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法人成りの最適なタイミングは?所得800万円・売上1,000万円の壁を解説

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法人成り タイミング

事業が軌道に乗り、所得が800万円、売上が1,000万円という節目が見えてきた個人事業主の方にとって、手取りを最大化し、事業をさらに成長させる「法人成り」は、現実的な選択肢の一つです。

正しいタイミングを見極めることで、税負担を劇的に軽減し、ビジネスの信用力を高める未来が拓けます。

この記事では、単なる節税のメリットだけでなく、社会保険料の負担増、設立コスト、事務手続きの煩雑さといったデメリットも網羅的に解説します。

その上で、あなたの事業にとって「本当に今がベストなタイミングなのか」を客観的に判断するための具体的な指標とシミュレーションを提供します。

法人成りは複雑に思えるかもしれませんが、判断基準となるポイントは明確です。この記事で解説する「5つのタイミング」に沿って検討すれば、誰でも最適な決断を下すことが可能です。後悔しないための道筋を具体的にお示しします。

法人成りのメリット・デメリットを徹底比較

法人成りを検討する最初のステップは、そのメリットとデメリットを正確に理解することです。「いつ」法人化するかを考える前に、「何が」変わり、「何を得て何を失うのか」という全体像を把握することが、後悔しない選択につながります。

法人成りは、単に税金の計算方法が変わるだけではありません。事業主個人と一体だった事業が、法律上独立した「法人」という別人格になる、という根本的な構造変化を意味します。この変化は、税金、責任、信用、コスト、日々の運営に至るまで、事業のあらゆる側面に影響を及ぼすのです。

法人成りのメリット

法人化することで得られる主なメリットは、税制面、責任範囲、社会的信用の3つの側面に集約されます。

税制上の優位性

法人化による最大の魅力の一つが節税効果です。個人事業主の所得税が所得に応じて税率が上がる「累進課税」(最高45%)であるのに対し、法人税は一定の税率が適用されるため、所得が一定額を超えると法人の方が税負担は軽くなります。

具体的には、経営者自身への給与を「役員報酬」として経費計上でき、さらにその給与には「給与所得控除」が適用されるため、個人の所得税負担も軽減されます。

また、家族を役員にして所得を分散したり、法人契約の生命保険料を経費にできたりと、経費として認められる範囲が広がります。事業で赤字が出た場合に最大10年間繰り越せる(個人は3年)など、多様な節税策を講じることが可能になる点も大きなメリットです。

有限責任によるリスク分散

個人事業主は、事業上の負債に対して個人の全財産で返済する義務を負う「無限責任」を負っています。万が一事業が失敗した場合、自宅や預貯金といった個人資産まで失うリスクがあります。

一方、株式会社や合同会社を設立すれば、出資した金額の範囲内でのみ責任を負う「有限責任」となります。これにより、事業リスクと個人の生活を法的に切り離し、安心して事業に挑戦できる環境が整います。

社会的信用の向上

法人は法務局に登記され、その存在が公的に証明されるため、個人事業主よりも社会的信用度が高まります。この信用力は、金融機関からの融資を有利に進めたり、大企業との取引機会を広げたりする上で大きな武器となります。

実際に、取引相手を法人に限定する企業も少なくありません。また、社会保険への加入が義務付けられることで、福利厚生が充実し、優秀な人材を採用しやすくなるという側面もあります。

事業承継の円滑化

個人事業主が亡くなると、事業用の銀行口座が凍結され、事業の継続が困難になることがあります。しかし、法人の場合は代表者が変わっても事業は継続されます。

株式の譲渡や相続によってスムーズに次世代へ事業を引き継ぐことが可能なため、事業の永続性を高めることができます。

法人成りのデメリット

一方で、法人化には相応のコストと義務が伴います。これらのデメリットを軽視すると、かえって経営を圧迫することになりかねません。

設立・維持コストの発生

個人事業の開業は届出だけで費用がかかりませんが、法人を設立するには、法定費用だけで株式会社で約22万円から25万円、合同会社でも約10万円から11万円程度が必要です。

さらに、事業が赤字であっても、法人住民税の「均等割」として最低でも年間約7万円の税金を納める義務が生じます。

社会保険への強制加入と負担増

法人化すると、たとえ社長一人であっても社会保険(健康保険・厚生年金)への加入が義務付けられます。保険料は会社と個人で折半しますが、国民健康保険や国民年金に比べて負担額が大幅に増加するケースが多く、これが法人化をためらう最大の要因の一つとなっています。

経理・事務負担の増大

法人の会計処理は個人事業主よりも厳格で複雑です。決算書の作成や法人税の申告は専門的な知識を要するため、多くの場合、税理士への依頼が必須となり、その顧問料も新たなコストとなります。また、株主総会の開催や議事録の作成といった法的な手続きも必要になります。

資金の自由度の低下

個人事業主は事業の利益を自由に使えますが、法人の資産はあくまで会社のものであり、経営者個人が私的に流用することはできません。個人が資金を得るには「役員報酬」として受け取る必要があり、その金額は原則として事業年度の途中で自由に変更できないという制約があります。

メリット・デメリットの比較表

比較項目個人事業主法人(株式会社・合同会社)
適用される主な税金所得税(累進課税:5%~45%)法人税(比例税率:最大23.2%)
責任の範囲無限責任有限責任
社会的信用度法人に比べて低い高い
赤字の繰越期間3年間(青色申告)10年間
社会保険の加入任意(従業員5人未満)強制加入
設立費用0円約10万円~25万円
赤字時の税負担住民税均等割(約5,000円)のみ法人住民税均等割(最低約7万円)
会計・事務処理比較的簡易複雑(税理士への依頼が一般的)
資金の自由度高い低い(役員報酬として受け取る)
事業承継煩雑(資産凍結リスクあり)円滑(株式の譲渡・相続)

この比較からわかるように、法人化の判断は単に「税金が安くなるか」という一点だけで決めるべきではありません。増加する固定費や事務負担を吸収できるだけの安定的で十分な利益が見込めるかが重要です。

そして、法人格がもたらす信用力や有限責任といったメリットが、失われる自由度や増加するコストに見合うものなのか、という総合的な視点での判断が不可欠です。

法人成りを検討すべき「5つのタイミング」

法人成りを検討すべき「5つのタイミング」

法人化のメリット・デメリットを理解した上で、次に考えるべきは「いつ行動に移すか」です。最適なタイミングは、事業の状況や将来の展望によって異なりますが、判断の目安となる代表的な「5つのタイミング」が存在します。

タイミング1 所得が800万円を超えるとき

最も一般的で、かつ重要なタイミングが、事業所得(売上から経費を引いた利益)が800万円から900万円を超えるときです。この水準に達すると、税負担の逆転現象が起こりやすくなります。

具体的には、個人事業主のまま納める所得税・住民税・事業税の合計額が、法人化した場合の法人税と役員個人の税金の合計額を上回る可能性が高まります。

個人事業主の所得税は、所得が増えるほど税率が高くなる「超過累進課税」であり、課税所得が900万円を超えると税率は33%に達します。一方、中小企業の法人税率は、利益800万円以下の部分が15%、それを超える部分が23.2%と、比較的低い税率に抑えられています。

しかし、単純な税率比較だけで判断するのは早計です。法人化の損益分岐点を正確に把握するには、社会保険料の負担増を考慮に入れる必要があります。法人化すると、役員報酬に対して約30%の社会保険料がかかり、その半分を会社が負担します。この社会保険料の増加額は非常に大きく、税金の減少分を上回ってしまうことも少なくありません。

法人化の真のメリットは、役員報酬の設定を通じて、法人に残す利益と個人が受け取る給与のバランスを最適化できる点にあります。役員報酬を高く設定すれば、会社の利益が減り法人税は下がりますが、個人の所得税と社会保険料が増加します。逆に低く設定すれば、個人の負担は減りますが、会社に利益が残り法人税がかかります。

このトレードオフを理解し、シミュレーションを通じて最適な役員報酬額を見つけることが、手取りを最大化する鍵となります。以下の表は、所得500万円、800万円、1,200万円の3つのケースで、個人事業主と法人の手取り額を比較した簡易的なシミュレーションです。

項目所得500万円所得800万円所得1,200万円
【個人事業主】
事業所得5,000,000円8,000,000円12,000,000円
税金・社会保険料合計約1,280,000円約2,380,000円約4,250,000円
手取り額約3,720,000円約5,620,000円約7,750,000円
【法人】
役員報酬5,000,000円8,000,000円12,000,000円
税金・社会保険料合計約1,370,000円約2,480,000円約4,130,000円
手取り額約3,630,000円約5,520,000円約7,870,000円
手取り額の差(法人 – 個人)-90,000円-100,000円+120,000円

※シミュレーションの前提条件:東京都・40歳未満・独身・青色申告特別控除65万円・基礎控除48万円・国民年金(定額)・国民健康保険(東京都港区の料率を参考に計算)・社会保険(協会けんぽ東京支部の料率を参考に計算)。法人の利益は役員報酬と社会保険料法人負担分で相殺され、法人税は0円、法人住民税均等割7万円がかかるものとして計算。あくまで簡易的な試算であり、実際の金額とは異なります。

このシミュレーションから、所得が500万円や800万円の段階では、社会保険料の負担増が影響し、法人化しても手取り額はむしろ減少する可能性があることがわかります。しかし、所得が1,200万円に達すると、税率差のメリットが社会保険料の負担増を上回り、手取り額が逆転し始めます。

このことから、安定して所得800万円を超え、今後も成長が見込めるというのが、税負担の観点から見た一つの明確なタイミングと言えるでしょう。

タイミング2 課税売上が1,000万円を超えるとき

2つ目のタイミングは、課税売上高が1,000万円を超えたときです。個人事業主は、2年前の課税売上高が1,000万円を超えると、その年から消費税の納税義務が発生します。

ここで法人成りを活用すると、新しく設立された法人は、原則として設立から最大2年間、消費税の納税が免除されるという特例があります(資本金1,000万円未満の場合)。これは、法人という新しい事業者が誕生したとみなされるためで、消費税の納税義務の発生を先延ばしにできる、いわば「リセット」効果です。

これにより、2年分の消費税額がキャッシュフローとして手元に残るため、特に資金繰りが重要となる成長期の事業者にとっては大きなメリットとなり得ます。

ただし、この戦略はインボイス制度の導入により、その有効性が大きく変化した点に注意が必要です。BtoB取引が中心の事業で、取引先から適格請求書(インボイス)の発行を求められる場合、免税事業者でいることは困難になります。

インボイスを発行するためには課税事業者として登録する必要があり、その時点で売上高にかかわらず消費税の納税義務が生じます。この場合、法人化による消費税免除のメリットは享受できません。

したがって、このタイミングでの法人化を検討する際は、「自社の売上が1,000万円を超えたか」だけでなく、「主要な取引先がインボイスを必要としているか」という市場環境の分析が不可欠です。

BtoC事業など、インボイス発行の必要性が低い業態であれば依然として有効な選択肢ですが、BtoB事業の場合は、このタイミングでの法人化のメリットは限定的であると考えるべきでしょう。

タイミング3 事業拡大で資金調達や信用力が必要なとき

税金の問題だけでなく、事業の成長戦略から法人化を判断するケースもあります。具体的には、事業拡大のために金融機関からの融資や、大口の取引先との契約獲得を目指すタイミングです。

前述の通り、法人は個人事業主よりも社会的信用度が高いと評価されます。これは、法務局への登記によって会社の存在や実態が公的に証明されているためであり、この信用力は具体的なビジネスチャンスに直結します。

まず、資金調達が有利になります。金融機関は融資審査において、事業の透明性や継続性を重視します。会計処理が厳格で、経営状態が明確な法人は、個人事業主よりも審査に通りやすく、より大きな融資額を引き出せる可能性が高まります。設備投資や運転資金など、まとまった資金が必要になったときが、法人化を検討する好機です。

次に、取引機会の拡大も期待できます。大企業の中には、コンプライアンスやリスク管理の観点から、取引相手を法人のみに限定している場合があります。個人事業主であるがゆえに、大きなビジネスチャンスを逃している可能性もあるのです。

もし、取引先から法人化を求められたり、法人格があれば受注できる案件があったりするならば、それは事業を次のステージに進めるための戦略的な法人化のタイミングと言えます。

このタイミングは、所得や売上といった数値的な基準ではなく、「事業計画の実現に法人格が必要か」という視点で判断します。そのため、所得が800万円に達していなくても、大きな成長機会を掴むために先行して法人化するという戦略的な判断も十分に考えられます。法人化のコストは、この場合、未来への「投資」と捉えることができるでしょう。

タイミング4 従業員の雇用や家族への給与支払いを考えるとき

事業の人的リソースに関する計画も、法人化の重要なきっかけとなります。具体的には、初めて従業員を雇用する、あるいは事業を手伝う家族へ正式に給与を支払いたいと考えたときです。

法人化は、家族への給与支払いによる所得分散を可能にします。個人事業主の場合、配偶者や親族に給与を支払っても、経費として認められるのは「青色事業専従者給与」という厳格な要件を満たした場合に限られます。しかし、法人化すれば、家族を役員や従業員として迎え、その働きに見合った役員報酬や給与を支払うことが可能です。

この給与は法人の経費として計上できるため、会社の利益を圧縮し、法人税を抑える効果があります。さらに、所得が家族内で分散されることで、世帯全体で見たときに一人ひとりに適用される所得税率が低くなり、トータルでの税負担を軽減できる可能性があります。これは、個人事業主にはない、法人ならではの柔軟な節税策です。

また、優秀な人材を確保する上でも法人格は有利に働きます。法人は社会保険への加入が義務付けられているため、求職者にとっては福利厚生が整った安定した職場と映ります。個人事業主のままでは得にくい「安心感」を提供できることは、採用競争において大きなアドバンテージとなります。

このように、法人化は事業を「個人」の活動から「組織」へと転換させるステップであり、家族を含めたチームで事業を成長させていく上で、税務面でも採用面でも強力な基盤となります。

タイミング5 将来の事業承継を見据えるとき

最後のタイミングは、より長期的な視点、すなわち将来の事業承継を考え始めたときです。自分の代だけでなく、次世代にも事業を残していきたいと考えるなら、法人化は極めて重要な選択肢となります。

個人事業主の事業承継には、多くの困難が伴います。事業主が亡くなると、事業用の資産や銀行口座はすべて個人の遺産として扱われ、相続手続きが完了するまで凍結されてしまいます。これにより、仕入れ先への支払いが滞ったり、従業員への給与が払えなくなったりと、事業の継続そのものが危機に瀕する可能性があります。

一方、法人の場合、事業の所有権は「株式」という形で存在します。代表者が亡くなっても、会社という法人格は存続し、事業活動が止まることはありません。事業承継は、この株式を後継者に譲渡(売買、贈与、相続)することで行われます。

これにより、事業用資産が凍結されるリスクを回避し、取引先との契約も維持したまま、スムーズに経営のバトンタッチが可能です。

また、税金面でも法人化は有利です。個人事業の資産をそのまま相続すると高額な相続税がかかる場合がありますが、法人の場合は会社の価値(株価)に対して課税されます。計画的に役員退職金を支給したり、生命保険を活用したりすることで株価を引き下げ、低い税負担で株式を後継者に移転するといった対策を講じやすくなります。

このタイミングは、目先の利益ではなく、事業の永続性という観点から判断します。自分の築き上げた事業を、価値ある資産として次世代に残したいと考えるならば、早めに法人化し、計画的な承継準備を始めることが賢明です。

法人成りしない方が良いケースとは?

これまで法人化のメリットやタイミングについて解説してきましたが、すべての事業者にとって法人化が最善の選択とは限りません。状況によっては、個人事業主のままでいる方が合理的であるケースも存在します。以下のような場合は、慎重に判断するか、法人化を見送ることを検討すべきです。

  • 所得が低い、または不安定な場合
    年間の事業所得が安定して500万円以下である場合、法人化のメリットはほとんどありません。所得税率が低い水準にとどまるため、法人化による節税効果よりも、社会保険料の負担増大や、赤字でも発生する法人住民税均等割といった固定費の増加が経営を圧迫する可能性が高いです。売上が月によって大きく変動する事業も同様で、まずは収益の安定化を優先すべきです。
  • 事業を大きく拡大する予定がない場合
    融資による大規模な設備投資や従業員の大量雇用などを計画しておらず、自分のペースで働ける「ライフスタイルビジネス」を志向している場合、法人化の必要性は低いでしょう。社会的信用力の向上や資金調達の有利化といったメリットは、事業拡大を目指さないのであれば不要なものです。むしろ、法人化に伴う事務手続きの煩雑さやコストが、自由な働き方を阻害する要因になりかねません。
  • 手続きの簡便さや資金の自由度を重視する場合
    法人は会計処理が複雑で、税務申告も専門家の助けなしには困難です。また、会社の資金を自由に引き出せないという制約もあります。こうした手間や制約を避け、本業に集中したい、事業で得た利益はすぐに生活費として使いたい、という考え方であれば、個人事業主のままの方がシンプルで合理的です。
  • 事業の将来が不透明、または縮小の可能性がある場合
    法人の設立には費用と手間がかかるだけでなく、廃業する際にも解散登記や清算手続きなどでコストと時間が必要です。もし、現在の事業が一時的なものかもしれない、あるいは将来的に規模を縮小する可能性があるならば、安易に法人化するのは避けるべきです。

法人化は不可逆的な選択ではありませんが、元に戻すには大きな労力がかかります。自身の事業の現状と将来像、そして何よりも経営者としての価値観(成長志向か、安定・自由志向か)を冷静に見極め、法人化という選択が本当に自分の目指すゴールに合致しているかを考えることが重要です。

法人設立の基本と会社形態の選び方

法人設立の基本と会社形態の選び方

法人化を決断した場合、次はその実行ステップです。手続きは複雑に思えるかもしれませんが、流れを把握すれば着実に進めることができます。また、設立する法人の「形態」を選ぶことも重要なポイントです。

法人設立の7ステップ

法人設立の手続きは、準備から登記完了、その後の届出まで、大きく以下の7つのステップで進みます。全体でスムーズに進んでも2~3週間、書類の不備などがあれば数ヶ月かかることもあります。

  1. 会社の基本事項を決定する
    商号(会社名)、本店所在地、事業目的、資本金の額、役員構成、決算日など、会社の骨格となる情報を決定します。
  2. 会社用の印鑑を作成する
    法務局に登録する「代表者印(実印)」、銀行口座開設に使う「銀行印」、請求書などに押す「角印」の3点セットを作成するのが一般的です。
  3. 定款(ていかん)を作成する
    会社の憲法ともいえる最も重要な書類です。ステップ1で決めた基本事項を盛り込み、事業運営の基本ルールを定めます。
  4. 定款の認証を受ける(株式会社の場合)
    作成した定款が法的に正当なものであることを、公証役場で公証人に証明してもらいます。この手続きは株式会社の設立にのみ必要で、合同会社では不要です。
  5. 資本金を払い込む
    発起人(会社設立者)個人の銀行口座に、定款で定めた資本金を振り込みます。この時点ではまだ法人口座は作れないため、個人口座を使用します。
  6. 法務局で設立登記を申請する
    必要書類をすべて揃え、本店所在地を管轄する法務局に設立登記申請書を提出します。この申請日が会社の設立日となります。
  7. 設立後の各種届出を行う
    登記完了後、税務署や都道府県税事務所、市町村役場へ法人設立届を提出します。また、社会保険や労働保険の加入手続きも必要です。並行して、個人事業の廃業届も税務署に提出します。

株式会社と合同会社の比較と選び方

法人設立の際、多くの人が悩むのが「株式会社」と「合同会社」のどちらを選ぶかです。両者は設立コストや社会的信用度、運営の自由度などに違いがあり、事業の目的によって最適な形態は異なります。

株式会社

日本で最も一般的で、社会的信用度が非常に高い会社形態です。株式を発行して広く資金調達することが可能で、将来的な上場(IPO)も目指せます。その分、設立費用が高額で、決算公告や役員の任期ごとの登記など、運営上の義務やコストも多くなります。

外部からの資金調達を視野に入れ、事業を大きく成長させたい場合や、BtoB取引で信用力が重視される事業に向いています。

合同会社

2006年に新設された比較的新しい形態で、設立・維持コストを低く抑えられるのが最大の魅力です。意思決定の自由度も高く、利益の配分も出資額によらず自由に決められます。一方で、株式会社に比べて知名度や信用度が低く、株式発行による資金調達ができないため、大規模な資金調達には不向きです。

個人事業主の延長線上で節税を主な目的とする場合や、BtoCビジネス、コストを抑えてスモールスタートしたい場合に適しています。

この選択は、単なるコストの問題ではなく、事業の将来像をどう描くかという戦略的な意思表示でもあります。「信用」や「成長性」を重視するなら株式会社、「コスト」や「自由度」を優先するなら合同会社が基本の選択肢となります。

比較項目株式会社 (KK)合同会社 (GK)
設立費用(目安)約22万円~約10万円~
社会的信用度高いやや低い
資金調達の方法融資、株式発行、社債など多様融資、出資者からの追加出資など限定的
最高意思決定機関株主総会社員総会
利益の配分原則、出資比率に応じる定款で自由に決定可能
役員の任期あり(最長10年、更新登記が必要)なし
決算公告の義務ありなし
向いている事業・上場を目指す
・外部から大規模な資金調達をしたい
・BtoB取引が中心
・設立、維持コストを抑えたい
・意思決定を迅速に行いたい
・BtoC取引や個人向けサービスが中心

まとめ

法人成りの最適なタイミングは、単一の正解があるわけではなく、事業の収益状況、成長ステージ、そして経営者自身の将来設計が複雑に絡み合って決まります。

本記事で解説した5つの主要なタイミングを再確認しましょう。

  • 税負担の観点
    所得が安定して800万円を超え、今後も成長が見込まれるとき。
  • 消費税の観点
    課税売上が1,000万円を超えたとき(ただしインボイス制度の影響を要確認)。
  • 事業成長の観点
    資金調達や社会的信用力が事業拡大に不可欠になったとき。
  • 組織化の観点
    従業員の雇用や家族への給与支払いを本格的に考えるとき。
  • 将来の観点
    次世代への事業承継を視野に入れ始めたとき。

これらのトリガーに加えて、「あえて法人化しない」という選択肢も常に念頭に置くべきです。自分の事業にとって、法人化のメリットが、コストや手続きの煩雑さといったデメリットを明確に上回るかどうかを冷静に判断することが求められます。

最終的な決断を下すためには、この記事で提供した情報やシミュレーションを参考にしつつも、必ず税理士などの専門家に相談することをお勧めします。あなたの個別の状況に基づいた詳細なシミュレーションと専門的なアドバイスが、後悔のない最適なタイミングでの法人成りを実現するための最も確実な道筋となるでしょう。

この記事の投稿者:

hasegawa

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