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事業価値とは?計算方法から企業価値を高める5つの戦略まで徹底解説

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事業価値の正体を正しく理解すれば、あなたの会社が持つ真の力を数字で証明し、理想的な条件での資金調達や事業売却を実現する未来が手に入ります。自分が心血を注いできたビジネスが、市場でどのように評価され、どうすればその評価をさらに高められるのか。その道筋が明確になることで、あなたは経営者として一段上のステージへと進むことができます。

多くの経営者が陥りがちな「会計上の利益」と「本当の価値」の混同を解消し、実務で役立つ評価の仕組みを体系的に解説します。一見すると難解に思える専門用語も、基本的な考え方から丁寧に紐解いていきますので、財務に詳しくない方でも確実に理解を深められます。読者の皆様の不安に寄り添い、今日から実践できる再現性の高いステップを提示しますので、安心して読み進めてください。

目次

事業価値の本質と基本的な考え方

事業価値とは、会社が展開しているメインのビジネスそのものが、将来にわたってどれだけのキャッシュを生み出すかを示す金額です。これは単なる過去の利益の積み上げではなく、未来への期待値を含めた数字であることを忘れてはいけません。

将来の稼ぐ力を数値化する意義

経営者がまず持つべき視点は、将来の稼ぐ力を数値化するという意識です。投資家や買い手が関心を持っているのは、昨日までの実績よりも、明日からいくら儲かるかという点にあります。事業価値を考える際、最も重要なのは「将来キャッシュフロー」の予測です。予測の精度が高ければ高いほど、事業価値の信頼性は向上します。

過去の決算書は、あくまで「過去の結果」でしかありません。しかし、事業価値は「未来の可能性」を評価します。この「未来を売る」という感覚を持つことが、事業価値を理解する第一歩です。例えば、現在赤字であっても、数年後に大きな利益を生むことが確実視される新技術を持っていれば、その事業価値は極めて高く評価されることがあります。

無形資産が持つ本当の重み

現代のビジネスにおいて、工場や機械といった目に見える資産だけで価値が決まることは稀です。むしろ、長年培ってきたブランド、特許技術、従業員の高いスキル、そして顧客との深い信頼関係といった「目に見えない資産」こそが、高い事業価値の源泉となります。

これらは会計上のバランスシートには現れにくいものですが、他社には真似できない競争優位性を生み出します。専門用語ではこれを「営業権」や「のれん」と呼ぶこともありますが、本質的には「その会社だからこそ生み出せる付加価値」のことです。この無形資産をいかに言語化し、数字の根拠として示せるかが、評価を左右する大きなポイントとなります。

顧客との関係性とデータ活用

現代において、顧客リストやそこから得られる購買データは、非常に強力な無形資産です。単に「客が多い」というだけでなく、「どのような属性の客が、どの程度の頻度で、なぜ自社を選んでいるのか」を分析できている事業は、将来の収益予測が立てやすいため、高く評価されます。

組織文化と従業員のエンゲージメント

優秀な人材が定着し、自律的に動く組織文化もまた、重要な資産です。経営者が一人で頑張るのではなく、組織全体で価値を生み出す仕組みができている場合、その事業の継続性は高いと判断されます。これは、特に事業承継の場面で非常に重視されるポイントです。

継続企業の前提(ゴーイングコンサーン)を理解する

事業価値は、その事業が将来もずっと続いていくことを前提に計算されます。これを「ゴーイングコンサーン(継続企業の前提)」と呼びます。もし事業が短期間で終わってしまうリスクがあれば、価値は大幅に下がります。

安定したビジネスモデルを構築し、長期的な成長シナリオを描くことが、高い評価を得るための条件です。不確実な世の中だからこそ、いかに「このビジネスは明日も明後日も、10年後も利益を出し続ける」という説得力を持たせるかが、経営者の手腕の見せ所となります。

事業価値・企業価値・株式価値の違いを徹底整理

実務の現場では「事業価値」「企業価値」「株式価値」という言葉が混同されがちですが、これらは明確に区別する必要があります。この違いを理解しないと、M&Aや資金調達の交渉で、思わぬ損失を被る恐れがあるからです。

企業価値を構成する要素の分解

まず、事業価値は、あくまで「本業のビジネスが生み出す価値」のみを指します。これに対して、企業価値は、事業価値に「非事業資産」を加えたものを言います。

非事業資産とは、本業には直接使っていない現預金、遊休不動産、投資有価証券などのことです。つまり、企業の持ち物すべてを合計した価値が企業価値だと考えれば分かりやすいでしょう。

  • 企業価値 = 事業価値 + 非事業資産

本業が絶好調でも、多額の不良在庫や使っていない土地を抱えていると、効率性の観点から企業価値の評価に影響が出ることがあります。経営者としては、この構成要素を意識して、不要な資産を整理する視点も必要です。

非事業資産をどう扱うか

非事業資産の中には、一見すると価値があるように見えても、事業の収益性を下げる要因になるものもあります。例えば、本業とは関係のないゴルフ会員権や、活用されていない豪華な社宅などは、投資家からは「無駄な資産」と見なされることがあります。

一方で、潤沢な手元資金(現預金)は、将来の投資余力としてポジティブに評価される側面もあります。ただし、あまりに多すぎる現金を使い道なく抱え込んでいると、「資本効率が悪い」と批判される対象にもなります。適正な資産構成を保つことが、企業価値の最適化に繋がります。

時価総額や株式価値との相関関係

さらに、企業価値から「有利子負債(借金)」を差し引いたものが、株式価値です。これは株主に帰属する価値であり、上場企業であれば時価総額に相当します。

  • 株式価値 = 企業価値 - 有利子負債

買い手や投資家は企業価値全体を評価しますが、最終的に株主が受け取れる金額は、そこから負債を引いた残りになります。この構造を理解すると、なぜ借金を減らすことや、現金を効率的に稼ぐことが大切なのかが、より立体的に見えてくるはずです。

有利子負債の質とコントロール

有利子負債は、必ずしも「悪」ではありません。適切な金利で資金を借り、それを上回る利益を生む事業に投資できているのであれば、それはレバレッジ(てこ)を利かせた賢い経営と言えます。しかし、返済負担が重すぎて将来のキャッシュフローを圧迫している場合は、当然ながら株式価値を下げる要因となります。

主要な3つの算出手法を徹底解説

事業価値を実際に数字として算出するには、いくつかの手法があります。代表的な「インカムアプローチ」「マーケットアプローチ」「コストアプローチ」の3つについて、その仕組みと使い分けを見ていきましょう。

インカムアプローチ(DCF法)の仕組み

最も論理的で、かつ実務で重視されるのがインカムアプローチです。その代表格である「DCF(ディスカウント・キャッシュ・フロー)法」は、将来期待されるキャッシュフローを、現在の価値に割り引いて計算する方法です。

ここでいう「割り引く」とは、将来の100万円は今の100万円よりも価値が低い(リスクや金利があるため)と考え、一定の割合で差し引くことを指します。

フリーキャッシュフローの予測と重要性

DCF法で基礎となるのは、将来の「フリーキャッシュフロー(FCF)」です。これは、売上から費用や税金を払い、事業を続けるために必要な投資を行った後に、会社に自由に残る現金のことを指します。

このFCFの予測が、事業価値の根幹を成します。説得力のある事業計画を立てられるかどうかが、高い評価を得るための最大のカギとなります。単なる願望ではなく、市場動向や自社のリソースを根拠とした緻密なシミュレーションが求められます。

割引率(WACC)の考え方

将来の現金を今の価値に直す際に使う「割引率」には、一般的にWACC(加重平均資本コスト)が使われます。これは、借入にかかるコスト(金利)と、株主が期待するリターンを、それぞれの構成比で重み付けして平均したものです。

リスクが高い事業ほど、投資家は高いリターンを求めます。その結果、割引率が大きくなり、算出される事業価値は低くなります。逆に、事業の安定性が高くリスクが低いと判断されれば、割引率が下がり、事業価値は高まります。

ターミナルバリュー(継続価値)の算出

事業計画の期間(例えば5年)が過ぎた後も、事業は継続します。この5年目以降の価値をまとめて計算したものを「ターミナルバリュー」と呼びます。実は、事業価値の半分以上をこのターミナルバリューが占めることも珍しくありません。長期的に安定した成長が見込めるビジネスモデルほど、この部分の評価が大きくなります。

マーケットアプローチ(マルチプル法)の活用法

マーケットアプローチは、市場での相場を参考にする手法です。特に「類似会社比較法(マルチプル法)」は、自社と似た上場企業の評価倍率を参考にするため、客観性が高く納得感を得やすいのが特徴です。

例えば、「同業他社の企業価値が営業利益の8倍で評価されているから、自社の価値も営業利益の8倍程度だろう」と推定します。

適切な「類似会社」の選定基準

この手法で最も重要なのは、どの会社を「似ている」と見なすかです。単に業種が同じというだけでなく、利益率、成長性、市場シェア、地域性などが近い会社をピックアップする必要があります。通常、数社から十数社を選び、その平均値や中央値を参考にします。

EBITDA倍率の活用

実務では、営業利益に減価償却費を足し戻した「EBITDA」という指標がよく使われます。これは、国による税制の違いや会計上の減価償却方法の違いを排除し、本業の「キャッシュを稼ぐ力」を純粋に比較しやすくするためです。「EBITDAの何倍か」という視点は、グローバルなM&Aでも標準的な指標となっています。

コストアプローチ(修正純資産法)の限界と使い分け

コストアプローチは、現在の資産から負債を引いた「純資産」をベースにする方法です。将来の収益性は考慮せず、「今、会社を解散したらいくら残るか」という視点に近い評価です。

修正純資産法の計算プロセス

帳簿上の純資産をそのまま使うのではなく、保有している不動産や有価証券を今の時価に評価し直します。これを「修正純資産法」と呼びます。

この手法は、資産背景がしっかりしている老舗企業や、業績が低迷しており将来の収益予測が難しいケースなどで使われます。一方で、将来の成長性が高いスタートアップなどには、その価値を正しく反映できないため不向きです。

手法の組み合わせによる多角的評価

実際の実務では、これら一つの手法だけで決めることはありません。DCF法で算出した理論値と、マルチプル法で算出した相場観を突き合わせ、最終的な評価額を決定します。これを「レンジ(範囲)で評価する」と言い、複数の視点を持つことで評価の妥当性を高めます。

事業価値を最大化するための実戦的な戦略

価値を算出した後に考えるべきは、どうすればその数字を底上げできるかです。事業価値を高めるアクションは、単なる利益の追求を超えた、より戦略的な経営判断を伴います。

フリーキャッシュフローの質を安定させる

事業価値の源泉はキャッシュフローですが、その「量」だけでなく「質」も問われます。一時的に大きな利益を出すよりも、毎年安定して一定以上の現金を稼ぎ出す力の方が、評価は高くなります。

収益構造の改革とリピート率の向上

新規顧客を獲得し続けるモデルは、コストがかさみやすくリスクも高いと見なされます。一方で、既存顧客が継続的に利用してくれるサブスクリプション型や、ストック型のビジネスモデルは、将来のキャッシュフローの不確実性が低いため、高い倍率(マルチプル)が適用されやすくなります。

運転資本の最適化

利益は出ているのに現金が残らない「勘定あって銭足らず」の状態は、事業価値を毀損します。在庫の回転率を上げ、売掛金を早期に回収する仕組みを整えることで、フリーキャッシュフローを実質的に増加させることができます。これは「キャッシュコンバージョンサイクル(CCC)」の短縮として知られる手法です。

資本コスト(WACC)を下げるための信頼構築

割引率(資本コスト)を下げることができれば、同じ利益を出していても事業価値は自動的に上がります。そのためには、投資家や銀行に対して「この会社はリスクが低い」と確信させることが必要です。

情報開示の透明性とガバナンス

経営情報の透明性を高め、適切なガバナンス(企業統治)を効かせることは、リスク評価を下げることに直結します。不透明な取引や属人的な判断が排除されている組織は、外部からの信頼を得やすく、結果として資本コストを抑えることができます。

経営者の属人性の排除

多くの中小企業において、最大の評価リスクは「経営者自身」です。社長がいなくなったら事業が回らなくなるという状態は、極めて高いリスクと見なされます。組織化を進め、権限委譲を行い、誰が経営しても事業が継続できる体制を整えることは、事業価値を劇的に高める「磨き上げ」の重要な工程です。

独自の強み(模倣困難性)を磨き上げる

他社が簡単に真似できるビジネスは、すぐに価格競争に巻き込まれ、利益率が低下します。これを防ぐためには、「模倣困難性」を高める必要があります。

知的財産と独自ノウハウの蓄積

特許や商標などの法的な保護だけでなく、現場で培われた細かなノウハウや、独自のデータセットなどは、強力な参入障壁となります。これを戦略的に構築し、外部に示すことができれば、将来の利益の独占性が評価され、事業価値にプレミアム(上乗せ)がつきます。

ブランド・エクイティの向上

「〇〇といえばこの会社」というブランドイメージは、広告宣伝費をかけずに集客できる魔法の資産です。ブランド価値は一朝一夕には築けませんが、一貫したメッセージと高品質なサービスを積み重ねることで、代替不可能な価値として事業評価に大きく寄与します。

M&Aや事業承継を成功に導く活用法

事業価値の知識が最も威力を発揮するのは、出口戦略(イグジット)を考える場面です。自分の会社を誰かに託すとき、あるいは新しいパートナーと組むとき、正しい価値を知っていることは最強の武器になります。

第三者への譲渡における価格決定のプロセス

M&Aにおいて、提示される価格(譲渡対価)は、算定された事業価値そのものではありません。そこには必ず「交渉」の余地があります。

交渉におけるロジックの重要性

「うちの会社は10億円の価値がある」と主張する際、その根拠がDCF法に基づいているのか、あるいは類似企業の取引事例に基づいているのかを明確に示す必要があります。論理的な裏付けがあれば、買い手も社内決裁を通しやすくなり、結果として希望に近い価格で合意できる確率が高まります。

デューデリジェンスへの備え

買い手は契約前に、売り手の実態を詳細に調査する「デューデリジェンス(買収監査)」を行います。ここで、事前の説明と事実に乖離があると、事業価値は容赦なく引き下げられます。日頃から事業価値を意識した経営をしていれば、この調査もスムーズに進み、価値の毀損を防ぐことができます。

親族内承継における公平な評価の必要性

身内に事業を引き継ぐ場合でも、事業価値の算定は避けて通れません。特に、他の親族との遺産分割や、贈与税・相続税の計算において、客観的な評価額がないと大きなトラブルに発展します。

税務評価と事業評価の乖離

税務上の評価(財産評価基本通達)と、ここまでに述べてきた実務上の事業価値は必ずしも一致しません。節税の観点だけでなく、後継者が納得して事業を引き継げるよう、経済的な実態に基づいた事業価値を把握しておくことが、円満な承継の秘訣です。

買い手が重視するシナジー効果の測定

M&Aにおいて、時に理論上の算出額を大きく上回る価格で成約することがあります。それは、買い手が「シナジー効果(相乗効果)」を高く評価したときです。

3種類のシナジー

  1. コストシナジー:物流の共通化や、仕入れの統合によってコストを削減する。
  2. 売上シナジー:お互いの顧客に商品をクロスセルすることで、売上を増大させる。
  3. 財務シナジー:資金調達コストを下げたり、税務上のメリットを享受したりする。

売り手側として、「自社を買収することで、買い手側にどのようなメリットがあるか」を具体的に提示できれば、本来の事業価値にプラスアルファの評価を上乗せさせることが可能です。

まとめ

事業価値を正しく理解し、高めていくことは、経営そのものの質を向上させる行為に他なりません。この記事の重要ポイントをもう一度整理します。

  • 事業価値の本質:将来生み出すキャッシュフローの「現在価値」である。
  • 資産の構造:事業価値に非事業資産を加え、負債を引いたものが株主の取り分(株式価値)となる。
  • 算出の定石:DCF法で未来を、マルチプル法で相場を、修正純資産法で足元を確認する。
  • 価値向上の肝:キャッシュフローの安定化、資本コストの低減、そして独自の強み(無形資産)の磨き上げ。
  • 実務の武器:M&Aや事業承継の現場では、論理的な価値の根拠が交渉力を最大化させる。

事業価値を意識した経営は、短期的な利益に一喜一憂するスタイルから、長期的に価値を創造し続けるスタイルへの転換を意味します。今日から一歩ずつ、自社の数字を整理し、未来の価値を形にしていきましょう。その努力は必ず、目に見える数字となってあなたの元へ返ってきます。

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