会計の基礎知識

証憑とは?電子帳簿保存法・インボイス制度への実務対応とDX推進に付いて解説

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「証憑」の管理、特に2024年から本格化した電子データ保存の義務化に対し、漠然とした不安を抱えていませんか。日々の業務で受け取るPDFの請求書や領収書を「とりあえず印刷」しているものの、本当にこれで良いのか確信が持てないかもしれません。

本記事を読めば、その不安は解消されます。法対応の重荷から解放され、むしろこれを機に業務を効率化し、税務調査にも堂々と対応できる未来が手に入ります。

この記事では、多くの企業が誤解している電子帳簿保存法の「猶予措置」の本当の意味や、インボイス制度との致命的な関連性について、法的な根拠に基づき正確に解説します。法改正の背景にある本質を明らかにします。

高価なシステム導入が難しい場合でも、心配は不要です。まず何から手をつけるべきか、現実的なステップを具体的に提示します。この記事で示す手順を実行すれば、法改正への対応は「コスト」ではなく、自社の生産性を高める「投資」へと変わります。

目次

そもそも「証憑」とは?基本の定義と重要性を再確認する

ビジネスの現場では「証憑」という言葉が頻繁に使われます。しかし、その正確な定義や法的な重要性、対象範囲を正しく理解しているでしょうか。

多くの担当者が「領収書や請求書」といった経理書類のみをイメージしがちですが、実際にはその範囲ははるかに広大です。この認識のズレが、電子帳簿保存法などの法対応において、思わぬコンプライアンス違反を招く温床となります。まずは基本に立ち返り、証憑の本質を再確認します。

証憑が示す「取引の真実性」とは

証憑(しょうひょう)とは、ひとことで言えば「取引の事実を証明する書類」のことです。これは単なる紙切れやデータではなく、企業の経済活動を法的に裏付けるための根拠となります。

企業の経理業務や会計業務は、すべてこの証憑に基づいて行われます。例えば、経理担当者が「仕訳」(取引を会計帳簿に記録すること)を行う際、その根拠として必ず請求書や領収書を確認します。もし税務調査が入った場合、調査官は会計帳簿の記録が正しいかどうかを、これらの証憑と照合して確認します。

つまり、証憑は企業の売上や経費、お金の出入りといった経済活動の「真実性」を担保する、極めて重要な役割を担っているのです。

法律が定める証憑の4大分類(売上・仕入・雇用・その他)

証憑の範囲は、経理部門が扱う金銭の授受に関する書類だけに留まりません。ビジネスにおける証憑は、大きく4つのカテゴリーに分類されます。

売上に関する証憑

企業が商品やサービスを提供し、売上を上げるまでの一連のプロセスで発生する書類です。具体的には、契約書、見積書、納品書、請求書、領収書などが挙げられます。

仕入に関する証憑

商品やサービスを提供するために、他社から原材料や備品を仕入れる際に発生する書類です。例として、見積書、発注書、納品書、検収書、受領書などがあります。

雇用・人事に関する証憑

従業員の雇用や給与の支払いに関連する書類も、重要な証憑に含まれます。これらは直接金銭の授受に関わらないように見えるかもしれませんが、労務の事実を証明する根拠となります。

具体例としては、雇用契約書、業務委託契約書、履歴書、タイムカード、給与支払明細書、賃金台帳などが該当します。

その他の証憑

上記以外で、会社の経営や取引に関する重要な事実を証明する書類も証憑です。例えば、株主総会議事録、取締役会議事録、合意書、覚書などがこれにあたります。

このように、証憑は経理部門だけでなく、人事・労務部門や法務部門が扱う書類まで、幅広くカバーしています。電子帳簿保存法の対応を検討する際は、この全ての範囲を対象として捉える必要があります。

会社法と法人税法 2つの法律が定める「保存期間」の違い

証憑は、作成したり受け取ったりした後、法律で定められた期間、適切に保存する義務があります。この保存期間は、主に「会社法」と「法人税法」という2つの異なる法律によって定められており、これが実務を複雑にする要因となっています。

法人税法が定める期間(原則7年)

主に税務計算の根拠となる書類が対象です。法人税法では、帳簿書類の保存期間を原則として7年間と定めています。対象となる書類には、契約書、注文書、領収書、見積書、納品書などがあります。

会社法が定める期間(原則10年)

主に会社の組織運営や財産状況に関する重要な書類が対象です。会社法では、これらの書類の保存期間を10年間と定めています。決算書(貸借対照表、損益計算書など)や、株主総会議事録、取締役会議事録などが該当します。

実務上、7年保存の書類(法人税法)と10年保存の書類(会社法)を厳密に仕分けして管理することは、非常に煩雑であり、誤廃棄のリスクを伴います。したがって、多くの企業では、コンプライアンス上の安全策として、社内ルールを「すべての証憑を10年間保存する」と統一する方法を採用しています。

法人・個人事業主(青色/白色)別の必須保存期間

法的な保存期間は、法人のみならず個人事業主にも適用されます。特に個人事業主の場合は、青色申告か白色申告かによって期間が異なるため注意が必要です。

以下に、主な証憑の対象者別・法定保存期間をまとめます。

書類の種類根拠法法人個人事業主(青色申告)個人事業主(白色申告)
決算関係書類 (貸借対照表、損益計算書など)会社法・法人税法10年間7年間5年間
議事録 (株主総会、取締役会)会社法10年間該当なし該当なし
会計帳簿 (仕訳帳、総勘定元帳など)会社法・法人税法10年間7年間5年間(任意帳簿)
取引に関する証憑 (契約書、領収書、請求書など)法人税法7年間7年間5年間
雇用に関する証憑 (タイムカード、賃金台帳など)労働基準法・法人税法7年間7年間5年間

※雇用・労務関連書類の保存期間は労働基準法など複数の法律が関わりますが、税務上の証憑としては法人税法等に準じて整理しています。

この一覧からも分かる通り、保存期間は複雑に分かれています。前述の通り、法人の場合はリスク管理の観点から「10年」に統一することが、最もシンプルかつ安全な運用と言えます。

2024年、証憑管理の常識が変わる 電子帳簿保存法とインボイス制度の直撃

近年、「証憑」の管理がこれほどまでに注目を集めているのには、明確な理由があります。それは、「電子帳簿保存法」の大改正と「インボイス制度」の開始という、2つの大きな法改正が同時に進んでいるためです。

これら2つの制度は、単に同時期に始まった面倒な対応というだけではありません。実務上、この2つは密接に連動しており、片方の対応不備がもう一方のコンプライアンス違反、さらには直接的な金銭的損失に直結する危険性をはらんでいます。なぜ今、証憑管理の変革が求められているのか、その核心を解説します。

最大の変化 電子取引データの紙保存が原則禁止に

2024年1月1日から、証憑管理に関するルールが根本的に変わりました。最大の変更点は、「電子取引データ」の保存義務化です。

電子取引とは

電子取引とは、メールで受け取ったPDFの請求書、Webサイトからダウンロードした領収書、EDI(電子データ交換)システムでの取引情報など、紙を介さずにデータでやり取りされるすべての取引を指します。

義務化による変更点

これまでは、これらの電子データを紙に印刷して保存する方法が、例外的に認められていました(これは「宥恕措置(ゆうじょそち)」と呼ばれます)。

しかし、この宥恕措置は2023年12月31日をもって完全に廃止されました。その結果、2024年1月1日以降は、電子取引で受領した証憑は、必ず電子データのまま、法律の要件(後述)を満たして保存しなければならなくなったのです。

この義務化は、大企業だけでなく、中小企業や個人事業主を含む「すべての事業者」が対象となります。この変更を知らずに、従来通り「PDFを印刷して原本として保存し、元のデータは削除する」という運用を続けていると、法律違反となるリスクがあります。

電子帳簿保存法が要求する3つの保存区分とは?

この大きな変化をもたらした「電子帳簿保存法(通称:電帳法)」は、証憑や帳簿の保存方法を3つの区分に分けて定めています。このうち、すべての事業者に影響するのが3つ目の「電子取引データ保存」です。

電子帳簿等保存(任意)

自社が会計ソフトなどで最初から一貫して電子的に作成した帳簿(仕訳帳、総勘定元帳など)や書類(決算書など)を、紙に出力せずデータのまま保存する方法です。これは希望者のみが選択できるもので、義務ではありません。

スキャナ保存(任意)

取引先から「紙」で受け取った領収書や請求書を、スマートフォンやスキャナで読み取り、電子データとして保存する方法です。原本の紙を破棄できるメリットがありますが、これも希望者のみが選択できるもので、義務ではありません。

電子取引データ保存(義務)

前述の通り、メールやWebなどを通じて「データ」で受け取った(または送付した)取引情報を、電子データのまま保存する方法です。この区分のみが、2024年1月からすべての事業者に対して義務化されました。

インボイス制度が求める「適格請求書」も証憑である

同時期に始まった「インボイス制度(適格請求書等保存方式)」も、証憑管理に大きな影響を与えています。

インボイス制度下において、事業者が消費税の「仕入税額控除」(支払った消費税を、納める消費税額から差し引くこと)の適用を受けるためには、原則として要件を満たした「適格請求書(インボイス)」という証憑を保存することが必須となりました。

この適格請求書の保存期間は、法人税法などに準じて原則7年間と定められています。

なぜ電子データ保存が義務化されたのか(電帳法とインボイスの連動)

ここで、電子帳簿保存法とインボイス制度がどのように連動するのか、その重要な関係性を説明します。

インボイス制度では、適格請求書を紙で交付する代わりに、電子データ(いわゆる「電子インボイス」)で提供することが認められています。多くの企業が、業務効率化のために請求書をPDF化してメールで送付するようになりました。

ここに、2つの法律が交差するポイントがあります。取引先から「電子インボイス」をデータ(例:PDF)で受け取った場合、それはインボイス制度における「保存すべき証憑」であると同時に、電子帳簿保存法における「電子取引データ」にも該当します。

つまり、電子インボイスを受け取った事業者は、電子帳簿保存法の要件(電子データのまま保存する義務)に従って、そのデータを保存しなければならないのです。

この連動関係を見落とすと、非常に深刻な事態を招きます。例えば、受け取った電子インボイスを電帳法の要件を満たさずに保存(または削除)してしまった場合、それは「電帳法違反」であると同時に、「インボイス制度における証憑の保存義務違反」とみなされる可能性があります。

その結果、仕入税額控除が否認され、本来支払う必要のなかった多額の消費税を納付しなければならなくなるリスクに直結するのです。

証憑の電子化対応は、単なる「税務署に怒られる」というコンプライアンスの問題ではなく、「余計な税金を払う」という直接的な金銭的損失を回避するための、経営上の重要課題となっています。

新「猶予措置」の適用要件 「相当の理由」があれば紙保存できるのか?

2024年1月からの電子取引データの保存義務化に関して、「猶予措置(ゆうよそち)」という言葉を耳にしたことがあるかもしれません。この猶予措置の存在が、「まだ準備ができていなくても大丈夫」「今まで通り紙で保存すればよい」といった誤解を生む最大の要因となっています。

しかし、この猶予措置は「何もしなくてよい」という免罪符では決してありません。その適用要件と、適用されたとしても残る「義務」を正しく理解しなければ、気づかないうちに法律違反を犯すことになります。ここでは、読者が最も知りたい、そして最も誤解している「猶予措置」の真実を徹底的に解説します。

廃止された「宥恕措置」と新設された「猶予措置」の決定的な違い

まず、言葉の整理が非常に重要です。2023年末までに使われていた言葉と、2024年以降に使われる言葉は、意味が全く異なります。

宥恕措置(2023年12月31日で廃止)

これは、「やむを得ない事情」があれば、電子取引データを紙に印刷して保存することを例外的に認める、という時限的な特例でした。この措置はすでに廃止されています。

猶予措置(2024年1月1日から適用)

これは、2024年1月以降に適用される「新しい」措置です。宥恕措置とは内容が大きく異なります。

猶予措置の適用要件 「相当の理由」の具体的な中身とは

新しい「猶予措置」は、以下の2つの要件を両方とも満たす場合に適用されます。

一つ目は、電子取引データの保存要件(検索機能の確保など)に従って保存することができない「相当の理由」があると、所轄の税務署長が認めることです。

二つ目は、税務調査の際に、電子取引データの「ダウンロードの求め」に応じることができるようにしていることです。

ここで言う「相当の理由」とは、比較的柔軟に認められるとされています。国税庁の資料では、以下のようなケースが例示されています。

例えば、電子データを保存するためのシステムや、社内の業務フロー(ワークフロー)の整備が間に合わないケースが挙げられます。また、システムやワークフローはあるものの、資金繰りの悪化や人手不足といった理由で、対応できる体制が整わない場合も含まれます。

重要な点として、この猶予措置を受けるために事前の申請や届出は一切不要です。税務調査の際に、上記の「相当の理由」を合理的に説明できればよいとされています。

猶予措置の「落とし穴」 税務調査で求められる2つの義務

多くの事業者が「ウチも人手不足だから『相当の理由』がある。だから猶予措置が使える」と安心しがちです。しかし、この猶予措置の本当の「落とし穴」は、たとえ適用が認められたとしても、以下の2つの義務からは逃れられない点にあります。

義務1 電子データの「ダウンロードの求め」に応じる

これは、税務調査官から「該当の電子データをください」と言われた際に、そのデータを(例えばUSBメモリなどにコピーして)提出できなければならない、という意味です。

義務2 「出力書面」の提示・提出の求めに応じる

電子データを紙に印刷したものを提示・提出する義務も残ります。この際、書面は「整然とした形式」かつ「明瞭な状態」(=誰が読んでも分かるように整理されている状態)で出力されている必要があります。

結論 猶予措置は「何もしなくてよい」免罪符ではない

上記の2つの義務を読み解けば、猶予措置の本質が明らかになります。猶予措置が免除してくれるのは、あくまで電子帳簿保存法が求める「検索機能の確保」(日付・金額・取引先でデータを検索できるようにすること)などの高度な保存要件だけです。

けっして、「電子データそのものを保存しなくてよい」という意味ではありません。

税務調査で「ダウンロードの求め」に応じるためには、大前提として、受け取った請求書PDFなどの電子データが、社内のサーバーやPCに確実に保存されていなければなりません。

もし、「猶予措置があるから」と安心して、従来通り「PDFを紙に印刷し、元の電子データは削除する」という運用を続けていた場合、どうなるでしょうか。税務調査で「元のデータをダウンロードさせてください」と言われた瞬間に、対応不能となります。これは猶予措置の適用要件(義務1)を満たしていないため、即座に法律違反とみなされることになります。

したがって、たとえシステム導入が間に合わず猶予措置に頼る場合でも、すべての事業者が最低限(=ゼロコストで)実行しなければならない義務は、「受け取った電子データを、決して削除せずに保存し続けること」なのです。

「証憑DX」実践ガイド 猶予措置に頼らないための具体的な4ステップ

前章で解説した通り、「猶予措置」は恒久的な解決策にはなりません。電子データをただ保存し続けるだけでは、税務調査のたびに膨大なデータの中から手作業で必要な書類を探し出すことになり、業務効率は著しく低下します。

法改正への対応は、単なる「守り」のコンプライアンス(法令遵守)として捉えるべきではありません。これは、証憑管理というアナログな業務プロセス全体を見直し、デジタル化(DX)を進める絶好の機会です。ここでは、猶予措置に頼る状態から脱却し、恒久的な法対応と業務効率化を両立させるための、具体的な4つのステップを解説します。

ステップ1 自社の「電子取引」をすべて洗い出す

まず、自社にどのような「電子取引」が存在するのか、その全体像を正確に把握する必要があります。多くの企業が「経理部門が受け取る請求書PDF」のみを対象と考えがちですが、証憑の範囲はもっと広いことを思い出してください。

以下の例を参考に、各部門にヒアリングを行い、電子取引を漏れなく洗い出します。

経理部門

経理部門では、取引先からメールの添付ファイル(PDFなど)で受領する請求書・領収書や、Amazonや楽天などのECサイトからダウンロードする領収書が該当します。クレジットカードの利用明細データなども対象です。

営業・購買部門

営業・購買部門では、Web-EDIシステムを通じてやり取りする発注書・納品書や、メールで送付する見積書・契約書の控えなどが考えられます。

人事・総務部門

人事・総務部門では、電子契約サービスで締結した雇用契約書・業務委託契約書や、Web上で申請・承認される経費精算データ(交通費など)も電子取引に含まれます。

この洗い出しを行うことで、法対応の対象範囲が明確になります。

ステップ2 保存要件(真実性・可視性)を理解する

電子取引データを保存する際、法律(電子帳簿保存法)は大きく2つの要件を満たすことを求めています。

真実性の確保

保存されたデータが、後から改ざんされていないことを証明するための措置です。

可視性の確保

保存したデータを、税務調査などで必要な時にすぐに見つけ出し、表示できるようにするための措置です。

具体的には、「真実性の確保」のためにタイムスタンプの付与や訂正削除履歴が残るシステムの利用、「可視性の確保」のために日付・金額・取引先での検索機能の整備などが求められます。

ステップ3 保存方法を決定する(システム導入 or 事務処理規程)

ステップ2で挙げた厳格な要件を満たすためには、実務上、2つの選択肢(パス)があります。

方法A 電子帳簿保存法対応システムを導入する(推奨)

これが最も安全かつ効率的な方法です。市場には、電子帳簿保存法の法定要件を満たすように設計された多くのシステム(経費精算システム、文書管理システム、会計ソフトなど)が存在します。

タイムスタンプの自動付与、検索機能、訂正削除履歴の保持など、法定要件を自動でクリアできる点がメリットです。法対応の負担を最小限にし、ペーパーレス化による業務効率化(DX)を実現できます。一方で、初期導入費用や月額の運用コストが発生する点がデメリットです。

方法B 事務処理規程で対応する(最低限)

高価なシステムの導入が難しい中小企業のために、コストをかけずに「真実性の確保」要件を満たす方法も用意されています。それは、「事務処理規程」を社内で整備し、そのルールに沿って運用する方法です。

国税庁が公開しているサンプルなどを参考に、「電子データの訂正及び削除を原則禁止する」「やむを得ず訂正削除する場合は、その理由や履歴を記録する」といった内容を規程として定めます。

この方法のメリットは、システム導入コストがかからない点です。しかし、デメリットとして、データの保存や管理(例:ファイル名の変更、フォルダ分け)をすべて手作業で行う必要があります。そのため、業務負担が大幅に増加し、入力ミスや保存漏れといったヒューマンエラーが発生しやすくなるという重大な欠点があります。

自社のリソースや取引量、目指す姿(法対応の最低限クリアか、業務効率化か)を考慮し、どちらのパスを選択するかを決定する必要があります。

(参考)自社に最適な証憑管理システムを選定するポイント

もし方法A(システム導入)を選択した場合、自社に最適なシステムを選定することが重要です。以下のポイントを比較検討します。

法定要件への対応

タイムスタンプ機能、検索機能、改ざん防止(訂正削除履歴)など、電帳法の要件に完全に対応しているかを確認します。

既存システムとの連携

現在使用している会計ソフトやERP(基幹システム)、販売管理システムなどとデータをスムーズに連携できるかは、二重入力を防ぎ生産性を向上させる上で非常に重要です。

操作性(使いやすさ)

経理担当者だけでなく、現場の従業員(営業担当など)も使用する場合、直感的な操作が可能か、モバイル(スマートフォン)に対応しているかは、社内浸透の鍵となります。

コスト

初期導入費用だけでなく、月額の利用料、追加費用(ユーザー数やデータ容量ごと)などを総合的に評価します。経済産業省などが提供するIT導入補助金の活用も検討します。

ステップ4 社内規程の作成と周知徹底

ステップ3で方法B(事務処理規程)を選んだ場合はもちろん、方法A(システム導入)を選んだ場合でも、社内ルールの整備は必須です。

システムを導入しても、従業員が勝手な方法でデータを保存したり、紙の原本を廃棄してしまったりしては意味がありません。

規程に盛り込むべき主な内容

規程には、目的と適用範囲、データ管理の責任者を明記します。また、ステップ1で洗い出した電子取引の具体的な範囲、データの保存場所、保存期間(例:10年)も定めます。

さらに、具体的な保存手順(システム利用方法、ファイル名の命名規則など)や、スキャナ保存を行う場合の紙の原本の廃棄に関するルールなども盛り込む必要があります。

作成した規程やマニュアルは、必ず全従業員に対して説明会を開くなどして周知徹底し、運用を開始します。法対応は、経理部だけではなく全社的な取り組みであることを意識させることが成功の秘訣です。

まとめ 証憑管理の最適化は未来の経営を守る「守り」と「攻め」のDXである

本記事では、「証憑」というキーワードを入り口に、その背景にある電子帳簿保存法とインボイス制度への実務対応について、専門家の視点から網羅的に解説しました。最後に、企業が今すぐ取るべき行動指針として、重要なポイントを再確認します。

要点1 「証憑」の再定義

証憑とは、単なる領収書や請求書ではありません。取引の真実性を示す全ての書類、すなわち経理書類から雇用契約書、議事録までが含まれます。法対応の対象範囲を正しく認識することが第一歩です。

要点2 保存期間の最適解

証憑の保存期間は、法人税法(7年)と会社法(10年)の定めが混在しています。管理ミスのリスクを回避し、コンプライアンスを確実にするための実務上の最適解は、社内ルールを「10年保存」で統一することです。

要点3 電帳法とインボイス制度の連動

2つの法律は密接に連動しています。特に「電子インボイス」の保存不備(電帳法違反)は、そのままインボイス制度上の証憑保存義務違反とみなされ、仕入税額控除が否認される(=余計な消費税を納付する)という直接的な金銭的損失に直結するリスクがあります。

要点4 「猶予措置」の真実

2024年1月からの「猶予措置」は、「何もしなくてよい」という免罪符ではありません。検索機能などの高度な要件が免除されるだけであり、「電子データそのものの保存」と「税務調査時のダウンロードの求めに応じる義務」は残ります。データを削除して「紙だけ保存」する運用は、猶予措置の要件すら満たしておらず、極めて危険です。

要点5 次なる一手(守りと攻め)

法改正への対応は、2つの側面を持っています。1つは、罰則や金銭的損失を回避するための「守り」のコンプライアンスです。これは、事務処理規程の整備によって最低限達成できます。

もう1つは、これを機にアナログな証憑管理プロセス全体をデジタル化し、生産性を向上させる「攻め」のDX(デジタルトランスフォーメーション)です。

猶予措置に甘んじ、手作業での管理(守り)を続けることは、長期的には業務負担を増やし、企業の競争力を削ぐことになります。今こそ、証憑管理の電子化・システム化(攻め)に舵を切り、法対応を経営の力に変える時です。自社の状況を把握し、最適なステップから直ちに実行に移すことが求められます。

この記事の投稿者:

垣内

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