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労災の病院側の手続きとは?指定・非指定の違いからレセプト請求まで徹底解説

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正しい労災手続きをマスターすることで、あなたは「返戻による未入金」という経営リスクをゼロにし、確実な診療報酬を受け取る未来を手に入れることができます。

労働災害(労災)の患者対応は、通常の健康保険とはルールが全く異なるため、医療事務スタッフにとって「最初の壁」と言われるほど複雑です。しかし、この仕組みさえ理解してしまえば、患者さんから「この病院は頼りになる」と信頼され、院内でも「労災のことなら〇〇さんに聞けば安心」と一目置かれる存在になれるでしょう。

「書類の種類が多すぎて覚えられない」「後から労災だったと言われてパニックになった」 そんな不安を抱えるあなたのために、本記事では病院側が行うべき手続きのすべてを、専門用語を噛み砕いて再現性のある手順で解説します。これを読めば、明日からの労災対応に迷うことはもうありません。

まずは確認!労災における「指定医療機関」と「それ以外」の決定的な違い

労災の手続きを理解するうえで、最初にして最大の分岐点となるのが、あなたの病院やクリニックが「労災保険指定医療機関」であるかどうかという点です。ここが違うと、お金の動きも、患者さんへの対応も180度変わります。まずは自院の立ち位置を明確にしましょう。

労災指定医療機関の場合(現物給付)

多くの病院や診療所は、各都道府県の労働局長から指定を受けた「労災指定医療機関」です。もしあなたの勤務先が指定医療機関であれば、手続きは比較的スムーズで、患者さんにとってもメリットが大きくなります。

指定医療機関における最大のポイントは、「現物給付」であるということです。 現物給付とは、患者さんが窓口でお金を支払う必要がなく、医療サービスそのものを無料で受けられる仕組みのことです。患者さんは、会社(事業主)から証明をもらった所定の請求書(様式第5号など)を病院の窓口に提出するだけです。

病院側としては、患者さんから窓口負担金を一切受け取らず、かかった診療費の全額(10割)を労働基準監督署などの支払機関へ請求することになります。この流れが「労災対応の基本」となります。患者さんの財布を痛めないため、トラブルになりにくく、病院側も確実に国から診療費を回収できるという利点があります。

指定医療機関ではない場合(現金給付)

一方で、あなたの病院が労災の指定を受けていない場合、あるいは指定医療機関であっても何らかの理由で指定外の扱いをする場合は、「現金給付(償還払い)」という対応になります。ここを混同すると大きなクレームにつながるため、注意が必要です。

非指定の医療機関では、労災保険を使った「現物給付(無料診療)」を行うことができません。そのため、ひとまず患者さんから診療費の全額(10割分)を窓口で支払ってもらう必要があります。この時、健康保険証は使えないため、自由診療扱いとして100%の金額を請求します。

患者さんは、病院に支払った領収書と、会社から受け取った請求書(様式第7号など)をセットにして、自分自身で労働基準監督署へ請求手続きを行います。後日、支払った金額が患者さんの口座に振り込まれる仕組みです。 病院側としては、「全額をその場で回収して終わり」なので事務処理はシンプルですが、患者さんにとっては一時的な出費が大きくなるため、丁寧な説明と配慮が求められます。

「うちは指定医療機関かどうかわからない」という場合は、必ず院長や事務長に確認するか、厚生労働省のウェブサイトにある指定医療機関検索で確認しておきましょう。ここを間違えると、全ての手続きがやり直しになってしまいます。

【完全マニュアル】ケース別・必須書類の選び方とチェックポイント

労災の手続きで最も事務スタッフを悩ませるのが、「似たような書類がたくさんある」という問題です。しかし、実は頻繁に使う書類は限られています。「どんな怪我か」「どこから来たか」の2点を押さえれば、正しい書類は自動的に決まります。ここでは、指定医療機関であることを前提に、絶対に必要な書類を解説します。

仕事中のケガなら「様式第5号」

最も頻度が高いのが、仕事中に怪我をしたケースです。これを「業務災害」と呼びます。 この場合、患者さんに提出してもらう書類は「療養補償給付たる療養の給付請求書(様式第5号)」です。

様式第5号は、患者さんが初めてその病院にかかる場合(初診)に使用します。この書類には、以下の重要な情報が記載されていなければなりません。

  • 負傷の原因と発生状況(仕事中の事故であることが明確か)
  • 事業主の証明印(会社が労災と認めているか)
  • 労働保険番号

病院側は、この書類を受け取ることで「これは労災として扱って良い」という確証を得ることができます。もし書類がまだ手元にない状態で来院された場合は、「後日必ず持ってきてください」と約束をし、一時的に預かり金をいただくなどの対応をとるのが一般的です。書類なしで無料にしてしまうと、万が一労災認定されなかった場合に回収不能になるリスクがあるからです。

通勤中の事故なら「様式第16号の3」

次によくあるのが、通勤途中の事故、いわゆる「通勤災害」です。 業務災害と混同しやすいですが、書類の様式が異なります。通勤災害の場合は「療養給付たる療養の給付請求書(様式第16号の3)」を使用します。

「様式第5号」と中身は似ていますが、タイトルの違いに加え、通勤経路の記載欄などがあります。 よくあるミスとして、通勤中の事故なのに会社が間違えて「様式第5号(業務災害用)」を作成して持たせてしまうケースがあります。受け取る際には、必ずタイトルの左上を見て、「業務災害用」なのか「通勤災害用」なのかを確認してください。間違った書類で請求すると、労働局から返戻されてしまいます。

転院してきた患者には「様式第6号」

救急病院で処置を受けた後、リハビリのためにあなたのクリニックに転院してくる場合など、2軒目以降の病院として関わるケースもあります。 この場合は、「療養補償給付たる療養の給付を受ける指定病院等(変更)届(様式第6号)」が必要です。

すでに前の病院で「様式第5号」を提出しているため、2軒目の病院には「病院を変更します」という届出が必要になるわけです。 なお、通勤災害で転院してきた場合は、「様式第16号の4」となります。

  • 1軒目(初診): 業務災害なら5号、通勤なら16号の3
  • 2軒目(転院): 業務災害なら6号、通勤なら16号の4

この法則さえ覚えておけば、書類選びで迷うことはなくなります。

書類を受け取る際の最重要チェック項目

患者さんが書類を持参した際、ただ受け取るだけでなく、事務スタッフとして必ずチェックすべきポイントがあります。

  • 事業主の証明印はあるか: 印鑑(または署名)がないものは無効です。
  • 発症年月日は正しいか: カルテの初診日と矛盾がないか確認します。
  • 「災害の原因」の記載: ここが曖昧だと労災認定が下りないことがあります。「作業中に転倒」など具体的に書かれているか確認しましょう。
  • 医療機関名は自院になっているか: たまに、前の病院名が書かれたままの書類を持ってくる方がいます。訂正印が必要になるため、その場で確認しましょう。

これらの不備を窓口で見抜くことができれば、後日の修正手間を大幅に減らすことができます。

ミスなく完了させる「労災レセプト」請求の具体的フロー

窓口での対応が終わったら、次は診療報酬の請求業務です。これを「労災レセプト請求」と呼びます。健康保険のレセプトとはルールや提出先が異なるため、ここもしっかりと押さえておきましょう。

労災診療費の計算ルールと1点単価

まず、診療費の計算方法についてです。 通常の健康保険では「1点=10円」で計算しますが、労災保険の場合は「1点=12円」で計算する(一部例外あり)という大きな特徴があります。

これは、労災診療が一般の診療よりも事務手続きが煩雑であることなどを考慮した措置です。ただし、すべての項目が12円になるわけではありません。薬代や特定保険医療材料など、「モノ」にかかる費用は1点10円のまま計算し、技術料(診察料、処置料、手術料など)のみを1点12円で計算します。

最近のレセコン(医療用コンピューター)は、保険種別を「労災」に設定すれば自動的にこの計算を行ってくれるものがほとんどですが、手計算が必要な場面や設定ミスの確認のために、「労災は技術料が12円(2割増し)」という基本ルールは覚えておきましょう。

請求書の書き方と編綴(へんてつ)方法

労災の請求には、専用のOCR用紙(光学的文字認識用紙)を使用します。

  • 診療費請求書(OCR様式): 病院全体の請求額をまとめた表紙のようなもの
  • 診療費明細書(レセプト): 患者ごとの治療内容を記載したもの

これらは、健康保険のレセプトのように「電子請求」が普及しつつありますが、まだ紙媒体での請求を行っている地域や医療機関も多くあります。 紙で提出する場合は、所定の順序で束ねる(編綴する)必要があります。

  1. 診療費請求書(表紙)
  2. 各患者の診療費明細書(レセプト)
  3. 患者から預かった請求書(様式第5号など)

この順番で重ね、紐で綴じるかクリップで留めて提出します。特に重要なのは、「様式第5号などの原本を必ず添付する」という点です。これが健康保険請求との最大の違いです。初回請求時には、この原本がないとお金が支払われません。

提出先と毎月の締め切り日

作成したレセプトはどこへ、いつまでに出せばよいのでしょうか。

  • 提出先: 医療機関の所在地を管轄する「労働基準監督署」(一部、労働局の場合もあり)
  • 締め切り日: 毎月10日まで

基本的には、診療を行った月の「翌月10日」までに提出します。これは健康保険のレセプトと同じスケジュール感です。 提出方法は、郵送または持参が一般的です。電子レセプトに対応している場合はオンラインでの送信となりますが、様式第5号などの「紙の原本」については、別途送付が必要になる場合があるため、お使いのシステム会社の指示に従ってください。

締め切りを過ぎてしまうと、支払いが1ヶ月以上遅れることになります。病院経営のキャッシュフローを守るためにも、10日必着のスケジュール管理を徹底しましょう。

現場で一番困る「健康保険から労災への切り替え」対応策

労災の実務で最も頭を悩ませるのが、「最初は健康保険証を使って受診したが、後から労災だとわかった」というパターンです。この場合、すでに健康保険で請求してしまったものを、労災保険に切り替えるという面倒な処理が発生します。

なぜ切り替えが必要なのか?仕組みを理解する

そもそも、なぜそのまま健康保険を使ってはいけないのでしょうか。 法律上、「健康保険と労災保険は併用できない」という鉄則があります。仕事中の怪我に健康保険(=私傷病のための保険)を使うことは不正利用にあたります。そのため、間違いが発覚した時点で、速やかに正しい保険(労災)へ適用を修正しなければなりません。

この修正処理を怠ると、後で健康保険組合(保険者)から「労災の疑いがあるので調査します」と連絡が入り、結局レセプトが返戻されることになります。早めの対処が、結果として事務作業を減らすことにつながります。

レセプト提出前の修正手順(同月内処理)

患者さんが来院したのと同じ月内に「実は労災でした」と申し出てくれた場合は、手続きは比較的簡単です。まだレセプトをどこにも提出していないからです。

  1. カルテの修正: 保険種別を「国保・社保」から「労災」に変更します。
  2. 会計の修正: 1点12円で再計算します。
  3. 差額の精算: 患者さんには、すでに支払った自己負担分(3割など)を全額返金します。
  4. 書類の受領: 様式第5号などの書類を受け取ります。

これで、翌月10日に通常の労災レセプトとして請求すれば完了です。このパターンが一番スムーズですので、初診時に受付で「これはお仕事中の怪我ではありませんか?」と一言確認する習慣をつけることが重要です。

レセプト提出後の修正手順(返戻・取り下げ)

問題は、月をまたいでしまい、すでに健康保険組合へレセプトを提出してしまった場合です。この場合は、以下の2つのステップを踏む必要があります。

  1. 健康保険への取り下げ依頼: まず、審査支払機関(支払基金や国保連合会)に対して、「間違えて請求してしまったので、レセプトを取り下げます(返してください)」という依頼を出します。
  2. 患者さんとの精算(難易度高): 厳密には、医療機関は一度「全額(10割分)」を労災として請求し直す必要があります。そのため、患者さんには以下の行動をお願いすることになります。
    • 患者さんが加入している健康保険組合へ連絡し、医療費(7割分)を返還してもらうよう伝える(※または医療機関が一度7割分を保険者へ返し、それを患者から回収するなど、運用が複雑になります)。
    • もっとも一般的な「病院側での対応」としては、「労災への切り替えが完了するまで一時的に自費(100%)で精算し直し、後日労災から入金があったら返す」か、あるいは「患者さんに一旦、医療費(7割分)を病院へ支払ってもらい、病院から健康保険組合へ返金する」という手続きをとります。

正直なところ、レセプト提出後の切り替えは、患者さんにとっても一時的な金銭負担や手続きの手間が発生し、非常にストレスがかかります。「返戻」や「取り下げ」の手続き中は病院への入金もストップしてしまいます。 こうした事態を防ぐためにも、初診時の問診で「原因」をしっかり確認することが、何よりも大切です。

知っておくべき「自費請求」の範囲とトラブル回避術

労災保険は手厚い制度ですが、すべての費用がカバーされるわけではありません。ここを誤解していると、患者さんとの間で「無料だと思っていたのに請求された」というトラブルになりかねません。

診断書料や特定療養費の扱い

労災保険の給付対象となるのは、あくまで「傷病の治療に必要な医療費」です。それ以外のものは、原則として患者さんの自己負担となります。

  • 診断書料: 会社に提出するための一般的な診断書代は、労災保険からは出ません。患者さんの自費になります。(※ただし、労災申請に必要な「様式第5号」などの証明書料は、事務手数料として労災で請求できます。一般の診断書とは区別してください。)
  • 特定療養費(差額ベッド代など): 患者さんの希望で個室に入った場合の差額ベッド代などは、労災の対象外です。これも患者さんの自費請求となります。
  • 松葉杖などの補装具: 治療上必要なものは労災対象になりますが、手続きが必要です。

これらの「自費になるもの」については、事前にしっかりと説明し、納得していただいた上で利用してもらうようにしましょう。

労災と認定されなかった場合のリスク管理

稀なケースですが、病院が労災として手続きを進めていたにもかかわらず、労働基準監督署の調査の結果、「これは労災とは認められない(業務との因果関係がない)」と判断されることがあります。

これを「不支給決定」と言います。 不支給となった場合、労災保険からは1円も支払われません。そうなると、病院は過去に遡って、診療費を請求し直さなければなりません。

  • 健康保険への切り替え: 患者さんに健康保険証を提示してもらい、健康保険扱いでレセプトを出し直します。
  • 自己負担分の回収: 患者さんから、本来支払うべきだった3割負担分を徴収します。

もし患者さんがすでに退職して連絡が取れなくなっていたりすると、この回収が非常に困難になります。 「労災認定が微妙かもしれない」と感じる事例(休憩時間の私的な行為中の怪我など)の場合は、安易に判断せず、労働基準監督署へ事前に相談するか、患者さんに「もし否認されたら健康保険扱いになります」と念書をもらっておく等のリスク管理が有効です。

まとめ

労災の病院側手続きは、一見複雑に見えますが、基本の型さえ身につければ決して恐れるものではありません。

最後に、重要なポイントを再確認しましょう。

  1. 指定医療機関かどうかの確認: 指定なら「現物給付(患者負担なし)」、非指定なら「現金給付(患者立替)」が基本です。
  2. 書類の使い分け: 業務災害は「5号」、通勤災害は「16号の3」、転院は「6号」です。これだけは暗記しましょう。
  3. レセプトのルール: 技術料は1点12円で計算し、毎月10日までに労働基準監督署へ請求します。初回は必ず「様式の原本」を添付してください。
  4. 切り替え対応: 健康保険から労災への変更は非常に手間がかかります。初診時に「仕事中の怪我ですか?」と聞く勇気が、未来のあなたを救います。

あなたの正確な事務処理は、怪我で不安な患者さんを支え、病院の経営を守る重要な役割を果たしています。このガイドを参考に、自信を持って労災対応に取り組んでください。一つひとつの手続きを丁寧に行えば、必ずスムーズに完了させることができます。

この記事の投稿者:

武上

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