会計の基礎知識

資産表(貸借対照表)の作り方とは?個人の資産を「見える化」して将来の不安を解消する方法

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資産表

将来のお金のことを考えると、漠然とした不安を感じることはありませんか。その不安を解消し、自信を持って資産形成を進める未来を想像してみてください。資産表は、その未来を実現するための、最も強力な第一歩です。

自分の財産状況を一枚のシートで正確に把握することで、お金に関する意思決定に迷いがなくなり、心の平穏を得ることができます。

専門用語が多くて難しそうに聞こえる「資産表」の作成方法を、誰にでもわかるように一つひとつ丁寧に解説します。

資産表の作成は専門家だけのものではありません。今日、あなたが自分の手で実行できる、具体的な行動なのです。この記事を読み終える頃には、あなたの家計を「見える化」し、未来をコントロールするための知識とツールが手に入っているでしょう。

「なんだか複雑で時間がかかりそう」と感じるかもしれません。しかし、心配は不要です。正しい手順と便利なツールを使えば、誰でも簡単に資産表を作成し、その恩恵を受けることができます。

目次

資産表(貸借対照表)とは?会社の健康診断書を家計に活かす

まず、「資産表」という言葉について整理しましょう。一般的に「資産表」と呼ばれるものは、ビジネスや会計の世界では正式に「貸借対照表(たいしゃくたいしょうひょう)」と呼ばれます。英語ではバランスシート(Balance Sheet)と言い、その頭文字をとって「B/S(ビーエス)」と略されることもあります。

この貸借対照表は、企業の財政状態を示す「健康診断書」によく例えられます。健康診断が特定の日の体の状態をスナップショットとして記録するように、貸借対照表は「ある特定の時点」における財産の状況を一覧にしたものです。

資産表は、一定期間の収益と費用を記録する損益計算書(フローの書類)とは対照的に、「ストック」の書類と呼ばれます。この考え方を個人の家計に応用することで、自分自身の財政的な健康状態を客観的に把握できるのです。

一目でわかる!資産表の3つの構成要素

資産表は、大きく分けて3つの要素で構成されています。この3つの関係性を理解することが、資産表を読み解く鍵となります。

資産 (Assets – プラスの財産)

これは、あなたが所有している価値のあるものすべてを指します。現金や預金だけでなく、将来お金に変わる可能性のあるものや、経済的な利益をもたらすものも含まれます。例えば、銀行の預金、株式、不動産、自動車などが資産にあたります。

負債 (Liabilities – マイナスの財産)

これは、あなたが他人に対して返済義務を負っているものすべてです。将来支払わなければならない借金や債務が該当します。住宅ローンや自動車ローン、奨学金、クレジットカードの未払い残高などが代表例です。

純資産 (Net Assets – 本当の財産)

これがあなたの真の財産(純資産額)です。もし所有しているすべての資産を売却し、すべての負債を返済した後に手元に残る金額を指します。「自己資本」とも呼ばれ、あなたが実質的に所有している財産の部分です。

黄金ルール「資産 = 負債 + 純資産」を理解する

黄金ルール「資産 = 負債 + 純資産」を理解する

資産表には、絶対に崩れない一つの黄金ルールがあります。それは、「資産の合計額」と「負債と純資産の合計額」が必ず一致するというルールです。

資産 = 負債 + 純資産

この式が意味するのは、あなたが持っている財産(資産)は、他人から借りたお金(負債)と、自分自身のお金(純資産)のいずれかによって賄われているということです。表の左側に資産、右側に負債と純資産を配置し、左右の合計が釣り合う(バランスする)ことから、「バランスシート」と呼ばれています。

この考え方を身につけることは、単なる会計の知識にとどまりません。多くの人が高価な家や車といった目に見える「資産」を豊かさの象徴と考えがちです。

しかし、その裏に同額の「負債」があれば、「純資産」はゼロに近くなります。資産表は、表面的な豊かさではなく、実質的な財政の健全性、つまり純資産を増やすことの重要性を教えてくれるのです。

【実践編】個人の資産表を作成する5つのステップ

それでは、実際にあなた自身の資産表を作成していきましょう。以下の5つのステップに従えば、誰でも簡単にはじめることができます。

ステップ1 すべての「資産」を洗い出す

まずは、あなたが持っているプラスの財産をすべてリストアップします。資産は、現金化のしやすさによって大きく2種類に分けられます。会計で使われる「1年基準(ワンイヤールール)」を参考に、1年以内に現金化できるかどうかで分類すると分かりやすいでしょう。

流動資産 (Current Assets)

現金、または1年以内に容易に現金化できる資産です。日々の生活や短期的な支払いに充てられる、流動性の高い資産が流動資産に分類されます。

  • 現金
  • 預貯金(普通預金、定期預金など)
  • 株式、投資信託、債券などの有価証券
  • 個人向け国債

固定資産 (Fixed Assets)

1年を超えて長期的に保有する資産です。すぐに現金化する予定がなく、生活の基盤となるような資産が該当します。

  • 不動産(土地、建物)
  • 自動車、バイク
  • 生命保険(貯蓄性のある保険の解約返戻金)
  • 確定拠出年金(iDeCo)や企業型DCなどの退職金制度の現在価値
  • ゴルフ会員権など

見落としがちな資産リスト

資産を洗い出す際には、普段あまり意識しないものも忘れずに含めることが重要です。特に、貯蓄性のある生命保険の解約返戻金は、いざという時に現金化できる立派な資産です。

保険会社から年に一度送られてくる契約内容のお知らせなどで確認しましょう。また、確定拠出年金などの退職金制度の残高も、将来の重要な資産として把握しておくべきです。

ステップ2 すべての「負債」を正直にリストアップする

次に、マイナスの財産である負債をすべて書き出します。こちらも返済期限までの期間によって2種類に分けられます。

流動負債 (Current Liabilities)

1年以内に返済期限が到来する負債です。短期的な資金繰りに影響を与える借金が流動負債に分類されます。

  • クレジットカードの未払い残高(リボ払い、分割払いなど)
  • 短期ローン、キャッシング
  • 1年以内に返済予定の借入金

固定負債 (Fixed Liabilities)

返済期間が1年を超える長期的な負債です。

  • 住宅ローン
  • 自動車ローン
  • 奨学金
  • 長期の借入金

忘れてはいけない負債

負債をリストアップする際は、金融機関からの借入だけでなく、個人間の貸し借りも忘れてはいけません。親族や友人からの借金も、法的な返済義務のある負債です。

また、支払いが遅れている医療費や公共料金なども、見落としがちですが正直に計上する必要があります。これらの負債を正確に把握することが、健全な家計管理の第一歩です。

ステップ3 資産の「時価」を調べる

資産表を正確なものにするためには、資産を購入した時の価格ではなく、現在の市場価値(時価)で評価することが非常に重要です。特に価値が大きく変動する不動産や自動車は、定期的に時価を把握する習慣をつけましょう。

不動産 (Real Estate)

個人の不動産の時価を調べるには、いくつかの簡単な方法があります。

まず手軽な方法として、毎年送られてくる固定資産税納税通知書に記載されている「固定資産税評価額」を確認します。一般的に、この評価額を0.7で割り戻した金額が市場価格の一つの目安とされています(実勢価格の目安 = 固定資産税評価額 ÷ 0.7)。

より正確な方法としては、国土交通省が運営する「不動産情報ライブラリ」や、SUUMOなどの不動産ポータルサイトで、近隣の類似物件の成約価格や売り出し価格を調べる方法があります。これにより、より現実的な相場観を掴むことができます。

最も正確な方法を望むなら、不動産会社に依頼すれば、無料で簡易的な査定(机上査定)をしてもらうことも可能です。

自動車 (Vehicles)

自動車の時価は、中古車市場の価格を参考にします。

Goo-netなどの中古車情報サイトで、自分の車と同じ車種・年式・走行距離の車がいくらで販売されているかを調べるのが最も手軽です。

最近では、個人情報の入力なしでAIが即座に査定額を算出してくれるオンラインサービスも多数あります。これらのオンラインサービスを利用すれば、しつこい営業電話を心配することなく、手軽に相場を知ることができます。

保険会社は「レッドブック」という専門誌を参考にしますが、個人にとってはオンラインツールの方がはるかにアクセスしやすいでしょう。

ステップ4 資産表に数値を記入し、「純資産」を計算する

ステップ1から3で集めた情報を、以下の表のようなフォーマットに記入していきます。すべての数値を埋めたら、最後に「純資産」を計算します。この数字が、現時点でのあなたの本当の財産です。

純資産 = 資産合計 – 負債合計

資産の部 (Assets)負債・純資産の部 (Liabilities & Net Assets)
流動資産流動負債
現金・預金1,500,000円クレジットカード残高200,000円
投資信託2,000,000円短期借入金0円
固定資産固定負債
不動産(時価)30,000,000円住宅ローン残高25,000,000円
自動車(時価)1,000,000円自動車ローン残高500,000円
生命保険(解約返戻金)500,000円奨学金残高1,000,000円
負債合計26,700,000円
純資産8,300,000円
資産合計35,000,000円負債・純資産合計35,000,000円

この表は、あなたの財政状況を一枚で可視化する強力なツールです。抽象的な数字の羅列ではなく、具体的な構成要素として財産を捉えることで、どこに強みがあり、どこに課題があるのかが一目瞭然になります。

ステップ5 定期的に見直す習慣をつける

資産表は一度作って終わりではありません。年に一度の健康診断のように、定期的(年に一度や半年に一度など)に見直すことが重要です。

定期的に更新することで、自分の資産が順調に増えているか、負債が着実に減っているかといった進捗を確認できます。これにより、資産形成のモチベーションを維持し、必要に応じて計画を修正することが可能になります。

あなたの家計は健全?資産表から読み解く3つの重要指標

資産表を作成したら、次はその数字を分析し、家計の健康状態を診断してみましょう。ここでは、特に重要な3つの指標を紹介します。これらの指標を理解することで、単に数字を眺めるだけでなく、具体的な改善アクションへと繋げることができます。

安全性チェック 純資産比率(自己資本比率)

純資産比率は、あなたの総資産のうち、返済義務のない「本当の自分の財産」がどれくらいの割合を占めているかを示す指標です。企業の財務分析で使われる「自己資本比率」を個人向けに置き換えたもので、家計の長期的な安定性を示します。

計算式

純資産比率 (%) = 純資産 ÷ 総資産 × 100

見方

この比率が高いほど、借金への依存度が低く、経済的なショック(失業や病気など)に対する抵抗力が強い、健全な家計であると言えます。

企業の健全性の目安として30%〜40%が挙げられることがありますが、個人の家計では50%以上を目指したいところです。もしこの比率が低い、あるいはマイナス(債務超過)の場合は、資産を増やすことよりもまず負債を減らすことを優先すべきサインです。

短期支払い能力チェック 流動比率

流動比率は、短期的な支払い能力、つまり「突然の出費や収入減にどれだけ対応できるか」を測る指標です。1年以内に返済が必要な負債(流動負債)に対して、すぐに現金化できる資産(流動資産)がどれだけあるかを示します。

計算式

流動比率 (%) = 流動資産 ÷ 流動負債 × 100

見方

この比率が100%を下回っている場合、手元の資金で短期的な借金を賄えない可能性があり、危険な状態です。理想は200%以上とされており、流動比率が200%以上あれば予期せぬ事態にも安心して対応できるでしょう。

100%を大きく下回る場合は、資金繰りに注意が必要な赤信号と捉え、まずは手元の現預金を増やすことを考えましょう。

資産構成チェック 資産ポートフォリオのバランス

上記の比率だけでなく、資産の中身、つまりポートフォリオの構成を質的に分析することも重要です。

資産の偏りはないか?

例えば、総資産の90%が自宅の不動産という場合、資産価値は高くても、いざという時にすぐに現金化できず(流動性が低く)、困る可能性があります。

安全資産である預貯金、成長を目指す投資資産、生活の基盤となる固定資産が、自分のライフステージや目標に合わせてバランス良く配分されているかを確認しましょう。

ライフプランと合っているか?

これらの財務指標の「正解」は一つではありません。重要なのは、自分のライフプランと財務状況が一致しているかです。

例えば、20代や30代であれば、多少リスクを取ってでも投資資産の比率を高めて資産成長を目指すのが合理的かもしれません。一方、リタイアが近い世代であれば、安全性と流動性を重視し、預貯金や債券などの比率を高めるのが賢明です。資産表は、こうした戦略的な判断を下すための客観的なデータを提供してくれるのです。

資産管理を自動化する!おすすめツール活用術

資産管理を自動化する!おすすめツール活用術

資産表の重要性は理解できても、定期的にすべての情報を集めて更新するのは手間がかかる、と感じるかもしれません。幸いなことに、現代ではその資産管理の手間を大幅に削減し、自動化するための優れたツールが存在します。

まずは手軽に 無料Excelテンプレートの紹介

自分でデータを管理したい方や、金融機関の情報をオンラインで連携することに抵抗がある方には、Excelテンプレートが最適です。

日本FP協会や金融広報中央委員会(「知るぽると」というサイトで情報提供)といった信頼できる機関が、家計管理に役立つ質の高いExcelテンプレートを無料で公開しています。これらのテンプレートは、資産表だけでなく、毎月の収支を記録するキャッシュフロー表などもセットになっていることが多く、総合的な家計管理に役立ちます。

究極の効率化 資産管理アプリという選択肢

日々の資産管理を究極的に効率化したいなら、資産管理アプリの活用が最もおすすめです。

仕組み

これらのアプリは、銀行口座、クレジットカード、証券口座、電子マネー、ポイントカードなど、あなたが利用している様々な金融サービスと連携します。

一度連携設定をすれば、アプリが自動的に各サービスの最新情報を取得し、すべての資産と負債の状況を一つの画面に集約してくれます。

メリット

  • 一元管理
    複数のウェブサイトやアプリにログインしなくても、すべての金融資産を一つのダッシュボードで確認できます。
  • 自動更新
    取引があるたびにデータが自動で更新されるため、資産表は常に最新の状態に保たれます。手入力の手間は一切ありません。
  • 可視化
    資産の内訳や純資産の推移がグラフで分かりやすく表示されるため、お金の増減やポートフォリオの変化を直感的に把握できます。

代表的なアプリ

日本で人気のある代表的なアプリには、「マネーフォワード ME」や「Zaim」、「Moneytree」などがあります。これらのアプリは、日々の家計簿機能も充実しており、資産管理と支出管理をシームレスに行うことができます。

かつては専門家や富裕層しかできなかったような高度な資産分析が、今やスマートフォン一つで誰でも手軽に行えるようになりました。資産管理アプリの普及は単なる利便性の向上ではなく、誰もが主体的に自分の資産を管理し、金融リテラシーを高めることができる時代の到来を意味します。

まとめ 資産表は、あなたの未来を描くための羅針盤

この記事では、あなたの財産状況を正確に把握するための「資産表」について、その意味から具体的な作成方法、分析、そして便利なツールまでを網羅的に解説しました。最後に、重要なポイントを再確認しましょう。

  • 資産表は家計の健康診断書
    ある時点での資産、負債、純資産を一覧にすることで、財政の全体像を明確に示してくれます。
  • 作成は簡単な5ステップ
    「資産を洗い出す」「負債をリストアップする」「時価を調べる」「純資産を計算する」「定期的に見直す」という手順で誰でも作成できます。
  • 分析で健全性をチェック
    「純資産比率」や「流動比率」といった簡単な指標で、家計の安定性や短期的な支払い能力を客観的に評価できます。
  • ツールで管理を自動化
    Excelテンプレートや資産管理アプリを活用すれば、手間をかけずに継続的な資産管理が可能です。

資産表は、単なる数字が並んだ書類ではありません。資産表は、あなたの金融の旅における羅針盤です。

漠然とした未来への不安を具体的な目標と計画に変え、情報に基づいた賢明な意思決定を可能にし、自信を持って人生のゴールへと進むための道筋を示してくれます。今日この瞬間から、あなた自身の資産表を作成し、未来の家計をその手でコントロールする第一歩を踏み出しましょう。

この記事の投稿者:

hasegawa

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