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居酒屋の年収はいくら? 従業員・店長・経営者の現実と収入アップの全技術

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居酒屋で働けば、あるいは独立すれば、本当に「稼げる」未来が手に入るのでしょうか。多くの人が夢見る「自分の店」や「会社員以上の収入」という目標は、魅力的にうつります。しかし、その現実は甘くありません。

本記事を読めば、あなたがどの立場(従業員、店長、経営者)であっても、現在の立ち位置と目指すべき年収、そしてその差を埋めるための具体的な経営戦略を、データに基づいて明確に理解できます。

独立は一部の才能ある人だけのものではありません。本記事では、業界が直面する課題(人手不足やコスト高騰)を直視し、それらを「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という具体的な技術でいかに克服し、利益(=年収)を最大化していくか、その再現可能な道筋を詳しく解説します。

従業員・店長として働く居酒屋の年収

まずは「雇われる側」としての居酒屋の年収の現実から分析します。正社員、アルバイト、そしてキャリアアップの目標となる店長。それぞれの立場で、どれくらいの収入が期待できるのでしょうか。最新の統計データに基づき、その実態を明らかにします。

居酒屋正社員の平均年収と給与分布

居酒屋で働く正社員の平均年収は406万円です。

この金額だけを見ると、日本の給与所得者全体の平均給与(443万円)と比較して、やや低い水準にあると感じるかもしれません。

実際、給与分布のボリュームゾーン(最も多い層)は364万円から416万円の水準であり、平均年収もこの範囲に含まれています。

しかし、注目すべきは「給与幅」です。データによれば、全体の給与幅は311万円から730万円と非常に広くなっています。これは、居酒屋業界が単純な年功序列ではなく、個人のスキルや役職によって収入が大きく変動する実力主義の側面が強いことを示しています。

特に、飲食業界全体として、サービス・ホール担当者よりも調理スタッフの給与額が高い傾向が確認されています。専門技術である調理スキルは、年収を押し上げる重要な要素となります。

居酒屋アルバイトの平均時給(2024年以降の動向)

アルバイト・パートとして働く場合、全国の平均時給は1,162円です。

ただし、これは全国平均であり、都市部では顕著に高い水準で推移しています。2024年度下期のデータでは、東京都の平均時給は1,296円、大阪府では1,212円となっています。

さらに重要なのは、この上昇傾向が継続している点です。2025年度上期には、東京都の飲食業界の平均時給は1,308円まで上昇しています。この背景には、過去最高の最低賃金改定の影響もありますが、より本質的には飲食業界全体が直面する深刻な人手不足があります。

この状況は、働く側から見れば、時給交渉において有利な「売り手市場」が続いていることを意味します。

キャリアの頂点 店長の年収と役割

正社員として年収を上げていく上で、一つの大きな目標となるのが「店長」です。

先に示した正社員の給与幅(311万~730万円)の上位層、すなわち416万円を超える層や、上限である730万円近い給与を得ているのは、主に店長クラスの役職者であると推察されます。

店長は、単なる現場のリーダーではありません。店舗の売上、利益、FLコスト(後述)の管理、そして人材の採用・育成という、経営の根幹をすべて任される「経営者代行」です。

将来的に独立(第2部)を目指す人にとって、この店長として経営数値の管理を経験することは、不可欠なステップとなります。年収1,000万円を超える多店舗経営者になるためのスキルは、この店長時代に培われるのです。

オーナー経営者として稼ぐ居酒屋の年収

ここからは、本記事の核心である「独立・開業」を目指すオーナー経営者の年収について分析します。「居酒屋オーナーは儲かるのか?」「現実にいくら稼げるのか?」という疑問に、データとシミュレーションで答えます。

居酒屋オーナーの年収レンジは300万~800万円

まず結論から述べます。飲食店経営者全体の平均年収は627万円というデータがあります。これは黒字の個人店の平均であり、サラリーマンの平均(443万円)よりも高い水準です。

ただし、居酒屋オーナーの年収として最も実態に近いのは300万円から800万円というボリュームゾーン(最も多い層)です。

このデータから読み取るべき重要な点は、「幅」の広さです。平均627万円と聞くと魅力的に聞こえますが、赤字店の経営者や小規模な個人店では年収300万円台、あるいはそれ以下になるケースも少なくありません。

オーナーの年収は、従業員のように保証された「給与」ではなく、事業の結果として残る「利益」です。大きなリスクを取る代わりに、800万円を超える高いリターンを得る可能性もある、ハイリスク・ハイリターンな選択といえます。

年収を決める営業利益シミュレーション(2モデル)

では、オーナーの年収(=営業利益)は、店舗の規模によってどう変わるのでしょうか。2つの具体的なモデルケースでシミュレーションします。

まず「モデル① 小規模個人店 (15坪)」の場合です。年間売上3,000万円 (月250万円)に対し、経費が2,532万円 (利益率 15.6%)かかると、営業利益 (=オーナー年収)は468万円となります。

次に「モデル② 都市部の繁盛店 (25坪)」の場合です。年間売上6,000万円 (月500万円)に対し、経費が5,280万円 (利益率 12%)かかると、営業利益 (=オーナー年収)は720万円となります。

このシミュレーションは、非常に重要な現実を示しています。

多くの人が夢見る「こぢんまりとした個人店」(モデル①)を実現した場合、オーナーの年収は468万円です。

これは、第1部で見た正社員の平均年収406万円と、実質的に大きな差がありません。

多額の開業資金(一般に1,000万円以上)を投じ、経営の全リスクを負った結果が「サラリーマン+α」では、割に合わないと感じる人も多いでしょう。これが「居酒屋 経営 現実」です。

モデル②の都市部繁盛店で、ようやく年収720万円が見えてきます。

年収1,000万円の壁と多店舗経営の必要性

では、オーナーとして年収1,000万円を超えることは可能なのでしょうか。

単一の店舗で年収1,000万円(営業利益)を達成しようとすると、利益率を10%と仮定しても年商1億円(月商約840万円)の売上が必要です。

これは、行列の絶えないラーメン店など、ごく一部の店舗に限られ、達成は非常に困難です。

そこで、年収1,000万円を目指すための、より現実的な道筋が「多店舗経営」です。

例えば、モデル②の繁盛店(年商6,000万円・営業利益720万円)に近い利益を出せる店舗を2店舗から3店舗経営することができれば、オーナー年収1,000万円は現実的な目標となります。

1店舗あたりの利益が600万円と仮定しても、3店舗で1,800万円の営業利益です。そこから本部経費やマネジメントコストを差し引いても、1,000万円超の年収は十分に可能です。

居酒屋経営で高年収を目指す道は、「1店舗の優れた職人」としてではなく、「複数店舗を管理する経営者」としてシステムを構築することにあるのです。

年収(利益)を最大化する経営の鉄則

第2部で示したシミュレーションの「利益」は、どのようにして生み出されるのでしょうか。オーナーの年収(=利益)を決定づける、最も重要な経営指標について解説します。これは、独立を目指すすべての人が知るべき「経営の鉄則」です。

利益の鍵 FLコストとは(FL比率60%の法則)

経営者が絶対に知るべき最重要指標が「FLコスト」です。

FLコストとは、F(Food)すなわち食材費(原価)と、L(Labor)すなわち人件費を合わせたものを指します。

そして、売上高のうち、このFLコストが占める割合を「FLコスト比率(FL比率)」と呼びます。

このFL比率には、飲食業界の経営における鉄則があります。それは「FL比率は60%以下に抑える」ことです。

目安として、FL比率が55%以下であれば経営状態が良好、60%が適正値とされます。一方で、65%を超えると利益が出ない危険な状態と判断されます。

第2部のシミュレーションを、このFL比率の観点で見直してみましょう。両モデルとも、原価(F)が35%、人件費(L)が25%で、合計FL比率は60%に設定されています。

これは、オーナーの年収(利益)を確保するためには、売上の60%をFとLで使い、残りの40%で家賃、水道光熱費、その他の経費をすべて支払い、最後に残ったものが自分の取り分になる、という厳しい現実を意味します。

食材費(F)と人件費(L)の適正バランス

FL比率60%という「枠」の中で、F(食材費)とL(人件費)のバランスをどう取るかが、経営者の腕の見せ所です。

一般的な内訳の目安は、食材費(F)が24%~40%、人件費(L)が20%~36%とされています。

この2つはトレードオフの関係にあります。例えば、「食材の質(F)に徹底的にこだわる(F=40%)」ならば、「人件費(L)は極限まで圧縮する(L=20%)」必要があります。

逆に、「手厚いおもてなし(L)を売りにする(L=36%)」ならば、「原価(F)は抑える(F=24%)」工夫が求められます。

自店のコンセプトに合わせて、このFとLのバランスを最適化し、合計で60%以下に管理すること。これこそが、利益(=年収)を生み出す経営者の最大の仕事です。

売上の絶対量を測る坪月商

FL比率で「利益率」を管理すると同時に、経営者は「売上の絶対量」も追求しなくてはなりません。その効率を測る指標が「坪月商」です。

坪月商とは、店舗の1坪(約3.3平方メートル)あたり、1ヶ月にいくら売上げたかを示す数値です。この数値が高いほど、効率よく稼いでいる店舗といえます。

業界における繁盛店の目安として、坪月商20万円程度までは一般的な店舗、30万円以上で繁盛店、50万円を超えると業界でも高収益の店舗と見なされます。

第2部で見たシミュレーションを坪月商で再評価します。

モデル①(15坪)は、月商250万円を15坪で割ると、坪月商は16.7万円となります。

モデル②(25坪)は、月商500万円を25坪で割ると、坪月商は20万円となります。

驚くべきことに、年収720万円を生み出すモデル②ですら、坪月商の基準では「一般的な店舗」の上限であり、「繁盛店(30万円)」には達していません。

これは、もしFL比率60%を維持したまま、坪月商を30万円まで引き上げることができれば、オーナーの年収はさらに跳ね上がることを意味します。

未来の年収を上げるための具体的戦略

居酒屋業界は、開業から3年で70%が撤退するという厳しい現実があります。また、「きつい」というイメージも根強くあります。

なぜ経営はこれほど難しいのでしょうか。それは、第3部で解説した「FLコスト」を圧迫する、構造的な課題があるからです。これらの課題を克服し、未来の年収を上げるための現代的な戦略を解説します。

最大の課題 人手不足とコスト高騰がFL比率を圧迫する

現代の居酒屋経営者が直面する最大の課題は、「FL」の両方から利益を圧迫されることです。

課題の一つは、人件費(L)の高騰です。深刻な人手不足は、時給や給与を引き上げなければ人を確保できない状況を生み出しています。これにより、L(人件費)が上昇します。

もう一つは、食材費(F)の高騰です。原材料費の高騰は、F(食材費)の上昇に直結します。

FとLの両方が上昇すれば、経営の鉄則であった「FL比率60%」は簡単に崩壊し、利益が出ない「危険水域(65%超)」に突入します。

従来の「気合と根性」に頼った経営では、この構造的なコスト上昇には対抗できません。利益(=年収)がゼロになる未来を防ぐために、新たな戦略が求められます。

解決策 DXによる生産性の最大化

人手不足とコスト高騰という構造的課題を解決し、FLコストを適正化するために、もはや「DX(デジタルトランスフォーメーション)」の導入は選択肢ではなく必須です。

DXは、人手不足の解消(業務効率化)、コスト改善(原価管理、時短)、そして教育体制の改革といった領域で経営に貢献します。

具体的に、FLコストをどのように改善するのか見ていきます。

人件費(L)を削減するセルフオーダーシステム

セルフオーダーシステムは、顧客が自身のスマートフォンやテーブルに設置された端末を使って注文する仕組みです。

主なメリットは、人件費(L)の削減です。顧客の注文を取る(オーダーテイク)業務が不要になり、最小限のホールスタッフでの運営が可能になります。また、オーダーミスが減り、業務効率が上がる点も挙げられます。

その他にも、メニューの更新が容易なため、おすすめ商品を訴求しやすく、売上向上につながるメリットもあります。外国語対応が容易なシステムを選べば、インバウンド需要も取り込めるでしょう。

一方でデメリットも存在します。「丁寧な接客」を売りにする店舗では、顧客とのコミュニケーションが減るため不向きな場合があります。

また、デジタル機器の操作が苦手な顧客層が多い場合、満足度が低下する可能性も考慮しなくてはなりません。

食材費(F)を削減する自動発注システム

自動発注システムは、POSレジのデータと連携し、過去の売上傾向から「適正な在庫量」をAIが計算し、発注作業を自動化するシステムです。

主なメリットは、食材費(F)の削減です。経験と勘に頼った発注による過剰在庫(食材ロス)を圧縮できます。

ある導入事例では、食材ロスを月間50万円から20万円に減少させることに成功しました。この差額30万円(年間360万円)は、そのままオーナーの利益(年収)に加算されます。原価率を常時正確に把握できるようになる点も利点です。

さらに、人件費(L)の削減にも寄与します。毎日の発注作業時間が大幅に短縮されるためです。発注担当者1名分の業務削減に成功した例もあります。

人件費(L)を最適化する勤怠管理システム

勤怠管理システムは、アルバイトのシフト作成、打刻、給与計算をクラウドで効率化するツールです。

メリットとして、人件費(L)の最適化が挙げられます。複雑なシフト作成を自動化し、繁閑に合わせた適切な人員配置を支援します。

また、GPSや指紋認証による正確な打刻管理で、不正打刻(なりすまし)を防ぎ、無駄な人件費(L)を削減できます。

「働き方改革」関連の複雑な法改正にも自動で対応するため、労務管理の負担を減らす効果も期待できます。

セルフオーダー、自動発注、勤怠管理。これら3つのDXツールは、第3部で解説した「FLコスト」のFとL、その両方を科学的に管理・削減するための強力な武器です。

現代の居酒屋経営における年収アップとは、DXを駆使して「FL比率」をいかに55%に近づけるか、という戦いなのです。

まとめ

最後に、本記事の要点を再確認します。

まず、従業員(正社員)の年収については、平均は406万円です。人手不足を背景に給与は上昇傾向にありますが、年収アップには店長などへのキャリアアップが鍵となります。

次に、経営者(オーナー)の年収です。ボリュームゾーンは300万~800万円、平均は627万円というデータがあります。

ただし、経営の現実として、小規模店(15坪)では年収468万円と、正社員と大差ない結果も待っています。年収1,000万円超を目指すには、多店舗経営が現実的な道筋です。

オーナーの年収(利益)の源泉は、経営指標の管理に尽きます。「FLコスト比率(60%以下が鉄則)」と「坪月商(30万円以上が繁盛店)」がその核心です。

未来の戦略としては、人手不足とコスト高騰の時代にFL比率を守るため、セルフオーダーや自動発注などのDX導入が不可欠です。

居酒屋の年収は、あなたが選択する「立場(従業員か経営者か)」と、実行する「戦略(特にFL管理とDX導入)」によって、400万円にも、1,000万円以上にもなり得るのです。

この記事の投稿者:

垣内

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