
あなたが選んだ飲食店の「種類」が、数年後の収益を大きく左右します。正しい業態を選ぶことで、競争の激しい市場でも安定した経営基盤を築くことが可能になります。
この記事を最後まで読めば、あなたは飲食店の多様なビジネスモデル(業態)を深く理解できます。さらに、2026年以降の市場トレンドや、複雑な「営業許可」と「営業届出」の違いまで、明確に把握できるでしょう。
成功の道筋は、決して曖昧なものではありません。ここで解説する分類軸と法的知識は、これから開業を目指すあなたや、新業態を模索する経営者が、具体的な第一歩を踏み出すための確かな指針となります。
目次
飲食店「種類」の全体像 経営者が知るべき分類の軸
飲食店の「種類」と聞くと、多くの人は「中華料理店」、「洋食屋」、「パン屋」といった料理のジャンルを想像するかもしれません。しかし、飲食店の経営を成功させる上で、料理ジャンルは「何を」売るかという要素の一つに過ぎません。
経営的視点でより重要なのは、「どのように」売るか、すなわち「業態(ビジネスモデル)」の選択です。
近年の市場変化が、この事実を明確に示しています。テイクアウトやデリバリーの需要が急増した結果、「ゴーストレストラン」や「バーチャルレストラン」といった新しい業態が急速に拡大しました。これは、飲食店の成功要因が、従来の「立地」や「ジャンル」から、「ビジネスモデルの柔軟性と効率性」へ移行したことを意味します。
例えば「中華料理」というジャンルは、従来の「イートイン(店内飲食)」だけでなく、「ゴーストレストラン」や「バーチャルレストラン」としても提供できます。事業の収益性やリスクは、ジャンルそのものより「どの業態を選ぶか」に大きく左右されるのです。
本レポートでは、現代の飲食店ビジネスを分析するため、経営的な分類軸として以下の3つを定義します。
サービス形態(顧客接点)
イートイン(店内飲食)、テイクアウト(持ち帰り)、デリバリー(配達)の3つに分類されます。
提供モデル(施設形態)
実店舗型、バーチャルレストラン、ゴーストレストランといった分類です。
専門性(メニュー戦略)
総合型(ファミリーレストランなど)と専門特化型(おにぎり専門店など)に分けられます。
主要な飲食店の業態 メリット、デメリット、収益モデルの徹底比較

飲食店の業態を「イートイン型」と「非イートイン型」に大別します。それぞれの代表的なモデルが持つ収益構造とリスクを、詳細に比較分析します。
イートイン型(店舗型)経営の分析
顧客との直接的な接点、すなわち「空間」と「接客」そのものが商品価値の一部となる伝統的なモデルです。
カフェ・喫茶店
メリット
カフェ・喫茶店は、コンセプトの自由度が高く、経営者のこだわりを反映しやすい業態です。開業のハードルが低いと認識されている側面もあります。
居抜き物件(前の店舗の設備が残った物件)が多く、初期投資を抑えられる可能性があり、1人での運営も可能です。リピート客がつけば、長期的に安定した経営が期待できます。基本的に現金収入のため、資金繰りがしやすい点もメリットです。
注意点
「開業しやすい」という言葉は、法的手続きの簡便さを意味しません。実際には「食品衛生責任者」「飲食店営業許可」に加え、提供するものによっては「菓子製造業許可」、店舗規模によっては「防火管理者」の資格も必要です。
この「開業しやすさ」とは、小規模・1人でも運営可能といった「オペレーションの参入障壁」が低いことを指しています。法的なハードルは他の飲食店と変わらないため、注意が必要です。
居酒屋
メリット
アルコール類など、利益率の高い商品を提供できるのが大きな強みです。小規模な店舗でも採算が見込めます。
メニュー構成によって他店との差別化がしやすく、リピート客の獲得が経営の安定化に直結します。
成功のポイント
成功には「コンセプト」「立地」「集客」「接客」の4要素が重要です。
陥りがちな失敗
計画性のない資金計画や、工夫のない集客活動は失敗につながりやすいとされています。
専門店(ラーメン屋など)
メリット
メニューを特定の商品に特化させることで、効率的なオペレーションと高い専門性を両立できます。
陥りがちな失敗
資金管理の失敗が挙げられます。売上のために原価を上げすぎたり、家賃や人件費とのバランスが崩れたりすると、経営は立ち行かなくなります。
また、他店の「真似ごと」で終わり、差別化ができないケースも見られます。
イートイン型共通のリスク
イートイン型に共通するリスクは、重い固定費です。居酒屋とラーメン屋の失敗要因として、共通して「資金計画の欠如」が挙げられています。家賃、人件費、光熱費といった固定費が経営を圧迫します。
コンセプトが市場に受け入れられ、リピーターを掴めば高い利益率を期待できますが、損益分岐点に達するまでの資金管理が極めて重要です。
非イートイン型(デリバリー特化型)経営の分析
物理的な「場所」の制約から解放されたモデルです。市場が急拡大する一方で、新たな課題も抱えています。
ゴーストレストラン
定義
実店舗を持たず、デリバリー(配達)のみで商品を提供する業態です。ゴーストレストランという言葉は、店舗が存在しない(幽霊=ゴースト)ことに由来します。注文や配達は、他社のプラットフォームを利用することが一般的です。
メリット
初期費用と運営コストを大幅に削減できます。具体的には、店舗の立地や面積にかかる固定費(家賃)、接客の人件費を削減できます。
席数や回転率による売上の制限がありません。開業までの期間が短く(最短3週間との例も)、商品開発に集中できる点も強みです。
開業方法
自宅の台所や、既存店舗の一部を間借りする方法、または複数の事業者で厨房設備を共有するシェアキッチン(クラウドキッチン)を活用する方法があります。
デメリットとリスク
プラットフォームに支払う高い手数料(相場は商品代金の約35%から40%)が利益を圧迫します。また、顧客との直接的な接点がないため、リピーターを育成しにくいという課題があります。
過去に「実態が不透明で消費者トラブルが多発した」「味の品質が安定しない」「保健所の許可を得ていない違法業者が存在した」といった問題があり、ネガティブなイメージを持つ消費者がいることも事実です。
バーチャルレストラン
定義
既存の実店舗(例:居酒屋)が、空いた時間(アイドルタイム)や既存の設備を活用し、実店舗とは異なる業態(例:唐揚げ屋)としてデリバリー営業を行う形態です。
ゴーストレストランとの違い
バーチャルレストランは「実店舗が存在する」のに対し、ゴーストレストランは「実店舗が存在しない」点が決定的な違いです。
従来の出前との違い
従来の出前(フードデリバリー)は「実店舗と同じ商品」を扱いますが、バーチャルレストランは「実店舗と異なる商品」を扱います。
メリット
既存の設備、アイドルタイム、人材を有効活用できます。初期費用をほぼゼロに抑えることが可能であり、運営コストの増加も少なく済みます。
非イートイン型の戦略的違い
これら非イートイン型は、競合するモデルではなく、対象となる経営者が異なります。
新規開業者がゼロからデリバリー市場に参入する場合の選択肢は「ゴーストレストラン」です。ただし、高い手数料とブランド構築の難しさというリスクを負います。
一方、「バーチャルレストラン」は、既存の飲食店経営者が、既存資産を活用して低リスクで売上を上乗せするための「売上最適化(アドオン)戦略」と言えます。
なお、ゴーストレストランの天候耐性については、異なる見解が存在します。「天候に左右されにくく安定的に営業できる」という主張と、「天候の影響を受けやすい」という主張です。
これは視点の違いから生じています。前者は、イートイン型のように「悪天候で客足が途絶える」という店舗運営上のリスクがないことを指します。後者は、デリバリープラットフォームの「配達インフラ」が悪天候(大雨、猛暑)で機能不全に陥るリスクを指します。経営者にとっては、後者の「配達インフラのリスク」が、より現実的な課題となります。
2026年以降の市場トレンド 今、注目すべき飲食店とは
業態を選定する上で、現在の市場トレンドを把握することは不可欠です。2026年に向けて注目される3つの大きな潮流を解説します。
「多様性」への対応 健康志向とウェルネス
社会全体の健康志向の高まりは、一過性のブームではなく、基本的なニーズとして定着しています。これは「食のDEI(Diversity, Equity, and Inclusion:多様性・公平性・包括性)」とも呼ばれ、一人ひとりのニーズに合わせた食の提供が求められます。
具体的なメニュー例
ビーガン・プラントベースの例としては、「オーツミルクラテ」や「ビーガンサンドイッチ」、「ソイミート」が挙げられます。
グルテンフリーでは「グルテンフリーラーメン」や「低糖質パスタ」、「米粉パンケーキ」などが注目されています。
ウェルネスの観点では「発酵食品カフェ」や「腸活ランチ」といった業態も登場しています。
これらの健康志向メニューは、もはや専門店だけのものではありません。大手コーヒーチェーンやファミリーレストランでもレギュラー化が進んでいます。このトレンドは、すでにニッチ市場からマス市場(主流)へと移行しています。
成功のポイントは、例えば「通常のパスタ」と「豆の麺」を顧客が自由に選べるようにするなど、「選択肢の提供」です。これにより、健康志向の顧客を新たに取り込みつつ、既存の顧客層も維持できるため、顧客基盤の拡大につながります。
「レトロ」の再解釈 懐かしさと専門特化
AIやDX(デジタルトランスフォーメーション)が加速する現代において、ノスタルジー(懐かしさ)や人の手作り感への回帰が起きています。
具体的な業態例
昭和レトロとしては、「ナポリタン」や「プリンアラモード」、純喫茶のインテリア、「昭和モーニングセット」が人気です。
専門特化の例では、「おにぎり専門店」や「プリンだけ扱うショップ」が見られます。
高級志向では、「和牛&寿司食べ放題」など、ディナー単価が5,000円を超えるような高級食べ放題も増えています。
ここで注目すべきは、「レトロ回帰」と「専門店化」が密接に関連している点です。「レトロ」とは、現代の複雑なメニューに対する「シンプルな専門性」への回帰とも言えます。
例えば、「昭和モーニングセット」と「おにぎり専門店」は、どちらも「ファミリーレストラン」のような多角的なメニュー展開とは対極にあります。これらは「メニューを絞り込み、単価と品質、効率を両立させる」というビジネスモデルです。「レトロ」は、その戦略を正当化する「懐かしさ」という付加価値(=体験)を提供します。
「体験型」の追求 五感で楽しむ食
単に「美味しい」だけでは差別化が難しい現代において、「味+体験」による感覚的な満足度が求められます。
具体的なアプローチ例
SNSとの連動では、「推し色ドリンク」やアニメとのタイアップフードが挙げられます。
文脈の提供としては、サウナ施設発の「ととのい飯」や「ご当地ソフトクリーム」のフェアなどがあります。
五感への訴求として、視覚、香り、音、触感を活用した空間演出も重要です。
「体験型」のトレンドは、SNSでの拡散を強く意識しており、顧客がその場に「居る」ことが前提となります。これは、「ゴーストレストラン」モデルの弱点を突くものです。
ゴーストレストランの弱点は「顧客との接点がない」こと、「ブランドの実態が不透明」であることです。対照的に、「体験型」はイートイン型でしか提供できない究極の強み(=配達不可能な価値)を追求する戦略です。飲食市場が、「効率・利便性特化(デリバリー)」と「高付加価値・体験特化(イートイン)」の二極に分かれつつあることを示唆しています。
開業前に必須の知識 飲食店経営に必要な「許可」と「届出」

どのような業態を選ぶにせよ、法規制の遵守は事業の絶対条件です。特に2021年6月の食品衛生法改正により、制度が大きく変わりました。
飲食店開業の「壁」 必要な許認可の全体像
飲食店を開業するには、主に以下の許認可・資格が必要です。
飲食店営業許可
保健所から取得する、最も中核となる許可です。
食品衛生責任者
各店舗に1名必ず配置しなければならない資格です。講習会の受講などで取得できます。
防火管理者
収容人数が30名以上の規模の店舗で必要となる資格です。
消防署への届出
「防火対象物使用開始届出書」など、火気設備に関する届出が必要です。
警察署への届出
深夜0時以降に酒類を提供する場合は「深夜酒類提供飲食店営業開始届」が必要です。
営業許可の取得プロセスは、おおむね以下の流れで進みます。
- 保健所に事前相談する
- 営業許可の申請を行う
- 検査日程などを調整する
- 保健所の検査
- 営業許可証が交付される
- 営業開始
申請プロセスは「食品衛生申請等システム」などを利用してデジタル化されています。しかし、このプロセスで最も重要なステップは、アナログな「事前相談」です。
店舗の工事が始まった後や完了後に、施設基準(例:手洗い場の数や位置)を満たしていないことが発覚すると、多大な修正費用と時間がかかります。申請自体はオンラインでできても、許可が下りるかどうかは物理的な設備が基準を満たしているかにかかっています。したがって、開業者(ペルソナ)が最初に行うべきは、店舗の図面を持って保健所に相談に行くことです。
2021年食品衛生法改正のポイント 「許可」と「届出」の決定的違い
2021年6月の法改正により、従来の「営業許可」に加え、「営業届出」という制度が創設されました。
改正の背景
改正の背景には、まずHACCP(ハサップ)の制度化があります。すべての食品事業者にHACCPに沿った衛生管理を義務付けることが目的です。
次に、事業者の把握が挙げられます。届出制度により、従来は行政が把握しにくかった事業者(例:包装済み食品の販売のみを行う店)も把握できるようになりました。
また、実態とのズレの解消も目的です。近年の食の多様化に、従来の許可業種区分(例:「飲食店営業」と「喫茶店営業」が別だった)が合わなくなっていたためです。
HACCP(ハサップ)とは
「Hazard Analysis and Critical Control Point」の略で、日本語では「危害要因分析重要管理点」と訳されます。食品の製造工程全体を通じて、食中毒などの健康被害を引き起こす要因(危害)を分析し、特に重要な管理点を定めて監視・記録する、国際的な衛生管理手法です。
「営業許可」と「営業届出」の制度上の違い
「営業許可」は、食中毒リスクが比較的高いとされる業種(例:飲食店営業、菓子製造業、乳処理業など32業種)に必要です。
「営業届出」は、許可業種以外で、リスクが比較的低いとされる業種(例:包装済みの食肉や魚介類の販売、製茶業、食料品等販売業)が対象です。
開業者が最も混乱する「許可」と「届出」の違いを、以下の表に整理します。
| 項目 | 営業許可 | 営業届出 |
| 概要 | 食中毒等のリスクが高い業種 | 許可業種以外で、リスクが比較的低い業種 |
| 目的 | 公衆衛生への影響を未然に防ぐ | HACCP義務化に伴う事業者の把握 |
| 施設基準 | あり (都道府県の定める基準。保健所の検査を通過する必要がある) | 原則なし |
| 手数料 | あり (例:東京都 18,300円など) | 原則なし |
| HACCP管理 | 必須 | 必須 |
| 対象業種の例 | ・飲食店営業 ・菓子製造業 ・乳処理業 | ・包装済みの食肉や魚介類の販売 ・製茶業 ・食料品等販売業 |
この法改正の本質は、HACCPの義務化です。「届出」は施設基準や手数料が原則不要ですが、それで「楽になった」と考えるのは早計です。
許可業種(飲食店)も届出業種(弁当販売)も、等しくHACCPに沿った衛生管理が求められます。つまり、低リスク業種に対する「参入のハードル(検査・手数料)」は下がりましたが、「営業開始後の運営責任(衛生管理)」はすべての事業者において重くなったと理解すべきです。
結論 成功する飲食店選びの要点再確認
本レポートでは、飲食店の「種類」について、3つの側面(ビジネスモデル、市場トレンド、法規制)から詳細に分析しました。最後に、成功する業態選びのための要点を再確認します。
ビジネスモデルの選定
経営の成功は「ジャンル」ではなく「業態」で決まります。イートイン型は、重い固定費と引き換えに高い利益率を目指すモデルです。対して非イートイン型は、初期費用を抑えられますが、高い変動費(手数料)やブランド構築の難しさという課題を抱えます。
市場トレンドの把握
市場は「多様性(健康志向)」、「レトロ(専門特化)」、「体験型」へと動いています。これらは、既存の業態に「アドオン(付加)」できる価値です。自身のビジネスモデルとどう組み合わせるかを戦略的に設計する必要があります。
法規制の遵守
2021年の法改正により、すべての事業者にHACCPに沿った衛生管理が義務付けられました。自身の業態が「許可」と「届出」のどちらに該当するかを正確に把握してください。特に「許可」が必要な場合は、計画段階で保健所に「事前相談」することを強く推奨します。
最適な「種類」を見つけることは、飲食業成功の第一歩です。この分析が、あなたの戦略的な意思決定の一助となることを願います。



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