
企業の管理部門に携わる方にとって、契約書の保管期間を正しく理解し、将来の法的リスクや税務調査の不安から解放されたいと考えるのは、当然の願いでしょう。
しかし、会社法では10年、法人税法では7年と定められている中で、どの法律を優先すれば良いのか、近年急速に普及した電子契約はどう扱えばいいのか、具体的な管理方法まで考えると、何から手をつければいいか分からなくなってしまうことも少なくありません。
この複雑さが、多くの担当者を悩ませる原因となっています。
この記事を最後まで読むことで、法律の基本から、書類の種類別の具体的な保管期間、最新の電子帳簿保存法への対応、そして安全な廃棄方法まで、契約書管理の全貌を体系的に理解できます。自社で明日から実践できる、盤石な管理体制を構築することが可能になります。
目次
契約書保管の法的義務 なぜ保管が企業の生命線なのか
企業活動において日々作成される契約書は、単なる紙の書類ではありません。取引の証拠であり、権利と義務の記録であり、万が一のトラブルから会社を守る盾となります。だからこそ、法律は企業に対して契約書を含む重要書類の保管を厳格に義務付けています。
この法的義務を怠ることは、企業の信頼を損ない、予期せぬ不利益を被るリスクを増大させます。
契約書保管を支える3つの主要法律
契約書の保管期間を理解する上で、まず押さえるべきは3つの主要な法律です。会社法、法人税法、そして労働基準法がそれに該当します。これらの法律は、それぞれ異なる目的を持っています。
会社法は、企業の健全な運営と株主・債権者の保護を目的とします。法人税法は、公平な課税と税務調査の円滑化を目的とします。そして、労働基準法は、労働者の権利保護を目的としています。
この目的の違いから、保管期間や対象となる書類が異なり、時に重複することが、担当者を混乱させる一因となっています。
会社法が定める「10年」の壁 事業の根幹を守るためのルール
契約書保管の最も基本的なルールは、会社法によって定められています。会社法第432条は、株式会社に対して「会計帳簿及びその事業に関する重要な資料」を10年間保存することを義務付けています。
契約書は、取引の根幹をなす文書であり、まさにこの「事業に関する重要な資料」に該当します。したがって、会社法を遵守するためには、原則として契約書を10年間保管する必要があります。この期間の起算日、つまり数え始める日は「会計帳簿の閉鎖の時」とされています。
この10年という期間は、単に会計処理のためだけではありません。企業の重要な意思決定や取引の記録を長期にわたって保存し、株主や債権者に対する説明責任を果たせるようにするためのものです。将来、何年も経ってから訴訟などのトラブルが発生した場合に、この長期保管された契約書が企業の正当性を証明する重要な証拠となるのです。
法人税法が求める「7年」の義務 税務調査に備える鉄則
税務の観点からは、法人税法が重要になります。法人税法およびその施行規則(法人税法施行規則第59条)は、帳簿書類や取引に関して作成・受領した書類、契約書を含む、を7年間保存することを義務付けています。これは、税務調査の際に、申告内容が正しいことを証明するためのものです。
この期間の起算日は、「その事業年度の確定申告書の提出期限の翌日」からとなります。
ただし、ここには非常に重要な例外があります。青色申告法人で、事業年度に生じた欠損金(赤字)を翌年度以降に繰り越す場合、その欠損金が生じた事業年度の帳簿書類の保管期間は10年間に延長されます。多くの企業が欠損金の繰越控除を利用する可能性があるため、事実上、多くの契約書が法人税法上も10年間の保管を求められることになります。
労働基準法が課す「5年」の責任 従業員との信頼関係の証
人事・労務関連の契約書については、労働基準法が適用されます。労働基準法第109条は、使用者に対し、「雇入れ、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類」を5年間保存することを義務付けています。
これには、従業員と交わす雇用契約書などが含まれます。この期間の起算日は、多くの場合、その従業員の退職日や死亡日とされています。この義務を遵守することは、労働紛争などのリスクを回避し、従業員との健全な信頼関係を維持するための基本です。
迷ったら「最も長い期間」を選択する黄金律
会社法では10年、法人税法では原則7年、労働基準法では5年と定められています。では、一枚の契約書に複数の法律が関わる場合、どの期間を適用すればよいのでしょうか。例えば、業務委託契約書は、会社法上の「事業に関する重要な資料」(10年)であると同時に、法人税法上の「取引に関する書類」(7年)にも該当します。
ここで7年で廃棄してしまうと、法人税法はクリアできても、会社法に違反する可能性があります。会社法違反には100万円以下の過料という罰則も定められています。さらに、その年度に欠損金があれば、法人税法上も10年の保管義務が発生します。
このような混乱とリスクを避けるための唯一かつ最も安全な方法は、「関連する法律の中で最も長い保管期間を適用する」というルールを社内で徹底することです。多くの重要な契約書においては、これが「10年間」となります。
この黄金律を採用することで、個々の契約書についてどの法律が適用されるか毎回悩む必要がなくなり、コンプライアンス違反のリスクを根本から断つことができます。
種類別 契約書・関連書類の保管期間
法律ごとに異なる保管期間を正確に把握し、日々の業務に活かすことは容易ではありません。ここでは、実務で頻繁に扱う契約書や関連書類について、その保管期間を一覧で確認できるようにまとめました。
主要な契約書・書類の保管期間一覧
以下の表は、主要な書類の種類、保管期間、根拠となる法律、そして起算日をまとめたものです。自社の文書管理規定を作成する際の参考にしてください。
書類の種類 | 保管期間 | 根拠法令 | 起算日 | 備考 |
【永久保存推奨】 | ||||
定款、株主名簿 | 永久 | 会社法など | – | 会社の根幹をなす書類のため、会社が存続する限り保管。 |
不動産・知的財産権関連の権利書・契約書 | 永久 | 実務上の要請 | – | 権利が存続する限り、その証明として保管が必要。 |
【10年保管】 | ||||
取引基本契約書、業務委託契約書、売買契約書など | 10年 | 会社法 | 会計帳簿の閉鎖の時 | 事業に関する重要な資料として会社法が適用される。 |
株主総会議事録(本店備置分) | 10年 | 会社法 | 株主総会の日 | |
会計帳簿(総勘定元帳、仕訳帳など) | 10年 | 会社法 | 会計帳簿の閉鎖の時 | 法人税法では7年だが、会社法の10年が優先される。 |
【7年保管】 | ||||
請求書、領収書、見積書、納品書など | 7年 | 法人税法 | 事業年度の確定申告書提出期限の翌日 | 欠損金が生じた事業年度は10年となるため注意が必要。 |
【5年保管】 | ||||
雇用契約書、労働条件通知書 | 5年 | 労働基準法 | 従業員の退職または死亡の日 | |
産業廃棄物処理の委託契約書 | 5年 | 廃棄物処理法 | 契約終了日 | |
賃貸借契約書 | 5年 | 宅地建物取引業法 | 賃料が発生する日 | 会社法上の重要資料とみなされる場合は10年が望ましい。 |
【その他】 | ||||
労働者派遣個別契約書 | 3年 | 労働者派遣法 | – | |
健康保険・厚生年金関連書類 | 2年 | 健康保険法など | 完結の日など |
法定期間だけでは不十分か 「時効」を考慮したリスク管理
法律で定められた保管期間は、あくまで行政上の義務、つまり税務調査や監督官庁への対応を果たすためのものです。しかし、企業が直面するリスクはそれだけではありません。取引相手との間で発生する可能性のある民事上のトラブル、すなわち訴訟リスクにも備える必要があります。ここで重要になるのが「消滅時効」という考え方です。
消滅時効とは、権利を持つ者が一定期間その権利を行使しない場合に、その権利が消滅するという民法上の制度です。一般的な商取引上の債権、例えば代金の請求権などの消滅時効は、「権利を行使できる時から10年」と定められています。
ここに、法定保管期間だけを守ることの落とし穴があります。例えば、法人税法に従って7年で契約書を廃棄したとします。
しかし、その契約に関するトラブルが8年目に発生し、相手方が訴訟を起こしてきた場合、その訴えは時効期間内(10年以内)であるため法的に有効です。この時、自社は最も重要な証拠である契約書の原本をすでに廃棄してしまっているため、非常に不利な立場で争わなければならなくなります。
このように、行政上のコンプライアンスと、訴訟リスク管理は別の問題です。法定保管期間が7年や5年の書類であっても、後々の紛争に備えるというリスク管理の観点から、消滅時効期間である10年間は保管しておくことが、企業防衛の鉄則と言えます。
「永久保存」を推奨する契約書とは
法律で「永久に保存せよ」と明記されている契約書はほとんどありません。しかし、企業の根幹に関わる、あるいは永続的な権利を証明するような一部の書類については、事実上の永久保存が強く推奨されます。
具体的には、以下のような書類が該当します。
- 会社の定款や登記関連書類
- 不動産の権利書や重要な賃貸借契約書
- 特許権や著作権などの知的財産権に関する契約書
- 会社の設立、合併、事業譲渡などに関する重要契約
会社の定款や登記関連書類は、会社の憲法とも言える基本文書であり、会社が存続する限り必要です。不動産の権利書や重要な賃貸借契約書は、土地や建物の所有権・利用権を証明するもので、その権利が続く限り価値を持ちます。
また、特許権や著作権などの知的財産権に関する契約書は、権利の帰属やライセンス関係を証明するもので、権利の有効期間中は不可欠です。会社の設立、合併、事業譲渡などに関する重要契約は、会社の沿革や組織再編の経緯を示す歴史的な資料となります。
これらの書類は、たとえ取引が終了しても、会社の歴史や権利関係を証明する上で代替不可能な価値を持つため、厳重に保管し続けるべきです。
デジタル化の波に乗る 電子帳簿保存法について
近年、契約業務のデジタル化が急速に進み、「電子契約」が当たり前になりました。これに伴い、電子データの保存ルールを定めた電子帳簿保存法への対応がすべての事業者にとって必須の課題となっています。この法律を正しく理解することが、デジタル時代のコンプライアンスの鍵を握ります。
「電子取引」と「スキャナ保存」の根本的な違い
電子帳簿保存法を理解する上で、まず「電子取引」と「スキャナ保存」という2つの区分を明確に区別する必要があります。
一つ目の「電子取引」は、最初からデジタルデータとして授受された書類に関するルールです。例えば、電子契約サービスで締結した契約書や、メールに添付されたPDFの請求書などが該当します。2024年1月からは、これらの電子取引データは必ず電子データのまま保存することが義務化され、紙に印刷して保存する方法は原則として認められません。
二つ目の「スキャナ保存」は、紙で受け取った書類をスキャナーやスマートフォンで読み取って電子データとして保存する場合のルールです。スキャナ保存の導入は任意であり、厳格な要件を満たせば紙の原本を廃棄できますが、要件を満たすのが難しい場合は、従来通り紙のまま保管し続けることも可能です。
電子取引データの保存要件 「真実性の確保」と「可視性の確保」
電子取引データを保存する際には、大きく分けて2つの要件を満たす必要があります。データが改ざんされていないことを証明する「真実性の確保」と、必要なデータをすぐに見つけ出せることを担保する「可視性の確保」です。
真実性の確保、つまり改ざん防止措置としては、以下のいずれかの措置を講じる必要があります。
タイムスタンプが付与されたデータを受領する、または自社で付与する。
データの訂正・削除の履歴が残る、または訂正・削除ができないシステムを利用する。
改ざん防止のための事務処理規程を社内で定めて、それに沿って運用する。
一方、可視性の確保、つまり検索・表示能力の担保としては、以下の要件を満たす必要があります。
保存場所に、パソコン、ディスプレイ、プリンタ等を備え付け、データを明瞭な状態で速やかに出力できるようにしておく。
「取引年月日」「取引金額」「取引先」の3つの項目で検索できるようにしておく。
2024年改正の重要ポイントと企業が取るべき対策
電子帳簿保存法は頻繁に改正されますが、特に2024年からの改正は中小企業にとって大きな影響があります。これまで対応のハードルとなっていた検索要件が大幅に緩和されたのです。
重要な変更点は2つあります。まず、検索要件が不要になる事業者の範囲が拡大されました。2課税年度前の売上高が5,000万円以下の事業者は、検索要件への対応が不要になりました。次に、税務調査の際に、税務職員から求められたデータをダウンロードできる状態にしておけば、より複雑な範囲指定検索などの機能は不要になりました。
この改正は、高価な専用システムを導入しなくても、適切なファイル名とフォルダ構成でデータを整理するだけで、多くの中小企業が法要件を満たせるようになったことを意味します。
これは単なる技術的な変更ではなく、国が中小企業のデジタル化を後押しするための戦略的な方針転換と捉えることができます。企業は、自社の売上規模や業務フローに合わせて、コストをかけずにコンプライアンスを達成する方法を再検討すべきです。
紙の契約書を電子化する「スキャナ保存」の実務
紙の契約書をスキャンして原本を廃棄したい場合、つまりスキャナ保存を行うには、厳格な要件を満たす必要があります。安易に行うと、原本不保持と見なされるリスクがあります。
主な要件としては、書類を受領後、速やか(最長約2か月とおおむね7営業日以内)にスキャンすること、解像度200dpi以上、原則としてカラー画像で読み取ること、一定の期間内にタイムスタンプを付与すること、訂正や削除を行った場合にその事実と内容を確認できるバージョン管理を行うこと、などが挙げられます。
これらの要件を満たさない限り、スキャンデータは法的に原本とは認められず、紙の原本を保管し続けなければなりません。
鉄壁の契約書管理体制を構築する実践マニュアル
法律や制度を理解した上で、次に重要になるのが、それを日々の業務に落とし込み、誰でも運用できる「仕組み」を構築することです。ここでは、物理・デジタルの両面から、実践的な契約書管理の方法を解説します。
物理保管とデジタル保管の最適な方法
契約書の保管方法は、物理的な紙媒体とデジタルデータでそれぞれポイントが異なります。
物理保管のポイント
紙の契約書は、施錠可能なキャビネットや書庫で保管し、アクセスできる人員を制限します。火災や水害のリスクを考慮し、耐火金庫などを使用することも有効です。整理方法としては、取引先別、契約締結年別など、自社が探しやすいルールでファイリングし、背表紙に管理番号や契約書名を明記して一目で内容がわかるように工夫します。
デジタル保管のポイント
デジタル保管の成否は、フォルダ構成とファイル名のルール化にかかっています。これを徹底すれば、電子帳簿保存法の検索要件にも対応しやすくなります。例えば、ルートフォルダの下に年ごとのフォルダ、さらにその下に取引先ごとのフォルダを作成し、ファイルを格納していく方法が考えられます。
ファイル名は、「取引年月日_取引先名_書類の種類_取引金額.pdf」のように命名規則を統一すると良いでしょう。具体的には、「20241026_株式会社A_業務委託契約書_500000.pdf」といった形式です。
この命名規則は、電子帳簿保存法が求める3つの検索項目(日付、取引先、金額)をすべて含んでおり、コンプライアンスと業務効率を両立させる最適な方法です。
契約書管理台帳の作成と運用
契約書管理の「頭脳」となるのが契約書管理台帳です。これは、社内に存在するすべての契約書の情報を一元管理するためのマスターリストであり、Excelや専用システムで作成します。台帳を整備することで、契約書の所在が明確になり、更新期限の管理も容易になります。
契約書管理台帳には、管理番号、契約書名、契約相手先、契約締結日、契約開始日、契約終了日、自動更新の有無、更新通知期限、保管場所、担当部署・担当者などの項目を設けると良いでしょう。
管理番号 | 契約書名 | 契約相手先 | 契約締結日 | 契約開始日 | 契約終了日 | 自動更新の有無 | 更新通知期限 | 保管場所 | 担当部署・担当者 |
CON-001 | 業務委託基本契約書 | 株式会社A | 2024年10月26日 | 2024年11月1日 | 2025年10月31日 | あり | 終了日の1か月前 | サーバ/契約書/2024年/株式会社A | 営業部/佐藤 |
CON-002 | 不動産賃貸借契約書 | Bビルディング | 2023年3月15日 | 2023年4月1日 | 2025年3月31日 | なし | – | 書庫A-3 | 総務部/鈴木 |
特に「契約終了日」「自動更新の有無」「更新通知期限」の3項目は、意図しない契約の失効や、不要な契約の自動更新を防ぐための生命線となるため、必ず管理項目に含めましょう。
契約書管理システムの導入を検討するタイミングと選び方
契約書の数が増え、手作業での管理に限界を感じ始めたら、契約書管理システムの導入を検討するタイミングです。システムを導入することで、検索の効率化、更新漏れの防止、セキュリティ強化など多くのメリットが得られます。
システムを選ぶ際のポイントは、自社に必要な機能が揃っているか、セキュリティは万全か、担当者が直感的に使える操作性か、そして費用対効果が見合っているかです。全文検索機能の有無、アクセス権限設定、無料トライアルの可否、料金体系などを比較検討することが重要です。
個人事業主のための契約書管理
個人事業主の場合、法人とは異なり会社法は適用されませんが、所得税法に基づく帳簿書類の保存義務があります。申告方法によって期間が異なるため注意が必要です。
青色申告の場合、帳簿類や決算関係書類は7年間、契約書や請求書などの取引書類は5年間の保存が義務付けられています。白色申告の場合は、収入金額や必要経費を記載した帳簿は7年間、その他の書類は5年間の保存が必要です。
いずれの申告方法でも、契約書は最低5年の保管が求められます。しかし、法人と同様に、取引相手とのトラブルに備える消滅時効の観点から、重要な契約書は7年から10年を目安に保管しておくとより安全です。
保管期間終了後の最終工程 安全・確実な契約書の廃棄
契約書は、定められた保管期間が終了すれば、永久に保管し続ける必要はありません。しかし、その廃棄は「ただ捨てる」だけでは済みません。機密情報や個人情報を含む契約書を不適切に廃棄することは、重大な情報漏洩事故につながる可能性があります。安全かつ確実な廃棄こそが、契約書管理の最終工程です。
廃棄タイミングの正しい見極め方
契約書を廃棄する前には、以下の項目を必ず確認し、廃棄しても問題ないかを慎重に判断する必要があります。
- 法定保管期間は経過したか
- 消滅時効は経過したか
- 係争中の案件に関連していないか
- 契約の効力は完全に消滅しているか
- 社内規定の承認は得られているか
法定保管期間(通常10年)と民法上の消滅時効期間(通常10年)の両方を考慮し、関連する訴訟や紛争が進行中でないかを確認します。また、契約終了後も効力が続く条項、例えば秘密保持義務などがないかを確認し、文書管理規程に沿った承認手続きを踏むことが重要です。これらすべてをクリアして初めて、契約書は安全に廃棄できる状態になります。
紙と電子 それぞれの適切な廃棄方法
廃棄方法は、契約書の媒体によって異なります。
紙の契約書を社内で処理する場合、復元が困難なクロスカットやマイクロカット方式のシュレッダーを使用することが必須です。大量の書類や高いセキュリティが求められる場合は、専門の廃棄業者による「溶解処理」が有効です。箱ごと未開封のまま溶解するため、人の目に触れることなく処理できます。
電子データの廃棄は、パソコンのゴミ箱からの削除だけでは不十分です。データ消去ソフトウェアを使用して復元を不可能にするか、ハードディスクなどの記憶媒体を物理的に破壊する方法が確実です。
コンプライアンスの証明となる「廃棄証明書」の重要性
専門の廃棄業者に処理を依頼した場合、必ず「廃棄証明書」または「溶解証明書」を発行してもらいましょう。
この証明書は、単なる処理完了の控えではありません。「いつ、どの書類を、どのような方法で、誰が責任を持って廃棄したか」を証明する法的な証拠となります。
万が一、委託した業者の不手際で情報漏洩が発生した場合でも、自社が適切な注意を払って処理を委託したことを証明する重要な文書となります。廃棄証明書の取得と保管は、廃棄プロセスにおけるリスク管理の最後の砦です。
信頼できる廃棄業者の選び方
機密情報を預ける廃棄業者の選定は、極めて重要です。価格の安さだけで選ぶと、情報漏洩という取り返しのつかない事態を招きかねません。信頼できる業者を選ぶためには、いくつかの点を確認しましょう。
プライバシーマーク(Pマーク)やISO 27001などの第三者認証の有無は、信頼性を判断する重要な指標です。また、運搬車両のGPS追跡システム、施錠可能な回収ボックス、処理施設の厳重な入退室管理など、セキュリティ体制も確認すべきです。
回収した箱を未開封のまま処理するプロセスが確立されているか、そして確実に廃棄証明書が発行されるかも重要な選定基準となります。
まとめ
本記事では、契約書の保管期間に関する法的なルールから、実践的な管理・廃棄方法までを網羅的に解説しました。最後に、明日からの業務に活かすための重要なポイントを再確認します。
保管期間の3大ルール
まず、会社法で10年、法人税法で原則7年(欠損金がある年度は10年)、労働基準法で5年が基本であることを覚えましょう。
「10年保管」の黄金律
複数の法律や民法の消滅時効が絡むため、迷ったら重要な契約書は一律10年間保管するというルールが最も安全でシンプルです。
電子取引ルールの遵守
最初から電子データでやり取りした契約書は、必ず電子データのまま、電子帳簿保存法の要件に従って保存する必要があります。
廃棄における証明書の重要性
保管期間が過ぎた契約書は、安全な方法で廃棄し、専門業者に依頼した場合は必ず「廃棄証明書」を取得・保管します。
最後に
この知識を基に、自社の契約書管理体制を一度見直してみてください。以下の簡単なチェックリストが、その第一歩となるでしょう。
- すべての契約書を網羅したマスターリスト(管理台帳)は存在しますか?
- 社内の保管ルールは、最も長い期間(原則10年)に設定されていますか?
- 電子メールやクラウドで受け取った契約書を、適切に電子保存できていますか?
- 契約書の廃棄プロセスは確立されており、安全な業者を選定していますか?
適切な契約書管理は、リスクから会社を守り、事業の成長を支える強固な土台となります。この記事が、その盤石な土台を築く一助となれば幸いです。
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