インボイス制度の基礎知識

消費税の免税事業者とは?課税事業者との違いやインボイス制度の影響と対策を解説

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免税事業者

免税事業者とは消費税の課税対象とならない事業者のことを指します。一方、課税事業者は消費税の課税対象となり、事業を行うにあたってこの違いは十分に理解しておく必要があります。ここでは、免税事業者と課税事業者の違いや、インボイス制度導入後の影響について詳しくご紹介します。

免税事業者とは

免税事業者とは、消費税の申告・納税が免除されている事業者のことを指します。

基本的に、事業者は取引を行った際に消費税を相手側に請求し、受け取った消費税はそのまま売上高として処理します。そして、外部の商品やサービスを購入する際に支払う消費税分を差し引いて、その差額を納税する仕組みとなっています。

免税事業者の場合、この消費税の差額分の納税が免除されており、現時点では自らが提供するサービスや商品の取引で消費税を請求したとしても、売上高として処理できる仕組みです。

免税事業者に該当するかどうかは、課税期間(個人事業主は前々年、法人は前々事業年度)の課税売上高で決まります。課税売上高が1,000万円以下であれば免税事業者として認められ、それ以上であれば課税事業者となります。

課税事業者についての詳細はこちらで解説しています

参照:消費税のしくみ|国税庁

免税事業者と課税事業者との違い

免税事業者と課税事業者との違い

免税事業者と課税事業者の違いは、以下のとおりです。

・消費税の納税の有無
・帳簿のつけ方
・消費税還付が受けられる条件

1. 消費税を納付する必要性の違い

先にご紹介したように、前々年度の課税売上高が1,000万円以下の事業者は消費税の申告・納付が免除されています。そのため、自身の提供する商品やサービスの取引で相手側から消費税を受け取っていたとしても、消費税を納付する必要はありません。

一方、課税事業者の場合、課税売上高や課税仕入れの金額を把握して納めるべき消費税額を計算し、申告をして納税する必要があります。この計算には手間もかかり、これらの計算に用いられる帳簿や請求書等は原則として7年間保管する義務があるため、あらかじめ事務作業に携わる時間や人員の確保も必要となるでしょう。

2. 帳簿付けの方法の違い

免税事業者と課税事業者とでは、帳簿付けの方法が変わってきます。消費税の帳簿付けは「税抜経理方式」と「税込経理方式」がありますが、免税事業者の場合は税込経理方式での記帳となるため注意しましょう。課税事業者の場合は、どちらか一方の記帳方法を任意で選ぶことができます。

税抜経理方式

仕入高や売上高の金額と、消費税とを別で仕訳し、記帳する方法を指します。例えば、仕入れをして支払った消費税については「仮払消費税」、売上時に受け取る消費税は「仮受消費税」として科目を別に設けて、仕入高や売上高と消費税とを分けて処理します。勘定科目は増えますが、期中であってもその時点での税額を把握しやすいというメリットがあります。

標準税率10%の商品を仕入れて、1,000円の商品代と100円の消費税を支払った場合の仕訳例は以下のとおりです。

借方科目金額貸方科目金額
仕入高1,000現金1,100
仮払消費税100

消費税率10%の商品を1,000円で販売して、1,000円の商品代と100円の消費税を受け取った場合の仕訳は以下のとおりです。

借方科目金額貸方科目金額
現金1,100売上高1,000
仮受消費税100

税込経理方式

仕入高や売上高が発生した時、消費税を区分せずに処理する方法を指します。税額の計算は「租税公課」という勘定科目で処理することとなります。仕入高には支払った消費税も含めて計上し、売上高に対して受け取った消費税は売上高に含めて計上するのがルールです。

標準税率10%の商品を仕入れて、1,000円の商品代と100円の消費税を支払った場合の仕訳例は以下のとおりです。

借方科目金額貸方科目金額
仕入高1,100現金1,100

消費税率10%の商品を1,000円で販売して、1,000円の商品代と100円の消費税を受け取った場合の仕訳は以下のとおりです。

借方科目金額貸方科目金額
現金1,100売上高1,100

3. 消費税の申告義務の違い

消費税の申告と納付には毎年期限が設けられています。課税事業者に該当する個人事業主の場合は翌年の3月31日まで、法人の場合は課税期間の末日の翌日から2ヶ月以内です。申告時には「消費税および地方消費税の確定申告書」を作成しなければなりません。そして、この書類を所轄の税務署に申告して、納めるべき消費税を納付します。よく、所得税や法人税の確定申告を行えば問題ないと誤解されますが、消費税の申告はこれとは別に行う必要があるため注意が必要です。

免税事業者に該当する場合は、消費税の納付義務はないため、消費税の確定申告も不要となります。

参照:消費税のしくみ|国税庁

4. 消費税の還付の受けられる条件

課税事業者は、売上で預かった消費税額よりも経費で支払った消費税の方が多かった場合、還付を受けることが可能です。

一般的には、支払った消費税よりも売上で預かった消費税の方が大きくなるため、消費税を納付する事業者の方が多いです。しかし、大きな設備投資をした年や、輸出業等で免税売上が多い会社などは、還付が受けられる可能性があります。

免税事業者の条件

免税事業者の条件

免税事業者として認められるかどうかは、以下の2つの条件のいずれかを満たす必要があります。

・基準期間における売上高が1,000万円以下であること
・事業開始から2年以内の事業者であること

これらの条件について、もう少し詳しく見ていきましょう。

参照:消費税のしくみ|国税庁

1. 基準期間における売上高が1,000万円以下であること

先にご紹介したように、基本的に免税事業者として認められるのは基準期間における課税売上高が1,000万円以下の事業者となります。基準期間とは、個人事業主の場合は前々年、法人の場合は前々事業年度を指します。

しかし、基準期間にこの条件を満たしていたとしても、免税事業者として認められないケースもあります。特定期間に課税売上高もしくは給与等の支払額が1,000万円を越える場合、たとえ基準期間に課税売上高が1,000万円以下だったとしても、その課税期間から課税事業者となるため注意が必要です。

特定期間とは、基準期間の後に該当する、個人事業主の場合は1月1日~6月30日、法人の場合は前事業年度開始日から6ヶ月間のことを指します。

2. 事業開始からの年数

新規に事業を開始したばかりの個人事業主や法人は、課税対象になるかどうか、基準期間の売上高で判断することはできません。したがって、個人事業主の場合は、開業後2年間は免税事業者として認められます。

法人の場合は、資本金の額によって1期目から課税事業者になるかどうかが変わってくるため注意が必要です。資本金1,000万円以上の場合はそのまま課税事業者となり、資本金1,000万円未満の場合は1期目と2期目が免税事業者になると覚えておきましょう。

インボイス制度の免税事業者への影響

インボイス制度の免税事業者への影響

インボイス制度とは、正しい消費税率や税額を示すための「適格請求書」を発行するための制度で、2023年10月より施行開始となりました。

このインボイス制度によって、免税事業者か課税事業者かどうかが重要となり、特に免税事業者には大きな影響を及ぼしています。

課税事業者は、支払った消費税と預かった消費税の差額を、消費税として納付することとなります。しかし、免税事業者は適格請求書を発行することができません。そのため、免税事業者と取引をして消費税を支払ったとしても、自身の消費税納付額を計算する際に差し引くことができなくなったからです。

したがって、課税事業者が免税事業者と取引をすると、消費税の納付額が増えるというデメリットが生じます。これから新たな取引を考える際、免税事業者よりも課税事業者を取引相手として優先的に考慮するという事態に発展しやすく、免税事業者はビジネスのチャンスを掴みにくくなることが懸念されています。

インボイス制度への対応策

インボイス制度への対応策

インボイス制度による免税事業者への影響を少なくするために、対処していきたい場合は、以下の方法が考えられます。

・課税事業者への転換を検討する
・様々なリスクを総合的に考えて免税事業者のまま事業を続ける

具体的に見ていきましょう。

課税事業者への転換を検討する

取引相手が課税事業者の多い業種などは、それまでの関係性をできるだけ継続するために免税事業者から課税事業者へ転換し、適格請求書を発行できるようにしていくことが1つの対応策と言えるでしょう。

免税事業者は、任意で課税事業者になることもできます。たとえ基準期間の売上高が1,000万円以下でも、手続きをすることで課税事業者になることはできるのです。

ただし、これまでとは違う経理処理に対応しなければならず、当然ながら消費税の納付の必要性も生じてきます。もともと仕入れが少ない業種の場合、消費税額が高額になる可能性もあるため、慎重な判断が必要です。

免税事業者であるという理由で大口の取引の継続が危うくなるなどのリスクがある場合は、課税事業者への転換がメリットにつながる可能性もあります。また、設備投資などで支払う消費税が多額になり、還付が受けられる可能性がある場合もメリットになるでしょう。

免税事業者から課税事業者への変更手続き

免税事業者が任意で課税事業者へ転換する場合は、所轄の税務署への届け出が必要です。適用を受けたい課税期間の前日までに、「消費税課税事業者選択届出書」を提出します。

そして、適格請求書が発行できるように、適格請求書発行事業者の登録申請を速やかに行う必要があります。この登録申請は、管轄のインボイス登録センターかe-Taxから行えます。インボイス登録センターへ申請書を郵送する場合、発行通知書が届くまで約2ヶ月前後を要するため、急ぐ場合はe-Taxの利用が便利です。

参照:D1-4 消費税課税事業者選択届出手続|国税庁

免税事業者のまま事業を続ける場合の注意点

免税事業者のまま事業を続ける場合、取引先によっては消費税の仕入税額控除が受けられなくなるという理由でその後の取引を躊躇したり中止したりといったリスクにつながる可能性があります。その結果、仕事が減り、収入も少なくなってしまうかもしれません。

特に、課税事業者が主な取引相手となる事業を展開している場合、そのリスクは高くなると考えられます。一方、個人客を中心とした事業を行っている場合は、免税事業者のままでいても影響は少ない可能性もあります。

課税事業者になった場合と、免税事業者のままでいた場合の双方のメリット・デメリットを考えて慎重に判断しましょう。必要に応じて、税理士に相談してみるのもおすすめです。

インボイス制度の詳細やその他の対応策はこちらで解説しています

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まとめ

インボイス制度の導入に伴い、免税事業者から課税事業者へ転換を考える方も増えています。しかし、免税事業主のまま事業を続けた方がメリットが大きい場合もあるため、それぞれのメリット・デメリットを十分に考慮して検討する必要があるでしょう。消費税の仕組みや免税事業者・課税事業者の対象、条件をよく理解することで、今後の方針も決めやすくなるのではないでしょうか。

この記事の投稿者:

nakashima

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