飲食業の基礎知識

キッチンカーで唐揚げ事業を行うには?成功のコツについて解説

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キッチンカーによる唐揚げ事業は、飲食業界への参入障壁が比較的低いビジネスモデルとして長年注目を集めてきました。鶏肉という安価で安定供給される食材を主軸とし、調理工程の簡便さ、そして老若男女を問わず好まれる国民食としての底堅い需要が、多くの起業家を惹きつけてやまないからです。

しかし、2024年から2025年にかけての市場データは、このセクターがかつてのような出せば売れるというブーム期を脱したことを示しています。現在は明確な淘汰と成熟のフェーズへ移行したと捉えるべきでしょう。

本レポートは、最新の市場動向、保健所による厳格な法規制、利益を最大化するための設備投資、そして季節変動リスクを回避する多角化戦略について、専門的な見地から包括的に分析するものです。

特に、多くの新規参入者が直面する給排水タンクの容量規制と仕込み場所の確保という構造的な課題に焦点を当てます。単なる精神論ではない、データに基づいた事業設計のロードマップを提示します。

市場環境分析:ブーム沈静化後の生存戦略

倒産動向と競争環境の変化

株式会社帝国データバンクの調査によると、2024年における唐揚げ専門店の倒産件数は前年比で約4割減少しました。一見すると市場が安定したかのように映るこのデータは、実際には過剰な参入者の淘汰が一巡したと解釈すべきです。

ブーム期に安易に参入した競争力の低い店舗が市場から退場し、現在生き残っているのは、固定客であるリピーターの獲得に成功し、強固な事業基盤を築いた事業者のみといえます。

この定着期における最大の脅威は、競合の質的変化です。かつては近隣の同業者のみがライバルでしたが、現在ではコンビニエンスストアのホットスナックや、食品スーパーの惣菜部門が、価格と品質の両面で唐揚げ専門店に肉薄しています。

さらに、からやまやから好しといった大手資本が展開するフランチャイズチェーンが市場シェアを拡大しています。個人経営のキッチンカーがこれに対抗するためには、単なる価格競争ではなく、明確な付加価値の創出が不可欠となっています。

原材料価格の変動と利益構造への影響

唐揚げビジネスの損益分岐点を左右する主要因として、原材料価格の変動リスクが挙げられます。鶏モモ肉の卸売価格や、キャノーラ油などの揚げ油の価格推移は、国際情勢や為替の影響をダイレクトに受けます。

大手チェーンであればスケールメリットを活かした大量仕入れによって原価高騰を吸収できますが、小規模なキッチンカー事業者はその影響を価格転嫁せざるを得ない場面も多くなります。

項目2019年比変動トレンド事業者への影響
鶏モモ肉上昇傾向原価率の悪化、ブラジル産など輸入肉への依存度増加
食用油高止まり交換頻度の見直し、ろ過機の導入検討、廃油コストの増大
包材費上昇傾向提供単価への転嫁圧力、簡易包装への切り替え検討

このように、外部環境は決して楽観視できるものではありません。正確な原価管理と、外的要因に左右されにくい高収益体質の構築が求められるのです。

規制環境とインフラ設計:200Lタンクが分ける事業の成否

キッチンカー開業において、最も多くの事業者が躓き、かつ事業の拡張性を阻害する要因が保健所の営業許可基準です。特に給排水タンクの容量に関する規定は、車両内で可能な調理行為の範囲を決定づけるため、車両購入前の計画段階で極めて慎重な検討を要します。

タンク容量による営業許可の階層構造

日本の食品衛生法および各自治体の条例に基づき、キッチンカーの営業許可は搭載する給水タンクおよび排水タンクの容量によって厳格に区分されています。一般的に流通しているキッチンカーは、40L、80L、200Lのいずれかのタンクを搭載していますが、唐揚げ販売においてこの差は決定的です。

タンク容量許可される主な行為調理工程の制限
約40L簡易な提供のみ(温め直し等)1工程程度
約80L一般的な調理販売2工程程度
約200L本格的な調理、仕込み複数工程・多品目

40Lタンクの場合、車両コストは低く抑えられますが、生肉の取り扱いは不可となるケースが大半です。冷凍食品を揚げるのみといった限定的な運用にならざるを得ません。

80Lタンクは標準的な仕様ですが、車内での仕込み、つまり下処理が原則不可となります。別途、許可を受けた仕込み場所が必須となる点が大きなハードルです。

200Lタンクであれば、車内で生肉のカットや漬け込みが可能となる地域が多いものの、大型車両が必要となり設備コストが増大します。

「仕込み場所」問題の構造的欠陥

唐揚げ販売において、生肉をカットし、調味液に漬け込み、粉をまぶすという仕込みの工程は避けて通れません。しかし、多くの地域において、80L以下のタンクしか搭載していない車両では、これらの行為を車内で行うことが禁じられています。

保健所は、十分な洗浄水量が確保できない環境での生肉の取り扱いは、食中毒リスクが高いと判断するからです。この規制により、80Lタンク車両を選択した事業者は、外部に仕込み場所を確保する必要に迫られます。

具体的な解決策としては、知人の飲食店などのアイドルタイムを借りる方法や、許可取得済みのレンタルキッチンと契約する方法があります。自宅を改装して専用の調理室を増築する手もありますが、多額の費用がかかります。

多くの初心者が自宅のキッチンで仕込めば良いと安易に考えがちですが、自宅の生活用キッチンを営業の仕込み場所として使用することは、原則として食品衛生法に基づく営業許可を得られません。この認識の欠如が、開業直前になって許可が下りないという事態を招く最大の要因です。

200Lタンク車両の戦略的優位性とハードル

仕込み場所問題を根本から解決するのが、200Lタンクを搭載した車両です。給水と排水を合わせて400Lの容量を積載可能な車両であれば、多くの自治体で車内での仕込みが認められます。外部の仕込み場所を確保する必要がなくなり、固定費を大幅に削減できるメリットがあります。

しかし、これには物理的な制約が伴います。総重量400kg近い水とタンクを積載し、さらにフライヤーや冷蔵庫を積むためには、軽トラックでは過積載となるリスクが高まります。

そのため、トヨタのタウンエースや日産のバネットといった普通車ベースの1トントラックが必要となり、車両取得費は軽トラックベースに比べて100万円から200万円程度上昇する傾向にあります。中古車市場においても、200Lタンク搭載車は希少性が高く、価格も高騰しています。

加えて、神戸市のように200Lタンクであっても、通常の食器を使用する場合は3工程以上の複雑な調理とみなされるといった独自のリスク区分を設けている自治体も存在します。

したがって、車両購入の意思決定を行う前に、必ず出店予定エリアを管轄する保健所の衛生監視事務所へ事前相談に行くことが、事業リスクを回避する唯一の手段です。

オペレーション戦略:高収益を生む設備と原価管理

熱源の選択:ガスフライヤーによる品質担保

唐揚げの品質(Quality)と提供スピード(Delivery)を決定づける核心的設備がフライヤーです。キッチンカーにおいては、電気式ではなくガス式フライヤーの導入が強く推奨されます。

その最大の理由は熱効率と復帰速度にあります。冷凍肉や冷えた生肉を油に投入すると、油温は急激に低下します。電気フライヤーは温度復帰に時間を要するため、油温が低い状態で揚げ続けることになり、衣がベチャッとした仕上がりになりやすいのです。

対してプロパンガスを使用するガスフライヤーは火力が強く、設定温度への復帰が早いため、連続調理でもカラッとした食感を維持できます。

また、ランニングコストの面でもメリットがあります。一般的に、発電機を回して大容量の電気フライヤーを稼働させるよりも、LPガスを使用する方がエネルギーコストを低く抑えられる傾向にあります。

さらに、フライヤーをガスにすることで、発電機の容量を冷蔵庫、照明、換気扇、あるいは夏場のかき氷機などに振り分けることができます。これにより、ブレーカー落ちによる営業停止リスクを低減できるという利点もあります。

原価率構造と損益分岐点シミュレーション

唐揚げの原価率は一般的に約30%と言われており、これは飲食業界の標準的な数値です。しかし、キッチンカー商材の中では、かき氷の約14%やクレープの約20%と比較して原価率は高めです。

メニュー平均売価原価率特徴
唐揚げ600円約30%ランチ需要・軽食需要の双方に対応。単価アップが容易。
クレープ600円約20%オペレーションが複雑。スイーツ需要に特化。
かき氷500円約14%極めて高い利益率。夏場の爆発力がある。
コーヒー400円約15%ついで買い需要。客単価アップに貢献する。

利益を確保するためには、1日何食売れば黒字になるかという損益分岐点を正確に把握する必要があります。例えば、出店料、人件費、光熱費を差し引いた営業利益率を20%と仮定した場合、生活費を含めた目標利益を確保するために必要な売上高を逆算し、それを達成可能な立地を選定しなければなりません。

また、唐揚げは時間経過による劣化が激しいため、廃棄ロスの管理が重要です。注文を受けてから揚げるオーダー調理を基本としつつ、ピークタイムには回転率を上げるために見込み調理を行い、保温ショーケースで品質を維持するといったハイブリッドなオペレーションが求められます。

商品戦略:差別化とブランド構築

コモディティ化からの脱却

唐揚げはどこでも買える商品となっており、単に揚げたてというだけでは差別化要因になり得ません。成功事例に見る差別化のアプローチには、素材とサイズの追求や調理技術の革新が含まれます。

成功事例として挙げられるTORICCOでは、国内産鶏肉を100%使用し、一般的な唐揚げの約2倍となる1ピース55gのサイズで提供しています。この圧倒的なボリューム感は視覚的なインパクトを与え、わざわざキッチンカーで買う理由を創出します。

また、同店では分子調理器を導入し、水分保持量を高める工夫を行っているほか、低温でじっくり火を通してから高温で仕上げる二段揚げを採用しています。これにより、冷めても肉汁が逃げず、ジューシーさが維持されます。テイクアウトが前提となるキッチンカーにおいて、冷めても美味しいことは最強の競争優位性となります。

メニューの多様性とカスタマイズ

リピーターを飽きさせないためには、ベースとなる唐揚げにバリエーションを持たせることが有効です。オペレーションを複雑にせず、ソースやトッピングだけで多様性を演出する手法が推奨されます。

ソースバリエーションとしては、おろしポン酢、ハニーマスタード、明太マヨネーズ、油淋鶏ソースなど、かけるだけで味が激変するラインナップを用意します。鶏むね肉と大葉の塩唐揚げや梅風味揚げなど、さっぱりとしたフレーバーを用意することで、女性客や年配層を取り込むことも可能です。

さらに、単品販売だけでなく、唐揚げ丼、鶏マヨ丼、唐揚げカレーなど、ご飯ものとセットにすることで、ランチタイムの客単価を確保することも重要です。ジャンボ唐揚げおにぎりのようなワンハンドフードは、イベント会場での歩き食べ需要に合致します。

リスク管理:夏場の需要減退と衛生対策

夏場の売上確保に向けたポートフォリオ

キッチンカービジネスにおける最大のリスクの一つが季節変動です。特に揚げ物を主力とする唐揚げ店にとって、日本の高温多湿な夏は試練の季節となります。気温が30度を超えると、身体が油っぽいものを拒絶し、唐揚げの売上は冬場に比べて著しく低下する傾向にあります。

この減収分を補うために、夏場限定のサブメニュー戦略が不可欠となります。

カテゴリ具体的なメニュー案戦略的意図
高利益商材かき氷、冷凍フルーツバー原価率が低く、唐揚げの売上減を利益面でカバーする。
スパイシーガパオライス、タコス夏に食欲をそそる辛味を活用。鶏肉を転用できる。
さっぱり系おろしポン酢唐揚げ唐揚げを食べやすくアレンジし、既存ファンの離脱を防ぐ。
ドリンククラフトコーラ炭酸と酸味で唐揚げの油を中和するペアリング提案。

特にかき氷は、製氷機や電動の業務用かき氷機を導入するだけで提供可能であり、ガスフライヤーで暑くなった車内環境でも調理負荷が低いという利点があります。唐揚げを買いに来た親が子供にかき氷を買う、あるいはかき氷目当ての客がついでに唐揚げを買うといった相乗効果も期待できます。

食中毒対策と衛生管理の徹底

夏場のキッチンカーは車内温度が40度を超えることも珍しくありません。この環境下での生肉の取り扱いは極めて高いリスクを伴います。食中毒ウイルスを死滅させるためには、食材の中心部まで十分に加熱することが最も効果的です。

感覚に頼らず、中心温度計を使用して加熱状態を記録・管理することが必須です。また、仕込みの工夫として、夏場のみ生肉ではなく加熱済みの加工品を使用するか、あるいは現地での下処理を一切行わないフローに厳格化することも検討すべきです。

車載冷蔵庫の性能を確認し、必要であれば保冷剤やクーラーボックスを併用して食材温度を管理するなど、二重三重の対策が求められます。

結論および提言

2025年の唐揚げキッチンカー市場は、もはや安易な小遣い稼ぎの場ではありません。しかし、適切な戦略と準備をもって臨めば、依然として高い収益性と事業の自由度を提供する魅力的な市場です。本レポートの分析から導き出される、成功のための核心的な提言を以下にまとめます。

まず、200Lタンクを事業計画の起点とすることです。仕込み場所の確保は事業の持続可能性を左右します。初期投資がかさんでも200Lタンク搭載可能な車両を選定するか、あるいは確実に利用可能なシェアキッチンを確保してから車両製作に入るべきです。順序を誤れば、無許可営業のリスクを背負うことになります。

次に、ガスフライヤーへの投資を惜しまないことです。商品の質はリピート率に直結します。電気式で妥協せず、火力復帰の早いガス式を選定し、プロパンガスの供給ルートを開業前に確保することが重要です。

また、夏場を想定したメニュー開発も欠かせません。年間を通じて安定した収益を上げるために、かき氷やエスニック料理など、唐揚げの需要減を補完するメニューを初期段階から設計図に組み込むべきです。

最後に、付加価値の創造です。大手チェーンとの価格競争を避け、素材、調理法、ブランドストーリーによって、600円でも安いと感じさせる顧客体験を提供することが求められます。

これから開業を目指す事業者は、車両販売店のセールストークを鵜呑みにせず、必ず自ら管轄の保健所へ足を運び、細かな設備基準を確認することから始めるべきです。情報収集の質と、最悪のケースを想定した準備こそが、不確実な市場で生き残るための最強の武器となります。

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