
社会保険料の会計処理は、経理業務のなかでも特に複雑で間違いやすい領域です。毎月の給与計算で従業員負担分を天引きし、会社負担分とあわせて国に納付する。
この一連の流れを正確に帳簿に記録するには、「法定福利費」と「預り金」という2つの勘定科目を正しく使い分ける知識が不可欠です。
この使い分けをマスターすれば、今まで複雑に感じていた社会保険料の経理が驚くほどシンプルになり、時間のかかる確認作業や、後々の修正といった手間から解放される未来が待っています。
この記事は、何千もの中小企業の経営者や経理担当者が、社会保険料の会計処理をマスターするために活用してきた、実務に即した記事です。
単なる理論の解説にとどまらず、給与支払いの仕訳から、年に一度の労働保険の年度更新、決算整理仕訳に至るまで、具体的な数値例を交えながら、あらゆるケースを網羅的に解説します。
この記事を読めば、あなたの会社の経理処理は、より正確で効率的なものへと変わるでしょう。
「勘定科目が多くてわからない」「どのタイミングでどの科目を使えばいいのか混乱する」といった不安を抱えている方もご安心ください。本記事は、会計の知識に自信がない方でも理解できるよう、一つひとつのステップを丁寧に解説します。
豊富な仕訳例を通じて、あなたの会社ですぐに実践できる再現性の高いフレームワークを提供します。この記事を読み終える頃には、社会保険料の会計処理に対する苦手意識は消え、自信を持って日々の業務に取り組めるようになっているはずです。
目次
社会保険料会計の大原則 会社負担分と従業員負担分を理解する
社会保険料の会計処理を理解するための第一歩は、その費用の成り立ちを把握することです。日本の社会保険制度は、会社と従業員が互いに保険料を負担し合う「労使折半」が基本原則となっています。この「shared cost(共有コスト)」という性質こそが、会計処理で特定の勘定科目を用いる理由の根源です。
企業が加入する広義の社会保険には、主に5つの柱があります。
- 健康保険
- 厚生年金保険
- 介護保険(40歳以上の従業員が対象)
- 雇用保険
- 労災保険
このうち、労災保険は業務上の災害から労働者を守るという性質上、保険料の全額を会社が負担します。また、厚生年金保険とあわせて納付する「子ども・子育て拠出金」も全額が会社負担です。それ以外の健康保険、厚生年金保険、介護保険、雇用保険については、会社と従業員が定められた割合で負担します。
この仕組みにより、会社は2種類の性質が異なるお金の流れを処理しなくてはなりません。
- 会社自身の経費となる「会社負担分」
- 従業員の給与から天引きし、一時的に預かる「従業員負担分」
会計の世界では、これら2つを明確に区別して記録することが求められます。なぜなら、その性質が根本的に異なるからです。会社負担分は、事業を運営する上で法律によって負担が義務付けられた費用です。
そのため、経費の勘定科目である「法定福利費」を用いて処理します。これは、会社が任意で提供する福利厚生(例:社員旅行など)に使う「福利厚生費」とは区別される、法律で定められたコストであることを示します。
一方、従業員負担分は、会社が従業員に代わって国に納付するために、給与から一時的に預かっているお金です。これは会社の費用ではなく、あくまで「預かりもの」です。会計上、このような第三者に支払うために預かったお金は、負債(返済義務のあるもの)として扱われます。その際に用いる勘定科目が「預り金」です。
つまり、社会保険料の会計処理の核心は、「法定福利費(費用)」と「預り金(負債)」という、性質の異なる勘定科目を正しく使い分ける点にあります。この根本的な違いを理解することが、複雑に見える仕訳をマスターするための最も重要な鍵となるのです。
仕訳方法解説!原則法と簡便法、自社に合うのはどっち?
社会保険料の会計処理には、主に2つの方法が存在します。一つは会計の原則に忠実で、管理の精度が高い「原則法」。もう一つは、処理の効率を重視した「簡便法」です。どちらの方法を選択するかは、会社の規模や経理体制、求める管理レベルによって異なります。ここでは、それぞれの方法の具体的な手順と、その背景にある考え方を解説します。
原則法 「預り金」で管理する正確・明瞭な会計処理
原則法は、会社負担分と従業員負担分を明確に区別して管理する、最も正しく、推奨される方法です。この方法は、社内の資金管理を強化し、財務状況を正確に把握する上で大きなメリットがあります。
原則法では、まず給与支払時に従業員負担分を「預り金」として計上します。従業員に給与を支払う際、社会保険料の従業員負担分を天引きし、この金額を貸方(お金の使い道や負債の増加を示す側)に「預り金」として記録します。これにより、会社には「国に従業員のお金を納付する義務」という負債が生まれたことが帳簿上で明確になります。
次に、翌月末など定められた期日に社会保険料を納付します。この時、借方(お金の使い道や資産の増加を示す側)に、給与支払時に計上した「預り金」を計上し、負債を消し込みます。同時に、会社負担分を「法定福利費」として費用計上します。そして、これらの合計額を貸方の「普通預金」などから支払います。
この方法の最大の利点は、内部統制の強化にあります。「預り金」勘定の残高は、会社が国に納付すべき未払い額を常に示しています。納付後にこの残高がゼロにならない場合、給与からの天引き額か納付額のどちらかに誤りがあることを即座に知らせてくれます。この強制的な照合プロセスが、支払いミスや漏れのリスクを大幅に低減させるのです。
また、経理の実務上、「預り金」勘定に補助科目(内訳項目)を設定することが強く推奨されます。「預り金(健康保険料)」「預り金(厚生年金保険料)」「預り金(所得税)」のように細分化することで、何のお金をいくら預かっているのかが一目瞭然となり、管理が格段に容易になります。
表1 原則法による社会保険料の仕訳例
(例:給与30万円、健康保険料(従業員負担)15,000円、厚生年金保険料(従業員負担)27,450円の場合)
時点 | 借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 | 摘要 |
給与支払時 | 給料手当 | 300,000円 | 普通預金 | 257,550円 | 〇月分給与 |
預り金(健康保険料) | 15,000円 | 従業員負担分 | |||
預り金(厚生年金保険料) | 27,450円 | 従業員負担分 | |||
社会保険料納付時 | 法定福利費 | 42,450円 | 普通預金 | 84,900円 | 〇月分社会保険料納付 |
預り金(健康保険料) | 15,000円 | ||||
預り金(厚生年金保険料) | 27,450円 |
簡便法 「法定福利費」で一本化する効率重視の会計処理
簡便法は、特に小規模な会社で、経理処理の手間を省くために採用されることがある方法です。この方法では、「預り金」勘定を使わずに、すべてを「法定福利費」勘定で処理します。
簡便法の流れとして、まず給与支払時に従業員負担分を「法定福利費」のマイナスとして計上します。給与から従業員負担分を天引きする際、「預り金」ではなく「法定福利費」を貸方に計上します。これにより、一時的に費用がマイナス(収益のような形)で計上されることになります。
次に、保険料を納付する際、会社負担分と従業員負担分を合わせた総額を、借方の「法定福利費」として計上します。この結果、給与支払時に計上した貸方の「法定福利費」(マイナスの費用)と、納付時に計上した借方の「法定福利費」(プラスの費用)が相殺され、最終的に「法定福利費」勘定には会社負担分のみが費用として残る仕組みです。
この方法は仕訳がシンプルになる一方で、会計の原則からは逸脱しています。給与支払いから納付までの間、帳簿上は費用が過小に計上され、本来存在するはずの負債(預り金)が表現されません。
これは、財務諸表の正確性を一時的に損なうことを意味します。企業の規模が小さく、その影響が軽微であると判断される場合にのみ許容される実務的な選択肢と言えるでしょう。
表2 簡便法による社会保険料の仕訳例
(例:給与30万円、従業員負担分の社会保険料合計42,450円の場合)
時点 | 借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 | 摘要 |
給与支払時 | 給料手当 | 300,000円 | 普通預金 | 257,550円 | 〇月分給与 |
法定福利費 | 42,450円 | 従業員負担分 | |||
社会保険料納付時 | 法定福利費 | 84,900円 | 普通預金 | 84,900円 | 〇月分社会保険料納付 |
この2つの表を比較すると、原則法が「負債の発生と消滅」という取引の実態を正確に記録しているのに対し、簡便法は最終的な費用額を合わせるための計算上の処理であることがわかります。会社の成長とともに、より正確な財務管理が求められるようになった際には、原則法への移行を検討すべきです。
正確な月次決算のために 発生主義と「未払費用」の活用
より精度の高い経営管理を行うためには、月ごとの正確な損益を把握することが不可欠です。ここで重要になるのが「発生主義」という会計の考え方です。発生主義とは、費用や収益を、現金の動きがあった時点ではなく、それらが発生した(経済的な事実が起こった)時点で認識するルールです。
社会保険料は、例えば3月分の給与に対する保険料が、翌月の4月末に納付されるというように、費用の発生月と支払月がずれるのが一般的です。もし現金が動いた4月に費用を計上すると、3月の利益は過大に、4月の利益は過小に計算されてしまい、月ごとの正しい業績比較ができなくなります。
この問題を解決するのが「未払費用」勘定の活用です。3月末の決算整理仕訳として、まだ支払っていない3月分の社会保険料の会社負担分を費用として計上します。このとき、相手勘定として負債科目である「未払費用」を使います。
3月末の仕訳例(会社負担分が42,450円の場合)
借方:法定福利費 42,450円 / 貸方:未払費用 42,450円
この仕訳により、費用は正しく3月分のP&L(損益計算書)に計上され、同時にB/S(貸借対照表)には「まだ支払っていない費用」という負債が計上されます。そして翌月、実際に保険料を納付した際には、この「未払費用」を取り崩します。
4月末の納付時の仕訳例(原則法の場合)
借方:未払費用 42,450円、預り金 42,450円 / 貸方:普通預金 84,900円
このように「未払費用」は、費用の発生と支払いのタイミングのずれを埋める「橋渡し」の役割を果たします。これにより、各月の財務諸表が経済的な実態を正確に反映し、経営判断に役立つ信頼性の高い情報となるのです。
特に上場企業や、金融機関からの融資を検討している企業にとっては、必須の会計処理といえます。
保険種別の徹底解説 労働保険の年度更新など特殊ケースの会計処理
社会保険料の会計処理は、保険の種類によって特有のルールが存在します。特に、年に一度行われる「労働保険の年度更新」は、多くの経理担当者を悩ませる複雑な手続きです。ここでは、保険の種類ごとの処理方法と、特殊ケースの対応を深掘りします。
健康保険・厚生年金・介護保険 毎月の定型処理
健康保険、厚生年金保険、介護保険は、社会保険の中核をなし、毎月決まったサイクルで処理が行われます。これらの保険料は、日本年金事務所へまとめて納付されます。
保険料の負担割合は、健康保険、厚生年金保険、介護保険のいずれも会社と従業員で半分ずつ負担する「労使折半」です。会計処理は、前述した「原則法」または「簡便法」に沿って行います。
注意すべきは、保険料率が毎年改定される可能性がある点です。
- 厚生年金保険料率
現在は18.3%で固定されています。 - 健康保険料率・介護保険料率
健康保険料率は、会社が加入している健康保険組合(多くの中小企業は「協会けんぽ」)や、事業所の所在地がある都道府県によって異なります。介護保険料率は全国一律ですが、これらはいずれも定期的に見直されます。
例えば、令和7年度(2025年度)の協会けんぽの保険料率は、東京都で9.91%、介護保険料率は全国一律で1.59%となる見込みです。給与計算を行う際は、必ず最新の保険料率を確認する必要があります。
また、これらの保険料とあわせて納付する「子ども・子育て拠出金」は、全額が会社負担であり、「法定福利費」として処理することを忘れないようにしましょう。
雇用保険・労災保険 「労働保険の年度更新」という名の年に一度の決戦
雇用保険と労災保険をあわせた「労働保険」の会計処理は、他の社会保険とは大きく異なります。毎月納付するのではなく、年に一度、前年度の保険料を確定させて精算し、当年度の保険料を概算で前払いする「年度更新」という手続きを行います。
この手続きは、毎年6月1日から7月10日の間に行われ、会計処理も複数年にまたがるため、一連の流れとして理解することが重要です。
この複雑なプロセスを乗り切るための鍵となる勘定科目には、まず「前払費用」があります。年度更新時に、新年度1年分の概算保険料を支払う際に使用します。これは1年かけて消費する権利(保険サービスを受ける権利)を購入したと考え、資産科目として計上します。
次に「法定福利費」です。毎月の月次決算で、「前払費用」として計上した資産を12分の1ずつ費用に振り替えます(償却します)。これにより、毎月の費用を正しく認識できます。
また、雇用保険の従業員負担分は、毎月の給与から天引きし、「預り金」として処理するのが一般的です。これは原則通りの処理です。会社が保険料を立て替えて支払っていると捉え「立替金」で処理する方法もありますが、給与計算システムとの連携を考えると「預り金」がよりシンプルです。
そして、翌年の年度更新時には「未払費用」または「未収入金」を使用します。前年度の賃金総額が確定し、それに基づいて計算した「確定保険料」と、支払済みの「概算保険料」を比較します。
確定保険料の方が多ければ、その差額は追加で支払う義務があるため「未払費用」(負債)となります。逆に少なければ、還付される権利があるため「未収入金」(資産)となります。
労働保険の年度更新は、単発の取引ではなく、1年以上にわたる会計サイクルとして捉えることが理解の近道です。まず年度の初めに資産(前払費用)を計上し、月次でそれを費用化し、年度の終わりに最終的な精算を行う。このサイクルを以下の表で確認しましょう。
表3 労働保険の年度更新に関わる会計処理の年間フロー
時点 | 会計処理 | 主要な勘定科目 | ポイント |
概算保険料の納付時(例:7月10日) | 新年度の概算保険料を納付し、前年度の差額を精算する。 | 前払費用、普通預金、未払費用(前期分)、未収入金(前期分) | 新年度分は資産(前払費用)として計上する。 |
毎月の給与支払時 | 雇用保険の従業員負担分を給与から天引きする。 | 給料手当、預り金、普通預金 | 従業員負担分は負債(預り金)として積み立てる。 |
毎月の月次決算時 | 概算保険料の12分の1を費用として計上する。 | 法定福利費、前払費用 | 資産(前払費用)を費用(法定福利費)に振り替える。 |
年度末・確定保険料の精算時(例:翌年6月) | 確定保険料を計算し、概算保険料との差額を認識する。 | 未払費用 または 未収入金 | 差額を負債または資産として計上し、翌期の納付に備える。 |
この一連の流れを理解することで、年に一度の複雑な手続きも、計画的で管理可能な月次のルーチンワークへと変えることができます。
ケース別 個人事業主・役員報酬・賞与の仕訳ポイント
社会保険料の会計処理は、基本的な原則に加え、事業形態や支払いの種類によって注意すべき点があります。ここでは、特に間違いやすい「個人事業主」「役員報酬」「賞与」の3つのケースに焦点を当てて、具体的な仕訳のポイントを解説します。
個人事業主 従業員分と自分分は全くの別物
個人事業主が陥りやすい最も大きな間違いは、事業の経費と個人の支出を混同してしまうことです。社会保険料の扱いにおいては、この区別が極めて重要になります。
個人事業主が従業員を雇用し、社会保険に加入させている場合、その会計処理は法人と全く同じです。会社負担分は事業に必要な経費として「法定福利費」で処理し、従業員から天引きした分は「預り金」として扱います。これらは、事業の利益を計算する上で控除できる、正当な経費です。
一方、事業主自身が支払う国民健康保険料や国民年金保険料は、事業上の経費にはなりません。これらは事業の運営とは切り離された、個人の生活費の一部と見なされます。
もし、これらの保険料を事業用の銀行口座から支払った場合は、事業の資金を個人的な目的で引き出したものとして、「事業主貸」という勘定科目で処理します。これは経費ではないため、事業所得を減らす効果はありません。
では、事業主が支払った保険料は全く考慮されないのでしょうか。そうではありません。事業の経費にはなりませんが、その代わりに、年に一度の確定申告の際に、所得税を計算する上で所得から差し引くことができる「社会保険料控除」の対象となります。
この二重構造の理解が不可欠です。事業の帳簿上では、従業員分を「法定福利費」として経費計上し、事業主分は「事業主貸」として経費から除外します。
一方で、個人の確定申告においては、事業主が支払った国民健康保険料や国民年金保険料を「社会保険料控除」として所得から控除することができます。このルールを厳密に守ることが、正しい申告の第一歩です。
役員報酬と賞与 基本は同じ、注意点はココ
役員への報酬や、従業員への賞与(ボーナス)を支払う際の社会保険料の扱いも、基本的な考え方は月々の給与と同じです。しかし、いくつか注意すべき点があります。
賞与から控除する社会保険料の計算および会計処理は、基本的に毎月の給与と同じです。賞与の支給額(1,000円未満を切り捨てた標準賞与額)を基に保険料を計算し、会社負担分は「法定福利費」、従業員負担分は「預り金」として処理します。
役員報酬にかかる社会保険料の会計処理も、基本的には給与と同様です。会社負担分は「法定福利費」となります。ただし、一つ重要な違いがあります。原則として、会社の役員は雇用保険の被保険者にはなれません。
そのため、役員報酬からは雇用保険料を計算・控除する必要はありません。この点を忘れると、誤った給与計算につながるため注意が必要です。
なお、会計上の費用の勘定科目は、従業員への支払いは「給料手当」、賞与は「賞与」、役員への支払いは「役員報酬」と区別しますが、社会保険料の処理に用いる「法定福利費」と「預り金」の使い方は一貫しています。
経理から税務へ 仕訳のゴール「社会保険料控除」を理解する
日々の地道な仕訳作業は、単なる記録のためだけに行われるのではありません。その最終的なゴールの一つは、会社と従業員双方の正確な税務申告に繋がっています。特に、社会保険料の会計処理は、「社会保険料控除」という形で税金の計算に直接的な影響を与えます。
会社にとっては、一年間を通じて「法定福利費」として計上された金額の合計が、法人の所得を計算する上で損金(経費)として算入されることがゴールとなります。つまり、正確に法定福利費を計上することは、会社の課税対象となる所得を正しく算出し、適切な法人税額を納めるための基礎となります。
一方、従業員にとってのゴールは、給与から天引きされ、「預り金」として処理された社会保険料の年間合計額が、その従業員の「社会保険料控除」の対象となることです。これは、所得税を計算する際に、課税対象となる所得金額から全額を差し引くことができる非常に有利な所得控除です。
この従業員の社会保険料控除の手続きは、通常、会社が年末に行う「年末調整」によって完結します。会社は、従業員に「給与所得者の保険料控除申告書」を配布し、従業員はそれに必要事項を記入して提出します。
もし従業員が年の途中で入社し、それ以前に個人的に国民年金などを支払っていた場合、その支払額も社会保険料控除の対象となります。その場合は、この申告書にその旨を記入し、日本年金機構などから送付される「控除証明書」を添付して提出する必要があります。
このように、会社が毎月行う給与計算と仕訳の正確さが、従業員一人ひとりの年間の税額を決定する上で極めて重要な役割を果たしているのです。「預り金」の計算ミスは、従業員の不利益に直結し、税務調査の際に指摘を受ける原因ともなりかねません。日々の正確な会計処理こそが、会社と従業員双方の信頼関係と、法令遵守の基盤を築くのです。
まとめ
社会保険料の勘定科目と仕訳は、一見すると複雑ですが、その根底にある原則を理解すれば、体系的に処理することが可能です。最後に、本記事で解説した重要なポイントを再確認します。
- 原則は「費用」と「負債」の区別
会社が負担する分は、法律で定められた経費である「法定福利費」。従業員から預かる分は、国に納付するまでの一時的な負債である「預り金」。この根本的な違いを理解することが、すべての基本です。 - 自社に合った処理方法の選択と一貫性
正確性と管理を重視するなら「原則法(預り金を使用)」が推奨されます。処理の簡便さを優先する小規模な事業体では「簡便法」も選択肢となりますが、デメリットを理解した上で、一度決めた方法を一貫して使用することが重要です。 - 正確な月次決算には「未払費用」
費用の発生と支払いのタイミングのずれを調整し、月ごとの正確な損益を把握するためには、発生主義に基づき「未払費用」を活用する会計処理が不可欠です。 - 特殊ケースへの的確な対応
年に一度の「労働保険の年度更新」は、前払費用を用いた年間サイクルとして管理します。また、個人事業主は、従業員分の経費(法定福利費)と、自身のための個人的な支出(事業主貸)を厳格に区別する必要があります。
これらの原則と具体的な処理パターンを身につけることで、あなたは今後、社会保険料の会計処理に迷うことなく、自信と正確さをもって業務を遂行できるはずです。
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