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飲食店経営を始めるのに資格は必要?必須の許可と届出、調理師免許の必要性まで解説

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その開業準備、本当に万全ですか?「知らなかった」では済まされない、飲食店経営の資格と法的手続きの全知識

飲食店経営という夢の実現は、魅力的なコンセプトやこだわりのメニュー開発だけでは完結しません。その土台には、法律を遵守し、お客様の安全を守るための「資格」と「許可」という、堅実な手続きが不可欠です。

この記事は、飲食店の開業を目指す経営者や準備担当者に向けて、法的に必須とされる資格から、開業プロセスで必要な行政手続き、さらには経営を有利に進めるための推奨資格まで、そのすべてを網羅した業務レポートです。

「必要な手続きが多すぎて、何から手をつければいいかわからない」「法的な見落としがあって開業が遅れるのが怖い」。こうした不安を解消し、自信を持って開業準備を進めるための、完全なロードマップを提供します。

目次

飲食店経営に必須の2大資格 法律で定められた義務

飲食店の経営を始めるにあたり、法律で取得と設置が義務付けられている「個人」が持つべき資格が2つあります。これらは店舗の運営に不可欠なものであり、すべての準備の土台となります。

最重要となる食品衛生責任者

食品衛生責任者は、飲食店経営において最も重要かつ基本的な資格です。

食品衛生責任者とは

食品衛生責任者とは、食品衛生法に基づき、営業者が各施設に必ず1名設置しなければならない衛生管理のリーダーです。その役割は、営業者の指示のもと、施設の衛生管理計画を策定し、従業員への衛生教育や指導にあたり、食品衛生上の危害が発生しないよう店舗運営を監督することです。

2021年6月から「HACCP(ハサップ)」に沿った衛生管理が義務化されたことに伴い、この食品衛生責任者の役割は、単なる名義上の資格者ではなく、HACCPの計画と運用を担う実務責任者として、その重要性が格段に高まっています。

資格取得の3つの方法(講習・eラーニング・免除)

資格を取得するルートは、主に3つあります。

1つ目は、各都道府県の食品衛生協会が主催する「食品衛生責任者養成講習会」を受講する方法です。講習は通常1日で完了し、公衆衛生学(1時間)、衛生法規(2時間)、食品衛生学(3時間)の合計6時間のカリキュラムで構成されます。

2つ目は、eラーニングでの受講です。近年、多くの自治体で認められている方法です。神奈川県や福岡県などでは、オンラインでの講習受講が可能になっています。時間や場所を選ばずに学習できる利点がありますが、カメラ付きのパソコンやスマートフォンが必要となる場合があります。

3つ目は、資格による免除です。特定の国家資格をすでに保有している場合、上記の講習会が免除されます。代表的な資格は以下の通りです。

  • 調理師
  • 栄養士、管理栄養士
  • 製菓衛生師
  • 食鳥処理衛生管理者
  • 船舶料理士 など

これらの資格を持つ人は、講習を受けずに食品衛生責任者として登録・申請が可能です。

取得費用と講習内容

取得にかかる費用は、受講する自治体によって異なりますが、おおむね10,000円から12,100円程度です。eラーニングでも集合型講習でも、費用に大きな差はありません。講習を修了すると、「修了証」(多くの場合、手帳型のもの)が交付されます。

よくある疑問(他県での有効性、取得タイミング、HACCPとの関係)

他県での有効性

厚生労働省の指針に基づき、ある自治体で取得した食品衛生責任者の資格(養成講習会を修了した事実)は、原則として全国の他の自治体でも有効とされています。ただし、資格そのものは一度取得すれば更新不要ですが、地域によっては数年ごとに最新の知見を学ぶための「実務講習」の受講を推奨、または義務付けている場合があります。

取得タイミング

この資格は、後述する「飲食店営業許可」を保健所に申請する際の必須提出書類です。したがって、営業許可を申請する時点(通常、店舗の内装工事完了間際)より前に、必ず取得しておく必要があります。開業予定日の2か月から3か月前までには取得を完了させておくのが安全なスケジュールです。

HACCPとの関係

前述の通り、食品衛生責任者はHACCP(ハサップ)に基づく衛生管理の実行責任者です。HACCPとは、食品の安全を確保するための国際的な衛生管理手法であり、日本では小規模な飲食店でも「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」の実施が義務化されています。

具体的には、食品衛生責任者が中心となり、「衛生管理計画」を作成し、冷蔵庫の温度や従業員の健康状態などを「毎日記録」し、定期的に計画を「見直す」という一連の業務を管理します。1日の講習で得る資格は、この重責を担うためのスタートラインに立つことを意味します。

条件該当者は必須となる防火管理者

もう一つの重要な個人資格が、防火管理者です。これはすべての飲食店で必須というわけではなく、特定の条件に該当する場合にのみ選任が義務付けられます。

防火管理者とは

防火管理者とは、消防法に基づき、多数の人が出入りする建物において、火災による被害を防ぐための責任者です。主な業務には、消防計画の作成・届出、消火・通報・避難訓練の実施、火気の使用や設備の管理監督などが含まれます。

選任が「必要」になる条件(収容人数30人)

飲食店において防火管理者の選任が法的に「必須」となるのは、その店舗の収容人数が30人以上の場合です。

ここで最も注意すべき点は、「収容人数」の定義です。これは「客席数」のことではありません。収容人数とは、お客様の最大数と、従業員(店長、キッチン、ホールスタッフ全員)の合計を指します。

例えば、客席数が25席のカフェでも、キッチンとホールのスタッフが常時5名いる場合、合計収容人数は30人となり、防火管理者の選任義務が発生します。この基準を見落とす経営者は非常に多いため、厳密な確認が必要です。

甲種と乙種の違い(延床面積300平方メートル)

選任義務が発生した場合、次に確認すべきは「甲種」と「乙種」のどちらの資格が必要か、という点です。この分類は、主として建物の延床面積によって決まります。

乙種防火管理者

収容人数が30人以上で、かつ店舗の延床面積が300平方メートル未満の場合に必要です。多くの小規模から中規模の飲食店は、こちらに該当します。

甲種防火管理者

収容人数が30人以上で、かつ店舗の延床面積が300平方メートル以上の場合に必要です。大規模なレストランや宴会場などが対象となります。

資格取得の講習と費用

防火管理者も、食品衛生責任者と同様に、消防署や地域の防災協会が実施する講習を受講することで取得できます。

乙種(新規講習)

講習は通常1日間で修了します。費用は地域によりますが、例えば横浜市の場合、4,400円です。

甲種(新規講習)

講習は通常2日間を要します。費用は同様に地域によりますが、例えば横浜市の場合、6,800円です。

この資格も、店舗の営業開始前までに取得し、所轄の消防署に「防火管理者選任届」を提出する必要があります。開業の1か月から2か月前には講習を済ませておくとよいでしょう。

資格取得と並行する必須の営業許可と届出

個人の資格を取得したら、次は「事業」として法的な許可を得る手続きに進みます。これらは個人の資格取得と並行して、計画的に進める必要があります。

最難関となる飲食店営業許可(保健所)

飲食店経営における最大の行政手続きが、保健所から交付される「飲食店営業許可」です。

営業許可とは(無許可営業のリスク)

飲食店営業許可とは、食品衛生法に基づき、飲食店が公衆衛生の基準を満たしていることを保健所が認め、営業を公的に許可するものです。

この許可なく食品を提供し、営業を行うことは「無許可営業」という重大な法律違反となります。違反した場合、営業停止の行政処分はもちろんのこと、2年以下の懲役または200万円以下の罰金といった刑事罰の対象となる可能性があります。

取得の鍵は「食品衛生責任者」と「施設基準」

営業許可を取得するためには、大きく分けて2つの要件をクリアする必要があります。

1つは人的要件です。前のセクションで解説した「食品衛生責任者」が、店舗ごとに1名以上、必ず設置されていることです。許可申請の際、その資格を証明する書類(修了証など)の提出が求められます。

もう1つは施設要件です。店舗の物理的な設備が、都道府県の条例で定められた衛生基準を満たしていることです。例えば、「厨房と客席スペースが扉などで区切られていること」「シンクは用途別(食材用、食器洗浄用、手洗い用)に複数あること」「十分な換気設備や、清掃しやすく耐水性の壁材・床材が使われていること」など、細かく規定されています。

申請から交付までの7ステップ

営業許可の取得プロセスは、厳格な手順と時間(通常、申請から2〜3週間)を要します。

1. 事前相談

これが最も重要なステップです。店舗の設計図(平面図)ができた段階で、内装工事を開始する前に、必ず保健所の担当窓口に持参し、相談します。この時点で設計図が基準を満たしているか確認してもらうことで、工事完了後に「基準違反で許可が下りない」という最悪の事態を避けられます。

2. 書類提出

内装工事が完了する見込みが立ったら、正式な申請書類一式を提出します。これには営業許可申請書、店舗の図面、食品衛生責任者の資格証明書、法人の場合は登記事項証明書などが含まれます。

3. 手数料の支払い

申請手数料を支払います。金額は自治体により異なり、例えば東京都新宿区では18,300円、大阪市では16,000円です。

4. 施設検査の日程調整

保健所の検査員が実際に店舗を訪れ、設備が図面通りか、施設基準を満たしているかを現地で確認する「施設検査」の日程を調整します。

5. 施設検査の実施

検査員が立ち会いのもと、シンクの数、冷蔵庫の温度計、換気扇、手洗い設備などを厳しくチェックします。

6. 許可証の交付

検査に合格すると、数日から1週間程度で「営業許可証」が交付されます。

7. 営業開始

この許可証を店舗の見やすい場所に掲示し、初めて法的に営業を開始できます。許可証の交付前に営業することは、たとえ検査に合格していても無許可営業とみなされます。

義務化されたHACCP(ハサップ)への対応

飲食店営業許可の審査と運用において、HACCPへの対応は不可分です。HACCP(ハサップ)は、食品の安全性を確保するための衛生管理システムで、2021年6月からすべての飲食店に導入が義務化されました。

これは新たな「資格」ではありませんが、営業許可を維持するための「継続的な義務」です。小規模な飲食店では「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」が求められ、具体的には以下の実施が必要です。

まずは「衛生管理計画の作成」です。手洗いや清掃の方法、食品の取扱いルールなどを明文化した計画書を作成します。

次に「実行と記録」です。計画に基づき、日々の衛生管理(冷蔵庫の温度、従業員の健康状態、清掃状況など)を実行し、それを記録簿に記入します。

最後に「見直しと検証」です。記録を定期的に振り返り、計画通りに実施できているか、問題がないかを確認します。

保健所の検査員は、施設検査の際や、営業開始後の巡回時に、このHACCP計画書と記録簿の有無や内容も確認します。この計画の作成と実行を管理するのが、まさに「食品衛生責任者」の法的な役割です。

その他の必須届出(消防署・警察署・税務署)

保健所(営業許可)が最大の関門ですが、飲食店経営者は他にも複数の行政機関へ届出を行う義務があります。これらは「知らなかった」では済まされないため、開業準備のチェックリストに必ず含める必要があります。

消防署への届出

防火管理者の選任(収容人数30人以上)とは別に、すべての飲食店が消防署へ提出すべき書類が2つあります。

1つ目は「防火対象物使用開始届」です。「この建物(またはこの区画)を、飲食店として使い始めます」ということを消防署に通知する書類です。使用を開始する日の7日前までに提出が義務付けられています。

2つ目は「火を使用する設備等の設置届」です。厨房にガスコンロ、オーブン、フライヤーなど、火気を使用する業務用設備を設置する場合に必要な届出です。これは、設備を設置する前に提出する必要があります。

警察署への届出

警察署への届出は、特定の営業形態をとる場合のみ必要です。その条件は、「主として酒類を提供し、かつ深夜0時(午前0時)を超えて営業する」場合です。バーや深夜営業の居酒屋がこれに該当します。

この場合、「深夜酒類提供飲食店営業開始届」を所轄の警察署(生活安全課)に提出します。この届出は、営業を開始する日の10日前までに提出しなければなりません。

重要な点として、この届出を提出する前提条件として、保健所の「飲食店営業許可」を先に取得している必要があります。

税務署への届出

個人事業主として開業する場合、事業を開始したことを税務署に申告する必要があります。

提出する書類は「個人事業の開業・廃業等届出書」(通称:開業届)です。これは、事業を開始した日から1か月以内に、所轄の税務署に提出します。

また、従業員を雇用して給与を支払う場合は、あわせて「給与支払事務所等の開設届」も提出する必要があります。

「調理師免許」は必要か? 信頼と経営を安定させる推奨資格

開業準備を進める中で、多くの人が直面する疑問が「調理師免許は必要なのか」という点です。法律上の義務と、経営上のメリットを分けて考える必要があります。

結論として、調理師免許は開業に不要だが強力な武器になる

まず法律的な結論から言うと、一般的な飲食店(カフェ、ラーメン店、イタリアン、居酒屋など)を開業・経営するうえで、調理師免許は必須ではありません。

法律が最低限必須としているのは、あくまで「食品衛生責任者」の設置です。調理師免許を持たないオーナーでも、食品衛生責任者の講習さえ受講すれば、法的には問題なく開業できます。

ただし、例外として「ふぐ」を調理・提供する場合は、専門の「ふぐ調理師免許」が別途必要になります。

調理師免許がなくても開業できる理由

調理師免許は、医師や弁護士のような「業務独占資格」(資格がないとその業務を行えない)ではありません。そのため、免許がなくても調理の業務を行うこと自体は可能です。

この事実を知らないと、「調理師免許を取るためにまず2年間の実務経験が必要だ」と考え、開業のスケジュールが大幅に遅れてしまう可能性があります。

しかし、現実的な開業プロセスにおいては、この「調理師免許のジレンマ」が存在します。調理師免許の取得には、調理師学校を卒業するか、飲食店で2年以上の実務経験を積んだうえで試験に合格する必要があります。

一方、法的に必須の「食品衛生責任者」は、たった1日の講習で取得できます。そして、調理師免許を取得する最大のメリットの一つが「食品衛生責任者の講習が免除されること」です。

つまり、開業を目指す人にとって、「2年以上のプロセスをかけて調理師免許を取得し、食品衛生責任者講習(1日)を免除してもらう」か、「まず1日の食品衛生責任者講習を受けて、最短で開業資格を得る」か、という選択になります。スピードを優先する新規開業者にとって、実務的な選択は後者(まず1日講習で取得)となるでしょう。

資格を持つ5つのメリット(信頼、融資、知識、免除)

では、調理師免許は不要な資格かというと、決してそうではありません。必須ではないものの、経営者として保有することで、以下のような強力な経営上のメリットをもたらします。

知識の習得

栄養学や食品衛生学、調理理論を体系的に学ぶことで、安全で高品質な料理を提供する本質的な土台ができます。

お客様からの信頼

調理師免許を店内に掲示することは、お客様に対して「食の安全と専門知識を持つプロフェッショナルである」という客観的な証明となり、安心感と信頼につながります。

資格取得の効率化(免除)

前述の通り、最大のメリットです。調理師免許を持っていれば、食品衛生責任者の養成講習(6時間、約1万円)が免除され、申請のみで資格者となれます。

開業資金の融資

日本政策金融公庫などから開業資金の融資を受ける際、事業計画書に「オーナーが調理師免許を保有している」と記載することは、事業の専門性と本気度をアピールする好材料となり、審査で有利に働くことがあります。

求人での優位性

オーナー自らが有資格者であることは、「この店は衛生管理や調理技術の基準がしっかりしている」というアピールになり、プロ意識の高い人材を惹きつける助けになります。

経営者としてのスキルアップ資格

飲食店経営の成功は、調理技術だけでなく、店舗を「経営」する能力にかかっています。以下は、調理師免許とは別に、経営者としてのスキルを証明し、収益を改善するために役立つ推奨資格です。

簿記

簿記は、飲食店経営者にとって最も強力な「経営」資格の一つです。税理士に任せるから不要、と考えるのは早計です。簿記の知識(特に2級以上)を持つ最大のメリットは、自社の「損益計算書(P&L)」を深く読み解き、設計できる能力が身につくことです。

売上がいくらで、原価(仕入)がいくらかかり、経費(人件費、光熱費)がいくらかかり、最終的にいくら利益が残るのか。この収支構造を数字で設計し、日々の運営で管理できる能力は、どんぶり勘定の経営から脱却し、安定した利益を生み出すために不可欠です。

ソムリエ・ワインエキスパート

特に客単価を重視するレストランやバーにおいて、ソムリエ資格は強力な武器です。ソムリエの役割は、ワインの仕入れ、管理、リスト作成、そしてお客様の好みや料理に合わせた提案とサービスです。

資格は必須ではありませんが、専門知識に裏打ちされたサービスは、お客様に信頼感と付加価値を与え、結果としてワインの注文数を増やし、客単価の上昇に直結します。日本ソムリエ協会(JSA)の資格は実務経験が必要ですが、全日本ソムリエ連盟(ANSA)の資格は講習から受講可能です。

野菜ソムリエ

野菜ソムリエは、健康志向が高まる現代において、マーケティングとコスト管理の両面で役立つ資格です。

マーケティング(集客・単価アップ)の面では、「野菜ソムリエが厳選した旬の野菜」といった表現は、健康や食材にこだわるお客様層に強く響きます。これにより、メニューの付加価値が高まり、客単価の向上や集客アップが期待できます。

コスト管理(ロス削減)の面では、野菜ソムリエは、野菜や果物の栄養価だけでなく、適切な保存方法や旬(仕入れ時期)の知識も深く学びます。この知識を活用することで、食材の廃棄(フードロス)を最小限に抑え、仕入れコスト(原価率)の改善に直結します。

その他の専門資格

開業するお店のコンセプトによっては、以下のような専門資格が大きな強みとなります。

製菓衛生師

パン屋(ベーカリー)や菓子(パティスリー)を併設・販売する場合に有効です。この資格も調理師免許と同様に、食品衛生責任者の講習が免除されます。

和菓子・洋菓子製造技能士

国家資格である技能検定の一つで、菓子製造の高度な技術を証明するものです。

従業員を雇用する際に発生する経営者の義務

飲食店の開業準備(Day 1)に集中するあまり、開業後(Day 2)に発生する法律上の義務、特に「従業員の雇用」に関する手続きを見落とす経営者は少なくありません。これらは「資格」ではありませんが、経営者として必ず履行すべき法的な「義務」です。

1人でも雇う場合の労働保険

従業員(アルバイトやパートタイマーを含む)を1人でも雇い入れた時点で、経営者には「労働保険」への加入義務が発生します。労働保険は、「労災保険」と「雇用保険」の2つから成ります。

労災保険

労災保険(労働者災害補償保険)は、従業員が業務中や通勤中に怪我や病気をした場合に、治療費などを給付する制度です。

従業員を1人でも雇ったら、加入は強制です。保険料は全額、事業主(経営者)が負担します。飲食店の保険料率は、支払う賃金総額の0.35%(3.5/1000)です。

雇用保険

雇用保険は、従業員が失業した際の給付や、育児・介護休業の際の給付を行う制度です。

従業員のうち、「1週間の所定労働時間が20時間以上」かつ「31日以上継続して雇用される見込みがある」人が加入対象です。手続きは、管轄のハローワークに「雇用保険適用事業所設置届」などを提出します。

法人または常時5人以上の場合の社会保険

労働保険とは別に、「社会保険」(健康保険・厚生年金)への加入義務も発生します。

加入は、以下のいずれかの条件に当てはまる場合、法律上の強制となります。

1つは、法人(株式会社、合同会社など)の場合です。従業員数に関わらず、社長1人だけの会社であっても、強制的に加入対象となります。

もう1つは、個人事業所の場合です。常時5人以上の従業員(アルバイト・パートを除く、正社員など)を使用する場合、強制的に加入対象となります。

上記の条件に該当した日から5日以内に、管轄の年金事務所へ「新規適用届」や「被保険者資格取得届」を提出する必要があります。これらの保険手続きは非常に複雑であり、怠ると追徴金などのペナルティが発生する可能性があります。開業と同時に、社会保険労務士などの専門家に相談することも賢明な経営判断です。

結論 飲食店経営の成功は「資格と届出の地図」を持つことから始まる

飲食店経営の開業準備は、まるで複雑な地図を読み解くような作業です。しかし、必要な「資格」と「届出」という名のチェックポイントを一つずつ確実に通過することで、法的にクリーンで、お客様に信頼されるお店の土台が完成します。

本記事の要点再確認

必須の個人資格(Point 1)

経営者は、まず「食品衛生責任者」の資格を必ず取得します。店舗の収容人数(従業員+客席)が30人以上になる場合は、「防火管理者」の資格も必須です。

必須の営業許可(Point 2)

店舗の営業には、保健所の「飲食店営業許可」が絶対に必要です。これは、食品衛生責任者の資格と、基準を満たした施設(設備)の両方が揃って初めて申請できます。

必須の届出(Point 3)

保健所以外にも、消防署(使用開始届、火気設備届)、税務署(開業届)への届出が義務です。深夜0時以降に酒類を提供する場合は、警察署への届出も必要です。

調理師免許の神話(Point 4)

「調理師免許」は、ふぐ専門店などを除き、開業に必須ではありません。しかし、食品衛生責任者の講習が免除されるほか、融資や信頼性の面で強力なメリットがあります。

HACCPの義務(Point 5)

HACCP(ハサップ)は、一度取れば終わる資格ではなく、日々の衛生管理を計画・実行・記録し続けるという「継続的な義務」です。

雇用の義務(Point 6)

従業員を1人でも雇えば「労働保険」、法人または常時5人以上の従業員を雇えば「社会保険」への加入義務が、開業と同時に発生します。

資格取得から開業までのロードマップ

飲食店開業は、手続きの順番が非常に重要です。以下のロードマップを参考に、スケジュールを管理してください。

ステップ1(開業6か〜12か月前)

コンセプト設計、事業計画書の作成を行います。

ステップ2(開業3か〜6か月前)

物件探し、内装業者の選定、資金調達を進めます。

ステップ3(開業3か月前)

店舗の設計図を持って、保健所に「事前相談」に行きます。これは非常に重要です。

ステップ4(開業2か月前)

「食品衛生責任者」の資格を取得します(講習会またはeラーニング)。

ステップ5(開業1か月前)

必要な場合は「防火管理者」の資格を取得します。内装工事が完了に近づきます。

ステップ6(開業2〜4週間前)

保健所に「飲食店営業許可」の正式な申請書類を提出します。必要な場合は警察署に「深夜酒類提供〜届」を提出します(営業開始10日前まで)。

ステップ7(開業1〜2週間前)

消防署に「防火対象物使用開始届」などを提出します(営業開始7日前まで)。保健所の「施設検査」に立ち会い、合格します。

ステップ8(開業日)

保健所で「営業許可証」を受け取ります。これを店内に掲示し、法的に営業がスタートできます。

ステップ9(開業後1か月以内)

税務署に「開業届」を提出します。従業員を雇った場合は、労働保険・社会保険の手続きを完了させます。

飲食店経営 必須の手続き一覧

手続き提出先必須条件期限
食品衛生責任者の設置保健所飲食店営業すべて営業許可の申請前まで
防火管理者の選任消防署収容人数30人以上営業開始日まで
飲食店営業許可保健所飲食店営業すべて営業開始日まで
防火対象物使用開始届消防署飲食店営業すべて営業開始の7日前まで
火を使用する設備等の設置届消防署火気設備を設置する場合設備設置前まで
深夜酒類提供飲食店営業開始届警察署深夜0時以降に酒類提供営業開始の10日前まで
個人事業の開業届税務署個人事業主すべて開業後1か月以内
労働保険(労災・雇用)労基署・ハローワーク従業員を1名でも雇用雇用発生時
社会保険(健康保険・厚生年金)年金事務所法人または常時5人以上該当から5日以内

この記事の投稿者:

垣内

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