会計の基礎知識

資金繰り表の作り方とは?倒産リスクを回避し経営を安定させる実践的ノウハウについて解説

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資金繰り表 作り方

「利益は出ているはずなのに、なぜか手元にお金が残らない」「来月の支払いを考えると夜も眠れない」。もしあなたがこのような悩みを抱えているなら、その不安を確かな自信に変えるための「経営の航海図」が必要です。それが資金繰り表です。

資金繰り表は、単なる数字の記録ではありません。会社の未来のお金の流れを予測し、資金ショートという最悪の事態を未然に防ぐための、もっとも強力な武器なのです。

この記事を最後まで読めば、あなたは自社の現金の流れを正確に可視化し、未来の資金繰りをコントロールするための具体的な方法を完全に理解できます。実際に多くの優良中小企業が、ここで解説する手法を用いて経済の荒波を乗り越え、重要な融資を確保しています。

「経理は専門外だから難しそう」と感じるかもしれません。しかし、心配は無用です。この記事では、専門家でなくても実践できるよう、複雑なプロセスをシンプルなステップに分解して解説します。無料のExcelテンプレートを使い、今日からあなたも「お金の見える化」を始めることができるのです。

さあ、漠然とした不安から解放され、自信に満ちた経営判断を下すための第一歩を踏み出しましょう。

目次

なぜ利益が出ているのに倒産?「黒字倒産」の恐怖と資金繰り表の重要性

決算書の上では利益が出ているにもかかわらず、会社が倒産に追い込まれる。これは「黒字倒産」と呼ばれ、多くの中小企業にとって現実的な脅威です。この現象の根底には、多くの経営者が誤解しがちな、会計上の「利益」と手元にある「現金」の根本的な違いがあります。

その違いとは、「損益」と「収支」の概念です。「損益」とは、取引が発生した時点で計上される会計上の利益や損失を指し、必ずしも現金の動きとは一致しません。一方で「収支」は、実際の現金の入りと出の流れそのものを指します。会社が給与や仕入れ代金を支払うために必要なのは、帳簿上の利益ではなく、紛れもない「現金」です。

具体的な例で考えてみましょう。ある会社が4月に1,000万円の大型案件を受注し、商品を納品したとします。この時点で、損益計算書には1,000万円の売上が計上され、利益が生まれます。

しかし、取引先との契約で入金が60日後の6月末だった場合、4月と5月の時点では手元に現金は1円も入ってきません。もしこの会社が5月末に500万円の仕入れ代金や人件費の支払いを迎えれば、口座残高が不足し、支払いができなくなります。

これが黒字倒産の典型的なパターンです。利益が出ているにもかかわらず、現金の入出金のタイミングのズレによって、会社は立ち行かなくなるのです。

この致命的なリスクを回避するために存在するのが、資金繰り表です。損益計算書が過去の成績を示す「通知表」だとすれば、資金繰り表は未来の航路に潜む座礁リスクを知らせる「レーダー」の役割を果たします。月ごと、あるいは日ごとの現金の出入りを予測することで、「いつ、いくら資金が不足する可能性があるか」を事前に察知できます。

つまり、資金繰り表を作成し活用することは、単なる経営管理の一環ではありません。それは黒字倒産という特定の病に対する「特効薬」であり、事業継続性を担保するための保険とも言える、極めて重要なリスク管理ツールなのです。その本質的な役割は、問題を未然に防ぎ、経営者に先手を打つ時間を与えることにあります。

目的別・最適なツールの選び方|資金繰り表・損益計算書・キャッシュフロー計算書の違い

目的別・最適なツールの選び方|資金繰り表・損益計算書・キャッシュフロー計算書の違い

経営状態を把握するためには、いくつかの重要な財務書類が存在します。しかし、「資金繰り表」「損益計算書」「キャッシュフロー計算書」は名前が似ているため、その役割の違いを正確に理解していない経営者も少なくありません。それぞれの書類は目的も時間軸も異なり、適切に使い分けることが重要です。

資金繰り表 (Cash Flow Table) は未来志向の社内管理ツールです。主な目的は、将来の現金の過不足を予測し、資金ショートを未然に防ぐことにあります。月次や日次など、経営判断に必要な柔軟な期間で作成され、法的な作成義務はありません。経営者が日々の意思決定を行うための、実践的な行動計画書と言えます。

損益計算書 (P&L Statement) は過去志向の公式な財務諸表です。会計期間(例:1年間)における会社の経営成績、つまりどれだけ利益を上げたかを示します。収益と費用をベースに計算されるため、現金の動きとは直接連動しません。株主や税務署など、外部の利害関係者への業績報告が主な目的です。

キャッシュフロー計算書 (Cash Flow Statement) も過去志向の公式な財務諸表で、上場企業などには作成が義務付けられています。過去の会計期間において、現金が「なぜ」「どのように」増減したのかを分析するための書類です。

現金増減の要因を「営業活動」「投資活動」「財務活動」の3つのカテゴリーに分けて表示し、投資家などが企業の財務の健全性を評価するために用います。

これらの書類の役割を誤解すると、経営判断を誤る危険があります。例えば、損益計算書で大きな利益が出ていても、それを鵜呑みにして資金繰りの手当てを怠れば、黒字倒産のリスクを見逃すことになります。経営者が未来の舵取りをするために、まず手に取るべきは「資金繰り表」です。

以下の表で、それぞれの書類の役割を明確に整理しましょう。

特徴資金繰り表損益計算書キャッシュフロー計算書
目的未来の資金不足を予測・防止する過去の経営成績(利益)を把握する過去の現金の増減理由を分析する
時間軸未来過去過去
作成義務任意必須上場企業等は必須
主な利用者経営者(社内管理用)経営者、株主、税務署(社内外報告用)投資家、金融機関(外部報告用)

この違いを理解することで、あなたは各書類から適切な情報を読み取り、より精度の高い経営判断を下せるようになります。日々の運転には資金繰り表を、過去の振り返りには損益計算書やキャッシュフロー計算書を活用する。この使い分けが、安定経営の第一歩です。

5ステップで完成!初心者でもできるExcel資金繰り表の作り方

資金繰り表の作成は、決して難しい作業ではありません。ここでは、Excelを使って誰でも実践できる5つのステップを具体的に解説します。この手順に沿って進めることで、自社の資金の流れを明確に把握できます。

ステップ1 必要な書類を準備する

正確な資金繰り表を作成するためには、正確な情報源が必要です。まずは以下の書類を手元に集めましょう。これらの情報の精度が、予測の信頼性を直接左右します。

  • 月次試算表(貸借対照表(BS)と損益計算書(PL)を含む最新のもの)
  • 預金通帳やネットバンキングの入出金明細(現金の動きを正確に把握します)
  • 請求書の控え(売掛金管理表)(「いつ」「いくら」入金される予定かを確認します)
  • 支払予定表(買掛金管理表)(「いつ」「いくら」支払う必要があるかを確認します)
  • 借入金の返済予定表(金融機関からの借入金の返済額とスケジュールを確認します)

ステップ2 Excelでフォーマットを作成する

次に、Excelで資金繰り表の基本的なフォーマットを作成します。標準的な構成は以下の通りです。

  • 前月繰越(月初残高)
  • 収入の部(経常収入)
  • 売上入金(現金売上、売掛金回収)
  • その他収入(雑収入など)
  • 支出の部(経常支出)
  • 仕入支払(現金仕入、買掛金支払)
  • 人件費(給与、社会保険料など)
  • 家賃
  • その他経費(水道光熱費、通信費など)
  • 経常収支
  • 財務収支
  • 借入による収入
  • 借入金の返済
  • 差引過不足(月中増減)
  • 翌月繰越(月末残高)

これらの項目をExcelの行に設定し、列には月(例:4月、5月、6月…)を設定します。

ステップ3 実績数値を入力する

まずは過去の実績を把握し、自社の資金繰りのパターンを理解するために「実績表」を作成します。少なくとも過去3ヶ月から6ヶ月分の数値を、ステップ1で準備した書類を基に入力していきましょう。この作業を通じて、季節的な変動や特定の月に支出が集中する傾向などを把握できます。

ステップ4 予測数値を入力する

ここからが資金繰り表の真骨頂である「計画表」の作成です。今後6ヶ月から12ヶ月先までの数値を予測して入力します。

収入の予測は、過去の実績、季節変動、すでに確定している受注などを基に、現実的な売上予測を立てます。

支出の予測は、まずは家賃や人件費、リース料など、毎月金額がほぼ確定している固定費から入力します。次に、売上予測に連動する仕入れなどの変動費を見積もります。

売上入金と仕入支払の計算は、損益計算書(PL)と貸借対照表(BS)の数値から、実際の現金の動きを計算するのは少し複雑ですが、以下の計算式を使えば算出できます。これは会計上の売上・仕入と現金のズレを調整するための重要な計算です。

売上収入 = 当月の売上高(PL) + 前月末の売掛金(BS) – 当月末の売掛金(BS)

仕入支出 = 当月の仕入高(PL) + 前月末の買掛金(BS) – 当月末の買掛金(BS)

この予測プロセスは、単なる数字の入力作業ではありません。将来の売上計画、仕入戦略、採用計画などを具体的に考えることで、経営者としての思考が整理され、より戦略的な視点を持つことにつながります。

過去の数値を管理する「経理担当者」の視点から、未来の資金を能動的にコントロールする「経営戦略家」の視点へと、自然に意識が変化していくのです。

ステップ5 翌月繰越を確認し、危険信号を可視化する

最後に、計算式を設定し、資金繰りの状況を一目で把握できるようにします。

繰越計算は、各月の「翌月繰越」残高が、次の月の「前月繰越」残高になるようにセルをリンクさせます。基本的な計算式は「翌月繰越 = 前月繰越 + 収入合計 – 支出合計」です。

危険信号の可視化は、Excelの「条件付き書式」機能を使えば、危険な兆候を自動的に色分けして表示できます。これにより、数字の羅列の中からリスクを瞬時に発見できます。

  • ルール1(赤信号) 翌月繰越がマイナス(0未満)になったセルを赤色にする。これは「資金ショート」の直接的な警告です。
  • ルール2(黄信号) 翌月繰越が「翌月の固定費合計額」を下回ったセルを黄色にする。来月の支払いに窮する可能性を示唆します。
  • ルール3(青信号) 翌月繰越が「月商の1ヶ月分」を下回ったセルを青色にする。安全圏を下回り始めたという注意喚起です。

この可視化された資金繰り表は、もはや単なる表ではありません。未来の経営状態を示すダッシュボードです。数ヶ月先に現れた赤色のセルは、過去の結果ではなく、「今、行動を起こしなさい」という未来からのメッセージです。このproactive(積極的)な姿勢こそが、洗練された財務管理の核心であり、厳しい環境を生き抜く企業とそうでない企業を分ける決定的な違いとなります。

表から経営課題を読み解く|資金繰り表の分析・活用法

資金繰り表を作成しただけで満足してはいけません。本当の価値は、その数字の裏にある経営課題を読み解き、具体的な改善アクションにつなげることにあります。完成した資金繰り表は、会社の健康状態を映し出す「診断書」として活用できます。

5つの重要チェックポイント

資金繰り表を分析する際は、以下の5つのポイントに注目することで、問題の核心に素早く迫ることができます。

経常収支はプラスか?

これが最も重要な指標です。経常収支は、本業の事業活動でどれだけ現金を稼げているかを示します。もし経常収支が慢性的にマイナスであれば、事業そのものが現金を失い続けている危険な状態です。この場合、安易な借入で補填するのではなく、事業モデルの抜本的な見直し(価格設定、コスト構造、商品構成など)が必要です。

財務収支のバランスは適切か?

借入(収入)と返済(支出)の動きを確認します。借入が設備投資など将来の成長に向けたものであれば健全な財務活動ですが、経常収支の赤字を埋めるための借入であれば、問題の先送りにしかなっていません。返済額が経常収支で稼いだ現金を大きく上回っている場合も、返済計画の見直し(リスケジュール)を検討すべきサインです。

投資の効果は出ているか?

設備投資や資産購入などの「経常外収支」も確認します。大きな現金支出を伴う投資は、将来的に経常収支のプラス(売上増・コスト減)につながる必要があります。投資を行ったにもかかわらず、収益性が改善しない場合は、その投資判断が正しかったのかを検証する必要があります。

資金残高は十分か?

月末の現金預金残高(翌月繰越)が、不測の事態に備えるための安全バッファーとして十分な水準を保っているかを確認します。一般的には、月商の1〜3ヶ月分の現金を常に確保しておくことが一つの目安とされています。残高が徐々に減少傾向にある場合は、資金繰りのどこかに問題が潜んでいる証拠です。

予測と実績の乖離はなぜか?

毎月、予測(計画)と実績を比較し、なぜ差異が生まれたのかを分析します。売上予測が楽観的すぎたのか、想定外の経費が発生したのか、あるいは売掛金の回収が遅れたのか。この分析を繰り返すことで、予測の精度が向上し、自社の経営のクセを深く理解できるようになります。

3つの回転期間で見る業務効率

資金繰りの問題は、実は財務部門だけの問題ではなく、営業、製造、購買といった事業活動全体の効率性を映し出す鏡です。経営者が「お金が足りない」と感じるとき、その根本原因は事業のオペレーションに潜んでいることが少なくありません。以下の3つの指標を計算することで、問題の源泉を特定できます。

売上債権回転期間

計算式は「売上債権(売掛金+受取手形) ÷ 平均月商」です。

これは、商品を販売してから、その代金を現金として回収するまでにかかる平均的な期間を示します。この期間が長いほど、現金化が遅く、資金が売掛金として寝てしまっている状態を意味します。これは単なる財務の問題ではなく、営業部門の契約条件や回収プロセスの問題である可能性を示唆しています。

仕入債務回転期間

計算式は「仕入債務(買掛金+支払手形) ÷ 平均月商」です。

これは、原材料などを仕入れてから、その代金を支払うまでの平均的な猶予期間を示します。この期間は、できるだけ長い方が手元に現金が残り、資金繰りは楽になります。もしこの期間が売上債権回転期間よりも極端に短い場合、入金より支払いが先行する構造的な問題を抱えていることになります。

棚卸資産回転期間

計算式は「棚卸資産(在庫) ÷ 平均月商」です。

これは、在庫を仕入れてから、すべて販売し終えるまでにかかる平均的な期間を示します。この期間が長いことは、過剰在庫を抱えているサインです。在庫は現金化されていない資産であり、保管コストも発生するため、資金繰りを大きく圧迫します。これは購買部門の需要予測や、製造・マーケティング部門の販売戦略の問題を反映しています。

このように、資金繰り表から一歩踏み込んで分析を行うことで、財務上の数字が具体的な事業活動と結びつきます。これにより、「お金の問題」を「解決可能なオペレーションの問題」として捉え直し、的確な改善策を講じることが可能になるのです。

資金繰り悪化の根本原因と今すぐできる7つの改善策

資金繰り表の分析によって経営課題が見えてきたら、次はいよいよ具体的な改善策を実行するフェーズです。ここでは、資金繰りを悪化させる主な原因を特定し、それぞれに対応する実践的な解決策を解説します。

資金繰りを悪化させる主な原因

多くの場合、資金繰りの悪化は複数の要因が絡み合って発生します。自社がどのパターンに陥っているか、冷静に診断してみましょう。

売掛金の回収遅延・貸倒れ

入金サイクルが長い、あるいは取引先が倒産して売掛金が回収不能になると、キャッシュインフローが直接的な打撃を受けます。

過剰在庫

売れない商品や材料が倉庫に眠っている状態は、現金が「モノ」に姿を変えて固まってしまっているのと同じです。保管費用もかさみ、資金を圧迫します。

売上急増に伴う運転資金不足

意外に思われるかもしれませんが、売上が急激に伸びる時も危険です。材料の仕入れや人件費の支払いが先行し、売上金の入金が追いつかずに資金がショートする「黒字倒産」の典型例です。ある運送会社では、売上が増加したものの、入金サイトが60日後だったため、先行するコスト増に対応できず一時的に資金不足に陥りました。

過大な設備投資

将来の成長を見越した投資も、その規模が大きすぎると回収までの期間が長くなり、手元の現金を枯渇させる原因となります。

多額の借入金返済

毎月の返済額が大きいと、それが固定的なキャッシュアウトフローとなり、経営の柔軟性を奪います。

高い固定費

売上の変動にかかわらず一定額が出ていく家賃や人件費などの固定費が高いと、売上が落ち込んだ際に一気に資金繰りが苦しくなります。

実践的・資金繰り改善策ハンドブック

原因を特定したら、以下の改善策から自社に合ったものを実行に移しましょう。一つ一つの効果は小さくても、組み合わせることで大きな改善につながります。

売掛金の管理徹底と早期回収

与信管理を徹底し、回収遅延が発生しないよう定期的に確認します。取引先への交渉が可能であれば、支払いサイトの短縮を依頼したり、早期支払いの割引制度を導入したりするのも有効です。緊急時には、売掛債権を売却して即座に現金化する「ファクタリング」も選択肢の一つです。

在庫の最適化

定期的な棚卸しを実施し、不要・不動在庫を把握します。長期滞留している在庫は、たとえ損失が出てもセールなどで処分し、現金化を優先すべきです。ある家具製造業者は、多額に達していた在庫をセールや発注方法の見直しによって削減し、資金繰りを大幅に改善させました。

支払サイトの交渉

売掛金の回収サイトを短縮するのと同時に、主要な仕入先に対して買掛金の支払いサイトを延長できないか交渉します。これにより、現金の流出を遅らせ、手元資金に余裕を持たせることができます。

遊休資産の売却

事業に直接貢献していない土地、建物、機械、有価証券などの遊休資産を売却し、現金化します。これは比較的短期間でまとまった資金を確保できる可能性があります。

経費削減(特に固定費)

全ての経費項目を見直し、無駄を徹底的に排除します。特に、家賃、通信費、保険料、サブスクリプションサービスなどの固定費は、一度見直せば継続的な効果が期待できます。全体の10〜20%のコストカットは十分に実現可能な目標です。

借入金のリスケジュール

金融機関に相談し、借入金の返済条件を変更してもらう(リスケジュール)ことで、月々の返済負担を軽減します。例えば、返済期間を延長したり、一定期間、元金の返済を据え置いてもらったりする方法があります。ある運送会社は、この方法で元本返済を一時的に停止し、その間に事業の立て直しに成功しました。

補助金・助成金の活用

国や地方自治体が提供する補助金や助成金を積極的に活用します。これらは原則として返済不要の資金であり、設備投資や人材育成など、前向きな取り組みの大きな助けとなります。

これらの改善策は、資金繰り表で自社の状況を正確に把握しているからこそ、的確に実行できます。まずは自社の課題を特定し、着手しやすいものから始めてみましょう。

それでも資金が足りないときに|中小企業のための資金調達ガイド

それでも資金が足りないときに|中小企業のための資金調達ガイド

社内での改善努力を尽くしてもなお、資金不足が見込まれる場合があります。その際は、外部からの資金調達を検討する必要があります。資金調達には様々な方法があり、それぞれに特徴やメリット・デメリットが存在します。自社の状況に最適な方法を選択することが重要です。

資金調達の3つの基本タイプ

まず、資金調達の全体像を理解するために、3つの基本的な分類を把握しておきましょう。

デットファイナンス(Debt Finance)

金融機関からの借入など、「負債」を増やすことによる資金調達です。返済義務と利息が発生しますが、会社の経営権(株式)を譲渡する必要がないため、経営の自由度を維持できます。

アセットファイナンス(Asset Finance)

会社が保有する「資産」を現金化することによる資金調達です。売掛債権を売却するファクタリングや、不動産・機械設備などの売却がこれにあたります。負債を増やさずに資金を確保できるのが特徴です。

エクイティファイナンス(Equity Finance)

新株を発行するなどして、「自己資本(株式)」を対価に資金を調達する方法です。返済義務はありませんが、株式を外部に放出するため、経営権が希薄化する(議決権比率が低下する)可能性があります。

中小企業が検討すべき具体的な調達方法

中小企業にとって現実的で、利用しやすい資金調達方法は以下の通りです。それぞれの特徴を比較し、自社の緊急度や信用力、必要な資金額に応じて最適な手段を選びましょう。

日本政策金融公庫(JFC)

政府が100%出資する金融機関で、中小企業や創業者への支援を目的としています。民間の銀行に比べて融資のハードルが低く、金利も有利な場合が多いのが特徴です。特に創業期の企業にとっては、最初に検討すべき選択肢と言えます。

制度融資

地方自治体、信用保証協会、金融機関が連携して提供する融資制度です。自治体が利子の一部を補助してくれるなど、有利な条件で借入ができる場合があります。

銀行融資(プロパー融資・保証付融資)

最も一般的な資金調達方法ですが、事業実績や担保・保証人などが求められ、審査は比較的厳格です。まとまった金額を長期で調達したい場合に適しています。

ファクタリング

売掛債権をファクタリング会社に売却することで、入金日を待たずに現金化する方法です。融資ではないため審査が早く、最短即日で資金化できる場合もあります。緊急性が高い場合に有効ですが、手数料が比較的高くなる傾向があります。

ビジネスローン

信販会社や消費者金融などが提供する事業者向けローンです。銀行融資に比べて審査がスピーディーで手続きも簡便ですが、金利は高めに設定されています。急なつなぎ資金が必要な場合に利用されます。

補助金・助成金

国や自治体が政策目的(例:IT導入、省エネ、雇用促進など)に合わせて公募する支援金です。要件に合致すれば返済不要の資金が得られるため、最も有利な調達方法ですが、公募期間が限られており、申請から受給までに時間がかかる点に注意が必要です。

どの方法が最適か判断に迷う場合は、以下の比較表を参考にしてください。

調達方法調達スピードコスト(金利・手数料)審査難易度特徴
日本政策金融公庫中程度低い低い中小企業・創業者に有利
制度融資中程度低い低~中程度自治体による支援がある
銀行融資遅い低い高い大口・長期の調達向き
ファクタリング速い高い低い売掛金があれば利用可、負債にならない
ビジネスローン速い高い低~中程度緊急時のつなぎ資金に

資金繰り表で「いつまでに、いくら必要か」を明確にすることで、これらの選択肢の中から最適な一手を選ぶことができます。

結論:資金繰り表を経営の「最強の武器」に変えるために

本記事では、資金繰り表の重要性から具体的な作り方、そして分析・活用法までを網羅的に解説してきました。最後に、経営者が安定した事業運営を実現するために、心に留めておくべき3つの要点を再確認します。

第一に、利益は現金ではない、ということです。この会計の基本原則を常に意識することが、黒字倒産を回避する第一歩です。そして、利益と現金のズレを管理し、未来の資金ショートを防ぐための唯一無二のツールが資金繰り表です。

第二に、作成して終わりではなく、分析と行動が全てである、ということです。資金繰り表の真価は、作成すること自体にあるのではありません。定期的に実績と比較し、予測とのズレを分析し、その背後にある経営課題(例:回収の遅れ、過剰在庫)を突き止め、具体的な改善アクションにつなげるサイクルを回すことで、初めてその価値が発揮されます。

第三に、資金繰り表は、経営者を「受動的」から「能動的」に変える、ということです。資金の流れを可視化し、未来を予測する習慣は、経営判断の質を劇的に向上させます。

問題が発生してから後手に回るのではなく、問題の兆候を早期に察知し、先手を打つことが可能になります。これは金融機関との交渉においても強力な武器となり、信頼を勝ち取り、真に強靭な企業体質を築く礎となります。

もしあなたがまだ資金繰り表を作成していないのであれば、漠然とした不安を抱え続けるのは今日で終わりにしましょう。まずは日本政策金融公庫などが提供しているシンプルなテンプレートをダウンロードし、今週中に、今後3ヶ月分の予測を立ててみることから始めてください。

その一歩が、財務的な明確性を手に入れ、持続可能な事業成長を達成するための、最も重要で確実な一歩となるはずです。

この記事の投稿者:

hasegawa

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