
「試用期間中は給料が低くてもよいのか」「試用期間中の待遇はどこまで下げられるのか」と疑問に思う方は多いのではないでしょうか。試用期間は、企業が従業員の適性を見きわめるために設ける期間ですが、給料や待遇については法律で一定のルールが定められています。
この記事では、試用期間中の給料に関する法律上のルール、最低賃金との関係、社会保険の取り扱い、企業側が注意すべきポイントを解説します。読み終えると、試用期間の給与設定を適切におこなえるようになります。
人事・経理担当者や経営者に向けた内容です。
目次
試用期間とは
試用期間とは、企業が新しく採用した従業員の能力や適性を見きわめるために設ける期間である。法律上は「試みの使用期間」とよばれ、労働基準法第21条に関連する規定がある。試用期間の長さは企業ごとに定めることができるが、一般的には1か月から6か月、長くても1年程度が多い。3か月間を試用期間とする企業がもっとも多い。
試用期間中の従業員は、正式採用を前提とした「解約権留保つきの労働契約」の状態にある。つまり、労働契約はすでに成立しているが、企業には通常よりも広い範囲の解約権が留保されている。ただし、この解約権も無制限ではなく、合理的な理由がなければ行使できない。試用期間だからといって自由に解雇できるわけではない。
試用期間中の給料は下げられるか
法律上のルール
試用期間中の給料を本採用後より低く設定すること自体は、法律上みとめられている。ただし、いくつかの条件がある。まず、試用期間中の給料の金額を、採用時に労働条件として明示しなければならない。労働基準法第15条では、賃金に関する事項を書面で明示することが義務づけられている。求人票に「試用期間あり(3か月間、月給20万円)」と記載し、労働条件通知書にも明記する必要がある。
つぎに、試用期間中の給料が最低賃金を下回ってはならない。最低賃金法により、すべての労働者に最低賃金が保障されている。試用期間中であっても例外ではない。
本採用時との差額の相場
試用期間中の給料を本採用後より低く設定する場合、どの程度の差額が一般的かを確認する。厚生労働省の調査によると、試用期間中に本採用後より低い賃金を設定している企業は全体の約20%程度である。差額としては、月給で1万円から3万円程度を引き下げるケースが多い。基本給を引き下げるのではなく、試用期間手当として別途上乗せする(本採用後に支給開始する)方法をとる企業もある。
あまりにも大きな差額(たとえば本採用後の半額以下など)は、労働者の期待を著しく裏切るものとして、公序良俗に反すると判断される可能性がある。差額は合理的な範囲にとどめるべきである。
試用期間中の最低賃金
最低賃金の適用
試用期間中であっても、最低賃金法にもとづく最低賃金は適用される。時間給に換算して、都道府県ごとに定められた最低賃金額を下回ることはできない。2025年10月以降の最低賃金は全国加重平均で1,121円であり、東京都は1,226円、大阪府は1,177円となっている。月給制の場合は、月給額を月の所定労働時間数で割った金額が最低賃金を上回っているか確認する。
たとえば、月給18万円で月の所定労働時間が160時間の場合、時間給換算は180,000円 ÷ 160時間 = 1,125円となる。東京都で勤務する場合は最低賃金(1,226円)を下回るため、この給与設定は違法になる。月給を少なくとも196,160円(1,226円 × 160時間)以上に設定する必要がある。
最低賃金の減額特例
最低賃金法第7条では、一定の条件にもとづいて最低賃金の減額特例が認められている。試用期間中の労働者については、都道府県労働局長の許可を受ければ、最低賃金の最大20%を減額できる。ただし、この減額特例を受けるには、試用期間が6か月以内であること、労働局に申請して許可を得ることが必要である。実務上、この減額特例を利用する企業はきわめて少ない。手続きの煩雑さにくらべてメリットがちいさいためである。
社会保険と雇用保険
社会保険の加入義務
試用期間中であっても、社会保険(健康保険・厚生年金保険)の加入義務がある。正社員として採用した場合は、入社日から加入手続きをおこなう。試用期間だからといって社会保険への加入を遅らせることは認められていない。「試用期間中は社会保険に加入しない」という運用は法律違反である。
パートやアルバイトの試用期間であっても、所定労働時間が正社員の4分の3以上であれば社会保険の加入対象となる。2024年10月以降は、従業員51人以上の企業で、週20時間以上勤務かつ月額賃金8万8,000円以上などの条件をみたすパートも加入対象になっている。
雇用保険の加入義務
雇用保険についても、試用期間中から加入する必要がある。週の所定労働時間が20時間以上で、31日以上の雇用見込みがある労働者は、雇用保険の被保険者となる。試用期間の有無にかかわらず、入社日から加入手続きをおこなう。
残業代と有給休暇
残業代の支払い
試用期間中であっても、残業をした場合は残業代を支払わなければならない。労働基準法第37条にもとづき、法定労働時間(1日8時間、週40時間)をこえる労働にたいして、25%以上の割増賃金を支払う義務がある。試用期間中だから残業代を支払わないという運用は違法である。深夜労働(22時から翌5時まで)の割増賃金(25%以上)と、休日労働の割増賃金(35%以上)も同様に適用される。
有給休暇の付与
有給休暇は、入社日から6か月間継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した場合に付与される。試用期間中の勤務日数もこの6か月にカウントされる。したがって、試用期間が3か月の場合、本採用後3か月が経過した時点で有給休暇が付与される。試用期間中に有給休暇の付与時期がくることは通常ないが、試用期間が6か月以上の場合は試用期間中に有給休暇が発生する可能性がある。
解雇と給料
試用期間中に能力不足や勤務態度の問題で解雇される場合、それまで勤務した分の給料はかならず支払わなければならない。「試用期間中だから給料は払わない」ということは認められない。解雇の場合でも、30日前に予告するか、30日分の解雇予告手当を支払う必要がある。ただし、試用期間(雇入れから)が14日以内で解雇する場合は、解雇予告手当は不要とされている(労働基準法第21条)。
試用期間中の解雇が認められるのは、勤務態度が著しく悪い、経歴詐称があった、健康上の理由で業務にたえられない、といった合理的な理由がある場合にかぎられる。「なんとなく合わない」「期待したほどの能力がなかった」程度の理由では、解雇は無効とされるリスクがある。
企業が試用期間の給料を設定する際の注意点
労働条件の明示
試用期間中の給料を本採用後と異なる金額にする場合は、採用時にその旨を明確に伝える必要がある。労働条件通知書には、試用期間の期間、試用期間中の賃金額、本採用後の賃金額をそれぞれ記載する。求人票にも同様の情報を掲載する。事前に説明なく試用期間中の給料を引き下げた場合は、労働条件の不利益変更にあたり、トラブルの原因になる。
就業規則への記載
従業員が10人以上の事業所では、就業規則に試用期間に関する定めを記載する義務がある。試用期間の長さ、試用期間中の賃金、本採用の基準、試用期間の延長の可否などを規定しておく。就業規則に記載がないまま試用期間を設定すると、トラブルになった場合に企業側が不利になることがある。
試用期間の延長
試用期間を延長する場合は、就業規則にその旨の定めがあり、延長の合理的な理由がある場合にかぎられる。延長する場合の給料については、当初の試用期間中の給料を継続するのか、見直すのかを明確にしておく。延長の回数や最大期間についても就業規則で定めておくと、運用がスムーズになる。

試用期間中の給与設定シミュレーション
月給制で試用期間の給料を設定するさいは、最低賃金をもとにした具体的な計算を事前におこなうことが重要である。ここでは、いくつかのパターンを例示する。
【ケース1:東京都で月給18万円・月160時間勤務の場合】
時間換算:180,000円 ÷ 160時間 = 1,125円
2025年10月以降の東京都最低賃金は1,226円であるため、1,125円は最低賃金を下回る。最低賃金を守るためには、少なくとも196,160円(1,226円 × 160時間)以上の月給を設定する必要がある。
【ケース2:大阪府で月給18万円・月160時間勤務の場合】
時間換算:180,000円 ÷ 160時間 = 1,125円
2025年10月以降の大阪府最低賃金は1,177円であるため、1,125円は最低賃金を下回る。最低賃金を守るためには、少なくとも188,320円(1,177円 × 160時間)以上に設定する必要がある。
【ケース3:地方中小企業で月給20万円・月160時間勤務の場合】
時間換算:200,000円 ÷ 160時間 = 1,250円
全国加重平均の最低賃金(1,121円)を上回っているが、就業場所の都道府県別最低賃金も必ず確認する必要がある。
月給制で雇用する場合は、残業が発生したときの割増賃金についても計算しておく。試用期間中だからといって残業代の計算が変わるわけではない。月給200,000円、月所定労働時間160時間の場合、1時間あたりの賃金は1,250円であり、時間外労働1時間に対しては1,562円(1,250円 × 1.25)の割増賃金が必要となる。
手当の扱い
試用期間中の賃金を考えるうえで、基本給だけでなく各種手当についても確認が必要である。
通勤手当については、通勤の実態があれば試用期間中も支給が一般的である。ただし、就業規則や労働条件通知書に明記されている内容にしたがう。通勤手当を支給しないと定めている場合でも、それを事前に明示して労働者が同意していれば違法にはならない。ただし、交通費の実費を補填しない場合は、事実上の賃金カットとみなされることもあるため注意が必要である。
住宅手当については、試用期間中は不支給とする企業も多い。住宅手当は家族構成や住居の状況に応じて支給されることが多く、本採用後に審査・支給するケースが一般的である。
家族手当・扶養手当についても、試用期間中は不支給とするケースが多い。本採用後に扶養家族の届出を改めておこない、支給を開始する流れが多い。
一方、職務関連の手当(危険作業手当・技能手当など)は、業務内容に応じて試用期間中から支給するのが適切である。これらの手当は業務遂行に関連するものであり、試用期間中だから支給しないとするのは合理的でない場合がある。
試用期間終了後の給与改定の実務
試用期間が終了し本採用となった際、給与改定をスムーズにおこなうための実務的な手順を確認する。
まず、試用期間終了の1か月前を目安に、上司・人事部門が対象者の評価をおこなう。評価の観点は、業務遂行能力、職場への適応状況、規律・出勤状況、コミュニケーション能力などが一般的である。
評価が完了したら、本採用後の給与額を決定する。労働条件通知書に「本採用後の給与は別途協議のうえ決定する」と記載していた場合でも、具体的な金額を明示した書面を交付する義務がある。
本採用の意思決定後は、労働者に対して書面で本採用の通知をおこなうとともに、変更後の労働条件通知書を交付する。給与改定の有効日(多くは試用期間満了の翌日)を明記する。
給与改定後の初回給与は、試用期間分と本採用後の分が月をまたぐ場合、日割り計算で支払う必要がある。たとえば、月の途中で試用期間が終了した場合は、それぞれの期間の賃金を日数按分して計算する。
トラブル事例と対処法
試用期間中の給料に関するトラブルは、事前の情報共有不足から発生することが多い。代表的なトラブル事例と対処法を確認する。
【トラブル事例1:試用期間の延長をめぐるトラブル】
企業が「さらに3か月様子を見たい」と試用期間の延長を告げたところ、労働者が「聞いていない」として争うケースがある。試用期間の延長は、就業規則に延長の定めがあり、延長の合理的な理由がある場合にかぎり認められる。延長する場合は、理由を説明し、延長後の給与を書面で明示する必要がある。
【トラブル事例2:試用期間中の本採用拒否をめぐるトラブル】
「なんとなく合わない」「期待したほどの能力がなかった」という理由での本採用拒否は、解雇に相当するため無効とされるリスクがある。本採用拒否(試用期間満了による解雇)が認められるためには、「採用時に知ることができなかった事実」が判明した場合や、客観的に合理的な理由がある場合にかぎられる。
【トラブル事例3:試用期間中の未払い残業をめぐるトラブル】
試用期間中だから残業代は出ないと説明されていたが、後から未払いを請求されるケースがある。試用期間中の残業代の不支給は違法であり、過去2年間(悪意がある場合は3年間)分の未払い賃金を請求される可能性がある。
これらのトラブルを防ぐためには、採用時の労働条件の丁寧な説明、就業規則への明記、勤怠管理の徹底が不可欠である。
法律の最新動向
近年、試用期間に関する法律上の考え方は整理が進んでいる。最高裁判所の判例(三菱樹脂事件・1973年)では、試用期間中の解雇について「解約権留保の趣旨・目的に照らして客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当として是認されうる場合にのみ許される」と判示している。この判例の考え方は現在も基準となっており、「試用期間中だから自由に解雇できる」という誤解が解消されている。
また、2024年4月から中小企業にも適用された「月60時間超の残業への割増賃金引き上げ(50%以上)」は、試用期間中の従業員にも適用される。試用期間中に月60時間をこえる時間外労働をさせた場合は、50%以上の割増賃金が必要となることに注意が必要である。
試用期間中の給料を適正に設定し、法律を遵守することは、企業の信頼性向上と優秀な人材の確保にもつながる。適切な待遇と丁寧な説明が、試用期間後の定着率向上に貢献する。
なお、最低賃金は毎年10月に改定されることが多いため、定期的に管轄都道府県の最低賃金額を確認し、試用期間中を含むすべての従業員の賃金が最低賃金を上回っているか確認することが重要である。厚生労働省のウェブサイトや都道府県労働局のページで最新の最低賃金額を確認できる。
よくある質問
Q. 試用期間中にボーナス(賞与)は支給されるか
試用期間中にボーナスが支給されるかどうかは、企業の就業規則や賞与規程によって異なる。多くの企業では、賞与の支給対象を「支給日に在籍している正社員」と定めており、試用期間中の従業員は対象外とするケースが多い。ただし、試用期間中でも賞与を支給する企業もある。就業規則で確認するのが確実である。
Q. 試用期間中に給料が減額されるのは違法か
事前に合意していない減額は違法である。採用時に「試用期間中は月給20万円、本採用後は月給23万円」と明示し、労働者が同意していれば問題ない。しかし、採用時に「月給23万円」と伝えておきながら、実際の試用期間中に20万円しか支払わないのは労働条件の不利益変更にあたり、違法である。
Q. 試用期間後に給料が上がらなかった場合はどうすればよいか
労働条件通知書に「試用期間終了後に昇給する」と記載されている場合は、企業にその義務がある。記載がない場合でも、口頭で昇給を約束されていた場合は、その約束にもとづいて昇給を求めることができる。まずは上司や人事部門に確認し、それでも対応されない場合は労働基準監督署に相談する方法がある。
Q. 試用期間中に退職した場合、給料は支払われるか
試用期間中に退職した場合でも、勤務した分の給料はかならず支払われる。1日でも出勤していれば、その分の賃金を受け取る権利がある。「試用期間中の退職だから給料は払わない」という企業の対応は違法である。
Q. アルバイトやパートにも試用期間はあるか
アルバイトやパートにも試用期間を設けることができる。その場合も、正社員とおなじように最低賃金の適用、社会保険・雇用保険の加入義務、残業代の支払い義務がある。試用期間中の時給を本採用後より低く設定する場合は、事前に明示して同意を得る必要がある。
まとめ
試用期間中の給料を本採用後より低く設定することは法律上みとめられているが、最低賃金を下回ることはできない。試用期間中であっても、社会保険・雇用保険の加入、残業代の支払い、労働条件の書面明示は義務である。企業が試用期間の給料を設定するさいは、労働条件通知書と就業規則に明記し、労働者に事前に説明することが大切である。試用期間は企業と従業員がおたがいを見きわめる期間であり、適切な待遇で迎えることが、長期的な信頼関係の構築につながる。



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