
輸入消費税の仕訳をマスターすれば、無駄な税金を払いすぎることなく、会社の利益を最大化できます。海外からの仕入れは国内取引と会計処理が異なり、特に消費税の扱いは複雑で間違いやすいポイントです。
しかし、正しい知識を身につければ、確実に節税効果を得られるだけでなく、税務調査で指摘されるリスクを大幅に減らすことができます。
この記事では、国際税務を専門とする公認会計士が、実際の輸入取引の流れに沿って、具体的な仕訳例を交えながら会計処理のすべてを解説します。
関税と輸入消費税の根本的な違いから、間違いやすい勘定科目、そして節税の要となる仕入税額控除の適用要件まで、網羅的に掘り下げていきます。
複雑に見える輸入会計も、ポイントさえ押さえれば、経理初心者の方でも明日から実践できるほどシンプルです。一つずつ確認していきましょう。
目次
まずは基本から 輸入消費税と関税の決定的な違い
輸入取引では、税関で「関税」と「輸入消費税」という2種類の税金を納付します。この2つは同時に支払うことが多いですが、税金としての性質がまったく異なります。この違いを理解することが、正しい仕訳をおこなうための第一歩です。
そもそも輸入消費税とは?国内取引の消費税と何が違うのか
輸入消費税とは、外国から商品を輸入する際に課される消費税のことです。
国内で商品を購入すれば消費税がかかります。もし輸入品に消費税がかからなければ、輸入品のほうが価格的に有利になり、国内の産業が不利な競争を強いられることになります。そこで、国内で販売される商品と輸入品との間で公平な競争条件を確保するために、輸入品にも消費税が課されるのです。
この税金を納める義務があるのは、保税地域(ほうぜいちいき)という税関の管理下にある場所から、貨物を引き取る者です。これは事業者であるか個人であるかを問いません。
ここで重要なのは、輸入消費税が海外の販売業者に支払うものではなく、日本の税関に納める税金であるという点です。つまり、海外からの「購入」という行為ではなく、商品を日本国内の市場に「導入する」という行為に対して課税されているのです。この仕組みを理解すると、なぜ税関で納税するのかが明確になります。
関税は「コスト」、輸入消費税は「税金の前払い」
関税と輸入消費税の最も決定的な違いは、会計上の扱いにあります。
関税は、商品の仕入れに直接かかった費用、つまり「仕入原価」の一部として扱われます。会計処理では「仕入高」という勘定科目に含めて計上します。関税は会社の利益を計算する上で、売上原価を構成するコストとして扱われます。
一方、輸入消費税は、最終的に納める消費税額から差し引くことができる「税金の前払い」という性質を持っています。会計処理では「仮払消費税等(かりばらいしょうひぜいとう)」という資産の勘定科目で処理します。これは費用(コスト)ではなく、決算時に預かった消費税(仮受消費税等)と相殺されるため、一時的な立替金のようなものです。
この違いは、会社の財務諸表に直接的な影響を与えます。関税を仕入高に計上すると、売上総利益(粗利)がその分だけ減少します。つまり、関税は事業の収益性を直接圧迫する要因であり、価格設定において考慮しなければならないコストです。
それに対して、輸入消費税を仮払消費税等として計上する場合、損益計算書には影響を与えません。貸借対照表に資産として計上され、期末の消費税申告時に精算されます。これは収益性の問題ではなく、一時的なキャッシュフローの問題となります。
もし誤って輸入消費税を「租税公課」などの費用科目で処理してしまうと、本来受けられるはずの税額控除を放棄することになり、利益を不当に低く見せ、結果的に過大な税金を支払うことになりかねません。
この2つの税金の性質の違いをまとめたのが、以下の表です。
| 項目 | 関税 | 輸入消費税 |
| 課税の目的 | 国内産業の保護、財源確保 | 国内外の製品間の公平性確保 |
| 課税標準 | CIF価格 | (CIF価格+関税額) |
| 会計処理 | 仕入高(商品の取得原価) | 仮払消費税等(税金の前払い) |
| 税務上の扱い | 損金(コスト)として処理 | 仕入税額控除の対象 |
計算方法をマスターする CIF価格がすべての基本
関税と輸入消費税の計算は、CIF価格を基準におこないます。CIF価格とは、商品代金(Cost)、輸入港までの運賃(Freight)、保険料(Insurance)を合計した金額のことです。
具体的な計算手順は以下の通りです。
関税額の計算
関税額は、CIF価格に関税率を掛けて算出します。関税率は商品の品目によって細かく定められています。
(計算式)関税額 = CIF価格 × 関税率
輸入消費税の課税標準の計算
輸入消費税を計算する際の基礎となる金額(課税標準)は、CIF価格と関税額の合計です。このとき、合計額の1,000円未満は切り捨てます。
(計算式)課税標準 = (CIF価格 + 関税額) の1,000円未満を切り捨てた金額
輸入消費税額の計算
課税標準に消費税率(現在10%)を掛けて、輸入消費税の総額を算出します。
(計算式)輸入消費税額 = 課税標準 × 10%
国税と地方税への分解
会計ソフトへの入力や消費税申告のために、算出した輸入消費税額を国税(7.8%)と地方消費税(2.2%)に分解する必要があります。
国税分(消費税)は、課税標準に7.8%を乗じて計算し、100円未満を切り捨てます。地方消費税分は、算出した国税分の消費税額に22を乗じて78で除して計算し、100円未満を切り捨てます。
この計算方法は、輸入許可通知書に記載されていますので、実際の仕訳では通知書の金額を確認して計上します。
【具体例でわかる】輸入取引の正しい仕訳フロー

ここからは、具体的な取引例をもとに、輸入取引の一連の流れに沿った仕訳方法を解説します。税抜経理方式を前提として説明します。
大原則 関税は「仕入高」、輸入消費税は「仮払消費税等」
仕訳をおこなう上での大原則を再確認します。
関税は商品の取得原価の一部(仕入諸掛)であるため、「仕入高」として処理します。
輸入消費税は後で控除できる税金の前払いなので、「仮払消費税等」として処理します。
よくある間違いとして、これらを「租税公課」で処理してしまうケースがあります。しかし、関税は商品という資産を取得するために不可欠なコストであり、資産の取得原価に含めるのが会計上のルールです。また、輸入消費税は消費税法で明確に仕入税額控除が認められているため、最終的な費用にはなりません。したがって、費用科目である「租税公課」で処理するのは誤りです。
4つのステップで見る仕訳の全手順
以下の取引例を使って、4つのステップで仕訳を見ていきましょう。
取引例
はじめに、仕訳例の前提となる取引の概要と、税額の計算過程を示します。
(計算内訳)
課税標準 (1,000,000円 + 50,000円) = 1,050,000円
国税 1,050,000円 × 7.8% = 81,900円
地方税 81,900円 × 22 / 78 = 23,100円
合計 81,900円 + 23,100円 = 105,000円
(取引の条件)
・海外から商品(CIF価格1,000,000円)を輸入
・関税(関税率5%) 50,000円
・輸入消費税 105,000円
・通関業者の手数料 33,000円(税込)
コラム 外貨建て取引の為替レートと為替差損益
実際の輸入取引は、多くの場合、米ドルやユーロなどの外貨建てでおこなわれます。この場合、日本円に換算するタイミング(為替レート)が重要になります。上記の取引例は円建てを前提に簡略化していますが、実務では「為替差損益」の処理が必須です。
会計処理の原則として、仕入れを計上するタイミングと、代金を決済するタイミングが異なるために、為替レートの差額が発生します。この差額が「為替差損」または「為替差益」です。
商品の仕入計上は、原則として「輸入許可日」におこないます。この時に適用するレートは、その日の電信売買相場の仲値(TTM)など、企業が継続して使用する合理的なレートです。
一方、代金を海外送金する(決済する)タイミングでは、銀行が提示する電信売相場(TTS)というレート(仲値よりも円安)が適用されます。
例えば、10,000ドルの商品を輸入したケースを考えます。
・輸入許可日(仕入計上日)のレート(TTM):1ドル140円
・代金決済日(送金日)のレート(TTS):1ドル145円
この場合、仕訳は以下のようになります。
(1. 輸入許可日の仕訳)
仕入高は140円で計上します(10,000 × 140円)。
(借方)仕入高 1,400,000円 / (貸方)買掛金 1,400,000円
(2. 代金決済日の仕訳)
実際に支払う日本円は145円で計算されます($10,000 × 145円)。
(借方)買掛金 1,400,000円 / (貸方)普通預金 1,450,000円
(借方)為替差損 50,000円 /
計上した買掛金(140万円)よりも、実際に支払った金額(145万円)の方が5万円多くなりました。この差額5万円が「為替差損」という営業外費用になります。逆にレートが下がり、支払いが少なくて済んだ場合は「為替差益」(営業外収益)となります。
ステップ1 通関時の仕訳(関税・輸入消費税の計上)
商品が日本の港に到着し、通関手続きがおこなわれます。このとき、通関業者が関税と輸入消費税を立て替えて税関に納付します。会社としては、この時点で通関業者に対する未払金が発生します。
(借方)仕入高(関税) 50,000円 / (貸方)未払金 155,000円
(借方)仮払消費税等 105,000円 /
この仕訳で、関税を仕入高、輸入消費税を仮払消費税等として計上し、同額を未払金(通関業者への債務)として認識します。
ステップ2 商品代金を海外へ支払った時の仕訳
商品の注文時や船積時には、取引条件にもよりますが、一般的に船積基準(輸出国で商品が船に積まれた時点)で商品を資産計上し、買掛金を認識します。ここでは、その後に商品代金を支払った時点の仕訳を示します。
(借方)買掛金 1,000,000円 / (貸方)普通預金 1,000,000円
この仕訳は、税関への支払いとは別の取引です。海外の仕入先に対する債務(買掛金)が、銀行振込などによって消滅したことを示します。
ステップ3 通関業者へ手数料を支払った時の仕訳
後日、通関業者から請求書が届きます。この請求書には、立て替えてもらった関税・輸入消費税と、通関業務に対する手数料が含まれています。
この請求書一枚で支払いますが、会計処理上は内容を分解して仕訳する必要があります。これは実務で非常に間違いやすいポイントです。
通関業者の手数料は国内での役務提供にあたるため、日本の消費税(10%)の課税対象です。
(借方)未払金 155,000円 / (貸方)普通預金 188,000円
(借方)支払手数料 30,000円 /
(借方)仮払消費税等 3,000円 /
ステップ1で計上した未払金を取り崩し、手数料部分(税込33,000円)を支払手数料(費用)とそれにかかる仮払消費税等に分けて計上します。
ステップ4 決算時の消費税精算仕訳
期末(または課税期間の末日)には、売上時に顧客から預かった消費税(仮受消費税等)と、仕入れや経費の支払いで払った消費税(仮払消費税等)を相殺し、納付すべき消費税額を計算します。
輸入時に支払った仮払消費税等も、この精算に含まれます。
(借方)仮受消費税等 XXX / (貸方)仮払消費税等 XXX
(借方) / (貸方)未払消費税等 XXX
この仕訳により、輸入時に「前払い」した消費税が精算され、納税額が確定します。
間違いやすいポイント 会計処理のタイミングは「輸入許可日」
輸入取引の仕訳を計上するタイミングは、注文日や商品の到着日ではありません。税関から輸入許可が下りた日(輸入許可日)が、会計処理の基準日となります。
この日に法的に商品が国内に引き取れる状態になり、納税義務が確定するためです。輸入許可通知書に記載されている日付を確認し、その日付で仕訳を計上してください。
節税に直結する「仕入税額控除」とインボイス制度の知識

輸入消費税の会計処理を正しくおこなう最大の目的は、「仕入税額控除」を確実に適用し、節税につなげることです。ここでは、そのための要件と、2023年10月から始まったインボイス制度との関連について解説します。
輸入消費税の仕入税額控除を適用するための2つの要件
支払った輸入消費税を、納付する消費税額から差し引く(仕入税額控除)ためには、法律で定められた2つの要件を満たす必要があります。
書類の保存
税関長が発行する「輸入許可通知書」を保存する必要があります。この書類が、輸入消費税を支払ったことの公的な証明となります。
帳簿への記載
輸入取引の内容を、定められた事項に従って会計帳簿に正しく記載する必要があります。具体的には、取引年月日、相手方の名称、取引内容、支払対価の額などを記録します。
この2つの要件が揃って初めて、仕入税額控除が認められます。どちらか一方でも欠けていると、税務調査で指摘され、控除が否認される可能性があります。
なぜ海外からの請求書は不要?「輸入許可通知書」がインボイスの代わりになる理由
インボイス制度では、仕入税額控除を受けるために、原則として取引相手から交付された「適格請求書(インボイス)」の保存が必要です。では、海外の取引先からインボイスをもらう必要はあるのでしょうか。
結論から言うと、輸入取引における仕入税額控除の適用に、海外の取引先が発行する請求書は不要です。
その理由は、輸入消費税の納税の仕組みにあります。輸入消費税は、海外の販売業者に支払うのではなく、日本の税関(つまり日本政府)に直接納付します。したがって、税金の徴収者であり、その支払いを証明できるのは日本の税関です。
このため、税法では税関が発行する「輸入許可通知書」が、適格請求書と同等の役割を果たすと定められています。この通知書に、納税者(輸入者)の氏名や名称、課税標準額、消費税額などが記載されており、仕入税額控除に必要な情報がすべて含まれています。
この取引における税務上の相手方は、商品を販売した海外企業ではなく、税金を徴収した日本政府(税関)である、と考えると理解しやすいでしょう。海外の企業が日本のインボイス制度に準拠した書類を発行することはできないため、税関が発行する公的書類がその代わりとなるのです。
最大の注意点 輸入代行利用時は「輸入申告者」を必ず確認する
輸入取引で最も注意すべき、そして最も金銭的なインパクトが大きいのがこの点です。
仕入税額控除を受ける権利は、輸入許可通知書に「輸入申告者」として名前が記載されている事業者にしかありません。
多くの企業が通関業務を輸入代行業者やフォワーダーに委託しています。このとき、手続きの便宜上、代行業者の名前で輸入申告がおこなわれることがあります。
もし代行業者が輸入申告者になってしまうと、たとえあなたの会社がその代行業者に輸入消費税相当額を支払ったとしても、あなたの会社で仕入税額控除を適用することはできません。控除の権利は、書類上の輸入申告者である代行業者に移ってしまうのです。
これは、特に中小企業が便利なワンストップサービスを利用する際に陥りやすい罠です。気づかずにいると、本来還付されるべき多額の消費税が控除できず、大きな損失につながる可能性があります。
対策はただ一つです。輸入代行業者に業務を委託する際は、契約段階で「必ず自社を輸入申告者として申告手続きをおこなうこと」を明確に伝え、徹底してもらう必要があります。
そして、手続き完了後には必ず輸入許可通知書を入手し、自社の名前が輸入申告者として正しく記載されているかを確認してください。この確認作業が、あなたの会社の資金を守る上で極めて重要です。
まとめ 輸入消費税の仕訳で押さえるべき重要ポイント
最後に、輸入消費税の仕訳と会計処理で押さえるべき最も重要なポイントを4点確認します。
第一に、関税は「仕入高」、輸入消費税は「仮払消費税等」と明確に区別することです。性質の違う税金を正しく会計処理することが基本です。
第二に、仕訳のタイミングは「輸入許可日」を基準にすることです。商品の注文日や到着日ではない点に注意が必要です。
第三に、仕入税額控除には「輸入許可通知書」の保存が必須であることです。海外の取引先からのインボイスは、この目的のためには不要です。
第四に、輸入代行業者を使う際は、必ず自社が「輸入申告者」になるよう手配することです。これを怠ると、仕入税額控除の権利を失う可能性があります。これらのルールを正しく守ることが、適切な利益計算と節税に直結します。
輸入取引の会計処理は、国内取引にはないルールが多く、最初は戸惑うかもしれません。しかし、一度基本原則を理解すれば、あとは取引の流れに沿って正確に処理するだけです。
この記事が、あなたの会社の経理業務の正確性と効率性の向上に役立つことを願っています。



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