
法人税の会計処理、特に「勘定科目」の使い分けは、経理担当者にとって悩みの種になりがちです。決算が近づくたびに、どの勘定科目を使えば良いのか、仕訳はこれで正しいのかと不安になるかもしれません。
しかし、一度その仕組みを理解してしまえば、法人税の会計は決して難しいものではありません。むしろ、正確な財務状況を把握し、自信を持って決算を締めくくるための強力な武器となります。
この記事を読み終える頃には、法人税に関する一連の仕訳を、迷うことなくスムーズに実行できるようになるでしょう。中間申告から決算、そして最終的な納税に至るまで、なぜその勘定科目を使うのかという根本的な理由から理解できます。
専門用語は一つひとつ丁寧に解説し、具体的な数値例を豊富に用いて説明を進めます。そのため、経理の経験が浅い方や、初めて法人税の申告に携わる方でも、安心して読み進めることができます。この記事で示すステップを追うことで、誰でも正確な会計処理を再現できるようになります。
目次
法人税会計の基本となる3つの勘定科目
法人税の会計処理は、主に3つの勘定科目を軸に展開されます。会社の方針や会計ソフトによって多少の名称の違いはありますが、この3つの役割を理解することが最初のステップです。
これらは単なる言葉のリストではありません。一つの税金が、支払いのタイミングや会計処理の段階に応じて姿を変えていく様子を追跡するための、相互に関連したシステムなのです。
法人税、住民税及び事業税(法人税等)
これは、その事業年度に会社が負担すべき税金の総額を示す費用の勘定科目です。損益計算書(P&L)において、「税引前当期純利益」の次に表示され、最終的な「当期純利益」を算出するために差し引かれます。つまり、会社の利益から支払われるべき税金そのものを表します。
一般的に「法人税等」と総称されるこの勘定科目には、以下の3つの税金が含まれます。
- 法人税
国に納める税金で、法人の所得に対して課されます。 - 法人住民税
事業所のある都道府県や市町村に納める地方税です。法人税額に応じて計算される「法人税割」と、資本金や従業員数に応じて定額が課される「均等割」から構成されます。 - 法人事業税
事業を行うことに対して都道府県に納める地方税です。
ここで一つ重要な注意点があります。法人事業税のうち、所得に応じて課される部分(所得割)のみがこの勘定科目に含まれます。資本金や付加価値など、所得以外の基準で課税される部分(外形標準課税)は、後述する「租税公課」として処理されるのが一般的です。
仮払法人税等
これは、中間申告などで支払った税金を一時的に記録するための資産の勘定科目です。なぜ費用ではなく資産なのでしょうか。それは、中間納付の時点では、その事業年度の最終的な納税額がまだ確定していないためです。
この支払いは、いわば税金の前払い(仮払い)であり、決算で最終的な税額が確定した際に精算されるべきものと考えます。そのため、一時的に会社の資産として計上しておくのです。
未払法人税等
これは、決算によって確定した税額のうち、まだ支払われていない部分を示す負債の勘定科目です。法人税は、決算日から2ヶ月以内に申告・納付するのが原則です。
つまり、決算日時点では、支払うべき税額は確定しているものの、まだ納付は完了していません。この「支払う義務」を会計上明確にするために、負債として計上します。貸借対照表(B/S)では、1年以内に支払期限が到来する短期的な債務であるため、「流動負債」の部に表示されます。
【時系列で理解】法人税の仕訳フロー
基本となる3つの勘定科目の役割を理解したところで、次は実際の仕訳の流れを見ていきましょう。ここでは、具体的な数値を使い、中間申告から納税完了までの一連のプロセスを時系列で追いかけます。
【設例】
- 中間申告での納税額:500,000円
- 決算で確定した年間の法人税等:1,200,000円
ステップ1:中間申告時の仕訳
事業年度が6ヶ月を経過すると、多くの法人は中間申告を行い、税金の一部を前払いします。この時点では年間の税額が未確定のため、「仮払法人税等」という資産勘定を使って処理します。
中間申告で、法人税等500,000円を普通預金から納付した場合の仕訳は以下のようになります。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
仮払法人税等 | 500,000円 | 普通預金 | 500,000円 |
この仕訳は、現金という資産が「税金の前払い」という権利(仮払法人税等という資産)に形を変えたことを示しています。この段階ではまだ費用は発生していません。
ステップ2:決算時の仕訳
決算日には、その事業年度の利益を基に、納めるべき法人税等の総額を計算します。この確定した税額を費用として計上すると同時に、中間申告で支払った「仮払法人税等」を精算し、残りの未払い分を「未払法人税等」として負債に計上します。
この一連の流れを、一つの仕訳で表現します。年間の法人税等が1,200,000円と確定した場合の仕訳は以下の通りです。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
法人税、住民税及び事業税 | 1,200,000円 | 仮払法人税等 | 500,000円 |
未払法人税等 | 700,000円 |
この仕訳が、法人税会計の核心部分です。借方で年間の費用総額(1,200,000円)を認識し、貸方でその内訳を示しています。つまり、すでに支払った前払い分(仮払法人税等 500,000円)を取り崩し、残りの支払うべき義務(未払法人税等 700,000円)を負債として計上する、という流れです。
ステップ3:確定申告・納税時の仕訳
決算日から2ヶ月以内に、確定申告書を提出し、残りの税金を納付します。この処理は、決算を終えた翌事業年度に行われます。会計上の目的は、前期の決算で計上した「未払法人税等」という負債を取り崩し、支払義務が消滅したことを記録することです。
前期から繰り越された未払法人税等700,000円を普通預金から納付した場合の仕訳です。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
未払法人税等 | 700,000円 | 普通預金 | 700,000円 |
この仕訳をもって、前期からの一連の納税プロセスが完了します。中間申告で始まった税金の流れが、ここでようやく完結するのです。
「租税公課」との違いと会計処理のポイント
経理初心者が特に混同しやすいのが、「法人税等」と「租税公課」の使い分けです。この二つを明確に区別することは、正確な会計処理と税務申告の基礎となります。
両者の違いを理解する鍵は、「何に対して課される税金か」という点にあります。
- 法人税等
会社の利益(所得)という「結果」に対して課される税金です。利益が出なければ原則として発生しません。 - 租税公課
事業を運営するための「コスト」として発生する税金や公的な負担金です。利益の有無にかかわらず発生します。
この違いを具体的な例で見てみましょう。
勘定科目 | 含まれる税金の例 | 根本的な性質 |
法人税、住民税及び事業税 | ・法人税 ・法人住民税 ・法人事業税(所得割) | 利益(所得)に対して課される税金 |
租税公課 | ・固定資産税 ・自動車税 ・印紙税 ・登録免許税 ・消費税(税込経理方式の場合) ・法人事業税(資本割・付加価値割) | 事業活動を行う上で発生する費用としての税金 |
この表で特に注目すべきは「法人事業税」です。同じ税金でありながら、その計算の基礎(課税標準)によって会計処理が分かれます。利益を基準とする「所得割」は法人税等に、資本金や給与などを基準とする「外形標準課税(資本割・付加価値割)」は租税公課になります。
この事実は、勘定科目の分類が単なる慣習ではなく、その税の本質的な性格を反映していることを示しています。この原則を理解すれば、未知の税金に遭遇したときも、どちらに分類すべきか正しく判断できるでしょう。
法人税が経費にならない理由「損金不算入」とは
会計上、「法人税等」は費用として扱われます。しかし、税金の計算においては、この費用は経費として認められません。これを「損金不算入」といいます。
税金の計算は、「益金(税法上の収益)- 損金(税法上の経費)= 所得」という式で行われます。もし法人税が損金として認められてしまうと、奇妙なことが起こります。法人税を支払うことで所得が減り、その減った所得を基にまた法人税が計算されるという循環計算に陥ってしまうのです。
これでは税額がいつまでも確定せず、国の税収も不安定になります。この論理的な矛盾を避けるため、法人税は損金に算入できないと定められています。
この「損金不算入」の考え方は、法人税だけでなく、ペナルティとしての性質を持つ税金にも適用されます。例えば、以下のようなものは会計上「租税公課」として費用計上されることが多いですが、税法上は損金不算入となります。
- 各種加算税・延滞税:申告漏れや納付遅延に対するペナルティ
- 罰金・科料・過料:法律違反に対する制裁金
これらのペナルティを損金として認めてしまうと、その分だけ法人税が安くなり、国が制裁の効果を自ら弱めることになってしまいます。そのため、損金算入は認められていません。一方で、事業税や固定資産税など、「租税公課」に含まれる多くの税金は、事業運営上のコストであるため、原則として損金に算入されます。
ケース別・特殊な状況の仕訳
基本のフローに加え、実務ではイレギュラーな状況も発生します。ここでは、代表的な2つのケースの仕訳方法を確認します。
税金が還付される場合の仕訳
中間申告で支払った金額(仮払法人税等)が、決算で確定した年間の税額(法人税等)よりも多かった場合、差額は国から還付されます。この将来受け取れる還付金を、決算時に資産として計上する必要があります。その際に使う勘定科目が「未収還付法人税等」または「未収金」です。
年間の法人税等が300,000円だったのに対し、中間納付額が500,000円だった場合、差額の200,000円が還付されます。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
法人税、住民税及び事業税 | 300,000円 | 仮払法人税等 | 500,000円 |
未収還付法人税等 | 200,000円 |
追徴課税・延滞税が発生した場合の仕訳
税務調査や申告内容の修正により、追加で税金を納める必要が生じることがあります。これを追徴課税といいます。また、納付が遅れた場合には延滞税が発生します。この場合の会計処理は、内容によって分ける必要があります。
- 追加の本税部分(追徴法人税等)
「法人税等」として処理し、損金不算入となります。 - ペナルティ部分(延滞税・加算税)
「租税公課」として処理しますが、これも損金不算入です。
延滞税30,000円を普通預金から支払った場合の仕訳はシンプルです。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
租税公課 | 30,000円 | 普通預金 | 30,000円 |
重要なのは、この「租税公課」が損金にならないことを忘れずに、税務申告の際に所得金額に加算(申告調整)することです。
【上級者向け】税効果会計入門
最後に、より高度なテーマである「税効果会計」に触れておきます。これは主に上場企業や大会社で適用される会計手法ですが、その考え方を知ることは、法人税会計の理解をさらに深める上で非常に有益です。
税効果会計は、会計上の利益と税務上の所得の間に生じる一時的なズレ(一時差異)を調整し、損益計算書上の利益と税金費用を合理的に対応させることを目的とします。この会計処理で中心となるのが、以下の勘定科目です。
- 繰延税金資産
将来、支払う税金が減る効果を持つ資産。会計上は費用として計上したが、税務上はまだ損金として認められていない場合に発生します。いわば「税金の前払い」のようなものです。 - 繰延税金負債
将来、支払う税金が増える効果を持つ負債。会計上は収益として計上したが、税務上はまだ益金として認識されていない場合などに発生します。「税金の支払いの繰り延べ」と考えると分かりやすいでしょう。 - 法人税等調整額
上記の繰延税金資産・負債の相手勘定となる損益計算上の科目です。この科目を使って、「法人税等」の金額を調整し、会計上の利益に見合った適切な税金費用を計上します。
税効果会計の本質は、会計の重要な原則である「費用収益対応の原則」を、税金費用に関しても徹底することにあります。会計上の利益と、それに対応する税金費用を期間的に一致させることで、企業の財政状態や経営成績をより適正に投資家などに報告することができるのです。
時点 | 会計上の処理 | 税務上の処理 | 税効果会計の仕訳(概念) |
差異の発生時 | 費用を計上 | 損金不算入(まだ経費ではない) | (借)繰延税金資産 / (貸)法人税等調整額 |
差異の解消時 | 処理なし | 損金算入(ここで経費になる) | (借)法人税等調整額 / (貸)繰延税金資産 |
この表は、税効果会計の基本的なロジックを示しています。差異が発生した年度に将来の税金減額効果を「繰延税金資産」として計上し、その差異が解消された年度に資産を取り崩すことで、期間を通じた税金費用の負担を平準化しているのです。
まとめ
今回は、法人税の勘定科目と仕訳について、網羅的に解説しました。複雑に見える処理も、一つひとつのステップと勘定科目の役割を理解すれば、論理的に整理できます。
最後に、本記事の重要なポイントを再確認しましょう。
- 基本の3勘定科目
法人税会計は「法人税等(費用)」「仮払法人税等(資産)」「未払法人税等(負債)」の3つが中心です。 - 時系列の3ステップ
仕訳は「中間申告」→「決算」→「納税」という時間軸に沿って進みます。決算時の精算仕訳が最も重要です。 - 租税公課との決定的な違い
「法人税等」は利益に対する税金、「租税公課」は事業運営のコストとしての税金です。 - 税法上の鉄則
「法人税」や各種ペナルティ(延滞税など)は、会計上は費用でも、税法上は経費として認められない「損金不算入」です。
この知識を武器に、日々の経理業務や決算業務に自信を持って取り組んでください。正確な会計処理は、健全な会社経営の礎となります。
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