貸倒引当金とは?目的や仕訳・処理の例、計算方法などをわかりやすく解説 最終更新日: 2023/03/22   公開日: 2023/03/22

貸倒引当金とは、将来発生する可能性のある損失を予測し、あらかじめ計上しておくお金です。貸倒引当金を計上することで、正しい期間損益を計算することに繋がります。本記事では、貸倒引当金の目的や仕訳方法の例、計算方法などについてわかりやすく解説します。

貸倒引当金とは何か?

貸倒引当金(かしだおれひきあてきん)とは、将来発生するかもしれない貸倒損失を見越して、あらかじめ計上しておく引当金です。

会社が事業を営む上では、売掛金や受取手形など、将来的に金銭を受け取れる権利である債権が発生します。しかし、取引先が倒産するなどの事態が発生すれば、債権が回収できなくなることも考えられます。本来回収できるはずの債権が回収できなくなることを「貸倒れ」と言い、貸倒れによる損失は「貸倒損失」と呼びます。

引当金とは、将来発生する可能性のある損失や費用に対して設定されるものです。そのうち貸倒引当金は、引当金のうち貸倒れによって債権が回収できない可能性のあるものに対して設定します。

また、英文会計では貸倒引当金を「Allowance for doubtful accounts」もしくは「Bad debt reserve」と表します。

貸倒引当金の主な目的

貸倒引当金は、事業年度における損益を正確に計算する目的で計上されます。例として、4月1日〜3月31日を事業年度とするA社の場合で考えてみましょう。

2022年7月1日に、取引先であるB社に100万円を掛けで売ったとします。その後、翌年2023年8月1日にB社が倒産してしまいました。その場合、以下の処理を行うことになります。

・2022年7月1日に「売掛金 / 売上高」を100万円を計上
・2023年8月1日に「貸倒損失 / 売掛金」を100万円計上

会計においては、正しい損益を把握するために損益計算書に記載する費用と収益を対応させる「費用収益対応の原則」があります。しかし、上記の例は2022年度と2023年度に分けて収益と費用を計上することとなり、この原則を守ることができません。

そこで、2022年度のうちに費用として貸倒引当金を計上しておくことで、売上と費用を同じ年度に納め、実情に即した損益を決算書に反映することを可能にします。

貸倒引当金の対象となる債権・対象にならない債権

貸倒引当金は、主に売掛金・貸付金・受取手形などの債権が対象となります。その一方で、対象とならない債権として預け金・差入保証金・敷金などがあります。次項からその内容について詳しく解説します。

貸倒引当金の対象となる債権一覧

貸倒引当金の対象となる債権は、法人税法により以下のように定められています。

1 売掛金、貸付金

2 未収の譲渡代金、未収加工料、未収請負金、未収手数料、未収保管料、未収地代家賃等または貸付金の未収利子で、益金の額に算入されたもの

3 他人のために立替払をした場合の立替金(下記の「一括評価金銭債権に当たらないもの」の(4)に当たるものを除きます。)

4 未収の損害賠償金で益金の額に算入されたもの

5 保証債務を履行した場合の求償権

6 売掛金、貸付金などの債権について取得した受取手形

7 売掛金、貸付金などの債権について取得した先日付小切手のうち法人が一括評価金銭債権に含めたもの

8 売買があったものとされる法人税法上のリース取引のリース料のうち、支払期日の到来していないもの
引用:No.5500 一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の対象となる金銭債権の範囲|国税庁

売上の回収として使われることの多い売掛金や受取手形、返済が1年以上先であれば固定資産に該当する貸付金などが挙げられます。

貸倒引当金の対象とならない債権一覧

貸倒引当金の対象とならない債権は、以下のように定められています。

1 預貯金およびその未収利子、公社債の未収利子、未収配当その他これらに類する債権

2 保証金、敷金、預け金その他これらに類する債権

3 手付金、前渡金等のように資産の取得の代価または費用の支出に充てるものとして支出した金額

4 前払給料、概算払旅費、前渡交際費等のように将来精算される費用の前払として、一時的に仮払金、立替金等として経理されている金額

5 金融機関における他店為替貸借の決済取引に伴う未決済為替貸勘定の金額

6 証券会社または証券金融会社に対し、借株の担保として差し入れた信用取引に係る株式の売却代金に相当する金額

7 雇用保険法、労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律、障害者の雇用の促進等に関する法律等の法令の規定に基づき交付を受ける給付金等の未収金

8 仕入割戻しの未収金

9 保険会社における代理店貸勘定の金額

10 法人税法第61条の5第1項(デリバティブ取引に係る利益相当額の益金算入等)に規定する未決済デリバティブ取引に係る差金勘定等の金額

11 法人がいわゆる特定目的会社(SPC)を用いて売掛債権等の証券化を行った場合において、その特定目的会社の発行する証券等のうちその法人が保有することとなったもの
引用:No.5500 一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の対象となる金銭債権の範囲|国税庁

預貯金の利子や敷金、前払いした費用など、会社の経営に大きな影響を与える可能性の低い債権は、対象とならない傾向にあることがわかります。

貸倒引当金繰入額とは何か?

貸倒引当金は、回収できない可能性のある債権の金額を見積もって、貸倒引当金繰入額として費用に計上します。決算時には、貸倒引当金繰入額は勘定科目として損益計算書に記載されます。

売掛金など、営業に関する債権に対して貸倒引当金繰入額を計上する場合には、損益計算書の「販売費及び一般管理費」の項目に該当します。また、取引先の業績悪化などで多額の貸倒引当金を計上する場合には「特別損失」に該当するなど、債権の内容によって計上する場所が異なる点が特徴的と言えます。

貸倒引当金と貸倒損失の違い

貸倒引当金と似た勘定科目として「貸倒損失」があります。貸倒損失とは、債権が回収できないことで発生する損失に対して使う勘定科目です。

貸倒引当金は将来の貸倒れに備えて見込み額を計上するものであるのに対し、貸倒損失は貸倒れが確定した後に、実際の金額を計上するものであるという違いがあります。

貸倒引当金の2つの繰入方法

貸倒引当金を期末に繰り入れる場合の方法として「洗替法」「差額補充法」の2つを紹介します。

①洗替法

残っている貸倒引当金を「貸倒引当金戻入」としていったん戻し入れてから、新たに当期分の見込み額を計上する方法を洗替法と言います。以下の条件を例に、期末に行う仕訳を見てみましょう。

例)
・前期末の貸倒引当金の残高は10万円である
・当期において貸倒は発生していないものとする
・貸倒引当金が新たに20万円発生する見込みである

借方貸方
貸倒引当金 100,000貸倒引当金戻入 100,000
貸倒引当金繰入 200,000貸倒引当金 200,000

②差額補充法

貸倒引当金の額を設定する際、不足している額を計上する方法が差額補充法です。洗替法と同じ条件を使って、仕訳の方法を見てみましょう。

例)
・前期末の貸倒引当金の残高は10万円である
・当期において貸倒は発生していないものとする
・貸倒引当金が新たに20万円が発生する見込みである

以下の式により、当期に計上するべき額が10万円と計算できます。

当期の見込み200,000円 -(前期の残高100,000万円 – 当期の発生額0円)= 100,000円

借方貸方
貸倒引当金繰入 100,000貸倒引当金 100,000

貸倒引当金の処理(仕訳)のやり方

貸倒れが発生する可能性がある場合には、費用として「貸倒引当金繰入」を、負債として「貸倒引当金」を計上します。

貸倒引当金は、元は売掛金や受取手形など、金銭を受け取れる権利である資産でした。しかし、将来的に債権を回収できず、資産が減る時の対策として計上するものであることから、負債に当たることがポイントです。

次項から、貸倒引当金に関する仕訳をケース別に3つ紹介します。

貸倒引当金繰入の仕訳のやり方

期末の時点で貸倒れによる損失が発生することが予想され、前期の貸倒引当金が残っている場合の仕訳を紹介します。なお、ここでは以下の条件を例として、差額補充法を採用するものとします。

例)
・前期末の貸倒引当金の残高は2万円である
・3月31日(期末)の時点で売掛金の残高が100万円である
・売掛金のうち貸倒引当金の3%を計上することとする

100万円の3%である3万円が貸倒引当金の見込み額ですが、前期に計上していた2万円があるため、当期で計上するのは1万円です。

借方貸方
貸倒引当金繰入 10,000貸倒引当金 10,000

貸倒引当金戻入の仕訳のやり方

前期に計上していた貸倒引当金が余った場合には、前期の残高から差し引いた金額を当期の期末で取り崩します。

例)
・前期末の貸倒引当金の残高は5万円である
・3月31日(期末)の時点で売掛金の残高が200万円である
・売掛金のうち貸倒引当金の2%を計上することとする

200万円の2%である4万円が貸倒引当金の見込み額ですが、前期に計上していた5万円があるため、当期は1万円を取り崩します。

借方貸方
貸倒引当金 10,000貸倒引当金戻入 10,000

償却債権取立益の処理のやり方

前期以前に貸倒れとして処理したものの、無事に債権を回収できた場合には、収益の勘定科目である「償却債権取立益」を使います。

例)
・取引先の業績悪化により、売掛金100万円を貸倒引当金として前期に計上していた
・その後、取引先の業績回復によって売掛金100万円が普通預金口座に振り込まれた

借方貸方
普通預金 1,000,000償却債権取立益 1,000,000

貸倒損失が発生した際の仕訳のやり方

貸倒れることが確定した場合について、2つのケースに分けて仕訳方法を解説します。

貸倒引当金を積んでいた場合

例)
・売掛金100万円の回収ができなくなった
・貸倒引当金として50万円を計上していた

借方貸方
貸倒損失 500,000
貸倒引当金 500,000
売掛金 1,000,000

すでに貸倒引当金として50万円を計上しているため、残りの50万円を貸倒損失として計上します。売掛金の金額が貸倒引当金の金額に収まる場合には、貸倒損失は不要です。

貸倒引当金を積んでいなかった場合

例)
・売掛金100万円の回収ができなくなった
・貸倒引当金は計上していなかった

借方貸方
貸倒損失 1,000,000売掛金 1,000,000

貸倒引当金を計上していなかった場合には、貸倒れた債権の全額を貸倒損失として計上します。

貸倒引当金に関する会計処理の基礎知識

最後に、貸倒引当金を扱う上で知っておきたい知識をまとめて紹介します。

不良債権の計算方法

貸倒れが発生するような問題のある債権は、主に以下のいずれかに区分できます。

・貸倒懸念債権: 経営破綻には至っていないが、重大な問題が発生している
・破産更生債権等:経営破綻に陥っている

これらの債権は、区分に応じて以下の方法で貸倒引当金の見込み額を計算します。

・貸倒懸念債権:財務内容評価法もしくはキャッシュ・フロー見積法
・破産更生債権等:財務内容評価法

2つの債権について、財務内容評価法もしくはキャッシュ・フロー見積法を用いた計算方法を紹介します。

<貸倒懸念債権>
弁済が1年以上遅れているなどの債権は貸倒懸念債権に分類され、財務内容評価法もしくはキャッシュ・フロー見積法のいずれかで計算します。

例)
・貸倒懸念債権の額は50万円
・帳簿価格は55万円
・キャッシュ・フロー見積法による見積もりを行うこととする

この場合、55万円から50万円を差し引き、5万円を貸倒引当金として設定します。なお、財務内容評価法の場合は、債務者の支払い能力などを加味して計算します。

<破産更生債権等>
債務者がすでに経営破綻に陥っている債権については、破産更生債権等に分類されます。破産更生債権等は財務内容評価法によって以下のように計算します。

例)
・破産更生債権等の額は55万円
・回収可能な補償額は25万円

この場合、55万円から25万円を差し引いて、30万円を貸倒引当金として設定します。

貸借対照表に表示する際のやり方

貸倒引当金を貸借対照表に表示する場合は、貸方である資産の控除科目に分類されます。マイナスであることを表す記号をつけて、流動資産もしくは固定資産の一番下に表示しましょう。

・流動資産に記載するもの:1年程度以内に回収できる可能性がある債権
・固定資産に記載するもの:回収に1年以上かかる債権(破産更生債権等など)

貸借対照表の明細を作成する際は、以下の項目に分けて内容を詳しく記載します。

・当期増加額
・当期減少額
・期首残高
・期末残高

損益計算書に表示する際のやり方

貸倒引当金繰入は、内容によって以下の項目に分類されます。

・営業損益:営業に関わるもの
・営業外損益:営業に関わらないもの
・特別損失:特別に発生した多額のもの(破産更生債権等など)

なお、洗替法で使う貸倒引当金戻入は、貸倒引当金繰入と相殺して余りが出る場合に利益に分類されます。

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まとめ

貸倒引当金は将来発生する損失を予想してあらかじめ計上しておくものであり、債権の種類や採用する方法によって計上する金額が異なります。

貸倒引当金の処理に慣れていないと複雑に感じることがありますが、計上によって期間内の損益を正しく把握することに繋がります。貸倒引当金のルールや制度を把握して、実情に即した処理を行いましょう。

この記事の投稿者:

shimohigoshiyuta

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