
給与を現金で手渡す運用は、適切に管理すれば従業員の安心感を高め、経営の柔軟性を生みます。 正確な受領書を毎回作成することで、不透明な金銭のやり取りを排除し、健全な会社経営をアピールできます。受領書という確固たる証拠があれば、将来的な労使トラブルを未然に防ぎ、経営者としての信頼を盤石なものにできるでしょう。
この記事を読むことで、法的に不備のない受領書の作り方と、現金払い特有のリスクを回避する具体的なノウハウがすべて手に入ります。 専門的な知識がなくても、紹介するテンプレートをそのまま使うだけで、税務調査や労働基準監督署の調査にも動じない管理体制が整います。
事務作業が苦手な方でも、ポイントを絞った運用をルール化すれば、明日からすぐにミスなく実行可能です。 難しい法律用語は噛み砕いて解説しますので、まずは受領書の重要性を正しく理解するところから始めてみましょう。
目次
給与の現金渡しで受領書が欠かせない3つの理由
給与を現金で支払う場合、銀行振込のような「振込履歴」が残りません。そのため、受領書の作成は単なる事務作業ではなく、会社を守るための生命線となります。なぜ受領書がそれほどまでに重要なのか、3つの視点から詳しく解説します。
法律を守り健全な経営を証明する
労働基準法では、賃金は「通貨で、直接労働者に、全額を支払わなければならない」と定められています。これを「賃金支払の5原則」と呼びます。銀行振込は、実は労働者の同意がある場合に認められる「例外的な方法」です。つまり、現金で直接渡すこと自体は、本来の原則に則った正しい形といえます。
しかし、支払った事実を客観的に証明できなければ、法律を守っているとは見なされません。労働基準監督署の調査が入った際、受領書がなければ「賃金未払い」を疑われるリスクがあります。受領書は、会社が法律を遵守して正しく賃金を支払っていることを対外的に証明する唯一の手段です。
多くの小規模事業所では、口約束や簡易的なメモで済ませてしまう傾向があります。しかし、法律の現場では「書面がない=存在しない」と判断されることが少なくありません。受領書を毎月積み重ねる行為は、経営の透明性を高める最も基本的な防衛策です。
金銭トラブルを回避し従業員との信頼を守る
人間関係が良好な職場であっても、お金が絡むとトラブルに発展する可能性があります。例えば、数ヶ月後に従業員から「あの月の給与をもらっていない」と主張された場合、受領書がなければ反論は困難です。記憶に頼った管理は、お互いの不信感を招く原因になります。
その場で金額を確認し、受領印をもらう行為は、従業員にとっても安心材料となります。双方が納得して取引を完了させたという記録が、長期的な信頼関係の維持に貢献します。曖昧さを排除することが、結果として従業員の定着率向上にもつながるのです。
また、金額の過不足についてもその場で解決できます。後から「足りなかった」と言われるリスクを防ぐために、受領書へのサインは「金額を確認し、正しく受け取った」という最終合意の印となります。この一歩を丁寧に行うことが、無用な諍いを避ける知恵です。
税務調査で適正な経費算入を認めさせる
会社を経営する上で、税務調査への備えは欠かせません。給与は経費の中で大きな割合を占めますが、現金の支出は実態が見えにくいため、税務署から厳しくチェックされます。もし受領書がない場合、架空の従業員を仕立てた「架空人件費」ではないかと疑われる恐れがあります。
正当な給与支払であることを証明できなければ、経費として認められず、多額の追徴課税を課されるかもしれません。日付、金額、受領者の署名が揃った受領書を揃えておくことで、税務調査官に対して「透明性の高い経理処理」を行っていることを即座に示せます。
税務調査では、帳簿上の数字と現金の動きが一致しているかを見られます。受領書は、その「動き」を裏付ける確実な証拠です。特に、日雇い労働者やアルバイトへの支払いが多い現場では、一枚の受領書が会社を税務リスクから救う重要な役割を果たします。
決定版|給与受領書テンプレートと必須項目の書き方
受領書は、必要な項目さえ網羅していれば、市販の用紙でも自作の書類でも構いません。ここでは、法的効力を高め、かつ実務で使いやすい構成を紹介します。
法的効力を持たせるための6つの基本項目
受領書として機能させるためには、以下の6つの要素を必ず含める必要があります。
- 書類のタイトルとして「給与受領書」であることを明記する
- 実際に現金を渡した年月日を正確に記入する
- 従業員本人の自筆署名、または記名押印をもらう
- 手渡した現金の合計額(手取り額)を記載する
- 何月分の給与なのか、基本給や残業代などの内訳を明記する
- 支払者の情報として会社の名称、代表者名、所在地を記載する
これらの項目が欠けていると、後から「どの期間の、いくらの支払いか」が判別できず、証拠能力が弱まってしまいます。特に「内訳」は重要で、総支給額から社会保険料や所得税を引いた「差引支給額」を明確にすることが、後の給与計算トラブルを防ぐコツです。
コピーして使えるテキスト形式テンプレート
以下の形式をメモ帳やWordに貼り付けて調整してください。
給 与 受 領 書
株式会社〇〇 御中
私は、202X年〇月分の給与として、下記の金額を正に受領いたしました。
受領金額: ¥ 〇〇〇,〇〇〇 –
(内訳)
・総支給額: ¥ 〇〇〇,〇〇〇
・控除合計: ¥ 〇〇,〇〇〇
・差引支給額: ¥ 〇〇〇,〇〇〇
受領日: 202X年 〇月 〇日
住所: 〇〇県〇〇市〇〇町1-2-3
氏名: 氏名 〇〇 〇〇 (印)
このシンプルな構成で、必要十分な情報をカバーできます。余白に「上記、相違ありません」という一文を添えることで、より強い合意の意思を示すことができます。
項目別の注意点と記入例
金額の記載には細心の注意を払ってください。改ざんを防ぐため、数字の頭に「¥」を、末尾に「-」や「也」を付けます。数字の間隔を詰めて書くことも、不正防止に有効です。また、手書きで修正を行う場合は、修正液を使わずに二重線と訂正印で対応するのがビジネスの基本です。
受領印は、シャチハタなどの浸透印ではなく、認め印をもらうのが望ましいです。アルバイトなどの場合は本人のサイン(署名)だけでも法的な効力はあります。しかし、可能な限り印鑑を押してもらうルールにすることで、心理的な抑制力が働き、トラブル防止効果が高まります。
さらに、住所の記載も省略せずに書いてもらいましょう。万が一、連絡が取れなくなった場合の現住所確認にも役立ちます。氏名は必ず本人の自筆で書いてもらうことが、筆跡鑑定などの不測の事態においても有効な証拠となります。
実務者が知っておくべき労働基準法と現金払いのルール

現金で給与を支払う際には、受領書以外にも守らなければならない法律のルールがいくつか存在します。知らずに運用していると、思わぬところで法令違反と指摘される可能性があるため、注意が必要です。
通貨払いの原則と銀行振込が「例外」である理由
現代では当たり前となっている銀行振込ですが、労働基準法第24条の原則から見れば、実は「特例」の扱いです。本来、会社は通貨(現金)で直接従業員に支払わなければなりません。なぜなら、かつて現物支給や複雑な控除によって、労働者が正当な対価を受け取れない問題があったからです。
銀行振込を行うためには、従業員の個別の同意が必要です。逆に言えば、現金渡しは法律の基本に忠実な方法です。ただし、現金渡しであっても「全額払いの原則」は適用されます。会社が勝手に社内販売の代金などを差し引くことは、原則として認められません。
この原則を理解していれば、現金払いに引け目を感じる必要はありません。むしろ、対面で労い(ねぎらい)の言葉とともに給与を渡すことは、日本の労働文化における誠実な対応の一つといえます。法律の趣旨は、労働者が自由に使える形でお金を受け取る権利を守ることにあります。
控除を行うための「労使協定」の重要性
給与から所得税や社会保険料を差し引くのは法律に基づく義務ですが、それ以外の項目を差し引くには、従業員の代表と「賃金控除に関する労使協定」を締結しておく必要があります。
- 寮費や社宅費を給与から天引きする場合に締結する
- 親睦会費や組合費を差し引く場合に書面で交わす
- 欠損金の補填や貸付金の返済を相殺する際にも必要となる
- 協定書には控除の対象となる具体的な項目を列挙する
- 従業員代表の選出は民主的な方法で行う
- 有効期間を定めて定期的に更新を行う
この協定がない状態で、勝手に給与から現金を差し引くと、労働基準法違反となります。現金渡しの場合、特にこの「差引額」が曖昧になりやすいため、受領書や給与明細で控除の内訳を明確に示すことが、自身の身を守ることにつながります。
給与明細の発行義務と受領書の関係
「受領書をもらっているから給与明細は不要」と考えるのは間違いです。所得税法などの規定により、支払者は支払を受ける者に対して、支払額や控除額の明細(給与明細)を交付する義務があります。
実務上は、給与明細に従業員が確認した旨のサインをもらい、その一部を受領書として会社が回収する「切り取り式」の運用が効率的です。これにより、従業員は手元に明細が残り、会社は支払の証拠を確保できるため、お互いにとってメリットがあります。
明細には、基本給だけでなく、各種手当や残業時間の計算根拠も記載しましょう。現金渡しだからこそ、計算の透明性を確保することが、不当な残業代請求などを防ぐ最大の防御になります。明細と受領書は、車の両輪のようにセットで運用すべき重要な書類です。
現金渡しに伴う実務リスクを最小限にする運用術
現金渡しには、振込にはない「物理的なリスク」が伴います。管理体制を疎かにすると、多額の現金を扱うプレッシャーや、事務ミスの温床となります。ここでは、安全に運用するための具体的なテクニックを紹介します。
安全に現金を保管・運搬するためのチェックリスト
給与支払日には、事務所に多額の現金が置かれることになります。盗難や紛失を防ぐために、以下の対策を徹底しましょう。
- 給与支払の直前まで銀行から出金せず金庫で厳重に保管する
- 支払を行う時間を限定してダラダラと現金を放置しない
- 銀行からの出金時には複数人で行動しルートを固定しない
- 金庫から出した金額と支払総額が一致するか即座に確認する
- 事務所の施錠を強化し関係者以外が立ち入らないようにする
- 万が一の盗難に備えて火災保険や盗難保険の内容を確認する
物理的な管理を徹底することが、従業員の不正を誘発させないための「優しさ」でもあります。環境を整えることは、経営者としての責務です。
渡した瞬間にその場で署名をもらう徹底事項
「後でまとめて書いておいて」という運用は非常に危険です。現金を渡した数分後に「中身が足りない」と言われても、受領書に署名をもらっていなければ、どちらが正しいか証明できません。
必ず以下の手順を守りましょう。
- 従業員の目の前で現金を封筒から出して一枚ずつ数える
- 従業員本人にもその場で枚数と金額を確認してもらう
- 金額に相違がないことを互いに確認した上で署名をもらう
- 現金を再び封筒に入れ受領書の控えとともに手渡す
- その場で受領書をファイリングして紛失を防ぐ
この一連の流れを儀式化することで、数え間違いや「入っていなかった」というクレームを完全に封じ込めることができます。忙しい時ほど、この手順を端折(はしょ)ってはいけません。
支払ミスを防ぐ「ダブルチェック」の仕組み
給与の準備を一人で行うと、思い込みによるミスが発生しやすくなります。可能な限り、現金の封入作業は二人一組で行うべきです。一人が金額を読み上げ、もう一人が封筒に入れる、あるいはリストにチェックを入れるという作業を繰り返します。
小規模な事業所で一人の場合は、封入前にすべての現金を一度並べ、給与台帳の総額と、用意した現金の総額が1円単位で一致するかを必ず確認してください。一致しないまま個別の封筒に入れてしまうと、どこで間違えたかを探すために多大な時間を浪費することになります。
また、金種(札や硬貨の種類)をあらかじめ計算しておく「金種表」の作成も有効です。1万円札が何枚、千円札が何枚必要かを事前に把握し、銀行で両替することで、封入時のミスを大幅に減らせます。正確な準備が、当日のスムーズな支払を実現します。
受領書の保存と管理に関する法的な義務
受領書は、作成して終わりではありません。法律で定められた期間、適切に保管する責任があります。
5年間の保存期間(当面は3年)の正確な知識
労働基準法の改正により、賃金台帳や受領書などの重要な書類の保存期間は「5年間」と定められました。ただし、経過措置として当面の間は「3年間」の保存が義務付けられています。税務上の観点からは7年間の保存が推奨されることもありますが、労務管理としては少なくとも5年分を遡れるようにしておくのが安全です。
退職した従業員の受領書も同様です。退職後に未払い賃金の請求がなされる可能性を考慮し、年度ごとに整理して保管しましょう。段ボール箱などにまとめ、表紙に「〇年度 給与受領書 〇年〇月まで保存」と明記しておくと、廃棄の際にも迷いません。
- 2020年4月の法改正により保存期間が延長されたことを把握する
- 起算日は最後に記載をした日や支払日であることを確認する
- 退職者の書類も現役従業員と同じ期間だけ大切に保管する
- 年度別にファイリングして必要な時にすぐ取り出せるようにする
- 保存場所は湿気や火災のリスクが低い安全な場所を選ぶ
- 廃棄する際は個人情報保護のため必ずシュレッダーにかける
これらの管理を徹底することで、万が一の法的紛争からも身を守ることができます。
スキャナ保存制度(電子帳簿保存法)への対応
近年、電子帳簿保存法の改正により、紙の受領書をスキャンしてデータで保存することが認められやすくなりました。紙の山でオフィスが圧迫されている場合は、デジタル化を検討するのも一つの手です。
ただし、スキャナ保存を行うには、一定のルールを守る必要があります。
- 解像度200dpi以上のカラー読み取りで鮮明に保存する
- タイムスタンプを付与して改ざんが行われていない証明をする
- 訂正や削除の履歴が残るシステムを利用して管理する
- 取引年月日や金額、取引先で検索できる機能を備える
- ディスプレイやプリンタを備え付けてすぐに出力できるようにする
- 社内規定を作成して適切な運用プロセスを定義する
単にスマホで撮影して紙を捨てるだけでは、法的な要件を満たさない可能性があるため注意してください。専門的なソフトを導入するか、ルールを熟知した上で移行を進めることが大切です。
紛失した際の対応と代替手段
もし受領書を紛失してしまった場合、そのまま放置してはいけません。気づいた時点で、対象となる従業員に事情を説明し、再発行や「支払済みを確認する書面」への署名を依頼することを検討してください。
もちろん、過去に遡って署名をもらうのは信頼関係に関わります。そのため、紛失を防ぐための「デジタルバックアップ」を日頃から取っておくことが推奨されます。紙の受領書をコピーしておく、あるいはスマホで仮保存しておくだけでも、最悪の事態での補完資料として役立ちます。
また、現金出納帳や賃金台帳など、他の帳簿との整合性を常に保っておくことも重要です。受領書という「点」の証拠が消えても、他の帳簿という「線」で支払を証明できれば、調査時のダメージを最小限に抑えられます。多層的な記録管理が、リスクマネジメントの基本です。
まとめ|正確な受領書作成が円滑な労務管理の第一歩
給与を現金で支払うという行為は、信頼関係に基づいた伝統的な手法ですが、現代のビジネス環境では、それを裏付ける「証拠」が何よりも重要視されます。今回紹介したテンプレートや運用ルールを導入することで、法的なリスクを最小限に抑えつつ、従業員が安心して働ける環境を整えることができます。
受領書は、法律・信頼・税務の3つの側面から不可欠な書類であることを忘れないでください。テンプレートには、日付、金額、署名、内訳などの必須項目を漏れなく網羅しましょう。そして、渡したその場で金額を確認し、署名をもらうルーチンを徹底することが、トラブルを未然に防ぐ唯一の道です。
作成した受領書は、法律に基づき適切に期間保存しましょう。紙での保管が難しい場合は、最新の電子帳簿保存法に則ったデジタル化も有効な選択肢となります。どの方法を選ぶにせよ、「支払った事実」を誰に対しても堂々と証明できる状態を維持することが重要です。
事務作業は時に煩雑に感じられますが、しっかりとした管理は、経営者であるあなた自身の「心の平穏」にもつながります。万が一の調査やトラブルの際、自信を持って書類を提示できる状態を作っておくことは、事業を継続させる上での強力な武器となるはずです。まずは次の給与支払日から、この記事で紹介した新しい受領書運用を始めてみてください。一歩ずつの積み重ねが、あなたの会社の信頼を未来へと繋いでいきます。



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