
迷いやすい通信費の「どれに該当する?」を税理士が徹底解説。
通信費の勘定科目に迷う時間をゼロにし、税務調査で指摘される不安から解放されませんか?経費として認められる範囲を正しく理解すれば、節税効果を最大化し、経理業務の効率を劇的に改善できます。
この記事では、税理士が実務で使う「通信費」の定義から、スマホ本体代やサーバー代といった迷いやすい費用の仕訳例まで、具体的なケーススタディを網羅的に解説します。
「家事按分」や「電子帳簿保存法」といった複雑なルールも、個人事業主の方が今日から一人で実践できるよう、シンプルな手順に分解して説明します。経理が苦手な方でも問題ありません。
目次
通信費とは? 勘定科目の基本的な定義と範囲
「通信費」とは、事業運営において、情報の伝達やコミュニケーションのために支出される費用を指す勘定科目です。電話や郵便、インターネットに関連する費用がこれに該当します。
まずは、何が通信費になり、何がならないのか、その基本的な範囲を明確にします。
通信費に該当する費用の具体例
以下の費用は、一般的に通信費として処理されます。
電話・インターネット関連
- 固定電話、携帯電話(スマートフォン)の月額基本料金や通話料
- インターネット回線の利用料(光回線、Wi-Fiなど)
- インターネットサービスプロバイダ(ISP)料金
郵便関連
- 業務上の書類(請求書、契約書など)を送付するための切手代やはがき代
- 電報料金(業務関連のもの)
放送・情報関連
- 事業所や店舗で、業界情報の収集やニュース確認のために設置したテレビの視聴料(NHK受信料など)
- 有線放送料金(業務に必要な場合)
特に「NHK受信料」は見落とされがちです。事業所でテレビを情報収集ツールとして使っている実態があれば、それは「情報伝達(受信)」の一環として通信費に計上できます。
通信費に該当しない費用の具体例
一方で、以下のような支出は「通信費」には該当しません。
物品の購入
電話機本体、スマートフォン本体、Wi-Fiルーターなどの機器は該当しません。これらは原則として「消耗品費」または「工具器具備品」(資産)として処理します。
物品の配送
顧客へ商品を発送するための配送料も該当しません。これは「荷造運賃費」という別の勘定科目になります。
目的が異なる支出
取引先への慶弔(お祝いやお悔やみ)のために送る電報も異なります。これは「交際費」として処理するのが適切です。
基本原則は、「通信費」はサービスの対価であり、モノ(資産)の購入や、目的が異なる支出とは明確に区別される、という点です。
ケース別 この費用は通信費? 迷いやすい勘定科目の仕訳ガイド

日常の経理業務では「これは通信費か、それとも他の科目か」と迷う場面が多くあります。勘定科目を決定する最も重要な要因は、支出の「目的」です。
ここでは、特に混乱しやすい「グレーゾーン」の支出について、明確な分類基準と具体的な仕訳例を解説します。
通信費と消耗品費 スマホ本体やルーターの購入
最も多い間違いが、月々の「利用料」と「本体代」の混同です。
- 通信サービス(月額料金)は通信費
- 通信機器(本体)は通信費ではない
機器本体の購入は、その取得価額によって処理が異なります。
10万円未満の場合(消耗品費)
取得価額が10万円未満のスマートフォンやルーターは、「消耗品費」として、購入した年に全額を経費計上できます。スマートフォンの保護ケースや充電器といった周辺アクセサリーも消耗品費で処理します。
仕訳例 8万円のスマートフォン(事業用)を現金で購入した。
借方 金額 貸方 金額
消耗品費 80,000 現金 80,000
10万円以上の場合(工具器具備品・固定資産)
取得価額が10万円以上の場合は、「工具器具備品」などの固定資産として資産計上します。
資産計上した費用は、購入した年に全額を経費にできず、「減価償却」という手続きを通じて、法定耐用年数(例 スマートフォンは機種によりますが、PCと同様の扱いも可)にわたって分割して経費化します。
仕訳例 12万円のスマートフォン(事業用)を普通預金から購入した。
借方 金額 貸方 金額
工具器具備品 120,000 普通預金 120,000
専門家のアドバイス 中小企業の特例
青色申告をしている個人事業主や中小企業の場合、「少額減価償却資産の特例」を使える可能性があります。
この特例を適用すると、10万円以上30万円未満の資産についても、消耗品費と同様に、購入した年に全額を経費として計上できます(年間合計300万円まで)。
これは節税効果が非常に大きいため、高額なPCやスマホを購入した際は、必ず顧問税理士に相談してください。
通信費と荷造運賃費 切手代や配送料の取り扱い
ここでも「目的」が重要です。「何を」送ったかで勘定科目が変わります。
- 請求書、契約書、見積書などの「信書・書類」を送付する場合は通信費
- 顧客への納品物などの「商品」を発送する場合は荷造運賃費
切手代の原則処理(貯蔵品)と例外処理
切手代は、初心者が特に混乱する論点です。
原則(厳密な処理)は、切手は購入時に「貯蔵品」(資産)として計上します。そして、請求書送付などで使用した分だけを「通信費」に振り替えます。
例外(実務的な処理)は、多くの企業では、事務の簡便化のため、切手を購入した時に全額を「通信費」として費用処理しています。
例外的な処理(購入時に費用化)は、税務上も継続して適用していれば認められます。ただし、この方法を採用した場合、期末(決算時)に注意が必要です。
期末に未使用の切手が大量に残っている場合、その未使用分は、その期の経費ではなく「資産」として扱わなければなりません。そのため、決算整理仕訳として「通信費」から「貯蔵品」へ振り替える処理が必要になります。
仕訳例(例外処理 期末振替) 切手を購入時に「通信費」として処理していたが、期末に1,680円分の未使用切手が残っていた。
借方 金額 貸方 金額
貯蔵品 1,680 通信費 1,680
通信費と支払手数料、広告宣伝費 サーバー代・ドメイン代
Webサイトの運営に欠かせないサーバー代やドメイン代も、勘定科目に迷う費用です。関連する勘定科目として「通信費」「広告宣伝費」「支払手数料」の3つが挙げられます。
ここでも、「サーバーの利用目的」によって使い分けるのが合理的です。実務上は、以下の基準で分類します。
通信費
サーバーの目的が、社内のファイル共有、メール送受信、テスト環境の構築など、内部的なインフラとして利用する場合です。これはインターネット利用料の延長とみなせます。
広告宣伝費
サーバーの目的が、コーポレートサイトやECサイトの運営など、不特定多数の外部に向けて公開し、会社の宣伝や商品の販売に使う場合です。サーバー代は、Webサイトという「広告塔」を維持するための費用とみなせます。
支払手数料
サーバー代そのものではなく、ドメインの取得・更新費用やSSL証明書の費用です。これらは技術的なサービス利用というより、登録機関や認証局に支払う「管理手数料」の性質が強いため、「支払手数料」が適切です。
最重要アドバイス
これらの分類は絶対的なものではありません。最も重要なのは、一度決めた勘定科目を、合理的な理由なく変更しないことです(継続性の原則)。
その他(NHK受信料・SaaS利用料・電子新聞)の取り扱いは?
NHK受信料
前述の通り、事務所や店舗での情報収集目的であれば「通信費」として計上可能です。
SaaS利用料(例 Zoom、会計ソフト)
これも「目的」で分類します。
- Zoom, Slackなど(コミュニケーションツール)は通信費
- 会計ソフト (freee, マネーフォワードなど) は支払手数料 または 諸会費
- Salesforceなど(営業支援ツール)は支払手数料 または 販売促進費
電子新聞
紙の新聞が「新聞図書費」であるため、媒体がデジタルに変わっても、その目的(情報購読)は変わりません。したがって「新聞図書費」が適切です。
「インターネットを使うから通信費」という判断は誤りです。
勘定科目ナビゲーター 「通信費」になる?ならない?
これまでの複雑な分類を一覧表にまとめます。経理処理で迷った際の「答え」として活用してください。
| 支出項目 | 勘定科目 | 処理のポイント |
| スマホ本体 (8万円) | 消耗品費 | 10万円未満は購入時に全額経費 |
| スマホ本体 (12万円) | 工具器具備品 | 10万円以上は固定資産。減価償却が必要 |
| スマホ修理代 (8,000円) | 修繕費 | 資産の価値を高めない、単なる現状維持のため |
| 月々のスマホ利用料 | 通信費 | サービスの対価。ただし家事按分に注意 |
| LAN工事費 (8万円) | 消耗品費 | 10万円未満の設備工事(少額資産) |
| LAN工事費 (12万円) | 固定資産 (建物附属設備など) | 10万円以上は固定資産。減価償却が必要 |
| サーバー代 (社内ファイル共有) | 通信費 | 内部インフラとしての利用 |
| サーバー代 (ECサイト運営) | 広告宣伝費 | 不特定多数への公開・販売目的 |
| 切手 (請求書送付) | 通信費 | 信書の送付のため |
| 切手 (商品発送) | 荷造運賃費 | 物品の配送のため |
| NHK受信料 (事務所) | 通信費 | 事業上の情報収集目的 |
| 慶弔電報 (取引先へ) | 交際費 | 社外の相手先への慶弔のため |
| SaaS (Zoom) | 通信費 | コミュニケーションインフラのため |
個人事業主・フリーランス必見「家事按分」の完全ガイド
自宅兼事務所で仕事をする個人事業主(フリーランス)にとって、通信費の経費計上で最も重要なのが「家事按分(かじあんぶん)」です。
なぜ家事按分が必要なのか?
家事按分とは、自宅の家賃や光熱費、そして通信費のように、プライベート(家事)と事業で共用する費用について、事業で使用した割合分だけを切り出して経費計上する手続きです。
税務上、経費として認められるのは事業に必要な支出部分だけです。この按分が「合理的」な基準で行われていないと、税務調査で経費として認められない(否認される)リスクがあります。
合理的な按分基準の決め方(具体例)
「合理的」とは、税務署に「なぜこの割合にしたのか」を客観的に説明できる基準を指します。通信費の場合、以下のような基準が一般的です。
具体例1 使用時間(推奨)
1日のうち、事業で何時間インターネットや電話を使っているかに基づく方法です。
計算例 1日8時間、週5日(月22日)事業で使用。平日は平均16時間起きていると仮定。
- (A) 平日の事業使用割合 8時間 / 16時間 = 50%
- (B) 休日の事業使用割合 0%
月間の事業使用割合 (50% × 22日 + 0% × 8日) / 30日 ≒ 36.7%
具体例2 使用日数
1ヶ月のうち、事業で何日間使用したかに基づく方法です。
計算例 1ヶ月のうち、事業で20日間使用。
事業使用割合 20日 / 30日 ≒ 67%
どちらの基準を選んでも構いませんが、(1) 一度決めた基準を毎期継続して適用する、(2) なぜその基準(時間や日数)にしたのかを説明できるメモを残しておく、ことが税務調査対策として非常に重要です。
家事按分の具体的な仕訳方法(通信費と事業主貸)
按分計算ができたら、仕訳を行います。このとき、プライベートの支出分を経費から除くために「事業主貸(じぎょうぬしかし)」という勘定科目を使います。
これは、個人事業主が事業用の資金をプライベートな用途に使った場合に登場する科目です。
仕訳例 インターネット代10,000円が事業用口座から引き落とされた。家事按分の結果、事業使用割合は60%(=事業分6,000円、私用分4,000円)とする。
借方 金額 貸方 金額
通信費 6,000 普通預金 10,000
事業主貸 4,000
この仕訳により、経費(通信費)には事業分の6,000円だけが計上されます。私用分の4,000円は「事業主が個人的に使ったお金」として、経費とは明確に区別されます。
最重要 通信費と法改正 経理担当者が今すぐ対応すべき2つのこと

「通信費の勘定科目」を調べる本当の動機は、単なる分類ではなく、近年の法改正への対応という差し迫った不安にあることが多いです。
なぜなら、通信費は現代の経理実務における最大の課題、「電子帳簿保存法」と「インボイス制度」の2つが交差する、最も代表的な経費だからです。
NTTやKDDIなどの通信キャリアからの請求書は、現在ほぼ100%が「Web明細(PDF)」で発行されます。この「Web明細」をどう扱うかが、二大法改正をクリアするための試金石となります。
1. 電子帳簿保存法 Web明細(PDF)の正しい保存方法
2024年1月から、メールやWebサイト経由で受け取った請求書(PDFなど)は、「電子取引データ」として扱われます。
重要なのは、これらのデータを紙に印刷して保存する方法は、もはや原則として認められないということです。受け取ったデータのまま、特定の要件を満たして保存することが「義務」となりました。
この「特定の要件」とは、大きく分けて「真実性の確保」と「可視性の確保」の2つです。
個人事業主でも簡単な「真実性の確保」の方法
「真実性の確保」とは、「そのファイルが改ざんされていないこと」を証明するルールです。
高価なタイムスタンプ付与システムや、訂正削除履歴が残る会計システムを導入する必要はありません。
個人事業主や中小企業にとって最も簡単でコストのかからない解決策は、「事務処理規程」を作成し、備え付けることです。
これは、「当社は正当な理由なくデータを訂正・削除しません」といった社内ルールを定めたWordファイルのようなものです。国税庁がサンプルを公開しており、それを利用すればコストゼロで要件を満たせます。
個人事業主でも簡単な「可視性の確保」の方法
「可視性の確保」とは、(1) PCやプリンタなどを備え付け、(2) 税務調査の際にデータをすぐに見つけられるよう「検索機能」を確保することです。
これも専用のシステムは不要です。国税庁は、以下の2つの簡易的な方法を認めています。
方法1(推奨) 規則的なファイル名を付す
ダウンロードしたWeb明細(PDF)のファイル名を、規則的に変更して保存します。
例 「20241031_5500_NTTドコモ.pdf」
このように「日付_金額_取引先」のルールで命名します。
これにより、PCのフォルダ検索機能(エクスプローラーなど)で「NTTドコモ」や「2024年10月」と検索するだけで、税法上の「検索機能の確保」の要件を満たします。
方法2 索引簿(Excel台帳)の作成
ファイル名は「001.pdf」「002.pdf」のような連番にし、別途Excelで「日付・金額・取引先・ファイル名」の一覧表(索引簿)を作成する方法です。
専門家の視点では、方法1(ファイル名のリネーム)が最も手軽で間違いがないため、強く推奨します。
2. インボイス制度 通信キャリアの「適格請求書」
通信費は、消費税の「仕入税額控除」を受けるために、毎月必ず保存が必要な請求書です。控除を受けるためには、インボイス制度に対応した「適格請求書」でなければなりません。
KDDI、NTTドコモ、NTT西日本といった大手キャリアは、当然ながらWeb明細を適格請求書として発行しています。
Web明細に、KDDI「T901…」やドコモ「T101…」といった「T」から始まる登録番号が記載されていることを確認しましょう。
実務上の罠 複数PDFの保存
ここで一つ、実務上の大きな注意点があります。
キャリアによっては、適格請求書が1枚のPDFで完結していない場合があります。
例えば、「請求書(鑑)」「料金内訳書」「口座振替のお知らせ」など、複数の書類(PDF)を組み合わせて初めて、インボイスの要件(登録番号、税率ごとの消費税額など)をすべて満たす仕様になっていることがあります。
もし「請求書」と書かれた1枚目のPDFだけを保存し、税額が記載された「内訳書」を保存していなければ、インボイスの保存要件を満たさないと判断され、仕入税額控除が否認されるリスクがあります。
必ず自身が契約するキャリアのWebサイトを確認し、「どの書類を保存すれば適格請求書となるのか」を正確に把握し、必要な書類をすべてセットで保存してください。
補足 媒介者交付特例について
請求書に「媒介者交付特例」という記載があっても、混乱する必要はありません。
これは、例えばドコモがNTTの電報料を代わりに請求する場合などに使う制度で、請求書を受け取る側(読者)が何か特別な対応をする必要は一切ありません。
まとめ 通信費の勘定科目を正しく処理するためのチェックリスト
最後に、通信費の経理処理で迷わないための実務的なチェックリストをまとめます。
チェック1 範囲の確認
その支出は「情報の伝達・受信」のためか?(電話、ネット、業務上の書類郵便、情報収集用のテレビか?) YESなら通信費です。
チェック2 資産の確認
その支出は「機器本体」や「設備工事」か? YESなら10万円の基準を確認します。10万円未満なら消耗品費、10万円以上なら工具器具備品(資産計上)です。
チェック3 目的の確認
その支出の目的は「商品の発送」(荷造運賃費)や「広告宣伝」(広告宣伝費)、「取引先への慶弔」(交際費)ではないか? YESなら目的別の勘定科目を使用します。
チェック4 家事按分の確認 (個人事業主のみ)
その支出はプライベートと共用か? YESなら「合理的(時間や日数)」な基準で按分計算し、「事業主貸」を使って仕訳します。
チェック5 電子帳簿保存法の確認
請求書はWeb明細(PDF)か? YESなら紙印刷せず、データで保存します。
(A) 「事務処理規程」を準備します。
(B) ファイル名を「20241031_5500_NTT.pdf」のように変更して保存します。
チェック6 インボイス制度の確認
仕入税額控除の対象か? YESなら適格請求書の要件を満たす全ての書類(PDF)が揃っているか、キャリアのHPで確認し、セットで保存します。



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