飲食業の基礎知識

シェアキッチンとは? 利用開始方法から活用事例について解説

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自分の料理やお菓子で人を笑顔にしたい。そんな思いを持ちながら、「飲食店開業には数百万の初期費用が必要」という現実の壁に阻まれていませんか。

もし、その開業コストを従来の10分の1に抑え、プロ仕様の厨房を今日からでも利用できるとしたら。シェアキッチンは、高額な借入や内装工事のリスクを負うことなく、あなたの「夢の店」を低コストで実現する、最も現実的な第一歩です。

この記事を最後まで読めば、あなたはシェアキッチンが単なる「場所貸し」ではないことを理解します。それは、法的なハードル(保健所の許可)をクリアし、リスクを最小限にして「食のビジネス」を始めるための戦略的なプラットフォームです。

「自宅キッチンでは違法になるから」と諦めていたお菓子のネット販売や、週末だけの「間借りカレー店」が、具体的にどのような手順で実現できるのか、その全貌が明らかになります。

「法律や許可なんて、素人には無理そうだ」という不安は、この記事が解消します。開業希望者がつまずく最大の壁である「食品衛生責任者」、「飲食店営業許可」、「菓子製造業許可」という3つの重要な許認可について、あなたが何をすべきで、何を施設側が担うのかを明確に切り分けます。

会社員や主婦でも成功した事例を基に、あなたにもできる「再現可能なステップ」を徹底的に解説します。

目次

シェアキッチンとは

シェアキッチンとは、複数の事業者や個人が厨房設備(キッチン)を共同で利用する形態の施設を指します。

飲食店を開業するためには、保健所の基準を満たした高額な設備投資と、複雑な「営業許可」の取得が必要です。シェアキッチンは、これらの「飲食店営業許可」や「菓子製造業許可」などを取得した施設を、時間単位や月額料金で借りることができます。

利用者は、自身で高額な設備投資をすることなく、合法的に事業を開始できます。利用者の目的は多様で、スタートアップの飲食店、ケータリングの仕込み拠点、ポップアップイベント、料理教室、お菓子のネット販売など、多岐にわたります。

類似用語(ゴーストキッチン・クラウドキッチン)との違い

シェアキッチンと類似する用語がいくつか存在し、混同されやすいため、ここで明確に定義します。

ゴーストキッチン(またはダークキッチン、バーチャルキッチン)

これは「施設」ではなく「ビジネスモデル」を指す言葉です。客席を持たず、デリバリー(宅配)やテイクアウトに特化した飲食業態そのものを指します。

クラウドキッチン

これは主に、ゴーストキッチン事業者(デリバリー専門店)に厨房設備を貸し出す「施設」を指します。多くの場合、デリバリーの効率を最大化する立地に、個室の厨房ブースが並ぶ形態をとります。

シェアキッチン

これは「キッチンを共有する」という概念そのものを指す、最も広義な言葉です。

ゴーストキッチン事業者がシェアキッチン(またはクラウドキッチン)を利用して運営することは多いです。しかし、「シェアキッチン」というキーワードで情報を探す人の目的は、デリバリー専用のゴーストキッチンに限りません。

むしろ、菓子製造(ネット販売やお菓子教室)、ポップアップ(期間限定のレストラン)、間借り(既存店のアイドルタイム活用)といった、ゴーストキッチンとは異なる多様な利用形態こそが、シェアキッチンの持つ中核的な価値です。

シェアキッチンの主な4つのタイプ

シェアキッチンは、その運営形態によっていくつかのタイプに分類されます。自身のビジネスモデルに最適な施設を選ぶことが重要です。

1. 間借りタイプ(単独店舗タイプ)

既存の飲食店(バーやカフェなど)が営業していない時間帯(例:定休日や昼間)を借りる形態です。

「間借りカレー」などが代表例です。厨房設備だけでなく、客席や店の雰囲気もそのまま利用できるのが大きな強みです。

2. 複数人共有タイプ(コワーキングタイプ)

広い厨房を、複数の事業者が同時に、あるいは時間帯や曜日を区切って共同利用する形態です。

月額料金制(サブスクリプション)が多く、定期的な仕込みや製造拠点として利用されます。

3. 製造特化タイプ(菓子製造・仕込み)

「菓子製造業許可」や「そうざい製造業許可」など、特定の製造許可に特化した施設です。

客席はなく、ネット販売やマルシェ(市場イベント)、卸売用の商品製造(仕込み)に集中した設計になっています。

4. レンタルスペースタイプ

時間単位での利用がメインとなる形態です。

料理教室の開催、パーティー、新商品のテスト開発、YouTubeなどの動画撮影などに利用されます。

注意点として、販売目的で利用する場合、その施設が「飲食店営業許可」や「菓子製造業許可」を取得しているかどうかの確認が必須です。

シェアキッチンを利用するメリット

メリット1:初期投資(開業コスト)を大幅に削減できる

最大のメリットは、初期投資を劇的に抑えられる点です。

通常の飲食店開業には、物件取得費、内装工事費、厨房機器の購入費などで、数百万から1,000万円程度の初期費用がかかるといわれます。

シェアキッチンは、これらの設備がすべて整った状態で利用できるため、開業コストを従来の10分の1程度に抑えることが可能です。保証金や保険料は必要ですが、高額な借入リスクを負う必要がありません。

メリット2:迅速な開業と容易な撤退(低リスク)

従来の開業準備には、物件探しから設計、工事、許認可の取得まで、数ヶ月から1年近くかかることもあります。

シェアキッチンは、施設との契約と(必要な)許可申請だけで、最短数日〜数週間で営業を開始できます。

また、固定費(家賃)の負担が小さいため、万が一事業がうまくいかない場合も、撤退(損切り)が容易です。この「低リスクで撤退できる」ことこそが、新しい挑戦を後押しする最大の安全網となります。

メリット3:プロ仕様の厨房設備が利用可能

家庭用とは異なる、本格的な厨房設備が利用できる点も魅力です。

例えば、ある施設では、350℃まで対応可能な業務用ガスオーブン、高火力の業務用ガスコンロ3口、二層シンク、大型ミキサーなどが完備されています。

自身で購入すれば高額になるこれらの機材を、利用料だけで使えるのは大きな利点です。

メリット4:テストマーケティングの拠点になる

「自分の料理が、本当にお金を出してもらえる価値があるか試したい」というニーズに応えます。

本格的な店舗を持つ前に、シェアキッチンでポップアップレストランやデリバリーを試すことができます。

低リスクで実際の顧客の反応を分析し、メニューを改善するための「テストマーケティング拠点」として最適です。

メリット5:コミュニティと情報交換の場

シェアキッチンは「新しいことを始めたい人」が集まる場所でもあります。

利用者は、飲食業のスタートアップや起業家が中心です。

他の利用者と情報交換(例:良い仕入先、法規制の最新情報、成功事例の共有)をしたり、時にはコラボレーションが生まれたりする「インキュベーター(起業家育成施設)」としての側面があります。

メリット6:施設側による集客支援

特に複数の業者が集まる施設型や、間借りの場合、他の業者の顧客に自分の商品を試してもらう機会が生まれます。

また、シェアキッチン施設自体が、ウェブサイトやSNS、イベント開催を通じて、利用者の集客を支援してくれる場合もあります。

メリット7:法的なハードル(許認可)をクリアしている

これは非常に重要ですが、見落とされがちなメリットです。

個人で飲食店を開業する際、保健所の基準を満たす施設(例:シンクの数や床の素材など)を一から作るのは、金銭的にも知識的にもハードルが高い作業です。

シェアキッチンは、施設側がすでに「飲食店営業許可」や「菓子製造業許可」を取得しているか、取得可能な基準を満たしています。

利用者は、この「合法的な場所」を利用することで、食品を製造・販売する権利を低コストで得ることができます。

シェアキッチンのデメリットと注意点

シェアキッチンは多くのメリットを提供しますが、その「共有」という特性が、そのままデメリットや注意点につながります。メリット(低コスト)は、デメリット(低コントロール)の裏返しです。契約後に「こんなはずではなかった」と後悔しないために、現実的な課題を理解しておく必要があります。

注意点1:予約の制約と保管スペースの少なさ

他者と設備を共有するため、自分が使いたい時間(特に週末やランチタイムなどのピークタイム)が、すでに予約で埋まっている可能性があります。

しかし、それ以上に深刻な問題が「保管スペース」です。

冷蔵庫、冷凍庫、そして常温の棚など、自分の食材や調理器具、包装資材を保管できる専用スペースは、非常に限られているか、あるいは別途料金がかかることがほとんどです。

内覧(現地見学)の際には、利用可能な保管スペースの広さと場所を、最も重要な項目として確認する必要があります。

注意点2:他利用者との運用上の摩擦

共同で施設を利用する以上、他利用者との調整や、運用上の摩擦は避けられません。

例えば、「使用後の清掃が不十分である」「共有の調味料が勝手に使われる」といった、共同生活特有のストレスが発生する可能性があります。

ある成功事例では、事前にチームで運営シミュレーション会を開くなど、綿密な調整を行っています。他者と円滑にコミュニケーションをとり、ルールを守る能力が求められます。

注意点3:追加費用と契約内容の確認

提示されている月額利用料や時間料金の他に、予想外の費用が発生する可能性があります。光熱費、設備の維持管理費、消耗品費などが、利用料とは別に請求されるケースがあります。

また、金銭関係のトラブルは最も避けなければなりません。契約時には、利用規約を徹底的に確認することが重要です。

契約時には、料金体系(初期費用、基本料金に含まれるもの、追加料金の有無)をまず確認します。加えて、設備を破損した場合の保険加入の義務や、食中毒などが発生した場合の責任分担についても、規約を徹底的に確認することが重要です。

【最重要】シェアキッチンの法規制と許認可プロセス

シェアキッチンを利用する上で、最大の関心事であり、最大のハードルが「法規制」と「許認可」です。ここが曖昧なままでは、合法的な営業はできません。

最大の特徴は、多くの手続きにおいて「施設側がやること」と「利用者(あなた)がやること」が明確に分かれている点です。

利用者が必須で取得するもの:食品衛生責任者

まず、シェアキッチンを利用する・しないにかかわらず、食品を扱う営業を行う施設には、必ず「食品衛生責任者」を1名設置する必要があります。

これは、利用者(あなた)が自分で取得しなければならない資格です。

まだ資格を持っていない場合は、各自治体(保健所)が実施する講習会(eラーニング形式も増えています)を受講してください。通常、1日の受講で取得できます。

この資格がないと、後述する営業許可の申請自体ができません。

ビジネスモデルで異なる2つの営業許可

あなたのビジネスモデルによって、必要な「営業許可」の種類が異なります。

まず「飲食店営業許可」です。これは、調理した食品をその場で提供・飲食させる(イートイン)、またはデリバリー(出前)やテイクアウト(弁当など、すぐに消費されるもの)する場合に必要な許可です。例として、間借りカレー店、ポップアップカフェ、デリバリー専門のゴーストキッチンが挙げられます。

次に「菓子製造業許可」です。これは、包装されたお菓子(パン含む)を製造し、それを別の場所(ネットショップ、マルシェ、卸先のカフェなど)で販売するために必要な許可です。例として、クッキーやケーキのネット販売、イベントでのパッケージ入り焼き菓子の販売が挙げられます。

重要な点として、「飲食店営業許可」だけでは、包装したお菓子を「ネット販売」することは原則できません。お菓子を製造して販売したい場合は、必ず「菓子製造業許可」のある施設を選ぶ必要があります。

必要な許可できること(例)できないこと(例)
飲食店営業許可・間借りカレー店の営業・カフェの営業(その場で飲むコーヒー)・弁当のテイクアウト販売・デリバリー(ゴーストキッチン)・包装したクッキーを作り、ネットで販売する
菓子製造業許可・ネットショップで販売するクッキーの製造・マルシェで販売するパウンドケーキの製造・他店への卸売り用パンの製造・その場でカレーライスを提供し、飲食させること

許可取得の役割分担(施設側と利用者側)

保健所の許可を取得するプロセスは複雑ですが、シェアキッチン利用者は多くの部分を施設側に任せることができます。

施設側(運営会社)がクリアすべきこととして、保健所の基準を満たす設備(シンクの数、手洗い器の設置場所、清掃しやすい床の素材など、専門的な基準をクリアしたキッチン)の整備が挙げられます。また、物件オーナーの許可(施設を又貸し(転貸)することへの許可)や、関連法規の遵守(建物の用途変更、消火器の設置や避難経路の確保など)も施設側の役割です。

利用者は、これらの法的手続きをすでに行っている、信頼できる運営会社が管理する施設を選ぶことが重要です。

利用者側(あなた)がクリアすべきことは、前述の「食品衛生責任者」の資格取得、そしてシェアキッチン施設との利用契約、保健所への「営業許可」の申請です。

ここが最も重要です。施設が「菓子製造業許可」を持っていても、利用者は利用者自身の名前で、管轄の保健所に「営業許可」の申請(または届出)を行う必要があります。

多くのシェアキッチンでは、施設が持つ許可の「共同利用者」として申請する形をとります。

申請時には、施設の図面や利用契約書、あなたの食品衛生責任者の資格証明書などが必要になりますが、これらの手続きは運営会社が手厚くサポートしてくれることがほとんどです。契約前にサポート体制を確認しましょう。

お菓子のネット販売(流通)に必要な「食品表示法」の知識

「菓子製造業許可」のあるキッチンを確保し、保健所の許可も下りた。しかし、お菓子をネットやマルシェで販売するには、もう一つクリアすべき「法律」があります。

それが「食品表示法」です。これは保健所(厚生労働省)の管轄ではなく、消費者庁の管轄です。

食品表示ラベルの貼付義務

製造したお菓子を包装して「流通」(ネット販売、マルシェでの販売、他店への卸売)させる場合、食品表示ラベルの貼付が「食品表示法」で義務付けられています。

これは、アレルギー情報や期限などを明記し、消費者を保護するための重要なルールです。

最低限、以下の項目を記載する必要があります。

  • 名称
  • 原材料名(アレルギー表示を含む)
  • 添加物
  • 内容量
  • 消費期限 または 賞味期限
  • 保存の方法
  • 製造者(販売者)の氏名または名称、および住所

栄養成分表示と小規模事業者の特例

原材料表示に加え、「栄養成分表示(熱量(カロリー)、たんぱく質、脂質、炭水化物、食塩相当量)」も原則として義務化されています。

しかし、これから開業する方にとって朗報があります。小規模の事業者は、この栄養成分表示を省略することが認められています。

ここでいう「小規模事業者」とは、一般的に「課税売上高が1,000万円以下の事業者」を指します(消費税の免税事業者に準拠)。

これからシェアキッチンでビジネスを始める方のほとんどは、この条件に該当するはずです。

したがって、当面は複雑な栄養成分の計算・表示は不要です。まずは、原材料、期限、製造者情報といった基本的な義務表示を正しく記載することに集中しましょう。

シェアキッチン利用開始までの5ステップ

では、実際にシェアキッチンを利用開始するまでの流れを、5つのステップで解説します。

ステップ1:目的と必要な許可の明確化

まず、自分の目的を明確にします。

「何を」(菓子製造か? 間借りカレーか?)、「どの許可」(菓子製造業許可? 飲食店営業許可?)、「いつ・どれだけ」(週末だけか? 毎日仕込むか?)といった点を整理します。

ステップ2:施設のリサーチと検索

目的が明確になったら、施設を探します。

「スペースマーケット」や「インスタベース」などのレンタルスペース検索サイトで、「菓子製造業許可」「飲食店営業許可」といったキーワードで絞り込み検索します。

「Kamanova」(出張シェフ)や「シェアレストラン」(間借り)など、特定の業態に特化したサービスを利用する方法もあります。また、「シェアキッチン 大阪」のように、「地域名+シェアキッチン」で検索し、地域密着型の施設を探すのも有効です。

ステップ3:内覧(現地見学)と条件確認

気になる施設が見つかったら、契約前に必ず内覧(現地見学)を行います。

内覧時には、まず自分のビジネスに必要な機材(例:お菓子用ならオーブンの種類・台数、カレーならコンロの口数・火力)が揃っているかを確認します。

最も重要なのは、専用で使える冷蔵・冷凍・常温の保管スペースがどれだけ確保できるかです。あわせて、衛生管理が徹底されているか(清掃状態とルール)、他の利用者の雰囲気、車での搬入・搬出のしやすさ(アクセス)も確認しましょう。

ステップ4:契約(利用規約の確認)

内覧して問題がなければ、利用規約の確認に進みます。

料金体系(初期費用、月額・時間料金、追加費用)、責任範囲(設備破損時の保険、食中毒発生時の責任分担)をチェックします。

利用ルール(予約方法、キャンセルポリシー、清掃義務の範囲)や、保健所への申請をどこまで支援してくれるか(許認可サポート)も重要な確認項目です。

ステップ5:保健所への営業許可申請と営業開始

契約後、営業開始前に管轄の保健所へ向かいます。

前述の通り、「食品衛生責任者」の資格を持ち、運営会社のサポートを受けながら、利用者自身の営業許可申請を行います。

保健所から許可証が交付され次第、正式に営業を開始できます。

シェアキッチンの利用料金と費用相場

シェアキッチンの利用にかかる費用は、従来の店舗開業に比べて格段に安価です。

初期費用(契約時)

保証金・入会金として、50,000円〜100,000円程度かかるのが一般的です。

賠償責任保険料(年間20,000円前後)も、契約時に加入が必須の場合が多いです。その他、営業許可申請手数料(数万円)が保健所に支払う実費としてかかります。

従来の開業資金(数百万円)と比較し、10万円〜20万円程度でスタートできる施設が多いことがわかります。

ランニングコスト(料金体系)

料金体系は、「定期利用(月額制)」と「ワンタイム利用(時間課金)」に大別されます。

定期利用(月額制)は、「月額基本料(数時間分の利用料を含む)+超過時間分の追加料金」という体系が一般的です。例として、月額6,600円(5時間分の利用料含む)、超過分は1,320円/時といった料金設定があります。

ワンタイム利用(時間課金)は、月額基本料がかからない、使った分だけの料金体系です。例として、平日 3,000円/時、休日 4,000円/時〜といった設定や、レンタルスペース型では 1,386円/時〜といった施設もあります。

料金モデル相場(月額)相場(時間単価)メリットデメリット
定期利用・月額制10,000円〜50,000円1,000円〜2,000円定期的に利用する場合、時間単価が割安になる。専用の保管場所を借りやすい。利用が少なくても固定費が発生する。
ワンタイム利用0円3,000円〜8,000円使いたい時だけ使える。単発イベント向き。時間単価が割高になる。

選択のポイントは、自身のビジネスの利用頻度です。

週に2日以上、定期的に仕込みや製造を行う「菓子製造」や「デリバリー」事業者は、時間単価が安くなる「定期利用・月額制」が必須です。

一方、「月1回の料理教室」や「単発のポップアップイベント」の場合は、「ワンタイム利用」が適しています。

シェアキッチンの活用事例

事例1:副業での「間借りカレー」

会社員や公務員などが週末の副業として「間借りカレー」に挑戦した事例があります。あるイベントでは、優勝チームは2日間で238皿を販売しました。

成功のノウハウとしては、SNSの活用が挙げられます。開店1ヶ月以上前からInstagramなどで告知・情報発信を地道に行うことが重要です。

また、事前準備として、チームで運営シミュレーション会を実施し、当日のオペレーションを徹底的に確認しています。さらに、内覧時に皿の数、グラスの数、火口の種類(ガスかIHか)まで、設備を徹底的に確認することも欠かせません。

ここから学べるのは、成功は「場所」だけで決まるのではなく、「緻密な準備とマーケティング」によって決まるということです。

事例2:菓子製造許可キッチンでのネット販売

「店舗を持たないお菓子屋さん」を支援することを目的とした、菓子製造許可付きキッチンの事例です。

利用者は、許可のあるキッチンで製造したお菓子を、マルシェやネットショップで正規に販売しています。

自宅のキッチンでは絶対に実現不可能な「お菓子のネット販売」というビジネスモデルが、菓子製造許可付きのシェアキッチンを利用することで、低コストかつ合法的に実現可能になります。

事例3:出張シェフと消費者をつなぐプラットフォーム

「Kamanova」というプラットフォームの事例は、シェアキッチンの進化を示しています。

この仕組みは、出張シェフがKamanovaのシェアキッチン(業務用)で調理するところから始まります。その際、1家庭分ではなく、複数家庭分(例:2〜3家族分)の作り置き料理を一度に調理します。調理された料理は、各家庭に配送されます。

このモデルの価値は、利用者側とシェフ側の両方にあります。利用者は、「他人を家に上げる抵抗感」なく、リーズナブルにプロの料理を楽しめます。一方、シェフは1回の調理時間で複数家族分の収入を得られ、効率を最大化できます。

この事例から、シェアキッチンは、単なる「場所貸し」から、シェフと消費者を効率的に繋ぐ「プラットフォーム・インフラ」へと進化していることがわかります。

まとめ

本記事では、シェアキッチンを活用した飲食店・菓子製造業の開業について、その定義からメリット・デメリット、そして最重要である「許認可」と「法律」について網羅的に解説しました。

シェアキッチンは、初期費用を従来の10分の1に抑え、開業リスクを最小化する選択肢です。成功の鍵は、あなたのビジネスモデルに合った「許可」(飲食店営業許可または菓子製造業許可)を持つ施設を選ぶことです。

利用者(あなた)は、「食品衛生責任者」の資格取得が必須となります。また、お菓子をネット販売(流通)する場合、「食品表示ラベル」のルールを守る必要があります(ただし栄養成分表示は小規模事業者免除があります)。契約前には、保管スペースと料金体系を徹底的に確認してください。

シェアキッチンは、あなたのアイデアを試すための「テストドライブ」の場所です。高額な借金を背負って「失敗できない」と追い詰められる前に、まずはこの低リスクな環境で、あなたの料理やお菓子が本当に顧客に求められるかを試してみませんか。この記事を参考に、あなたのビジネスの第一歩を踏み出してください。

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