
決算時に「賞与引当金」を計上するよう求められたが、具体的な計算方法や仕訳がわからないという経理担当者は少なくありません。
この記事では、賞与引当金の意味、計算方法、仕訳例、税務上の取り扱いまで解説します。決算処理で迷わず対応できるようになります。
目次
賞与引当金の定義と目的
賞与引当金とは、翌期に支給する賞与(ボーナス)のうち、当期の労働に対応する部分を見積もって計上する引当金です。貸借対照表では流動負債に分類されます。
賞与は通常、半年間の労働に対して支給されます。たとえば6月に支給する夏季賞与は、前年12月から当年5月までの勤務実績にもとづくことが一般的です。
3月決算の会社の場合、6月支給の賞与のうち12月から3月までの4か月分は当期の費用として計上すべきです。この「当期に属する費用を当期に計上する」ための仕組みが賞与引当金です。
賞与引当金を計上する目的は、費用と収益を適切に対応させる「費用収益対応の原則」を守ることにあります。
賞与引当金の計算方法
賞与引当金の計算式は以下のとおりです。
賞与引当金 = 翌期支給見込額 × 当期対応月数 ÷ 支給対象期間の月数
具体例で計算してみましょう。
3月決算の会社で、6月に夏季賞与1,200万円を支給予定。支給対象期間は12月〜5月の6か月間。
賞与引当金 = 1,200万円 × 4か月(12月〜3月)÷ 6か月 = 800万円
当期の決算で800万円を賞与引当金として計上します。
社会保険料の会社負担分も忘れずに考慮します。賞与にかかる社会保険料の会社負担分を「賞与引当金」に含めるか、別途「法定福利費引当金」として計上するかは会社の方針によります。
翌期の賞与支給時
翌期の6月に賞与1,200万円を支給した場合の仕訳です。
借方: 賞与引当金 8,000,000円、賞与 4,000,000円
貸方: 普通預金 12,000,000円
前期に計上した引当金800万円を取り崩し、残りの400万円(4月〜5月分)は当期の費用として「賞与」で処理します。
税務上の取り扱い
賞与引当金は会計上は費用として認められますが、税務上は原則として損金(経費)に算入できません。
これは、税務上の損金算入が「債務が確定しているもの」に限られるためです。賞与引当金はあくまで見積もりであり、支給が確定していない段階では損金に算入できません。
そのため、決算時の税務申告では「賞与引当金繰入額」を加算(損金不算入)する申告調整が必要です。翌期に実際に賞与を支給した時点で損金に算入されます。
ただし、期末時点で以下の要件をすべて満たす場合は「未払賞与」として損金算入が認められます。
- 支給額が各人別に、かつ同時期に支給を受けるすべての従業員に通知されている
- 通知した金額を通知したすべての従業員に対し、決算日の翌日から1か月以内に支払っている
- 支給額を損金経理している
賞与引当金の計算を具体例で理解する
賞与引当金の計算は、支給対象期間と決算期のずれを正確に把握することがポイントである。ここでは、いくつかの具体例を使って計算方法を確認する。
3月決算で6月支給の場合
3月決算の会社が、6月に夏季賞与を支給するケースを考える。賞与の対象期間は前年10月から当年3月までの6か月間、支給予定額は全従業員の合計で1,200万円とする。3月決算の場合、10月から3月までの6か月分すべてが当期の費用として計上される。したがって、賞与引当金の計上額は1,200万円になる。
仮に賞与の対象期間が12月から5月までの6か月間で、3月決算のケースを考えると、当期に属するのは12月から3月の4か月分になる。計算は、1,200万円 × 4か月 ÷ 6か月 = 800万円である。この800万円が賞与引当金として計上される。
12月決算で6月・12月支給の場合
12月決算の会社が、6月と12月に年2回の賞与を支給するケースを考える。6月支給分の対象期間が12月から5月、12月支給分の対象期間が6月から11月だとする。12月決算の場合、6月支給分の1,200万円のうち12月の1か月分(1,200万円 × 1か月 ÷ 6か月 = 200万円)が当期に属する。12月支給分は対象期間すべてが当期に属するため、引当金の計上は不要(すでに支給済み)である。したがって、賞与引当金の計上額は200万円となる。
仕訳パターン
賞与の支給時には、見積額と実際の支給額にずれが生じることがある。ずれの有無によって仕訳が変わるため、パターン別に確認する。
見積額と支給額が同じ場合
前期末に賞与引当金800万円を計上し、翌期に実際の支給額も800万円だった場合の仕訳は次のとおりである。
前期決算時:
借方:賞与引当金繰入額 800万円
貸方:賞与引当金 800万円
翌期の支給時:
借方:賞与引当金 800万円
借方:賞与 400万円
貸方:現金預金 1,200万円
800万円が引当金の取り崩し、400万円が翌期に属する2か月分(4月〜5月)の費用として計上される。
支給額が見積額より多い場合
前期末に賞与引当金800万円を計上したが、業績がよく実際の支給額が900万円になった場合を考える。
翌期の支給時:
借方:賞与引当金 800万円
借方:賞与 500万円
貸方:現金預金 1,350万円
引当金800万円を取り崩し、残りの550万円(翌期の2か月分450万円+引当不足分100万円)を賞与として費用計上する。引当不足分は翌期の損益に影響する。
支給額が見積額より少ない場合
前期末に賞与引当金800万円を計上したが、業績が悪化して実際の支給額が700万円に減った場合を考える。
翌期の支給時:
借方:賞与引当金 800万円
借方:賞与 350万円
貸方:現金預金 1,050万円
貸方:賞与引当金戻入額 100万円
引当金が100万円あまるため、賞与引当金戻入額として戻し入れる。戻入額は営業外収益または特別利益として計上する。
賞与引当金の計上が必要な会社と不要な会社
計上が義務付けられるケース
上場企業や会計監査をうける大会社は、企業会計基準にしたがって賞与引当金を計上する義務がある。会計基準では、翌期に支給する賞与のうち当期の労働に対応する部分を負債として見積り、引当金を計上することが求められている。計上しないと、期間損益が正しく表示されないため、監査で指摘をうける。
中小企業の特例
中小企業の場合、中小企業の会計に関する指針では賞与引当金の計上が推奨されているが、必須ではない。とくに小規模企業では、賞与引当金を計上せずに、支給時に全額を費用として処理するケースも見られる。ただし、賞与引当金を計上したほうが、期間損益の正確性がたかまるため、できるだけ計上することが望ましい。銀行融資のさいに決算書の精度がとわれる場合は、賞与引当金を計上していたほうが信頼性が高いと評価される。
賞与引当金と社会保険料
社会保険料の引当
賞与にかかる社会保険料(健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料)は、会社が負担する部分もある。賞与引当金を計上するさいに、会社負担分の社会保険料も合わせて引き当てることが、より正確な期間損益の計算につながる。
たとえば、賞与の支給見込額が1,200万円で、会社負担の社会保険料率が約15%の場合、社会保険料の見込額は180万円である。賞与引当金800万円に対応する社会保険料は、800万円 × 15% = 120万円となる。この120万円を「賞与引当金」に含めて計上するか、「法定福利費」の未払計上として別途計上する方法がある。
法定福利費の取り扱い
賞与にかかる法定福利費(社会保険料の会社負担分)を引き当てる場合は、次のような仕訳になる。
借方:法定福利費 120万円
貸方:未払費用 120万円
賞与引当金とは別に法定福利費として計上するのが一般的だが、まとめて賞与引当金に含めるやり方も認められている。どちらの方法を採用するかは、会計方針として継続的に適用する。

賞与引当金と退職給付引当金の違い
賞与引当金と退職給付引当金は、どちらも従業員への将来の支払いにそなえて計上する引当金だが、性質がことなる。賞与引当金は翌期(通常6か月以内)に支給する賞与のための短期的な引当金であり、流動負債に分類される。退職給付引当金は従業員の退職時に支払う退職金のための長期的な引当金であり、固定負債に分類される。
計算の複雑さも異なる。賞与引当金は支給見込額を月数で按分する比較的シンプルな計算である。退職給付引当金は、将来の退職金総額を割引現在価値で計算する必要があり、数理計算にもとづく複雑な見積もりが求められる。中小企業では、簡便法として退職金規程にもとづく要支給額を引当金として計上する方法も認められている。
税務上の詳細
税務上、賞与引当金の繰入額は損金として認められない。法人税法では、引当金の損金算入が原則として制限されており、賞与引当金もその対象である。したがって、賞与引当金を計上した期には、税務申告のさいに賞与引当金繰入額を加算する必要がある(別表四で加算調整)。
翌期に賞与を実際に支給したときに、支給額が損金として認められる。このとき、前期に加算した賞与引当金繰入額のうち、取り崩した金額を減算する(別表四で減算調整)。このように、賞与引当金は会計と税務で処理のタイミングがずれるため、税効果会計の対象となる。
税効果会計を適用する場合、賞与引当金にかかる将来減算一時差異に対して、繰延税金資産を計上する。たとえば、賞与引当金が800万円で法定実効税率が30%の場合、繰延税金資産は240万円(800万円 × 30%)になる。ただし、回収可能性を慎重に判断する必要がある。
賞与引当金の見積もり精度を高めるポイント
賞与引当金は見積もりにもとづく金額であるため、見積もりの精度がたかいほど、期間損益の正確性がたかまる。精度を高めるためのポイントをいくつか示す。
まず、過去の支給実績を参考にすることが基本である。過去3年間の支給実績を確認し、基本給に対する支給月数の推移を把握する。たとえば、過去3年の夏季賞与が基本給の2.0か月、2.1か月、2.2か月と推移していれば、翌期の支給見込みは2.2〜2.3か月程度と見積もれる。
つぎに、業績の変動を考慮する。業績連動型の賞与制度を採用している場合は、当期の業績見込みにもとづいて支給額を見積もる。売上や営業利益が前年比で10%減少している場合は、賞与もおなじ程度減額される可能性がある。
従業員の異動(入社・退職・休職)も考慮する。決算日時点の従業員数と、賞与支給日時点の従業員数がことなる場合は、支給日時点の見込み人数にもとづいて計算する。期末直後に大量採用や大規模な退職が見込まれる場合は、その影響も加味する。
最後に、前年の見積もりと実績のずれを分析する。毎年、賞与引当金の見積額と実際の支給額のずれがどの程度あるかを確認し、ずれが大きい場合は見積もりの方法を見直す。この分析をくりかえすことで、年々見積もりの精度がたかまっていく。
賞与引当金の開示
賞与引当金は、貸借対照表の流動負債に表示される。上場企業では、有価証券報告書のなかで引当金の計上基準を「重要な会計方針」として開示する。一般的な開示例は「従業員に対して支給する賞与の支出にそなえて、支給見込額のうち当連結会計年度に帰属する額を計上しております」という記載である。注記には、賞与引当金の残高や、前期との比較情報を記載する場合がある。
月次決算での活用
月次決算で賞与引当金を活用すると、毎月の損益をより正確に把握できる。賞与は半年に1回の支給だが、対応する費用は毎月発生している。年次決算でのみ賞与引当金を計上すると、賞与の支給月に費用が集中し、月ごとの損益がゆがんでしまう。
月次で賞与引当金を計上する場合は、年間の賞与見込額を12等分して毎月計上する方法が一般的である。たとえば、年間の賞与見込額が2,400万円であれば、毎月200万円を賞与引当金として計上する。仕訳は次のとおりである。
毎月の仕訳:
借方:賞与引当金繰入額 200万円
貸方:賞与引当金 200万円
この方法により、賞与が支給される6月と12月に費用が偏ることなく、毎月均等に費用が配分される。経営者が月次の業績を判断するさいに、より実態に即した損益情報を得られる。
賞与支給月の仕訳では、積み立てた引当金を取り崩す。6月に夏季賞与1,200万円を支給する場合で、1月から6月まで毎月200万円ずつ計1,200万円を引き当てていたとすると、次のようになる。
借方:賞与引当金 1,200万円
貸方:現金預金 1,200万円
このように、月次決算で賞与引当金を使えば、賞与の支給月でも損益に急激な変動が起きない。
賞与引当金に関連する実務のチェックリスト
賞与引当金の計上にあたって、実務で確認すべき事項をまとめる。
決算時に確認すべき項目は以下のとおりである。翌期の賞与支給予定日と対象期間を確認したか。支給見込額の根拠(過去の支給実績、人事部門からの情報、業績見込み)は十分か。当期に帰属する月数の按分計算は正しいか。前期の見積額と実際の支給額のずれを分析したか。社会保険料の会社負担分も含めて見積もったか。税務申告のさいの加算・減算調整の金額を確認したか。
新入社員や中途入社の従業員については、入社日から支給対象期間の按分が必要な場合がある。たとえば、対象期間6か月のうち3か月間しか在籍していない従業員は、満額ではなく按分された金額で見積もる。この点も見積もりに反映させることで、精度がたかまる。
計上における注意点
賞与引当金を計上するさいに、実務上とくに注意すべき点をまとめる。ひとつめは、引当金の計上基準を毎期一貫して適用することである。ある年は計上し、ある年は計上しないという処理は、継続性の原則に反するため認められない。
ふたつめは、引当金の4要件をみたしているか確認することである。会計上、引当金を計上するには、将来の費用または損失であること、その発生が当期以前の事象に起因すること、発生の可能性がたかいこと、金額を合理的に見積もれることの4つの要件をすべてみたす必要がある。賞与引当金はこの4要件をみたすため、計上がみとめられている。
みっつめは、決算日をまたぐ従業員の退職予定を考慮することである。決算日の翌日から賞与支給日までのあいだに退職が予定されている従業員は、賞与の支給対象外となる場合がある。就業規則や賞与規程に「支給日在籍要件」がある場合は、退職予定者を除外して見積もりをおこなう。
会計ソフトでの設定
主要な会計ソフトでは、賞与引当金の勘定科目があらかじめ登録されている。弥生会計、freee、マネーフォワードクラウドなどのソフトで、流動負債の区分に「賞与引当金」の科目が用意されている。損益計算書側の「賞与引当金繰入額」や「賞与引当金戻入額」も同様に設定しておく。消費税の区分は「対象外」に設定する。月次で引当金を計上する場合は、自動仕訳機能やテンプレート機能を使えば、毎月の入力の手間を省ける。
よくある質問
Q. 賞与を支給しない場合でも賞与引当金を計上するか
賞与を支給しないことが確定している場合は、賞与引当金を計上する必要はない。ただし、決算時点で支給するかどうかが未定の場合は、過去の支給実績にもとづいて引当金を計上し、実際に不支給が確定した時点で戻し入れる。
Q. 役員賞与にも賞与引当金は必要か
役員賞与についても、株主総会で支給が見込まれる場合は引当金を計上する。「役員賞与引当金」として、従業員の賞与引当金とは区分して表示するのが一般的である。ただし、税務上は役員賞与引当金の繰入額は損金に算入されない。
Q. 賞与引当金と決算賞与のちがいは
決算賞与は、決算期末に業績にもとづいて支給が決定される賞与である。決算日までに支給額が確定し、翌月末までに支給するなどの要件をみたせば、当期の損金として認められる。これに対して賞与引当金は、翌期に支給する賞与の見積額を当期の費用として先取りする仕組みであり、損金算入は認められない。
Q. パート・アルバイトの賞与も引当金の対象になるか
パートやアルバイトに賞与を支給する制度がある場合は、正社員とおなじように引当金の計上対象になる。支給実績がある場合は、過去のデータにもとづいて見積もりをおこなう。支給の有無や金額が不確定な場合でも、合理的な見積もりが可能であれば計上する。
まとめ
賞与引当金に関する要点を振り返ります。
- 賞与引当金は翌期支給予定の賞与のうち当期に対応する部分を見積計上するもの
- 計算式: 翌期支給見込額 × 当期対応月数 ÷ 支給対象期間の月数
- 決算時に「賞与引当金繰入額」で費用計上し、支給時に取り崩す
- 税務上は原則損金不算入だが、要件を満たせば未払賞与として損金算入可能
- 社会保険料の会社負担分も含めて引当てるのが望ましい
賞与引当金は決算の正確性に直結する重要な項目です。計算方法と税務上の取り扱いを正しく理解して処理しましょう。



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