
「自分のお店を持ちたい」という夢を実現するため、飲食店の開業を考えているかたが、まず直面するのが資金調達の壁です。
とくに自己資金が少ない場合、「融資なんて無理ではないか」と不安に感じているかもしれません。
この記事は、そのような不安を解消し飲食店の融資を成功させるための具体的な「羅針盤」です。飲食店の開業になぜ1,000万円もの資金が必要なのか、という現実から説きおこします。
そして、融資の「王道」である日本政策金融公庫(JFC)の活用法、銀行融資との戦略的な違い、さらには審査の9割を決めるといわれる「事業計画書」の具体的な書き方まで解説します。
自己資金がゼロでも融資の「申請」は可能になりました。しかし、申請できることと審査に通ることは違います。この記事を読めば、金融機関がどこを見て返済能力を判断しているのか、その「理由」がわかります。
理由がわかれば、いまから準備すべきことが明確になり、融資の成功率は格段に高まるはずです。
目次
なぜ飲食店開業には「融資」が不可欠なのか
飲食店の開業において、自己資金だけでまかなうことは非常にまれです。多くの成功したオーナーが、融資という「事業を加速させるための手段」を活用しています。まずは、なぜ融資が必要なのか、その具体的な金額感から理解することがスタートラインとなります。
開業資金の相場は1,000万円?費用の内訳
飲食店の開業資金の相場は、日本政策金融公庫の調査によれば平均で985万円、およそ1,000万円とされています。もちろん、これはあくまで平均です。
10坪から20坪ほどの小規模な店舗であっても、立地や業態によっては500万円から1,500万円の範囲で変動します。この開業資金は、大きく「設備資金」と「運転資金」の2つに分けられます。
設備資金(初期投資)
設備資金とは、お店を「開く」ために一度だけかかる費用のことです。主な内訳として、まず「物件取得費」が約400万円ほどかかります。これには保証金、敷金、礼金、仲介手数料、前家賃などが含まれます。
とくに保証金は、家賃の6ヶ月から10ヶ月分にもなるため、総費用を押し上げる大きな要因です。次に「設備・改装費」が約400万円ほど必要です。
これは内装工事、厨房機器、空調設備など、お店のコンセプトを実現するための費用です。居抜き物件(前の店舗の設備が残っている物件)を活用するか、スケルトン(何もない状態)から作るかで、金額が最も大きく変動する部分です。
最後に「備品購入費」として約200万円が見込まれます。食器、調理器具、テーブル、椅子、レジなどの備品がこれにあたります。
運転資金(継続費用)
運転資金とは、お店を「続ける」ために必要な費用です。多くの開業希望者がこの運転資金の計算を甘く見積もる傾向があり、それが早期廃業の大きな原因となります。
金融機関は、お店がすぐに黒字になるとは考えていません。開業してから売上が安定し、利益が出るまでの「赤字期間」を耐え忍ぐための資金を確保しているか、厳しくチェックします。
具体的には、少なくとも3ヶ月分、できれば6ヶ月分の運転資金を確保することが推奨されます。これには、家賃、仕入れ費、人件費、水道光熱費といった店舗の経費だけでなく、経営者自身の「生活資金」も含まれます。
融資とは、店を開くためだけではなく、事業を軌道に乗せるまで「続ける」ために借りるものなのです。
自己資金は「総事業費の3割」が理想とされる理由
融資を成功させるためには、「自己資金」の準備が非常に重要です。一般的に、総事業費(開業資金の合計)の30%から50%、少なくとも3分の1程度の自己資金を用意するのが理想とされています。
なぜ金融機関はこれほど自己資金を重視するのでしょうか。それは、自己資金の「金額」そのものよりも、その「プロセス」に注目しているからです。
金融機関が知りたいのは、融資をしても本当に返済してくれる人なのか、という「返済能力」と「事業への本気度」です。
たとえば、以下の2人を比べてみてください。Aさんは、開業を決意し、3年間にわたり毎月5万円をコツコツ貯蓄し、180万円を準備しました。
Bさんは、開業の3ヶ月前に、親族から300万円を借りてきて、それを通帳に入れました。
金融機関から見て「計画性があり、信用できる」と評価されるのは、間違いなくAさんです。Bさんの300万円は「見せ金」と判断され、自己資金とはみなされない可能性すらあります。
自己資金とは、金融機関に対する「自分は計画的に資金を管理できる人間であり、融資をしても約束通り返済できる」という、何よりも強力な信用の証明なのです。
飲食店融資「4つの選択肢」を徹底比較
資金調達にはいくつかの選択肢があり、それぞれに特徴があります。飲食店の開業において、どの選択肢が最適なのか、その戦略的な位置づけを比較します。
日本政策金融公庫(JFC)
飲食店のオーナーが最も多く利用するのが、日本政策金融公庫(JFC)です。これは政府が100%出資する金融機関であり、民間の銀行とはその「使命」が異なります。
JFCの使命は、国の政策として中小企業や創業を支援することです。そのため、民間銀行がリスクが高いと判断する「実績ゼロ」の創業者に対しても、事業の将来性や経営者の熱意を評価し、積極的に融資を行います。
とくに「新規開業資金」(2024年に、それまでの「新創業融資制度」が統合されました)は、創業者にとって非常に強力な制度です。最大の魅力は、原則として無担保・無保証人で利用できる点です。
飲食店の開業融資を考える場合、まずはこの日本政策金融公庫を第一候補として検討するのが王道です。
信用保証協会(制度融資)
次に検討すべきが、民間の金融機関(銀行や信用金庫)からの融資です。しかし、実績のない創業者に銀行が直接お金を貸すのはリスクが高すぎます。
そこで登場するのが「信用保証協会(CGC)」です。CGCは、事業者が銀行から融資を受ける際に、その「公的な保証人」となってくれる機関です。このCGCの保証がついた融資を「信用保証付き融資」と呼びます。
さらに、この仕組みに都道府県や市区町村といった「自治体」が連携し、利子の一部を負担(利子補給)してくれるなど、創業者にとって有利な条件にしたものが「制度融資」です。たとえば東京都にも「東京都中小企業経営円滑化融資」といった制度があります。
JFC(公庫)と制度融資(信用保証協会)を比べた場合、戦略的な違いがあります。コストとスピードの面では、制度融資は、銀行への利息のほかに、CGCへ「信用保証料」を支払う必要があります。
また、審査も「銀行」と「CGC」の2ヶ所で行うため、JFC(申込みから着金まで約3週間~1ヶ月)と比べて時間がかかる(約2ヶ月)傾向があります。
将来性の面では、JFCとの取引は一度きり(スポット的)になりがちです。しかし、制度融資を通じて地元の銀行や信用金庫と「取引実績(=きちんと返済した実績)」を作ることは、将来、2号店を出店する際などの追加融資において非常に有利に働きます。
スピードと低コストのJFCをとるか、将来の銀行取引を見据えて制度融資をとるか。これは事業戦略上の重要な選択となります。
民間銀行のプロパー融資
プロパー融資とは、信用保証協会の保証を「つけず」に、銀行が100%のリスクを負って事業者へ直接行う融資のことです。
これは、創業者向けの選択肢ではありません。銀行にとって、実績のない創業者へのプロパー融資はリスクが高すぎます。
この融資は、すでに事業が軌道に乗り、財務状況も良好で、銀行側から「ぜひ融資したい」と判断される優良な既存事業者が対象です。開業を目指す段階では、この選択肢は存在しないと考えてください。
補助金・助成金
補助金や助成金は、融資とちがい「返済が不要」な資金です。飲食店で活用できるものとして、人手不足解消のための設備投資を支援する「中小企業省力化投資補助金」や、非正規雇用者を正社員化した場合の「キャリアアップ助成金」などがあります。
ただし、ここで多くの開業希望者が「最大の罠」にはまります。補助金・助成金は、開業資金としてあてにすることはできません。なぜなら、これらの制度は「原則として、先払い・あと支給」だからです。
つまり、事業者はまず「全額を自己資金や融資で立て替え払い」し、事業を実施したあとに報告書を提出します。そして、その審査が通ってから、ようやく入金されるのです。
採択が決まってから実際に入金されるまで、9ヶ月から12ヶ月もの時間がかかるケースもめずらしくありません。
補助金は「開業するため」の資金ではなく、「開業後に、事業をさらに良くするため(例:新しい券売機を導入する)」に使うものです。この順番をまちがえると、資金計画は即座に破綻します。
表1 主な飲食店向け資金調達方法の比較
| 比較項目 | 日本政策金融公庫(新規開業資金) | 制度融資(信用保証協会付) | プロパー融資(民間銀行) | 補助金・助成金 |
| 対象者 | 創業者・新規事業者(最優先) | 創業者・既存事業者 | 実績のある既存事業者 | 創業者・既存事業者 |
| 金利相場 | 低(1.0%~3.0%程度) | 低~中(1.0%~3.5%程度) | 低~中(1.0%~3.0%程度) | N/A (返済不要) |
| 審査期間 | 短い(約3週間~1ヶ月) | 長い(約2ヶ月) | ケースバイケース(実績次第) | 非常に長い(数ヶ月~1年) |
| 保証人・担保 | 原則不要 | 原則として代表者が連帯保証(※) | ケースバイケース | 不要 |
| 別途費用 | 不要 | 信用保証料が必要 | 不要 | 不要(申請経費は別) |
| 資金使途 | 開業資金、運転資金 | 開業資金、運転資金 | 運転資金、設備資金 | 特定の経費(後払い) |
| 戦略的意味 | 創業時の「最初の資金」 | 民間銀行との「取引実績作り」 | 企業の「信用力の証」 | 事業の「アクセル」 |
(※)近年は経営者保証を外す動きも進んでいます。
2024年以降の重要知識 日本政策金融公庫の「自己資金要件」は撤廃された
飲食店の融資において、2024年に非常に重要な制度変更がありました。「自己資金」に関する扱いです。
「自己資金ゼロ」でも融資申請は可能になった
2024年、日本政策金融公庫は制度を改定し、「新規開業資金」において、かつての「新創業融資制度」で求められていた「創業資金総額の10分の1の自己資金」という要件を撤廃しました。
これは画期的な変更です。これにより、自己資金が0円であっても、融資の申し込み自体は可能となり、門前払いされることはなくなりました。
注意点 「準備ゼロ」では審査に通らない理由
ただし、「要件の撤廃」が「審査基準の撤廃」を意味するわけではありません。これが、この変更を理解するうえで最も重要なポイントです。
廃止されたのは「10分の1」というルール(足切り)です。しかし、融資審査において「自己資金」が依然として重要な評価項目であることに変わりはありません。
前述のとおり、審査担当者は自己資金の「貯蓄のプロセス」を見て、その人の計画性や本気度を評価します。
「自己資金要件が撤廃されたから、準備ゼロでも大丈夫」と考えて申請しても、審査担当者からは「計画性がない」「事業への本気度が低い」と判断され、融資が否決される可能性はきわめて高いです。
自己資金ゼロでの融資獲得は「可能」ではありますが、それは「飲食業界でのきわめて豊富な経験」や「誰もが納得する完璧な事業計画」など、自己資金の不足を補って余りある、ほかの強力な武器がある場合に限られると考えるべきです。
融資審査の9割を決める「事業計画書」の作成術

融資とは、金融機関にとって「未来への投資」です。その投資判断のほぼすべては、事業の「設計図」である事業計画書(創業計画書)によって決まります。
金融機関が必ず見る「8つの必須項目」
事業計画書には、いくつかの主要な項目を記載します。まず「創業の動機」として、なぜこの事業を始めるのか、その熱意と背景を説明します。
次に「経営者の略歴」で、どのような経験を積んできたかを示します。とくに飲食業界での経験は重要です。「取扱商品・サービス」では、メニュー、価格帯、お店の「セールスポイント」を具体化します。
「取引先・取引関係」では、食材の仕入先や、想定される顧客層を記載します。「従業員」に関する雇用計画も必要です。
また、「借入れの状況」として、経営者個人のほかのローン(住宅、自動車、カードローンなど)も申告します。
そして「必要な資金と調達方法」と「事業の見通し(売上予測)」は、最重要項目となります。
金融機関は、これら8つの項目が、一貫したストーリーになっているかを重視します。「動機」と「経歴」に矛盾がないかは、特に注目されるポイントです。
良い例としては、「地元で愛される本格ビストロを作りたい(動機)」、「都内の有名ビストロで10年勤務、うち3年は店長として店舗運営を経験(経歴)」、「経歴を活かした本格フレンチと、ソムリエ資格を活かしたワイン(商品)」といった流れです。
悪い例は、「ラーメンが儲かりそうだから(動機)」、「ITエンジニアを15年。飲食経験ゼロ(経歴)」といったものです。これでは、計画に「整合性がない」と判断されてしまいます。
最重要 売上予測の「根拠」をどう示すか
金融機関は「夢」ではなく「実現性のある数字」を求めています。売上予測が希望的観測や「どんぶり勘定」になっていては、信用されません。
飲食店の売上予測の基本は「客数 × 客単価」です。融資審査を通すためには、この「客数」をさらに分解し、「なぜその数字になるのか」という客観的な根拠(ロジック)を示す必要があります。
売上予測の計算式(客単価、席数、回転率)
飲食店の売上予測は、以下の計算式で組み立てます。
売上 = 客単価 × 席数 × 回転数 × 稼働率(満席率)
これらの数字を、希望的観測ではなく、立地調査(通行量、周辺の競合店の状況)や、自身の経験にもとづいた現実的な数値で埋めていく作業が求められます。
平日と休日のシミュレーション
売上は一定ではありません。最低でも「平日」と「週末(休日)」、できれば「ランチ」と「ディナー」にわけて、シミュレーションを行います。
例えば、席数16席、客単価1,000円、想定回転数2回転という前提で考えます。平日の売上予測は、稼働率を60%と想定し、「1,000円 × 16席 × 2回転 × 60% = 19,200円」と計算します。
週末の売上予測は、稼働率を80%と想定し、「1,000円 × 16席 × 2回転 × 80% = 25,600円」となります。
このようにロジックを積み上げて計算することで、はじめて「実現性のある数字」となり、審査担当者を納得させることができます。
「必要な資金と調達方法」を細かく記載する
この項目では、「何にいくら必要なのか」を「設備資金」と「運転資金」にわけて具体的に明記します。
ここで重要なのは、「なぜこの借入れが必要になるのか、担当者に理解してもらえるように細かく記載する」ことです。審査担当者は、計画に無駄がないか、過大な申請になっていないかも見ています。
たとえば、「厨房機器は中古品(または居抜き)を活用するため〇〇万円に抑えた」「内装費は3社から見積もりを取り、中間のB社に依頼する予定」といった具体的な記述は、「経営者としてコスト意識をしっかり持っている」という強力なアピールになります。
飲食店融資の申請から着金までのロードマップ

事業計画書が完成したら、いよいよ申請プロセスに進みます。
ステップ1 相談と必要書類の準備
まずは日本政策金融公庫(JFC)や、制度融資を利用したい銀行の窓口で、融資の相談をします。そのうえで、必要書類を準備します。
日本政策金融公庫の必要書類リスト
- 創業計画書(事業計画書)
- 申込者本人を確認する書類(運転免許証など)
- 物件の賃貸借契約書(取得済みの場合)
- 見積書(内装や厨房機器)
- 履歴事項全部証明書(法人の場合)
信用保証協会の必要書類リスト
- 信用保証委託申込書
- 申込人(企業)概要
- 創業計画書(事業計画書)
- 印鑑証明書、商業登記簿謄本(法人の場合)
- 確定申告書(すでに事業者の場合)
ここで注目すべきは、JFCが「水道光熱費に関する資料」の提出を求める場合があることです。これは、公共料金や家賃、税金の滞納を厳しくチェックしている証拠です。
融資審査とは、事業計画だけでなく「経営者個人の信用」も審査されています。クレジットカードの支払遅延など、個人信用情報に傷(異動情報)があると、融資はきわめて難しくなります。
ステップ2 申込みと「面談」
書類を提出すると、後日、JFC(公庫)の担当者との「面談」が設定されます。
申込みから着金までの期間は、JFCでもっともスムーズに進んで約3週間から1ヶ月です。制度融資(CGC)の場合は、銀行と保証協会の2段階の審査があるため、それ以上かかります。
このスケジュール感は非常に重要です。最も陥りやすい失敗は、融資の目処が立つ前に、あせって「物件の賃貸借契約」を締結してしまうことです。
万が一、融資の実行が遅れたり、否決されたりした場合、売上がないまま高額な家賃だけが発生しつづけ、自己資金を食いつぶすことになります。
物件の契約は、融資の内定が出たタイミングで行うか、「融資が実行されなかった場合は本契約を白紙撤回できる」といった特約を交渉することが不可欠です。
面談で必ず聞かれる7つの質問と回答のコツ
面談では、提出した事業計画書の内容について、改めて口頭で確認されます。審査担当者は、書類を読み込んだうえで面談に臨んでいます。
彼らが見たいのは、書類上の数字の裏にある「経営者の本気度」と「当事者意識」です。
面談では、ほぼ必ず聞かれる質問があります。まず「創業の動機」です。「なぜ、この事業を始めようと思ったのですか?」と問われます。
次に「過去の経歴」です。「これまでの飲食業での経験や、ご自身の強みを教えてください」といった内容です。
「商品・サービス」についても、「競合店とくらべて、あなたのお店の『売り』はなんですか?」と聞かれます。
「必要な資金」については、「この金額(申請額)の積算根拠を教えてください」と、その妥当性を確認されます。
「自己資金」に関しては、「この自己資金は、どのように貯めましたか?」とそのプロセスを問われます。
「売上予測」も重要で、「この売上(平日・休日)は、どのような根拠で計算しましたか?」とロジックを尋ねられます。
最後に「将来の展望」として、「事業が軌道に乗ったら、どうしていきたいですか?」と聞かれることもあります。
事業計画書をコンサルタントなどに丸投げして作成した場合、これらの質問に具体的に答えることができず、すぐに見抜かれてしまいます。
面談は「答え合わせ」の場ではなく、「経営者という人物を評価してもらう」場です。事業計画書は、すべての数字とロジックを自分の言葉で、情熱をもって説明できるレベルまで、自分自身で作り込む必要があります。
ステップ3 審査結果の通知と着金
面談から約1週間から2週間で、審査結果が通知されます。審査に通過(承諾)した場合、金銭消費貸借契約書などの契約手続きを行い、指定した口座に融資が実行(着金)されます。
万が一、融資審査に落ちた場合の理由と対策
万が一、審査に落ちて(否決されて)しまった場合、必ず原因があります。主な理由は「信用情報」「事業計画」「自己資金」の3つに大別されます。
理由1 個人信用情報(CIC・JICC)に問題がある
事業計画以前の問題として、経営者個人の信用情報に問題があるケースです。
- クレジットカードの支払いをたびたび遅延している。
- 消費者金融からの借入がある。
- 税金や公共料金、家賃を滞納している。
これらは「異動情報(いわゆるブラックリスト)」として登録されている可能性があり、その場合、審査通過は絶望的です。不安がある場合は、CICなどの信用情報機関に自身の情報を開示請求し、確認する必要があります。
理由2 事業計画書に現実味がない
計画の「実現性」が疑われたケースです。
- 売上予測が希望的観測で、根拠(ロジック)が示されていない。
- 必要な資金額が、事業規模に対して過大である。
- 創業の動機と経営者の経歴に整合性がない(例:飲食経験ゼロなのに、熱意だけで申請している)。
理由3 自己資金の「貯め方」に問題がある
自己資金の「額」が不足していることに加え、その「出所」が不透明なケースです。
- 申請の直前に、出所不明の多額の入金がある(「見せ金」と判断された)。
- コツコツ貯めた形跡が通帳から読みとれず、計画性が低いとみなされた。
融資実行後に活用したい「補助金」という選択肢
最後に、融資と補助金の最適な「活用順序」について解説します。これは、飲食店の経営を軌道に乗せるための重要な戦略です。
補助金は「後払い」が原則
繰り返しになりますが、補助金は「後払い」です。採択されても、すぐにお金はもらえません。
まず自己資金(または融資)で全額を立て替え払いし、事業が完了したあとの報告・検査を経て、数ヶ月後(場合によっては1年近く)になって入金されます。
資金繰りを助ける「つなぎ融資」とは
この「立替期間」の資金繰りを支援するために、「つなぎ融資」という制度が存在します。これは、補助金の「採択決定通知書」を根拠に、補助金が入金されるまでのあいだ、金融機関(JFCを含む)が一時的に資金を融通してくれる仕組みです。
創業者にとっての最適な資金調達の「順番」
創業者にとっての最適な資金調達の「順番」は、以下のようになります。
まずフェーズ1(開業)として、「自己資金」と「JFC(公庫)の融資」を組み合わせ、設備資金と6ヶ月分の運転資金を確保して開業します。
次にフェーズ2(成長)として、開業後、業務効率化のために「中小企業省力化投資補助金」などを申請し、券売機や新しいPOSレジの導入を計画します。
そしてフェーズ3(実行)では、補助金が「採択」されたら、その採択決定を根拠に金融機関から「つなぎ融資」を受けて、券売機を導入(立替払い)します。
最後のフェーズ4(精算)で、9ヶ月後、補助金が実際に入金されたら、その資金で「つなぎ融資」を返済します。
このように、「融資」は事業を「始める」ための血肉であり、「補助金」は事業を「加速させる」ためのブースターです。この2つを正しく使いわけることが、飲食店経営を成功させる鍵となります。
まとめ 飲食店の融資成功は「熱意」と「緻密な準備」で決まる
飲食店の融資を成功させるために必要な、重要なポイントを再確認します。
第一に、飲食店の開業には平均1,000万円の資金が必要です。融資計画は「開業費用」だけでなく、黒字化までの「運転資金(3~6ヶ月分)」を含めて策定します。
第二に、創業者にとっての融資の第一選択肢は、無担保・無保証(原則)の「日本政策金融公庫(JFC)」です。
第三に、JFCの「自己資金要件」は撤廃されましたが、審査で「貯蓄のプロセス」が見られることに変わりはありません。「準備ゼロで良い」という意味では断じてありません。
第四に、審査の9割は「事業計画書」で決まります。「動機」「経歴」「売上予測」が一貫したストーリーになっており、売上予測が「客単価 × 席数 × 回転数 × 稼働率」で論理的に説明できることが必須です。
第五に、クレジットカードや公共料金の支払いに遅延がないか、「個人信用情報」はクリーンに保つ必要があります。
第六に、「融資」で開業し、「補助金(後払い)」で成長する。この資金調達の「順番」を間違えないことが、経営を安定させる鍵です。
融資の審査は、決して「落とすため」にあるのではありません。その事業が成功し、きちんと返済できるかを見極めるためにあります。緻密な準備と、経営者自身の熱意が伝われば、道は必ず開けます。



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