会社における決算期・事業年度は、申告書の提出や納税のタイミングと関わりがあります。本記事では、決算期・事業年度の意味や定め方、変更方法などについてわかりやすく解説します。
目次
決算期と事業年度の意味
会社を経営する上では、1年間の間にいくら利益が発生し、資産がどのくらい残っているのか明らかにする必要があります。利益や資産をはじめとする経営状況は株主や取引先などに公開したり、法人税などの税金を決定したりする際に使われます。
経営状況を明らかにするために必要なのが、決算や事業年度という概念です。次項から詳しく解説します。
決算とは?
1年間における損益や、会社が保有する資産・負債などの状況を確定させることを決算と言います。決算では、会社の資産や負債などの状況がわかる「貸借対照表」や、収益や費用の合計額がわかる「損益計算書」をはじめとする決算書を作成します。
決算書を作成した後は、株主総会で株主に公開して承認を受ける他、税務署に申告して支払うべき税額を確定させます。
決算は通常、事業年度と呼ばれる1年間を区切りとして行います。事業年度における最後の日を決算日と呼び、最後の月を決算月、もしくは決算期と呼びます。例えば、4月1日から3月31日までを区切りとする場合には、3月31日を決算日、3月を決算月もしくは決算期と呼びます。
事業年度とは?
決算のために設置する1年間の区切りを事業年度と呼びます。4月1日から3月31日、もしくは1月1日から12月31日を事業年度として設定するイメージを持つ方も多いですが、それ以外の事業年度を設定することもできます。
会社は事業年度の終了の日の翌日から2ヶ月以内に申告書を税務署に提出し、支払うべき税金の額を確定させなくてはいけません。
参照:No.6137 課税期間
事業年度の公告を行う必要性
「公告」とは、会社の決定事項について公衆に知らせることを言います。公告する決定事項としては、事業年度ごとの決算の内容をはじめ、資本金の減少や合併・吸収などがあり、 これらの内容に関しては公告が義務付けられています。
公告は以下のいずれかの方法を選択することで行います。
・官報に掲載する
・日刊新聞紙に掲載する
・電子公告を行う
会社がどの方法で公告を行うかどうかは、 会社の事業内容や株式総数などについてまとめた「定款」に記載します。
なお、この定款には事業年度についても記載することが一般的です。定款に記載するものは、必ず記載すべき事項や任意で記載すべき事項などに分けられますが、事業年度は任意で記載すべき事項に当てはまります。しかし、会社として重要な情報であることから、定款には事業年度の期間について記載する場合がほとんどです。
参照:インターネット版官報
参照:電子公告制度について
決算期はいつが良い?事業年度の定め方とポイント
個人事業主は1月1日から12月31日までを事業年度とすることが定められていますが、法人は自由に決めることができます。事業の状況や経営者の好みなどを踏まえて、設立時に決算期を決定します。
普通法人における決算期は3月が多く、続いて9月、12月が多いとされます。次項から決算期の決定方法やそのポイントなどについて解説します。
参照:No.6137 課税期間
参照:第145回 令和元年版 国税庁統計年報(218ページ)
決算期は繁忙期を避けて設定する
決算では通常の業務に加えて、決算書の作成や税理士とのやり取り、株主総会の開催など、やるべきことが多く発生します。会社は決算日の翌日から2ヶ月以内に確定申告書を提出する必要があり、その期間は多忙となる可能性が高いでしょう。
繁忙期と決算関連の業務の時期が重なると、やるべきことがさらに増え、担当者の負担が増すことになります。そのため、一般的には繁忙期とずらして事業年度を設定します。
繁忙期が存在するのは税理士も同じです。前述した通り会社は3月決算であることが多いため、税理士もその頃に繁忙期を迎えます。自社の都合に影響しない範囲で、税理士の繁忙期も考慮して決定しましょう。
税理士の繁忙期を避けることで、より親身になって対応してもらえる可能性が高まります。節税対策に力を入れたい経営者の中には、このポイントを重視して事業年度を決定する人もいます。
なお、すでに事業年度を決定した会社が後から変更することも可能です。変更の方法については本記事で後述します。
参照:No.6137 課税期間
設立月に合わせて決算期を設定する
会社を設立する際は、設立して1年の間に決算日を迎えるようにしなくてはいけません。加えて、決算では多くの時間や労力がかかるため、できるだけ決算日が遅く来るように設定することが一般的です。
これらの点を考慮すると、設立してから1年弱で決算日を迎えるように設定するのが効率的です。例えば、会社を8月4日に立ち上げたのであれば、7月31日を決算日とするという決め方があります。
消費税の免税期間に合わせて設定する
資本金または出資の金額が1,000万円以下の会社は、基本的に設立してから2事業年度は消費税が免除されます。節税のためには、この免税期間がなるべく長くなるように決算日を設定することが有効です。
例えば、8月4日に設立した会社が7月31日を決算日にすれば、1期目は8月4日から翌年の7月31日、2期目は8月1日から7月31日となり、約24ヶ月の間免税となります。
もし同じ会社が9月を決算期にすれば、1期目は8月4日から9月30日までと短くなってしまいます。2期目の12ヶ月とあわせても免税期間が14ヶ月しかとれず、損をしてしまう計算になります。
しかし、設立して6ヶ月間の売上・給与のいずれかが1,000万円以上であれば、2期目は消費税が免除されなくなってしまいます。1期目をできるだけ長く設けても、売上か給与が1,000万円以上になれば、結局2期目で消費税が課税されてしまう点に注意が必要です。なお、1期目が7ヶ月以下である場合には、2期目には消費税はかかりません。
これまでの内容をまとめると、消費税の都合で事業年度を決める場合に推奨される対応は、以下のようになります。
・資本金か出資の金額が1,000万円以上:設立当初から課税事業者であるため関係なし
・売上か給与のいずれかが1,000万円以下になると考えられる:1期目は長くとる
・売上か給与のいずれかが1,000万円以上になると考えられる:1期目を7ヶ月以下にする
税金を納める時期に合わせて設定する
決算から2ヶ月後には法人税や消費税を納付する必要があるため、その時期に会社の資金が潤沢であることが望ましいでしょう。例えば、3月31日が決算日の場合は、5月31日までに確定申告書の提出と納税を行う必要があるため、その時点で余裕をもって税金を支払えるかどうかを考慮します。
しかし、会社には他にも支払うべき税金が多数あります。会社が支払う税金をまとめると、以下のようになります。
・1月20日:源泉所得税
・2月28日:固定資産税
・4月30日:固定資産税
・6月10日:住民税
・7月10日:源泉所得税
・7月31日:固定資産税
・12月10日:住民税
・12月31日:固定資産税
これらの税金の支払いを加味し、手元に資金がある時期が決算日の2ヶ月後となるように決算期を設定することも有効です。
なお、上記のスケジュールは源泉所得税は「源泉所得税の納期の特例」を利用する場合、固定資産税を東京23区内の固定資産税・都市計画税の場合、住民税を「住民税特別徴収額の納期の特例」を利用する場合と仮定して記載しています。
参照:[手続名]源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請
参照:給与からの特別徴収に関する手続き(特別徴収税額の納期の特例について)
参照:固定資産税・都市計画税(土地・家屋)(Q4 固定資産税の納期はいつですか。)
中間申告とは何か?
事業年度は基本的に1年間として設定しますが、国や自治体にとっては1つの会社から1年に1回しか税金を受けとれないデメリットがあります。税収までの期間が長くなることに加え、1年ごとの税額が高額であるため、適切に納税されないリスクもあります。
これらの点から、規定の条件を満たす場合に「中間申告」と呼ばれる方法での申告および納税を行います。
<法人税の中間申告>
・事業年度が6ヶ月を超える法人であること
・前年度基準額が10万円を超えることなど
<消費税の中間申告>
・前事業年度の消費税の額が48万円を超える法人であること
(個人の場合は前年度)
<法人事業税及び法人住民税の中間申告>
・事業年度が6ヶ月を超える法人でやること
・法人税の中間申告の義務があることなど
これらの基準に該当した場合には、税金を半年分ずつ2回に分けて納付します。期末の申告や納税は変わらず行うため、中間と期末の2回に分けて対応を行うこととなります。
なお、中間申告を行う会社の条件は法律で細かく定められているため、国税庁のホームページなども参考にしてください。
参照:No.6609 中間申告の方法
参照:第1章 総則と申告に関する規定(第6節 中間申告)
半期決算・四半期決算の違い
中間申告と似たような言葉として「半期決算」や「四半期決算」という言葉があります。中間申告は条件に該当した場合に行わなくてはいけないものであるのに対し、半期決算や四半期決算は会社の任意で行うという違いがあります。
そもそも半期決算・四半期決算とは、会社が自社の経営状況について早い段階で把握するために行うものです。1年間に1回の決算ではリアルタイムな経営状況がわからず、何か問題が生じていてもすぐに把握することができません。
そのため、会社によっては半年に1回の半期決算や、3ヶ月に1回の四半期決算などを行うことで、早期に経営状態をキャッチし、経営戦略に役立てています。会社はこのような施策により問題点を早期に改善したり、早めに納税額の予想を立てたりすることで、安定的な経営を目指します。
決算期を変更する方法
会社の設立時に決算期を決定した後も、決算期を変更することは可能です。ほとんどの会社は決算期を定款に記載しますが、定款を変更するには株主総会で承認されることが必要です。承認された後は実際に定款を変更し、内容を株主総会議事録として記録します。
その後は管轄の税務署に「異動届出書」を提出します。 異動届出書は決算期の変更をはじめ、資本金の金額の変更、代表者の変更、会社の合併など、会社のさまざまな事項に関する変更を届け出るための書類です。異動届出書の提出時には定款の提示が求められるため、事前に新しい決算期を反映した定款を準備しておきましょう。
事業年度を変更するメリット・デメリット
決算期を他の税金の支払いがない時期や資金が潤沢な時期に変更すれば、これまでより資金繰りが楽に行えるようになるでしょう。自社の繁忙期や税理士の繁忙期を避けることで、余裕を持って決算業務が行えるようになります。また、複数の法人を持っている場合には、事業年度をずらすことで業務の負担が軽減されます。
事業年度の変更は登記が不要で、比較的簡単に手続きを行うことができます。上記をはじめとするメリットを享受したい場合には、事業年度の変更を検討してもいいでしょう。
しかし、決算期を変更した年は通常よりも早く決算を迎えることになる点に注意が必要です。税金や税理士の決算報酬の支払いも前倒しで行う必要があることを覚えておきましょう。
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申告書の提出や納税は決算期から2ヶ月以内に行う必要があり、経理部門や経営者にとっては忙しい時期となりがちです。決算を行う余裕のない会社は、締切日になんとか間に合わせるというケースもあります。
余裕を持って決算業務に対応するためには、日頃から適切に経理業務を進めておくことが大切です。経理に関する書類を適切に作成・管理したり、取引を遅延なくリアルタイムで会計ソフトに反映させたりすることを心がけましょう。
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まとめ
決算期は会社設立時に決定するものであり、事業の状況や節税効果などを踏まえた上で検討します。
一度決定した決算期であっても、株主総会での承認や定款の修正、税務署での手続きを行うことで変更することが可能です。設定した決算期が自社にとって不利と思われる場合には、変更を検討するといいでしょう。決算期を変更した場合には申告や納税のタイミングが通常と異なるため、慎重な対応を心がけることも大切です。
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