
「残存価格」「残存価額」という言葉を目にしたことはあっても、具体的な意味や減価償却との関係がわからないという方は少なくありません。
この記事では、残存価格の定義、減価償却における位置づけ、現行の税務ルールについて解説します。固定資産の処理を正しく理解できるようになります。
目次
残存価格(残存価額)の定義
残存価格(残存価額)とは、固定資産の耐用年数が終了した時点で、その資産に残ると見込まれる価値のことです。「残存簿価」とも呼ばれます。
減価償却では、固定資産の取得価額から残存価額を差し引いた金額を、耐用年数にわたって費用として配分します。
減価償却費の計算(定額法):
年間減価償却費 =(取得価額 – 残存価額)÷ 耐用年数
たとえば、取得価額100万円、残存価額10万円、耐用年数5年の場合:
年間減価償却費 =(100万円 – 10万円)÷ 5年 = 18万円
税務上のルール
2007年の税制改正前
2007年3月31日以前に取得した固定資産については、残存価額は取得価額の10%とされていました。
100万円で取得した資産の場合、残存価額は10万円です。耐用年数が経過しても10万円の簿価が帳簿に残り続けるため、簿価がゼロにならないというルールでした。
ただし、残存価額まで償却した後も使い続ける場合は、備忘価額1円まで5年間で均等償却できるルールが別途設けられていました。
2007年の税制改正後
2007年4月1日以降に取得した固定資産については、残存価額がゼロ(備忘価額1円)とされました。
この改正により、固定資産の取得価額のほぼ全額を減価償却費として計上できるようになりました。耐用年数の最終年度に備忘価額として1円を残し、それ以外の金額はすべて償却されます。
定額法の計算式も簡略化されました。
年間減価償却費 = 取得価額 ÷ 耐用年数(最終年度は備忘価額1円を残す)
現在は残存価額を考慮する必要がなくなったため、実務上はほとんどの企業がこのルールで処理しています。
会計上の残存価額
会計基準(企業会計基準)では、残存価額は「資産の耐用年数到来時に処分することによって得られると見込まれる金額」と定義されています。
税務上は残存価額ゼロで統一されていますが、会計上は企業が合理的に見積もった金額を残存価額として設定できます。実務上は税務上のルールに合わせて残存価額をゼロ(備忘価額1円)とする企業がほとんどです。
リース資産の場合は、リース期間終了後の残存価額(残価)が契約で定められていることがあります。この場合は契約上の残価を残存価額として使用します。
減価償却の計算例
残存価格と減価償却の関係を、具体的な計算例で確認します。現行の税務ルールと旧ルールの両方を示します。
定額法の計算例
2007年4月1日以降に取得した固定資産は、残存価額をゼロとして減価償却をおこなう(最終的に備忘価額1円まで償却)。たとえば、2026年4月に取得した事務用パソコン(取得価額30万円、耐用年数4年)を定額法で償却する場合を考える。
年間減価償却費 = 30万円 × 0.250(定額法の償却率)= 75,000円
各年の償却額と帳簿価額は次のようになる。1年目は償却費75,000円で帳簿価額225,000円、2年目は償却費75,000円で帳簿価額150,000円、3年目は償却費75,000円で帳簿価額75,000円、4年目は償却費74,999円で帳簿価額1円(備忘価額)となる。4年目の最後の年は、帳簿価額が1円になるように調整する。
定率法の計算例
定率法では、毎年の帳簿価額(未償却残高)に一定の償却率をかけて減価償却費を計算する。おなじパソコン(取得価額30万円、耐用年数4年)を200%定率法で償却する場合を考える。200%定率法の償却率は定額法の2倍で0.500である。
1年目は300,000円 × 0.500 = 150,000円で帳簿価額150,000円。2年目は150,000円 × 0.500 = 75,000円で帳簿価額75,000円。3年目からは改定償却率(0.500)を適用し、75,000円 × 0.500 = 37,500円。ただし、保証額(取得価額 × 保証率)を下回る場合は、改定取得価額に改定償却率をかけた金額で償却する。定率法は初年度の償却額が大きく、年数が進むにつれて償却額がちいさくなるのが特徴である。
旧定額法の計算例(参考)
2007年3月31日以前に取得した固定資産には、残存価額を取得価額の10%とする旧ルールが適用される。たとえば、2005年に取得した機械装置(取得価額500万円、耐用年数10年)を旧定額法で償却する場合を考える。
残存価額 = 500万円 × 10% = 50万円
年間減価償却費 =(500万円 – 50万円)÷ 10年 = 45万円
10年間の償却が完了すると、帳簿価額は残存価額の50万円になる。その後、帳簿価額が1円になるまで5年間で均等に償却する(5%均等償却)。追加の償却額は(50万円 – 1円)÷ 5年 = 約10万円ずつとなる。
残存価格と備忘価額の違い
備忘価額1円の意味
備忘価額とは、固定資産の帳簿上の記録を残すために設定される最小の金額である。現行の税務ルールでは、減価償却によって帳簿価額が1円になるまで償却する。この1円が備忘価額である。備忘価額を1円とする理由は、帳簿から固定資産の記録が完全に消えてしまうのを防ぐためである。帳簿価額がゼロになると、その資産が存在していることが帳簿上わからなくなり、管理が不十分になるおそれがある。
備忘価額が必要な理由
固定資産台帳に1円の備忘価額で資産が記録されていることで、その資産がまだ社内に存在し、使用されていることがわかる。固定資産の実地棚卸のさいに、台帳と現物をつきあわせる作業がスムーズになる。また、備忘価額1円の資産を除却(廃棄)するさいには、除却損1円を計上する仕訳が必要になる。この仕訳により、資産が正式に帳簿から除かれたことが記録される。
除却時の処理
備忘価額1円の固定資産を除却する場合の仕訳は次のとおりである。
借方:固定資産除却損 1円
貸方:機械装置(または該当する勘定科目)1円
除却にともなう処分費用(廃棄業者への支払いなど)が発生する場合は、その費用も固定資産除却損にふくめて計上する。たとえば、廃棄費用が5万円かかった場合の仕訳は次のとおりである。
借方:固定資産除却損 50,001円
貸方:機械装置 1円
貸方:現金預金 50,000円
実務上のポイント
固定資産台帳への記録
固定資産を取得したら、固定資産台帳に必要事項を記録する。記録すべき項目は、資産名、取得日、取得価額、耐用年数、償却方法(定額法・定率法)、残存価額、年間の減価償却費、累計償却額、帳簿価額(未償却残高)である。会計ソフトを使っている場合は、固定資産の登録画面でこれらの項目を入力すれば、毎期の減価償却費が自動計算される。
耐用年数の判断
減価償却の計算に使う耐用年数は、税務上は法定耐用年数にもとづく。法定耐用年数は「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」に定められている。たとえば、パソコンは4年、事務用の金属製デスクは15年、普通自動車は6年、軽自動車は4年、鉄筋コンクリート造の建物は47年である。実際の使用可能年数と法定耐用年数がことなる場合でも、税務上は法定耐用年数を使用する。
中古資産の残存価額
中古資産を取得した場合、法定耐用年数ではなく「見積耐用年数」を使用できる。見積耐用年数の計算方法は、法定耐用年数の全部をへた資産の場合は「法定耐用年数 × 20%」、法定耐用年数の一部をへた資産の場合は「(法定耐用年数 – 経過年数)+ 経過年数 × 20%」で計算する。
たとえば、法定耐用年数6年の中古自動車を3年落ちで購入した場合、見積耐用年数は(6年 – 3年)+ 3年 × 20% = 3.6年で、端数を切り捨てて3年となる。中古資産は耐用年数がみじかくなるため、1年あたりの減価償却費が大きくなり、早期に費用化できるメリットがある。残存価額の考え方は新品とおなじで、備忘価額1円まで償却する。

残存価格と固定資産の売却
売却時の仕訳
固定資産を売却した場合は、帳簿価額と売却価額のさがく分が売却損益として計上される。たとえば、帳簿価額100万円の車両を80万円で売却した場合の仕訳は次のとおりである。
借方:現金預金 80万円
借方:固定資産売却損 20万円
貸方:車両運搬具 100万円
逆に、帳簿価額100万円の車両を120万円で売却した場合は次のようになる。
借方:現金預金 120万円
貸方:車両運搬具 100万円
貸方:固定資産売却益 20万円
売却損益の計算
売却損益 = 売却価額 – 帳簿価額(取得価額 – 減価償却累計額)
帳簿価額が備忘価額の1円まで償却されている資産を売却した場合、売却価額のほぼ全額が売却益になる。たとえば、備忘価額1円の機械装置をスクラップ業者に5万円で売却した場合、売却益は49,999円となる。この売却益は特別利益として損益計算書に計上される。
期中に売却する場合は、売却日までの減価償却費を月割りで計上してから、売却の仕訳をおこなう。たとえば、3月決算の法人が9月末に資産を売却する場合、4月から9月までの6か月分の減価償却費を計上したうえで、売却時点の帳簿価額と売却価額のさがくを売却損益として計上する。
IFRSにおける残存価額の考え方
IFRSと日本基準の違い
IFRS(国際財務報告基準)では、残存価額の取り扱いが日本基準とことなる。日本の税務上は残存価額をゼロ(備忘価額1円)として画一的に処理するが、IFRSでは企業が各資産の残存価額を個別に見積もる必要がある。
IAS第16号(有形固定資産)では、残存価額を「資産がすでに耐用年数の終了時点で予想される状態にある場合に、その資産の処分から得られると見積もられる金額」と定義している。つまり、耐用年数の終了時点でその資産にどのくらいの市場価値が残っているかを見積もり、その金額を残存価額とする。
残存価額の見直し義務
IFRSでは、残存価額を少なくとも毎年見直すことが求められている。見積もりの変更があった場合は、将来にむかって修正する(過年度の遡及修正はおこなわない)。たとえば、当初の残存価額を10万円と見積もっていた機械装置が、技術革新により市場価値がほぼなくなると判断された場合は、残存価額をゼロに変更し、残りの耐用年数で追加の償却をおこなう。
逆に、中古市場が活発で残存価額が当初の見積もりより高くなった場合は、残存価額を引き上げる。残存価額を引き上げると、毎年の減価償却費がちいさくなる。極端な場合、残存価額が帳簿価額をこえると減価償却がゼロになることもある。
実務への影響
IFRS適用企業にとって、残存価額の見積もりは経営判断に影響する重要な会計方針である。残存価額をたかく見積もれば減価償却費がちいさくなり、利益がおおきくなる。逆に、ひくく見積もれば減価償却費がおおきくなり、利益がちいさくなる。監査法人は残存価額の見積もりの合理性を確認するため、中古市場のデータや過去の売却実績などの根拠を求める。
日本基準で決算をおこなっている企業の場合、税務上は残存価額ゼロで統一的に処理できるため、IFRSほどの判断は求められない。ただし、将来的にIFRSの任意適用を検討している企業や、海外投資家への説明が必要な企業は、IFRSの考え方を理解しておくことが重要である。
残存価格と減価償却方法の選択
減価償却方法の選択は、残存価額とならんで固定資産の費用配分に大きな影響をあたえる。おもな償却方法と特徴を整理する。
定額法は、毎年おなじ金額の減価償却費を計上する方法である。取得価額を耐用年数で均等にわるため、計算がシンプルでわかりやすい。建物や建物附属設備は定額法のみが認められている。
定率法は、帳簿価額に一定の償却率をかけて計算する方法である。初年度の償却費がもっともおおきく、年数が進むにつれて償却費がちいさくなる。設備投資を早期に費用化したい場合にてきしている。機械装置や車両運搬具などに適用されることがおおい。
生産高比例法は、資産の利用量や生産量にもとづいて償却する方法である。鉱業用の設備や航空機などにてきようされる。利用量がおおい年は償却費がおおきくなり、すくない年はちいさくなる。残存価額の考え方はおなじで、備忘価額1円まで償却する。
中小企業では定額法を選択しているケースがおおい。計算が簡単で、毎期の償却費が一定のため、予算の策定がしやすいというメリットがある。定率法は節税効果が初年度にかたよるため、利益がおおきい年に設備投資をおこなう場合にメリットがある。どちらの方法を選択するかは、一度決めたら原則として変更できないため、会社の経営方針にあわせて慎重に判断する。
減損会計との関係
減価償却とは別に、固定資産の価値が大幅にさがった場合は「減損処理」をおこなう必要がある。減損会計は、固定資産の帳簿価額が回収可能価額をこえている場合に、帳簿価額を回収可能価額まで引き下げる処理である。
たとえば、取得価額1,000万円の機械装置が3年間で450万円を減価償却し、帳簿価額が550万円の時点で、この機械で生産する製品の需要が大きく減少したとする。今後この機械から得られるキャッシュフローの合計が300万円と見積もられた場合、帳簿価額550万円と回収可能価額300万円の差額250万円を減損損失として計上する。
減損処理後は、引き下げた帳簿価額(この例では300万円)を新たな取得価額として、残りの耐用年数で減価償却を続ける。残存価額の考え方は変わらず、備忘価額1円まで償却する。減損損失は特別損失として損益計算書に計上されるため、その期の利益に大きな影響をあたえる。
実務での活用場面
残存価格の考え方は、日常の経理業務のなかでいくつかの場面で活用される。固定資産の購入判断をおこなうさいに、耐用年数終了後の売却見込額(実質的な残存価格)を考慮することで、より正確な投資判断ができる。たとえば、社用車を購入する場合、4年後のリセールバリュー(中古市場での売却想定額)が50万円であれば、実質的な保有コストは取得価額から50万円を差し引いた金額になる。
リース契約と購入のどちらが有利かを比較するさいにも、残存価格の考え方が役立つ。リース期間終了後に資産を返却する場合と、購入して耐用年数終了後に売却する場合のトータルコストを比較することで、経済的に合理的な選択ができる。
設備の更新計画を策定するさいにも、現有設備の帳簿価額(残存簿価)と市場価値の差を確認することが重要である。帳簿価額よりも市場価値がたかい場合は、売却してあたらしい設備に入れ替えるメリットがある。逆に、市場価値が帳簿価額を大きく下回っている場合は、売却損が発生するため、更新のタイミングを慎重に検討する必要がある。
よくある質問
Q. 残存価格と残存価額のちがいは
残存価格と残存価額は、実務上はおなじ意味で使われている。正式な会計用語としては「残存価額」が使われることが多いが、日常的には「残存価格」という表現も広く使われている。どちらも、耐用年数が終了した時点でその資産に残ると見込まれる価値をさす。
Q. 土地に残存価額はあるか
土地は減価償却の対象にならないため、残存価額という概念は適用されない。土地は時間の経過によって価値が減少しないとされるため、取得価額のまま貸借対照表に計上される。ただし、地価が下落した場合は減損処理をおこなうことがある。
Q. 少額減価償却資産にも残存価額は関係するか
取得価額が10万円未満の資産は、少額減価償却資産として購入時に全額を経費(損金)に計上できる。この場合、残存価額や耐用年数を考慮する必要はない。また、青色申告の中小企業者は、取得価額30万円未満の資産について少額減価償却資産の特例を適用し、全額を即時償却できる(年間合計300万円まで)。
Q. リース資産の残存価額はどうなるか
ファイナンスリース取引(所有権移転外)の場合、リース期間を耐用年数とし、残存価額をゼロとして減価償却をおこなう。所有権移転ファイナンスリースの場合は、自己所有の固定資産とおなじ耐用年数と償却方法を適用する。オペレーティングリースの場合は、リース料を期間にわたって費用計上するため、減価償却や残存価額の概念は適用されない。
Q. 税制改正で残存価額のルールが変わったのはなぜか
2007年の税制改正で残存価額が廃止された(ゼロに変更された)理由は、企業の設備投資を促進するためである。残存価額が10%あった旧制度では、取得価額の90%までしか償却できず、最終的な帳簿価額が取得価額の10%のまま残っていた。残存価額をゼロにすることで、資産の全額を費用化できるようになり、企業のキャッシュフローの改善と設備投資の促進につながった。
まとめ
残存価格(残存価額)に関する要点を振り返ります。
- 残存価額は固定資産の耐用年数終了時に残ると見込まれる価値
- 2007年4月以降に取得した資産は残存価額ゼロ(備忘価額1円)で償却
- 2007年3月以前に取得した資産は残存価額が取得価額の10%
- 現行ルールでは取得価額のほぼ全額を減価償却費として計上可能
- 会計上は企業が合理的に見積もれるが、実務上は税務に合わせてゼロとするのが一般的
固定資産の減価償却を行う際は、取得時期に応じた残存価額のルールを確認してください。



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