
10万円以上20万円未満の備品を購入したとき、経理処理をどうすればよいか迷った経験はないでしょうか。一括償却の仕組みを理解していれば、耐用年数を調べる手間を省きつつ、償却資産税の節約にもつなげられます。
この記事では、一括償却資産の基本的な仕組みから、少額減価償却資産の特例との違い、具体的な仕訳方法、注意点までを体系的に解説します。経理担当者や個人事業主の方が、自社に最適な償却方法を選択できるようになる内容です。
目次
一括償却資産とは
一括償却資産とは、取得価額が10万円以上20万円未満の減価償却資産を、耐用年数にかかわらず3年間で均等に償却できる制度です。法人税法施行令第133条の2および所得税法施行令第139条に規定されています。
たとえば、15万円のパソコンを購入した場合、通常の減価償却では耐用年数4年で償却しますが、一括償却を選択すれば3年間で毎年5万円ずつ費用計上できます。
対象となる資産の要件
一括償却資産の適用を受けるための要件は次のとおりです。
取得価額が10万円以上20万円未満であること
事業の用に供していること
減価償却資産に該当すること(土地などの非償却資産は対象外)
法人・個人事業主のいずれも適用でき、青色申告・白色申告を問いません。企業規模の制限もないため、大企業でも利用可能です。
3年均等償却の仕組み
一括償却資産は、事業年度中に取得した対象資産の取得価額の合計額を3で割り、毎年均等に損金(必要経費)として計上します。
償却額の計算は個々の資産ごとではなく、その事業年度に取得した一括償却資産の合計額で行います。たとえば、12万円のプリンターと18万円のパソコンを同じ年度に取得した場合、合計30万円を3年間で毎年10万円ずつ償却します。
取得した時期が期首でも期末でも関係なく、月割り計算は行いません。期の途中で取得しても、その年度から3分の1の額を費用計上できます。
一括償却のメリット
一括償却を選択するメリットは主に3つあります。
耐用年数を調べる必要がない:通常の減価償却では資産ごとに耐用年数を確認する必要がありますが、一括償却なら一律3年で処理できます
償却資産税がかからない:一括償却資産は地方税の償却資産税(固定資産税)の申告対象外です。通常の減価償却や少額減価償却資産の特例では課税対象となるため、この違いは大きなメリットです
月割り計算が不要:取得時期にかかわらず、年間で取得価額の3分の1を均等に償却するため、計算が簡単です
取得価額による償却方法の選択肢
減価償却資産の処理方法は、取得価額に応じて選択肢が変わります。金額ごとの処理方法を整理します。
10万円未満:全額即時費用化
取得価額が10万円未満の資産は、消耗品費などの勘定科目で購入した事業年度に全額を費用計上できます。減価償却の手続きは不要です。
たとえば、8万円のオフィスチェアを購入した場合、「消耗品費 80,000円」として一括で費用処理します。
10万円以上20万円未満:一括償却資産
取得価額が10万円以上20万円未満の資産は、一括償却資産として3年間で均等に償却できます。通常の減価償却を選択することも可能ですが、一括償却のほうが手続きが簡単で、償却資産税もかかりません。
たとえば、15万円のパソコンを購入した場合、毎年5万円ずつ3年間で費用計上します。
30万円未満:少額減価償却資産の特例(中小企業向け)
青色申告を行っている中小企業者等は、取得価額30万円未満の資産を購入した事業年度に全額損金算入できる特例があります。租税特別措置法第67条の5(法人)および第28条の2(個人)に基づく制度です。
ただし、年間の合計取得価額が300万円までという上限があります。また、適用できるのは中小企業者等(資本金1億円以下、従業員数500人以下など)に限られます。
なお、2026年度の税制改正により、対象となる取得価額の上限が30万円未満から40万円未満に引き上げられる予定です。従業員数の要件も500人以下から400人以下に変更されます。
30万円以上:通常の減価償却
取得価額が30万円以上の資産は、原則として法定耐用年数に基づいて減価償却を行います。定額法または定率法を選択し、毎年の償却費を計算します。
一括償却資産と少額減価償却資産の特例の違い
10万円以上20万円未満の資産については、一括償却と少額減価償却資産の特例の両方が使える場合があります。両者の違いを比較します。
適用対象の違い
一括償却資産は、法人・個人事業主を問わず、白色申告でも青色申告でも利用できます。企業規模の制限もありません。
一方、少額減価償却資産の特例は、青色申告を行っている中小企業者等に限定されます。白色申告の個人事業主や大企業は利用できません。
償却期間の違い
一括償却資産は3年間で均等に償却します。少額減価償却資産の特例は、取得した事業年度に全額を損金算入できるため、即時に費用化が完了します。
短期間で費用化したい場合は少額減価償却資産の特例が有利ですが、年間300万円の上限があるため、多数の資産を取得する場合は一括償却と組み合わせる判断が必要です。
償却資産税の違い
一括償却資産は償却資産税の課税対象外です。少額減価償却資産の特例を使った場合は、その資産が償却資産税の課税対象になります。
償却資産税は市区町村が課す地方税で、課税標準額の合計が150万円以上の場合に税率1.4%が適用されます。保有する償却資産が多い企業では、この違いが無視できない金額になることがあります。
一括償却資産の仕訳方法
一括償却資産の仕訳方法には、決算調整方式と申告調整方式の2つがあります。それぞれの具体的な仕訳を紹介します。
決算調整方式の仕訳
決算調整方式は、購入時に資産として計上し、決算時に減価償却費を計上する方法です。実務ではこの方式が一般的に使われています。
購入時の仕訳(例:15万円のパソコン)
借方:一括償却資産 150,000円 / 貸方:現金預金 150,000円
決算時の仕訳(毎年の償却額:15万円 ÷ 3 = 5万円)
借方:減価償却費 50,000円 / 貸方:一括償却資産 50,000円
この仕訳を3年間繰り返すことで、取得価額の全額が費用化されます。
申告調整方式の仕訳
申告調整方式は、購入時に全額を費用として計上し、確定申告の際に税務上の調整を行う方法です。
購入時の仕訳
借方:消耗品費 150,000円 / 貸方:現金預金 150,000円
帳簿上は全額を費用として処理し、確定申告書の別表で3分の2(10万円)を加算する調整を行います。2年目と3年目は、別表で5万円ずつ減算します。
申告調整方式は帳簿処理がシンプルですが、毎年の申告書作成時に調整が必要になるため、管理に注意が必要です。
一括償却資産の注意点
一括償却資産にはメリットが多い一方で、いくつかの注意点があります。
途中で売却・廃棄しても除却損を計上できない
一括償却資産は、3年間の償却期間中に売却や廃棄をしても、除却損や売却損を計上できません。途中で処分しても、残りの償却スケジュールをそのまま継続します。
たとえば、2年目にパソコンが故障して廃棄した場合でも、3年目の償却額を通常どおり費用計上します。売却した場合の収入は「雑収入」として処理します。
一方、通常の減価償却であれば、途中で廃棄した場合に未償却残高を除却損として計上できます。資産の入れ替えが多い場合は、この点を考慮して償却方法を選びましょう。
個々の資産を個別管理しない
一括償却資産は、同じ事業年度に取得した資産の合計額を一括して管理します。個々の資産ごとに償却計算を行うわけではありません。
そのため、固定資産台帳に個別の資産として記録する必要はありませんが、どの資産を一括償却資産として処理したかは別途記録しておくと管理しやすくなります。
年間の取得価額に上限はない
少額減価償却資産の特例には年間300万円の上限がありますが、一括償却資産にはそのような上限がありません。多数の備品を購入する場合でも、取得価額が10万円以上20万円未満であれば制限なく適用できます。
まとめ
一括償却資産は、取得価額10万円以上20万円未満の減価償却資産を3年間で均等に償却できる制度です。耐用年数の確認が不要で、償却資産税の対象外になるメリットがあります。
少額減価償却資産の特例と比べると、一括償却は全事業者が利用でき、年間の取得価額に上限がない点が強みです。一方で、途中で売却・廃棄しても除却損を計上できない点には注意が必要です。
自社の状況に応じて、一括償却と少額減価償却資産の特例を使い分けることで、経理の手間を減らしながら節税効果を最大化できます。取得価額や申告の状況を確認しながら、最適な方法を選択しましょう。



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