
本記事を読めば、なぜあなたの店に利益が残らなかったのか、その根本原因が「FL比率」にあると理解できます。さらに、FLコストを正しく管理し、売上を利益に直結させる具体的な手順が手に入ります。
多くの経営者が「売上は好調なのに手元に現金がない」という深刻な悩みを抱えています。この記事は、その状態から脱却し、安定した利益体質を実現した経営者が実践しているコスト管理術を、専門的な視点から体系化したものです。
専門用語(FL比率、ABC分析)に不安を感じる必要はありません。本記事では、誰でも実践できるよう、Fコスト(食材費)とLコスト(人件費)を最適化する方法を、ステップバイステップでわかりやすく解説します。
目次
飲食店経営の「利益が残らない」悩みとFL比率の基礎
多くの経営者が直面する「売上は立っているのに、なぜか利益が手元に残らない」という問題。その多くは、売上ではなく「コスト構造」に原因があります。その核心にあるのがFL比率です。
FL比率とは何か?
FL比率は、飲食店経営における二大コストである食材費と人件費を管理するための基本的な指標です。
F(Food 食材費)とL(Labor 人件費)の定義
まず、FとLが具体的に何を含むのかを正確に理解することが重要です。
F(Food 食材費)
Fコストとは、Food Cost、すなわち食材費や材料費のことです。
これには、料理に使用する肉、野菜、魚介類などの固形食材だけでなく、飲料(アルコール、ソフトドリンク)、調味料、さらにはテイクアウト用の容器なども含まれます。
L(Labor 人件費)
Lコストとは、Labor Cost、すなわち人件費を指します。
ここで注意が必要なのは、Lコストが単なる「従業員に支払う給与や時給」だけではない点です。Lコストには以下のすべてが含まれます。
- 給与、賃金、賞与(ボーナス)
- 役員報酬
- 各種手当て(残業手当、深夜手当など)
- 社会保険料(健康保険、厚生年金など、会社負担分)
- 福利厚生費
- 交通費
多くの経営者がLコストを過小に見積もりがちです。社会保険料などの会社負担分を含めて計算することで、初めて正確なLコストが把握できます。
FL比率の計算式と経営における重要性
FL比率は、これらのFLコストが売上高に対してどれくらいの割合を占めているかを示す数値です。
計算式は以下の通りです。
FL比率(%) = (食材費 + 人件費) ÷ 売上高 × 100
例えば、ある月の売上高が500万円、食材費が150万円、人件費が130万円だった場合、
FLコスト = 150万円 + 130万円 = 280万円
FL比率 = (280万円 ÷ 500万円) × 100 = 56%
となります。
このFL比率がなぜ重要なのでしょうか。
それは、飲食店経営において、FLコストが経費の大部分を占めるためです。売上からこのFLコストと、家賃などのその他経費を引いたものが、最終的な利益(営業利益)となります。
したがって、FL比率を管理することは、飲食店の利益を直接管理することと同義です。FL比率を1%改善するだけで、利益は大きく変わります。
なぜあなたの店には利益が残らないのか?
売上が好調であるにもかかわらず利益が残らない場合、その原因は「FL比率が高すぎること」にある可能性が極めて高いです。
FL比率が経営を圧迫するメカニズム
売上が増えれば、それに伴って食材費(F)は増加します(変動費)。また、売上を支えるためにスタッフのシフトを増やせば、人件費(L)も増加します(準固定費)。
問題は、このFLコストの増加が、売上の増加を上回ってしまうケースです。
例えば、売上を10%上げるために、無理な人員配置や高価な新メニュー導入を行った結果、FLコストが15%も上昇してしまえば、売上は上がっても利益は減少します。これが「利益が残らない」メカニズムです。
売上高はあるのに手元にお金が残らない経営者の共通点
利益が残らないと悩む経営者には、いくつかの共通点が見られます。
- FLコストを「セットで」管理していない
- 「儲かるメニュー」を把握していない
- 経験や勘に頼った経営をしている
原価(F)はFだけ、人件費(L)はLだけで見てしまい、両者を合計した「FL」として、売上高とのバランス(比率)で管理する視点が欠けています。
「利益構造の把握ができていない」状態です。どのメニューが売れ筋で、どのメニューが利益を生んでいるのか(粗利率が高いのか)をデータで把握していません。
「今月は忙しかったから人件費がかさんだ」「雨が続いたから売上が落ちた」といった、感覚的な経営判断に頼っています。データに基づいた客観的な意思決定ができていないため、FL比率のコントロールができません。
FL比率の適正値 あなたの業態のベンチマークを知る
自店のFL比率を計算したら、次に知りたいのは「その数値が高いのか、低いのか」という点でしょう。その基準となるのが、業態ごとの「適正値」です。
業界全体の目安は「60%」のウソとホント
飲食業界では、FL比率の一般的な目安は「60%」と言われることがよくあります。
内訳としては、F(食材費)が30%、L(人件費)が30%というのが、長らく理想的なバランスとされてきました。
しかし、この「60%」という数字は、あくまで一つの目安に過ぎません。
ある調査では、FL比率の理想は「50%」とされており、この水準を達成できている店は、非常に高い水準でコストをコントロールできている優良店と判断されます。また、FL比率が55%以下であれば「Sランク」の超優良店である、という見方もあります。
つまり、「60%」はあくまで平均的な「目標値」であり、多くの店がこの数値を超えてしまっているのが実情です。
最も重要なのは、この数字を盲信することではなく、自店の業態やコンセプトに合った、独自の「FLバランス」を見つけることです。
【業態別】FL比率の目安一覧
FコストとLコストは、業態の特性によって理想的なバランスが大きく異なります。
例えば、高級寿司店のように高い技術(L)と高級食材(F)が必要な業態と、ファストフードのように効率化(低L)と食材原価(高F)で勝負する業態では、目指すべきFL比率が全く違います。
以下に、主な業態別のFL比率の目安をまとめます。
| 業態 | F(食材費)目安 | L(人件費)目安 | FL比率 目安 | 特徴 |
| カフェ・喫茶店 | 24% – 35% | 25% – 36% | 50% – 70% | Fは低いが、サービスや空間維持のためLが高くなりがち。 |
| 居酒屋 | 28% – 35% | 25% – 32% | 53% – 67% | メニューが多様でFが上がりやすく、接客とスピード(L)も重要。 |
| ラーメン | 28% – 35% | 25% – 30% | 53% – 65% | 業態によるが、Fは高め。オペレーション効率化でLを抑える。 |
| ファストフード | 40% | 20% | 60% | Fは高いが、調理がシンプルでLを極限まで低く抑えるモデル。 |
| 寿司屋 | 36% – 42% | 24% – 30% | 60% – 72% | 高品質な食材(F)と職人の技術(L)が必要。 |
| レストラン | 30% – 35% | 27% – 29% | 57% – 64% | FとLのバランスが比較的標準的なモデル。 |
| 焼肉 | 38% – 40% | 20% – 22% | 58% – 62% | F(肉)は高いが、セルフクックのためLは低く抑えられる。 |
この表からわかるように、FとLは「トレードオフ(シーソー)」の関係にあります。
自店のFL比率をこの表と比較し、FとLのどちらが、あるいは両方が高いのかを把握することが、経営改善の第一歩となります。
カフェ・喫茶店(F低・L高)
カフェや喫茶店では、ドリンクメニューが中心となるため、F(食材原価)は比較的低く抑えることが可能です。
しかし、顧客は料理だけでなく、店内の雰囲気や居心地の良さ、スタッフのサービス(L)に価値を感じて来店します。そのため、L(人件費)は高くなる傾向があります。
居酒屋(F高・L高)
居酒屋は、料理のバリエーションが多く、アルコールも提供するため、F(食材コスト)が上がりやすい業態です。
同時に、注文の受付、迅速な料理提供、ドリンク作成、接客など、多くの人手(L)を必要とします。そのため、FとLの両方が高くなりがちで、コスト管理が難しい業態と言えます。
ラーメン・ファストフード(F高・L低)
ラーメン店やファストフード店は、食材の原価率(F)が40%近くなることも珍しくありません。
その代わり、調理オペレーションが高度に標準化・単純化されており、少ない人数で店舗を運営できます。これにより、L(人件費)を20%台、あるいはそれ以下に抑えるビジネスモデルを構築しています。
高級レストラン・寿司(F高・L可変)
高級店や寿司屋では、高品質な食材(F)が不可欠であり、原価率は高くなります。
また、高いスキルを持った料理人や職人(L)を確保する必要があります。これらの高いFLコストを、高い「客単価」に転嫁することで利益を生み出すモデルです。
Fコスト(食材費)の削減 品質を落とさず原価を下げる戦略

自店のFL比率が高いとわかったら、次はいよいよ具体的な改善策です。まずはFコスト(食材費)の最適化から取り掛かります。
重要なのは、「品質を落とさない」ことです。Fコスト削減の優先順位は、(1) ロス削減、(2) メニュー構成の見直し、(3) 仕入れ交渉、の順番です。
食材ロス(廃棄)の削減が最優先
Fコスト削減と聞いて、多くの人が「安い食材を仕入れる」ことを考えがちです。しかし、これは料理の品質低下に直結し、顧客離れを引き起こす最悪の手段です。
Fコスト削減の第一歩は、仕入れた食材を1円たりとも無駄にしないこと、すなわち「食材ロス(廃棄)の削減」です。食材の廃棄は、そのまま利益を捨てていることと同じです。
在庫管理と先入れ先出しの徹底
食材ロスの多くは、不適切な在庫管理によって引き起こされます。
適切な在庫管理は、過剰発注を防ぐことが基本です。冷蔵庫や倉庫にある在庫をスタッフ全員が正確に把握し、使い切れる量だけを発注する仕組みを作ります。
先入れ先出し(FIFO)の徹底は、「First-In, First-Out」の原則です。先に仕入れた食材から順番に使うことを徹底し、食材の鮮度を維持し、期限切れによる廃棄を防ぎます。
端材を活用する「アップサイクルメニュー」の開発
仕込みや調理の段階で発生する野菜の切れ端や肉の端材も、工夫次第で価値を生みます。
例えば、野菜の皮や芯はスープストック(出汁)に活用できます。魚のアラや肉の端材は、まかない料理や、数量限定の「本日のおすすめメニュー」として再利用(アップサイクル)することで、廃棄を減らしながら新たな売上を生み出すことができます。
メニュー構成の見直し(メニューエンジニアリング)
Fコスト管理の核心は、この「メニュー構成の見直し」にあります。どの料理が利益を生んでいるのかをデータで把握し、戦略的にメニュー構成を変えることが極めて有効です。
ABC分析で「売れ筋」と「儲かる」商品を見極める
まずは、経験や勘に頼ったメニュー管理から脱却しなければなりません。
そのための強力な手法が「ABC分析」です。
ABC分析とは、メニューの各アイテムを売上高や利益額順に並べ、重要度(ランク)に応じてA、B、Cの3グループに分類する管理手法です。
これは、「売上の80%は、上位20%のアイテムが生み出している」という「パレートの法則」に基づいています。
ABC分析を行うことで、「どのメニューが売れ筋(Aランク)か」が客観的なデータでわかります。これにより、売れないメニュー(Cランク)の食材発注を減らすなど、的確な在庫管理とコスト削減が可能になります。
「スター商品」と「パズル商品」の戦略的活用法
ABC分析をさらに一歩進めた「メニューエンジニアリング」という手法も有効です。
これは、メニューを「売上(出数)」と「利益率(儲け)」の2軸で4つに分類する考え方です。
スター商品(Star)は、よく売れて、利益率も高い(儲かる)商品です。戦略としては、メニュー表の最も目立つ位置に配置し、看板商品としてさらに販売を促進します。
パズル商品(Puzzle)は、あまり売れませんが、利益率は高い(儲かる)商品です。戦略としては、スタッフから「おすすめ」として提案したり、写真や説明文を工夫したりして、出数を増やす努力をします。
プランナー商品(Planner)は、よく売れますが、利益率は低い(儲からない)商品です。戦略としては、原価を見直す、セットメニューに組み込む、あるいは(慎重に)値上げを検討します。
ドッグ商品(Dog)は、あまり売れず、利益率も低い(儲からない)商品です。戦略としては、メニューから外す(削減する)ことを検討します。
この分析に基づき、スター商品とパズル商品の出数を増やす工夫をするだけで、店全体のFコスト比率は自然と改善していきます。
共通食材の活用(食材回転率の向上)
メニューを設計する際、同じ食材を複数のメニューで活用できるように意識することも重要です。
例えば、「鶏もも肉」を、Aメニュー(唐揚げ)、Bメニュー(親子丼)、Cメニュー(チキンソテー)で共通して使えば、鶏もも肉の仕入れ量(回転率)が上がります。
これにより、食材を使い切るスピードが上がり、ロスを減らせるだけでなく、仕入れ先への価格交渉力も増すことになります。
仕入れ先の見直しと交渉術
ロス削減とメニュー見直しを徹底しても、まだFコストが高い場合、最後の手段として「仕入れ」にメスを入れます。
ただし、既存の業者にいきなり値下げを要求するのは、関係性を損なう可能性があります。
まずは、長年の付き合いがある業者に対し、「発注量をまとめるから、この食材の単価を少し下げてほしい」など、相手にもメリットのある提案型で交渉することが重要です。
そのほか、複数の業者から相見積もりを取る、農家や漁師から直接仕入れる(産地直送)、あるいは近隣の飲食店と「共同仕入れ」を行うなど、原価を抑える手段は複数存在します。
Lコスト(人件費)の削減 サービス品質を維持する最適化

次に、Lコスト(人件費)の最適化です。
Fコスト以上に、Lコストの管理は慎重に行う必要があります。なぜなら、Lコストの安易な削減(=スタッフを減らす)は、即座にサービス品質の低下、顧客満足度の低下に直結するからです。
ここでのゴールは「人を切る」ことではなく、「生産性を上げること」です。
シフト管理の科学(データに基づく人員配置)
Lコストの無駄は、主に「必要ない時間帯に、必要以上のスタッフを配置している」ことから生まれます。これを「アイドルタイム(無駄な時間)」と呼びます。
売上予測に基づく人員配置
Lコストの最適化は、過去のデータ分析から始まります。
POSシステムなどに蓄積された「過去の時間帯別・曜日別の売上データ」を分析します。
「月曜の14時〜17時は客数が激減する」「金曜の19時台に売上がピークを迎える」といった傾向を正確に把握します。
この売上予測に基づき、時間帯ごとに「本当に必要な人員数」を配置することで、無駄なシフトを科学的に削減できます。
繁忙期と閑散期のメリハリ
売上が少ない時間帯や、閑散期には、シフトを減らす勇気も必要です。
もちろん、スタッフの希望を聞きながら、公平性を保ったシフト管理を心がけることが、モチベーション維持のためには不可欠です。
予約状況の分析も重要です。予約が少ない日は、最小限の人員で運営できるようシフトを組み直します。
業務効率化による生産性の向上
Lコスト削減の本質は、スタッフ一人ひとりの「生産性を上げること」にあります。少ない人数で、これまで以上の売上やサービスレベルを達成できる仕組みを作ることが重要です。
POSシステム導入が人件費削減につながる理由
現代の飲食店経営において、POSシステム(販売時点情報管理システム)の導入は、Lコスト最適化の核となります。
注文から会計までの一連の流れをデジタル化することで、オペレーションの速度と正確性が劇的に向上します。
例えば、ハンディやタブレットオーダーを使えば、オーダーテイクの時間が短縮され、ホールスタッフは配膳や接客により多くの時間を割けます。
さらに重要なのは、POSシステムが「売上データをリアルタイムで分析」できる点です。
これにより、前述した「データに基づくシフト管理」が可能になります。
初期投資は必要ですが、長期的に見れば、業務効率化と人件費削減による利益向上が見込めます。
管理業務のシステム化
勤怠管理、発注業務、売上集計など、店長や経営者が行うバックヤード業務(管理業務)も、システム化によって効率化できます。
これらの業務にかかる時間を削減できれば、店長は本来の業務である「メニュー開発」や「スタッフ教育」により多くの時間を使えるようになります。
従業員教育への投資がLコストを下げる
Lコストは、単なる「コスト(費用)」ではなく、「生産性への投資」であると捉え直す視点も重要です。
短期的に人を減らしてLコストを下げても、残ったスタッフの負担が増え、疲弊して辞めてしまっては意味がありません。
熟練度向上によるオペレーション速度の改善
教育マニュアルを整備し、従業員のスキルアップを体系的に図ります。
新人の教育期間が短縮されれば、その分「教育コスト」は下がります。
スタッフ全員のスキルが標準化され、オペレーション速度が上がれば、店全体として「少ない人数で回せる」ようになり、結果としてLコストは下がります。
複数業務への対応力(多能工化)
「多能工化」とは、一人のスタッフが複数の業務(ポジション)に対応できる状態にすることです。
例えば、キッチンスタッフが手の空いた時間にホール業務を手伝ったり、ホールスタッフが簡単なドリンク作成や盛り付けを行ったりすることです。
これにより、特定の時間帯だけ「0.5人分」だけ人手が足りない、といった細かなシフト調整が可能になります。
店全体が柔軟に動けるようになり、Lコストの無駄を極限まで削減できます。
離職率低下がもたらす採用・教育コストの削減
適切な教育体制や人事評価システムは、従業員のモチベーションと定着率を向上させます。
スタッフが辞めなくなれば、Lコストに含まれる「採用コスト」や「新人教育コスト」といった、目に見えにくいコストを大幅に削減できます。
少数精鋭で頑張っているスタッフが報われる仕組みを作ることが、長期的に最もLコストを最適化する道筋です。
FL比率管理の「次」へ 持続可能な経営のための拡張指標
FL比率を管理し、FコストとLコストの最適化が進んだら、経営者としてさらに視野を広げる必要があります。FL比率は重要ですが、それだけでは経営のすべては見えません。
家賃(Rent)を含めた「FLR比率」を管理する
FL比率が55%という優良な水準を達成していても、利益が残らない店があります。
その原因の多くは、FL以外の固定費、特に「家賃(Rent)」にあります。
FLR比率の計算方法と理想の目安
そこで重要になるのが、FLコストに家賃(R)を加えた「FLR比率」という指標です。
FLR比率(%)=(食材費+人件費+家賃)÷ 売上 × 100
家賃は、売上に関わらず毎月必ず発生する最大の固定費です。このFLR比率を管理することで、変動費(F)と固定費(L, R)の両方を合わせた、より現実に即した経営状態を把握できます。
FLR比率の理想の目安は、一般的に「70%」が上限とされています。
もしこの比率が70%を超えている場合、それは(FLコスト+家賃)が売上を圧迫し、利益がほとんど残らない危険な状態であることを示しています。
家賃が経営を圧迫する場合の対策
一般的に、家賃(Rent)が売上高に占める比率は、7%〜9%が健全な水準とされています。
もし自店の家賃比率が10%を大きく超えている場合、FLコストをどれだけ最適化しても、利益を出すのは非常に困難です。
対策としては、まずスペースの効率的な利用(座席数の最大化など)を検討します。
それでも比率が改善しない場合は、家主との家賃交渉、あるいは(最終的な手段として)立地選定のミスを認め、より家賃の安い場所への移転や、店舗の売却を検討する必要があります。
FL比率を「営業利益」の観点で見直す
FL比率の管理は、あくまで「手段」です。経営の「目的」ではありません。経営の最終的な目的は、FL比率を下げることではなく、「営業利益(手元に残るお金)」を最大化することです。
FL比率は「古い」?コスト削減と品質投資のジレンマ
ここで、あえて挑戦的な視点を紹介します。それは「FL比率という概念はすでに古い」という考え方です。
FL比率という数字に縛られすぎると、経営の本質を見失う危険があります。
例えば、Fコストを下げようとして食材の品質を落とせば、顧客は正直に離れていきます。Lコストを下げようとしてスタッフを減らしすぎれば、サービスが低下し、残ったスタッフは疲弊して辞めていきます。
FL比率という「率」だけを追いかける経営は、自らの首を絞めることになりかねません。
少数精鋭と高付加価値戦略
FL比率が高くても、圧倒的な利益を出している店も存在します。
そうした店は、Fコストを下げるのではなく、むしろ「最高品質の食材」を使います。Lコストを下げるのではなく、「少数精鋭の優秀なスタッフ」に高い給与を払います。
その結果、FL比率は80%を超えるかもしれません。しかし、その高いコスト(品質)に見合う「高単価」を設定し、顧客が熱狂的に支持してくれるならば、高い「利益額」を確保できます。
FL比率の数字だけを見て「あの店はFL比率が高いからダメだ」と判断するのは早計です。重要なのは、そのFLコストが「価値」を生み出しているかどうかです。
最終ゴールは「営業利益率」
経営者が本当に監視すべき指標は、FL比率ではなく「営業利益率」です。
営業利益 = 売上高 -(売上原価+販売費および一般管理費)
営業利益率(%) = 営業利益 ÷ 売上高 × 100
飲食業界における営業利益率の平均的な目安は「8%」とされています。
FLR比率を70%に抑え、光熱費や広告宣伝費などの「その他の経費」を管理し、最終的にこの「営業利益率8%」を安定して確保すること。これが、持続可能な飲食店経営のゴールです。
【まとめ】FL比率を制覇し、利益体質の飲食店へ
最後に、この記事で学んだ重要なポイントを再確認します。
FL比率管理のファーストステップ
FL比率管理のファーストステップとして、いくつかの重要なポイントがあります。
まず、FL比率(食材費+人件費 ÷ 売上)は、飲食店の経営状態を示す最重要指標です。
次に、Fコスト最適化の鍵は、品質を落とさず「ロス削減」と「メニュー分析(ABC分析)」を徹底することです。
さらに、Lコスト最適化の鍵は、人を減らすのではなく、「データに基づくシフト管理」と「システム化・教育による生産性向上」です。
また、FLだけでなく、家賃(R)を含めた「FLR比率」(70%目安)を管理することが、真のコスト管理です。
最後に、FL比率は「目的」ではなく、最終ゴールである「営業利益」を確保するための「手段」であることを理解しましょう。
まずは自店の「FLR比率」を計算しよう
この記事を読み終えたら、すぐに行動に移してください。
まずは、先月の「売上高」「食材費」「人件費(社会保険料などを含む総額)」「家賃」の4つの数字を正確に洗い出してください。
そして、自店の「FL比率」と「FLR比率」を計算してみましょう。
その数字が、あなたの店が「利益が残らない」原因を解明し、利益体質の優良店へと変革するための、すべての始まりとなります。



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