インボイス制度についてご存知でしょうか?一人親方として事業を営まれている方には大きな影響を及ぼす可能性があります。一人親方にとってのインボイス制度の基本的な情報から、対処法、注意点などについて解説します。インボイス制度導入前に制度について知っておき、しっかりと対応していきましょう。
目次
消費税の仕組み
消費税は、物品の購入やサービスの利用するなどの取引において、すべての人に公平に課税される税です。現在の消費税率は原則10%になっていますが、軽減税率制度の導入により飲食料品(お酒・外食を除く)等は消費税が8%とされています。また消費税は課税対象者と納税者が一致しない『間接税』に区分されます。
関連リンク:フリーランスの消費税を徹底解説!免税の基準や計算方法、インボイス制度の影響についてもご紹介
一人親方で消費税の納付義務がある場合
消費税を徴収し納める義務があるのは、基準期間か特定期間の課税売上高が1,000万円を超えた場合です(なお、消費税の納税義務がある人は課税事業者と呼ばれます。)。この基準期間と特定期間は個人事業主か法人かによって以下のように異なります。
基準期間 | 特定期間 | |
個人事業主 | 前々年 1月1日〜12月31日 | 前年 1月1日〜6月30日 |
法人 | 前々年の事業年度 | 前年の事業年度開始以後の6ヶ月間 |
消費税の課税事業者については、以下の記事でも詳しく解説しています。
関連リンク:消費税の課税事業者とは?免税事業者との違い、計算方法、提出書類などを解説
一人親方で消費税を納める必要がない場合
上記でご紹介した基準期間や特定期間に課税売上高が1,000万円以下の一人親方は、消費税の納税義務が免除される免税事業者と呼ばれます。免税事業者になると、取引先から受け取った消費税はそのまま利益扱いとすることができ、仕事で得た報酬ではないものの消費税分を手元に残すことができます。
免税事業者は消費税の納税義務がありませんでしたが、2023年10月より導入されるインボイス制度によって影響を大きく受ける可能性があります。
インボイス制度の概要について
2019年10月1日より適用されている『区分記載請求書等保存方式』に代わるものとして、2023年10月1日よりインボイス制度(適格請求書等保存方式)が導入されることになっています。
インボイス制度についてはコチラ▼
インボイス制度とは?個人事業主にも発生するのか?対処法を解説
区分記載請求書等保存方式(2019年10月1日より適用)では、仕入税額控除等を受けるために、以下の情報が記載されている請求書の保存が必要とされています。
①書類の作成者の氏名又は名称
②課税資産の譲渡等を行った年月日
③課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容
(軽減対象資産の譲渡等である場合には、加えて軽減対象資産の譲渡等である旨)
④税率ごとに合計した課税資産の譲渡等の対価の額(税込価格)
⑤書類の交付を受ける当該事業者の氏名又は名称
さらにインボイス制度(2023年10月1日より導入)では、上記に加えて以下の情報の記載が必要となります。
・適格請求書発行事業者の登録番号
・税率ごとに区分した消費税額等又は適用税率
この適格請求書を交付するためには、税務署長より『適格請求書発行事業者』の登録を受けなければなりません。それは、法人はもちろん個人事業主も同様です。
インボイス制度による一人親方への影響
インボイス制度が導入されることで、一人親方にはいつから、どのような影響があるのでしょうか。予想される3つの影響について紹介します。
仕事が減る可能性がある
インボイス制度が導入されると、発注者が消費税額を控除して計算する『仕入税額控除』の適用を受けるためには、適格請求書の交付を受けることが必要になります。しかし、受注者が適格請求書を交付するためには、課税事業者となり、り適格請求書発行事業者の登録をしなければなりません。一人親方が課税売上高が1,000万円以下の免税事業主である場合には、消費税課税事業者選択届出を行って課税事業者にならなければ適格請求書を交付できないため、受注者が免税事業者のままでは発注者は仕入税額控除が受けられなくなるのです。
仕入税額控除では、軽減税率適用であれば8%、通常10%の消費税分が控除されます。取引を行う際に、同じ取引であれば仕入税額控除が適用できる事業者を選ぶ可能性が高くなるでしょう。このことから、インボイス制度導入後も免税事業者として活動していく一人親方は、仕事が減ってしまう可能性があるのです。
利益が低下する可能性がある
インボイス制度が導入された後に仕事が減ってしまう可能性を考え、課税事業者となり適格請求書発行事業者として登録を受ける一人親方もいるかもしれません。しかし、課税事業者になるということは同時に、消費税の納税義務が発生することにもなるため、免税事業者の頃と比べ、利益が低下する可能性があります。
交付する請求書の内容が変わってしまう
適格請求書を交付するためには、区分記載請求書等保存方式に沿った項目の他に、さらに以下の項目を追加しなければなりません。
・適格請求書発行事業者の登録番号
・税率ごとの消費税額及び適用税率
適格請求書発行事業者として適格請求書を交付する際には、新たな様式になります。インボイス制度が導入されるまでに、余裕を持って準備しておくこくとよいでしょう。
偽装一人親方とインボイス制度
一人親方の中には、偽装一人親方の問題も存在しています。企業などの法人は、社員として雇用すると高額の社会保険料や残業代、福利厚生などを負担しなければなりません。しかし、社員を一人親方にさせることで、法人はこのような負担を軽減することができるのです。これを抜け道のように使い、仕事量は社員と変わらないにもかかわらず、一人親方として働かせる『偽装一人親方』が問題になっています。
インボイス制度を導入することで、この『偽装一人親方』にストップがかけられるのではないかと期待されています。仮に一人親方への(税込)報酬を同額とした場合、一人親方が免税事業者のままである場合には発注者の消費税負担が大きくなり、一人親方が課税事業者となる場合は一人親方の負担が増え、受注者側が一人親方を選択するメリットが小さくなるためです。
インボイス制度の導入に向けて一人親方が対応すべきことは?
インボイス制度が導入される際、どのように対処したらよいのでしょうか。インボイス制度について理解した上での対処法についてご紹介します。
免税事業者は課税事業者に切り替えるかどうかを決めておく
インボイス制度が導入された後、課税事業者にならず、免税事業者のままでいることも可能です。免税事業者であれば消費税の支払いは免除されますが、仕事の受注は減る可能性も否めません。
一方で課税事業者となることもメリットだけではありません。課税事業者になるため消費税の納税負担が発生します。また適格請求書交付の事務作業や書類、納税のための作業なども増えることが予想されるでしょう。どちらを選ぶか、慎重に検討する必要があります。
また、適格請求書を交付するためには適格請求書発行事業者の登録申請が必要です。もし2023年10月1日のインボイス制度導入日より適格請求書を交付したいと考えるのであれば、2023年3月31日までに登録申請が必要です。
状況によっては、取引先などと相談しなければならない場合もあります。インボイス制度についてメリット、デメリットを理解し、早いうちから取引先にアポイントメントを取るなど行動することでスムーズに移行することもできるでしょう。
課税事業者になった際の負担軽減措置「2割特例」について
インボイス制度をきっかけに免税事業者から適格請求書発行事業者になった場合「2割特例」を利用できます。2割特例とは、納付する消費税額を売上にかかる消費税額の2割にできる制度で、課税事業者に転換した際の負担を軽減するために設けられました。
売上にかかる消費税 × 20% = 消費税の納税額 |
例えば、年間の売上が税込880万円(消費税額80万円)だった場合には、納付すべき消費税額は以下のようになります。
80万円 × 20% = 16万円 |
他の方法で消費税を計算するよりも税額を抑えられる可能性があるため、条件に該当する方は利用を検討してみましょう。
参照:2割特例特設ページ
条件と適用期間
・条件:インボイス制度をきっかけに免税事業者から適格請求書発行事業者になった事業者
・適用期間:2023年10月1日から2026年9月30日までの日の属する各課税期間
インボイス制度に対応した請求書の作成方法を覚える
インボイス制度導入後は請求書の書式が変わります。制度に対応した書き方が必要となるため、必要な項目の記載漏れがないよう作成方法を覚えておくようにしましょう。
インボイス制度導入前後は、慣れない業務も増えることが予想されます。これまでの請求書等保存方式に沿った項目から新たに加えられた項目をチェックし、余裕のある時期に請求書の書式などを見直しておくことをおすすめします。
インボイス制度に適応した請求書発行を詳しく▼
適格請求書の書き方について解説!インボイス制度についてや領収書とレシートの扱いについても解説!
適格請求書の記載項目は以下の通りです。
①適格請求書発行事業者の氏名または名称、登録番号
②取引年月日
③取引内容(軽減対象である場合はその旨)
④税率ごとに区分した対価の合計額、適用税率
⑤税率ごとに区分した消費税額
⑥宛先となる事業者の氏名または名称
参照:4適格請求書の記載事項
簡易課税制度の導入
適格請求書を交付できる課税事業者になると、消費税の納税義務が発生します。確定申告時に取引先から受け取った消費税から自らが支払った消費税を差し引きして納税します。この方法は税額計算の負担が大きくなることから、課税売上高が5,000万円以下の場合には『みなし仕入率』を適用して税額を計算する導入も可能です。これを『簡易課税制度』と呼びます。
簡易課税制度では、取引先から受け取った消費税にみなし仕入率を乗じて納税額を計算することができます。みなし仕入率は業種によって6つに分けられていますが、一人親方が多いとされる電気業、建設業などは第3種事業に分類されていて、70%で乗じることができます。この簡易課税制度を利用するためには『消費税簡易課税制度選択届出書』の提出が必要です。
簡易課税制度の適用条件
・「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出した課税事業者であること
・基準期間における課税売上高が5,000万円以下であること
※基準期間とは、個人事業者は前々年、法人は前々事業年度を指します。
参照:No.6505 簡易課税制度|国税庁
簡易課税制度が適用された際の消費税額の計算式
簡易課税制度を適用した場合、納付する消費税額を以下のように計算します。
納付する消費税額 =(売上時に受け取った消費税額 – 仕入や経費にかかった消費税額)× みなし仕入率 |
売上と仕入・経費にかかる消費税の合計額がわかれば簡単に計算できるため、経理業務にかかる負担方法を軽減できます。
インボイス制度における一人親方向けの注意点
インボイス制度で注意したい3つのポイントについてご紹介します。
取引先と話し合う
インボイス制度の導入前と後とでは、求められる請求書の書式が異なります。後から仕入れ税額控除ができないなどクレームを受けないよう、免税事業者のままにする場合はインボイス制度導入前に、取引先と事前に話し合っておくとよいでしょう。免税事業者であることの理解のないまま取引を続けると、消費税控除の段階でトラブルに発展する可能性もあります。
事前に免税事業者のままでいることを取引先と話し合っておくことで、このようなトラブルを回避できる可能性も高いため、まずは話し合う場を作ることをおすすめします。
資金繰りに注意する
インボイス制度が導入されると、さまざまな面で変化が起こることが予想されます。免税事業者は仕事が減る可能性も考えられますし、課税事業者となれば消費税の納税義務が発生します。これまで通りとはいかないため、お金の面もしっかりと準備し資金繰りが苦しくならないよう管理していく必要があります。
適格請求書発行事業者の登録者申請手続を行う
適格請求書を交付するためには適格請求書発行事業者の登録者申請が必要です。独自に適格請求書を作成をしても、受領者は仕入税額控除を受けられません。
適格請求書を交付するための適格請求書発行事業者の登録申請ですが、適格請求書を2023年10月1日のインボイス制度導入日より交付したいと考えるのであれば、2023年3月31日までに登録申請を済ませておかなければならない点についても注意が必要です。
さらに、現時点で免税事業者である場合には、まず課税事業者にならなければなりません。通常は『消費税課税事業者選択届出書』の提出が必要ですが、2023年10月1日を含む課税期間中適格請求書発行事業者の登録を受ける場合には、登録を受けた日から課税事業者になることができる経過措置も設けられています。
つまり、2023年3月31日までに適格請求書発行事業者の登録申請書を提出することで、消費税課税事業者選択届出書の提出をしなくても、2023年10月1日から適格請求書の交付が可能となるのです。
一人親方のインボイス制度に関係する届出書類
一人親方がインボイス制度に合わせて課税事業者になる場合、いくつかの届出書類を用意のうえ提出しなければなりません。ここでは、課税事業者となるために必要な届出書類をご紹介します。
消費税課税事業者届出書
免税事業者が課税事業者となるためには、消費税課税事業者届出書の提出が必要です。
用紙は税務署の窓口に配布されているものを使うか、国税庁の公式サイトで配布されているPDFファイルをダウンロードしましょう。書類に必要事項を記入したら、所轄の税務署への持参または郵送で提出します。
適格請求書発行事業者の登録申請書
適格請求書を発行できるようにするには、適格請求書発行事業者の登録申請も行う必要があります。所定のフォーマットが国税庁の公式サイトで配布されている他、e-Taxからでも申請が可能です。
なお、インボイス制度の開始が予定されている2023年10月1日から2029年9月30日までの間であれば、適格請求書発行事業者の登録日から課税事業者になることができます。
消費税簡易課税制度選択届出書
先述の通り、消費税の簡易課税制度を利用するためには消費税簡易課税制度選択届出書の提出が求められます。
申請期限については、原則として課税期間(事業年度)の開始前に提出するというルールがあります。ただしインボイス制度に合わせて2023年10月1日から消費税の申告を行う場合は、特例として2023年12月31日までに提出すれば簡易課税制度を利用できます。本来は事前申請が必要な制度ですが、インボイス制度においては事後申請でも利用を認められるということです。
消費税簡易課税制度選択不適用届書
上記とは逆に、消費税の簡易課税制度の利用をやめて原則課税制度の利用を選択する場合に必要な届出書です。
税務署の窓口または国税庁の公式サイトで配布されている用紙を用意のうえ、適用をやめたい課税期間の初日を迎えるまでに所轄の税務署へ提出しましょう。なお、簡易課税制度を選択してから2年間は原則として不適用届出書を提出できないため注意が必要です。
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これまで請求書を手書きしていた、パソコンで手打ちしていたという方も、インボイス制度導入を機会に、クラウド請求管理サービスを活用してみるのもよいでしょう。適格請求書に対応した請求書フォーマットがあれば、必要項目の記載漏れも防げます。
毎月、決まった日に同じような内容で作成する請求書であれば、自動で作成できるサービスもあります。クラウド請求管理サービス『INVOY』では、無料で簡単に請求書発行が可能で、口座の一括管理まで行えるため、業務を効率化することもできます。インボイス制度対応で不慣れな作業や、業務が増えることも予想されるため、ルーティン業務であればこのようなサービスを利用し、他の業務に集中できる環境を確保することもおすすめです。
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まとめ
インボイス制度についてご紹介しました。一人親方には大きな影響があることが予想されます。免税事業者のままでいるのか、課税事業者となり適格請求書を交付できる適格請求書発行事業者になるか、メリット、デメリットを踏まえ、慎重に決めるとよいでしょう。2023年10月1日から開始されますが、開始日から適格請求書を交付するためには、2023年3月31日までに適格請求書発行事業者の登録申請が必要です。
適格請求書交付をする際には記載項目が増えますので、請求書の書式フォーマットを整えるなど準備をしておきましょう。また、簡単に請求書が作成できるクラウドサービスの活用も検討するとよいでしょう。
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