請求書の基礎知識

請求書発行のルールとは?インボイス制度・電子帳簿保存法への対応と効率化

公開日:

請求書発行の「正しいルール」を理解することは、取引先からの信頼を勝ち取る第一歩です。煩雑な作業を効率化し、売上アップに集中できる未来につながります。

しかし、2023年10月から始まったインボイス制度、2024年1月からの電子帳簿保存法の義務化により、請求書発行と保存のルールは根本から変わりました。

この記事では、法律の専門家でなくても、中小企業の経理担当者や個人事業主が今日から実践できる「請求書の正しいルール」の3つの柱と、それを「武器」に変える効率化の手順をわかりやすく解説します。

請求書ルールの厳格化:2つの大法改正が背景

近年、請求書発行に関するルールが急速に厳格化しています。これには2つの大きな法改正が背景にあります。

これらの変更は、単なる「手続きの増加」ではありません。対応を誤ると、取引先の信頼を失い、自社の業務効率を著しく低下させる重大なリスクをはらんでいます。

インボイス制度開始のリスク(仕入税額控除)

最も大きな変化は、インボイス制度(適格請求書等保存方式)の開始です。この制度下で、買い手(請求書を受け取る側)が消費税の「仕入税額控除」を適用するために、売り手(請求書を発行する側)が発行する「適格請求書」が必須となりました。

仕入税額控除とは、事業者が売上時に預かった消費税から、仕入時に支払った消費税を差し引いて納税する仕組みです。この控除が認められないと、買い手側が納める消費税額が実質的に増えてしまいます。

もし、自社が発行した請求書に不備があり、適格請求書としての要件を満たしていなければ、取引先はその取引で仕入税額控除を受けられなくなります。例えば、必須である「登録番号」の記載がない請求書では、控除ができません。

これは、自社の経理ミスが取引先に金銭的な損害を与えることを意味します。結果として、取引先からインボイス対応が可能な別の事業者に乗り換えられる可能性、すなわち「取引の打ち切り」や「売上の減少」に直結するリスクとなるのです。

請求書発行のルールは、今や取引の信頼関係を維持するための最重要ルールとなりました。

電子帳簿保存法義務化のリスク(データ保存)

2023年10月のインボイス制度開始とほぼ同時に、もう一つの重要な法律が本格化しました。2024年1月1日から、「電子帳簿保存法」における「電子取引」データの電子保存が完全義務化されたのです。

これは、請求書を電子メールの添付ファイル(PDFなど)やクラウドサービス経由で受け取った場合、その電子データを「データのまま」保存しなければならないというルールです。従来のように、PDFを印刷して紙で保存し、元の電子データを削除する運用は、法律違反となります。

インボイス制度は「取引の透明性を高め、正確な納税(益税の是正)を促す」ことを目的としています。一方、電子帳簿保存法は「経理業務の効率化」を目的としています。

国は、これら2つの法律をほぼ同時に施行することで、日本国内の商取引全体の「デジタル化」と「可視化」を強力に推進しています。

この結果、従来のような手作業やエクセル(Excel)によるアナログな請求書管理は、もはや「非効率」であるだけでなく、「コンプライアンス違反」という法的なリスクを抱える状態になったのです。

請求書発行「3つの正しいルール」

複雑化したルールに対応するため、請求書発行のルールを3つの側面から整理します。「1. ビジネスマナーとしての基本」「2. インボイス制度という税務ルール」「3. 電子帳簿保存法という保存ルール」です。

ルール1:ビジネスマナーとしての基本記載事項

法改正以前から、請求書は取引先との円滑な入金手続きを担う重要な書類です。支払いが遅れる原因の多くは、「請求書の送付ミス」や「記載不備」といった発行側の過失である場合も少なくありません。基本的な記載ルールを徹底することが、トラブル防止の第一歩です。

最低限確認すべき項目

請求書を発行する際、また受け取った際に最低限確認すべき項目です。

  • 宛名(取引先が正しいか)
  • 発行者の名前(自社または取引相手が正しいか)
  • 取引年月日(取引日の認識にズレはないか)
  • 金額や取引内容(契約内容や納品物と一致しているか)

支払期限の設定と時効

支払期限の設定は、取引先との合意に基づいて決定することが最も重要です。特に取り決めがない場合、一般的には「月末締め、翌月末支払い」または「月末締め、翌々月末支払い」に設定されるケースが多いです。

なお、請求書の権利(売掛金)には時効があります。2020年4月1日以降に発行された請求書の場合、その有効期限は支払期限の翌日から起算して5年です。

振込先の記載

振込先(金融機関名、支店名、口座の種類、口座番号)は、インボイス制度の法的な必須項目ではありません。しかし、実際に入金してもらうためには不可欠なビジネスマナーです。

口座番号は通常7桁ですが、ゆうちょ銀行など7桁でない場合は、記載方法に注意が必要です。

ルール2:インボイス制度(税務ルール)

現在、請求書発行ルールの中核となるのがインボイス制度への対応です。これは消費税の納税に関わる厳格なルールです。

適格請求書(インボイス)の必須記載6項目

2023年10月から、従来の「区分記載請求書」に代わり、「適格請求書(インボイス)」が必要になりました。

従来の請求書で必須だった項目(発行事業者の名称、取引年月日、取引内容、税率ごとに合計した取引金額、受領者の名称)に加え、適格請求書として認められるためには、以下の項目をすべて正しく記載する必要があります。

  • 事業者名と登録番号
    適格請求書発行事業者の名称と登録番号を記載します。登録番号は、法人番号がある事業者は「T + 13桁の法人番号」、個人事業主などは「T + 13桁の固有番号」です。
  • 取引年月日
    商品やサービスを提供した日付を記載します。
  • 取引内容と軽減税率表示
    取引した品目やサービス内容を記載します。軽減税率(8%)の対象品目が含まれる場合は、「※」印などを使って、それが軽減税率対象であることを明記する必要があります。
  • 税率別合計金額と適用税率
    標準税率(10%)対象と軽減税率(8%)対象について、それぞれ合計した金額(税抜または税込)と、適用税率(「10%」「8%」など)を明記します。
  • 税率別消費税額
    10%対象の消費税額と8%対象の消費税額を、それぞれ分けて計算し記載します。
  • 受領事業者名
    請求書を受け取る取引先の正確な名称を記載します。

隠れたルール「消費税の端数処理」

インボイス制度において、手作業や古いエクセルで請求書を作成している場合に、最も注意が必要な「隠れたルール」が消費税の端数処理です。

従来の請求書では、消費税の端数処理に明確なルールはありませんでした。しかし、インボイス制度では、1つの適格請求書につき、税率ごと(10%と8%)にそれぞれ1回の端数処理を行う、と定められました。

ここで注意すべきは、「やってはいけない計算方法」です。従来一般的だった、商品ごと(明細ごと)に消費税を計算して端数処理し、最後にそれを合計する方法は、原則として認められません。

正しい計算方法は、税率ごと(10%対象、8%対象)の合計金額をまず算出し、その合計額に対して税率を掛けて消費税額を算出し、そこで1回の端数処理を行います。

なお、端数処理の方法(切り捨て、切り上げ、四捨入)は、事業者が任意で決めてよいことになっています。

この計算方法の違いは、請求書全体で1円や2円のズレを生じさせる可能性があります。このズレは、税務調査で指摘されたり、取引先との消費税額の認識にズレを生じさせたりする原因となり得ます。

ルール3:電子帳簿保存法(保存ルール)

請求書は「発行して終わり」ではありません。発行した請求書の控えや、受け取った請求書を「どう保存するか」も法律で厳格に定められています。

電子取引データの電子保存義務化

前述の通り、2024年1月1日以降、「電子取引」データの電子保存が義務化されました。

電子取引とは、電子メールの添付ファイル(PDF等)、EDI取引、クラウドサービス経由での授受など、電子データでやり取りする取引全般を指します。

このルールは、企業の規模に関わらず、法人・個人事業主を問わず、ほぼすべての事業者が対象です。

満たすべき保存要件(真実性・可視性)

電子データを単にパソコンのフォルダに保存しておくだけでは、法律の要件を満たしたことになりません。保存要件は、大きく分けて「真実性の確保」と「可視性の確保」の2つが求められます。

真実性の確保(改ざん防止)

データが改ざんされていないことを証明する措置です。以下のいずれかを満たす必要があります。

  • タイムスタンプを付与する。
  • 訂正や削除の履歴が残る(または訂正・削除ができない)システムで保存する。
  • 「改ざん防止のための事務処理規程」を自社で定め、それに沿って運用する。(コストがかからず導入しやすいため、多くの企業で採用されています)

可視性の確保(検索機能)

税務調査などで必要な際に、データをすぐに見つけ出し、表示できる状態にしておく措置です。

  • ディスプレイやプリンタなど、データを表示・印刷できる機器を備え付ける。
  • 「取引年月日」「取引金額」「取引先」の3項目でデータを検索できるようにする。
    (※ただし、税務調査時に調査官からの「データのダウンロードの求め」に応じることができる場合は、範囲指定検索などの要件は不要となる緩和措置があります)

猶予措置の「罠」

「まだシステム対応が間に合わない」という事業者向けに、「猶予措置」が設けられています。しかし、この猶予措置は「何もしなくてよい」という免罪符ではないため、正しい理解が必要です。

まず、2023年12月31日まで設定されていた「宥恕(ゆうじょ)措置」は、すでに廃止されています。

現在(2024年1月1日以降)適用されるのは、新しい「猶予措置」です。この措置が適用されるには、以下の2つの条件を両方満たす必要があります。

  • システム対応が間に合わないなど、「相当の理由がある」と所轄税務署長が認める。
  • 税務調査などの際、「電子データのダウンロードの求め」と「データを印刷した書面の提示・提出の求め」の両方に応じられる。

この猶予措置は、対応を先延ばしにする企業にとって「罠」となる可能性があります。なぜなら、条件2の「データのダウンロードと書面の提示」は、データを単にフォルダに保存しているだけでは、いざという時に即座に対応するのが難しいからです。

「取引先ごと」「日付ごと」にデータを整理・検索できる仕組みがなければ、調査官の要求に応えられません。

猶予措置に頼ることは、原則である電子保存よりも、かえって煩雑な準備を要する可能性があるのです。

例外処理と実務対応

日々の業務では、請求書の記載ミスや返品など、例外的な処理が発生します。インボイス制度下での正しい対応方法を解説します。

記載ミス(修正インボイスの発行)

請求書に記載した金額や内容に誤りが見つかった場合、発行者(売り手)は「修正インボイス(修正適格請求書)」を発行する義務があります。

対応方法としては、主に2つのパターンがあります。

  • 誤りがあったインボイスとの関連性を明らかにし、修正箇所を明記した書類(修正明記タイプ)を発行する。
  • 誤ったインボイスを取り下げ、正しい内容のインボイスを再発行する。

また、継続的な取引がある場合、翌月分の請求書で「前月修正分」として差額を調整(相殺)する形でも、実務上は認められています。

なお、買い手(受領側)は、修正前の誤ったインボイスを保存する必要はなく、修正インボイス(または再発行された正しいインボイス)のみを保存すればよいことになっています。

返品・値引き(返還インボイスの発行)

商品の返品、納品後の値引き、販売奨励金(リベート)などで、一度計上した売上に対する代金を返金する場合があります。

この場合、売り手は買い手に対して「適格返還請求書(返還インボイス)」を交付する必要があります。これは、買い手側が支払う消費税額を正しく調整するために必要です。

返還インボイスは、通常の売上請求書とは別に発行することもできますが、当月の売上請求書の摘要欄などに返品・値引きの情報をまとめて記載し、1枚の請求書として発行することも可能です。

ただし、重要な例外があります。返還する金額が税込1万円未満の場合は、この返還インボイスの交付義務が免除されます。例えば、振込手数料相当額を「値引き」として処理するような少額のケースでは、発行は不要です。

請求書の保存期間

発行した請求書の控えや、受け取った請求書は、法律で定められた期間、正しく保存する必要があります。

法人と個人事業主の保存期間

保存期間は、法人と個人事業主で異なります。

  • 法人の場合:原則として7年間。
  • 個人事業主の場合:課税事業者は7年間、免税事業者は5年間。

保存期間の「起算点」に注意

ここで最も注意すべきは、「7年間」の起算点(カウント開始日)です。これは請求書の発行日や受領日ではありません。正しくは、「その事業年度の確定申告書の提出期限の翌日」からカウントします。

例えば、3月決算の法人が2024年3月31日に事業年度を終え、確定申告の期限が2024年5月31日だった場合、その事業年度(2023年4月〜2024年3月分)の請求書は、2031年5月31日まで保存する必要があります。

また、例外として、その事業年度で「欠損金(赤字)」が発生した場合、その年度の請求書は10年間の保存が義務付けられています。

法改正は業務効率化のチャンス

ここまで見てきたように、請求書発行と保存のルールは非常に複雑化しました。これらを「面倒なコスト」と捉えるか、「業務を根本から見直すチャンス」と捉えるかで、企業の競争力は大きく変わります。

従来の「手作業」が抱える法的リスク

従来の請求書処理は、手作業による入力漏れ、計算ミス、確認作業、支払い依頼書の作成、仕訳入力、紙のファイリングなど、非常に煩雑な作業の連続でした。

こうした手作業は、非効率であるだけでなく、ヒューマンエラー(人的ミス)を誘発しやすいという問題を抱えています。

インボイス制度と電子帳簿保存法が施行された今、この「手作業のリスク」は飛躍的に高まりました。

  • インボイス制度のリスク:手作業による「登録番号の記載漏れ」や「端数処理の計算ミス」が、取引先の仕入税額控除の否認という重大な問題に直結します。
  • 電子帳簿保存法のリスク:PDFをメールで受け取り、手作業でフォルダに保存するだけでは、「検索要件」や「改ざん防止措置」を満たせず、法律違反となる可能性があります。

もはや、エクセルと手作業による管理は「非効率」であるだけでなく、「法的リスクが極めて高い」状態なのです。

効率化へのステップ(ペーパーレス化)

効率化の第一歩は、まず自社の業務フローを見直し、どこに非効率な部分(例:紙の請求書の仕分け、複数のシステムへの同じデータの二重入力)があるかを特定することです。

その上で、請求書を紙で発行・受領するプロセスから、電子データ(PDFやクラウド発行)に切り替える「ペーパーレス化」を検討します。ペーパーレス化は、印刷代、封入、郵送の手間とコストを削減するだけでなく、時間や場所を選ばずに作業できるという大きなメリットがあります。

請求書管理システム導入のメリット

インボイス制度と電子帳簿保存法という2つの複雑な法的要件を、最も安全かつ効率的にクリアする現実的な解決策が、「請求書管理システム」の導入です。

システムを導入することで、法対応が自動的に完了します。

法対応の自動化

システムは、適格請求書の必須項目を満たしたフォーマットで請求書を発行します。最も間違いやすい税率別(10%・8%)の合計金額や、複雑な「端数処理」も自動で正しく計算するため、手作業によるミスのリスクがゼロになります。

多くの請求書システムは、電子帳簿保存法の保存要件(真実性の確保・可視性の確保)を満たすように設計されています。システム上で請求書を発行・受領するだけで、法に準拠したデータ保存が自動的に完了します。

業務の自動化

請求書管理システムは、法対応だけでなく、日常の煩雑な業務も自動化します。

  • 受領業務:紙やPDFなど、バラバラな形式で届く請求書をAI OCR(文字認識機能)が自動で読み取り、データ化します。経理担当者の手入力作業を大幅に削減できます。
  • 承認業務:請求書の承認プロセス(ワークフロー)をシステム上で完結できます。「承認者が不在で処理が止まる」「今、誰で止まっているかわからない」といった問題を解決します。
  • 会計処理:会計システムとデータを連携させることで、仕訳データを自動でインポートできます。請求書データを見ながら会計ソフトに再度入力する、といった二重入力を防ぎます。

自社に合うシステムの選び方

請求書管理システムには、無料で使えるものから、機能が豊富な大企業向けのものまで様々です。自社に合うシステムを選ぶ際には、以下のポイントを確認しましょう。

ポイント1 カスタマイズ性と送付方法

取引先によっては、請求書のフォーマットを指定される場合があります。自社のフォーマットに柔軟に対応できるか、また、送付方法がクラウド、メール、郵送代行、FAXなど、取引先に応じて柔軟に選べるかを確認します。

ポイント2 既存システムとの連携

すでに利用している会計システムや販売管理システムと、データ連携が可能かを確認します。

ポイント3 法制度への対応

当然ながら、「インボイス制度対応」「電子帳簿保存法対応」と明記されているシステムを選ぶことが大前提です。

まとめ

請求書発行のルールは、この数年で劇的に変化しました。最後に、本記事の要点を3つにまとめます。

請求書ルールは「取引先との信頼」のルールです。

インボイス制度への正しい対応(適格請求書の発行)は、取引先が正しく仕入税額控除を受けるために不可欠です。ルールの順守が、取引関係の維持・強化につながります。

発行と保存は「デジタル対応」が必須のルールです。

電子帳簿保存法の義務化により、電子データで授受した請求書は電子保存が必須となりました。インボイス制度とあわせ、アナログな手作業管理はもはや成り立ちません。

ルール変更は「効率化」のチャンスです。

複雑な法改正は、旧来の非効率な業務フローを見直す絶好の機会です。請求書発行システムなどを賢く活用し、手作業やミスを撲滅することで、経理担当者はより付加価値の高い業務に集中できます。正しいルールを理解し、それを自社の「武器」に変えましょう。

この記事の投稿者:

垣内

請求書の基礎知識の関連記事

請求書の基礎知識の一覧を見る

\1分でかんたんに請求書を作成する/
いますぐ無料登録