円)÷ 0.8 = 500,000円 となります。月間50万円(ラーメン500杯)を売り上げれば、目標利益10万円を達成できることが分かります。このように、損益分岐点分析は、過去を評価するだけでなく、未来を計画するための強力なシミュレーションツールとなるのです。
損益計算書の知識を実践する具体的な活用シーン
損益計算書の読み方と分析方法を理解したら、それを実際のビジネスシーンで活用することが重要です。ここでは、特に重要な二つの場面、「銀行融資」と「確定申告」での活用法を解説します。
銀行融資を有利に進めるための着眼点
銀行が融資を審査する際、損益計算書は返済能力を判断するための最重要書類の一つです。銀行員がどこに注目しているかを知ることで、より有利に交渉を進めることができます。
銀行が最も重視するのは「経常利益」
銀行は、当期純利益よりも経常利益を重視します。なぜなら、経常利益は会社の持続的・経常的な収益力を示すからです。土地の売却益のような一時的な特別利益で黒字になっていても、それは来年以降の返済原資にはならないと判断されます。本業と財務活動を合わせた総合力で、安定的に利益を生み出せているかが問われるのです。
利益の推移と簡易キャッシュフロー
銀行は直近の利益額だけでなく、過去3期程度の推移を見て、増収増益基調にあるかどうかも評価します。売上が減少している場合は、その理由と今後の回復策を具体的に説明できる必要があります。また、「税引後当期純利益+減価償却費」で計算される簡易キャッシュフローにも注目します。
これは、会社が一年間で生み出したおおよそのキャッシュ(返済原資)を把握するためです。融資の申し込みにあたっては、自社の損益計算書を深く理解し、特に経常利益がなぜその水準にあるのか、そして今後の見通しについて、数字の裏付けをもって語れるように準備しておくことが不可欠です。
個人事業主必見 確定申告での役割と書き方
個人事業主にとって、損益計算書は年に一度の確定申告で作成が義務付けられている書類です。確定申告の方法には「青色申告」と「白色申告」があり、どちらを選択するかで損益計算書の扱いが異なります。
白色申告の場合は簡易的な帳簿付けが認められており、決算書として「収支内訳書」を提出します。これは損益計算書を簡略化したもので、貸借対照表の提出は不要です。
一方、青色申告の場合は原則として複式簿記での記帳が求められ、決算書として「青色申告決算書」を提出します。この書類は、詳細な損益計算書と貸借対照表で構成されています。
手間がかかるように見える青色申告ですが、正規の損益計算書を作成することで、節税という大きなメリットを得られます。
- 最大65万円の所得控除が受けられます(青色申告特別控除)。
- 事業の赤字を翌年以降3年間にわたって繰り越せます(純損失の繰越し)。
- 家族への給与を必要経費として全額算入できます(青色事業専従者給与)。
このように、損益計算書を適切に作成・活用することは、個人事業主にとって経営状態を把握するだけでなく、手元に残る資金を最大化するための重要な手段となるのです。
まとめ:損益計算書を経営の羅針盤として活用するために
損益計算書は、単に過去一年間の業績を記録した書類ではありません。それは、あなたのビジネスの現在地を正確に示し、未来へ進むべき道を照らし出す「経営の羅針盤」です。
この記事を通じて、以下の重要なポイントを再確認しましょう。
- 損益計算書は会社の一定期間の経営成績を示す「成績表」である。
- 5つの利益を順に追うことで会社の収益構造と課題が見える。
- 利益率分析や損益分岐点分析は行動につながる洞察を生む。
- 損益計算書の深い理解は銀行融資や税務戦略で武器となる。
数字に対する苦手意識を乗り越え、自社の損益計算書と向き合うことから始めてみてください。そこに記されているのは、あなたのビジネスの強み、弱み、そして無限の可能性です。



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