
住民税の計算方法を理解すれば、なぜその金額が請求されたのかが明確になり、来年度以降の賢い節税(ふるさと納税やiDeCo)に活かせます。
この記事では、公共財政の専門家が、5月〜6月に届く「住民税決定通知書」の数字の根拠を、4つのステップで詳細に解説します。一見複雑に見える計算も、順序立てて理解すれば難しくありません。給与明細と通知書を手元に置いて、一緒に確認していきましょう。
目次
住民税の計算方法:全体像がわかる4つのステップ
住民税の計算は、一見すると複雑です。しかし、その全体像は大きく4つの段階に分けられます。この記事では、計算の「地図」を提示し、住民税がどのように決定されるかを順を追って解説します。まずは、住民税の基本的な構造と、計算の全体的な流れを把握することから始めましょう。
住民税とは? 所得税との基本的な違い
住民税とは、一般に「都道府県民税」と「市区町村民税」の総称です。教育、福祉、公共サービスなど、私たちが住む地域の行政サービスを維持するために使われる税金です。
ここで、多くの人が混同しやすい「所得税」との違いを明確にする必要があります。
課税対象となる時期の違い
所得税(国税)は、「今年(1月〜12月)の所得」に対して課税されます。会社員であれば、毎月の給与から源泉徴収され、年末調整で精算されます。
一方、住民税(地方税)は、「前年(1月〜12月)の所得」を基準に計算されます。
この「1年のタイムラグ」が、住民税に関する多くの疑問(「退職したのに税金が高い」「新入社員なのに住民税が引かれない」など)の答えとなります。
例えば、退職して今年の収入がゼロになったとしても、前年に高額な所得があれば、その所得に基づいた住民税が翌年に請求されます。これが、退職翌年の住民税負担が重く感じられる主な理由です。
納税先
- 所得税は国(財務省)に納められます。
- 住民税はその年の1月1日時点で住所がある市区町村に納められます。
住民税は2つの「割」でできている
住民税の税額は、(A) 均等割 と (B) 所得割 という2つの要素の合計で構成されています。通知書を見ると、この2つの項目が必ず記載されています。
(A) 均等割:所得に関わらず定額で課税
均等割は、所得が一定額以上あるすべての人に、一律の金額が課税される部分です。「住所がある」ことを根拠に課税される、自治体の「会費」のようなものだと理解すると分かりやすいでしょう。
金額は、標準的に約5,000円です。
なぜ5,000円なのでしょうか。その内訳は、基本的に以下のようになっています。
- 都道府県民税は1,000円
- 市区町村民税は3,000円
これに加えて、2024年度(令和6年度)から、「森林環境税」1,000円(国税)が新たに創設されました。これは、温室効果ガス排出削減や森林整備の財源となり、住民税の均等割とあわせて徴収されます。
したがって、1,000 + 3,000 + 1,000 = 5,000円 が、現在の均等割の標準額となります。
ただし、これはあくまで標準です。自治体によっては、防災対策などの独自の目的で、さらに数百円から千円程度(例:県民税に+500円など)を上乗せしている場合があります。全国一律ではない点に注意が必要です。
(B) 所得割:前年の所得額に応じて課税
所得割は、住民税額の大半を占める部分であり、文字通り「前年の所得額に応じて」課税されます。所得が多いほど、この部分の税額は高くなります。
所得割の基本的な計算式は、以下の通りです。
(所得金額 − 所得控除) × 税率(10%) − 税額控除 = 所得割額
この計算式が、住民税計算の核心です。次のセクションから、この式を4つのステップに分解して、詳しく見ていきます。
住民税が決定するまでの「4つのステップ」
住民税(特に所得割)の税額は、以下の4つのステップで計算されます。この流れを理解することが、計算方法をマスターする近道です。
- ステップ1 所得金額の算出
- ステップ2 課税標準額の算出
- ステップ3 所得割額の算出
- ステップ4 最終税額の決定
ステップ1:所得金額の算出
収入 − 必要経費 = 所得金額
まず、前年の「収入」(会社員の年収や、個人事業主の売上)から、「必要経費」を引きます。会社員の場合は、経費の代わりに「給与所得控除」という概算の経費枠が自動的に引かれます。
ステップ2:課税標準額の算出
所得金額 − 所得控除 = 課税標準額
ステップ1で算出した「所得金額」から、さらに「所得控除」を差し引きます。所得控除には、医療費控除や社会保険料控除、扶養控除など、個人の事情を反映するための様々な控除があります。このステップが、節税の第一関門です。
ステップ3:所得割額の算出
(課税標準額 × 税率) − 税額控除 = 所得割額
ステップ2で算出した「課税標準額」に、住民税の「税率(原則10%)」を掛けます。その後、算出された税額から直接「税額控除」(ふるさと納税や住宅ローン控除など)を差し引きます。これが節税の第二関門です。
ステップ4:最終税額の決定
所得割額 + 均等割額 = 住民税の年税額
ステップ3で算出した「所得割額」に、前述の定額「均等割額」(約5,000円)を足します。これが、最終的に通知書に記載される1年間の住民税の総額となります。
(表)計算例:年収480万円・独身Aさんの場合
この4つのステップを、具体的な数字で見てみましょう。年収480万円、独身で社会保険料などを控除したAさんの例です。
| ステップ | 項目 | 計算(例:Aさん) | 金額(例) |
| 1 | 収入 | 給与収入 | 4,800,000円 |
| 給与所得控除 | 4,800,000円 – 1,400,000円 | ||
| 所得金額 (A) | 3,400,000円 | ||
| 2 | 所得控除 (B) | 基礎控除 430,000円 | |
| 社会保険料控除 449,753円 | |||
| 生命保険料控除 69,500円 | |||
| 所得控除合計 (B) | 949,253円 | ||
| 課税標準額 (A-B) | 3,400,000円 – 949,253円 | 2,450,000円 (千円未満切捨) | |
| 3 | 所得割額 (C) | 課税標準額 × 10% | 2,450,000円 × 10% = 245,000円 |
| 税額控除 (調整控除) | 2,500円 | ||
| 所得割額 (C) | 242,500円 | ||
| 4 | 均等割額 (D) | 5,000円 | |
| 合計 | 住民税 年税額 (C+D) | 242,500円 + 5,000円 | 247,500円 |
(注:計算例は特定の自治体のものであり、実際の控除額や端数処理は個々人の状況や自治体により異なります)
ステップ1・2:あなたの「課税所得」はいくら? 節税の鍵は「所得控除」

住民税の計算において、節税の第一関門は「ステップ2:所得控除」です。税率(10%)を掛ける「前」の金額、すなわち「課税標準額」をいかに小さくできるかが、納税額を左右する最初の重要なポイントとなります。
計算の第一歩:「収入」と「所得」の違い
多くの方が混同しがちなのが「収入」と「所得」です。この2つは全く異なります。
「収入」とは、会社員であれば「年収(額面)」、つまり源泉徴収される前の総支給額です。個人事業主であれば「売上」そのものを指します。
「所得」とは、「収入」から「必要経費」を引いた「儲け」の部分です。住民税や所得税は、この「所得」に対して課税されます。
必要経費の扱いは、働き方によって異なります。
給与所得者(会社員・パートなど)の場合
会社員は、スーツ代や交通費などを個別に経費として申告しません。その代わりに、「給与所得控除」という、みなしの経費枠があらかじめ定められています。
年収に応じて、一定額が自動的に収入から差し引かれます。例えば、年収480万円の場合、給与所得控除は140万円です。
収入 480万円 − 給与所得控除 140万円 = 所得 340万円 となります。
個人事業主(フリーランス)の場合
売上(収入)から、仕入れ費、交通費、通信費、家賃の一部など、事業にかかった「実費」を必要経費として差し引きます。
さらに、確定申告で「青色申告」を選択し、所定の要件を満たすと、「青色申告特別控除」(最大65万円)が適用され、所得をさらに圧縮することが可能です。
なぜ「所得控除」が節税の鍵なのか?
「所得控除」は、ステップ1で算出した「所得」から、さらに差し引くことができる項目群です。所得控除が多いほど、最終的に税率(10%)を掛ける対象となる「課税標準額」が小さくなります。
この関係性を理解することが非常に重要です。
住民税の所得割は 課税標準額 × 10% で計算されます。つまり、所得控除の額が10万円増えると、課税標準額が10万円減り、その結果、納める住民税は「10万円 × 10% = 1万円安くなる」ことを意味します。
さらに、所得控除は住民税だけでなく「所得税」の計算にも共通して使われます。所得税は「累進課税」を採用しており、所得が多いほど税率が上がります(5%〜45%)。
仮に、所得税率が20%(課税所得330万円〜695万円)の人が、所得控除を10万円増やした場合、節税効果は以下のようになります。
- 住民税の節税は 10万円 × 10% = 1万円
- 所得税の節税は 10万円 × 20% = 2万円
- 合計節税額は 3万円
このように、所得控除は「住民税率10% + 所得税率」分の節税効果を生み出す、強力な手段なのです。
必ず確認したい所得控除(一覧)
所得控除は、年末調整や確定申告で「申告」しなければ適用されないものが多くあります。ご自身の状況と照らし合わせ、申告漏れがないか確認しましょう。
| 控除の種類 | 内容 |
| 基礎控除 | ほぼ全ての人が対象となる基本的な控除(住民税は最大43万円) |
| 社会保険料控除 | 支払った国民年金、健康保険料、iDeCoの掛金など。全額が控除対象となる。 |
| 生命保険料控除 | 支払った生命保険料、介護医療保険料、個人年金保険料。 |
| 地震保険料控除 | 支払った地震保険料(住民税は最大2.5万円)。 |
| 医療費控除 | 年間の医療費が10万円(または所得の5%)を超えた場合。家族分も合算可能。 |
| 雑損控除 | 災害、盗難、横領などで損害を受けた場合。 |
| 配偶者控除・配偶者特別控除 | 扶養している配偶者(一定の所得以下)がいる場合。 |
| 扶養控除 | 扶養している親族(子、親など)がいる場合。 |
| 障害者控除 | 本人または扶養親族が障害者手帳などの交付を受けている場合。 |
| ひとり親控除・寡婦控除 | 配偶者と死別・離婚した方や、未婚のひとり親。 |
節税効果が絶大!「iDeCo」(小規模企業共済等掛金控除)
数ある所得控除の中でも、特に節税効果が高いのが「iDeCo(個人型確定拠出年金)」です。
iDeCoの掛金は、全額が「所得控除」(社会保険料控除 または 小規模企業共済等掛金控除)の対象となります。
これは、ふるさと納税(税額控除)と混同されがちですが、iDeCoは税率を掛ける「前」の元本(所得)そのものを減らすため、節税効果が非常に高くなります。
iDeCo節税シミュレーション(年間)
iDeCoによる住民税の軽減額は、掛金の一律10%です。所得税の軽減額は、その人の所得税率によって変動します。
| 課税所得 | 所得税率 | 年間掛金27.6万円(会社員※)の場合 | 年間掛金81.6万円(自営業)の場合 |
| 住民税軽減 (10%) | 所得税軽減 | ||
| 300万円 | 10% | 27,600円 | 27,600円 |
| 500万円 | 20% | 27,600円 | 55,200円 |
(※)企業年金がない会社員の上限額
iDeCoの控除を受けるためには、会社員は年末調整で「小規模企業共済等掛金払込証明書」を提出する、個人事業主は確定申告を行う必要があります。
ステップ3・4:税額の算出と最終調整 決め手は「税額控除」
ステップ2で「課税標準額」(所得金額 − 所得控除)を確定させたら、いよいよ税額の計算(ステップ3・4)に入ります。ここでは、節税の第二関門である「税額控除」が重要な役割を果たします。
所得割の計算:課税標準額 × 税率(原則10%)
まず、ステップ2で算出した「課税標準額」に、住民税の「所得割率」を掛けます。
この税率は、所得の多寡にかかわらず、原則として一律10%です。
所得税が、所得が多いほど税率が上がる「累進課税」(5%〜45%)であるのに対し、住民税の所得割率はフラットである点が大きな違いです。
この10%の内訳は、以下のようになっています。
- 都道府県民税 4%
- 市区町村民税 6%
- 合計 10%
ただし、政令指定都市(横浜市、大阪市、神戸市など)の場合は、内訳が異なり、都道府県民税2%、市民税8%となります(合計は同じ10%)。
所得控除と「税額控除」の決定的な違い
ここで、節税の仕組みを理解する上で最も重要な「所得控除」と「税額控除」の違いを明確にします。
所得控除(ステップ2)は、税率(10%)を掛ける「前」に、元本(所得)から引くものです。節税効果は「控除額 × 税率(10% + 所得税率)」となります。
税額控除(ステップ3)は、税率(10%)を掛けて算出した税額「から」、直接差し引くものです。節税効果は「控除額」そのものです。
税額控除は、税金そのものを直接減らす、非常に強力な「割引券」のような制度です。代表的なものに、「ふるさと納税」や「住宅ローン控除」があります。
代表的な税額控除1:ふるさと納税(寄附金税額控除)
ふるさと納税は、任意の自治体に寄付をすることで、返礼品がもらえ、寄付額のうち2,000円を超える部分が、翌年の住民税や今年の所得税から控除(差し引かれる)される制度です。
多くの人が「節税」と捉えていますが、正確には「税金(住民税)の前払い」に近い制度です。翌年住んでいる自治体に納めるはずだった住民税の一部を、今年選んだ自治体に「寄付」として先払いし、そのお礼として返礼品を受け取る仕組みです。
控除は、以下の3つのパーツで構成されています。
- 所得税からの控除(還付) (寄付額 − 2,000円) × 所得税率
- 住民税からの控除(基本分) (寄付額 − 2,000円) × 10%
- 住民税からの控除(特例分) (寄付額 − 2,000円) × (90% − 所得税率)
重要なのは、(3)の「特例分」には「住民税所得割額の20%」という上限が設けられている点です。この上限を超えて寄付をすると、自己負担が2,000円以上に増えてしまうため、ご自身の所得や控除額に基づいた「控除上限額」のシミュレーションが不可欠です。
手続き:ワンストップ特例制度
確定申告が不要な会社員で、寄付先が5自治体以内の場合、「ワンストップ特例制度」を利用できます。
寄付先に申請書と本人確認書類を郵送するだけで手続きが完了します。
申請期限は、寄付した翌年の1月10日必着です。
この制度を利用した場合、(1)の所得税からの還付はなくなり、控除額の全額が翌年の住民税からまとめて差し引かれます(減額されます)。
代表的な税額控除2:住宅ローン控除
住宅ローン控除(住宅借入金等特別税額控除)は、年末のローン残高に応じて、本来は「所得税」から差し引かれる税額控除制度です。
しかし、所得税額が少ない、あるいは住宅ローン控除額が非常に大きく、所得税から「引ききれない」ケースが発生します。
その場合、引ききれなかった控除額を、翌年の住民税から差し引くことができます。
ただし、住民税から差し引ける金額にも上限が設定されています。以下の(A)と(B)のうち、少ない方の金額が上限となります。
- (A) 所得税から引ききれなかった住宅ローン控除額
- (B) (所得税の)課税総所得金額等の5%(最高97,500円)
住宅ローン控除とふるさと納税の併用には注意
ここで、高度な注意点があります。住宅ローン控除とふるさと納税を併用する場合、ふるさと納税の限度額が下がる可能性があります。
住宅ローン控除の「引ききれない分」が住民税から控除されると、納めるべき「住民税所得割額」が減額されます。
一方、ふるさと納税の控除上限は、この「住民税所得割額の20%」を基準に計算されます。
つまり、住宅ローン控除によって(1)の住民税額が減ると、(2)のふるさと納税の上限額も自動的に下がってしまうのです。
特に住宅ローン控除が始まる1年目は、控除額が大きいため、ふるさと納税の上限額シミュレーションをより慎重に行う必要があります。
その他の税額控除
上記以外にも、以下のような税額控除があります。
配当控除は、株式の配当金(配当所得)を受け取った場合、法人税が課された後の利益から配当が支払われています。そこにさらに住民税・所得税が課されると二重課税となるため、それを調整するために一定額が税額から控除されます。
外国税額控除は、外国で所得を得て、その国で所得税・住民税に相当する税金を納めた場合、日本での課税と二重にならないよう、一定額が控除されます。
【ケース別】住民税の計算と納付方法の疑問
住民税の計算の4ステップ(所得計算 → 所得控除 → 税額計算 → 税額控除)が理解できたら、次は多くの方が疑問に思う「特定のケース」について、その計算方法や注意点を解説します。
パート・アルバイト:「103万円の壁」と住民税
パートやアルバイトで働く方が最も気にするのが「税金の壁」です。「103万円の壁」という言葉が有名ですが、これは「所得税」がかからなくなるラインを指します。
住民税には、この所得税の壁とは異なる、独自の「壁」が存在します。この違いを理解していないと、「103万円以下なのに納税通知書が来た」という事態になりかねません。
住民税の「壁」は、以下の2段階で構成されています。
1. 均等割の壁(約100万円〜110万円)
所得の多寡に関わらず定額(約5,000円)が課税される「均等割」が発生しはじめるラインです。
このラインは、自治体によって異なります。例えば、埼玉県上尾市では年収100万円を超えると均等割が課税されますが、東京都(23区)など多くの自治体では110万円が基準となっています。ご自身がお住まいの自治体の基準を確認することが不可欠です。
2. 所得割の壁(約108万円〜110万円)
所得に応じて10%が課税される「所得割」が発生しはじめるラインです。
(計算根拠:給与所得控除(最低65万円)と住民税の基礎控除(43万円)の合計108万円)。年収110万円の場合、給与所得は45万円。45万円から基礎控除43万円を引いた2万円が課税標準額となり、この2万円に対して10%の税率がかかります。
学生の場合
学生であれば、「勤労学生控除」が適用される場合があります。この控除(住民税は26万円)を受けると、住民税の所得割が非課税となるラインは134万円まで上がります。
(表)パート収入と税金の関係
複雑な「壁」を、年収別に整理すると以下のようになります。
| 年収(給与収入) | 所得税 (103万の壁) | 住民税 均等割 (100万の壁) | 住民税 所得割 (110万の壁) |
| 100万円以下 | かからない | かからない(※) | かからない |
| 100万円超 103万円以下 | かからない | かかる(※自治体による) | かからない |
| 103万円超 110万円以下 | かかる | かかる | かからない(※) |
| 110万円超 | かかる | かかる | かかる |
(※)自治体により基準が異なるため要確認
退職者:「退職した翌年の住民税が高い」のなぜ
「退職して収入がなくなったのに、高額な住民税の通知が来た」という悩みは非常に多く聞かれます。
その理由は、この記事の冒頭で説明した「住民税は、前年の所得に対して課税される」というタイムラグにあります。
退職して「今年の収入」がゼロであっても、「昨年の高所得(在職中)」を基準に住民税が計算されます。その請求が、退職した年の6月から届くことになるのです。これが、「退職した翌年の住民税が高い」と感じる正体です。
退職時期による納付方法の違い
退職後の住民税の納付方法は、退職した時期によって大きく異なります。
1月1日 〜 5月31日 に退職した場合
退職した月から5月までの残りの住民税が、最後の給与や退職金から一括徴収(天引き)されます。
例えば、2月に退職した場合、2月〜5月の4ヶ月分の住民税が、2月の最終給与からまとめて引かれます。
これにより、最後の給与の手取り額が大幅に減ることがあるため、事前の資金準備が必要です。
6月1日 〜 12月31日 に退職した場合
退職した月までは通常通り給与から天引き(特別徴収)されます。
残りの(翌年5月までの)住民税については、原則として「普通徴収」に切り替わります。
後日、自治体から自宅に納税通知書と納付書(年4回分)が届き、自分で納付することになります。
本人が希望すれば、退職時に会社に申し出て、残額を一括徴収してもらうことも可能です。
個人事業主(フリーランス)の住民税計算
個人事業主やフリーランスの方も、住民税の基本的な計算構造(所得割10% + 均等割 約5,000円)は会社員と同じです。
ただし、以下の点で会社員と大きく異なります。
所得計算において、会社員の「給与所得控除」の代わりに、売上から「実費」を経費として差し引いて所得を計算します。
確定申告で「青色申告」を選択すると、「青色申告特別控除」(最大65万円)が適用され、課税対象となる所得を大幅に減らすことができます。
納付方法は、会社員のように天引き(特別徴収)ではなく、自宅に届く納付書で自分で納付する「普通徴収」が基本となります。
また、住民税とは別に、所得が290万円(控除額)を超えると、業種に応じた税率(3%〜5%)の「個人事業税」も課税されます。
住民税の納付方法:「特別徴収」と「普通徴収」
住民税の納付方法には、この2種類があり、どちらになるかは働き方によって原則決まっています。
(表)納付方法の比較
| 項目 | 特別徴収 (会社員など) | 普通徴収 (個人事業主・退職者など) |
| 徴収方法 | 会社が給与から天引きして納付 | 自宅に届く納付書で自分で納付 |
| 対象者 | 主に給与所得者(会社員、パート等) | 自営業者、退職後の人など |
| 納付回数 | 年12回(6月〜翌年5月の毎月) | 年4回(6月, 8月, 10月, 翌年1月) |
| 通知書 | 5月〜6月に会社経由で配布 | 6月上旬に自宅に郵送 |
この「納付回数」の違いが、住民税の負担感を左右する心理的な要因となります。
例えば、年間の住民税額が12万円だった場合、
- 特別徴収(12回)は 毎月1万円の天引き
- 普通徴収(4回)は 1回あたり3万円の納付書
年間の総額は同じでも、普通徴収の方が1回あたりの納付額が大きくなるため、「税金が高い」と心理的に感じやすい傾向があります。
住民税はいつ決まる? 住民税決定通知書の見方

前年の所得(1月〜12月分)に基づいて計算された住民税の金額は、毎年5月下旬から6月上旬にかけて決定され、通知されます。
特別徴収の人は、会社に「特別徴収税額決定通知書(納税義務者用)」が届き、給与明細などと一緒に配布されます。
普通徴収の人は、自宅に「納税通知書」と、4回分(または一括用)の納付書が郵送されます。
この通知書には、この記事で解説した「所得金額」「所得控除(社会保険料、扶養控除など)」「課税標準額」「税額控除(ふるさと納税など)」「所得割額」「均等割額」といった、計算の根拠となる数字がすべて記載されています。
ご自身の通知書と見比べ、計算が合っているか、申告した控除(医療費やiDeCo)が正しく反映されているかを確認する絶好の機会です。
まとめ:住民税の計算方法を理解し、賢く節税を
この記事では、複雑な住民税の計算方法について、4つのステップに分けて詳細に解説しました。最後に、重要なポイントを再確認します。
住民税の構成は、「均等割」(約5,000円の定額会費)と「所得割」(前年所得の約10%)の合計で決まります。
計算は「(1) 所得金額の算出 → (2) 所得控除 → (3) 税額計算・税額控除 → (4) 最終税額」という4段階で進みます。
節税の第一関門は「所得控除」です。税率を掛ける「前」の元本(課税標準額)を減らすことが節税の基本です。iDeCo、医療費控除、各種保険料控除、扶養控除などの申告漏れがないか確認することが重要です。
節税の第二関門は「税額控除」です。算出された税額から「直接」差し引く強力な控除です。ふるさと納税や、所得税から引ききれない場合の住宅ローン控除がこれにあたります。
ケース別の注意点として、パート・アルバイトの方は所得税の「103万円の壁」と住民税の「100万円〜110万円の壁」が異なる点、退職者は「前年所得」に課税されるタイムラグに注意が必要です。
納付方法には「特別徴収」(月1回・12回払い)と「普通徴収」(年4回払い)があり、1回あたりの負担感が異なります。
住民税の計算方法を理解することは、「税金が高い」という漠然とした不安を、「何をすれば税負担を適正化できるか」という具体的な行動に変えるための第一歩です。
まずは、6月頃に手元に届く「住民税決定通知書」を詳細に確認し、ご自身の「所得控除」欄に漏れがないかチェックすることから始めてみてください。iDeCoやふるさと納税といった節税策は、その計算方法を理解している人ほど、恩恵を最大限に受けることができます。



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