取引先から受領した請求書や、自身が発行した請求書の控えは、法律で定められた期間保存しておく必要があります。今回は請求書の保管期間や保存方法、電子帳簿保存法などについて解説します。
目次
請求書とは何か
請求書とは、商品やサービスの提供で発生した代金を請求するために発行する書類です。
全ての取引で請求書が必要というわけではありませんが、取引の内容を明確にしたり、経理業務で使用したりする目的で、多くのビジネスシーンで用いられています。
請求書の役割
取引を行う上では、契約書によって取引の条件を明確にし、お互いが合意した上で商品や代金のやり取りが行われます。スーパーやコンビニといった小売店での買い物は契約書を交わすわけではありませんが「トマトを買いたい」という消費者と、「トマトを売りたい」という店側の意思が合致して合意できた時に売買契約が成立していることになります。
「商品Aを納品する代わりに代金1万円を受け取る」という内容の取引を例に考えてみましょう。発注者は商品Aを受け取る代わりに、代金1万円の支払いを行う義務が生じます。請求書はこの義務を取引先に知らせて、振込先の口座情報や振込期日を伝え、振込をお願いするための書類です。
請求書を受け取った発注側は、請求書によって改めて取引内容や金額を確認し、指定の期日までに相手の口座に1万円を振り込みます。
請求書は、証憑(しょうひょう)書類に該当する
証憑とは、請求書や領収書など、業務や取引に関する事項を証明するために作成する書類です。
税務調査の際は、決算や確定申告で申告された内容が正しかったかどうか調査官が調査します。しかし、節税のために経費を多く計上したり、事業としての見栄えを良くするために売上を多く計上したりといった不正を行う事業者も、中にはいるかもしれません。
請求書はその取引が本当に行われたものであったのか、正しい金額で計上されているかといったことを確認するために、調査官に提出してチェックしてもらう役割もあります。その際に「過去のものなので捨ててしまった」「パソコンに保管してあるが整理されていない」といったことが起きないよう、法律によって保管に関する要件が定められています。
このように、請求書は会計に関わる重要な書類であるため、関連する法律などを確認しながら保管する必要があります。
受領した請求書は原本の保存が必要
取引先から受け取った請求書は、原則として原本を保存する必要があります。
請求書のコピーや控えで保管することを認めると、1枚の請求書を複製して2回以上計上するといった不正を行いやすいためです。もしもこのような不正が横行する状態になったら、請求書が持つ「取引が事実であったことを証明する」といった役割が保ちにくくなってしまうでしょう。
請求書の控えは保存が必要?
2023年10月1日から始まったインボイス制度では、適格請求書発行事業者は自身が発行した適格請求書の控えについても保存が義務付けられています。発行した請求書のコピーはもちろん、パソコンで作成した適格請求書のデータを残し、要件を満たすことでも保存と認められます。
適格請求書ではない請求書の場合、控えを作成しなくてはいけないという義務は特に設けられていないため、作成せず取引を終えることも可能です。しかし、控えを作成した場合には保管します。
請求書の控えは自身が経理業務を行う際や、入金の遅れが生じた際に請求内容を振り返るといった際に利用できます。法的な定めに関係なく、できるだけ請求書の控えを保管しておくことが望ましいでしょう。
請求書以外の証憑書類も保管が必要
請求書以外にも、取引においては注文書・契約書・領収書といったさまざまな書類をやり取りすることになります。これらの書類に関しても請求書と同様に保管を行います。
また、これらの書類をパソコンを使って保存する際は、電子帳簿保存法の要件を満たして保存する必要があります。
ケース別の請求書の保管期間
受領した請求書の保管期限は、個人事業主や法人、インボイス制度の登録の有無といった属性に応じて異なります。なお、自身が発行した請求書は控えを作成する義務はありませんが、作成した場合には同様の期間保管する必要があります。
次項から、請求書の保管期間をケース別に紹介します。
個人事業主の請求書の場合
個人事業主は、所得税の確定申告の期限(3月15日)の翌日から5年間保管する必要があると定められています。
個人事業主が確定申告する際は、青色申告と白色申告のいずれかを選択しますが、請求書はどちらであっても同様に5年間です。ただし、消費税の課税事業者に関しては受領した日の含まれる課税期間(個人事業主は1月1日〜12月31日)の末日の翌日から2か月を経過した日から7年間保存する必要があります。
参照:
No.6496 仕入税額控除をするための帳簿及び請求書等の保存|国税庁
例①
2023年分の所得税の確定申告は、2024年の3月15日までに行う必要がありました。したがって、免税事業者の個人事業主が2023年の1月1日〜12月31日の間に受け取った請求書であれば、以下のように5年間保管する必要があります。
請求書の受け取り | 2023年1月1日〜12月31日 |
課税期間 | 2023年1月1日〜12月31日 |
確定申告の期限 | 2024年3月15日 |
保存期間 | 2024年3月16日〜2029年3月15日 |
参照:令和5年分 確定申告特集
例②
前々年の課税売上高が1,000万円を超えるなどの条件を満たした場合には、消費税が課税される課税事業者となります。また、1,000万円を超えなくてもインボイス制度に対応するために課税事業者になったという事業者も多いでしょう。
課税事業者は仕入税額控除をするために請求書をはじめとする書類を保存します。「受領した日の属する課税期間の末日の翌日から2か月を経過した日から7年間」と定められているため、2023年1月1日〜12月31日に課税事業者が請求書を受け取った際は、以下のスケジュールで保存すればよいということがわかります。
請求書の受け取り | 2023年1月1日〜12月31日 |
課税期間 | 2023年1月1日〜12月31日 |
保存期間 | 2024年3月1日〜2031年2月28日 |
参照:
No.6496 仕入税額控除をするための帳簿及び請求書等の保存|国税庁
法人の請求書の場合
法人は原則として、請求書をはじめとする書類をその事業年度の確定申告書の提出期限の翌日から7年間保管する必要があります。
事業年度とは、会社が事業の損益を計算するための期間です。3月決算の会社であれば、4月1日〜3月31日が1つの事業年度となります。個人事業主は1月1日〜12月31日と一律で定められていますが、会社は事業年度を自由に設定できるため、請求書の保存をする際は事業年度の把握が欠かせません。
例
3月決算の会社について、2023年度に請求書を受領したケースを見てみましょう。法人の決算の期限は決算日(事業年度の最後の日)から2ヶ月と定められているため、請求書の保存期間は以下のようになります。
請求書の受け取り | 2023年4月1日〜3月31日 |
事業年度 | 2023年4月1日〜3月31日 |
確定申告の期限 | 2024年5月31日 |
保存期間 | 2024年6月1日〜2031年5月31日 |
なお、欠損金額(赤字のこと)が生じた際は、青色繰越欠損金として繰り越すことで、赤字の分の金額を将来の利益から控除して税負担を抑えられます。
この青色繰越欠損金は10年にわたって繰り越せることから、欠損金額が生じた事業年度の書類の保存期間は7年から10年に延長されます。そのため、管理しやすいよう保存期間を10年に統一して保存することをおすすめします。
雑所得を得ている人の請求書の場合
雑所得とは、事業所得・給与所得・不動産所得といった所得の種類のうち、他のどの所得にも当てはまらない所得を言います。具体的には、フードデリバリーやハンドメイド品の販売で生じた報酬などがこれに該当します。
2022年以降、その年の前々年分の業務に係る雑所得の収入金額が300万円を超えると、請求書などの書類を5年間保管する必要が生じます。ここで言う「業務に係る雑所得」とは、以下のように計算した金額です。
総収入金額 – 必要経費 = 業務に係る雑所得 |
なお「業務に係る」とは副業に係る収入のうち営利を目的とした継続的なものを言い、公的年金等による雑所得はこれに含まれません。
適格請求書の場合
インボイス制度の施行後、仕入で生じた消費税を売上で生じた消費税から控除する「仕入税額控除」の適用を受けるために、適格請求書の保存が必要になりました。
この場合、適格請求書を受領した日の属する課税期間の末日の翌日から2か月を経過した日から、原則として7年間保存する必要があります。この期間は法人・個人にかかわらず、7年と統一されています。
また、適格請求書発行事業者は自身が発行した適格請求書の控えも7年間保管しなくてはいけません。従来の請求書は控えを発行することが義務付けられていませんでしたが、適格請求書は控えを発行して保管するため、必要に応じて業務フローの見直しを行いましょう。
参照:No.6496 仕入税額控除をするための帳簿及び請求書等の保存|国税庁
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請求書の保管の注意点
請求書を保管する上では、電子帳簿保存法の内容も押さえておきましょう。
電子帳簿保存法とは、電子データとして帳簿書類をやり取り・保存する場合の規定についてまとめた法律です。具体的には、以下の3つの方法について定められています。
- 電子帳簿等保存:電子的に作成した帳簿書類をデータのまま保存
- スキャナ保存:紙で受領・作成した書類を画像データで保存
- 電子取引:電子データとして受け取った書類はデータのまま保存
特に、3つ目の「電子取引」については注意が必要です。今までは電子データとして受け取った書類を紙に印刷して保存することが認められていましたが、2022年1月1日の改正でそれが廃止されたため、多くの企業が経理業務の見直しを迫られた背景があります。
電子データとして受け取った請求書とは
そもそも電子取引における「電子データとして受け取った」とは、以下の方法によって請求書などの書類を受領することを指します。
- メールに添付された書類
- 業務システムなどを使って電子的にやり取りした書類
- インターネットのホームページからダウンロードした書類
つまり、これらの書類は紙に印刷せず、データのまま保管することが電子帳簿保存法の改正によって義務化されました。
電子帳簿保存法による電子取引の要件とは
電子取引においては「真実性の要件」と「可視性の要件」を満たす必要があります。
真実性の要件(いずれかの措置を行う) | タイムスタンプが付された後の授受 |
速やかにタイムスタンプを付す | |
以下のいずれかのシステムの利用・データの訂正削除を行った場合にその記録が残るシステム・訂正削除ができないシステム | |
訂正削除の防止に関する事務処理規程の備付け | |
可視性の要件(全てを満たす必要がある) | 見読可能装置(パソコン・プログラム・ディスプレイ・プリンタなど)の備付け等 |
電子計算機処理システムの概要を記載した書類の備付け(自社開発のプログラムを使用する場合に限る) | |
検索機能の確保 |
このように、電子帳簿保存法に対応したシステムを取り入れるなどして対処を行います。
個人事業主や小規模の会社がそのようなシステムを導入するのが難しい場合には、事務処理規程を用意することで真実性の要件に対応することも可能です。事務処理規程は国税庁のホームページから作成例を閲覧できますので、これから対応するという方は一度チェックしてみましょう。
参照:
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まとめ
請求書の保存期限はインボイス制度の登録の有無などによって異なり、自身の状況にあわせた期間保存する必要があります。同じ事業者でも書類の種類や赤字の有無によって保存年数が異なるケースがありますので、保存の際は混同しないように注意しましょう。
また、電子的に書類を発行・授受する際の要件について定めた電子帳簿保存法も把握しながら請求書を保管しなければなりません。各種法制度の動向もチェックしながら対応していきましょう。
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