今回は、多くのフリーランスの方々や企業の皆さまが注目している「フリーランス新法」についてお話しします。正式名称を「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」というこの法律、いったいいつから施行されるのか、そしてどんな内容なのか、詳しく見ていきましょう。
目次
施行日は2024年11月1日
まず、多くの方が気になっているであろう施行日についてお伝えします。フリーランス新法は、2024年11月1日から施行されます。この日から、法律で定められた様々な規定が効力を持ち始めるのです。
実は、この法律は2023年4月28日に国会で可決され、同年5月12日に公布されていました。法律が成立してから実際に施行されるまでに1年半ほどの期間が設けられているのは、企業やフリーランスの方々が新しい制度に対応する準備期間を確保するためです。
なぜフリーランス新法が必要だったのか
フリーランス新法が制定された背景には、日本の労働環境の変化があります。近年、フリーランスとして働く人が増加し、その数は副業を含めると1,500万人を超えるとも言われています。しかし、これまでの労働法制では、フリーランスの方々を十分に保護できていないという課題がありました。
例えば、2020年の調査では、37.7%のフリーランスが取引先とのトラブルを経験し、そのうち約3割が泣き寝入りしているという実態が明らかになっています。また、40.4%のフリーランスが1社のみと取引しており、交渉力の弱さが浮き彫りになっていました。
こうした状況を改善し、フリーランスの方々が安心して働ける環境を整備するために、フリーランス新法が制定されたのです。
フリーランス新法の主な内容
それでは、フリーランス新法で具体的に何が定められているのか、主要なポイントを見ていきましょう。
1. 書面による契約内容の明示義務
発注者は、フリーランスに業務を委託する際、以下の内容を書面や電子メールで明示しなければなりません。
- 業務の内容
- 報酬の額
- 支払期日
- 発注事業者・フリーランスの名称
- 業務委託をした日
- 給付を受領/役務提供を受ける日
- 給付を受領/役務提供を受ける場所
- (検査を行う場合)検査完了日
- (現金以外の方法で支払う場合)報酬の支払方法に関する必要事項
これにより、フリーランスの方々は仕事の内容や条件を明確に把握できるようになります。
参照:フリーランスの取引に関する新しい法律が11⽉にスタート︕|中小企業庁
2. 報酬の支払い期日設定と期日内支払い義務
発注者は、成果物を受け取った日から60日以内のできるだけ早い日に報酬の支払い期日を設定し、その期日内に報酬を支払わなければなりません。これにより、フリーランスの方々の安定した収入が確保されることが期待されます。
3. 禁止行為の規定
1か月以上の業務委託の場合、以下の7つの行為が禁止されます。
- 受領拒否
- 報酬の減額
- 返品
- 買いたたき
- 購入・利用強制
- 不当な経済上の利益の提供要請
- 不当な給付内容の変更・やり直し
これらの規定により、フリーランスの方々が不当な扱いを受けるリスクが軽減されます。
参照:公正取引委員会フリーランス法特設サイト | 公正取引委員会
4. 募集情報の適切な表示
フリーランスを募集する際の広告などにおいて、以下の点を遵守する必要があります。
- 虚偽の表示や誤解を与える表示をしてはならない
- 内容を正確かつ最新のものに保たなければならない
これにより、フリーランスの方々が仕事を選ぶ際に、より正確な情報に基づいて判断できるようになります。
5. 育児・介護等と業務の両立への配慮
6か月以上の業務委託を依頼する場合、発注者はフリーランスが育児や介護などと業務を両立できるよう、必要な配慮をしなければなりません。例えば、フリーランスの子どもが体調を崩した場合に納期の調整を行うなどの対応が求められます。
6. ハラスメント対策の体制整備
フリーランスに対するハラスメント行為に関して、以下の措置を講じる必要があります。
- ハラスメントを行ってはならない旨の方針を明確にし、周知・啓発を行う
- 相談や苦情に応じ、適切な対応ができる体制を整える
- ハラスメントが起きた場合は迅速に適切な対応する
これにより、フリーランスの方々がより安心して働ける環境が整備されることが期待されます。
7. 中途解除等の事前予告・理由開示
6か月以上の業務委託を中途解除したり、更新しない場合は、以下の対応が必要となります。
- 原則として30日前までに予告する
- 予告の日から解除日までにフリーランスから理由の開示の請求があった場合、理由を開示する
これにより、フリーランスの方々が突然の契約解除などによって困難な状況に陥るリスクが軽減されます。
フリーランス新法の適用範囲
フリーランス新法の適用範囲について、正確に理解しておくことは重要です。この法律が適用されるのは、主に以下のような場合です。
- フリーランスと発注事業者間のBtoB取引
- 業務委託契約に基づく取引
- フリーランスが従業員を持たない場合(短期・短時間の一時雇用は除く)
一方で、以下のような取引は適用対象外となります。
- BtoC取引(個人消費者との取引)
- 売買取引
- フリーランス同士の取引
ここで注意が必要なのは、「フリーランス」の定義です。この法律では、従業員を持たない個人事業主や、代表者以外に役員や従業員がいない法人も「フリーランス」(正確には「特定受託事業者」)として扱われます。
従業員の定義については、「週の所定労働時間が20時間以上かつ継続して31日以上の雇用が見込まれる労働者」とされています。つまり、短期・短時間のアルバイトを雇っているだけであれば、まだ「フリーランス」として扱われる可能性があるのです。
フリーランス新法と他の法律との違い
フリーランス新法を理解する上で、既存の法律との違いを知ることも重要です。特に、下請法との違いは押さえておく必要があるでしょう。
下請法との違い
フリーランス新法は、従来の下請法の限界を超えて、フリーランスを広く保護することを目的としています。主な違いは以下の通りです。
- 適用範囲
- 下請法:発注元企業の資本金が一定以上の場合のみ適用
- フリーランス新法:資本金の制限なく全ての取引に適用
- 保護対象
- 下請法:主に中小企業
- フリーランス新法:従業員を持たないフリーランス(個人事業主や小規模法人を含む)
- 規制内容
- 下請法:主に取引上の規制
- フリーランス新法:取引上の規制に加え、就業環境の整備(ハラスメント対策、育児・介護との両立支援など)も含む
このように、フリーランス新法は下請法よりも広範囲かつ多角的にフリーランスを保護する内容となっています。
フリーランス新法の影響と対応
フリーランス新法の施行により、フリーランスの方々と発注企業の双方に様々な影響が予想されます。それぞれの立場で、どのような対応が必要になるのでしょうか。
フリーランスの方々への影響と対応
- 契約内容の明確化
発注者から書面で契約内容が明示されるようになるため、仕事の内容や条件をより正確に把握できるようになります。契約書をしっかりと確認し、不明点があれば質問することが重要です。 - 報酬の支払い保証
60日以内の報酬支払いが義務付けられるため、長期間報酬が支払われないというリスクが軽減されます。ただし、自身の権利を理解し、必要に応じて主張することも大切です。 - 不当な扱いからの保護
禁止行為が明確化されることで、不当な扱いを受けるリスクが減少します。もし問題が発生した場合は、法律に基づいて対応を求めることができます。 - 育児・介護との両立支援
長期の業務委託の場合、育児や介護との両立に関する配慮を求めることができます。必要に応じて発注者と相談し、適切な働き方を模索しましょう。 - ハラスメント対策
発注者側にハラスメント対策が義務付けられるため、より安心して働ける環境が整います。問題が発生した場合は、発注者の相談窓口を利用することができます。
発注企業への影響と対応
- 契約管理の厳格化
フリーランスとの契約内容を書面で明示する必要があるため、契約管理をより厳格に行う必要があります。契約書のテンプレートの見直しや、電子契約システムの導入なども検討しましょう。 - 支払い管理の徹底
60日以内の報酬支払いが義務付けられるため、支払い管理を徹底する必要があります。経理部門との連携を強化し、支払いスケジュールを適切に管理しましょう。 - 禁止行為の周知徹底
法律で定められた禁止行為について、社内で周知徹底を図る必要があります。関係部署への研修実施や、ガイドラインの作成などが有効でしょう。 - 募集情報の適正化
フリーランスの募集情報について、虚偽や誤解を与える表示を避け、常に最新の情報を提供する必要があります。定期的な情報のチェックと更新のルールを設けましょう。 - 育児・介護への配慮体制の整備
長期の業務委託の場合、フリーランスの育児・介護との両立に配慮する必要があります。柔軟な働き方を可能にする体制や、相談窓口の設置などを検討しましょう。 - ハラスメント対策の強化
フリーランスに対するハラスメント対策を講じる必要があります。社内規定の見直しや、相談窓口の設置、従業員への研修実施などが求められます。 - 契約解除時の対応準備
長期の業務委託を解除する際の事前予告や理由開示の準備が必要です。解除の判断基準や手続きのルールを明確化しておきましょう。
フリーランス新法の課題と今後の展望
フリーランス新法は、フリーランスの方々の権利を保護し、より公正な取引環境を整備することを目的としていますが、いくつかの課題や懸念点も指摘されています。ここでは、これらの課題と今後の展望について詳しく見ていきましょう。
フリーランス新法の課題
1. 適用範囲の曖昧さ
フリーランス新法の適用範囲については、いくつかの曖昧な点が残されています。例えば、「従業員を持たない」という条件について、短期・短時間の一時雇用は除外されていますが、その具体的な基準が不明確です。また、副業としてフリーランス活動を行っている場合の扱いについても、さらなる明確化が必要かもしれません。
2. 報酬支払い期限の妥当性
60日以内の報酬支払いが義務付けられていますが、業界や業務の性質によっては、この期間が適切でない場合もあるかもしれません。例えば、長期プロジェクトや成果報酬型の業務では、60日という期限が現実的でない可能性があります。
3. 中小企業への負担
法律の遵守には一定のコストがかかるため、中小企業にとっては負担が大きくなる可能性があります。特に、契約管理の厳格化やハラスメント対策の体制整備などは、リソースの限られた中小企業にとってはハードルが高いかもしれません。
4. フリーランスの自由度への影響
法律による保護が強化される一方で、フリーランスの自由度が制限される可能性も指摘されています。例えば、契約内容の厳格化により、柔軟な働き方が難しくなる場合もあるかもしれません。
5. 罰則規定の不足
法律の実効性を確保するための罰則規定が不十分だという指摘もあります。違反した企業に対する具体的な罰則や、フリーランスが被害を受けた場合の救済措置について、さらなる検討が必要かもしれません。
今後の展望
これらの課題を踏まえ、フリーランス新法は今後どのように発展していく可能性があるでしょうか。
1. 適用範囲の明確化
法律の運用が進むにつれ、適用範囲についてのガイドラインがより詳細に整備されていく可能性があります。特に、グレーゾーンとなりやすい副業や短期雇用の扱いについて、具体的な基準が示されることが期待されます。
2. 業界別ガイドラインの策定
報酬支払い期限や契約内容の明示方法など、業界の特性に応じたガイドラインが策定される可能性があります。これにより、法律の趣旨を損なわずに、より現実的な運用が可能になるかもしれません。
3. 中小企業向け支援策の拡充
中小企業が法律を遵守しやすくなるよう、政府や業界団体による支援策が拡充される可能性があります。例えば、契約書のテンプレート提供や、ハラスメント対策のための研修プログラムの整備などが考えられます。
4. フリーランスの意見反映
法律の運用状況を踏まえ、フリーランスの方々の意見をより積極的に取り入れる仕組みが整備されるかもしれません。これにより、フリーランスの実態に即した法律の改善が期待できます。
5. 罰則規定の強化
法律の実効性を高めるため、罰則規定が強化される可能性があります。具体的な罰金額の設定や、違反企業の公表制度の導入などが検討されるかもしれません。
6. デジタル化への対応
契約や報酬支払いのデジタル化が進む中、法律もそれに対応した形で改正される可能性があります。例えば、ブロックチェーン技術を活用した契約管理システムの導入支援など、新しい技術を活用した取り組みが進むかもしれません。
フリーランスと企業の適応戦略
フリーランス新法の施行に向けて、フリーランスの方々と企業はどのように準備し、適応していけばよいでしょうか。それぞれの立場で、具体的な戦略を考えてみましょう。
フリーランスの適応戦略
- 法律の理解と権利の把握
フリーランス新法の内容をしっかりと理解し、自分の権利を把握しましょう。必要に応じて、専門家のアドバイスを受けることも検討してください。 - 契約内容の確認と交渉
発注者から提示された契約内容を細かく確認し、必要に応じて交渉を行いましょう。特に、報酬の支払い条件や業務内容の明確化は重要です。 - 業務記録の管理
業務内容や成果物の提出、コミュニケーションの記録をしっかりと残しておきましょう。トラブルが発生した際の証拠として役立つ可能性があります。 - 複数の取引先の確保
一社依存のリスクを軽減するため、可能な限り複数の取引先を確保するよう努めましょう。これにより、交渉力の向上にもつながります。 - スキルアップと自己投資
常に自身のスキルを向上させ、市場価値を高める努力を続けましょう。これにより、より良い条件での契約獲得につながる可能性があります。 - ネットワーキングの強化
他のフリーランスや業界関係者とのネットワークを強化しましょう。情報交換や相互支援の機会が増え、より安定した働き方につながる可能性があります。
企業の適応戦略
- 法務部門の強化
フリーランス新法に対応するため、法務部門の強化や外部専門家の活用を検討しましょう。契約書の見直しや社内規定の整備が必要になります。 - 契約管理システムの導入
契約内容の明示や報酬支払いの管理を効率化するため、専用の契約管理システムの導入を検討しましょう。これにより、法令遵守と業務効率化の両立が可能になります。 - 社内研修の実施
フリーランスとの適切な関わり方や、ハラスメント防止について、定期的な社内研修を実施しましょう。特に管理職への教育は重要です。 - フリーランス向け相談窓口の設置
フリーランスからの相談や苦情に適切に対応するため、専門の相談窓口を設置しましょう。これにより、問題の早期発見と解決が可能になります。 - 柔軟な働き方の推進
フリーランスの育児・介護との両立支援のため、柔軟な働き方を可能にする体制を整備しましょう。リモートワークの環境整備やプロジェクト管理ツールの導入などが有効です。 - フリーランスとの良好な関係構築
フリーランスを単なる外部リソースではなく、重要なパートナーとして位置づけ、良好な関係構築に努めましょう。定期的なフィードバックや、スキルアップ支援なども検討してください。
おわりに
フリーランス新法は、2024年11月1日の施行を控え、フリーランスの方々と企業の双方に大きな変化をもたらそうとしています。この法律は、フリーランスの権利を保護し、より公正な取引環境を整備することを目指していますが、同時にいくつかの課題も抱えています。
しかし、これらの課題は、法律の運用が進む中で徐々に解決されていく可能性があります。フリーランスの方々、企業、そして社会全体が、この新しい法律に適応し、よりよい働き方を模索していくことが重要です。
フリーランス新法は、日本の労働環境に大きな変革をもたらす可能性を秘めています。多様な働き方の促進、イノベーションの加速、労働市場の流動性向上など、様々なポジティブな影響が期待されます。一方で、社会保障制度の見直しや教育システムの変革など、社会全体で取り組むべき課題も浮かび上がってきています。
これからの日本社会において、フリーランスはますます重要な役割を果たすことになるでしょう。フリーランス新法を一つの契機として、誰もが自分らしく働ける、柔軟で創造的な社会の実現を目指していくことが求められています。
フリーランスの方々も、企業も、そして私たち一人一人も、この新しい時代の働き方について考え、議論し、行動していく必要があります。フリーランス新法は、その大きな一歩なのです。
今後も法律の運用状況や社会の変化を注視しつつ、よりよい働き方、よりよい社会の実現に向けて、みんなで知恵を絞り、努力を重ねていきましょう。フリーランス新法が、日本の労働環境をより良いものに変えていく、その大きな可能性に期待したいと思います。
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