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雇われ店長とは?仕事内容、給料まで解説

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「雇われ店長」というキャリアの岐路に立つ方へ。この役職は、将来の独立や高年収という未来を秘めています。

もちろん、多くの現役店長が直面する「給与が見合わない」「責任だけが重い」という厳しい現実も存在します。

しかし、そのプレッシャーの中で特定のスキルを意識的に習得すれば、市場価値の高い人材へと確実に変わることが可能です。この記事は、そのための具体的な記事になります。

雇われ店長とは?その定義と「オーナー店長」との決定的差異

まず、「雇われ店長」という立場を正確に理解することが重要です。この役職の法的な立ち位置と、しばしば混同される「オーナー店長」との根本的な違いを解説します。ご自身の立ち位置を正確に知ることが、キャリアを考える上での第一歩となります。

雇われ店長の基本的な定義

雇われ店長とは、その文字の通り、オーナー(経営者)に雇用されて働く、店舗の現場責任者を指します。

法的な立場は「従業員」です。そのため、その本質は、一般企業の「中間管理職」に相当します。

従業員であるため、仮に店舗の経営がうまくいかず閉店した場合でも、経営責任を法的に問われることはありません。経営者とは異なり、失業給付の対象にもなります。

「オーナー店長」「フランチャイズオーナー」との根本的な違い

ここで、似ているようで全く異なる役職と比較します。

「オーナー店長」は、店舗の所有者(オーナー)であり、かつ現場の店長業務も自ら行う「経営者」です。

「フランチャイズ(FC)オーナー」も「経営者」であり、本部と契約し加盟金を支払って事業の権利を得ます。FCオーナーが自ら店長を兼ねる場合と、運営を任せるために別に「雇われ店長」を雇用する場合があります。

雇われ店長のストレスの多くはこの構造から生まれます。つまり、「経営者のような責任(現場運営)」を任されながら、「従業員の権限(最終決定権なし)」しか持たないという構造的なねじれです。

雇われ店長は、あくまで「業務執行」の責任者です。メニュー変更、価格設定、採用基準といった「経営判断」の最終決定権は、オーナーや本社が持っています。

現場と本社の意向が食い違ったとき、その板挟みになるのが雇われ店長の役割であり、これがストレスの主な原因となります。

権限、責任、リスクの比較

雇われ店長とオーナー店長の違いを、以下の表にまとめます。

項目雇われ店長オーナー店長
立場(雇用形態)従業員(被雇用者)経営者(自営業主)
経営リスク(出資)なしすべて負う
最終決定権オーナー(本社)にあるすべて自身にある
利益の帰属会社に帰属(自身は給与)すべて自身に帰属
閉店時の責任なし(失業保険の対象)すべて負う

雇われ店長の具体的な仕事内容

雇われ店長は、具体的にどのような業務を担うのでしょうか。その仕事は、大きく分けて「カネ・モノ・ヒト」の3つの管理に集約されます。

カネの管理

店長の最大のミッションは、店舗の利益を最大化することです。日々の売上を管理し、同時に人件費や原材料費などのコストを管理します。

単に数字を集計するだけではありません。「なぜ売上が下がったのか」「どのコストを削減できるか」を分析し、改善策を実行することが求められます。

また、本社やオーナーに対して、店舗の業績を報告することも重要な業務です。この経験が、後述する「財務管理能力」の土台となります。

モノの管理

店舗で扱う商品や、飲食店であれば食材の管理も店長の仕事です。発注業務、在庫の確認、商品の品質(鮮度や陳列の状態)を維持します。

モノの管理は、カネの管理と表裏一体です。在庫が多すぎればコスト増(廃棄ロス)につながります。逆に在庫が少なすぎれば、販売の機会を逃し(機会損失)、売上低下に直結します。

ヒトの管理

店長の業務の中で、最も重要かつ難易度が高いのが、この「ヒトの管理」です。

スタッフの採用活動、入社後の教育、日々のシフト作成、そしてスタッフのモチベーション管理まで、人材マネジメントの全般を担います。

スタッフの接客レベルやチームワークが、そのまま店舗の売上や品質に直結します。

また、労働基準法などの法令(コンプライアンス)を守り、スタッフが適切に働ける環境を整備することも、店長の重要な責任です。

雇われ店長の現実 メリットとデメリット

雇われ店長という仕事には、安定と引き換えに大きなプレッシャーが伴います。ここでは、多くの人が感じる「きつい」という現実を、具体的なメリットとデメリットに分けて客観的に分析します。

雇われ店長になるメリット

まず、雇われ店長ならではの利点を見ていきましょう。

経営リスクを負わない安定性

最大のメリットは、経営のリスクを負わないことです。

独立開業する場合、数百万円から数千万円の開業資金が必要です。しかし、雇われ店長は自己資金が不要です。

万が一、店舗が赤字になっても、オーナー店長のように個人がその赤字を補填したり、借金を背負ったりすることはありません。

店舗運営の実戦経験が積める

給与をもらいながら、店舗運営の「実戦経験」を積めることは、大きな資産となります。

前述した「カネ・モノ・ヒト」の管理は、まさに経営の疑似体験です。この経験は、将来的に独立を考える際や、さらに上の役職へキャリアアップする際に、非常に強力な武器となります。

福利厚生と安定した給与

雇われ店長は「従業員」です。そのため、健康保険や厚生年金などの社会保険が適用されます。

また、店舗の売上が月によって変動しても、自身の給与は固定給として保証されます。この経済的な安定は、経営者にはない大きなメリットです。

雇われ店長の「きつい」現実(デメリット)

一方で、多くの現役店長が「きつい」と感じる、厳しい現実(デメリット)も存在します。

裁量権の限界と板挟みのストレス

最大のデメリットが、最終的な決定権がないことです。

「現場としては、この新商品を導入したい」「スタッフの時給を上げたい」。そう考えても、オーナーや本社の許可がなければ実行できません。

「現場の状況」と「本社の方針」が食い違ったとき、その板挟みとなって調整に走るのが中間管理職である雇われ店長の宿命であり、最大のストレス源です。

長時間労働の常態化

雇われ店長は、長時間労働に陥りやすい構造的な問題を抱えています。

特に飲食店や小売業では、人手不足が常態化している店舗も少なくありません。スタッフが急に休んだり、退職者が出たりした場合、そのシフトの穴を埋めるのは最終責任者である店長です。

結果として、1日12時間以上の勤務や、休日出勤が当たり前になるケースも散見されます。

責任と報酬のアンバランス

「きつい」と感じる最も根本的な理由が、この「責任の重さ」と「報酬(給与)」のアンバランスです。

売上目標、スタッフの人生、顧客の安全など、多くの重い責任を背負います。しかし、その報酬はあくまで「従業員」としての給与です。

一部のコンビニ業界などでは、月200時間を超える勤務にもかかわらず、年収が300万円台という過酷な実態も報告されています。

厳しい売上ノルマのプレッシャー

経営陣やオーナーから設定される、売上目標(ノルマ)の達成に対するプレッシャーは常にかかります。

特に、季節のイベント商品(クリスマスケーキやおせちなど)では、店舗ごとに厳しいノルマが課されることがあります。

達成が難しい場合、店長が自腹で商品を購入する「買い取り」という慣習が、一部ではいまだに残っているケースもあります。

顧客クレーム対応のストレス

店舗で発生した問題やクレームに対応する「最後の砦」も店長です。

中には理不尽な要求や、厳しい言葉をぶつけられることもあります。こうした対応は、精神的に大きく消耗する原因となります。

これらのデメリットは、個別の問題ではなく、すべて連鎖しています。

「経営リスクがない」というメリットの裏返しとして、オーナー(本社)が利益を最大化しようとします。その結果、人件費が抑制され、高いノルマが設定されます。

現場は人手不足になり、店長が長時間労働でカバーします。しかし、給与は従業員のまま据え置かれます。これが、雇われ店長が直面する「きつい」現実の構造です。

雇われ店長の給料・年収の実態

では、雇われ店長の「報酬」は、客観的なデータで見るとどうなのでしょうか。「きつい」と感じる感覚が、報酬に見合っているのか。その実態を数字で確認します。

平均年収と「最も多い年収帯」のギャップ

まず、「店長」という職種全体の平均年収は約417.4万円です。これは、「販売・サービス系」職種全体の平均年収である339.4万円と比較すれば、高い水準にあるように見えます。

しかし、これは「平均の罠」です。データを詳しく見ると、最も多い年収帯(中央値に近い)は300万円台(36%)であり、次に400万円台(29%)が続きます。

さらに、この記事の読者の多くが関連する「宿泊・飲食サービス業」に絞ると、平均月収は25万9千円というデータがあります。

これを単純に年収換算すると約310万円、賞与(仮に年2ヶ月分)を含めても約363万円です。「店長全体」の平均である417万円よりも、飲食業界の現実は低い水準にあることがわかります。

項目店長(全体)飲食サービス業(全体)
平均年収417.4万円約310~363万円
最多年収帯300万円台 (36%)データなし
平均月収データなし25.9万円

年齢・学歴別の給与データ(飲食業界)

飲食業界の給与は、年齢を重ねても、他の業界ほど大きくは伸びない傾向があります。

20~24歳の平均月収20.6万円に対し、キャリアの中核となる40~44歳でも28.3万円、51~54歳で29.3万円と、上昇はゆるやかです。また、学歴別では高卒(24.5万円)と大卒(30.0万円)で差が見られます。

ここで重要なのは、店長への転職者の平均年齢が35.2歳という点です。

つまり、キャリアのボリュームゾーンである35歳前後で店長になったとしても、飲食業界の平均月収(35~39歳で27.1万円)で見ると、報酬が大きく伸びにくい。これが、「責任の重さ」と「報酬」が釣り合わないと感じる、客観的なデータ証拠と言えます。

プレッシャーの先にある「やりがい」と「市場価値」

ここまで厳しい現実と給与データを見てきましたが、雇われ店長の経験は「損」なだけなのでしょうか。

決してそんなことはありません。その重いプレッシャーと引き換えに得られる、大きな「やりがい」と、将来のキャリアを切り開く「市場価値」が存在します。

雇われ店長ならではの魅力とやりがい

店長職は、厳しいだけではありません。この立場でしか味わえない、代えがたい「やりがい」があります。

自分が採用し、一から教えたスタッフが、立派に接客をこなしたり、後輩を指導したりする姿を見るとき、スタッフの成長を感じ、最大の喜びの一つとなります。

また、自身が立てた戦略や施策が、売上という「数字」になって明確に返ってくるとき、大きな達成感を得られます。

「店長に会いに来たよ」と言ってくれる常連客との関係づくりも、日々の励みになります。

市場価値を高める「ポータブルスキル」

ここが最も重要です。雇われ店長が日々直面する「きつい重圧」は、見方を変えれば、市場価値の高いスキルを強制的に鍛え上げる「訓練場」です。

これらのスキルは「ポータブルスキル」(持ち運び可能なスキル)と呼ばれ、どの業界・職種に行っても通用する強力な武器となります。

マネジメント能力

人手不足の中でスタッフを採用し、教育し、モチベーションを管理した経験は、あらゆる組織で求められるリーダーシップの根幹です。「ヒト」を管理した経験は、転職市場において非常に高く評価されます。

財務管理能力

厳しい売上ノルマの中で、日々P&L(損益計算)を意識し、売上を上げ、コストを削った経験は、「数字に強い」という証明になります。

この「財務管理能力」や「数値分析力」は、営業職や企画職など、数字の責任が伴う多くの仕事で即戦力となります。

高度な折衝・調整能力

雇われ店長の日常は、調整の連続です。

顧客(クレーム対応)、スタッフ(教育・モチベーション管理)、オーナー・本社(報告・方針のすり合わせ)、取引先(仕入れ交渉)など、立場の異なる利害関係者との間で、日々問題を解決し、交渉・調整を繰り返した経験こそが、最も価値あるスキルの一つです。

この能力は、営業職や管理職でそのまま活かすことができます。

雇われ店長のキャリアパス

雇われ店長としてポータブルスキルを身につけた先には、どのような未来が待っているのでしょうか。その経験を活かすキャリアパスは、大きく分けて3つあります。

社内での昇進

最も一般的で、安定したキャリアパスです。店長として高い実績を出すことで、次のステップに進みます。

一つは、複数の店舗を統括する「エリアマネージャー」です。今度は「店長を指導・管理する」立場になります。

もう一つは「本社勤務」です。スーパーバイザー(SV)や、新店舗の開発担当、人事部の教育担当など、本社の専門職に進む道もあります。

独立

雇われ店長として蓄積した運営ノウハウを活かし、自らが「オーナー店長」として独立する道です。雇われ時代の「裁量権のなさ」というデメリットを解消し、自らの判断ですべてを決められます。

もちろん、雇われ時代の「リスクゼロ」というメリットは失い、すべての経営責任を負うことになります。まさに「ハイリスク・ハイリターン」な選択です。

本部のサポートを受けながら独立できるフランチャイズ(FC)に加盟する方法もあります。

他業種への転職

今の業界の労働環境(例えば、土日休みが取れない、給与水準が低い)に限界を感じる場合、他業種へ転職する道もあります。

心身が消耗し、「燃え尽き症候群」になる前に、環境を変えるのは賢明な判断です。前述のポータブルスキルは、転職市場で高く評価されます。

  • 「マネジメント能力」を活かす職種
    • キャリアアドバイザー
    • 人材育成、人事
  • 「財務管理能力」を活かす職種
    • 営業職(特に数値目標を持つ)
    • マーケティング、経営企画
  • 「折衝・調整能力」を活かす職種
    • 営業職(全般)
    • カスタマーサクセス
    • 不動産営業

まとめ 雇われ店長は「損」か「得」か

この記事の要点を再確認します。

  • 「雇われ店長」とは、経営リスクがない従業員でありながら、現場の全責任を負う中間管理職です。
  • その構造上、「裁量権のなさ」「長時間労働」「報酬のアンバランス」といった厳しい現実に直面しやすい特徴があります。
  • しかし、その重圧は「マネジメント」「財務管理」「折衝能力」という、市場価値の高いポータブルスキルを鍛える絶好の機会でもあります。

雇われ店長という経験が「損」になるか「得」になるかは、この事実を知った上で、どう行動するか次第です。

日々の業務に忙殺される「作業員」として過ごすのか。

あるいは、将来のキャリア(昇進・独立・転職)を見据え、スキルを意識的に磨く「戦略家」として過ごすのか。

この記事で得た知識が、あなたのキャリア戦略の一助となれば幸いです。

この記事の投稿者:

武上

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