
「売上は立つのに、なぜか月末に利益が残らない」。この多くの経営者が抱える深刻な悩みを解決し、安定的に営業利益10%超を生み出す経営体質を手に入れる未来を提示します。
この記事を読み終えたとき、あなたは「どんぶり勘定」がいかに危険であったかを理解し、自店の経営状態を数値で正確に把握する方法を身につけています。
難しい会計知識は不要です。「FLコスト」や「メニュー分析」など、すぐに実践できる具体的な手順に絞って解説します。原価高騰や人手不足の時代でも、データに基づいた改善は必ず実行できます。
目次
なぜあなたの店は「忙しいのに儲からない」のか? 利益率の現実
飲食店経営者が直面する「利益なき繁忙」
多くの飲食店経営者が「忙しいのに儲からない」というジレンマに直面しています。飲食店経営は、その構造上「利益率の低さ」と「売上の不安定さ」という難しさを抱えています。
特に近年、この問題は深刻化しています。その背景には、経営者が直接コントロールしにくい、2つの大きな外部環境の変化があります。
第1に、「原材料費の高騰」です。食材価格の上昇は、飲食店の利益の源泉である「原価」を直撃し、利益率を圧迫します。
第2に、「深刻な人手不足」です。スタッフの採用が困難になり、定着率が低下すれば、求人広告費の増加や、離職を防ぐための賃金上昇(人件費の上昇)につながります。
つまり、何もしなければ「食材原価(Fコスト)」と「人件費(Lコスト)」は自動的に上昇し、利益は確実に減少していきます。
経営者が「飲食店 利益率」と検索する背景には、この「利益なき繁忙」に対する強い危機感があります。売上を伸ばす努力と同時に、利益率そのものを改善する「経営体質の転換」が、今まさに求められています。
経営の「健康診断」 利益の種類と目指すべき水準
経営改善の第一歩は、正しい「利益」を理解することから始まります。多くの経営者が「粗利(あらり)」という言葉を使いますが、それだけを見ていては経営判断を誤ります。
利益の種類 経営者が見るべきは「営業利益」
経営者が把握すべき利益は、主に2つあります。
1つ目は、売上総利益(粗利)です。これは、単純な売上から食材原価を引いたものです。計算式は 売上総利益 = 売上高 – 売上原価 となります。これは、メニュー自体の「儲けのポテンシャル」を示します。
2つ目は、営業利益です。これが、最終的に経営者の手元に残る利益です。計算式は 営業利益 = 売上総利益 – 販売費および一般管理費 となります。「販売費および一般管理費(販管費)」とは、食材原価以外のすべてのコスト、すなわち人件費、家賃、水道光熱費、広告宣伝費などの合計です。
「粗利」がどれだけ多く見えても、そこから「販管費」を引いた「営業利益」がマイナスであれば、店は赤字です。「どんぶり勘定」から脱却するとは、管理する指標を「粗利」から「営業利益」へシフトすることを意味します。
飲食店 利益率の平均と目標値
では、営業利益率はどれくらいを目指すべきでしょうか。
飲食業界全体の営業利益率の平均は、約8.6%とされています。しかし、これはあくまで平均値です。安定した経営(黒字化)を維持し、未来への投資(新メニュー開発や改装)を行うためには、営業利益率10%~15%を安定的に確保することが理想です。
注目すべきは、業界の「平均値(8.6%)」が、安定経営の「目標値(10%超)」を下回っている点です。これは、平均的な経営状態では、突発的な支出(例:厨房機器の故障)や売上の落ち込みに対応できず、常に不安定な状態にあることを示唆しています。
目指すべきは「業界平均」ではなく、「安定経営ラインである10%超」です。
ただし、この目標値(利益率)に至るまでのコスト構造は、業態によって大きく異なります。「飲食店の原価率は一律30%が目安」という言葉を鵜呑みにすると、経営を誤る可能性があります。
例えば、カフェや喫茶店は、食材原価(F)を低く抑えられますが、「時間を過ごす場」としてのサービス品質が求められるため、人件費(L)が高くなる傾向があります。
一方で、ラーメン店は、カウンター中心のオペレーションで人件費(L)を抑えやすい一方、スープやチャーシューといった食材原価(F)は高くなる傾向があります。
自店の業態特性に合った、適切なコストバランスを知ることが重要です。
表1 業態別 経営指標の目安
| 業態 | 営業利益率 (目安) | 原価率 (目安) | 人件費率 (目安) |
| カフェ・喫茶店 | 5%~10% | 25%~35% | 35%~45% |
| 居酒屋 | 1%~5% | 30%~40% | 30%~40% |
| ラーメン店 | 5%~10% | 30%~35% | 25%~35% |
| レストラン | 0.5%~6% | 30%~35% | 30%~40% |
| ファーストフード | 1%~8% | 30%~40% | 25%~35% |
(出典データを基に作成)
経営状態を「見える化」する3つの最重要指標

営業利益率10%を目指すために、経営者は3つの重要な経営指標を「見える化」し、管理下に置く必要があります。
指標1 最重要指標「FLコスト」の管理
飲食店経営における最も重要な指標が「FLコスト」です。
- F = Food(食材原価)
- L = Labor(人件費)
FLコストとは、この2大コストを合計したものです。そして、売上高に占めるFLコストの割合を「FL比率」(FL比率 = (食材原価 + 人件費) ÷売上高 × 100)と呼びます。この数値が、その店の収益力を端的に示します。
表2 FL比率 経営状態診断
| FL比率 | 経営状態の評価 |
| 50%以下 | 超優良 |
| 50%~55% | 優良(目指すべき水準) |
| 55%~60% | 一般的な水準 |
| 60%~65% | 危険域(無駄の見直しが必須) |
| 65%以上 | 破綻レベル |
(出典データを基に作成)
なぜF(原価)とL(人件費)を「合計」で管理するのでしょうか。それは、FとLがトレードオフ(一方を立てれば一方が立たず)の関係にあるからです。
例えば、「カット済み野菜」(Fコストは高い)を仕入れれば、厨房での仕込み時間(Lコスト)は下がります。
逆に、「ブロック肉」(Fコストは安い)を仕入れれば、筋引きやカットに時間がかかり、仕込みの時間(Lコスト)は上がります。
もし経営者がFコスト(原価率30%)だけを追求し、ブロック肉の仕入れに変えた結果、仕込み時間が激増してスタッフの残業代(Lコスト)が跳ね上がり、FL比率(合計)が65%の「危険域」に入ってしまっては、本末転倒です。
重要なのは「FL合計で55%」という目標を持ち、その範囲内で、自店にとって最適なFとLのバランス(例:F=35%, L=20%)を見つけることです。
指標2 黒字経営の生命線「損益分岐点」の把握
次に把握すべきは「損益分岐点」です。
損益分岐点とは、売上高と費用(コスト)がちょうど等しくなり、利益も損失もゼロになる売上高を指します。これ(損益分岐点売上高)を下回れば赤字、上回れば黒字です。
つまり、自店が「最低いくら売れば赤字にならないのか」という、黒字経営の生命線を示す数値です。
この計算は、まず自店の費用を2種類に分類することから始まります。1つ目は変動費で、売上に比例して増減する費用(例:食材原価、アルバイト人件費)です。2つ目は固定費で、売上に関わらず一定にかかる費用(例:家賃、正社員給与、リース料)です。
計算式は以下の通りです。
損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ { 1 – (変動費 ÷ 売上高) }
(※ 1 – (変動費 ÷ 売上高) の部分は「限界利益率」と呼ばれます)
損益分岐点は、計算して「知る」だけでは意味がありません。経営者が「戦略的に活用する」ためのツールです。
この計算式を使えば、「もし家賃(固定費)を月5万円安い場所に移転したら、損益分岐点(黒字化ライン)はいくら下がるか?」や、「もし原価率(変動費)を1%改善できたら、黒字化に必要な売上高はいくら減るか?」といった経営改善シミュレーションが可能になります。
指標3 「何が売れているか」を把握するABC分析
3つ目の指標は、メニュー分析の第一歩である「ABC分析」です。
これは、全メニューを「売上高」の順に並べ、売上への貢献度に応じてランク付けする手法です。これにより、経営者は「経験や勘」に頼らず、データに基づいて「どの商品が売れ筋か」を把握できます。
一般的な分類基準は以下の通りです。Aランクは、売上累計構成比が0%~70%の、店の売上の7割を稼ぐ主力商品群です。Bランクは、売上累計構成比が70%~90%の、準主力商品群です。Cランクは、売上累計構成比が90%~100%の、売上貢献度が低い商品群です。
しかし、このABC分析には重大な「罠」があります。ABC分析は、あくまで「売上高(あるいは出数)」しか見ておらず、「利益率(儲け)」を見ていません。
もし、Aランクの主力商品が、実は原価が非常にかかる「儲からない商品」だったらどうでしょうか。ABC分析の結果だけを信じて、そのAランク商品をさらに推奨販売すると、「売れば売るほど忙しくなるのに、利益は増えない」という、経営者が最も避けたい事態を自ら加速させてしまいます。
ABC分析は「人気度」を測るには優れていますが、「利益貢献度」を測るには不十分です。この致命的な弱点を補うために、次の「メニューエンジニアリング」が不可欠となります。
利益を最大化する戦略的メニュー分析「メニューエンジニアリング」
ABC分析の弱点と「メニューエンジニアリング」の必要性
ABC分析が「人気度」という1つの軸でしかメニューを見られないのに対し、「メニューエンジニアリング」は、「人気度(出数)」の軸と「利益額(1皿あたりの貢献利益)」の2つの軸でメニューを科学的に分析し、収益の最大化を目指す手法です。
これこそが、「忙しいだけの店」から「利益が残る店」へと脱却するための、最も強力な分析手法です。実際にこの分析手法を導入し、メニュー構成を見直すことで、店全体の粗利率が3%改善したという事例もあります。
メニューを4つのカテゴリーに分類する
メニューエンジニアリングでは、すべてのメニューを以下の4つの象限(カテゴリー)に分類します。
「スター (Star)」は、人気が高く利益も高い、看板商品であり花形商品です。誰もが好み、かつ店も儲かります。
「プロブレム (Problem / Puzzle)」は、人気が低く利益が高い商品です。店としては儲かるが、あまり注文されません。知られていないか、魅力が伝わっていない可能性があります。
「オポチュニティ (Opportunity / Plowhorse)」は、人気が高く利益が低い商品です。よく売れるが、儲かりません。「忙しいのに儲からない」原因となっている可能性が高いです。
「ドッグ (Dog)」は、人気が低く利益も低い商品です。注文もされず、儲かりも少ないため、改善または削除の対象となります。
表3 メニューエンジニアリング 4象限分析
| 利益額 \ 人気・出数 | 低 (Low) | 高 (High) |
| 高 (High) | プロブレム (Problem) 利益は高いが人気が低い(売り込みが必要な商品) | スター (Star) 利益も人気も高い (お店の看板商品) |
| 低 (Low) | ドッグ (Dog) 利益も人気も低い (メニューからの除外候補) | オポチュニティ (Opportunity)人気は高いが利益が低い (値上げや原価低減が必要) |
(出典分類に基づき作成)
カテゴリー別に見る具体的な改善策
この4分類に基づき、メニューごとに明確な「戦略」を立てます。
スター (Star) への戦略 現状維持と露出最大化
品質を絶対に落とさず、メニュー表の最も目立つ「一番良い場所」に配置します。これが店の収益の柱です。
プロブレム (Problem) への戦略 露出強化と注文誘導
利益率が高いため、これが売れれば売れるほど店の利益は増えます。メニュー表に写真を追加し、魅力的な説明文を載せます。スタッフが積極的に声がけし、推奨する(クロスセル)ことも有効です。「スター」商品など、人気のAランク商品とのセットメニューを組む方法もあります。
オポチュニティ (Opportunity) への戦略 利益率の緊急改善
これは「利益なき繁忙」の主犯です。人気があるため、下手に触ると客離れのリスクがありますが、放置すれば利益は圧迫され続けます。
慎重な「値上げ」を検討します。その際、食材の産地や調理法の特徴をメニューに記載し、「価値」をしっかり伝えることで、価格への納得感を高めます。ポーション(量)や付け合わせを見直し、原価を下げることも考えられます。これを注文した顧客に、高利益のドリンクやデザート(プロブレム商品)を確実にセットで推奨(クロスセル)し、注文全体の利益率を引き上げることも重要です。
ドッグ (Dog) への戦略 削除または大幅な見直し
メニューから外すことを第一に検討します。メニュー数を絞ることは、顧客の選択をしやすくする効果と、厨房の仕込み負担(Lコスト)や在庫(Fコスト)を減らす効果も生みます。
利益率を圧迫する「コスト」の徹底削減
メニュー分析と並行して、利益を圧迫する「3大コスト」の削減に、即時着手する必要があります。
食材原価(Fコスト)の削減策
Fコストの削減は、単なる「仕入れ業者の見直し」や「低原価メニューの開発」だけではありません。最も即効性があり、料理の品質を落とさずに実行できる削減策は、「食材ロスの削減」です。廃棄は、原価率100%の損失です。
ロスの現状把握
まず「何を」「なぜ(仕込みすぎ、調理ミス、キャンセル等)」「どれだけ」廃棄しているかを記録します。エクセルや専用アプリ、POSレジの機能を使います。
在庫管理の徹底
ロス(廃棄)の多くは、不適切な在庫管理から生まれます。「先入れ先出し」をルール化し、徹底します。冷蔵庫内を整頓し、賞味期限が短いものを手前に置くなど、誰もが一目でわかる仕組みを作ります。
発注の見直し
「勘」や「経験」に頼った発注をやめます。過去の客数や曜日、天候別の消費データを参照し、適切な発注量を決定します。
Fコストの削減は、業者に交渉する前に、まず自店の冷蔵庫の中を「見える化」し、廃棄(ロス)の記録とルールの徹底から始めるのが鉄則です。
人件費(Lコスト)の削減と最適化
深刻な人手不足の状況下において、Lコストの削減は「スタッフを減らす」ことではありません。「業務効率化」によって「生産性を上げる」ことを意味します。
その最も強力な手段が、DX(デジタル・トランスフォーメーション)の活用です。
注文・会計のDX
モバイルオーダーやセルフレジを導入し、注文取りと会計業務を自動化・省人化します。
在庫・発注のDX
AIによる需要予測で発注を最適化し、Fコストのロス削減と、発注業務(Lコスト)の工数を同時に削減します。
シフト・労務のDX
シフト管理システムが、過去の売上データに基づき、無駄のない最適な人員配置(アイドルタイムの削減)を支援します。
特に注目すべきは、モバイルオーダーやセルフレジといったDXツールの「二重の効果」です。
第1に、ホールスタッフの作業を自動化し、Lコストを削減します。
第2に、これらは「客単価アップ」にも直接貢献します。システムは、人間がためらいがちな「ご一緒にポテトはいかがですか?」といったクロスセルの提案を、疲れ知らずに100%実行します。ある店舗では、POSレジとセルフオーダーシステムの導入で、業務効率化と同時に客単価が13%~15%向上したという事例も報告されています。
ただし、設計が悪いと逆に注文単価を下げてしまうリスクもあり、導入が目的化しないよう、戦略的な設計が必須です。
軽視できない「固定費」の削減
売上に関わらず発生する固定費は、利益を圧迫する大きな要因です。
家賃
固定費の中で最も大きな割合を占めます。出店時に、事業モデルに適した家賃設定を行うことが、経営成功の鍵となります。
水道光熱費
地道な削減ですが、省エネ(固定費削減)は「最も確実な“増益策”」と呼べます。
なぜなら、売上向上策は顧客の反応次第で不確実ですが、コスト削減は「実行すれば100%利益になる」からです。水道光熱費が月1万円下がれば、それは営業利益がそのまま1万円増えることを意味します。
まずは、何にどれだけ使っているかを「見える化」します。次に、厨房の運用ルールを作成し、バックヤードに掲示します。例えば、「一斉ON禁止」(立ち上げは順番に行う)、「熱いまま冷蔵庫に入れない」(粗熱を取ってから)、「食洗機は満載時のみ運転する」、「最後に主電源OFFを声出し確認する」といったルールです。洗い場に節水ノズルを導入するなど、小さな設備投資も効果的です。
派手さはありませんが、この地道な積み重ねこそが、利益を生み出す強い体質を作ります。
利益体質を強化する「売上」の最大化
コスト削減は「守り」の戦略です。同時に、利益率の高い「攻め」の戦略として、売上の最大化、特に「客単価アップ」に取り組みます。
「値上げ」ではなく「客単価アップ」を実現する施策
客単価アップは、大規模な投資をせずに売上を伸ばせる、効率的な経営改善手法です。ただし、単価を上げすぎると来店客数が減るため、バランスが重要です。
この施策は、前述の「メニューエンジニアリング」の分析結果を「実行」に移すプロセスでもあります。
クロスセル(合わせ買い)の実践
ドリンク、トッピング、サイドメニュー、デザートなど、「あと一品」を推奨します。特に、メニューエンジニアリングで特定した「プロブレム(高利益・低人気)」商品を積極的に推奨します。ドリンクは料理注文時、デザートは食事の終盤など、顧客の食事の流れに合わせたタイミングで提案します。
アップセル(上位商品の推奨)
「松・竹・梅」の価格設定を導入します。顧客が「真ん中(竹)を選ぶと結果的に得だ」と感じるような、戦略的な価格設計が鍵です。
メニュー表の工夫
メニュー表は、スタッフに代わって営業活動を行う「静かなセールスマン」です。
メニューエンジニアリングで特定した「スター(高利益・高人気)」と「プロブレム(高利益・低人気)」を、メニュー表の最も目立つ位置に配置します。食材の産地や調理法の特徴を記載します。価格以上の「価値」が顧客に伝われば、顧客は高い価格でも満足してくれます。
リピーターを増やし売上を安定させる
利益率の改善は、売上の「安定」があってこそです。そして、売上の安定は「リピーター」によってもたらされます。
顧客満足度(CS)の向上
リピーター獲得の絶対的な基盤は、顧客満足度(CS)です。
スムーズなサービス提供や、感謝の気持ちを伝える接客力を高めます。接客マニュアルを作成し、サービス品質を標準化します。
ここで、経営者は「人手不足」と「顧客満足度」の悪循環に気づく必要があります。ある調査では、CS向上策の一つとして「人手不足を解消する」ことが挙げられています。人手不足で現場が疲弊していると、スタッフは注文をさばく「作業」に追われ、「感謝を伝える」といった質の高い「接客」ができません。結果、CSが低下し、リピーターが減り、売上が不安定になるという悪循環に陥ります。
前述したDX(モバイルオーダー等)の導入は、この悪循環を断ち切る鍵でもあります。「作業」を自動化することで、スタッフは初めて「接客(おもてなし)」に集中でき、CSが向上し、リピーターが増えるという好循環を生み出せるのです。
SNSの戦略的活用
SNSは、リピーターとの関係を維持する強力なツールです。
目的(新規獲得か、リピーター向けか)を明確にして運用します。お客様が投稿した「#(店名)」などの投稿には、積極的に「いいね」やリポスト(拡散)で反応します。「SNSフォローでドリンクサービス」など、店内のPOPと連動させ、オンラインとオフラインの相乗効果を生みます。
特別考察 デリバリーとテイクアウトの利益構造

コロナ禍以降、多くの飲食店がデリバリーやテイクアウトを導入しました。しかし、これは「売上」は増えるが「利益」は増えない(むしろ減る)という罠にはまる典型例です。
デリバリーの手数料と利益率の関係
最大の問題は、プラットフォームに支払う高額な手数料です。売上の30%~35%にもなるこの手数料が、利益率を急落させます。
例えば、店内で原価率30%(粗利70%)で販売しているメニューを考えます。
デリバリーで同じ価格で売ると、原価30% + 手数料35% = コスト65% となり、粗利はわずか35%に激減します。これはFコスト(原価と手数料)だけで65%であり、Lコスト(人件費)を払う余地がほとんどありません。
デリバリー売上の比率が50%を超えると、手数料負担で経営が依存化し、利益率が急落するという危険なラインです。
経営者は、デリバリーの売上と利益計算を、店内飲食と完全に分離して管理しなければなりません。「デリバリー粗利 = 売上 – 原価 – 手数料」を正確に計算し、実態を把握することが必須です。
デリバリーで利益を出す戦略
デリバリーを「利益貢献事業」にするには、戦略的な設計が必要です。
専用メニューの開発
店内メニューをそのまま載せるのではなく、高い手数料を前提とした、高利益率の「デリバリー専用メニュー」を別途設計します。
オペレーションの分離
店内の調理動線とデリバリーの動線を分離し、互いの生産性を落とさない工夫が必要です。
自社システムの導入
プラットフォームに依存せず、「自社テイクアウトオーダーシステム」を導入し、手数料を回避します。
10%の利益を生み出す経営改善ロードマップ(結論)
「忙しいのに儲からない」状態から脱却し、安定的に利益を生み出す体質を作るためのロードマップを、4つのステップで総括します。
ステップ1 現状把握(健康診断)
まずは自店の「今」を数値で知ることから始めます。自店の営業利益率、FL比率、損益分岐点の3つを計算します。営業利益率10%超、FL比率55%以下を明確な目標として設定します。
ステップ2 課題の特定(精密検査)
次に、「勘」を捨て、データで課題を特定します。ABC分析とメニューエンジニアリングを実行します。同時に、食材ロスの記録を開始します。自店の「オポチュニティ(儲からない人気商品)」と「プロブレム(儲かる不人気商品)」を特定します。
ステップ3 短期改善(応急処置と戦略実行)
すぐに実行できる「利益改善」に着手します。コスト削減のアクションとして、厨房の「省エネルール」の掲示、節水ノズルの導入、在庫管理と「先入れ先出し」の徹底を行います。売上向上のアクションとして、ステップ2の分析に基づき、メニュー表のレイアウト変更、スタッフによる「プロブレム」商品の推奨(クロスセル)を開始します。
ステップ4 中長期改善(体質改善)
継続的な利益創出のために、経営の構造に手を入れます。人手不足解消と客単価アップを両立するDXツール(モバイルオーダー等)の導入を本格的に検討します。仕入れ業者の見直しや、デリバリー専用メニューの開発に着手します。
利益率改善は「継続的なデータ活用」から始まる
飲食店経営において、利益率の改善は一度きりのイベントではありません。
「どんぶり勘定」を卒業し、「営業利益率10%」を明確な目標とすること。「FLコスト」と「損益分岐点」で経営を可視化すること。そして「メニューエンジニアリング」で、真に利益を生む商品戦略を立てること。
データに基づき、コスト削減(守り)と売上向上(攻め)の施策を両輪として「継続」することこそが、原価高騰や人手不足の時代を生き抜き、安定した利益体質を築く唯一の道です。



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