飲食業の基礎知識

パン屋の利益率を最大化する経営の教科書|黒字化へのロジック

公開日:

焼きたての香ばしい香りに包まれ、お客様の笑顔が見られるパン屋さん。

もしあなたが、そんな幸せな空間を自分の店として持ち、さらにしっかりと利益を出して経済的にも豊かになれるとしたら、それは最高の未来ではないでしょうか。

趣味の延長ではなく、一つのビジネスとして成立させ、長く愛されるお店を作ることは十分に可能です。しかし現実は甘くありません。「パン屋は儲からない」という言葉を耳にしたことはありませんか?

朝は早くから仕込みをし、重い粉を運び、立ちっぱなしで働き続けても、手元に残るお金はわずか。そんな過酷な状況に陥り、志半ばで閉店してしまうお店が多いのも事実です。

「あんなに頑張っているのに、なぜ?」

その原因の多くは、パンの味ではなく「数字の管理」にあります。

でも、安心してください。利益が出ない仕組みを理解し、適切な対策を打てば、パン屋経営は確実に軌道に乗せることができます。

この記事では、パン屋の利益率の平均といった基本的な数字から、利益を圧迫するコストの正体、そして明日から実践できる具体的な改善策までを徹底的に解説します。

難しい経営用語もわかりやすく説明しますので、数字が苦手な方でも大丈夫です。あなたの情熱を「利益」という形に変え、長く愛されるお店を作るためのヒントを持ち帰ってください。

パン屋の利益率はどれくらい? 知っておくべき数字の真実

パン屋を開業しようとする人、あるいは現在経営に苦しんでいる人がまず直面するのが「一体どれくらい利益が出るのが普通なのか?」という疑問です。業界の平均を知ることは、自分の店の健康状態を測るための体温計を持つようなものです。

まずは、パン業界における利益率の現実(リアル)を直視しましょう。

営業利益率の目安は「5%から10%」

結論から言うと、一般的な個人経営のパン屋における営業利益率の目安は5%から10%程度と言われています。これは、100円のパンが売れたとき、最終的に手元に残る利益が5円から10円という意味です。

もし月商(月の売上)が300万円のお店であれば、家賃や材料費、スタッフの給料など全ての経費を支払った後に残るオーナーの利益は、15万円から30万円程度ということになります。

「えっ、そんなに少ないの?」と感じた方もいるかもしれません。

IT企業やコンサルティング業など、元手がかからないビジネスに比べると、パン屋を含む飲食業界は利益率が低い傾向にあります。特にパン屋は、薄利多売(単価の安いものをたくさん売る)のビジネスモデルであるため、一つの商品でドカンと儲けることが難しいのです。

もちろん、これはあくまで平均値です経営努力によって利益率を15%以上に高めている優秀な店舗もあれば、残念ながら赤字ギリギリで回している店舗もあります。

この差はどこから生まれるのでしょうか。それは「売上の大きさ」ではなく「コストの管理能力」にあることがほとんどです。

「売れているのに金がない」現象の正体

パン屋経営でよくあるのが、「お店はお客様で賑わっているし、商品は完売している。なのに通帳にお金が増えていない」という現象です。これは「見かけの売上」と「手元に残る利益」の区別がついていない場合に起こります。

パンを作るには、小麦粉、バター、イースト、砂糖、塩、卵、牛乳など、多くの材料が必要です。さらに、パンを焼くための大きなオーブンやミキサー、冷蔵庫などの設備には、高額な電気代やガス代がかかります。そして何より、早朝から仕込みを行い、焼成、陳列、販売を行うスタッフの人件費がかかります。

1個200円のパンが飛ぶように売れても、そのパンを作るのに190円かかっていたら、利益は10円しかありません。忙しさ(売上の規模)に惑わされず、一品ごとの利益構造を把握していないと、この「忙しい貧乏」状態から抜け出すことはできません。

パン屋経営で成功するためには、「美味しいパンを作ること」と同じくらい、「利益が残る仕組みを作ること」が重要なのです。

なぜお金が残らないのか? 利益を食いつぶすコスト構造

利益率を上げるためには、まず「何にお金が消えているのか」を知る必要があります。パン屋の利益を圧迫する要因は、大きく分けて3つあります。

これらはパン屋にとって避けては通れないコストですが、ここをどうコントロールするかが経営者の腕の見せ所です。

1. 原価率30〜40%の壁

飲食業界全体で見ると、食材の原価率は30%程度が目安とされています。

しかし、パン屋の場合はこれよりも高くなりやすく、35%から40%近くになることも珍しくありません。その理由は、パン作りにおいて「材料の質」が味に直結しやすいからです。

「美味しいパンを作りたい」という職人としてのこだわりから、高級な国産小麦や、香り高い発酵バター、厳選したドライフルーツなどをふんだんに使いたくなるものです。

もちろん、高品質な材料を使うことは素晴らしいことですが、それが価格に転嫁できていなければ、経営を圧迫する要因になります。

さらに近年では、世界情勢の影響による小麦価格の高騰や、乳製品の値上げが続いています。これまでと同じ材料を使っていても、原価率が勝手に上がってしまう時代なのです。

原価率が数%上がるだけで、最終的な利益は大きく削られます。

2. 職人の技術=高騰する人件費

パン屋は「労働集約型」のビジネスと言われます。つまり、人の手がどうしても必要な仕事です。

生地をこね、発酵を見極め、成形し、焼き上げる。この工程の多くは機械化が進んでいるとはいえ、最終的には職人の技術と経験に依存します。

特に「スクラッチ製法(粉から生地を作る方法)」を採用している店では、早朝(深夜)からの仕込みが必要不可欠です。深夜や早朝の労働には割増賃金が発生しますし、技術を持った職人を雇うにはそれなりの給料が必要です。

また、販売スタッフも必要です。レジ打ち、袋詰め、トレイの清掃、品出しなど、細かい作業が多く、人手が必要です。

近年は最低賃金も上昇傾向にあり、人件費はパン屋経営において最も重いコストとなっています。

3. 見落としがちな「廃棄ロス」という名の現金廃棄

パン屋特有のコストとして無視できないのが「廃棄ロス」です。

パンは生鮮食品です。焼き上がったその日が一番美味しく、翌日には味が落ちてしまいます。そのため、その日のうちに売り切らなければ、基本的には捨てることになります。

例えば、原価60円、売価200円のパンを10個焼いたとします。8個売れれば売上は1600円ですが、2個売れ残って捨てたとします。このとき、失うのは「売れなかった400円分の売上」だけではありません。

「捨てたパンを作るのにかかった材料費と、それを作った職人の労働時間、焼いた電気代」をドブに捨てているのと同じなのです。廃棄率(作ったパンのうち捨てることになった割合)が5%を超えると、利益は一気に圧迫されます。

「お客様のために商品を棚いっぱいに並べておきたい」という気持ちと、「売れ残りのリスク」のバランスを取ることは、パン屋経営の永遠の課題と言えるでしょう。

【重要】利益確保の鍵を握る「FLコスト」完全理解

パン屋の経営状態を数字で把握するために、絶対に覚えておきたい指標があります。それが「FLコスト」です。これを知っているかいないかで、経営の安定度は天と地ほど変わります。

FLコストとは何か?

FLコストとは、飲食店経営における主要な2つのコストの頭文字を取ったものです。

  • F (Food):材料費(原価)
  • L (Labor):人件費

この2つを足したものがFLコストです。

そして、売上に対してFLコストが占める割合を「FL比率」と呼びます。計算式は以下です。

FLコスト = 材料費 + 人件費

FL比率(%) = FLコスト ÷ 売上高 × 100

一般的に、飲食店の適正なFL比率は60%以下と言われています。もしあなたの店のFL比率が65%や70%になっているとしたら、それは「危険信号」です。家賃や光熱費などの他の経費を払うと、利益がほとんど残らない状態になっている可能性が高いからです。

目指すべき黄金比率「60%」の守り方

では、どうやってFL比率を60%以下に抑えれば良いのでしょうか。

パン屋の場合、原価率(F)が高くなりやすいため、人件費(L)とのバランス調整が重要になります。

パターンA:こだわり品質型

  • 原価率(F):38%(良い材料を使う)
  • 人件費(L):22%(効率化して抑える)
  • 合計:60%

パターンB:効率重視型

  • 原価率(F):30%(一般的な材料)
  • 人件費(L):30%(手厚い接客や多くのスタッフ)
  • 合計:60%

このように、FとLの合計で60%以内に収まるように設計するのが基本です。

パン屋は製造に手間がかかるため、人件費(L)が高くなりがちです。もし人件費が35%かかっているなら、原価率は25%に抑えないと利益が出ません。

逆に、どうしても原価率40%の美味しいパンを作りたいなら、人件費を20%まで圧縮する工夫(少人数運営や機械化)が必要になります。

Fを下げるか、Lを下げるかの選択

FLコストを下げるためには、FかL、あるいは両方を削る必要があります。しかし、安易なコストカットは危険です。

  • F(材料費)を無理に下げる:
    安い材料に変えると、味が落ちてお客様が離れてしまうリスクがあります。
    また、パンのサイズを小さくする「ステルス値上げ」も、お客様は敏感に気づきます。
  • L(人件費)を無理に下げる:
    スタッフを減らしすぎると、サービス低下や提供の遅れにつながります。
    また、残ったスタッフの負担が増え、離職の原因にもなります。

重要なのは「質を落とさずにコストを下げる工夫」です。

例えば、Fを下げるなら「廃棄ロスを減らすこと」が最も効果的です。Lを下げるなら「作業工程を見直して無駄な動きをなくすこと」や「レジを自動釣銭機にして会計時間を短縮すること」などが考えられます。

FLコストの管理は、単なる節約ではなく、「効率的な経営への挑戦」なのです。

今日からできる! 利益率を1%でも上げる5つの具体策

「コストの構造はわかった。でも、具体的に何をすればいいの?」ここからは、実際に利益率を改善するための具体的なアクションプランを5つ紹介します。

どれも今すぐ検討できるものばかりです。

戦略1:高利益率アイテム(「粉もの」以外)の導入

パン屋だからといって、パンだけで利益を出そうとする必要はありません。利益率を上げるための王道は、「原価率の低い商品」を一緒に売ることです。その代表格がドリンク(飲み物)です。

コーヒーや紅茶、ジュースなどのドリンク類は、原価率が非常に低く(10%〜20%程度)、作る手間もパンに比べて圧倒的に少ないのが特徴です。

パンを買いに来たお客様に、「焼きたてのパンと一緒に、温かいコーヒーはいかがですか?」と勧めるだけで、客単価と利益率の両方を上げることができます。また、ジャムやクッキー、ラスクなどの焼き菓子も、日持ちがするため廃棄リスクが低く、利益貢献度の高い商品です。

これらをレジ横などの目立つ場所に置くことで、ついで買いを誘発しましょう。

戦略2:廃棄を「ゼロ」に近づけるリメイク術と販売予測

前述したように、廃棄ロスは利益を直接ドブに捨てる行為です。

これを減らすことは、売上を増やすことと同じくらいの価値があります。

まず取り組むべきは「リメイク商品の開発」です。

  • 売れ残った食パンやバゲット → ラスクやフレンチトースト、クルトンにする。
  • 余った惣菜パン → 翌日の朝一番に「おつとめ品」としてセット販売する(原価分だけでも回収する)。

次に重要なのが「精度の高い製造計画」です。「勘」で焼く個数を決めるのはやめましょう。「雨の日は客足が2割減る」「給料日後は高単価なものが売れる」といった過去のデータを蓄積し、天気予報やイベント情報と照らし合わせて製造数を調整します。

最近では、AIを使って需要予測を行うアプリなども登場していますので、これらを活用するのも一つの手です。

戦略3:勇気ある「適正価格」への値上げとブランディング

「値上げをしたらお客様が来なくなるのではないか」という恐怖心から、無理な低価格を続けているパン屋さんは多いです。しかし、原材料費が上がっているのに価格を据え置けば、お店は確実に疲弊します。

大切なのは「価格に見合う価値(バリュー)」を伝えることです。「北海道産の小麦を100%使用」「発酵に48時間かけたこだわりの生地」など、そのパンの価値をポップやSNSでしっかりと伝えましょう。

お客様は、納得できる理由があれば、多少高くても購入してくれます。むしろ、安すぎる価格は「品質が悪いのかな?」という疑念を生むこともあります。自信を持って、利益が出る適正価格をつけること。それがお店の価値を守り、長く続けるための責任でもあります。

戦略4:生産性の向上(機械化とレイアウト)

人件費(L)をコントロールするためには、スタッフ一人当たりの生産性を上げる必要があります。

「職人の根性」に頼るのではなく、仕組みで解決しましょう。

  • 厨房機器の導入
    分割丸め機(生地を自動で分割して丸める機械)や、リバースシーター(生地を伸ばす機械)などの導入は、初期投資はかかりますが、長い目で見れば人件費の削減と品質の安定につながります。
  • 動線の見直し
    厨房内の配置は最適ですか? スタッフが無駄に歩き回っていませんか?
    材料を取りに行く歩数を数歩減らすだけでも、1日単位、1年単位で見れば大きな時間短縮になります。
    「1秒を削る」意識を持つことが、人件費削減への近道です。

戦略5:イートイン活用による客単価アップ

もしスペースに余裕があるなら、イートインスペースの設置を検討してください。店内で食べられるようにすることで、以下のメリットが生まれます。

  1. ドリンクの注文率が上がる: 座って食べるなら飲み物が欲しくなります。
  2. 滞在時間が伸びる: お店の雰囲気を楽しんでもらうことで、ファン化につながります。
  3. 「焼きたて」の価値を提供できる: すぐに食べてもらえるので、一番美味しい状態を提供でき、満足度が上がります。

ただし、イートインを設置すると、消費税率の管理(持ち帰り8%、店内飲食10%)や、清掃の手間、席数分のスペースコストが発生します。

回転率なども考慮し、自分の店に合っているかを慎重に判断する必要があります。

開業スタイルで変わる利益の出し方

最後に、これから開業する人、あるいは業態転換を考えている人向けに、ビジネスモデルによる利益構造の違いを解説します。

パン屋と一口に言っても、その作り方によって「どこにお金がかかるか」は全く異なります。

こだわり抜く「スクラッチ製法」の勝算

スクラッチ製法とは、小麦粉などの原料を仕入れ、粉から生地を作って焼き上げる、昔ながらのパン屋のスタイルです。

  • メリット
    材料費(原価)を安く抑えられる可能性があります(加工済みの生地より、粉のまま買う方が安い)。
    独自の配合や製法で、他店にはないオリジナルの味(差別化)が出せます。
    職人としてのやりがいがあり、ファンがつきやすいです。
  • デメリット
    高度な技術を持った職人が必要で、人件費が高くなります。
    仕込みに時間がかかるため、長時間労働になりがちです。
    厨房設備への投資額が大きくなります。

このモデルで利益を出すには、「高付加価値・ブランド化」が必須です。「あの店のあのパンが食べたい」と思わせる看板商品を作り、少し高めの価格設定でも納得してもらえるブランド力を築くことが重要です。

効率重視の「ベイクオフ・冷凍生地」の勝算

ベイクオフとは、工場で作られた冷凍生地を仕入れ、店では解凍・発酵・焼成のみを行うスタイルです。

多くのチェーン店やスーパー内のベーカリーがこの方式です。

  • メリット
    高度な技術が不要で、アルバイトやパートでも製造が可能です(人件費を抑えやすい)。
    早朝からの仕込みが不要で、労働時間を短縮できます。
    厨房スペースを小さくできます。
  • デメリット
    加工済みの生地を仕入れるため、材料費(原価率)が高くなります。
    味の差別化が難しく、独自性を出しにくいです。

このモデルで利益を出すには、「回転率と多店舗展開」が鍵になります。人件費を極限まで下げられるメリットを活かし、立地の良い場所で大量に販売する、あるいは少ないスタッフで運営して固定費を下げる、といった戦略が有効です。

まとめ:数字に強いパン屋だけが生き残る

パン屋の利益率は決して高くはありません。しかし、「儲からない」と諦める必要もありません。利益が出ないのには必ず理由があり、その理由は「数字」の中に隠れています。

  • 原価率と人件費(FLコスト)を60%以下に抑えること。
  • 廃棄ロスという「現金のムダ」を徹底的に減らすこと。
  • ドリンクや焼き菓子など、利益率の高い商品を組み合わせること。
  • 自分の店に合った適正価格を恐れずにつけること。

これらを一つひとつ丁寧に実践していけば、必ず手元に残るお金は増えていきます。美味しいパンを作る情熱と同じくらいの熱量で、経営の数字とも向き合ってみてください。

「美味しい」と「儲かる」は両立できます。地域のお客様に愛され、そしてあなた自身も豊かになれる、そんな素敵なパン屋さんを実現させてください。

この記事の投稿者:

武上

飲食業の基礎知識の関連記事

飲食業の基礎知識の一覧を見る

\1分でかんたんに請求書を作成する/
いますぐ無料登録